Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.1 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:44
- 名前: うぱぁ
- Bコース「マサゴの灯」
「おせぇぞ、罰金百万円な!」 「何かあったのか?」
息を切らせて到着した私に幼なじみの二人が駆け寄ってくる。遅れたことは悪いと思う。 でも久しぶりに会った二人の姿を見ると顔が自然にほころんでしまう。 「……ううん、別に……ごめんね」 「何にやにやしてんだよ。じゃ、行こうぜ!」 私は慌てて緩んでいた口元を引き締めたけど、指摘した張本人はとっくに背中を向けて歩き出していた。 一瞬でも反応してしまった自分が恥ずかしい。だってあやつの罰金請求も怒った顔も、真に受けるだけ損。分かりきってることなのに。 もう一人の幼なじみは私の方を見てくすっと笑い私の隣につく。後はみんなの位置を線で繋げばお決まりの二等辺三角形が出来上がり。
「一年ぶりか。あっという間だな」 不意にそう話しかけてくる隣の彼。声変わりしてからもう二年くらい経つのかな。 深くて優しいとても素敵な響きのになぜか未だに少し落ち着かない。尤も声の違和感だけなら断然目の前のあやつの方が上だけど。 「そうだね。色々忙しかったし」 一人だけ昔と変わらない声で当たり前の事を言ったつもりがなんだか妙に言い訳がましく聞こえた。 今の自分の言葉、彼の紺の浴衣と同じくらい気持ちよく闇に溶け込んで消えてしまえばいいのに。 そう思うと白地に朝顔を散らした浴衣までもが薄明かりの中で物凄く浮いているように感じて、この場にいることさえ急に居たたまれなくなった。 「みんな、元気にしてるの?」 「まあな。そうそう、ドダイトスが新しい技を覚えたんだ。後でフルバトルしないか?」 「バトルか! のったぜ!」 誘われたのは私なのに、この手の話題になるとホント地獄耳なんだから。私はちょっと反感を込めて相手の橙色の目を見据えた。 「見てろ! オレのゴウカザル今すげえことになってんだ! ん? ああ、お前とのバトルはその後だ!」 ダメだ。相変わらず空気が読めない。深緑のランニングにオレンジの半パンという格好の時点でなんとなく諦めがついてたとはいえ。 「ところでさ、エンペルトはどうしてんだよ?」 「え?」 これまたムードのないランニングシューズを凝視していた私は慌てて目線を上に向ける。確かに流れとしてはエンペルトが話題に上がるのは当然だ。 こいつと彼と私の三人は同じ日にナナカマド研究所で初心者トレーナー推薦ポケモンのナエトル、ヒコザル、ポッチャマの三体の中から好きな子を受け取った。 そして旅に出た。 「うん、まあまあかな」 目的が異なる私達はそれぞれの修業に明け暮れる日々のせいで出会う機会もめっきり減ってしまったけれど、年に一度のこの日だけは必ず集まるようにしている。 一昨年よりは去年、去年よりは今年。私のエンペルトは確実に強化されているけれどそれは他の二人のパートナーだって同じ筈。大きな事は言えない。
「あいつ今でこそ威厳っつーか落ち着いてるけどさ、ポッチャマだった頃はお調子者だったよな」 「何言ってんの。あんたのヒコザルだってお尻の炎でよくボヤを起こしてたじゃない」 「僕のナエトルにも少しは触れてくれよ」
こうやって三人で無心にワイワイ話してるとまるで研究所で初めてポケモンを貰ったあの日に舞い戻ったような気がしてくる。 だけど哀しいくらいはっきりと分かる。数え上げれば切りがない程だ。遠く手放したあの日との相違点は。 最初の頃はみんなボールからポケモンを出してずっと連れ歩いていた。旅に出たばかりの頃は何もかもが不安で押しつぶされそうだったけれど、 そんな時ポケモン達はいつだって私を慰め、支え、傍に居てくれた。でもいつの間にかボールの中に入れて連れ歩くのが自然になった。 理由は進化して大きくなると場所を取ってしまうからだけど、たぶん本当はそれだけじゃないんだという自覚はなんとなくあった。
それにあいつも彼も旅に出た頃とは比べものになら無いほど背が伸びた。私も伸びたけどこの二人の比じゃない。 ちょっとはタワータイクーンのお父さんみたいに締まった顔つきになったけど太陽みたいな金色の癖っ毛もせっかちなところも変わってないし、 あいつに関してはまだまだこの先どうなっていくのか分からない。でも良くも悪くも取り柄の元気は相変わらず人一倍だ。 彼は短かった黒髪を伸ばし、やっぱり顔も大人びているけど一番変わったと思うのは性格だ。元々頭は良かったけど、 以前のちょっと頼りない感じが影を潜め、服も落ち着いた系統が多く今ではすっかり冷静沈着のイメージで固定化されている。
私はお気に入りだった黄色いバレッタを取り外して、おもしろくもなんともないセミロングを維持している。ただそれだけ。
ここ数年、私はこの日が近づくにつれていつも追い詰められるようなせき立てられるような感覚に襲われていた。 向き合うのは恐ろしかったけれど、向き合わないのはもっと辛かった。 だけど不思議な焦りのようなこの気持ちの正体の輪郭がぼんやりと掴めてきたかと思うと、あと一歩の所で取り逃がしてしまう。だから毎年、この救われない苦しみが繰り返されている。 この大切な日を、この嬉しい再会の日を心から楽しみにしている筈なのに。二人に会った瞬間はあんなに幸せになれるのに。どうして時間が経つにつれこの状況を素直に喜べなくなるのだろう。
自分でもよく分からないこの気持ち。表面上はなんでもないように振る舞っていたけれど、私はいよいよ本日の目的であるマサゴ祭りの灯が見え始めると、 そのまま煩わしい下駄を脱ぎ捨てて全てに背を向けて駆けだしてしまいたくなるのだった。
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Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.2 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:44
- 名前: 乃響じゅん
- Bコース 『星にまつわるエトセトラ』
夏にはおとぎ話がつきものだな、とその季節が来るたびに考えている。 今年もまた、繰り返される。7月7日には七夕祭りで盛り上がり、17日には京都で山鉾巡業がテレビで報道される。 七夕祭りは大学生らしく、しょうもないようなことを好き放題させてもらった。願い事を好きに書いてください、と書いてあったので、細長い短冊に6行に渡りびっしりと書き込んでやったのだ。最後の方は捻り出す方が難しく、結局ありきたりでそれほど願ってもいないようなことを書いた覚えがある。それを見つけた人が笑いだしそうになるところを見てみたかったが、残念ながら私の短冊に近づく人物は現れなかった。誰かに言って聞かせたとして文句を言われたら、織姫様と彦星様のデートの話題作りに貢献してやったのだ、と答えてやるつもりだ。オヤジくさい、と多くの友達から疎まれる自慢の性格だ。 祇園祭には、残念ながらあまり興味が湧かない。行ってきた友人がいたが、あまりの人の多さに息がつまりそうだった、と忌々しそうに話すので、私はとうとう行きたいという気持ちを完全にそいでしまったのだ。 電話がかかってきた。今日は市のお祭りだし、久しぶりに遊びに行こうよと誘われた。今日がその日ということはすっかり忘れていたが、偶然にもとくに用事がなかったので了解した。市民祭りか、久しぶりだな。最後に行ったのはいつだっただろう。確か部活やら受験やらで高校時代を忙しく過ごしていたせいで、結局5年以上行っていないことになる。あの頃は頑張って時間をかけて浴衣を着ていたが、きっと動きにくかったのだと思う。今年は着て行かないことにする。 「市役所前のコンビニ、集合6時だから、よろしく! 何かあったら電話してください!」 そんなシンプルなメールに返事を返し、出かける準備をする。窓の外を見る。夏らしい夕焼けだ、と思う。もうしばらくしたら、いつの間にか空は真っ暗になっているのだろう。夏のその感覚が急に懐かしくなった。クーラーは室内にしかかからないのは残念だな、ともう一つくだらないことを考えた。
「やぁ」 私は手を挙げて、山本に挨拶する。今どきの男、という言葉が似合いそうな、青いチェックのカッターシャツをラフに着こなしていた。細めの体つきと、長めの足、顔の形まで、その一言で片づけられてしまいそうな外見をしている。それは昔から変わらない。 彼は高校の同級生だった。バンドに誘われ、一度だけボーカルとして参加したことがある。ギターを弾いていた姿を思い出す。その頃から彼は「らしさ」を前面に押し出すファッションをしていた。 「早かったんだ」 「佳世ちゃんも早いよ」 山本は時計を見ながらお世辞を言う。周りを見渡すと、屋台は出ているが人はまだ少ない。 「ピークになる前に、混みそうなとこから行こうよ」 と立ち上がると、すたすたと歩き出した。私は横に並んで歩く。頭一個分、彼の方が背は高い。その点において、彼は少し頼りになりそうに見える。 片側一車線で歩道が広い、その程度の幅しかない橋の両側には、所狭しと屋台が並んでいた。布製の看板はどれも使い古されたような赤、黄色、ピンク、白。裏側にちらりと自治会の名前が書いてあったりして、多くの人の手で作られているなのだな、と人情が湧く。頑張って盛り上ようとするその姿勢は買わねば、申し訳ない気がした。 さて、何からしようか。ふと目についたのは、深紅の丸い大きな飴だった。 「りんごあめっておいしいの? 私食べたことないんだけど」 「マジで? とりあえず食べて見ればいいじゃん。おごろうか?」 山本はいそいそと財布を取り出そうとする。 「いいよ。自分で買う」 彼がそう言い出す機会はまだあるだろうから、その時に彼の好意に甘んじたい。私は彼にお金を払う余地を与えないように、千円札を払う。大きい方が美味しそうに見えたので、そっちを選んだ。 第一印象は、思っていた味と全然違う、という事だ。 「なんていうか、もっと中まで甘い飴みたいだと思ってた」 「ちょっと貰っていい?」 私は彼に渡す。彼は堅そうに歯を立てた。 「うわ、ただの乾いたリンゴじゃん」 「うん、それは思った」 と私も指をさして、声を荒げる。期待はずれ、と言うほど不味いとも思わなかったので、ぼそぼそした感触を味わいながらまた次の店を探す。 「相変わらず優しいね、山本君は。お金のことに関しては特に」 「あながち間違ってもないけど、ラストの一言は余計じゃない? でも、俺は小さい頃から優しいんだぞ」 妙に弾んだ声で語りかけてくる。私もそれに乗ってみる。 「ほーぉ、どう優しかったのか聞かせてごらんなさいよ」 しばらく考え込んだようなポーズをとり、顔を上げる。 「じゃあ行くぞ、エピソード1」 彼は指を立てて数字を見せつけてくる。子供が出来たら親バカぶりを披露するためにエピソード4を語るのだろうか。指を二本立てて、ぶつけあうジェスチャーをする。 「ある子供とある子供が喧嘩をしていました。その間に俺は割って入って、喧嘩を止めようとしました」 「うん、よくある話だね」 「そしたら逆に泣かされて、幼稚園の先生によしよししてもらいました。終わり」 「何だ、最後までよくある話じゃん」 「なんてこと言うんだ。こんないたいけな子を目の前にして」 むちゃくちゃだ、と私は思う。ここにいるのはいたいけな子供じゃなくて背の高い二十歳すぎの男と二本の指じゃないか。話すことがヘンテコな分、金銭面には非常に気を回してくれる人間だ。 「面白くないこと言った罰ゲーム。腕出しな」 私は少し強い口調を作る。山本はあからさまに嫌な顔をして、えーと文句をたれて腕を出す。私は人差し指と中指を伸ばし、息を吹きかける。 「食らえ、ライトセーバー」 腕に鋭い一撃を加える。 「痛っ」 「フォースの力をあなどるでない」 この一撃が男子顔負けの上手さだったことで、小学生時代は名を馳せていたのだ。本気で痛そうにしている山本の姿を見ると、まだまだ衰えてはいないようだ。私は少しにやけてしまう。 「佳世ちゃん……あんたドS過ぎるよ……暗黒面に引きずり込まれるしかないんじゃないの」 「いやー、そんなことはないよ」 いや、その話はもういいから。
空は大分暗くなってきて、人の量も増えて来た。下手すれば、ぶつかってこけてしまう。中途半端に人が行きかう時が一番危ない。容赦ないスピードで、無数の足が地面を動く。足元に気をつけながら、何とか歩く。 「気をつけなよ……ぐはぁ」 先にやらかしたのは山本の方だった。奇妙な声を出して、身体がねじれて倒れそうになる。私は手を伸ばそうとしたが、時すでに遅し、だった。周囲の人が避けてくれたおかげで、ぶつからずにただ倒れるだけで済んだが、地面についた両手は痛そうだ。起き上がって、はたきながらまた進む。その足取りはかなり重い。 「大丈夫?」 気をつけるのはそっちだったね、という皮肉を思いつくが、口には出さない。 「何か、肩に思いっきり誰かにぶつけられた気がする」 「気のせいじゃない? わざとやるような人なんていないと思うけどなぁ」 「うーん」 山本は少し視線を落とした。とうとう足は止まりかけている。落ち込んでいるのだろうかと、私は焦りを感じる。皮肉を言いかけたことを少し悔いた。慰めなくては。 「そんなしょげなくてもいいじゃん。ラムネ飲もうよ」 「そうだな」 豪快な氷水に浸けてある、さまざまな種類の大量のボトルが気持ちよさそうに浮いている。2本下さい、と私はラムネのボトルを買う。 ピンク色のプラスチック製の道具で、ふたのガラス玉を押し込んでやる。この何とも言えない感覚が好きだった。山本はしゅわしゅわと音を立てて噴き出すサイダーを、あわてて口でおさえていた。 「ねぇ、佳世ちゃん、この中に入ってる玉って何か知ってる?」 ゲップを抑えながら、山本は言う。カラカラと瓶をゆすって、中の玉を揺らす。 「さぁ、ビー玉じゃないの」 それを聞いた途端、山本の顔に満面の笑みを浮かび上がった。 「はずれ! 違うんだなぁこれが」 さすがに私も、それは知らなかった。目からうろこが落ちる、というのはこういうことを言うのだと分かった。ビー玉じゃなかったら何なんだ。 「エー玉」 「はぁ?」 「エー玉。ビー玉はBだろ。だからAだ」 「また訳のわからないことを」 「ラムネに入れるサイズの玉がエー玉で、その規格から外れたのがビー玉さ」 なるほど、と納得しそうになったところで、 「嘘だよ」 なんて言われたので思わず、嘘かい、と叫んでしまった。山本が思いっきり笑っているから、私もつられて笑う。結局正解は何だったのか、教えてもらうのを忘れてしまった。
「よう、山本」 後ろから声をかけられた。 「お、ニッシーじゃん」 山本にそう呼ばれた男は、スポーツ刈りで、背は低いが肩幅の広い、屈強そうな人物だった。横を見れば、それより更に背の低い女の子を連れていた。彼女は浴衣を着ているのが目につく。ニッシーはこちらに目をやる。 「その子、彼女?」 「紹介しよう、She name is Kayo」 と気取った風に英語で紹介した。何だそれ、とニッシー君は言う。私もそう思う。彼女らしき女性も笑った。カヨちゃんって言うんだ、と彼は続ける。顔の割に意外と品のある声質と態度で、思わず身が引き締まる。 「よろしく」 と愛想よく笑った。山本は手をニッシー君の方に向けて、紹介する。 「こっちが西田くん、んで、この子が牧原さん。ニッシーはもしかしたら知ってるんじゃない? 高校俺たちと一緒だから」 よろしく、と牧原さんは丁寧にお辞儀をした。こちらもお辞儀を返す。小さく丸い顔の中にある細いパーツのためか、洗練された印象を受ける。きっとしっかり者なんだろうな、と自分に無い部分を想像する。反対に西田くんの顔を見て、なるほど何処かで見たような顔だと思った。頼りがいのあるシルエットは安定していて、彼女とよく似合っている。 男二人は、お前も祭りに来てたのか、何年振りだ、という話を少しして、お互いの進路先を言い合っていた。私も牧原さんも、それに付き合う形で会話に加わっていた。西田くんは予想通り、アメフトをやっているそうだ。高校時代もそうだったらしい。対して山本の口から出た現在の状況は、西田くんはおろか牧原さんをも驚かせていた。山本はそういう顔を見るのがたまらなく面白いのだ、と言っていた。 少し話をしたあと、デートの邪魔をしちゃ悪いから、と別れる間際に言われた。
「もう真っ暗だな」 「ホントだね」 二人で空を見上げて、そんなことを呟いた。雲もしっかり除去された、非常にクリーンな空だ。 ふいに、私は歌を歌いたくなった。口ずさむのは、『星に願いを』。 「When Wish I upon a star」 山本の好きな女性歌手が、有名な楽曲をジャズアレンジしたヴァージョンが印象に残っていて、そのテイクの真似をする。しかし、何かがおかしい。メロディは乗るのだが、歌詞はめちゃくちゃだ。違和感がある。 「それ、なんか違ってない?」 山本が問いただす。すぐ感付かれるとは、さすがに好きなだけある。むしろ彼はこの曲が映画で使われていたことを知らないんじゃないかと思っている。 「うん、何かがおかしいと思った」 「だってさ、英文法考えてみてよ。動詞の後に主語があったじゃん」 「そりゃどうも、悪うございましたね」 山本の熱弁が少し鬱陶しくなってきたので、皮肉交じりに返事する。 「紙とペンもってない?」 と手のひらをこっちに向けて差し出す。ないことはない。かばんの中からボールペンとメモ用紙を取り出し、渡す。近くにあった明るいスペースに立ち止まり、彼は文字を書く。When wish I upon a star。これを不用意とは言え、自分が言ったことだと思うと見てて恥ずかしくなる。まがりなりにも10年間英語を勉強してきた身だ。忘れてどうする。それに、もう過ぎたことをあれこれ言われるのが好きな人間はよほどの変人ぐらいだろう。どうせ彼は人のささやかな恥辱など気にしないだろうから、その気持ちはあえて抑え込むように努めた。WishとIも丸で囲み、反転を示す矢印を書く。 「これ逆でしょ。ついでに、正しくはIじゃなくてYou」 「When you wish upon a star」 「そう」 満面の笑みをこっちに向けて、親指を上げる。 「ウザっ」 私は怪訝な顔をする。 「で、その続きは?」 と訊いてみると、彼は言葉に詰まった。すると彼はわざとらしく頷き、拳と手のひらを叩いた。 すると、最初のワンフレーズをしっかり歌いきり、私を感心させた。しかし、その後の部分はすべてふんふんと鼻歌でごまかしていた。 「馬鹿」 呆れたものだ。 「そもそもこれ何の映画の曲だか知ってんの?」 彼は首を振る。映画の名前を言うと、国外のアニメ映画より国内のアニメ映画を見て育ってきたから、と言い訳する。 「知らないものは知らない。じゃあこれは知ってるか?」 彼はジブリ映画の曲を歌う。急に裏声を使いだし、声量のコントロールもせず辺りに乱暴に音が散らばる。もののけ姫、と私はそっけなく答える。高校時代、吹奏楽部がよっぽど気に入っていたのか毎年演奏していた上に、それを見た山本が冗談半分にギターで弾き語りしていたではないか。山本が一人で披露する曲は、「あぁ、そんなのもあったな」と笑わせるようなものばかりだった。 「もの知りだな」 「常識でしょ。ねぇ、焼きそば買ってくれたら嬉しいんだけど」 クイズに正解したところで、交渉してみる。正解者には商品があってもいいんじゃない、と彼に揺さぶりをかける。苦し紛れに、彼はまた語り出す。 「では第二問。織姫と彦星、二人の関係は何でしょう」 「夫婦」 私は即答する。うわああ、と山本は奇声を上げながら、頭を抱えてのけぞる。 「どうせ携帯のニュースとかで読んだんでしょ。覚えてるよそれくらい」 「くそー、君も読んでたのかぁ」 と、山本は悔しがった。 「仕方がない、正解者には焼きそばをひと箱、プレゼントでーす」 「やった。ありがとう」 本心からやった、と思う。ありがたい。金銭面では優しい男だが、トラブルを起こす話を聞かないところをみると、援助する人間はちゃんと選んでいると思われる。その意味で、私も彼の目にかなった人間なのだと思うと、少し嬉しくなる。
「いたっ」 私は不意に、バランスを崩した。誰かが思いっきりぶつかってきたのだ。振り返っても、もう人ごみにまぎれて誰の仕業かはわからない。山本は手を伸ばして、私の腕を掴んで引きもどしてくれた。 「今日はよくこけるねぇ」 「うん、まったくだよ」 「さすがに人が多いと、こけやすいしねぇ。今日はヒール?」 「ううん」 こいつ、見てないな。山本を疑いつつ、少し背中に汗が噴き出るのを感じた。ただこけそうになっただけじゃない、得体の知れない恐怖を感じた。あまりよくない感情を、卑怯な方法でぶつけられている。そんな感じだ。私は運よく、女子のグループからはみ出された経験を持たずに、あるいはそういうことをするような陰険な人間とあまり関わりを持たずに育ってきたが、世の中の現実はきっとそれがはびこっているのだろう。ただ、そういうのに会わないことが逆に自慢でもある。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる。先に食べて待ってて」 焼きそばの二つ入った袋を私に預け、近くの建物のドアを開ける。駆け足だったので、相当我慢していたのだろう。まぁ、食事前に考えることではない。 その時、足に激痛が走った。何者かがわざとらしい力で強く踏みつけたのだ。歯を食いしばったまま、無意識につぶってしまった目を開ける。目の前にいる女が、座っている私を見下ろして、うすら寒い微笑を浮かべている。 「いい気味だわ。たっくんにあんたみたいなのが近づくからこうなるのよ」 たっくん……山本のことだ。そういうあんたは誰なんだと問いただそうとしたが、足の痛みで言葉が上手に声にならない。まずい、本当に痛い。 「気持ち悪いのよ、あんた。彼女でもないのにベタベタして」 女は私に悪態をつく。白状すると、山本と私は実はそういう関係ではない。でも、それでも。言い返したい気持ちでいっぱいになる。だが、それをしたら最後、自分で怒りを抑えきれなくなる。凄い剣幕でまくし立てるだろうが、そこに説得力のかけらもないことは、経験的に知っていた。私はそういう人間なのだ。ここで同じ過ちを犯さないためにも、相手の目を見つめ、口をしっかりと開かないようにした。 暗くて、彼女の顔はよくわからない。肩ほどの長さの髪と、力仕事を人に任せてきたような可弱いシルエットだけが、印象に残る。踏まれたせいか、彼女の瞳は痛々しくさえ思えるほど陰湿な邪念が渦巻いているように思えた。あるいは、何も考えることもなく、誠実さのかけらも育んで来なかった卑しさが宿っている。 しばらく睨みあっていると、山本がお手洗いから出て来た。彼女がそれに気付くと、舌打ちをして去っていく。一瞬の出来事だった。 「あれ、まだ食べてないのか」 「うん」 少し遅れて返事を返した。女が闇と人ごみに消えた方角を、ぼんやり見つめる。 「どうしたの、顔が暗いよ」 「いや、何でもない」
それから射的やらスーパーボールすくいなど、少ない移動距離の中で遊びを繰り返し、川沿いで打ち上げられる花火を発射台間近で見物した。足を踏まれたことは伝え、山本は様子を見るなどしてそれなりに気を使ってくれた。ふがいなくてごめん、と言うと、謝らなくていいよ、と返された。 「本当に大丈夫? 疲れちゃった?」 山本は更に問いただす。私は黙った。今が言う時なのかもしれない。 「踏まれたときさ、踏んだ女に悪口言われたんだ。付き合ってもいないのに、二人で一緒に遊んでるのはおかしい、って」 可能な限り、感情を込めず事実だけを伝えるように努める。迷惑はかけられない。 「そんなことない、とはさすがに言いきれない、けど、だからって」 しかし、山本は明らかな嫌悪感を示していた。あとに続く言葉をためらうように、首を振る。 「いや、何でもないよ」 私はこの話をここで終わらそうとして、そう言った。枝垂れ柳が、頭上から落ちてくる。見たこともない流星群を連想させる。 「おかしいんだったらさ、」 あたかも最初から存在していたかのように、出来る限り自然に発せられた言葉であるかのように、山本は切り出そうとした。私はその話はもうしようとは思っていなかったから、思わず顔を背けた。 「あ」 顔を上げると、西田夫妻が立っていた。 「お、山本たちもここにいたか。いい場所とってんじゃん」 と西田くんは豪快な声を上げる。 「お邪魔虫だなお前は」 と山本は笑って悪態をつく。一発上がった花火を見て、奇麗だね、と言い合う。私はふと思いつき、口に出してみる。 「折角だし、花火四人で見るのもいいんじゃない? どうですか、西田さんも」 「タメ語でいいよ、同い年なんだし。うん、皆で見るか。いいよな、梨奈ちゃん」 後ろで牧原さんがいいよ、頷く。彼女は頭に黄色いお面をつけていた。何かと思って見せてもらうと、ピカチュウのお面だった。 「これ、どうしたの?」 「ふふふ、買ってもらったんだ」 彼女ははにかんだような笑みを見せた。可愛らしさを褒めると、彼女はお面を顔につけ、ピカチュウの鳴き真似をした。私は驚く。 「上手いね」 「ありがとう」 きっと彼女は多才なのだろう。また一つ、空中で光が弾ける。 「うわぁ、きれい。星みたいだね」 私は素直に感動する。 「うん。でも、ちょっと怖いなぁ。もしこれが隕石だったら、落ちてきて私たち危険どころじゃ済まないんだよ」 「それ、さすがに考え過ぎじゃないの」 牧原梨奈は少しズレている、のかもしれない。 それからすぐに私と牧原さんは打ち解け、花火を見上げながら色々と盛り上がっていた。 後になって思えば、この時山本にも、ちゃんと「4人で一緒に花火見物をしてもいいよね」と了解を取るべきだったのだと思う。 牧原さんの横で、山本が西田くんに何を話していたか、少しでも耳を傾ければよかったのだ。
文字数約8000字。結構ギリギリまで書き込みました。 掲示板の形式を全く考慮せずにかいたので、ワードなり何なりに移して読んでいただいた方が読みやすいかもしれません(。・_・。)ノ ポケモンが申し訳程度にしか登場しないですみません; 8/21 笹→短冊に修正。笹じゃおかしいよなぁ……やっぱり。どこかはいいません。
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Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.3 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:45
- 名前: 挽きたて珈琲豆
- Aコース「暗闇は人を……」
ああ、いつからこうなっただろう、私の腕の中にいる彼女も血色を悪くして、その栗色の瞳を細め、がたがたと体を震わせる。 それは暗い、暗い洞窟の中のこと、私は足場を確認すると、そこには石ころ一つも見えない、私の靴さえもだ。 彼女はひたすらに震えている、肌触りのよい彼女の尻尾も体もこんなにも温かなのに、この空気はどうだろう、震え上がるようだ。
日光の遮断されたこの場所では外気の気温はあまり関係ないも等しい、今この肌で感じ取っている駆け抜けるような寒気がそれを物語っている。 ただ、外気ばかりではない、こんなにも恐ろしいほどに寒気を感じ取る要因はきっと……。
聞こえるのだ、彼女にも、あの音が。 彼女は私の腕の中で、震える声で小さく「ぶい」とないた、彼女のいつもの可愛らしい声がまるでライターの灯のようだ、ともってはいるが、ちょいとした風ですぐに消えてしまうあの火とどこか似ている。
ゆっくり、歩を進める、もう一歩、足音を出さないように歩を進めた。 ひやりとした空気を目いっぱいに吸い込むと、胸の辺りがまるで毒に侵されたように苦しくなる。 あまりの寒気に振るえあがった、蝙蝠であるが蝙蝠でない生き物が頭上をかすって飛んでいく、あいつは超音波で私の位置がわかるのだ、きっとあの音の位置も。 しかし私と彼女にはわからない、彼女はその栗色の毛が覆う長い耳をたれ下げ、音を聴くことを意識的に拒んでいる。 私はどうすることもできない、こんな洞窟の中にいたらいずれ餓死してしまう、私はあいにく石ころの怪物のように岩や土を食べて暮らすことはできない。
音は止まない、明かりを灯す術もない、さっきあの音に彼女以外のものはいわゆる瀕死の常態にされてしまった、もてる道具もすべて使った、彼女も気力をなくしてしまった、あいつには勝てない。 それならば逃げるしかない、あの音に気づかれず、この洞窟の中から。
元は遊び半分だった、興味本位とも言い返しても間違いではない、私とて弱くともトレーナーの端くれ、このような場所に来てもいいではないかと立ち入っては見たものの、このような状況に置かれると後悔しかあるものはない。 興味も失せた、それでもこの洞窟を探検せざるを得ないのは、出口がわからないからだ、あの音に襲撃され、散々逃げ惑い、出口を失った。 あの音はまだ止まない、あいつはこちらの位置がわかっているのだろうか。
一歩、二歩、一つ、二つ、私と私以外の岩を削る音、少ししか音を立てていない私のものとは違い、やつの足音は大きく、爪で引っかくようなバリバリとした音がついて回る。 ごつごつした壁に二の腕を軽く擦りつけて一歩、二歩、すりすりと擦られる音も僅かばかり響く。 足元を確認しつつ、また一歩、突然がけが現れることだってあるかもしれない、音に襲われたら終わりでも、死にたくはない、うるさいばかりになり続ける鼓動は私がまた生きているのだと言うことを思い出させる。
強烈な外気の冷えと、私の額に流れる冷や汗、呼吸も荒く息苦しい、彼女は私にしがみついた。 絶えられない足音、絶えない心音、絶えない緊張感。 地図が見えない、磁針もない、あったとしても見えない、取り出せない。 ただ歩く、生き残りたくて、私は今生きるために探検をしている、それもだ、
「洞窟」ではなく「生死の境」を
洞窟探検に力を注ぐ暇はない、そんな精神状態の余裕もない、走馬灯が繰り返される、冗談じゃない。 恐怖はやがて怒りへと姿を変えていく、しかしここで叫びたくっても意味はない。 感情がせめぎあい、新たなる感情を生み出す絶えない足音への焦燥。
身が震え上がり情けない声が口から出た。 突然早まる足音、なりふりかまわず、気づかれることも考慮に入れず突然私も走り出した。 足下は不安定だ所々躓きそうになるが足を止めるわけにもいかない。 彼女はパニックを起こした私の腕の中で暴れる、そんなに暴れないでくれ君を落としてしまう。 石を蹴る音奴の爪が石を引っかく音、奴だこっちに迫ってくる気配奴の荒い呼吸絶好の餌を逃がさんとする熱い呼吸だ。 楽しそうでもある、目の前が滲む脚も疲労がたまってきたしかし止まるわけにはいかない。
服を引っかかれた体が宙を泳ぐ。 動きが止まったことで私の中の臓物が骨にたたきつけられたようだ、吐き気にも似た気持ちの悪さがこみ上げ、それすら許されないくらいに急速に血の気が引き始めた。 彼女は私の腕から滑り落ちていった、僅かな衝突音と彼女の悲痛な「ぶい」という声が聞こえた。 私の体はくるりと走ってきた方向へ向かされ、獣の口から吐き出された息が顔にかかる、太く力強い腕だ、振り解けもしない。 相手の顔も見えない、ただ光を灯す術を施行していた際に奴の姿は見た。 腹に円を描いた模様のある巨大な熊だった。
体が揺れる、わかる、牙が近づいている、動悸は酷くなる。
いろんな意味をもった、嗚呼、なんて短い手段の少ない「探検」
暗闇は人を……
絶望的にさせる
end
夏と言えばホラー、題材は「探検」 煮えたぎる物語のある夏ではなくこういう夏もいいのではと試行した結果なんとも稚拙な文章の完成。 ちなみに彼女はイーブイ、蝙蝠でない生き物はズバット、石ころの怪物はイシツブテ、足音はリングマとなっております、文章中であまり描写がなかったしポケモンとも言わなかったので何人が気がついたでしょう? 探検と言っても実際に見て歩くことだけが探検とは言わないのでまた違ったほうの探検も入れてみたり。 ひやりとしたものを感じていただけたら大変喜びます。
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Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.4 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:46
- 名前: Rという名の作者
- 『とある秘境での出会い』
世に秘境と呼ばれる場所がある。理由は様々あれど、何か大きな力がその場を支配し、その場へと足を運んだ者は二度と帰ってくる事はない等と言う事が大半を占める。 そんな場所にも進んで足を運ぶ者がいる。世に探検隊と呼ばれる者達。探検隊と言ってもピンキリで、駆け出しの者たちもいればそれこそ世界を救ったという程の実力者たち、悪名轟く者や名前だけを残し消えていった者達も存在する。 探検隊とは文字通り、まだ見ぬ新天地や光り輝く金銀財宝等を求め、光指さぬダンジョンを捜索する者たちを指す。ダンジョンとは時間や空間がねじ曲がった事により産まれてしまった謎が満ちる場所で、入る度にその形を変えていくという摩訶不思議な場所の総称。ポケモン達は畏怖の念を込め、正式名称を不思議なダンジョンと名付けた。 ダンジョンに長時間滞在したポケモンは自我を失い、とても攻撃的になる。特によそから入ってきた者達に攻撃するようになるなどとても危険な場所ではあるが、メリットもある。何故だかダンジョンでは冒険に役立つ各種道具なども生み出しているらしく、そういったお宝を求めて探検をする者も少なくない。 そんな不思議のダンジョンの中でも特に危険なのが、秘境とよばれる場所と言う訳だ。だがしかし、そのような場所だからこそ出来る出会いがあるのもまた然り……。
とある秘境、正確に言うと熱帯雨林とも言うべきジャングルの奥地にて、爆音が響く。霊力を固めて作られたシャドーボールをまともに食らったラフレシアは上空へとブッ飛ばされ、そのまま落ちていく。グシャッと嫌な音が響くが、死んではいないだろう。 ふうっと大きくため息をついたのは、もふもふとした茶色と部分部分白い毛、ピンとたった大きな耳が特徴のイーブイだった。特徴としては首に青色のスカーフを巻いており、スカーフに付いてるきらりと輝くマスターランクバッジが、イーブイの強さを物語っている。
「ふぅ、危なかった。えっと今が29階位だったはずだから……そろそろ一番奥のはずなんだけどなぁ」
圧倒的な筈だったのに、危なかったと言うイーブイ。この事からイーブイの性格が少しだけ分かるかもしれない。 そんな彼女に近づく影が一つ。大きなボストンバックを肩に下げ、少し疲れたようにため息を吐くポケモンもまた、首に青いスカーフを巻き、イーブイと同じマスターランクバッジを付けている。どうやらイーブイの仲間のようだ。
「リオルぅ、もうこの近辺に敵はいない?」 「うん、遠くの方にまだ数匹いるけど、暫くは休めると思うよ」
青と黒の色合いと、頭にある二つの房が特徴のリオルが、ゴーグルを付けながら辺りを見回している。このゴーグルは見通しメガネを改良した物で、性能はそのままに使いやすいようにしたものである。 彼らもまた、探検隊として名をあげる者達。詳しい事は言わぬが、マスターランクと言う称号を持つという時点でかなり名の上げた探検隊だと言う事は分かる。……この際二匹の体の小ささは度外視しよう。 バックから手書きの地図を取り出し、辺りを見回すリオル。進むたびに地形が変わり続けるダンジョンではそのたびに地図を書かねばならないが、長年捜索を続け地図を何度も書いた賜物か、走り書きとはいえなかなか分かりやすい地図に仕上がっている。
「よし、もうすぐ階段があるから、このまま降りちゃおう。多分次が最奥……このジャングルのボスが待っている場所だよ」
リオルが言うと同時に、イーブイの顔もキッと引き締まる。秘境と呼ばれる場所が秘境と呼ばれる所以にはもうひとつ特徴がある。それは、世に伝説や幻と位置付けられる力を持ったポケモンの住処である可能性が高いという事だ。 しかもこのダンジョン「ミステリージャングル」には秘宝と呼ばれる宝物が眠っているという話もある。その秘宝を守る為に力の持った者が守っているという話は珍しくはない。寧ろ当然の話である。 かつて彼らは伝説の宝が眠ると言うダンジョンに潜った事もあるが、その時もレジロック、レジアイス、レジスチルと言った聞けば誰もがひっくり返る荘厳たる顔ぶれと戦う羽目になった。このダンジョンでもまたそうなる可能性は十分高い。
既に見つけてあった下り階段(森に階段と言うのもおかしな話だがこれもまた不思議のダンジョンの特徴の一つ)を登り、30階へと進むと、少し開けた場所へと出た。 警戒し辺りを見回すが、秘宝の類やそれを守る番人の姿もない。隠れているのかと気配を探るも、そのような気は感じない。 少しだけ警戒を解き、息を吐きだそうとした瞬間……突如、バァンという炸裂音が響いた。 一気に戦闘態勢を取る二匹。リオルは拳を固め何時でも瓦割りを発動できるように、そしてイーブイもまた霊力を高めてシャドーボールを撃つ準備をする。 二匹が捉えた姿は、宙に浮いていた。全身淡いピンク色でとても長い尻尾、青いクリっとした目がとても可愛らしく、手には爆音の原因であろうクラッカーが握られていた。
「オメデトー! いやぁこんな所まで来てくれる探検隊なんて滅多にいないからほーんと嬉しい、あ、驚かせちゃった? ゴメンナサーイ本当ひっさしぶりのお客様だからつい羽目外しちゃってあでもでも普段はもうちょっと真面目に取り組んでるんだよ? ホントだよ? 漏れでも私真面目なキャラで今まで生きて来たんだからってそんなの聞いてない? あふぅゴメンナサーイ」
満面の笑みで足早に話すピンク色のポケモンに、リオルとイーブイはそろって口をアングリと開け言葉を失った。 一体どんな屈強なポケモンが待っているかと思いきや、現れたのが自分達と同年齢ぐらいの小さなポケモンという結果に、つい拍子抜けしてしまったのだ。 苦笑しつつ戦闘態勢を解きかけ、しかし瞬間的な殺気にリオルは反応し、イーブイを抱えて大きく横に跳び逃げる。 「ひゃぁ!?」という彼女の声と同時に聞こえて来たのはまるで巨大な重りを乗せられたかのようなミシミシという大地の悲鳴。しかもその悲鳴はどんどんと大きく、悲惨な音へと化す。 サイコキネシスによる、空間自体にGを加えた事による重力攻撃。ほんのコンマ数秒単位で気付くのが遅れたら、大きすぎるGに押しつぶされ、下手したら押しつぶされて絶命していたかもしれない。 キッとピンク色のポケモンを睨むリオル。当の本人は攻撃が当たらなかった事にムスッとした表情ではあったが、すぐにコロッと表情を変える。喜怒哀楽が非常に分かりやすいが、敵に対しての情けはどうやらあまりないらしい。
「自己紹介がまだだったね? 私の名前はミュウ。このミステリージャングルで暮らす、草のラッパの守護者。ここまで来た事は嬉しいけど、ラッパが目当てなのは分かってるよ。そういう人達は、残念だけど倒さなきゃならないんだ」
ミュウは右手に力を溜めた状態で少し怖い顔で睨みつつ自己紹介する。キィンキィンと音が鳴っている程高密度に煉られた念エネルギーにリオルとイーブイはおもわず唾をゴクリと呑み込む。生半可な防御ではまず太刀打ちできないだろう。 イーブイの態勢を整えた後、リオルはまっすぐな瞳でミュウを睨み返す。その瞳はとても透き通っており、だがその瞳の奥にある闘争心は、歴戦の戦士にしか宿らない熱きもの。 イーブイもまた、ミュウを力強く見据える。ほんの少しだけ体が震えているが、これは恐怖か、はたまた武者震いか? いずれにしろ、逃げるという選択肢ははなから度外視しているようだ。
「俺の名前はリオル。チームグリムゾンのリーダーをさせてもらってる」 「私はイーブイ、同じくチームグリムゾン副リーダーです」
ミュウはニッコリと微笑み、力を、技を生成する。リオルはグッと電光石火の構えを取り、近づき攻撃するチャンスを狙う。 イーブイは霊力を高めシャドーボールの構えを取る。今までの技からエスパータイプと思われるミュウには効果抜群であるが、どんな攻撃も当たらなければ意味がない。 「ヒュッ」と漏れたリオルの声が、開戦の合図となった。サイコキネシスが、シャドーボールが、リオルの拳が、交錯する。
とても戦闘音とは言えないほどの爆音が、辺りを駆け巡っていく――。
大陸の西端に存在する街、トレジャータウン。プクリンのギルドのお膝元とも言えるこの街には、沢山の探検隊達が冒険への準備を整える為に訪れる。 夏の日差しが少しだけ緩んだ頃、救助依頼を終え帰路についていたドゴームがふと出入り口付近を見ると、全身ズタボロになって帰ってきたリオルとイーブイの姿を捉えた。 思わずギョッとして急いで近寄る。話を聞くと、七つの秘宝の番人との戦闘にて深手を負ったが、辛うじて戦闘に勝利し、秘宝を譲り受けたとのことだった。
「しっかしお前らがそこまで苦戦する相手とは、一体どんなおっそろしいバケモノなんだ? まぁ無事に帰ってこれたからよかったけどな! ガッハッハ!!」 「御免ドゴーム、流石にその大きな声今の僕達には辛過ぎる……」 「か、体にミシミシ響いてくるよぉ……」 「おぉわりぃわりぃ!! ところでよぉ」
全然下がらぬ音量に肩を落としつつ、ドゴームの疑問に耳を傾ける。
「その後ろの子は、新しい仲間かなにかかい?」 「「はい?」」
二匹はくるっと後ろを向いて、そのまま……絶句した。
「コンチワー!」
つい今しがた激闘を繰り広げた秘宝の番人が、満面の笑みで右手をビシッと上げ、しかも傷をあらかた治した状態でそこにいたのだから……。
後日、ミュウはチームグリムゾンの正式なメンバーとして仲間に入る事になるのだが、それはまた別のお話。
〜to be continued?〜
〜あとがき〜
Aコースにて、ポケダンをテーマに書きました。……うん、書いて無くてすいませんでした;; ポケモン+探検=ポケダン! ……うわぁ我ながら安直な……どうもRです。 ちなみに今回でた組み合わせとチーム名は自分とこのだったりします。まぁあまりお気になさらずに。 さて、今回はどうなるかなぁ……でわ!
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あなたのおなまえなんですか? ( No.5 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:46
- 名前: 夏花火ロリコン仕立て
- Bコース『あなたのおなまえなんですか?』
祭囃子が聞こえてくる。賑やかな喧騒。子供の笑い声。そのどれもが、今は自分を嘲笑っているかのようで不快だった。 思いの外美味しかった林檎飴、一匹も掬えなかった金魚掬いも楽しかった。なのに、なぜ、今はこんなに惨めで心細いのであろうか。 分かり切っている。全部おにーちゃんがいけないのだ。 家族で来た夏祭り。おにーちゃんに手を引かれ走り回っていると、いつの間にかおとーさんもおかーさんもいなくなっていた。はぐれてしまったのだ。 「真由! おまえはここで待っていろ! お兄ちゃんが必ずお父さん達を見つけだしてやるぜ!」 かっこよく、なのかどうかはよくわからないが、とても良い顔でそう言ったおにーちゃんはまだ戻ってこない。もう一時間以上前のことだ。きっとおにーちゃんのことだ、どこか明後日の方向目指して突っ走っているに違いない。まったくもってあてにならないおにーちゃんだ。 そんなことを考えていると、なんだかムカムカしてくる。全部おにーちゃんがいけないのに、なんで私がこんなめに合わなければいけないのだろうか。 「そこのお嬢さん」 「……ぁによ」 無意味に爽やかな声が目の前からして、私は顔を上げた。歳はたぶん十五、六。おにーちゃんより少し上。声に負けじと無駄に爽やかな顔。まるで太陽のように爽やかに、否、うざったく笑う。 「迷子かい?」 「……知らないお兄さんとは話すなって言われた、子供相手に声掛けてくるお兄さんはみんな幼女性愛者(ロリコン)だから気を付けろって」 彼は一瞬、キョトンとして私を見つめていたが、次の瞬間には大きな笑い声を上げる。 「これは教育熱心な親御さんがいたもんだ、知らないお兄さんからは物を貰うな、とか言われてるのかい?」 「……それは言われてない」 「物を貰うな付いていくなを先に教えるべきじゃないのか」 そういってまたお兄さんが笑う。たしかにそれもそうだ。 「まあいいや、食べるか?」 いつの間に持っていたのか、ずっと目の前にいたのだから、きっと最初から持っていたのだろう、バナナチョコを私に差し出す。私も素直に受け取ると、一言呟いた。 「……バナナ……嫌いなのに」 悪態を付きながらそれを一口頬張る。 「でも、おいしい」 その言葉を聞いてショックを受けていた彼が微笑む。 「それは良かった」 「で、何の用?」 まさか見ず知らずの女の子にバナナチョコを食べさせる為に話し掛けてきた訳ではあるまい。 「そりゃあ、お兄さんは幼女愛好者(ロリコン)だからな、小さな女の子が寂しそうにしていたら声を掛けるさ」 あくまでも爽やかに問題発言を口にする。爽やかな笑顔……やっぱりウザイ笑顔も崩さない。 「お兄さん、携帯持ってる?」 「お父さんの携帯の番号とかわかるかい?」 私はふるふると首を横に振る。十一ケタもの電話番号はさすがに暗記出来ていない。 「警察に電話するの、お菓子で釣って幼女をたらしこもうとする犯罪者がいるって」 「いやいやいやいや、ちょっと待てゐ」 さすがにお兄さんもこれには笑顔を崩した。 「お兄さん、ただの好青年だよ、悪い人じゃないから」 「悪い人は自分を悪いなんて言わないと思うけど」 小さく呻くお兄さん。それに自分でロリコンて言ったし。 「ところでお嬢さんのお名前は?」 「坂下真由、八歳」 「八歳か、ところで、知らないお兄さんとは話しちゃいけないんじゃなかったの?」 すっかり忘れていた。慌てて言い訳を考える。 「バナナチョコ貰ったからもう知らないお兄さんじゃない」 なんてダメな言い訳だろう。お兄さんがくすりと笑うのがムカつくから、一言付け足してやる。 「今はロリコンバナナのお兄さん」 微笑んだ姿のまま硬直するお兄さん。うん、中々反応が面白いお兄さんだ。 「……まあ、それは置いておこう」 お兄さんは言いながら、誰かに電話を掛け始める。 「警察?」 「違うって、ちょっと静かにしててね……もしもし、今祭来てるよ、うん、今本部? あー、それは悪かった」 本部ってなんの本部だろうか。まさか幼女性愛者(ロリコン)協会の本部……そんなわけはないか。 「うん、迷子、坂下真由ちゃん、八歳、あ、今来てる? おー、良いタイミングだった、じゃあそっち連れてく? うん、わかった、じゃあ待っててもらって、うん、今行くから」 お兄さんが携帯を切る。 「うちの親が祭の実行委員なんだ、本部に問い合わせたら、今お父さん迷子センターに来てたって」 「本当に?」 「うん、嘘吐いてるように見えるかい?」 「うん、幼女性愛者(ロリコン)協会本部に連れていこうとしてるように見える」 さすがに慣れてきたのか、今度は笑顔で返してくる。 「そんな協会があるなら行ってみたいな」 「幼女性愛者(ロリコン)はビョーキです、適切な施設で隔離とか矯正とかしてもらえば治ります、たぶん」 「どこでそんな言葉覚えるの?」 「マンガ」 明らかに、この子はどんなマンガを読んでいるのだろう? と言う顔をしているお兄さん。私は立ち上がると、お兄さんの手を取る。 「早く行こう、ロリ協本部」 「そうだね、行こうか」 彼は苦笑いしながら、私の手を引いて歩きだす。 ロリコンバナナのお兄さんから、優しいロリコンお兄さんにランクアップしてあげよう。でもそれは教えてあげない。 「そうだ、お兄さんの名前聞いてないよ」 「うん? 俺?」 「そう、私教えたもん、お兄さんも教えてくれないと不公平」 「そういうもんか? まぁいいや、俺は――」
また、会えるだろうか?
少し変で、でも優しそうで、ちょっと頼りになるお兄さんに。
あとがき
まだおにーちゃんは両親を探しています。 おにーちゃんは一回真由ちゃんの元に戻りました。 今度は真由ちゃんがいません。 おにーちゃん「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
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Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.6 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:48
- 名前: 円
- Bコース「哀色の魂」
ああ、酒気と熱気に体を預け、声にならない叫びを上げると、私を見つめる村人達が今がその時かと眼を煌々と輝かせる。 川が渇き、田畑も枯れしまったこの村は、残された希望を私に賭け、飢えた目をしていた。日照りの中、私の両の手で踊る炎と同じ色をしていた。 私は弾けんばかりに体を躍動させる。神をこの身に降ろし、雨を祈る祭りの巫女の様とはこういうものだと、村人達の眼に焼きつけるよう、必死に踊った。 舞に見られる優雅さなどかけらもなく、狂った人間が暴れているようで、両手の松明から火の粉が散り、その中心にいる私はゆらめく炎だった。
祭りが失敗したら殺される、村人達の希望の分だけ、対極にある絶望は激しい怒りと変わるだろう。 原始に近い鼓動のリズムに夢中で体をゆだねながら、私の心には黒い不安がたたずんでいた。危うげな楽しい夢を見ている気分だった。いつ目が覚めるのかも分からない。
祈りを続けるうちに、黒い不安は消えていった。私の心は神のものになった。 私が願うのは、雨ではない。殺されないことでもない。ただ踊り続けることだ。 村人達の目が、意識が、全てが私に注がれている。私という炎に魅入られている。この高揚感をなんと言い表せばいいだろう。服がはだけても気にもならなかった。真の祭りとはこういうものだ。 ああ、どうかこの夢がいつまでも続きますように。
優れた雨乞い師の魂はどこにも還ることができない。 雨を降らせることに成功し、その挙句殺された私の魂は、皮肉にも、全ての魂が還るという霊山に安置された。 束の間の雨に満足しなかった村人達は、神が宿ったと見えた私をちぎり殺し、髪、骨、肌を、御神体の水晶の中に封じ込めた。こうすればいつでも雨が呼べると考えたのだ。人々は私のことを「あいいろのたま」と呼ぶようになった。
私には家族がいた。片思いだが、恋した人もいた。 村で一番踊りが上手かったというだけで巫女に選ばれ、雨が降ったという空のきまぐれで、私の命を失う形で全てを奪われてしまった。 雨を支配したいという幻想で、私のささやかな願いも、踏みにじられたのだ。 ああ、私の願いは、たった一つだけだったのに……
これから語るのは、現人神として生涯を終えた私の人生だ。 私を手にする人がいるならば、よく聞いて欲しい。 人は決して神に成れない。
私の始まりは、生まれて初めて海を見た日のことだった……
あとがき
ホウエン地方のアイテム「あいいろのたま」を題材に、神事としての祭りを書きました。
せっかくの企画ですので、皆さんの力作が読めると楽しみにしています!
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Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.7 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:49
- 名前: Rという名の作者
- 『旅立ちは潮風と共に』
くぁ、くぁ、というキャモメ達の声が聞こえる。鼻をくすぐる潮風は独特な匂いを放っている。……ずっと嗅いできたこの匂いとも、もうすぐお別れかと思うと、とたんに寂しいと思うのは何故だろうか? 朝日が眩しい島の港。連絡船に乗り込み荷物を下ろし、船の後ろへと出た。ずっと暮らしてきた島が一望でき、少しだけセンチメンタルな気分になった。 海はどこまでも続く。だからこの潮風は道中何度も嗅ぐ事になる。……だけどこの地この島の潮風は、もう暫くは嗅ぐ事は出来ない。 ……つい、うすら笑いを浮かべてしまう。何を言ってるんだ俺は。もう振り向かないと決めたじゃないか。
「ぶぃー、ぶいぶぅ」
俺の頭の上でペシペシと叩いてくるのは、これから相棒となるイーブイ。二日三日前に貰ったというだけの間柄ながら相性が良かったのかすぐに懐いてくれた。……まぁ頭の上にすぐ登りたがる癖を除けば、良いパートナーである。
「分かってるよイーブイ。お前のこれからの人生、良いものにしてやるから安心しろ」 「ぶ〜い〜?」
「ほんと〜?」という口調で鳴くイーブイに、俺は頭をワシャワシャとさせる事によって答えた。 どうも頭を撫でられるのは嫌いらしく、ブィィィっと唸られてしまった。まぁ後で美味いもん食わせてやればいいか。……いいのかそれで? まぁいいか。
その時、ブォォォォ……っと汽笛がなった。どうやらもうすぐ出港するらしい。 大きく息を吐き、肺に空気を一気に入れる。また嗅ぐ事が出来るか分からない島の空気を、出来るだけ吸い込みたかった。 また、ハァァァァァ、っと吐き出す。それだけで、何となくだけど気持ちが晴れ晴れとした。……大丈夫。 ふと上の方でもブゥゥゥゥゥゥ、とイーブイが息を吐き出したのが聞こえた。こいつ俺の真似しやがった……まぁいいか。
これから行くのは、イッシュ地方。何でもイーブイ種の新しい進化先が発見されたと噂されているらしい、とてもとても遠い地方だ。暫くは船旅三昧を味あわなければならないだろう。 でも、俺は行く。折角イーブイを手に入れたんだ、折角だからその新しい進化とやらを拝んでみたい。そして、イーブイも同じ気持ちらしい。 正直不安もある。遠い地方でたった一人、やっていけるのかと。だけど、旅立ちっていうのはこれぐらい壮大な方がいいと母も言ってくれた。
「……絶対、強くなって帰ってきてやる」 「ブィ!」
冒険の、旅立ち。これからどんな事がおきるのだろうか? それを知っているのは、多分セレビィかディアルガぐらいなんだろうなぁ。 そんな事を考えつつも、ゆっくりと離れていく島を、何とも言えない気持ちの中で俺は旅立っていったのだった。
〜後書き〜
Aコースにて、冒険への旅立ち。ちょっと短すぎるけど気にしないで!! 今回A少ないよぉ、皆もっと平等に書いてこうよ!!
ということで、次こそはBを書きたい。でわ!!
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Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.8 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:49
- 名前: さささ
- Aコース[未開見たいテレポート]
【一】 人間ってえのはえてしてポケモンの迷惑にしかならねえ。あいつらは俺達をふるさとから強引に引っぺがし、わけのわかんねえ球にぶち込んで連れ去っちまう。そんでもってひたすらこき使ってあっちこっち連れ回すってんだからそら迷惑でしかねえだろう。ふざけんじゃねえってんだこんにゃろう。 というのもよ、いつもこの辺の森に餌を取りに来るもんで仲良くなったヤミカラスってえのが最近来なくなったもんだから、どうしたもんかと同じ場所に住んでいるピカチュウっていうのに聞いてみると、人間に捕まったってえ話じゃねえか。正直言うと、俺は恐い。その突然襲いかかってくる人間ってえのがもの凄く恐い。ああああ情けねえ。あんなひょろっこい人間をびびるなんて情けねえ。けどよ、あいつらの連れて歩くポケモンってえのがめっぽう強い。そらあもう闘うお人形のように、人間達の言う事を聞いて攻撃してくんだ。というと恐いのは人間じゃなくてポケモンだろう? なんてことを言われるかもしれねえが、それは違う。そのめっぽう強いポケモンに命令できる人間の力ってえのが、きっと一番おっそろしい。歯向かえば絶対に倒せるのに、あのめっぽう強いポケモン共は、人間を攻撃しやがらねえ。それどころかはいほいと言うことを聞いて、俺達をぼかすかと攻撃してきやがる。こりゃあ一体どういうこった。 「あ、ケーシイいた!」 そんな風にボンヤリ考えながら森の中をブラブラしていると、俺の前にのこのこと現れやがった奴がいた。黒い短髪頭のそのガキは、俺を見つけたことにあたふたしながらも、腰についたあのいまいましい球を俺の前に投げやがる。 「お願い、スリープ!」 中から出てきたのは、何考えてんだかよくわかんねえ、鼻のなげえ二足歩行のエスパーポケモン。っへ。俺の敵じゃないさ。今まで幾度となく人間に攻められながら、一度たりとも捕まってねえどころか、一度たりとも攻撃を受けていない。そんな俺を捕まえようなんざ百年はええ。なんたって俺には、伝家の宝刀テレポートっちゅう技がある。それがある限り、一生人間なんかに捕まるわけがねえ。はは、残念だったな。この間抜けそうなスリープは捕まえられても、この俺は捕まえられないぜ! 「ようし、スリープ! 金縛りだ!」 ん? んん? あれれ? や、やべえやべえ、テレポートが出来ねえよ。ああ、やべえやべえ。逃げられないんじゃ俺には勝ち目なんてねえ。実を言うと、生まれてこの方バトルなんてほとんどしてねえ。誰かと喋ってるか、寝てるか、飯食ってるかだけだ。だから、本当は連戦無敗なだけであって、連戦連勝なわけじゃねえ。 「今度ははたくだよ!」 スリープは、またも人間の言いなりになってとことこ向かってきやがる。でもやべえ、俺ったら逃げられねえ。おたおたしているうちに、そのまま俺はスリープにはたかれる。ああ、いってえ。こんにゃろ、思いっきりやりやがって。 「おいおいおい! いてえじゃねえか!」 「そらあバトルなんだから当たり前ですわ」 ……なんだよ、その語尾。 「なんだっててめえは俺を殴ってきやがる。何か恨みでもあんのかい!」 「恨みなんかないですわ。ただ、うちのご主人がそう命令するんで」 「あんなのに従っていて楽しいか? 俺にゃあまったくわかんねえ」 「じゃあ、あんたもどうだい? 同じような力を持つ者同士一緒に旅をするっていうのも中々いいんでないかい? 外に出りゃ楽しいし、楽しい理由がわかるってもんですわ。それに、こんな森ん中にずっといるんじゃ、頭がくさっちまいますわ」 「スリープ! もう一度はたくだよ!」 「俺はこの森が好きでここにいるんでえ。お前らなんかと一緒にいけ、ぶぁ! お前こんにゃろ、話し合ってる途中なんだから叩くんじゃねえやい! 舌かんじまっただろ!」 「いやあ、ご主人からの指示だったもんで。ほんで、なんだっけ? 嫌だって話だっけ? なら、一度一緒に来てみっといいですわ。うちの主人は、他の人間とはちっと違うんですわ」 「どこが違うんでえ! あのいまいましいボールをこっちに投げて無理やり押し込むだけだろう!」 「ほう、あんたはあれが気に入らんのかい。じゃあ、ちょっと待ってな」 何か妙なことを言い出したスリープは、俺に背を向けボウズの方へ何か身振り手振りバタバタし出した。自分のポケモンが何やってんだかまったくわかんねえ様子のボウズだったが、スリープがモンスターボールを指差すとどうやら気付いたらしく、それを手にとって「これ?」なんて言いだしやがる。こいつ、本当に俺を捕まえる気があるのか。 「え? モンスターボールはだめってこと?」 スリープは何度も首を縦に振り、再び俺の方へ振り返る。へへ、と得意げな顔をしてその間抜け面をこっちに向けやがった。 「ほうら、後はあんた次第だ。一度旅っつうのを経験してみるのもいい。気に入らなかったら勝手に逃げちまえばいいさ。どうだ? 来るかい?」 森は好きだ。生まれた場所だから好きだ。当たり前だ。ただ、俺にだって外の世界がどうなってんのかくらい、見てみてえ気持ちも少しはある。少しだ。ほんの少し。だからって一人で行くのは危ねえし、人間に従うってえのも癪だし、あのボールも嫌だ。 「うちの主人、前からあんたのこと気に入っていて、一緒に旅がしたいってうるせえんだ。ここはこっちの顔を立てると思って、一つ乗ってみないかい? 気にらなかったら逃げていいし、逃げるんだったら協力しますわ。それに、あんたにとったら外は未開の地だろう? ぼくらと一緒にそこを探検するっていうのも悪くない話かもしれんですわ」 へ。間抜け面しやがって、中々口は達者でやがる。この俺の心を揺り動かすたあなかなかやるじゃあねえか。ちっとボウズの方を見てみると、目をキラキラさせてこっちを見ていやがる。ボールはもう腰にしまっちまって、それを投げてくる様子もねえ。人間は嫌いだ。ついていくポケモンだって嫌いだ。俺はこの森が好きだ。ここにいる奴らが好きだ。りんごが好きだ。でも。 「し、しっかたねえ、このケーシィが、ちっとだけ、ちっとだけお前のそのまったく面白そうでもなんでもねえ提案に乗ってやろうじゃねえか!」 スリープは、不気味に笑みを浮かべながらボウズの方に二人で向かい合うように並んできて、俺の肩に手を回してくる。なんでえ、気持ち悪い。 「まあ、よろしく頼ますわ」 「ちっとだけだぞ、ちっとだ」 俺とスリープとのやり取りをわかっていないながらも、それを了承と理解したらしいボウズが、すぐさま走ってきて俺を抱き上げやがった。ぐお、苦しい。この、こうなったらテレポート! って、そうだ、金縛りがまだ効いてる……。 「うわあ、かわいい! よろしくね、ケーシィ!」 人間のくせに、なんてえ奴だ。痛くない抱擁なんかしやがって。まったく、わけのわかんねえ奴らだ。
【二】 俺はこの世界の中の砂粒のほどの存在、いてもいなくてもそれほど変わらない小さなものだってえことに気付いたのは、ぐるぐるといろんな場所を旅した後たどり着いた、とんでもねえ数の人間がうじゃうじゃしてやがる、ポケモンリーグセキエイ大会でのことだった。人間達がポケモンを戦わせ始め、やれハイドロポンプだの雷だのとんでもねえ技を繰り出しながら喧嘩を始める。人間の言いなりになっているだけのくせして、誰も彼もが俺より強い。なんだってあいつらはあんなに強いんだ。 「いやあ、強いねえどっちも。あんたはどっちが勝つと思う?」 俺がボウズの膝の上で我慢してやっているというのに、のうのうと席一つ分を使って座るスリープは、その野太い声でたずねてきた。 「知らねえやい。俺には全く興味がねえ」 「これ決勝ですぜ。見なきゃそんですわ。この試合が、最高のポケモンと人間を決めるっていうのに」 「この世界の頂点の人間だろう。あのポケモンはお人形だ」 「はあ、でもきっとあの連中はトレーナーについていきたくてついて行ってるんでしょうよ。じゃなきゃあそこまで強くなれませんわ」 いんや。と、俺が反論してみると、スリープの興味はすでに再び動きだしたバトルへと移っていた。こんにゃろう、相変わらずマイペースな奴だ。 バトルを見てみっと、カメックスというでっけえ亀がちっこい電気野朗のピカチュウにやられ、交代するところだった。やっぱり興味ねえやい、と居眠りでも始めようとすると、カメックスを出していた方、元世界の頂点、そして次期トキワシティジムリーダー候補らしいグリーンとやらが、フーディンを出しやがった。その姿は、俺がいつかそうなるかもしれねえ姿だ。 「あんたもやっぱりトップレベルの同属とあれば、見ずにはいられんでしょう」 スリープの声を無視した。俺はあのもの凄く厳かな、誰が何をしても動かないような、どっしりと直立した姿に目を奪われていた。 強いだろうな。 俺がそう思った瞬間、奴はまったく目に追えない速度で移動し、ピカチュウの目の前まで迫りやがる。そのまま一瞬の動作でピカチュウをスプーンで殴り飛ばし、宙に浮いたそいつはそのまま静止した。あれは、サイコキネシスだ。俺がずっと小さいとき、おやじ(フーディン)が俺を人間から守るときに使っていた技で、初めてみたときそれは驚いた。自分も似たような力を使えるってえのに、そのあまりの力の差を不思議に思った。きっと、あのレベルのサイコキネシスに捕まっちまうと、指一本も動かねえだろう。その通り、ピカチュウは先ほどのあのカメックスとのバトルの消耗もあってか、体をピクリとも動かせないままさらに宙に放られ、そのまま地面に落下させられる。あの勢いで受身もとれず落下したとなればもう無理だ。フーディンはサイコキネシスを解くが、やはりピカチュウは動けなかった。 「わあっ、あのフーディン強い!」 「おほっ。すんげえ力だ」 ボウズとスリープが感嘆の声を上げていた。無理もないぜこりゃ。くそ。なんだって人間に従っているだけのくせしてあんなに強いんだ。 「……むかつく。なんで、あんなに強いんだ」 思わずボソっと漏れた俺の言葉を聞いていたのか、スリープがニヤっと笑った。こいつ後でシメる。 「ケーシイもあんな風になれたら格好いいね!」 「…………」 なんだかしらんがチクっとした。
その夜、興奮気味なボウズと、ケツいたいですわあの椅子かたいですわと呟くスリープと、トキワポケモンセンターの宿舎へ戻ってきた。夜寝るときはモンスターボールの中がいいんですわ、とスリープは自分からあの狭っくるしそうなボールの中に入っていき、俺はいつも通りベッドの上、ボウズの横で寝ることとなる。しかしいつも通りには眠れねえ。くそ。何か今日はむしゃくしゃする。どうしたってんだこの野朗。スリープに言われた言葉やボウズに言われた言葉が妙に頭にはっついて離れない。なんだよ。俺が間違っているっていうのか? お人形じゃなくて、本当にあいつらはあのトレーナーにくっついてるっていうのか? ああ、むかつく。むかつく。こんなこと、あの森にいたときにはなかった。だらしなくいつも寝てやがるピカチュウや、ピタピタと地面に絵を書くことが好きなドーブル。えさをとりに来てはやれあそこのニドランがあっちのニドランとくっついたとか、そんなくだらないことを喋ってやがったヤミカラス。ああ、森が懐かしい。帰りてえ、そろそろ帰りてえ。 「んん、むにゃ」 めちゃくちゃ気持ち良さそうに眠っている坊主を見て、俺はむくりと起き上がる。 「……ちょっと散歩してくるだけでえ」 その顔から目を背け、俺はテレポートした。
【四】 夜の町をふわふわと浮かんでいると、ジムやトレーナーハウスといった、強い奴らが集まるらしい建物が見える。ぼんやりそれらを何も考えずに見ていると、トキワシティには凄く強いトレーナーがたくさんいるんだって! といつかボウズが言っていたのを思い出した。……俺もあんなところに入って頑張ってみれば、なんてことが一瞬だけ頭がよぎっちまって、ぶるぶると顔を横に振ってそれをかき消す。俺はバトルなんて嫌いだ。それに、あのボウズもスリープも、申し訳程度にしかバトルなんてやったことがねえ。あいつらは本当にただ世界を見て周ることが目的らしく、ジムにだって入ったことがなければなるったけバトルは断ってきた。それを馬鹿した奴もいた。笑った奴もいた。それはいいねと言った奴もいた。頑張れよと言った奴もいた。いろんな人間が、いた。俺が思った以上に人間っていうのはいろんな種類がいて、俺の思った以上にいろんなポケモンもいた。タマムシシティにゃ、イーブイとかいう巷じゃ人気らしいが、やたらと性格の悪いポケモンがいた。サイクリングロード(自転車とやらは貸し出しだった)に入ろうとしたところにでーんと寝ていたカビゴン。ありゃあ、すげえ。今まで見た中じゃ一番でかいポケモンだった。セキチクシティのサファリパークで見たウツボットの群れに近づいちまったときは、死ぬかと思った。ああ、そういやあそこには歯のない人間もいたな。 「……なんだ。俺、何考えてんだ」 とんでもねえことを考えている気がして、俺は戻ることにした。
【五】 「おや、ケーシイさんじゃないですか。こんなところで会うなんて、こりゃ驚きました」 テレポートを使わずだらだら飛んでセンターへ戻ろうとしていると、突然横から声をかけられた。 「……お? お前、ヤミカラスか?」 「ええ、そうです、ヤミカラスですよ。覚えていますか? 久しぶりですねえ。ああ、懐かしい。あの森でよく喋りましたよねえ」 「本当久しぶりだなあ。お前、今何やってるんだ?」 そういやこいつも人間についていったんだった。つーことはこいつ、バトルやって、ジム行って、もしかして、そうとう強いのか。うわっ、森にいたときはただの軟弱やろうだったのにそれはむかつく。でも、懐かしい。久しぶりに森の仲間に会えてうれしい。森での生活を思い出す。ああ、もの凄くのんびりしてたよなあ。 「私ですか? 私はあのクズトレーナーに捨てられたんで、森に戻ろうかと思ってるんです」 「……捨てられたあ?」 思わず、素っ頓狂な声を出しちまった。ヤミカラスの言葉は、俺の頭ん中を驚き一色に染めあげるには十分だった。 「私のような弱くて格好悪いポケモンは、いらないそうですよ。最初しぶいとか言われて気に入られたのをいいことに、調子に乗った私も悪いんですけどねえ。ニューラとかいうやたらキザな野朗を仲間にしてから、私なんてもうクズ扱いですよ。でもだからってすぐ抜けては癪なんで、私も嫌嫌ここまでついてきたんですけど、とうとうお払い箱になっちゃいました。ああ、本当人間ってクズですよねえ。こんなに連れまわしておいて、お前は弱いからいらないだって。ああ、本当にゴミ。ありゃあ世界のゴミですよ……」 ヤミカラスは最後はもう、顔をしかめながらゴニョゴニョと恨み言を呟いていた。 「……後悔は?」 「なんのですか? ……ああ、ついていったことにですか? しているに決まってるじゃないですか。バトルばかりさせられて、あちこち連れまわされて、まあ無駄に力はつきましたが、それだけですよ」 「……そうか」 ヤミカラスのトレーナと、ボウズを重ねる。そんなことを考えたとき、俺は自分に驚いた。不思議と、きっと怒ったり恨んだりしねえなあ、と思った。いや、むしろ――。 「ねえケーシイさん。あなたもトレーナーに捕まってここまで来たんでしょう? だったら、この辺でそんなのやめにして森へ帰りましょうよ。どうせ人間なんて私らのことをバトルの道具としか思ってませんって。ちょっと好みが変わったり強いのが手に入ると、途端に態度が変わるんですから」 人間はクズ。ヤミカラスの言葉が、俺の頭をつんざくように刺さってきた。ボウズと旅した記憶が、切り取られた絵のように頭にたくさん浮かんだ。ボウズは笑っていた。いつでも楽しそうに、笑っていやがった。スリープもそんなボウズを見るのが好きらしく、ニヤっと間抜け面を歪めて笑っていた。……じゃあ、俺は? 俺は? ――俺は? 「何ぼうっとしてるんですか。もしかして、人間についていくなんて言うんじゃないでしょうね。あんなのについていっても損するだけですって。ケーシイさん、いつもそう言っていたじゃないですか」 「あ、ああ。わかってる」 「うーん、じゃあ明日の昼、朝は眠いんで昼です。北の森の前で待ってますから、来てくださいね。……ああ、ケーシイさんと話していたら、早く戻りたくなっちゃいましたよ」 そう言って、ヤミカラスはパタパタと去っていった。今日は、トキワの森の木にでもとまって眠るつもりだろう。 「明日、ねえ」 小さくなっていくヤミカラスを見ていると、考えるのが億劫だった。
【六】 翌日。太陽の光を浴びながら、一睡もできなかったようなダルさを覚える体を起こす。ボウズは、すうすうと寝息を立てて眠っている。スリープも、多分起きない。それが何故かとても残念なことのように感じる。……だめだだめだ。俺はもう、帰るんだから。 「じゃあなボウズ。ついでに、スリープも」 ボウズの顔をもう一度見ておこうと思ったが、それをやってはいけない気がして、それをやったら何かがどうにかなる気がして、俺はすぐテレポートした。 俺のテレポート範囲なんてたかが知れている。案の定森まで一気に移ることは出来ず、森から大分離れたところに移り、そのままふわふわと浮かんで森へと移動する。だんだんと、森が鮮明になってくる。森への入り口となる木の上に立つ、ヤミカラスが見える。ああ、俺は帰るのか。なんとなく躊躇する自分がいる。このまま、このまま行っていいのか? 結構な期間、俺をひたすら仲間だと信じたあいつらと一緒に旅をしてきたその終わりが、これでいいのか? なあ、おい。俺。どうなんだよ。そんなんでいいわけ? あいつら、クズだったか? 外の世界の探検は、つまらなかったか? 足りなくはないのか? 「あ」 もう、森に着いてしまった。ヤミカラスは、まだ木の上で眠っていた。あいつらが寝ているうちに飛び出してくるのはいいが、くそ、昼までは少し時間がありすぎる。 「……仕方ねえ。こいつ元々夜行性だし、今は寝かしておいてやるか」
【七】 「あんな馬鹿な奴らの顔を一生拝まないで済むなんて、本当せいせいしますよね」 ヤミカラスが起きるのを待とうと木に寄りかかっているといつの間にか寝てしまったらしく、昼近くになって起きだしたヤミカラスが俺を起こしにきた。なんだかやたら元気に、嬉しそうにしていた。 「……一生会えない、か」 「なにぼそぼそ言ってるんですか。さ、行きましょう」 「ああ」 ヤミカラスはぱたぱたと空へ羽ばたき、俺も一緒に浮かび上がる。 「ああ、本当楽しみだ。皆、僕らのこと覚えてますかねえ」 ヤミカラスの後ろについていきながら、ちらっと後ろをふり向くと、トキワシティがどんどん遠くなっていく。 おい俺。どうなんだよ俺。探検は、つまらなかったか? ディグダの穴、面白かっただろう? ポケモンタワー、恐かっただろう? ヤマブキシティ、凄かっただろう? リニアモーなんとかってやつ、乗りたいだろう? まだ行ってないところがたくさんあるよなあ。まだ面白いポケモンがきっといるよなあ。あいつらと一緒に、まだ、旅したいよなあ。今まで旅をしてきて、楽しかったよなあ。あいつらのこと、好きだよなあ。なあ、俺。どうなんだよ。 「……ケーシイさん?」 突然止まった俺に気付いて振り返ったヤミカラスは、怪訝そうにこっちを見た。 「何、やってんですか? 早く行きましょうよ」 「……なあ、ヤミカラス。知ってるか? この世界にゃさ、いろんな人間がいて、いろんなポケモンがいる。中にはクズみてえな奴もいるし、とびっきり楽しい奴だっているんだ。いつも間抜け面してるくせに変なところ鋭い奴や、いつもにこにこしてて世界を探検するのが大好きな奴とか。そいつら、本当に本気で俺のこと信用してやがってよ、隣にいる俺がなぜかいっつも悪者みてえなんだ。その間抜けの奴なんか、最初の条件なんかぜってえ忘れてるぜ」 「へ? 何、言ってるんですか?」 「悪い。俺、森は好きだけど、あいつらのことも好きだ」 まだ、探検したりねえよ。まだ見てないことばっかりだ。なあ、俺。 「なに言ってんですかケーシイさん! そんなのやめたほうがいいですって! 無駄ですって!」 「無駄じゃねえよ。楽しいぜ、探検。森以外に、こんな楽しい場所があるなんて、俺、知らなかったもんな。俺にとっちゃ、この世界はまだまだ未開の地ばかりだ。まだまだ足らねえよ」 「な、なにを……なにを馬鹿なこと言ってんですか!」 「馬鹿か。俺も、昔はこんなことする奴は馬鹿だと思ってたけど、でもさあ、馬鹿でいいじゃん。馬鹿、楽しいぜ」 「なっ!」 「悪いヤミカラス。先、戻っててくれよ」 わーわーと反論するヤミカラスに背を向け、俺は、すぐにテレポートをした。体が軽い。ああ、俺のくせして、なんてざまだ。あんな奴らが大好きなんて、本当、どうかしてるぜ。
【八】 人間ってえのはえてしてポケモンの邪魔にしかならねえ。修正。人間ってえのはポケモンの邪魔にも人間自身の邪魔にもなる。そう確信したのはいつごろだったか、もう、大分前だったように思える。でも、それを再確認したのは、たった今だった。俺が急いでトキワへ戻るとすでにポケモンセンターにはおらず、一体どこに行ったかと思えば、そのまま次の目的地のマサラへ向かおうと南下していた。南下していて、柄の悪い頭がおっ立ったトレーナーに絡まれていた。セキエイ大会一回戦でグリーンとかいうあのアホみたいに強い奴に負けたことにまだむしゃくしゃしていて、ボウズで憂さ晴らしなんつうアホな真似をするつもりらしく、そんな様子を上空から見ていた俺は、バトルなんかからっきしなくせして、迷わずボウズの盾になるスリープの隣に突っ込んだ。迷うはずがなかった。 「あ、ケ、ケーシイ! どこ行ってたんだよ! 探したんだぞ!」 震えた声で騒ぐボウズにすまんと一鳴き入れ、俺はすぐさまスリープの横に並び、へらへらと笑いながらモンスターボールを構えるトレーナーとにらみ合う。ああ、俺達、もうちょっと強くなったほうがいいよなあ。旅とか探検っつっても、ボウズを守れなきゃ話になんねえ。洞窟とか山でいつもいつも逃げてるばかりじゃまずいよなあ。こりゃあやっぱり、あのグリーンとかいう奴のとこ乗り込んでみた方がいいかもなあ。 「お、もういいんかい? ヤミカラスとのお話は済んだんかい?」 俺が戻って来たのがまるで当たりめえかのように、スリープは俺の方を一つも見ずに喋りだした。 「……なんだよ、おめえ、知ってたのかよ」 「ぼかぁ、ゆめくいが使えるんですわ」 「……朝やたら体が重かったのって、もしかして寝不足じゃなくておめえのせいか」 「へっへへ。まあ、硬いこといいっこなしですぜ。今は、こいつをどうにかしないと」 そういえば、いつの間にかこいつの変な語尾も気にならなくなってる。 「一つだけ、提案してやる。俺をもう一度入れてくれるってなら、俺がこの場をどうにかしてもいい」 俺のその提案に、くつくつとスリープは笑った。いつも通りの展開。俺達の自然体。探検仲間の自然体。ああ、いい。こいつら、やっぱり好きだ。 スリープは、今度はちゃんとこっちをふり向いて、口を開く。 「ま、一つよろしく頼んますわ。いつもの通り、やって頂戴」 「がってんしょうち!」 相手はライチュウ。どうひっくり返っても勝てっこねえ。というわけで、いつもの通りやってやらあ! 選択肢は、未だ一つ。スリープの手をとり後ろへ逃走。そのままボウズの手をとって、あらよと発動伝家の宝刀テレポート!
[了]
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Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.9 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:49
- 名前: ギルガメッシュ月光
- Course A 『リスタート』
冒険……その単語に憧れて旅に出て、明日何が待ち受けているのか楽しみながら過ごせる輝かしい時期は、どこに過ぎ去ってしまったのか。 ポケモンリーグチャンピオン……逃げることができない、まるで囚われた牢獄のような場所だ。 深くため息をつくと同時に、部屋の扉がノックされる。 適当に入るよう促すと、入って来た相手は態々律儀に深く腰を曲げ、頭を下げる。
「堅苦しいぞ、年下相手にそんな気を使わないでくれ。で、用は?」 「はい。理事長が、チャンピオンロードF-2エリアの調査をと」 「あのエリアはもう二十七回も行ってるじゃないか。あの爺はどれだけ俺を同じ場所に送って、調査すれば気が済むんだ。ワタルでも行かせておけよ」 「それが、ワタルさんは現在フスベシティに帰還しておりまして」 「じゃあキクコの婆は? 筋肉馬鹿のシバは? 水ポケラブのカンナは?」 「皆さん、諸事情があるそうです」
溜息が出る。 諸事情なんてどうせ私事だろう、四天王は基本的にポケモンリーグが開催されるかバッジを全て集めた者が勝ち抜きを申請して来るまで自由奔放だ。 対して俺みたいなチャンピオンは基本的に常にポケモンリーグに、いや、正確にはセキエイ広原にいなければいけない。 聞くところによればホウエンやシンオウのチャンピオン共は割合自由に動き回っているらしいが、何でカントー地方のチャンピオンである俺はこうまで自由を束縛されているんだ、納得がいかない。 一度理事長の爺に問い詰めてみる必要がありそうだ。最悪チャンピオンなんてすぐ辞めちまえるが、俺が止めることで悲しむ奴だって少なからずいる。喜ぶ奴もいるだろうけど。
「分かった、じゃあ俺は支度があるからもう下がって良いぞ」 「はい……あの、つかぬことを窺ってよろしいですか?」 「何?」 「チャンピオンになられてから、その……覇気と言うか、輝きが感じられません。いえ、バトルの時はそれはそれは素晴らしく輝いておりますが、日常生活において元気が無いと言うか、その……」 「気のせいだろう。俺は今でも十分輝いてるぜ。ほら、右の奥歯とか金歯だし」 「そう言う意味では――」 「ほらほらさっさと出て行ってくれ。さっさと仕事終わらせたいから」 「あ、し、失礼しました」
また頭を深く下げて、スタッフが下がっていく。どうやら他の人間に簡単にばれてしまうぐらい、今の俺は輝きが足りていないようだ。 ボールから相棒のプテラを出して、その背中に乗る。 チャンピオンロードはもはや俺の庭同然の場所で、監視カメラのある場所も把握している。 セキエイ広原方面からチャンピオンロードに入ると、一瞬視界が暗くなるがすぐに目が慣れる。もはや眼を瞑っていてもどこに何があるのか分かるほど、この空間には慣れたものだ。 ポケモンリーグが近づいてることもあってか、チャンピオンロードには所々にトレーナーの姿が見える。 俺には、皆が輝いて見える。ポケモンリーグと言う未知なる強豪と戦える場所、その場所に向かってポケモンと一緒に進む姿。
「……俺には、もう無理なのか?」
自問してもどうにもならないことぐらいわかっている。 俺がまた冒険に出れるとしたら、俺以上のトレーナーが現れて、俺を正面から正々堂々とした戦術を使って叩き潰してくれることを祈るしかない。 もしくは……俺が何らかの原因で死ぬことだけだ。 前者も後者も多分長いことありえないだろう。俺は俺が強いことを自負しているし、それを傲慢だとも思わない。仕方ないんだ、強いものは強いのだから。 非公式に俺に試合を申し込んで来てくれる各地の強敵はいくらでもいるが、何故か俺の心が盛り上がらない。 言っては悪いが、勝って当たり前なほど実力が違い過ぎるんだ。
「これを傲慢って言わずして、何が傲慢なんだろうな……なぁ、プテラ」
他愛も無い会話が、今の俺が自由を感じられる数少ない行動の一つだ。何とさびしいことか。
チャンピオンロードF-2エリア……あの伝説の鳥ポケモンであるファイヤーが巣を構えている場所としても知られている。 そんな場所を普通の調査隊が行けばどうなるかなんて火を見るより明らかだ。ファイヤーなだけに……自分で言ってて恥ずかしくなってきた。 幸いなことにどうやらファイヤーは現在お出かけ中らしい。写真撮って石ころ拾ってさっさと帰るか。 落ちている石を適当に拾う。この辺の石はファイヤーの放つ炎の影響を受けて、特殊な炎の石の効果を持っているものがあるらしい。別にどうでもいいけど。
「……す……て」 「ん? プテラ、今何か聞こえたか?」
気のせい?……いや、確かに聞こえる。 耳を澄まして良く聞いてみれば少しずつだが方角がわかる。真後ろ、天井が崩れたらしく、岩が山のようになっている場所が一ヶ所。 嫌な予感ってのは当たるものだ。近づいて問い掛けてみれば、もはや耳を澄ませなくても聞こえるぐらいの声は聞こえて来た。
「おい、大丈夫か?」 「ひ、人!? お願い助けて! ファイヤーが近くに!」 「落ち着けよ、ファイヤーは今はいない。それにしてもこの落石に巻き込まれて助かるとは強運だな。動くなよ、岩を退かし……おい、冗談悪いにもほどがあるぞ」
地の底から聞こえて来る、腹の底を揺らすようなおぞましく怒気に満ち溢れた複数の咆哮。 嫌な予感しかしない……嫌だけど振り返ってみれば、視界に入って来たのは三匹のファイヤー。 しかもそのうち一匹は考えられないほどでかい。他の二匹に比べれはその個体としての大きさはおよそ2倍強、ファイヤーが複数現れることがある情報は聞いていたが、これほどとは。 どこかの馬鹿が中途半端に攻撃したせいで傷を負っているし、そのせいで怒っている。 最悪の状況だ、大したバトルなんて想定して無かったからプテラとガブリアスしか連れてきていない。さらには負傷者がいる。
「まぁ、普通に考えればこれが適切だよな……プテラ!」
俺の意志を感じ取ってくれたプテラが、破壊光線で一気に岩の山を粉々に吹き飛ばす。 中に居たトレーナーはいきなりの攻撃に驚いて腰を抜かしているらしく、俺が手を差し伸べてもしばらく動かなかったので無理やり引っ張りだしてやった。 多少荒かっただろうか? まあいいだろう。
「プテラ、このお譲ちゃんを運べ。俺は後から追い付く、絶対にこの子をこれ以上傷つけるな」
頷いたプテラの背中に少女を載せると彼女が何か言っていたようだが、そんなもの聞いている余裕はない。 逃げるその姿をファイヤーが追おうとしたらしいが、俺がもう一個のボールからガブリアスを出してそれを止める。 不思議な気分だ。絶体絶命の状況、恐怖が体を支配する状況なのに、何故かこう、懐かしい。 そうだ、これが……冒険じゃないのか?
「そうか……ありがとうよ、三匹のファイヤー。俺はまだまだ、世界を知らな過ぎたようだ!」
セキエイ広原のポケモンセンター、ポケモンリーグに参加する予定……後にチャンピオンとなる少年は、複数のテレビから流れるニュースを見る。
『――つまりチャンピオンリーグのF-2エリアと呼ばれる場所で、現在のポケモンリーグチャンピオンが消息を絶ち、未だに手掛かりが見つかっていない状況が続いており』 『助けられた少女の話によると、三匹のファイヤーに対したった一匹のポケモンで挑んだことが分かっており、その後の消息は』 『さらに後日そのチャンピオンの事務所に何者かが侵入し、ボールといくつかの物品を盗んだことが分かっており』 『ポケモン協会は彼の能力を過信し、必要以上に依存していたことを明らかにしました。さらにチャンピオンの日記には自由意志が少なかったことへの意見が多く書かれ』
セキエイ広原から遥か離れた大陸、その桟橋のベンチに腰掛ける青年は、大空を見上げながら薄ら笑う。
「何だい、なんかいいことでもあったのかい?」 「ん? いーや、別に」 「そうかい。それより船の準備が出来たぞ、乗っておくれ」 「おう、ありがとうおじさん」 「ところ悪魔が棲むって有名なあの島に、何しに行くんだい?」
迷わず答えられる。俺は、このために故郷を出たんだ。
「ん? 冒険」
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Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.10 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:50
- 名前: ギルガメッシュ月光
- Course B 『上辺とやる気は反比例』
日差しがぎらぎらと熱い……一月前まで白かった肌は真っ黒に染まり、上着とズボンを脱げば、パンダの仲間入りをするほど面白いぐらいのツートンカラー。 なのは外で遊んでいる子どもたちであり、家の中で引き籠ってエアコンで冷えた部屋の中に居てパソコンいじっているこの少年とは関係ない。 近場で祭りのせいか浴衣をつけている人やピカチュウのお面をつけている子どもたちが行き交い、水ポケモンが水を発射しては子どもたちが騒ぐ。 五月蠅いことこの上ない。今の時代は海よりネットでサーフィンする方が楽しい。 涼しく適度に乾燥した空間の中でディスプレイを目の前にキーボードを打つことが何と快感なことか。 長々と書いていたとある小説板の企画に投稿する作品がようやく出来上がり、満足げに息をついた少年が Enter ボタンに手を伸ばした瞬間、部屋のドアが猛烈な勢いで開く。
「エルク!」 「くぁwせdrftgyふじこlp;@:!?……あっ」
突然の訪問者に思わずエルクと呼ばれた少年はブラウザを閉じてしまい、三時間かけて書いた小説は一瞬にしてメモリ上から消えてしまった。
「お、おまっ! 俺がアレでこうしてこれまで一生懸命書いて来た何と言うかアレが!」 「っるっさいわね! 一日中部屋で引き籠ってないで少しは外に出なさいよ。晴れ渡る空、輝く太陽、透き通る風……素晴らしい世界が外で待ってるわよ」 「日陰を作る雲すらいない空、紫外線と赤外線を撒き散らす太陽、落ち葉を巻き上げて打ちつけて来る風……なるほど、確かに素晴らしい世界だ」
もうどうでもいいや――エルクはパソコンの電源を切ると、気だるそうに机の横から小さなウェストポーチを取り出す。
「相変わらずネガティブねあんた」 「相変わらずポジティブねあんた」 「兎に角、エルクは今日私と一緒に祭りに出掛ける約束してくれたんだから、約束は守ってよね」 「はいはい守りますよ守りますとも。このエルク、約束を破ったことなど一度も……あるな」 「何度もあるわね」 「シェイナはもう少し約束を守ってほしいな。まだ三分も前じゃないか」 「早く来たんだから良いじゃない」 「この野郎……」 「野郎じゃなくて、乙女です」 「この野郎……」 「野郎じゃなくて、淑女です」 「もう良いよ。ほら、行くんだろ」
半ばやけくそになっているエルクの言葉にシェイナは内心呆れているが、どうやら一応出かける意思はあるらしいので、その点に関しては安心していいだろう。 ベッドの上で寝ていたイーブイが大きく欠伸をするとゆっくりと起き上がり、いつの間にか訪問していたシェイナを見ると、嬉しそうにベッドから降りて擦り寄っていく。 普段自分にすら擦り寄ってこない癖にシェイナには擦り寄りに行くイーブイを見てエルクは小さく舌打ちし、それを聞いたシェイナが悪戯な笑みを浮かべる。
「もしかして、エルクも私に抱きつきたいの?」 「イール、てめー今日の晩飯覚悟してろよ」
イールと呼ばれたイーブイは「俺にはそれぐらいの覚悟はある!」っと言わんばかりの顔をしてエルクの方を見返すと、再びシェイナの足に擦り寄る。 今すぐボールに戻して外に居る子どもたちにバットとセットにして渡したい気分になったが、動物虐待はエルクとしても気分が悪くなるし、何より唯一のポケモンなのだからさすがにバットと一緒はよろしくない。 せめてグローブと一緒が適度なところだろう……エルクの放つ不吉なオーラにイールは一瞬背筋が震えたが、もはや恐れるものなど何もない。 シェイナに甘えなければ、もはやこの家に癒しは無いと言わんばかりに甘える。 さっさと出掛けてしまおう――エルクはゆっくりと歩み出すと暴れるイールをシェイナから引き離し、自分の頭の上に置いて、シェイナに立つよう指示する。
「祭りに行くんだろ? たこ焼きぐらいおごってやるよ」 「あら、意外と優しいのね」 「意外は余計だ」
外に出て少し歩けばすぐに祭りの雰囲気を醸し出す雪洞や綿菓子を持った子どもたち、他で買えば「これ暴利じゃね?」っと言えるようなケチな焼きそばを売っている店、金魚掬いに射的。 個人的には金魚『掬い』ではなく金魚『救い』なのではないかと思っているが、別にエルクは持って帰るつもりも無いので、救うつもりはさらさらない。 頭の上に乗っているイールが器用にタコ焼きを食べているなか、ベンチに座っているエルクは面倒臭そうに両手を組んだ状態で、大きな欠伸をしながらぽつりと座っている。 どうせなら浴衣が良い……っと言って、シェイナが一旦家に帰ったからだ。 十五歳にもなって面倒臭い女だ――イールが爪楊枝から落してしまったタコ焼きをエルクは器用に口でキャッチし、タコの少なさに愚痴を垂れながら飲み込む。
「おいおいこれタコじゃなくてイカじゃねーの?」 「お待たせー」 「おい、これタコじゃなくてイカじゃね?」 「いきなり何かと思いきやタコ焼きの話しか。それよりどうよ、ほれほれ、私の浴衣姿は」 「ん? あーうん、良いんじゃねーの」 「……それだけ?」 「とってもお似合いで」 「その両目を残った二つのタコ焼きと入れ替えてあげようか? 少しはまともにモノを見れるようになるかもよ」 「勘弁してくれ。ほら、さっさと行こう」
突然立ち上がったせいでイールが「突然立ち上がるなこの野郎」っと言う不満な表情を浮かべるが、そんなこと知らんと言わんばかりにエルクは歩き出す。 同じく少し不満そうな表情を浮かべるシェイナが彼の横に並ぶとさり気なく彼の手を取るとするが、少し戸惑ってからその手を引っ込める。
「……ねぇ、一つ聞きたいことがあ――」
俯いていたシェイナが言葉を紡いだ瞬間、左側に合ったバトルフィールドから轟音と共に大きな歓声が起き、全ての音が一瞬にして飲み込まれる。 鬱陶しそうにエルクがその方向を見るとどうやら勝ち抜き大会が行われているらしく、十回連続勝ち抜いた人には商品として貴重なポケモンが贈呈されるようだ。 今の十回連続勝利商品はイーブイらしく、全身の毛の色が灰色の色違い……確かに珍しい。 そして現在の戦いで連続勝利九連勝を決めたらしく、周りの観客からは「あと一勝」のコールがけたたましいほど聞こえて来る。
「強いんだね、あの人。九回連続勝利だって」 「……なぁ、悪いんだけどどこかでジュース買ってきてくれね? 後でイール思う存分触らせてやるから」 「えー、男の子なら女の子の欲しいモノ買って来るものでしょ。何で私が」 「そうだな、俺がガキだからじゃないか」 「ったく。覚えてなさいよ、あんたが大嫌いなドクターペッパー買ってきてやる」 「コーラで頼むわ」
頭の上のイールが「じゃあ俺はペプシ」っと言うように可愛らしい声を上げるが、シェイナは溜息をつくと、ちょっと悲しそうにエルクから離れて行く。
「さて……」
シェイナが見えなくなったのを確認してから、エルクはバトルフィールドのフェンスをくぐる。 挑戦者サイドと書かれている扉をくぐり抜けた先には彼の入場と共にとてつもない歓声が起こり、現在九連勝中の男が腕を組んで正面で待っている。 頭の上に如何にもだらしなさそうに乗った一匹のイーブイに、観客は若干どころか「こりゃもう駄目だ」と言うような、何だか諦めたような空気が流れる。 対して男のポケモンは巨大な体を持つポケモン、ガルーラだ。普通に考えれば、まともに戦って勝てる様な相手ではない。
「おいおい、最後の相手がこんなしけた相手かよ、十戦中最弱が来たなーこりゃ」 「なぁ、あんた。これから十回連続で俺に挑んでくれない」 「はぁ? いきなり何言ってんだ?」 「いやね、あまり頑張ってる姿見られたくないんだよ。それにさ、好きな女には欲しがってるモノ上げるのが男だろ」
頭の上で欠伸をしていたイールの首根っこを掴み、いきなり安眠直前から起こされ驚くイールをバトルフィールドに投げ入れる。
「一勝30秒ぐらいかな。行かしてもらうぞ」
〜〜〜あとがき〜〜〜
さて、私はギルガメッシュ月光です。分かる人は私が誰だか分かるかも知れませんね。 正直言って文字数が危ないし何も言えること無いよ。やべ、このせいで一万文字越えた。削らねーと。
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Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.11 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:51
- 名前: TOM
- Aコース:ワカバの風
ワカバタウンは今日ものどかな風が吹く。
「お願い! ちょっとヨシノシティまで行ってくるだけだから! 危ないことは絶対しないから!」 コトネの眼は真剣だった。 キャップを後ろ被りしボサボサの黒い前髪をいじりながらヒビキは渋い顔で答えた。 「……分かった。そこまで言うならいいよ。ただし――」 「ありがとうヒビキ君!」 かたや二つ結わえた茶髪を振り乱し大喜びで抱きつく少女。こなた石像のように凍り付く少年。 ヒビキにしてみると同い年の幼なじみとはいえ突然こんな行動を取られると気恥ずかしい。 ましてや相手は守ってあげたくなるほど無防備で可愛らしい容貌なのだ。動揺を声に表さないようにするのは至難の業だった。 「じゃ、じゃあマリルを……あ、そうだ……少し待ってくれるか?」 「うん!」 コトネは勢い余って脱げた赤いリボンのついた白いキャスケットを拾い上げ、無邪気な笑顔を見せた。
さわさわと揺れる青い草むらがどこまでも続いているようだ。 ヨシノシティへと続く29番道路に一歩踏み出したコトネは感動の余り突っ立ったまま身を震わせていた。 「夢みたいっ……」 コトネは幼い頃からこうしてポケモンと一緒に街の外へ出ることにずっと憧れていた。 自分のポケモンが欲しくてたまらかったが捕獲しようにも街にはモンスターボールを売っている店がなく、 バトルをしかけようにもそもそもポケモンを連れていない。こんな調子ではポケモンが手に入るはずもなかった。 「ちょっと強引だったけど……マリル、今日一日は私がパートナーよ!」 「り〜る〜」 間延びした声で答えるマリル。 「ドキドキするっ! ポケモンと一緒ならどんな所に行くのも探検気分ね!」 コトネはニコっとして歩き出す。風が心地よい。 がさっ、と右前方の草むらが揺れる。鼻をひくつかせひょこっと顔を覗かせたのはコラッタだ。 「見てマリル! コラッタよ、かっわいい!」 突然声を上げたコトネに驚いたのか、コラッタはぎょっとして引っ込んでしまった。 「あぁ逃げちゃった」 舌を出すコトネ。マリルは見上げながら尾を揺らした。ヨシノシティへの道のりは続く。 「……ねぇマリル」 「りるるぅ?」 「あのね……あ、オタチの親子!」 木の枝から見下ろしていたオタチ達は一列になって幹を駆け下りると草むらへと消えた。 「子オタチ、ちっちゃかったね」 マリルは皿のような耳をくいくい上下に動かしてから頷いた。 名も知らぬ雑草の花が風に揺れる。 「ポッポみっけー!」 目にも留まらぬ速さで飛び去る影。コトネはぽつんと立ったまま足下に目を落とした。 「……なんだか、さけられてるみたいだね」 「りるる?」 「……ねえ、マリル。マリルはヒビキ君のことが大好きだよね」 「るりるりぅ!」 「うん。そうだよね。いいなーヒビキ君」 風が吹く。 「私はヒビキ君の友達。マリルはヒビキ君の友達。だから私達も友達だよね」 「りーるう」 「でも全然知らないポケモンと……私、ちゃんと仲良しになれるかな?」 マリルは円らな黒い目でじっとコトネの顔を見つめた。
「なんか私、変! マリルと一緒にいるのが嬉しくって、でも……あーもう!」 コトネはマリルを抱き上げた。そしてやや硬い青い体毛に顔を埋める。その時だった。 「……!? マリル、あなた……」
「おう、どうした? 随分早―――」 「大変よ、ヒビキ君! マリルが、マリルが!!」 マリルを抱きかかえたまま血相を変えて家に飛び込んできたコトネの姿にヒビキは狼狽えた。 「何があったんだ、コトネ!?」
「マリルの体から雑巾みたいな臭いがするの!」 「……え?」 「早く洗ってあげなくちゃ! お風呂場お借りしまーす!」
突風のように立ち去ったコトネ。玄関に取り残されたヒビキは一人呟くのだった。 「コトネが襲われないようにこっそりマリルに虫よけスプレー吹き付けておいたけど……余計だったか?」
ワカバタウンは今日ものどかな風が吹く。
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Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.12 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:51
- 名前: ちぎっては投げちぎって鼻毛
- Bコース「身も震えるほど」
「わざわざ連れ出してくるんだから面白い話しないと承知しないわよ」 「大丈夫だって。今日は面白いホラーの話を用意したから」 「あんたの釣りの話は聞き飽きた」 「それは鯔(ぼら)。あと俺が釣ってるのはブラックバス」 「赤バスでも市バスでもなんでもいいからちゃっちゃと初めてよね」 「はいはい。十六年前にあった話なんだけど」 「あたしらが二歳くらいね」 「ちょうどこのお祭りのときに自殺した女の子がいるんだ」 「それで終わり?」 「始まってもないない。その女の子は小学二年生で」 「小二といえばあんた小学校で金魚の入った水槽落として割って金魚殺してたよね」 「いちいち茶々入れんなって。しかもそれやったの俺じゃないし」 「そうだっけ? それで金魚がなんて?」 「金魚じゃなくて自殺した女の子! その女の子、両親にも友達にも恵まれていたんだけど」 「それで?」 「夏休みに入ってすぐに女の子のお父さんとお母さんが喧嘩して離婚しちゃったんだ」 「離婚した原因は?」 「喧嘩だっていったじゃん!」 「お墓に花を供えるのは?」 「献花。って同音異義語じゃん。さっきから会話の腰折りすぎ。そんで離婚した両親なんだけど、お母さんが親権取ったの」 「真剣に」 「それは知らんけど。その女の子の家はお父さんが実業家でお金持ちだったんだけど、母方に引き取られたから暮らしがきつくなってお母さんも働き出したんだ」 「パートなら宝くじ売り場オススメ」 「だから知らないって。そんでまだ小二の女の子は急に父親がいなくなり、母親も仕事でいないし帰ってきてもやさぐれて女の子の相手してくれなくなって、しかも最悪暴力を振るうことがあったんだ」 「ねぇ、あっこの縁日の屋台のたこ焼きおごってよ!」 「聞いてるの? まあ俺が連れ出したからそれくらいはいいけど。……はい」 「ありがと」 「……それで、家の中で一人ぼっちになった女の子だけど」 「便所飯を始めることにしました」 「ちげーよ! 茶かしすぎだよさっきから! 家の中では一人ぼっちな上に母に殴られて辛くなったけど友達と遊べばそうじゃなくなると思って、遊ぶことにしました」 「あふっ、このたこ焼きはふっ!」 「はい水。……そしてその遊ぶ日がこのお祭りの日。友達数人と一緒に来た女の子だけど、周りの友達はいつもと違う女の子に対し怪訝な目を向けたんだ。なんでと思う?」 「たこ焼きのソースが少なかったから」 「自分の話じゃん。女の子関係なさすぎ」 「便所飯」 「ちがーう! 答えはお金がないこと。……実は友達のお母さん達が、ずっとその友達らに向かって女の子の家はお金持ちだからなんでもおごってもらいなさいとかいうことを吹き込んでいたらしくて、それでいつも女の子におごらせていたんだけども女の子の両親はもう離婚して貧乏になったから当然おごってもらえなくなる」 「便所飯を」 「何をおごってるんだよ……。っていうかそのネタしつこい」 「じゃあ」 「言わなくていいから」 「要するに友達は女の子を金づるにしてたんでしょ」 「そうそう。そんで何もおごってくれない女の子に対して周りの友達は『あんたなんかいらない』的なこと言って女の子から離れていったんだ」 「……」 「母にもひどい目にあわされ、友達にも離れられて絶望した女の子は、泣きながら川に見投げしたらしい。それからこの祭りで幸せそうな人を見ると羨ましさ余って『私も混ぜて』と声をかけるらしい」 「私も混ぜて……」 「ぬわっ! なんだお前かびっくりしたぁ」 「ビビり過ぎ。その話もどうせ昨日寝る前にでも作ったんでしょ。なのに驚くとかほんとバカね」 「……」 「あたしを祭りに連れ出す口実なら普通に祭り行こうって誘ってくれればいいのに何が『面白い話あるから聞いてくれ』、よ。バカ。ん!」 「?」 「このたこ焼き一個はあげるわ」 「払ったのは俺なんだけど……。あぁ確かにこれソース少ないね」 「あらかじめ祭りに行こうって言ってくれたなら浴衣くらい出してもよかったのに……。それに話もおもしろくないし」 「なんかごめん」 「ごめん? ごめんで済むと思ってるの?」 「え」 「こうなったら出店の食べ物コンプリートしてやる。もちろんあんたが支払うのよ」 「そんな無茶な。そんなんじゃじさ―――」 「お金出さないから自殺するとか芸のないこと言わないよね」 「うっ……」 「ほら、行くわよ」 「鯔?」 「それはもういい!」
話的にはこれから祭りが続く感じにしたけどギャグの方ではオチついちゃいました
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Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.13 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:52
- 名前: タニシになりたい
- 『祭りとポケモン方程式〜ロマンスは突然に〜』
「Bコース」
「祭りってさぁ、ポケモン関わってるとこ少ないよな」
突然おもむろにそんなことを言い始めた黒いノースリーブにハーフパンツの少年に、その隣にいた水色で金魚がプリントしてある浴衣を着ている少女は彼に目を向けた。 そして彼女は何を言っているの、と言った感じの視線を彼に向けて、こういった。
「盛大に関わっているじゃない、お面屋なんてポケモンしかおいてないわよ、……どこまで続いてるのかしら、まさか全部そろっているわけは……」 「いや、お面はさ、関わってるけど、金魚すくいとかいろんなところでもっとこう……」
などと言いながら、屋台の明かりで暖かなオレンジ色に染まる通路を並んで歩いていた。 人が多いがそこまで進めないほどではない、先の露店が見えるだけまだましなほうだ。 そんな中を二人はさまざまな露店を見ながらとことこと歩いてはいるが、別段どの店によるわけでもない。 右左には露店が並んでいるが、右側はずっとお面屋だ、どこまで並んでいるのかは定かではないが、こんなにあっては目的のお面ひとつ買うのにも盛大に苦労がかかるだろう。
「金魚すくいでどうやってポケモンを入れるわけ?」 「トサキントを入れる!」
ためしにきいてみた少女に、彼は一寸の曇りもないいい笑顔でそのように答えた、少女はとりあえず金魚すくいの露店にトサキントを導入した想像を働かせると言う演算をいたって冷静な心持で繰り広げ、ある程度考えてから一言言った。
「貴方はポイの代わりにテニスラケットを持ちたいの?」
少年は顎に手を当てて神妙な顔つきで考え始めた。 そして数秒後。
「ああ、俺はそれで構わないぜ!」 「そう、貴方らしいわね」 「それほどでも」 「褒めてないわ」
そんなやり取りを流れるようなリズムで繰り広げて、何だ褒められてないのかと少年は少し残念そうにしていた。 そしてその数秒後、少女が話を戻す。
「ああ、トサキントの角で襲われる人も出てくるかも、人を襲ってアズマオウに進化したら大変ね」 「人を倒して経験値はいるのか? とりあえずかかって来いっって感じだな、俺は受けて立つぜ!」 「そう、とても貴方らしいわね、今度川にほうってあげる」 「おう、よろしく頼む」
そのような会話をまた繰り広げて、どうしたらこの人は危機感を感じるのかしら、と彼女は内心ため息をついた。 彼は相変わらず祭りの雰囲気にわくわくしながら進んでいって、彼女は途中にある露店に目を向けて、何を買うか迷っていたようだった。 突然彼は、また何かネタを思いついたのか彼女に話しかける。
「そうだ、どこかの祭りでは鮭のつかみ取りがあるって聞いたぞ、それに便乗してドジョッチの掴み取りとか!」 「ぬるぬるしてとれたものじゃないでしょう、そうね、ギャラドスとかどう?」 「俺的にギャラドスを引きずれる人間がいたら見てみたい」
その言葉を聴いて彼女はそういえばそうね、とつぶやいた、聞く前からわかっていたような口ぶりだった。 そうして彼女はクレープを食べることに決めたのかクレープの店屋で止まって、一つ頼んだ。 その間に彼はたこ焼きを買ってきたようだが、お互いに別々の物を食べながら人の多い道を歩く。 この祭りは元は神社を祭るためのものなので、歩いていけば自然と神社に着くようになっている、ちなみにお面屋は神社までつながっている、とてつもない長さである。 神社を祭るお祭りだなどといっても誰も神社を祭るわけでもない、神社まできたら人々は引き返していく。 そんな中少年と少女は神社の前に来てやっぱり祭ったりありがたがったりするわけでもなく縁側に座って休んでいた。
「お祭りに来ると疲れるわね、普段は歩いただけじゃこんなに疲れたりしないのに」 「人に酔ったんじゃないか? しばらく休むか」 「……もうすぐ花火が始まるわ、ここからじゃきっと見えないでしょう」
彼女は少年に浴衣の袖を少しまくってその下にある腕時計を見せた、針は七時五五分を指している、時間的に花火が打ちあがるのは八時かららしい。 少年は少女の腕時計を見て、少しうなった後、思いついたように言った。
「俺のエアームドで神社の屋根に上るか!」 「罰が当たっても知らないわよ」
ため息をついてあきれたように言う彼女に、少年はまた曇りのないいい笑顔を向けた。 彼女はその表情を見て、不思議そうに首を少し傾けながら彼を見つめる。
「お前が辛くなるくらいなら罰にでもあたってやるよ」
なんともないようにそんな台詞を平然と言うので、これにはさすがに彼女も堪えた。 馬鹿だとかあほだとかの次元を通り越してもはや恥ずかしさしか残らない。 そして七時五十八分を時計が指したころ、彼は立ち上がって背伸びをしてから、モンスターボールを取り出して、彼女にそっと手を差し出す。
「ほら、行くぞ、花火見たかったんだろ?」
彼女はため息をついてから、微笑を浮かべて手を伸ばし、彼の手をとった。
「ああ、花火見終わったら祭り第二段に出動するからな!」 「わかったわかった、どうせ今年もあれをやるんでしょう」 「俺の祭りはそこから始まる!」
「夏のパン祭りポイント三十ポイントと露店三回ただ券をかけたポケモンバトル大会!」
あとがき 続き……、気になるのか? とりあえず祭りにポケモンを盛大にかかわらせてみたかった、ただそれだけですすいません。 最近はポケモンの数が年々増えていってとんでもないことになってきていますね、ポケモンを取り扱うお面屋さんは大変なことになってきますね。 あれ、ロマンス、ロマンスはどこに行った?
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Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.14 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:53
- 名前: 一号
- ★目次
敬称略。 タイトルがないものは本文最初の1文節が書いてあります。
>>1【Bコース】『マサゴの灯』 うぱぁ
>>2【Bコース】『星にまつわるエトセトラ』 乃響じゅん
>>3【Aコース】『暗闇は人を……』 挽きたて珈琲豆
>>4【Aコース】『とある秘境での出会い』 Rという名の作者
>>5【Bコース】『あなたのおなまえなんですか?』 夏花火ロリコン仕立て
>>6【Bコース】『哀色の魂』 円
>>7【Aコース】『旅立ちは潮風と共に』 Rという名の作者
>>8【Aコース】『未開見たいテレポート』 さささ
>>9【Aコース】『リスタート』 ギルガメッシュ月光
>>10【Bコース】『上辺とやる気は反比例』 ギルガメッシュ月光
>>11【Aコース】『ワカバの風』 TOM
>>12【Bコース】『身も震えるほど』 ちぎっては投げちぎって鼻毛
>>13【Bコース】『祭りとポケモン方程式〜ロマンスは突然に〜』 タニシになりたい
>>15【Bコース】『僕の防波堤』 ゲシュタポ
>>16【Bコース】『お祭りワッショイ!!』 Rという名の作者
>>17【Aコース】『escape "シュー"』 JDM
>>18【Bコース】『STADIUM』 南瓜
>>19【Aコース】『ソングフォーマイファーザー』 あちゃもとあらい
>>20【Bコース】『さよなら花火』 がぶりす
>>21【Aコース】『鎮霊祭と小さな夜の冒険』 紅蓮
>>22【Bコース】『ポカブツタージャ、そしてミジュマル』 あいうえおちあいくん
>>23【Aコース】『あの夏をもう一度』 雑食仕様
>>24【Bコース】『楽しめ、四回目の花火大会』 Rという名の勇者
>>25【Bコース】『時間の気紛れ、空間の悪戯』 Rという名の作者
>>26【Bコース】『君は死人に何を見るか』 ノルスタルジー将軍伍長
>>27【Aコース】『残りものには毒がある』 ターケーシ
>>28【Aコース】『今日から頑張る』 とあるRの白黒神話
>>29【Aコース】『子ども発大人行き終点はありません』 コップ
>>30【Aコース】『バケモノ、それは冤罪につき』 Rという名の秋桜
>>31【Bコース】『反抗期計画』 Rという名の牛丼
>>32【Aコース】『Unknown village』 kagero
>>33【Aコース】『ユーアンドアイ、愛』 でんぐりがえり
>>34【Bコース】『#8 その後の話、御祭騒ぎと神隠し』 きぃぺ
>>35【Aコース】『帰る場所』 モソソクルッペェ!
>>36【Bコース】『君へ伝えたい、でも、』 こんにちは
>>37【Bコース】『わたし、わたし、わたし。』 きゃんでぃー
投稿36作品中、Aコース17作品 Bコース19作品
★間違いがあった場合はご連絡ください。 ★不明と表記された作品の作者はその作品を編集してコースを明記してください
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Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.15 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:53
- 名前: ゲシュタポ
- Bコース「僕の防波堤」
――祭りは僕らを助けない。提燈の明りは僕らを照らさない。僕達は、祭りの跡の、少し切ない、終わった光景しか、見ることができない。……もう一度言う。僕らは、終わった光景しか見ることができない。 …………。……。……。………………。……。…………。 笹川さんが、自殺した。 屋上から飛び降り、その姿がどうなっていたかなんて言いたくないくらいの姿となった。それは間違いなくショッキングな事件で、学校中のありとあらゆる人がこのニュースに怒り驚き悲しみ憎み蔑み楽しみ、また町の人も同じように色々な方向に揺さぶられた。主にこの事件で被害を被ったのは僕であり、もし僕以上に迷惑をした人がいるなら名乗り出てほしいくらいである。この事件がこれほどに大きくなった理由、僕の迷惑とは、遺書にある。遺書が騒動を大きくした理由の大半を占める。その遺書には、こう書いてあった。 「辛いです。もう生きていくことはできません。それと、伊坂悟(いさかさとる)君。迷惑かけてごめんなさい。どうかお幸せに」 いじめをうけていた彼女が、いじめていた人でもなく、世話になった親や兄弟でもなく、僕の名前を書いた。彼女の机に遺書が入っていたため、僕はあっと言う間に有名人となってしまって、迷惑とは思ったが、しかし不幸だとは思っていない。むしろ、喜ぶべき部分もあるだろう。というのも、僕は笹川さんに、彼女が死ぬ一日前に告白されているのだ。屋上で告白されて、僕はそれを断った。そしてその翌日、笹川さんは自殺した。好きだと言ってくれたことはうれしい。でもそれを僕のせいみたいにして死ぬのはあんまりじゃないか、と僕は思う。自殺したくなるほど好いてくれたのは嬉しいが、本当に自殺してどうするんだ。これは、笹川さんの叫びを聞かなかった、聞けなかった、聞こうとしなかった、僕が悪いことになるのだろうか。ちなみに僕は、今後悔している。自分が悪いと思っている。思ってしまう。あのとき告白を受けていれば彼女は死ななかったかもしれないと、考えてしまう。いじめられていた笹川さんと、これまたいじめられている僕とのカップルなんて、いじめのネタが増えるだけだ、と思って断ったのはやはりまずかったのだと。……なあ、笹川さん。なんでよりにもよって僕なんだ? 助けを求めるなら、僕じゃだめだったんだよ。いじめられている同士で手を取り合って頑張っていこうなんて、無理に決まっているんだから。僕と笹川さんが集まったって、1に1をかけているようなものだ。 「笹川さん、いじめって、辛いよなあ」 言っても、もう彼女はいない。ぐしゃぐしゃである。僕は告白してくれた彼女を突っぱねるのではなく、友達として、相談にのることくらいすればよかったのだ。彼女が既にあのとき自殺を決めていて、もう僕にはどうしようもない状況だったとしても、何も変わらなかったのだとしても、僕はそれをやるべきだった。人としてそれを察し、行動するべきだった。そうしなかったのは、今の自分の状況がもっと辛くなるのを嫌った、他人への配慮のできない僕の冷たさであって、それは僕も彼女や僕をいじめている奴らと何も変わらないということだ。結局、自分のことしか考えていない。同じ状況の笹川さんを身捨てて、被害者面をしているんだ僕は。見苦しいにもほどがある。ましてや辛いから、僕も辛いから自殺しようだなんて、身勝手にもほどある! いじめに屈して僕に見捨てられて死んだ彼女に僕ができることは、彼女の存在を背負うことにあるのではないのか。見捨てました。僕は最低な人間です。と頭を地面にこすって謝って、それでも無様に生きていく事に意味があり、それでやっと彼女に許してもらえるのではないか! 僕自身がいじめられているとかどうとかではなく、彼女の死の責任を少しでも負ってしまったなら、それくらいのことをする義務が発生し、そこでやっと僕は今以上に、真に命の重みを知ることができる。彼女の死が、彼女が僕に告白するその日に自殺しようと決めていた僕を思いとどまらせ、まるで僕の身代わりになるかのように死んでいくなんて、あんまりだ。彼女の死が、僕の命を繋ぎとめるだけに使われるなんて、あんまりだ。 「笹川さん。君の死は、重すぎる」 だからこそ! あそこに名前を書かれた僕だからこそ! おこがましいかもしれないが、彼女の家族と同じように僕は彼女の命の重みを知ることができる。よって! 僕が死ぬことなど許されない。いや、僕が僕を許さない。彼女の死が、いじめに屈してまるで僕の身代わりになったかわいそうな女の子ではなく、それ以外の何かになるように僕は生きていかなければならない! それが、僕の今の生きる理由であり、生きなければならない理由であり、いじめに対する防波堤である。 「僕は、生きる」 死ねと言われても、僕は生きる。無様に泥をすすってでもなんでも、僕は生きる。彼女の十字架は、僕が背負って生きていく。彼女に好かれた僕が、背をわなくちゃいけないものなのだ。 「さ、帰るか」 僕は、校庭の端にある木にかけてわっかを作ったロープと台を回収し、もってきたビニール袋に詰め直す。この地域恒例の、学校を使った盆踊りの跡のこの荒んだ光景が、僕の人生のようで、これからを暗示しているかのようで、僕にこそふさわしい光景だった。生きるのは、大変だ。けれど、生の果てにある扉をあけたとき、この十字架を背負っている本当に意味が、結果が、彼女の死の意味が、何かがどうなるかわからないけれど、何かがどうにかなるのを待つしかなくて、それが僕の生き方であり生き様となる。 「辛いです。もう生きていくことはできません。それと、伊坂悟君。迷惑をかけてごめんなさい。どうかお幸せに」 死をもって彼女からもらった言葉は、永遠に、僕の中で、息づいていく。
[了]
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