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ポケノベ2010夏企画
日時: 2010/09/06 22:41
名前: 一号

☆あいさつ
 2010年度夏企画の季節がやってきました。今まで企画に興味がない人も是非参加してもらえたらなと思っています。

☆企画概要
 短編小説を書いてその完成度を競います。


☆作品投稿ルール
★守ってね
・基本的に規約や常識を守った文章を書くこと
・他の人が書いた文章のアイディアを無断で使用しないこと
・基本的な投稿の仕方については下記を参照のこと
●投稿するレスに書かなきゃいけないこと
@「タイトル」
A文章
・作品の後のアピールや質問文は付けてもなくても構いません
BAコースかBコースか
・トビ様が分かりづらいんで、タイトルは原則「コメント」のところに書いてください
・AかBかは作品の最初及び最後に分かるようにしていただければいいです
>規約に反している文章とは
・宣伝行為
・度が過ぎて性的な文章
・度が過ぎて暴力的な文章
(度が過ぎて、の判断基準はこちら側で決めさせていただきます)
★してもいいよ
・ネタ・ホラー・ケータイ小説系・推理・パロディなんでもこい><
・エロもいいけどほどほどにな。
・文章形式もHNもこのスレだけは自由です。
・企画なので、ポケモンを扱った文章でなくてもかまいませんし、いくつ投稿してもオッケーです。
※このルールは住人の希望や管理側の意図で変える事が出来ますのでご意見あればこのスレに書き込んでください


★期間
・テーマ発表期間
 7月23日〜7月30日
・作品投稿期間
 7月31日〜8月21日
・人気投票期間
 8月22日〜9月1日
・スレッドロック
 9月2日以降
※管理者とトビ様の都合で変更する場合があります
※テーマ発表期間内ではスレッドをロックさせていただきます。


☆テーマ
Aコース
 「探検」
 夏と言えば……というには遠いけどポケモン大好きクラブ的には夏っぽいので。探検を題材にした話を書いてください。またポケモンを必ず登場させてください。

Bコース
 「祭り:続きが気になる短編」
 夏と言えば定番でしょう。祭りを題材に話の続きが気になるような短編を書いてください。ポケモンの登場は強制しませんが、出来れば登場させてもらいたいです。

 小説の長さは1レスで終わる程度(約一万字)でお願いします。


目次 >>14
AB別の目次 >>39
投票について >>38
投票&感想のレス >>40-
投票結果>>55
メンテ

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Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.16 )
日時: 2010/09/06 22:54
名前: Rという名の作者

『お祭りワッショイ!!』


「はぁ〜、やっと帰って来られた。今年は間に合わないかと思ったけど、何とかなるもんだな」

 ジョウト地方、ワカバタウン。俺の生まれ故郷でもあるこの町では、もうすぐお祭りが開かれる。どんなに遠くに行っても毎年この日には帰って来て、祭りに参加するのが俺の数少ない楽しみである。
 今年は北のシンオウの方まで足を伸ばしたから危うくこの日に間に合わなくなるという危機に陥ってしまった。
 まぁでも、そこはかつてはリーグチャンピオンとも互角に戦うことも出来た程の腕を持つ俺の実力で、何とかなったんだけど。ちなみに互角に戦う事が出来るだけで、勝てるという訳ではない。それももう数年前のお話だし。

「ばく〜♪」
「お前も楽しみか、バクフーン?」

 俺と一緒に旅立ち、ずっと一緒に旅を共にしてきたバクフーンも、とてもウキウキとした表情だ。
 普段はキッとした表情で旅を支えてくれるエースであるが、やはり毎年恒例のこの祭りだけは外せないらしく何度も先を急がされて大変だった。
 まぁ今回はシンオウまで行こうと決めた俺にも非はある。次はもう少し近場にしないとな。

「くぁ〜……あふ」
「あはは、ルクシオはあまり楽しみじゃないみたいだな」

 シンオウの旅路の時に仲間にした新入り、ルクシオはいつもぶっきらぼうでそっけない。
 でも星飾りがついた尻尾は正直で、今もブンブンと振っている。多分とっても楽しみなのだろう。
 自分では分かってないらしいので、普段は彼のご機嫌を損なわないように気付かないふりをしている。正直者じゃないんだから、全く。

(しかし、お祭りとは言っても所詮田舎町の小さなお祭りですよね? 何故旅を中断してまで参加するんですか?)
「ガキの頃からずっと参加してたから、参加しないと調子があがらないんだよエルレイド」

 非常に現実的で無愛想、故にチームにも溶け込まず一歩後ろから俺たちを観察するように見る。そんなタイプの手持ち。シンオウの旅路の時に進化した。
 これでもキルリアの頃はもう少し可愛げがあったんだけどなぁ。まぁ協調性に欠けてはいるけどチームには欠かせない戦力であることは間違いない。
 ちなみに彼だけはテレパシーによる会話が可能なので、時折野生のポケモン達の通訳を頼むこともある。
 他にも仲間はいるが今は皆実家に預けているため、この三匹で旅をしている。他のみんなはちゃんと母さんの言うことを聞いていい子にしてるかな? 会うのがとても楽しみだ。

「さぁって、そろそろ行くか! ……って、あれ?」

 気がつくと、いつの間にかバクフーンとルクシオの姿が見えない。あいつら、どこに行った?

(あの二匹なら、さっき町の方へ走っていきましたよ。よほどお祭りが楽しみだったのでしょうね)
「で、何でお前はそれを止めなかった?」
(別に止めた所で何かメリットがある訳でないし、それに主人を一人残してしまったら野生の奴らに襲われて一巻の終わりですよ?」
「あーはいはい、俺の負けですよ全く……」

 頭も切れるから、こういう口喧嘩でも勝てたためしがない。全く……あいつらもう少し落ち着けよなぁ。


    ==================================


「先輩、いいんですか? 主人を置いて来ちゃったりして」
「いいんだよ、どうせエルレイドが残ってくれるだろうから。あいつこういう事は物わかりがいい方だから」

 ずっとずっと楽しみにしてた祭りだ、こればっかりは外すことは出来ない。
 それこそヒノアラシの頃からずっと参加していたお祭りなんだ、参加しなければ今年一年元気に旅が出来ない。
 あぁ、今から楽しみだなぁ、オクタン焼きにチルット飴、あとコガネ焼きやチェリンボ飴も捨てがたいよなぁ……。

「先輩、前」

 ルクシオの声で気付いたときには、目の前に木が立ちふさがっていた。無論、正面衝突してしまった。
 つい声を出してしまったけど、一体なんて言ったのか分からない。分かるのは、鼻のあたりがもの凄く痛いと言うことだ。……アウチ。

「うごごごご……」
「なにやってんですか」

 そんな目で見ないでルクシオ、不慮の事故だったんですよ……。
 ふと視線をそらすと、何かが見えた。一体何だったのかはよく分からない。だけど、何かの姿を見たのは確かだった。

「あれは?」
「ちょ、先輩、どうしたんですか? 町はそっちじゃないですよ!?」

 気のせいだったかも知れない。だけど、どうしても気になった。どうせ小さい頃から知ってる場所だ、少しそれた所ですぐに引き返せる。
 このときは、そう思ってた。だけどそれが、とんだ災難に巻き込まれる羽目になるとは……この時は考えもしなかった。
 今はただ、自分が感じた疑問を解決したい、その一心だったんだ。

 ただ、それだけだった。




〜後書き〜

Bコースにて、お祭りにいくはずが……というテーマでお送りしました。これからどうなるかは、実は全く考えてないのです(爆)
諸事情で違うパソで書きましたが、いやぁ使いづらいのなんのって。
もー少し書いといた方がよかったかなぁ。まぁ、いいか。
でわ!
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.17 )
日時: 2010/09/06 22:54
名前: JDM

A『escape "シュー"』


 外の世界を始めて見た。
 と言えば滑稽に聞こえるだろうが、彼にしてはそれはそれは非常に大きい出来事であった。
 彼の両親はロケット団と名乗る黒い服を着た奇妙な男達に捕らえられ、そのロケット団の施設に無理やり連れてこられて実験動物となっていたところ出会った。そしてその二匹によって産まれたのが彼。両親どちらとも薬物を使った危険な実験の被験者だったが幸いにも彼自身は奇形児などにもならず普通のコラッタとして産まれて来たのだった。
 しかし産まれたばかりの彼もすぐに団員に捕まり、両親とは離れさせられて檻の中で育てられた。
 後に両親が実験中に亡くなった話を聞いたが想い出はもちろん会ったことも何もない彼にしては両親はあくまで彼を産み落としたツールでしかなかったので何の感慨にも浸らなかった。かろうじてああ、誰かがまた死んだのか。という程度だった。
 しかし今日、彼は初めて両親の事を想った。コラッタかラッタかさえも知らないがあんな壮大な世界にいたことが羨ましかった。
 脚力強化の注射を射たれるために檻から出されて実験場に連れていかれた時にちらと、この施設には少ない窓から外が見えたのだ。青と白が混ざったいわゆる『空』は、灰と黒の天井や壁しか見なかった彼の心に衝撃を与えるには十分過ぎた。
 そして彼は決心したのだった。
 心が壊れてしまう前にここから脱出してしまおう、と。



 彼にはルームメイトが二匹いた。ルームと言っても檻のことだが、ずっと一緒にいるロクでもないやつらだ。
 一匹はアーボ。彼が幼い頃は冷静で狡猾だったが、実験を重ねていくうちにどんどん精神が破壊されて目の前の快楽だけを望むだけの愚かな存在になってしまった。実験されるのが好きというのだからもうどうしようもない上にこいつとの意志疎通も難しい。
 そしてもう一匹がドガース。人の悪態を突くのが好きだったこいつも唐変木で物事を深く考えることもなくなった。
 かろうじて彼だけはまだ正常な精神を保っている。というのも、彼はまだ被験数が少なかったのだ。なぜならコラッタなんて文字通り腐るほど転がっているのだから。
 しかし明日は我が身、ルームメイトのようになりたくない、そして僅かだが見たあの外に出てみたいと思う気持ちが彼の決断を後押しした。

「ここを出たいと思う」
 夜、彼らポケモンだけにしか分からない言葉で彼が切り出した。
「アヒャヒャヒャヒャ! ついに天下のコラッタ様も気が狂っちまったかァ? 探検ごっことはまだまだお子様だねェ」
 アーボが開口一番に奇声を発しながら彼を嘲笑う。彼はその言葉を聞かずに嫌悪感だけは受け取った。
「お前ももちろん俺たちだって出口を知らない」
 まだ隣で笑い続けるアーボと違ってドガースは呆れていた。
「それは逃げながら探す」
「アッヒャッヒャッ! 今の聞いたかドガース? 夢は寝てる時に見るものだぞコラッタよォ?」
「そうだ。それに逃げたとしてもどうする。外に行っても独りだぞ」
「探検してみたいんだ。ここにいてもゴミのような日しかない。だったらせめて外へ……出てみたいんだ」
「アッ、アッ、アッーヒャッヒャッ!」
 アーボが過呼吸になるほど笑い出した。彼はそのまま呼吸が止まれば良かったのにというようなことを思った。
「いくらお子様だからっていい夢見すぎだぜもう笑うしかないぜアヒャヒャヒャヒャ」
「……いや、俺もコラッタと同感だ」
 ドガースが今日はまともだなと彼は思った。そのドガースの目に生を感じたからか。
「俺ももう実験なんてこりごりだ。俺は逃げ出したい!」
「あァ? ついにてめーのガスみたいな頭もイカれちまったかそうかよかったなアーッヒャッヒャッ!」
「……。コラッタ、俺もお前と一緒にここを出る。きっとまだやり直せるはずだ」
 そしてその晩彼とドガースはひたすら笑い続けるアーボを無視して翌日夜に逃げる手順を組んでいたのだった。



 翌日夜。団員の一人が雀の涙ほどのエサを持って檻の方へ来るときがチャンスだ。
 エサが入ったケースを入れるために団員が檻を開けた瞬間、彼は団員に向かって体当たりをした。
 とはいえ彼は脚力強化の注射を受けている。大の大人でも壁まで吹き飛ぶとんでもない威力だ。
 そこにすかさずドガースも檻から出てきて倒れている団員に強力なガスを噴射する。最悪その団員の命が無くなるかもしれないがそんなことは知ったことでもないし、むしろ良い気味だった。
 廊下に躍り出た二匹だが、この後の作戦なんてものはない。なにせ出口を知らないからだ。
 廊下を必死に駆ける二匹だったがここで彼は一つ思い当たる節があった。彼はドガースの上に乗ると、たまたまあった窓に向かって突進を試みた。
 世間知らずの彼らでもガラスは脆いということは知っていたのだ。だが彼の強力な突進を喰らっても窓はなんともなかった。彼らは防弾ガラスを知らなかったのだ。二、三度試みて諦めると再び廊下をがむしゃらに駆ける。
 少しすると団員に見つかった。やむを得ないが引き返すしかない。すると応援でも呼ばれたのか反対側にも団員が現れ、袋の鼠となった。気付けば元いた檻のある部屋から一つ離れた大量の実験ポケモンがいる部屋の前まで戻っていた。
 しかし団員は彼らを見くびっていた。彼が本気を出せば団員なんて紙屑を吹き飛ばすようなもので、彼の突進の犠牲にあった団員は壊れたマリオネットのように飛んでいった。
 最初は油断した団員らも、同じく実験され強化されたポケモンを繰り出せば話は変わる。
 彼もドガースも応戦した。しかし彼らには体力の限界があった。団員には彼ら並のクオリティーを誇るポケモンはいなかったがそれでもポケモンのクオンティティーだけはあった。数での戦いになると不利になるのはあのアーボでも分かるだろう。
 疲弊した彼の背後からこっそりとポチエナが噛みつこうとした。反応が遅れた彼はここまでか、と覚悟をしたがどこからか飛んできた紫の鞭にポチエナは弾き飛ばされた。
 いや、鞭ではない。何度かみたことがあるこれはアーボのポイズンテールだった。
「アーッヒャッヒャッ! 思ったよりやるじゃねぇかお前ら。本当はもう少し機を見て逃げたかったんだけどなァ! お前達が逃げるとほざいたときはさっさとくたばるかと思ったが、案外頑張ってるから手伝ってやるぜェ!」
「アーボ……」
「アヒャヒャヒャヒャ、なんだその間抜け面はよォ! ……本当はこんな変なしゃべり方は好きじゃないつもりだったがこの笑い方なかなか悪くねェ。そう思うだろ野郎共?」
 野郎共? 彼はすかさず後ろを振り返った。閉まっていたはずの実験ポケモンが閉じ込められていた部屋の扉は開いており、そこから大量の実験ポケモン達が狭い廊下に一堂に会することになっていた。
「俺が連れてきたんだ、感謝しろってなァ!」
 アーボの目はいつになく輝いていた。そうか、実験で狂った性格になっていたのは嘘だったのか。敵も味方も騙し欺く。彼の本来の性格は健在していた。
「あァ? 変に泣きそうな顔作ってねェでさっさとクソ間抜けなゴミドガースとそっから先に出てけ」
 アーボが首で示す方向にはサンドが床を掘って作った抜け道があった。
「でもアーボは」
「俺ァこの人間共をひねり潰してから行く。てめーら雑魚はもう役に立たねェからさっさと失せろ!」
 アーボはこう言っているが体力の限界に達した彼とドガースのことを思ってのアーボなりの発言なのだろう。あくまで彼はそう捉えた。
 ヘトヘトなドガースと共にサンドに続く形で穴の中へ潜り逃げていった。穴の中でサンドから聞いた話によるとアーボはずっと前からサンドが穴を作りやすくするために床の耐久を削っていたらしい。彼は今までアーボを罵倒していたことを心から悪く思いつつ、穴の出口に向かいひたすら駆け続けた。
 真っ暗だった穴の中が急に明るくなり、思わず目を塞いだ彼。徐々に光にも慣れ穴から抜け出すとそこには広大な草原、上にはあの日みたものよりもっと雄大な空があった。いつの間にか朝になっていたことなど彼らにはどうでもよかった。
 空気の匂いも薬品や埃臭いものではなく澄んだ優しいものだ。自然と顔がにやけたのは彼だけではなくドガース、サンドも同様だった。しかし施設から抜け出したということで彼らは油断していた。
「お前たちの脱走劇はここまでだ」
 人間の声が背後から聞こえた。彼らは揃って振り返ればそこには団員が一人、不敵に笑っていた。
「お前たちには電子チップが体内に埋め込まれている。空にも海にも土の中にいようとも我々には筒抜けなのだ」
 ああ、もうダメだ。今度こそ彼らはそう思った。しかし、今度は別の人間の男の声が反対側からした。
「へぇ。ならやってみて欲しいもんだな。ポリゴン2、電磁波だ!」
 見たことない鳥ポケモンに乗って現れた男はモンスターボールからまたもや見たことないポケモンを呼び出して彼らに電磁波を放った。しかし彼らは痺れることがなく、様子がおかしかったのは団員の方だ。
「貴様、誰だ! 何をした! くっ、レーダーが」
「今の電磁波でこのポケモン達の中に埋め込まれているチップは効力を失った。さて、お前らロケット団の施設には今頃俺の仲間が駆けつけている。もう観念するんだな」
「ひっ!」
 団員はその場で尻餅をつき、そこを男に縄で縛られた。
 形勢が変わるや否や、急に怯える団員を見て彼らはこんなヤツらに虐げられていたのだと思い返すと悔しさを感じた。
「さて、お前たちはどうする? もし良ければ俺と来ないか? 俺とこの広い世界を探検してみないか?」
 男は優しく笑って彼らに問いかけた。
 しかしそれは彼らにしては愚問も甚だしかった。彼らが揃えて首を縦に振ると、男は満足げに笑って手を伸ばしてみせた。
 彼の探検はここから始まるのである。
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.18 )
日時: 2010/09/06 22:55
名前: 南瓜

Bコース【STADIUM】

緑と人が共存するロアークシティで開催される恒例のサマーフェスティバル。メインストリートから裏通りに渡って軒を連ねる屋台、華やかな衣装に身を包んだ人々とポケモンによる盛大なパレードなど人々を惹き付ける理由は数有れどその目玉はなんといっても大樹に囲まれた街のシンボル、巨大スタジアムで行われる大規模なポケモンバトルトーナメントだった。出場資格はジムバッヂ6個以上。腕自慢のトレーナー達がリーグから招待された四天王の二人、ローズとエリンへそれぞれへの挑戦権を巡り毎年激しく繰り広げる試合模様はロアークシティのみならずまさにこの地方の夏の風物詩である。

もうすぐ初戦開始の夜九時を回る。街の中心部に位置する巨大なバトルスタジアムは観客で埋め尽くされ溢れかえっていた。バトルフィールドを照らす太陽のように強烈なスタジアムライト同様に人々の目は興奮で輝いている。
ゲートから現れた明らかに遅れてきた様子の青年は人混みを見渡し、少しうんざりした様子で手にしていたマップを広げる。俯いた拍子にストレートの艶のある金髪が目にかかりイライラと払いのけた。肩に掴まっているラルトスは彼の急な動きに翻弄されることもなく、落ち着いた様子でマップを横から覗き込んでいる。上着なしのスーツ姿から察するに仕事先からスタジアムへと直行したようである。青年はすらりと背が高くスタイルが良い上に非常に整った容貌だったが、右頬に傷を負っているらしく大きな絆創膏を貼り付けていた。他人の注意を引くには申し分のない外見であるが現在観客の関心は主に来賓席の四天王や先程まで行われていた開会式に対して向けられており、幸い彼を取り立てて目に止める者は身近になかった。


青年が苦労しながらもなんとか予約席までたどり着くとすでに隣の座席に着いていた同年代の青年がニッと彼に笑いかけた。
「よお、遅かったな! しっかしお前スーツって……」
毛先を無造作に遊ばせた流れるような黒髪、小麦色に日焼けした肌、濃紺の甚平を身に纏いネイティを肩に乗せ、金髪の青年に負けず劣らず端正な顔立ちの彼は綿菓子を二つ突き立て翼を広げたチルットのようなバケツ大のポップコーンのカップを青年の席からどける。
「“仕事”帰りだ。お前こそ甚平なんか着やがって……羽目を外すのもほどほどにしとけ」
金髪の青年は無愛想に答えると空いた席にどかっと座り、足を組む。
肩の上のラルトスは黒髪の青年とネイティに向かって丁寧かつ上品に一礼したので、黒髪の青年は手をひらひら振って笑顔で応えてから唇を尖らせて反論する。
「おいおい祭りだぞ。あーあ、早く言ってくりゃお前の分も用意してやったのにな!」
「そういうオリエンタルな格好は似合う気がしねえ」
「そーか? まー羽目はともかくネクタイくらい外せって」
うるせえ、と言いながらも彼は言われたとおり水色のネクタイをぐいと解き、続いてポーチから人目に触れないように無線イヤホンを取り出して耳に装着し、次に小さな双眼鏡を取り出すと海のような青い眼に当ててスタジアムを見渡し始める。黒髪の青年は綿菓子に噛みつき口をもごもごさせながら横目で様子を伺っていたが、急に金髪の青年に向かって囁いた。
「なぁおい……か?」
「あぁ? 今なんか言ったか」
この騒ぎだ。相席とはいえ聞き取れないのも無理もない。
「ほら、来賓席。ローズ・エカルラートとエリン・ギルバスターと“ミディ”なら誰が一番好みだ?」
「……それ聞いてどうすんだ?」
「どうもしねえよぉー」
ニタニタとあからさまな笑みを浮かべ、話を続ける黒髪の青年。
「ローズはやっぱ美人じゃん。巨乳だしな! 大人の色気あるよなー。でもエリンも可愛いんだよな。17っつーことはオレらと同い年な訳だし親近感湧くっつーか、んでもって“ミディ”は……」
「知るか」
熱弁も虚しく一蹴された。
「お前相変わらずだなぁ! どんなにルックスが良くても愛想が最低だとモテねえぜ! あはははは」
あっけらかんとした黒髪の青年の笑顔にラルトスは苦笑し、金髪の青年は双眼鏡から目を放し思わず頬の筋肉を緩ませた。
「お前こそ相変わらずだな。俺がいない間真面目にあの二人を見張ってたのか?」
今にも笑い出しそうな呆れた口ぶりに対し黒髪の青年は胸を張って答えた。
「当然だ。じっくり観察したからこんな台詞が吐けるんだろ、ははは」
「!」

無線イヤホンに通信が入り、氷のような緊張感が二人の顔から和やかな空気を奪い去る。

「こちらA班“ソレイユ”、現在マル害及び“ミディ”の位置を確認、周辺に不審人物は見当たらない模様。どうぞ」
「こちらA班“メール”、“ソレイユ”と合流完了。引き続き監視を行う。どうぞ」
「……OUI」
「OUI」
無線を切ると一気に騒々しい現実に引き戻された。鋼のように鋭く冷えた全身に苦しい程の熱気がじわじわと迫る。二人は真剣な表情で顔を見合わせた。ソレイユと名乗った金髪の青年は素早くラルトスに目配せし、ラルトスは頷くが早く行き先も告げずテレポートでどこかへ消え去った。
メールと名乗った黒髪の青年は肩のネイティの冠羽を撫でながら静かに呟いた。
「しっかし……トーナメント開催期間中に四天王を襲うなんていかれてるぜ」
ネイティとソレイユは遠くを見ながらもメールの言葉にじっと耳を傾けている。自然と彼らの頭には本部に届いたとされる挑戦状こと某ファックスの文面が思い出された。
「動機がイマイチよく分かんねえ。なんか得するか?」
「さあな」
明確な犯人像は浮かび上がっていない。ただ護衛に囲まれた来賓席にいる四天王ローズとエリンに尤も接近かつ危害を加える絶好の機会があるとすれば、それは優勝者のみに与えられる挑戦権を利用したポケモンバトルである。すなわちこのスタジアム内の人間の仲で犯人である可能性が高いとされるのはこのトーナメントに出場した勝率未知数のポケモントレーナー総勢50名。
「だが、売られた喧嘩は買うまでだ」
国際警察の威信にかけ、ソレイユは宣言する。
バトルフィールドに立つ二名のポケモントレーナー。審判によって試合の開始が告げられるとスピーカーからは実況アナウンサーの声がスタジアム中に響き渡り人々は熱狂の渦に包まれた。
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.19 )
日時: 2010/09/06 22:55
名前: あちゃもとあらい

 A『ソングフォーマイファーザー』


「知ってるか? ポケモンだって喋ってるんだぜ」
 そう言われたのは、カントー地方最後のジム戦に勝った時のことだ。トキワシティのジムリーダー、グリーンは私にそう言った。
 ジムリーダーはトレーナーの実力を測るために戦うので、バッジをかけた挑戦には本気を出さない。しかし私は、その言葉を本当に実行しているのは彼だけだと思った。その一言を聞いた瞬間、私が現在トレーナーとしてぶち当たっている壁を確実に乗り越えられるヒントを得た気がした。グリーンはその壁をいとも簡単に見抜き、解決方法を最初から知っていたかのように思えた。
「どういう意味ですか」
 私はもう一歩深く聞いてみる。知りたい。その想いは強くなる。彼はどこから説明すればいいのかな、と言いながら頭をかいた。
「どういう意味って……言葉通りなんだけどな。あんた、ポケモンの言葉は鳴き声しか聞こえないだろ」
 私は肯定した。ポケモンは人間とは違う。
「馬鹿な話だと思われそうだけど、本当はポケモンも人間みたいに喋ってるんだよ。言葉を使って。
 そうだな、例えば……あんたのマニューラ、ホレスだっけ? あいつはピンチには強そうだな。口数は少なくてそっけない感じだけど、芯がしっかりしている。あんたも負けそうになったらこの子をよく使うんじゃない? オーダイルの方は言葉が荒っぽいな。結構仲間うちでも喧嘩することが多いんじゃないか」
 当たっている。愕然とした。彼が本当に言葉を理解しているのかはともかく、たった数十分のジム戦の中でこれだけ見抜かれてしまうとは。
 あー、と彼はむしゃくしゃしたような声を出す。
「今の説明じゃ良く分かんないだろうなぁ。まぁ、せめて仲間の声にぐらいちゃんと耳を傾けりゃ、そのうち分かるさ」
 耳を傾けろ。その言葉が、私の心にひっかかった。そうか、そうやってポケモンのことを信じてやればいいのか。

 誰よりも強くなりたい。そう願って私は一匹のポケモンを盗み、ジョウト地方を旅した。新たなポケモンを手に入れ、強くないと判断したら即刻仲間から外していた。
 ある人からはポケモンは道具なんかじゃないと叱咤された。それでもジム戦には勝ち続け、ジョウト地方のジムバッジを8つ全て集めた。私はそんな言葉に耳を貸すことはなかった。
 だがしかし、どうしても勝てない男がいた。
 どれだけ強いポケモンを持っていても、どれだけ策を練ったとしても、彼には敵わなかった。負けるたびに、追いついたと思ったのにまた引き離される、そんな屈辱を味わった。
 一体何が悪いのか。ポケモンリーグ手前で勝負を挑み敗北した時、初めてかつての叱咤の意味を理解した。私と違って、彼はポケモンを大事にする。その差が、彼との実力の違いにつながっていると。
 その後、盗んだポケモンを返しに研究所を訪れた。あの時盗んでごめんなさい、と心の底から謝罪した。当然怒られるだろうと覚悟したが、研究所の責任者である人は笑って「君のポケモンは君を信頼している。だからそのポケモンはもう君のものだ」と許してくれた。
 あれほど心の中が晴れ晴れとしていたことはない。
 許されたことより、こんな自分でもポケモン達は私を信頼してくれていることが嬉しかった。
 捕まえてすぐに逃がしたポケモン達に対して、謝りたい気持ちと後悔が生まれた。だからこれからはせめて、今までずっと頑張ってきた6匹のポケモン達と共にやっていこうと決めた。もっとポケモンのことを信じてやる必要が、私にはあるのだ。

 その壁を乗り越えるタイミングは唐突だった。
『行くんでしょ。この中』
 マニューラのホレスがこっちに目をやり、すたすたと洞窟の中に入っていく。
「あ、あぁ」
 喋った。
 私は驚きを隠せなかった。グリーンの言ったことは本当だった。人間が耳を貸さないだけで、ポケモンはちゃんと言葉を喋っている。
 頭が少し混乱していたせいか、少し気の抜けた返事をして、奥へと進んでいく。

 今から入るのは、ハナダの洞窟と呼ばれるダンジョンだ。
 あまりにも凶悪なポケモンが住み着いているため、カントーのバッジを全て持っているトレーナーでないと立ち入ることは許されない。
 その凶悪なポケモンの多くは、今は無きロケット団が行ったポケモンに関する実験の被害者だ。
 弱体化してしまったり極端に強くなり過ぎてコントロール不可になってしまったりなど、実験の失敗作は問答無用でこの洞窟に放りこまれる。その積み重ねが、魔界を作り出したのだ。
 もちろんその事実は裏の世界の事情だ。多くの人間は恐らくこの洞窟をただの禁忌の地として見なし、詳しいことは何も知らないだろう。
 私がそれを知っているのは、私がロケット団のボスの息子であるからに他ならない。目的は洞窟内にいると思わしき、一匹のポケモン。遺伝子操作によって生まれた、暴力的な力を持つエスパー。かつてロケット団の実験場で、私は一度だけ見たことがある。何十年もの間、失敗を重ねたのちに出来あがったのは制御装置を付けねば止められないほどの暴れん坊だった。
 今、グリーンはポケモンを盗まれ、何者かに命を狙われている。はっきりとは言わなかったが、そう仄めかした。彼に教わったものは本当に多く、尊敬している。彼の力になるのなら、今しかない。

 ロケット団の壊滅から何年もの時間が経っているからそろそろアンバランスな生命体達は何かしらの形で落ち着いているかと思ったが、少し下りただけで得体の知れない威圧感が押し寄せる。けだるく重苦しい空気。湿気や臭いのせいだと思いたかった。
「こいつは凄いな」
『あちこち見ないほうがいいよ』
 ホレスが呟く。私はホレスの後をついていく形になる。洞窟内はぼんやりと光っていた。所々に刺さるように生えている、紫色の水晶が発光しているせいである。
 明るいとは言ってもものの外殻が分かる程度なので、フラッシュは必要だった。レアコイルを出し、指示を出す。
「フラッシュ、頼むよ」
 レアコイルは無言のままフラッシュの光を放つ。一度フラッシュを放てば、ボールに戻してもボールが光を放つので効果は持続することになる。レアコイルを戻し、ボールをランプ代わりに歩いていく。
 そう言えば、レアコイルの反応がホレスとは違うのはどういうことだろう。
「あのさ、ホレス」
『何』
「レアコイルって無口なやつなのか?」
 口に出すには少し気恥ずかしさがある。ホレスは気にせず答える。
『んー、あいつが喋ってるところは見たことがないね。金属みたいだから、喋れるのかも謎』
「そっか」
 ただ聞けないだけというわけではなさそうなので、安心する。
「それより、俺とお前が喋ってること、不思議だと思わないのか」
『別に。会話が細かいところでかみ合ってなかった気はするけど、大事なことが伝わればそれでいいかなって思ってたし』
 それにしても何でそんなことを聞くんだ、という顔をしてこっちを見つめる。私は口元に笑みを作る。目を逸らした後、私は呟いた。
「そういうもの……なんだなぁ」
 なんだか拍子抜けだな、と私は思う。分かってはいたが、やはりこちらの言葉は向こうには伝わっていた。それも、しごく当たり前のことのように。
 私は脇にふと目をやった。いや、やってしまったと言うべきか。
 腐りかけた生物の死体があったのだ。ぐずぐずに崩れ、見ただけで嫌な臭いが伝わってきそうだった。吐きそうになり、思わず声を上げる。
『だから見ない方がいいって言ったのに。おれだってギリギリなんだからさ』

 かけられた梯子を降り、更に奥深くへと進んでいく。この梯子はいったいいつからかけられているのだろう。金属でできていて、地面にしっかりと固定されている。塗装は剥がれ、赤くサビついてざらざらとした感触があった。
 地下には、広い湖が広がっていた。所々に島があって、この位置から全貌を把握することは出来ない。この先に進むには湖を行くしかなさそうだ。結構底が深いことを確認すると、ボールからオーダイルを出す。
「なみのりで乗せてってくれ。あの島まで」
 私は指をさす。分かった、と言わんばかりに頷き、水の中に入る。浮かんできたところを見計らって、私は飛び乗る。二人乗りは恐らく無理なので、ホレスをボールに戻す。
 オーダイルの声は聞こえなかった。きっと、こいつの言葉をちゃんと聞けていないだけに違いない。何となく、耳に意識を集中させてみる。
「いつもありがとな」
 と身体をたたいてやる。オーダイルは返事しなかった。それとも自分が聞こえないだけなのか。私は少し残念に思った。

 目的地の島に降り、私はオーダイルをボールに戻す。そしてもう一度ホレスを出し、周りを見張らせる。
「また階段か」
 上ると、開けた空間に出た。周りには光る水晶が他の場所より多く、入口付近よりも幾分明るい。ただ歩くだけなら、フラッシュが無くても十分なくらいだ。先ほどのような腐乱死体もなさそうで、安心する。この洞窟の中には珍しい道具も落ちているらしい。それを回収しながら進むのも悪くないと思った。
『後ろ!』
 ホレスが叫ぶ。後ろを振り返る暇もなく、首に腕がかけられ締め付けられる。腕は人間のそれだ。声が出ない。
『離れろっ』
 ホレスが自慢の爪で切りかかる。すんでのところで腕は外れ、ホレスの攻撃は避けられる。
「ちっ、お前に変わってやろうと思ったのによぉ」
「誰だあんた」
 私は問いかける。我慢していた分を一気にせき込んだ。落ち着いたところで顔を上げる。彼の顔を見た瞬間、驚かざるを得なかった。え、と声を出したまま、後に言葉が続かない。彼は自分を親指で差し、不敵な笑みを浮かべた。
「驚いたか? 驚くよなぁそりゃ、お前の顔だもんな」
 目の前に立っていたのは、私と同じ格好、同じ髪、同じ顔をした男だった。かつての歪んでいた私を見ているかのように、彼の笑みはどことなくおかしい。理性のタガが外れている。
『どういうこと、あんた、何者だ』
 ホレスが警戒する。
 彼はにやりと笑うと、身体が崩れ出す。人間らしい肌色の皮膚も、黒い服も、すべて薄い紫色に変わっていき、ドロドロと溶けていく。
『もういいや、バレちゃ意味無いし』
 最終的に残ったのは、小さな紫色の柔らかそうな塊だった。
 メタモン。私はそのポケモンの種をそう判断する。しかし、人間に変身するメタモンなど聞いたことがない。実際には可能なものなのかもしれないが、それにしてもこいつは狂っている。
 もしかしたら、こいつはロケット団の実験の犠牲者か。そんな考えが頭をよぎった。あまりにも過酷な実験が、ポケモンの性格を歪めてしまった。確証はないのに、私は自分の中でその考えが確信に変わっていくのを感じた。
 けっけっけ、と気味の悪い笑い声をあげている。ホレスは警戒し、いつでも戦えるように構えを取っている。
 そう言えば、このメタモンの言葉が分かるのはなぜだろう。同じロケット団によって人生を狂わされた者だからだろうか。
 だからと言って、人を殺めていいものか。

 私は口を固く結んでいた。自分に成り変わって、どうするつもりだ。この洞窟の外に出て、それからどうする?
 笑い方の禍々しさが、何をするのかを物語っているように見えた。
『あんたたちを殺して、表に出て、俺は自由になる。やっとだ、やっと見つけたんだ、お前みたいに化けやすい人間』
 メタモンはそう言って、あは、あはと笑いながら、また別の姿に変身していく。その笑い声は、叩かなければ正常に作動しないような古い機械を私に思い出させる。

「ホレス、こいつは倒そう」
『分かった』
 言葉短く、ホレスは返事をする。
『倒す? 倒すって言った? けっ、お前らが世界の何を知っているって言うんだ。 俺はここでいろんな強いトレーナーを潰してきた。どんな戦い方をするかずっと見て来た。一番強いポケモンがどいつかってこともちゃんと知ってるんだ』
 そう言って化けた姿は、ライチュウだった。黄色い身体、白い腹、茶色い両手両足、針金のような細長い尻尾。
『なんだ、もっとおっきなポケモンになると思ったよ。伝説のポケモンとか』
 ホレスは言う。私は同感だと思ったところで、その考えを振り払う。ホレスはボールに入っていたから知らないだろうが、とんでもなく強いライチュウを一匹私は知っている。
『俺だって最初はこいつを侮っていたさ。でも、もう覚えた』
 ライチュウに変身したメタモンは、尻尾の先から薄く光る糸を伸ばす。とても速いスピードで、それはホレスの身体を突き刺す。反応出来ない。
 ばちん、と大きな音が鳴り響く。電気ショックだ。それもかなり強力な。
 まずい。私はホレスを抱え、メタモンから少し距離を離す。光る糸はホレスの身体を貫いたにも関わらず、傷はない。電気ショックが効いているだけのようだ。
「大丈夫か」
『うん、下ろして』
 私はホレスを下ろす。
『一体何されたのか、全然分からなかった』
「速過ぎるんだ。反応出来なかった」

 頭の中で、さまざまなアイデアが浮かんでは消えていく。私はこの戦法を見て確信したことが一つある。あいつが知っているライチュウは、私の知っている者と同じだ。
「あれはひかりのかべを糸状にしているだけだ。実体がないから、貫かれるだけなら平気。あれに電流を流して攻撃するんだ」
 電気による攻撃は、基本的に空気中を伝って遠くへは届かない。だから接近戦でないと最適な状態を作り出せない。その欠点を確実に克服するために生まれた戦法のようだ。
『じゃあ、距離を開けても無駄なんだ』
「そう。だから、動き続けろ。回り込みながら近づくんだ。糸をぎりぎりのところで避けて、近づいていることを悟らされるな。こっそり近づいて、思いっきり冷凍パンチを食らわせてやれ」
『分かった』
 ホレスは頷いて、駆け出す。頼んだぞ、と心の中でエールを送る。もう私に出来ることはここまでしかない。
 あと一発でも食らえば、恐らくホレスは戦闘不能になるだろう。マニューラという種族は、元々頑丈な身体をしていない。だから、攻撃を喰らわないように素早さでカバーしている。ポケモンバトルで勝負を決める要素は、相性と、戦略と、能力の一点特化だ。
 ただ、いくら速くても体力はない。早めに近づいてくれ、ホレス。

 今のところ、事態は私の思うように動いている。ホレスはしっかり糸を見切り、じわじわと距離を詰めていく。上の方を糸が通ればしゃがみ、下の方を通れば飛んで避ける。ひかりのかべで作られた糸は薄く光っている。うす暗い洞窟の中では目立ってしまうため、視認しやすい。それに、メタモンの作り出す糸は、精密さと速度を同時に達成することはできないらしく、それがホレスに避けられる要因になっている。
『ちょこまかしやがって、くそっ、くそっ』
 メタモンも大分焦れている。そして何より、糸に集中し過ぎているせいで、足が一歩も動いていない。よし、いける。あの糸を操作するのにも精神力を要するはずだ。
『当たらないなら、こうしてやるっ』
 不意打ちだった。一直線に糸はこっちに飛んでくる。まっすぐになら、糸のスピードはとんでもなく速い。明らかに、私を狙っている。
「うあっ」
 糸が左肩を貫き、強力な電流を流される。暴力的に身体を揺すられたような、そんな感覚だった。痛いのかどうか良く分からないが、あまりの衝撃に痛みさえ麻痺してしまったのだと直感する。私は立っていられなくなり、地面に倒れこんだ。
 ホレスが私の名前を呼ぶ。メタモンの電撃は持続的なものではなく、一発大きな電気を流すだけだったので、少しだけ動ける隙があった。
「来るなっ」
 精一杯の力を込めて、私は叫ぶ。
 恐らくホレスは私を心配して、駆けつけようとするだろう。彼の姿を何とか目に入れようとした。
 私の予想はやはり正しい。こちらを向いて、足を一歩踏み出そうとしている。不安が溢れ出しそうになり、くしゃくしゃになるのを必死でこらえる顔は、かつて何度も見て来た。普段はそっけないのに、私に危機が訪れるといつもこうなのだ。
 私はメタモンを指差し、大きく息を吸い込んで声を張り上げる。
「俺のことはいい!」
 敵を倒すことだけに集中するんだ。

 ホレスの目から、迷いが消えたような気がした。
 そこからはほんの一瞬の出来事だった。
 高速でメタモンのそばを走り抜け、通りがけに切り裂く。つじぎりという技だ。どうやら急所に当たったらしく、メタモンは言葉にならない叫びをあげる。痛みの分だけ、声が放出される。
 ターンしてさらに、爪を凍らせこおりのつぶてを投げつける。メタモンはそれを背中で受けて怯む。少し変身が解けかかって、色が紫に変わり始めている。そのまま、れいとうパンチ。メタモンの頬をホレスは思いっきり殴った。殴った部分は凍りつき、固まってしまう。さらにホレスは殴り続けた。どの個所も凍って動かなくなるまで、殴り続けた。
 やがて、メタモンを行動不能にさせた氷は厚みを増し、大きな柱の形になる。ホレスは息を切らせ、足を折った。
 メタモンはひとまず、完全に封印された、と私は判断した。倒したのだ。
 変身が解けるか解けないか、メタモンなのかライチュウなのか良く分からないままの状態で、彼の時間は止められた。
「よくやったな」
 私は何とか立ち上がり、ホレスの頭を撫でてやる。水筒から水を取り出し、飲ませてやる。
『ごめん、おれは』
 ホレスの言葉は、それから先には続かない。目をつぶって、首を振っても、それは変わらなかった。
「いや、いいんだ」
 私は言った。
「お前はよくやってくれたよ」
 ホレスの不安げな表情は、もとの顔に戻る。少し喜んでいるのだろう。その様子は、私を安心させる。
 頼りになるが、もろい奴なのかもしれないと今まで思っていた。
 しかし、それは少し違うのだと悟った。言葉が通じて何となく分かったことがあるから。
 私が頼りにしているだけではない。ホレスは私を頼りにしているのだ。研究所の博士も、この子達は君を頼りにしている、そう言っていたではないか。

 それに気付いた瞬間、いくつもの閃きが生まれた。
 同じなんだ。人間もポケモンも。よく喋るものもいれば、無口なものもいる。賢いものもいれば、愚かなものもいる。強いものが一人いる傍ら、弱いものがたくさんいる。みんな別のものを信じ、それぞれの道を行く。ただ姿が違うだけで、同じ個性豊かな生き物なんだ。
 自然と笑みがこぼれて、止まらなくなる。これは大発見だと、跳びはねたくなる。
 同じように憎しみあい、同じように喜びあう。同じように不和が生まれ、同じように共感が生まれる。それはきっと、言葉を持っているからできることなんだ。
 そうだ。そういうことじゃないか。
「ありがとな、ホレス」
『へ? て言うか、さっきからにやにやしてどうしたんだ?』
「何でもない。さぁ、行こう。あとは俺に任せていいから」
 私は立ち上がって、ホレスに手を貸した。
『任せて、って、これからとんでもないエスパーと戦うんだろ。あくタイプの俺が戦った方がいいんじゃないか』
「いや、出来る限り戦わないさ。今決めたんだ。策はある」
 心を開けば、耳を傾ければ、きっと声は聞こえる。奥に眠る凶暴なエスパーだって、そうすれば分かってもらえるかもしれない。根拠のない自信だが、最高で極上の作戦であるという思いは消えなかった。
 おい、と呼びとめるホレスを尻目に、私は洞窟の先へと進んだ。ホレスのため息が聞こえるが、ちゃんと彼はついてくる。
 辺りの水晶は相変わらず輝き続けていた。

 待っていろ、まだ見ぬエスパー使いの暴れん坊。

 私は禍々しい気配のする方へ、足を踏み込んでいく。
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.20 )
日時: 2010/09/06 22:56
名前: がぶりす

【さよなら花火】Bコース


 彼女との出会いは一週間程前に、友人らと神社裏のお墓で肝試しをしたときだった。
 親がお金持ちなので俗に言うお坊ちゃん暮らしをしている僕だから、屋敷の者がこんなことして遊んでいると知れば血相を変えて飛んでくるだろう。
 なにせあの墓には女の子のお化けが出るという噂があるのだから。
 僕と友人はそんな話あるわけないと笑いながら、それを検証するついでに肝試しを始めたのだ。
 油性ペンで名前を書いた石をもって十時半過ぎに神社に僕含め五人で集まり、そこから一人ずつ懐中電灯を持って墓場の奥の方にある地蔵の側に石を置く、至って簡単な遊びだ。そして僕が石を置きに行く順番は五番目、つまり最後である。
 先に戻って来た他の皆は幽霊なんていなかった。と、不服そうにしていたので僕もやはりそんなものかと思い、スタートを切った。
 大中小、古いの新しいのが多種多様に混ざった墓石だらけの墓場は、それは確かに一人ぼっちで行くのには怖いのもある。
 何か変な影が見えるとドキッとするが、懐中電灯で照らすと大概はしょうもないもので、まあ肝試しなんてこんなものかとそれなりに楽しんでいると指定されていた地蔵の前に着いた。
 スタートしてちょっとしてから一度曲がれば後は一本道なので暗くてもまだ小学三年生の僕でさえ簡単にたどり着けた。
 他の友達に倣って地蔵の前に石を置こうとしたとき、地蔵の向こうにまた影が現れた。
 一瞬ひやりとしたが、またどうせしょうもないものだろうと思って懐中電灯をその物影に当ててみたら、白地に赤の模様がたくさん入った着物を着ている14歳くらいのショートカットの女の子がそこにいた。
「……」
「……」
 僕も彼女も互いに驚き戸惑いを隠せなかった。
「えーと……、わー!」
 彼女は何をとち狂ったのか急に両手をあげて襲っちゃうぞ表明をしているが、怖いどころかとても可愛いらしかった。
「こほん。さっきから気になってたけど君たち何してたの?」
 彼女は手を下ろして咳払いをしてから尋ねる。
「……肝試し」
 知らない人とは話をするなと口酸っぱく言われていたがこの娘(こ)とならいい気がした。
「なーるほどね。だから石を置いてたんだぁ」
 彼女は優しく微笑みながら僕の隣へやってきた。それを見て可愛いと同時に綺麗だなと思った。思えばこれが恋だったのかもしれない。
 僕の隣で石を一個一個見ている彼女に、何をしてたの? と尋ねようとしたとき、とんでもないことに気がついた。
 この娘、足が、具体的には足首より下が……ない。
 人は本当に恐怖したとき叫び声なんて出ないらしい。腕の力が一気に抜け、右手に握っていた懐中電灯を落としてしまう。
「んっ、どうしたの?」
 どうしたのじゃないよ本当に幽霊がいたよどうしよう逃げたいでも身体が動かない僕どうなっちゃうの怖いよ。
 懐中電灯を落として彼女の顔が見えなくなったためどんな顔をしてるかわからない。もしかしたら口が裂けるほど笑っているかもしれない。
 彼女は懐中電灯を拾い、それで顎から光をあてて「みぃたぁなぁ〜」と声を作ってきた。
「ひぃっ!」
 ようやっと叫び声が出せた。我ながら情けないにも程がある。身体の膠着が解けたらしくそのまま勢いで尻餅をつく。痛かった。
 しかし彼女はあはははと笑うだけであって、僕をとって食うようなことはしなかった。
「なんか驚かしてごめんねー。大丈夫?」
「……」
 彼女は尻餅をついている僕に手をそっと差し伸べた。手もすり抜けるんじゃないかと思ったが、その手は触れる上に普通の体温をもっていた。幽霊ってこんなものなのか、自分の知識の幽霊とはどうやら差違があるようだ。
「はい、懐中電灯」
「ありがとう。……君は」
「うん、死んじゃってるみたいだね」
 なぜそんな笑いながら言う。
「……大丈夫なの?」
 言ってから自分でも何が大丈夫なんだよと突っ込みたくなった。しかし、彼女は怒ることも変な顔もせずに笑っていてくれた。
「わたし? まあ大丈夫とは言えないんじゃない? 死んじゃってるし」
「そ、そうだよね。ところでなんで死んだの?」
 初めて彼女が暗い表情を見せたのでしまったと思った。
「……。ごめん、わかんないの。でもお祭りのときに死んだ気がするの。死ぬ前のことは覚えてなくて」
「浴衣着てるもんね」
「あの、お願いがあるの!」
 すると彼女は急に涙目で嘆願してきた。断れるわけがない。
「一緒に来週のお祭りに行ってくれない? わたし、そしたら何か思い出せそうな気がするの」
「うん」
 なぜなら……。まあ、やはり、好きになってたかもしれないからだろうか。



 僕だってまだ小さいけど男である。やっぱり彼女に恋をしているのかもしれない。四六時中彼女のことしか考えれず、何事にも上の空だった。相手が幽霊だったとしても、そんなものは僕には関係なかった。今の僕ならその気になれば大男さえ倒せそうな気がした。
 そして念願のお祭り当日。
 彼女とは前に会った地蔵の前で待ち合わせていた。相変わらずの浴衣姿と微笑みで僕を待ってくれていたようだ。
「さ、行こ?」
 可愛らしく首をかしげて手を伸ばしてくれた。その手をしっかりと握ると祭りで賑わっている町へと二人して歩き出した。
「わぁ!」
 ようやく祭りの会場にたどり着くと、様々な人が様々な服装で、様々な表情を浮かべていた。
 彼女はそんなたくさんいる人の中でもとりわけ一番の笑顔でいた。
「なんか懐かしいよ」
 もう既に涙目の彼女。繋いでいる彼女の腕をぎゅっと強く握ると彼女は我に帰った。
「あっ、ごめんね」
「何か思い出したの?」
「うーん、思い出せそうなんだけど」
「まあゆっくり考えなよ」
「うん……」
 しょんぼりとしてる彼女はなんだか見てるのが辛かった。話を変えるべきだ。
「たこ焼き食べる?」
 幽霊が食べるかは知らないけど触れるなら食べれそうだろう。
「えっ?」
「僕おごるよ」
 小三がませた真似を。と思われるかもしれないが、冒頭でチラと触れた通り一応金持ちの息子なのでお金だけはあった。
 彼女が何か言う前に、たこ焼き屋台のおっちゃんにたこ焼きを頼んだ。
「僕、お金だけはあるから。はい」
「それじゃあお言葉に甘えて……。ありがとう!」
「他にも何か欲しいものとかしたいこととかあったら言ってね」
「うん」
 ああ、その笑顔がもっとみたいなあ。たこ焼きを頬張る彼女も素敵で見てるこちらもつられて笑顔になる。
「君の家お金持ちなの?」
「親が実業家なんだ」
 たこ焼きを食べ終えた僕らは祭りの雑踏の中特に目標もなくぶらつき出した。
「へぇ、すごいね! お金持ち憧れるよ!」
「っていうことはお金持ちじゃなかったんだ」
「おぉ、なるほど! 確かに! なんか君といるといろいろ思い出せそうね」
 途中で金魚すくいもやった。射的も、輪投げもやって、あとはたまごせんべいも食べた。
 彼女は僕の身の上話、たとえば学校の話とかをよく聞いてくれて、とても楽しそうにしていた。
 友人にも幸い会わずに済んだし、彼女の足首より下がないことにも誰も気づかれなかったみたいだ。順風満帆。
「ねぇ、さっき家がお金持ちと言ってたよね」
「それがどうしたの?」
「お宝とかあるの?」
「なんでお宝なの?」
「えっ、いやぁ。だってお金持ちってそんなの持ってそうなイメージなんだけどなぁ」
 ……言っちゃダメってお父さんには言われてるけど彼女になら。
「あるよ」
「へー! やっぱり! どんなの?」
「なんとか、っていう綺麗な大きい宝石の指輪なんだ」
「お父さんとかが付けてるの?」
「ううん、強化ガラスの箱に入れて家の中で飾ってる」
「泥棒とか来ないの?」
「昼は警備員がいるし、夜は赤外線で誰かが来たら分かるようになってるし、鍵を使わずガラスもちょっとした振動を感知したらブザーがなるようにしてるから泥棒なんて怖くないよ」
「すごいねぇ」
「しかも鍵は指紋認証なんだ。僕の両親か僕じゃないと絶対に開けらんないの」
「すっごいね! あ、あの綿菓子一緒に食べない?」
「いいね」
 そこからまだ楽しい時間は続いた。スマートボールもやった。他にも河原に言って祭り名物の特大打ち上げ花火だって一緒に見に行った。
 しかし花火を見ているとき急に彼女の顔が曇った。
「どうしたの?」
 だが答えることはなく彼女の体は震えるだけであった。そしてこの祭りの花火大会自慢の特大花火が開く轟音が鳴り響くと同時だった。
「きゃああああああああ!」
 彼女は悲鳴を上げてその場でうずくまった。流石に周りの人も怪訝な顔をしたが、そんなのには構わず僕は本能的に彼女の腕を掴んで河原から駆け出した。
 彼女は何も言わずに僕の行動に準じて着いてきてくれた。気付けば神社の境内まで戻っていたようだ。
 休みなく走ったせいで僕も彼女も息が切れていた。彼女の浴衣も多少崩れている。
 しかしそんなことよりも彼女の青い表情だ。
「大丈―――」
「思い出したわ……。わたし」
「……」
「あの花火」
「花火が?」
「たぶん五年前くらい、あの花火がわたしの方目掛けて飛んできたの」
「飛んできたって……」
「お父さんが花火職人でね、わたしもお父さんの側で花火を上げるのを見てたのよ」
「そしたら失敗して、か……」
「うん」
 彼女は吐き出したい物を全て出しきったのか再び笑顔に戻っていた。儚く消えそうなものだった。
「今日は楽しかったよ? お陰で満足出来た。もう思い残したこともないしね」
「えっ」
 ということはもしかして……。どうしたら彼女を止めることが出来るのだろう。僕は彼女ともっといたい。でもそれは僕の自分勝手なものかもしれない。彼女の本当の幸せは……。
「ね、目を閉じて?」
「え?」
「いいからいいから」
 訳も分からず目を閉じると、柔らかく、暖かいものが僕の頬に触れた。僕だってわかる。キスだ。
 嬉しくて、優しくて、でも切ない。
 唇が僕の頬から離れた。僕は胸が高鳴っていてドキドキしていたからまだ目が開けられない。
「本当にありがとう。このことは絶対忘れないよ……」
 彼女の声が耳元でそっと聞こえた。まるで風のように耳を通り抜けて消え去った。
 そっと目を開くと、もう境内には誰もいなかった。最初から叶わないと思っていた恋だったけど、そこから大事な何かを学べた気がする。
 遠くで咲く花火を見ると笑っている彼女が見えた気がした。
















「お疲れ様」
「ふぅ」
 境内から離れたとこで少女がボディスーツを着た男の元に駆け寄る。
 少女は浴衣を脱ぎ捨てると男があらかじめ用意していたボディスーツに着替え直す。
「まさかここまで上手く行くとは思わなかったわ」
「部分ステルス装置で足だけ透けさせて幽霊にする。子供にはインパクトたっぷりさ」
「触れる時点で疑問に思われるかと思ったわ」
「子供の方が案外現実を受け止めるもんだよ」
「……」
 少女は先程まで一緒にいた少年を思い出して複雑な表情を浮かべた。
「それにしても思ったより喋ってくれてこちらとしても好都合だったな」
「まったくね」
「さて、仕事をしにいくか」
「指紋認証のキーもあの子の指紋をこっそり取ったから大丈夫よ」
「ああ。今回の獲物は大きいぞ! その分盗む価値があるってところだ! 行くぞ!」
 二つの影は闇の街を走り抜ける。今回も華麗に颯爽と宝を盗むことが出来るのか。少女は不敵な笑みを浮かべるのであった。
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.21 )
日時: 2010/09/06 22:56
名前: 紅蓮

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夏企画2010 『鎮霊祭と小さな夜の冒険』

【ポケモン暦56年 8月8日 リューキュー ナンブシティ】

 ギンガ達の冒険から遡る事18年前・・・ナンブシティでは毎年恒例の鎮霊祭が
行なわれていた。実際の儀式は夜行なう神聖なものだが、昼はシティの市長の提案により
屋台が立ち並ぶまさに祭と言った様相を見せている。
「焼き蕎麦の次は綿飴かなぁ・・・」
「デザート感覚なら口がべたつかないかき氷で良いんじゃない?」
「俺は物足りねぇし唐揚でも買おうかな。」
「ねぇ、皆でモンスターボールすくいの方に行ってみようよ!」
遠くから聞こえてくる祭囃子の音を聴きながら、アイ達4人は祭での買い物を
楽しんでいた。この日の為に小遣いを貯め、使う機会をずっと待っていたのである。

 当時最年少のアイは5歳、ズリとザロクは6歳、最年長のオボンは7歳であった。
小遣いを貯めるのにも苦労する年齢であったが、この世界ならば街にいる子供達と
ポケモンバトルをして金を稼ぐ事も出来る。特にアイは幼くして既にトレーナーとしての
能力を開花させつつあった。
「それにしてもこの焼き蕎麦美味ぇなぁ。ソースに焼き鳥のたれを使ってるらしいが。」
「安くて量もあって有難いわよね。」
プラスチックのパックに入った焼き蕎麦を食べながら4人は歩いていた。ナンブシティの一大イベントと
言う事もあり街には沢山の人々が集まり賑わっている。特に屋台の者達は鎮霊祭特需とばかりに
売る事に精を出し声を張り上げ祭の雰囲気を盛り上げていた。
「今はまだお昼時だけど儀式は夜6時からだったよね。」
「私その『儀式』の事が解らないの。父さんも母さんもリューキューの人じゃないから。」
アイの言葉に対してオボンが応える。
「鎮霊祭は元々こんな活気のある祭じゃ無ぇんだよ。ナンブシティの市長が街おこしの一環として
このイベントを盛り込ませたんだ。本来はリューキューの守民達が集まって霊地であるこの
ナンブシティに神器を奉納していただけだったんだが・・・」
「今はこういう単なるお祭り騒ぎも加わったってワケ。」
「へぇ・・・」
アイの立場は微妙な所だった。生まれた場所の事も育った場所の事も解らず、右往左往している様な
状態に等しい。一度は両親が生まれ育ったカントーに行ってみたいと思ってはいたが、
それが『人間として』生きている間に叶う事は無かった。

 一方ナンブシティの神社では儀式の準備が着々と進められている。
「奉納の為の念入れは市長の要請で午後5時から行なってほしいとの事だ。本来ならば
見世物の様な扱いを受ける事は不服ではあるのだが、助成金が出るとなれば話は別だろう。」
この頃守民は資金繰りに苦しんでいた。後にリーグ本部と繋がりを持つ為それは解消されたが、
当時はリーグと関係しておらず独自での運営を行なっていたのだ。
「コウガ様、既に準備は整っております。黒曜御霊は神霊台に置かれ、我々5人も
コウガ様の命を待つだけの状態故・・・」
「うむ。長旅で疲れたであろう。5時までまだ随分時間がある。お前も他の者達も
祭を楽しむなりジムの宿舎で休むなりすると良い。」
深々と頭を下げた守民の1人は、もう1人の傍らにいた女性と共に何処かに去っていった。
(さて、今年も彼等には頑張ってもらわねばな。リューキューの平和を維持し続ける為にも・・・)

 時間は過ぎ、灼熱の太陽もだんだんとその力を失いつつある夕暮れ時となった。
時刻は午後4時。アイ達も一通り屋台を満喫し、帰ろうとしている。
「いやぁ楽しかったな。来年もまた皆で来ようぜ。」
「何言ってるの。家から近いんだから簡単に楽しめるじゃない。」
「そうだよ。来年も再来年も、祭は続いていくんだ。」
「私達の友情と同じ様にね・・・?」
丁度屋台の通りが終わっている道の先はナンブシティの森に通じている。アイは森の奥へと
消えていく謎の影を見た。何かキラキラした球を口に銜えた四足の影を・・・
「どうしたのアイ。そろそろ帰らないとお父さんに叱られちゃうんでしょ?」
「今何かが見えたの。黒くて光ってる球みたいなのを銜えて・・・」
アイの言葉は不意に聞こえてきた怒声によって掻き消される。
「何たる体たらくだ。リューキューを護る守民社の者達でありながら!!」
中央の広場で争う声が聞こえ、何事かと祭の客が集まり始めた。
4人の少年少女もその怒声の主を確かめる為に広場へと向かう。

 中央広場で言い争っていたのは市長と守民の一族のまとめ役であるコウガの2人であった。
「我々は5時に儀式を神社で執り行うと言うタイムスケジュールに応じて祭の開催時刻を
決めたんだ。突然『出来ない』と言われてはいそうですかと納得出来ると思うのか!」
「仕方あるまい。黒曜御霊を少し目を離した隙に何者かに盗まれてしまったのだ。勿論
我等もP.O.D.やダークの妨害を想定していなかったワケでは無い。だが・・・」
「ともかく、5時は無理としても祭が完全に終了する午後9時までには儀式を執り行って
もらうぞ。何の為に助成金を払ってやったと思ってるんだ!」
「クッ・・・」
コウガは悔しそうに両の拳を握り締めた。言い返す事は出来ない。
「ともかく、我々の目が無かったと言うならともかく、ありはしたのですから盗んだ相手は
1人でしょう。手荷物検査を行なうしか・・・」
守民の一員であろうか。若い水色の髪をした女性がコウガに声をかけた。
「ミナモよ。それは出来ぬ・・・祭に来た者達の気分を害する事になるからな。祭の客が
多くなればなるほど盗んだ者も隠れやすくなる。見つけるのは困難だ。」
「何だその言葉は。この私に対するあてつけか?」
市長は憤慨するとコウガを思い切り殴りつけた。コウガは市長を鋭い眼差しで睨み付ける。
「ナンブシティの地域発展の為に祭を行なうと決めたのはこの私だ。この祭によって単なる
儀式で終わっていた客も集まらぬ行為が、祭のメインイベントに昇華されたのだぞ?
それによりお前達邪神守民の認識度も上がった。良い事尽くめではないか!」
「ナリミヤ様、ココは一旦頭を冷やしてください。市長官邸に戻りましょう。」
市長の秘書である女性がナリミヤにそう言うと、彼はその場を後にしようとした。
「元々邪神の発するオーラを広がらせぬ様にする神聖な儀式だったのだ!妙な付加価値を付けた
為にその儀式が悪人達の知る所となった。それが何故解らぬ!」
ナリミヤは最早振り向きもせず背を向いたまま一言釘を刺す。
「とにかく、儀式を今日中に執り行えなかった場合助成金は全額こちらに返金してもらうからな。
元々鎮霊祭等と言う陰気な名前の祭にしなければならなかったのもお前達のせいだ。
この機会に儀式と祭を完全に分けてしまうか・・・」
立ち去る市長に対してコウガも5人の邪神守民も憎しみに満ちた顔を隠そうとしなかった・・・

 広場の騒ぎから離れたアイ達4人は今からどうするか話し合う事にした。
「その影がさっき言ってた『黒曜御霊』を持っていったってのか。」
「うん。黒くて丸かったし多分そうだと思うんだけど・・・」
ズリは暫く悩んでいたが、森の方を指差し提案を出す。
「這って移動する人間なんかいないんだからポケモンがその盗難事件に絡んでいると
見るべきだわ。森の中に消えたのなら森の中を探すしかないんじゃない?」
「でももう暗くなってきたし、昼の時と違って野生のポケモンも活発に活動する時間帯だよ。
危険だしココはそれを大人に伝えて僕達は帰るべきなんじゃないかな・・・」
「いや、大勢の大人が森に入っていけばそのポケモンは逃げちまうだろ。俺はちょっと
そのポケモンに心当たりがあるんだよな。場所も解ってる。」
オボンは分厚いポケモン図鑑をポケットから取り出すと、大きなボタンを押し
検索をかけた。荒い液晶ではあったがポケモンの姿は確認出来る。
「シャムールじゃないの。」
「光り物が大好きなシャムねこポケモンだ。宝石類を主に集めてるが光沢のあるものなら
何でも集めちまうらしい。この間探検した蒼の洞窟に住んでるって話だ。」
「前言った時はそんなポケモンいなかったけど・・・」
「昼間だったからな。奴は昼間宝石類を集めて夜洞窟に隠して眠るんだ。」
「だったら尚の事危険だよ。大人しく黒曜御霊を渡してくれるとは思えないし・・・」
ザロクは全く乗り気では無かったが、ズリやオボンは行くつもりであった。
アイも取り返しに行く事に賛同し、それに押し切られる形でザロクも仕方なく頷く。

【8月8日 リューキュー 16:32 ナンブシティ近くの森】

 夏と言う事もあって太陽はまだ見えていたが、辺りは夕暮れから闇に移行する黄昏時であった。
「こういう時間帯って逢魔が時って言うよね。昼と夜の境目は人ならざるものが動き出す時間だって・・・」
「ザロク、ビビんなよ。ちゃんとポケモン持ってんだから心配すんなって。」
この頃からトレーナーとしての才能を持っていた3人はポケモンを多数持っていたが、アイは母のおさがりで
あるポケモン1匹しか持っていなかった。アイは子供心に3人に対して憧れのようなものも持っていたのかもしれない。
「ただ、油断しない方が良いわよ。ザロクが言った通り野生のポケモンが・・・」
その瞬間、茂みの奥から飛び出してきたポケモンに、彼等は素早く対応しポケモンを取り出した。
「ノーム、相手が逃げ出すまで引っ掻いてやれ!」
オボンが出現させたノームは子供程の大きさしか無かったが、飛び掛ってきた野生のグラエナにも怯まず挑み、
顔を思い切り引っ掻いた。爪は鋭く長い為傷も生半可なものでは済まない。
『ガアッ!!』
『キャハハハハハハハ!』
丁度3匹の野生のグラエナに対して3人が持っていたポケモンが1匹ずつ対処する形となっている。
カムロは頭突きで相手の頭を狙い、ケセランは相手を強烈な電撃で感電させた。
『ウウウウ・・・』
不利と悟ったグラエナは3匹とも逃げ出し、再び森は静寂に包まれる。木の枝にはホーホーや
コダマが現れ、鳴き声が遠くからも聞こえてきた。
『クスクスクス・・・』
「よぉしよくやったノーム。やっぱりお前は頼りになるぜ。」
「ま、コレで相手を完全に怒らせちゃったかもしれないけど・・・」
「ズリの言う通りよ。ともかく一刻も早く蒼の洞窟に向かいましょう。」
4人は野生のポケモンを刺激しないよう、走らずしかし歩かず競歩の様に動いて先を急いだ。
しかし昼の時とは勝手が違うのか洞窟の場所を知っているにも関わらずなかなか目的地へ
辿り着く事が出来ない。見た様な景色が続く。
「やべぇな・・・化かされてる様な気分だ。」
「だから止めようって言ったのに!」
「大分暗くなってきたわね・・・野生のポケモンも増えてきたみたい。」
木の上で月をただぼんやり眺めているコダマの数が増えていた。
また茂みからグラエナが姿を現す。その数は3匹どころの数では無い。
群れの後ろからさらに巨大な体躯のポケモンが出てきた。
「コレはちょっとヤバイかも・・・」
黒い毛並みに光る金色の瞳、口の両端に見える鋭い犬歯・・・
『グルルル・・・』
辺り一帯のボスらしいハリキングは、傷付いたグラエナ3匹を見た後4人を改めて
睨み付けた。復讐するつもりマンマンと言った感じだ。
「流石にこの人数を相手に出来る程ポケモンを持ってはいねぇな・・・」
「逃げようにも逃げられないよ。」
「うーん、コレは参ったわね・・・」
平静を装っているオボンとズリだがザロクと同じ様に足は震え奥歯が鳴りっぱなしである。
「・・・大丈夫。私が何とかするから。」
アイはそう呟くと、すっと3人より前に進み出てじっと野生のポケモン達を見つめた。
白いワンピースや藍色の髪が月夜に照らされ映えている。その瞳は優しげだった。
「出てきて頂戴、サーナイト。」
アイは懐からモンスターボールを取り出し、地面に投げポケモンを出現させる。
閃光と共に出現したサーナイトは攻撃するでも無く、ハリキングと何事か
話し合っている様に見えた。

 『私達は争いを望んでいるワケではありません。人間達の持ち物を探しに来ただけです。』
『しかし、グラエナ3匹の傷はどう説明するつもりだ。こっぴどくやられたと聞いたから
ワザワザこの俺が出張ってきたんだぞ。』
『元々そちらが先に仕掛けてきたので正当防衛したまでの事です。』
『オイ、俺に嘘をついたのかお前等、どうなんだ!?』
ハリキングに睨まれたグラエナはあまりの迫力に項垂れてしまう。
『申し訳ありませんでした・・・』
グラエナ3匹もあくまでしらを切り通す事は出来たハズであったが、早々に折れて
サーナイトに謝った。勿論4人には何がどうなっているのかサッパリ解らない。
「何かを話し合ってるみたいだけど・・・」
「とりあえずポケモンはポケモン同士任せてみましょう。ココで下手に私達が出しゃばるのは
得策じゃ無いわ。」

 ハリキングはサーナイトから事情を全て聞くと、怒りを露にし低く唸った。
『全く今日は人間に迷惑をかける不届きな奴等ばかりだぜ。人間を侮ってる奴が世界には
多くいる様だが、人間は数で言えば圧倒的に多いし、兵器は俺達の力を圧倒しているものすら
ある。共存を考えていなきゃ人間に潰されるだけだからな。』
『先程の話ですが、本当に同行してくださるのですか?』
『ああ。俺が一緒に洞窟に入ってシャムールの奴をちょいと脅かせば簡単に事が済むだろうぜ。
人間達との共存とは言ったがやはりポケモンにはポケモンの領分、テリトリーが存在してるんだ。
誰だってその領分を脅かされるのは御免だからな。』
サーナイトはアイに近付き微笑むと、ハリキングの方を指差し彼についていくべきだと言う考えを示した。
4人はポケモンの言葉が解らない為に100%事態を把握する事は出来なかったが、それでも
ハリキングの後に続き一路洞窟を目指す事にした。
「とりあえず交渉が成功したみたいだね。」
「洞窟まで案内してもらえるなら有難い事この上無いわ。」
ズリやザロクは顔をほころばせ、オボンも安堵の溜息をついた。
(危なかったぜ。一触即発のムードだったからな・・・もしサーナイトが上手くやってくれなきゃ
俺達全員アイツの爪や牙でやられてたかもしれねぇ。)
最悪の結末が一瞬頭をよぎり身震いこそしたが、アイの機転が功を奏し4人は
蒼の洞窟までハリキングに案内される事となる。

【8月8日 リューキュー 17:47 蒼の洞窟内】

 洞窟内は昼間訪れた時よりもさらに底冷えとしており、懐中電灯が無ければ奥が見えない程の
暗闇であった。ザロクは発光電気体であるケセランをボールから出し明かりの代わりにする。
「うわ、上にズバットが・・・」
何気無く上を見上げると羽を畳んだズバットが洞窟の天井に多数止まっていた。
「ズバットも昼間は外に出て獲物を捕らえる習性があるタイプみてぇだな。」
「ハリキングがいる事が牽制になってるみたい。」
アイの言う通り、ズバットの中には敵意を露にはするが攻撃はしてこないものが数匹いる。
強大な力と巨大な体躯を持つハリキングがいる為にそれを怖れ近寄りはしないのだろう。
『さぁて、洞窟の最深部に御到着だ。』
蒼の洞窟の奥は前に4人が訪れた時と同じ美しい湖が広がっている。その手前の地面に
寝そべって舟を漕いでいるポケモンがいた。
『おい、シャムール!!』
ハリキングが吠えるとそのポケモンは飛び起き辺りを見回した。
『ハ、ハリキング様じゃないですか。一体どうしてココに・・・?』
『人間の持ち物を盗んだだろ。何時もなら気にしない所だが大勢の人間が迷惑して
子供達が森に入ってきたんだ。こうなると俺も黙っているワケにはいかねぇよ。』
シャムールは抵抗しようとしたが、勝てる相手では無い事は解り切っている。
『解りましたよ・・・それで、何を返せばいいんです?』
ハリキングは4人の子供を指差して、彼等に聞く様目配せした。
「うーん・・・話が通じるかどうかは解らねぇが、俺達は綺麗な黒色の真球を
探しに来たんだ。お前がそれを盗んだんだろ?」
オボンの言葉に対してシャムールは項垂れると、ぽっかりと空いている
横穴の1つに入り数分後黒曜御霊を持って戻ってきた。
『ハァ・・・気に入ってたのになぁ・・・』
『他の持ち物もあるとは思うが、今回はコレで許してやれよ。とは言っても
こいつ等には俺の声が理解出来てねぇみたいだが・・・』
ポケモンの声を人間が理解出来る様になるまでには時が経つのを待たねばならない。
だが4人は声を解さずとも野生のポケモンとコミュニケーションを取り
黒曜御霊を取り戻す事に成功した。それは彼等が純真な子供だったからかもしれない。

【8月8日 リューキュー 18:51 ナンブシティ鎮霊祭会場 中央広場】

 7時前の中央広場では祭の一大イベントである儀式を前に、職人達が花火を打ち上げる準備を
着々と進めていた。4人の邪神守民とコウガには焦りの色が浮かんでいる。
「コウガ様、街中をくまなく捜索しましたが見つかりませぬ。ナリミヤに頭を下げに下げ
手荷物検査も実施しましたが・・・」
「もしP.O.D.の妨害なら街からすぐに逃げてしまっただろうからな。儀式が執り行えないと
言う事は祭の失敗よりももっと大きな弊害を生む。即ち邪神が発するオーラの影響が
ますます濃くなると言う事だ。そうなれば壊れる者達もまた増えてしまうだろう・・・」
邪神が放つオーラによってリューキューの人々は人ならざる能力を得た。だがそれは同時に心の闇を
増幅する力も持っている。闇に触れた人間の肌は褐色となりさらに堕ちる時暴走して沢山の人間を
殺してしまうのだ。儀式にはそのオーラの力を抑える目的がある。
「いずれナリミヤは失脚するだろう。あそこまで市民の反感を買ってしまっているのだからな。だが
今この時は我慢するしかあるまい。あれを作るには半年を要する・・・」
諦めかけたコウガがふと広場の入り口を見ると、子供が4名息せき切って駆けてくるのが見えた。
「黒曜御霊を取り返してきました!」
オボンが代表としてコウガに御霊を渡すと、5人の守民はほっと胸を撫で下ろした。
ミナモは涙を流しアイ達に礼を言い、シガンは黙ってその光景を見つめている。 
「守民としては情けないばかりですね。子供達に助けられてしまうなんて・・・」
炎邪神守民のカゲロウはそう呟くと夫でもある風邪神守民のハヤテを見た。
「ともあれ儀式が行なえる様になったのだ。素直に感謝するべきだろう。」

 儀式は7時丁度に無事執り行われ、市民はそれを鑑賞する。
台座に乗せられた御霊に対して5人の邪神守民が念を入れ邪神のオーラを
出来うる限り封じた。最後に守民の代表であるコウガが御霊を高く掲げ思い切り叫ぶ。
「今こそ、邪神の力封印せしめん!」
朱雀・玄武・白虎・青龍・鳳凰・・・炎・岩・光・水・風のオーラが
コウガの力により御霊から溢れ出て空中を覆い尽くした。そのオーラは
何処までも遠くに広がり空中一帯が様々な色に光り輝く。
「綺麗・・・」
帰宅する事をすっかり忘れ、アイ達4人はその美しい光景にただ驚き立っていた。
「これは、凄ぇな・・・」
やがてその光もゆっくりと霞む様に消えていき、儀式は完了する。
「ダルフ、カゲロウ、ミナモ、ハヤテ、シガン・・・今年も無事に儀式を行なう事が出来たな。」
「我々はやるべき事をやっただけです。それより、あの子供達に労いの言葉をかけるべきでしょう。」
ダルフはそう言うとまだ会場に残っていた子供達を指差した。
「ああ・・・そうだな。」
色とりどりの花火が空中に舞う。儀式の後行なわれた花火も綺麗ではあったが、4人の心により
深く残ったのは空中を覆い尽くしたあの聖なる光の集合体であった。

 小さな冒険と祭の思い出は4人の心に深く刻まれた。例え4人が3人になってしまおうとも、
残された者達の心にあの時の記憶はしっかりと焼き付いている。
守民達が後に生んだ子供達や失われたもの・・・それは現代と深く繋がり1つの形を成すに至るのだった。

『後書き』
今回Aコースでの作品提出と相成りました。結局
自分の作品の番外編となりましたが楽しんで
読んでもらえれば幸いです。
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.22 )
日時: 2010/09/06 22:57
名前: あいうえおちあいくん

Bコース[ポカブツタージャ、そしてミジュマル]

  知名度と人気。可愛さと格好よさ。やっぱりそういうものが重要だってことに気付いたのは、イッシュ地方からカントー地方へ引っ越して来てから最初の夏、タマムシシティの半分程を使った盛大な祭りで、お面の出店を出したときのことだった。この地方じゃピカチュウヒトカゲピッピなんて可愛げのあるやつが売れて、ポカブツタージャミジュマルなんていう俺の故郷のポケモンなんかはほとんど売れない。中でもミジュマルのお面はドガースとの最下位争いを繰り広げるほどの売れなさだ。
「まあ、こんなもんかねえ」
 呟いて、前を歩く若いカップル二人が、ピカチュウのお面をつけているのが見えた。思わずそれに溜息をつく。あの三体のお面以外が売れているので別にいいのだが、でもやはり、場所が変わるだけでここまであいつらが売れないことに、予想していた通りの驚きと、妙な寂しさが込み上げる。あの三体のお面は俺にとったら特別なもので、売れないと心の中ではわかっていながらも、やっぱり出さないわけにはいかなかった。出さなかったらあいつが消えてしまう気がするし、こいつらのお面を出すことはあいつとの約束だから、出さずにはいられない。……ああ、祭りだっていうのになんて気分だ。やっぱり俺の祭りっていうのは、この三枚のお面が売れないところにはないのかもしれない。
「おじちゃん! そのヒトカゲのお面ちょうだい!」
 少しぼうっとしてパイプ椅子に座っていた俺をハっとさせたのは、まだトレーナーにもなれない、十歳に満たないような少年だった。
「僕、絶対にヒトカゲと一緒に旅に出るんだ!」
「そうか。頑張れよ、坊主」
 お面を渡し、ピッタリのお金をもらうと、少年は頭にそのお面をつけて後ろ向きに駆け出していく。その先には両親らしき姿があり、駆け寄った少年を抱き上げた。俺は、自分の記憶を見たような気がした。自分もまた、あの光景の一部だったはずだ。子どもが走ってきて、それを抱き上げる。子どもは満面の笑みを浮かべていて、妻も、幸せそうに微笑む。祭りの幸福感に負けないくらい幸せな、はちみつのような雰囲気がふんわりと包み込む。
「……駄目だな、俺」
 見ていられなくなって、俺は思わずあの家族から目を背けた。あの鷹揚とした雰囲気は、ただでさえ深海のような寂寥感を、さらに沈めてしまう。見ていると苦しくて、溺れそうで、泣きたくなる。
 ――もう、やめよう。こんなことをしていても意味が無い。お面なんかいくら売ったって、仕方がない。金はいらない。もうある。だからこれはただの自己満足で、きっともう満たされることはない。もう、満たされない。
「……俺も、旅に出るかな」
 本当にもう店をたたんでしまおうとして、椅子からゆっくりと立ち上がったとき、いつの間にかミジュマルのお面をつけた一人の青年が俺の前に立っていた。
「兄ちゃんよお。そのお面、珍しいな」
 どこで手に入れたかはわからないが、そのお面を見たら嬉しくなって、俺は思わず話しかけてしまう。でも、兄ちゃんはただ黙ったまま直立して、じっとこちらを見ていた。……いや、目線はお面でわからないのだけど。
「なんだ? 黙ってちゃわからないぜ。言いたいことははっきり言わないと」
 俺がそう言うと、兄ちゃんは一歩だけ前に出てきて、両の手を握り締める。わずかに震えているような、何かに耐えているような、そんな風にも見えた。
「……あの人は、もう死んだんだ」
「えっ?」
 兄ちゃんが突然口にした言葉に、俺はドキリとする。どうしようもない寂しさと、胸にぽっかりと穴を開けられたかのような感覚が蘇る。
「な、なんだ兄ちゃん。突然、何を言い出すんだよ」
 明らかに動揺している自分がいる。だめだ、まずい。落ち着け、俺。
「寂しいのはわかるけどさ、もう、あの人はいないんだよ」
「だ、だから兄ちゃん。なにを言っているのかわからねえよ」
「でも、あんたは一人じゃない。それくらいわかれよ。こんなとこで腐ってんじゃねーぞ。あんたは俺の目標だった。憧れだった。誰よりも強くて誰よりも優しくて、そんなあんたが、俺は好きだった。だから、腐ってんじゃねえよ。俺を生かした責任を、最後まで持ちやがれ。あんたが本当に限界まできたら、今度は俺が面倒みてやる。だから、それまでは、頑張れよ」
「……随分言ってくれるじゃねえか」
「約束くらい、守れ。俺との約束だけじゃなく、あの人の約束も守れ。その三体のお面、ここでしっかり売ってみろよ。それが、あの人とあんたが一緒にやるはずだったことだろ。昔から言ってたもんなあ。トレーナー引退したら、面でも売るかって。だから、続けろよ。途中でやめんな。不貞腐れんな。歯食いしばれ。両足でちゃんと立て。手えぬくな。全力で生きろ。だらだらやってんじゃねえ」
「て、てめえ……」
 青年をにらみ付けると、そのミジュマルのお面の頬に傷が入っていた。その傷には、確かに見覚えがあった。
「これ、全部あんたに言われたことだ。だから、俺はそうやって旅を続けてる。歯食いしばって、両足でちゃんと立って、全力で生きてる。チビのときあんたにもらった、このミジュマルの面に恥ないように生きてる。俺は、俺を生きてる。そんでもって、俺はまだまだこれからだ。あんただって、まだまだだろ。そんなんじゃ、あの人に笑われっぞ。あははって、格好わるいわねって、笑われっぞ。いいのかよあんた。そんなんでいいのかよ。……だらだら引き継いで、だらだらやってんじゃねえぞ!」
「……っへ。言わせておけば、随分ぬけぬけと色々言ってくれてるじゃねえかこのガキが!」
 俺は、パイプ椅子から勢いよく立ちあがり、そのままその青年を殴り飛ばす。彼は、避けなかった。喋っていたときの格好のまま、ただそのままに俺の拳を受け止め、青年はそのまま後ろへ一歩だけ後ずさって止まった。
「はは。やれば出来るじゃん」
 その全体はわからない。けれど、青年は、間違いなく微笑んだ。にい、っと顔を歪ませ、じっと俺を睨んでいた。
「ほざけ小僧が。てめえ、誰に向かってそんな口聞いてっかわかってんのか」
「うっせえぞくそオヤジ。母さんが死んだからっていつまでも腑抜けてやがるから、俺が根性叩き直しにきてやったんだよ」
「馬鹿いうな。てめえに叩きなおされる根性なんかあるか。このヒヨッコが」
「へへ。通りすがりの息子をなめんなよ、この腑抜けじじい。あんたが俺を拾ったあの瞬間から、俺はあんたを目指してやってきたんだ。いつまでも超えらんねえなんて思ってんなよ。あんた、最初俺だって気付かなかっただろ? ほら、それが成長したってことさ」
 俺はくひひと笑って、バカせがれはにひひと笑った。
 笑って、俺達は殴りあった。
まだろくに一人じゃなんも出来ねえのに、旅に出たいと言う息子を思いっきり殴り飛ばしたあの日から、随分たった気がする。そういや、母さんが死んだなんて、こいつよく知ってたな。教えてもねえのに。へへ。やっぱりその辺は俺の息子なのか。
 殴って、耐える。殴られて、耐える。殴って殴って殴って殴ってだったのが、いつの間にか、変わっている。
 殴って殴って殴って、俺はこいつを育てた。いつも吹っ飛んで気絶して目え回してやがったのに、いつのまにか刃向かってくるようになって、家を飛び出し、やっと戻ってきたと思ったら、俺の拳に耐えやがる。この馬鹿野朗が。
「成長したなあくそガキ!」
「そりゃああんたの息子だからなあ!」
 俺が笑う。せがれが笑う。きっと、美佐も笑っている。俺の妻は、きっと、笑っている。


◆ ◆

  俺達の殴り合いは、町の人達によって止められた。
 清楚な町のジムリーダーさんにこってりしかられたけれど、このジムリーダーが中々美人でよかった。馬鹿息子は怒られている間中ずっと楽しそうにしていて、自分の息子ながら、変態だと思った。
「じゃあ俺は行くけど、来年の夏、あんたがまただらだらしてたら来てやる」
「なめんなよくそガキ。そういうことを言うのは俺を越えてからにしろ」
「はは、違いねえや」
 そう言って、新しくやったミジュマルのお面をつけた馬鹿息子は、笑いながらサイクリングロードへと入っていく。小さくなっていくその背中を見て、拳の痛みを覚える。
「美佐。俺達の息子、でっかくなりやがったぜ」
 あいつにやったお面、そして、あいつからもらった傷の入った古臭いミジュマルのお面。この傷と、そしてこの拳の痛みが、あいつの成長を物語っているようだった。
 美佐。もう一度約束だ。俺は、このお面を売り続ける。やってやる。
 だから笑って見ててくれ。俺と、あの馬鹿息子のことを。
 この先、ずっと、ずっと。

[了]
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.23 )
日時: 2010/09/06 22:57
名前: 雑食仕様

{A:あの夏をもう一度}

そびえ立つ入道雲に向かって白色の軽自動車が田舎道を直進していく。
去年免許を取った後に買った軽自動車は、ちょっとした振動でもすぐに伝わるからちょっと怖いがそれでも大事な相棒だ。
しかしこの田舎道は前も、そして右も左も田園風景。飽き飽きしているのは運転手のおれだけでなく隣の助手席にいるエレキブルもだろう。
狭苦しそうにしているエレキブルをボールに戻しても良かったが、久しぶりの帰郷なので風景を楽しんでもらいたかった。しかしどうやらそうもいかないようで。
田舎から都会の大学に出てから、何もなくて昔は大嫌いだったこの故郷もそうではなくなった。
都会はモノに溢れすぎて疲れる、というのもあるし、野生のポケモンが少ないというのもある。
でも人間関係は割りと良好だし、ポケモンバトルサークルもなかなか楽しいし、うーん。……つまりそれぞれ良いとこがあるということだろう。
誰がみてもかなりの年期の入った日本家屋の前で車を止める。エレキブルを強く締め付けていたシートベルトを外してやってドアを開けると逃げるように車から出、少し放電しながら大きくのびをしていた。
「おぉ、お帰り。思ったより早う着いたやんか」
エレキブルに遅れて車を降りると、麦わら帽子を被り、首には真っ白のタオルをかけた親父が声をかけてくる。
「高速が以外と空いてたからね。おかげでまだまだ明るいうちに着いたよ」
「今回はいつまでいるんや」
「十日はいるつもり」
「そうかい。まあ疲れただろうから麦茶飲みぃな」
「そうするよ。家(うち)には母さんも淳もいるんだろ?」
「淳はまだ畑やね。兄ちゃんが帰ってくるから自分で作った美味しい夏野菜食べさせたる言うてまだ畑おるき」
こんなに早く帰って来たせいで、家に残って農作業をすることを決めた弟にはすまないことをしたなと思った。
それからちょっと喋って家の中に入ったが、父さんにエレキブルの腕を叩きながら逞しくなったなと言われて照れてるエレキブルが印象的だった。
居間でお茶を飲んで、母さんと少し喋ってから特に荷物も持たずに家を出た。



帰省する度に欠かさずやっていることがある。
それは家からすぐ行くとある山に探検しに行くことだ。と言っても山登りをするわけではなく山の途中辺りまで行って特に何もせずに帰ってくるだけで、何の意味もないように思われるかもしれない。しかしおれとエレキブルには大事な用である。
なぜならそこの山でこのエレキブルと、当時はエレキッドだったが初めて出会った場所なのだ。
初心に帰って気を引き締めるにはこれ以上ない。しかし今回はそれ以外にも目標がある。
プロの有名ポケモントレーナーと交流試合をして負けはしても善戦したとき、センスはある。と言われたおれだが、最近はさっぱり白星がない。どれも僅差で負けてしまう。前まで勝ち続けていた相手にもだ。何がダメなのか、きちんとそれを見つけたかった。
久しぶりに入った山は昔と微塵も変わっておらず安心した。向かいの村では開発の手が加わっていたりと田舎も安心出来ない近頃なのでもしかしたらと思っていたがまだ大丈夫のようだ。
木と木を渡り歩くエイパム、その頭上には数多くの鳥ポケモンと足元には草、虫ポケモンたちが跋扈している。
あぁ、やっぱりここはいいな。エレキブルも同じく悦びを全身で感じている。
ちょっとするとリングマが前方からやって来た。このリングマとはこの山で何度も戦った戦友だ。何度か仲間にスカウトしたが首を横に降って拒否を意する雄叫びをあげられた。
今回もおれたちと勝負をしたいのだろうか、いつでも来いと言わんばかりに構えている。
周りのポケモンも様子を見るかのように円になってこちらの様子を見ている。ならばやるしかないな。
「エレキブル、まずは雷パンチ!」






木と木の狭間から太陽の光が零れて丁度いい心地よさを醸し出している。太陽が沈むにはまだまだ時間がかかるようだ。
草と土のベッドはいい匂いはしないが気持ち良かった。
「すまんなエレキブル」
おれの隣で同じように大の字になっているエレキブルに語りかける。エレキブルは悔しそうに唸り声をあげた。
「リングマ、また強くなってる」
まったくだ、と言いたげにエレキブルは鼻を鳴らす。
おれたちの攻撃はことごとくかわされ、そう。一手先を読むという言葉がこれ以上ないほどに当てはまる程だった。
ワザが当たらなければダメージは与えられない。いい感じのカウンター攻撃を何度か食らってエレキブルはノックアウト、リングマはまだ物足りなそうに帰って行った。
正直ショックだった。
リングマには何度も負けたことがあるが、ここのところは勝ち続けていて、しかもこの一年おれたちはワザの鍛練、効率の最良な作戦をひたすら考えてきた。だがそれで他のトレーナーに負けるならまだしも、いくら戦友とはいえ野生のポケモンだ。リングマに負けるのは今までになく悔しかった。エレキブルが気を取り戻すまでちょっと涙目になっていた。
「っ、よいしょ!」
転がしていた体を起こして髪や服についた砂を払う。しかしこれは帰ったら洗濯だな。……そういえば昔はよく泥んこになって遊んだっけ。何故かそんなことを思い出す。
エレキブルも体を起こすと背中の毛についたものを払ってやる。ときたま体毛から電気が流れるが、それくらいなんともなかった。
「……帰るか」
結局惨めな思いをするだけだった。本当に何がダメなんだ?分からない。思考は出口を探して往々するだけだ。
いや、思考だけではなく、山からも抜けれないようだ。辺りはすっかり暗くなっていた。しかし久しぶりとはいえこの山に来ているからここは庭のようなもの。迷うわけがない。おそらくは夜にやってくるゴーストタイプのいたずらか。ゲンガーの入ったモンスターボールに手を伸ばし、いたずら者を仕留めてもらおう。そう思ったとき子供の声がどこからか聞こえた。
木の陰に隠れて声の主を見ると、間違いない。そこには子供のときのおれがいた。どういうことだ、ゴーストタイプのいたずらでここまで可能なのか。とりあえず様子見だ。エレキブルには戦闘準備をしてもらって控えてもらう。
一方の子供のおれの目の前にはあのリングマがいた。今よりもまだほっそりしているイメージがあるが、それでもなお一般的なリングマより力があった。
そして子供のおれの隣にはまだ小さかったエレキッド。
当時のおれは誕生日に買ってもらったモンスターボールを持ってエレキッドと共に山に入り、そのころから既に山の暴君として有名だったリングマを捕まえようとしていた。
エレキッドは仲良くなってから捕まえたポケモンであるから捕獲に難を感じてなかったため、調子に乗って攻撃を一切せずにリングマにモンスターボールを投げたのだ。もちろんその時のおれに弱らせた方が捕まえやすいなんてことは一切頭にないだろう。
しかしリングマはそのモンスターボールを右手で軽々しく弾く。それにムキになった子供のおれは持ってたボールを全て投げたがどれも弾かれ使い物にならなくなってしまった。
怒ったリングマが今度はこちらの番と攻撃をしかけた。腕を高く振り上げてのアームハンマーだ。
それを見ていたおれもエレキブルも危ないと思ったが、意外にも子供のおれとエレキッドは二人して懐に入ってパンチを繰り出した。まだ威力は対したことはないのだが不意を衝かれたリングマには効き目バッチリだ、そのまま体のバランスを崩して尻餅を打つ。
あぁ、このとき初めてバトルが好きになったんだ。そして好きで好きでしょうがなかったんだ。あのドキドキと臨場感に惹かれたんだ。
子供のおれたちがリングマに追撃しようとしたとき、リングマは尻餅をついた体勢のまま地面にアームハンマーを放つ。その衝撃で辺りは揺れ、子供のおれとエレキッドは転ぶ。そしてリングマは立ち上がると、そのおれたちに背を向けて山奥へ歩き出した。
そうだ、今のおれに無いのはこういう野性的なモノと根性だ。いつの間にか勝つことだけにこだわるようになっていたため、勝負をより安定に勝つことを求めるようになっていたから本来の自分が出せなかったんだ!
そこで唐突におれの視界がぐにゃりと歪んだ。子供のおれも、エレキッドも、山に戻るリングマも、そして山も歪んで潰れて消えて行く。
代わりに目の前に現れたのはさっきエレキブルと横になっていた場所だ。幻は解けた感覚を何故か持っている。さっきのはなんだったのかを反芻しているとエレキブルに肩を叩かれた。
その焦りようから何かあったのかと心配していると、エレキブルはしきりにどこかを指差している。その先を目線で追うと緑の影。その影はすぐに木々に命を与えながら姿を消して行った。
まさか、聞いていたがこんなことがあるなんて。
「セレビィ……」
おれはその影の主の名前を呟いたまましばらく込み上げてくる喜びのせいで動けなかった。



翌日朝からご飯を食べるとすぐに山に行った。するとすぐにリングマが現れる。
「さあ勝負だ!」
この言葉が合図となり勝負が始まる。リングマ先制のアームハンマーに対し、おれとエレキブルは目で合図してリングマの懐に潜り込み共に強烈なパンチを浴びせてやった。



あとがき
Aを書かせて頂きました。
皆さんの作品と比べると霞むような出来ですが、読んでくださると光栄です。
ちなみに主人公の父の方言みたいなのは出鱈目です。
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.24 )
日時: 2010/09/06 22:58
名前: Rという名の勇者

B『楽しめ、四回目の花火大会』




『八月十四日一回目

 昼一時に起きる。(寝すぎて体が痛かったのでもっと早く起きたほうがいい)
 五時の約束の時間までゲームをして時間をつぶす。(もっと有意義に過ごしたい)
 三時に妹が帰ってくる。(部活の練習で疲れているので何か冷たくて甘いものでもおごってやると喜ぶかもしれない)
 四時四十五分に妹と共に家を出る。(本当は四十分前だったが妹の火の元点検で遅れる、先にやるように指示しておく)
 田中との待ち合わせ場所には四時五十五分に着くが田中は十分前に来ている。(素早く行動するために自分たちもその時間に来る)
 妹がチョコバナナで浴衣を汚す。(十分に注意を促すか買わない様にさとす)
 田中がひもくじで最新ゲームを二つも当てる(一番右端と左から四番目、是が人も自分が引きたい)
 財布を落としていることに気づく(何が何でも落とさない)
 妹が同級生の男に絡まれたので田中と共に追い返す(妹はまんざらでもなさそうだったのでそのまま別れてもよかったのかもしれない)
 田中が輪投げで千円を当て、俺にくれる(落とした振りをしてももらえたのではないだろうか)
 花火大会の場所取り、隣の若いグループが悪酔いする(場所を変えたほうが良い)
 帰る途中に大型のトラックに轢かれそうになる(車道側を歩かない)
 深夜一時、これから寝る。』

『八月十四日二回目

 朝の九時に起きる(疲れはなかったが微妙に遅かったため妹に俺の分の目玉焼きを食われる)
 一時まで勉強(集中できなかったのでほとんど身に入らなかった)
 一時に妹のためにバケツアイスを買いに行く(暑すぎて帰ったら少しとけていた、保冷剤をもらったほうが良い)
 三時に妹が帰ってくる(バケツアイスにご満悦だがイチゴ味が良いと怒られる、贅沢言うな)
 四時に火の元点検、ガス栓がゆるかったので締める(何気に危ないのでしっかり注意すること)
 四時三十五分に家を出る。
 途中で道に迷っている外国人に声をかけられる、対応で五分時間を潰す(目的地は公民館、チェコ人なのでチェコ語を調べておく)
 田中との待ち合わせ場所に四時五十分に着く、もちろん田中は五分前に来ている
 妹がチョコバナナを買うのは阻止したが綿あめを髪に付けてしまう、たしなめると「昼に食べたのがイチゴアイスだったら甘いものは欲しくなかった」と言われる(何が何でもイチゴアイスを買うこと)
 ひもくじを二回行う、右端のものは最新のゲームだったがもう一本ははずす、田中、妹共にはずす(左から四番目は間違い、三回目に確認すること)
 左側のポケットに財布を入れていた結果落とさなかった。
 妹が同級生の男に絡まれたのでそのまま別れる、だが泣いて戻ってきた(三回目には殴っておく)
 田中が輪投げでエアガンを当て、妹にプレゼントする(財布を落とさなかったことでずれが生じた模様、千円はあきらめるが吉)
 花火大会の場所取り、杉の木のそばを取る、視界、周りの環境共に良好。
 花火大会の途中に妹がデジタルカメラを忘れたことに気づく(出る前にきちんと確認をさせる)
 帰る途中、歩道側を歩いていると自転車にぶつかりそうになる(横に広がらず縦に並んで帰る)
 深夜一時、これから寝る』

『八月十四日三回目

 朝の七時に起きる、朝食の目玉焼きを家族で食べ、再び寝る(しょうゆをこぼす、量は少なめで)
 十一時に起き、公民館までの道のりをチェコ語で言えるようにしておく(インターネットを使うと楽)
 十二時にスーパーにアイスを買いに行く。(いろいろあったが忙しいので後述する)
 深夜三時、疲れた、書きたいことは山ほどあるがこれから寝る。(心配せずとも誰の命にも支障はない)』




 それだけ書かれて三回目のページは終わっている。
 デジャブだと思っていたものがすべて真実で、ただ単純に俺が一日を四回繰り返しているだけだと気づいたのは十歳を越えたころだ。
 始めは気が狂いそうになったが日記を付け始めることですべては変わった。一般人なら日頃持つであろう願望「こうなることがわかっていれば」それが俺だけ現実になるのだ。それからはそれなりに楽しい人生を送っている。
 だが、このようなことは八年間で初めての出来事だ。一回目、二回目の経験をもってしてもなお対処しきれない事柄があったと言うことなのだろう。しかし、それを書いてもらわないと四回目の俺は非常に困る。
 だがふと考える、もし三回目に俺の人生にかかわるようなことが起こったのならば三回目の俺は何が何でもそれを書き記すだろう、事実今まで俺はそうしてきたのだ。つまり、予想だにできないさまざまなことに巻き込まれるがそれは俺の人生、ひいては親友の田中や妹の人生のも支障をきたすものでもない。三回目の俺はそう判断したのだ。
 それならば何も怯えることはない、巻き込まれておけばいいのだ、今日はこの街一年に一度の大イベントの花火大会だ。少しくらい波乱万丈で、予想できないほうが楽しい。

『八月十四日四回目

 朝七時に起きる、なんだかよくわからないが予定は変えない、今日は花火大会に行く』


 ノートにそれだけ書くと俺は台所へと向かった。朝食は大好物の目玉焼きだ。妹のためにアイスを買いに行かないといけないし、チェコ語を勉強しないといけない、それとガスの元栓も締めなければならないしデジタルカメラも探しておかなければ。

 八月十四日、俺の祭りが始まった。



あとがき

全体的に雑。焦って一日で完成させようとしたのが敗因、だがこのシチュエーションでこれ以上は俺には無理。
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.25 )
日時: 2010/09/06 23:00
名前: Rという名の作者

『時間の気紛れ、空間の悪戯』


 無の空間が広がる世界。光も、闇も、そんな物など軽く超越した世界。
 この世界の周りを囲む、いくつもの世界。時間、空間、反転、そしてそれらの中心となる世界。
 それぞれの世界には一匹ずつ神が存在する。逆に言えば神一匹しか存在しない……失礼、その世界をつなぎ止めるかのようにアンノーンが大量に飛来しているのを除けば、神一匹のみしか、各世界に存在しない。
 今日も世界の平和を保つため、神々達は各々納める力を使い均衡を守っている……。

 ここは時間を司る世界……時間神ディアルガは、ただ悠然と世界の有様を見ていた。
 何にも考えていないような魚が死んだような目で漠然と世界を見ていた。花畑、河原、大きな高原、人間達が暮らす街並みと、彼の前にある大きな鏡のような物は様々な光景を移していく。
 しかしディアルガはまるでもう見飽きたという風に大きな欠伸を一つし、またも死んだ目でその光景を見続ける。

「流石に暇だ……こう何も起きないと、退屈で死にそうになってくる……」

 彼ら伝説のポケモンの寿命は長い。むしろ半永久的とも言われるほどに長い。
 ディアルガの力は、彼の心臓が動き続ける限り、世界中の時は平和に流れると呼ばれるもの。
 つまり彼が生きている限り、時間が暴走する事もないと言うこと。じゃあ死んだときはどうなるのかと言われると……まぁ寿命はほぼ永遠なんだし大丈夫でしょ、としか答えられない。
 ただやはりというか必然というか、そのような絶大な力を持ってしまうと、時としてそれを持て余す事が多々あるものだ。
 彼の場合持て余している物、それは“退屈”という事に他ならないであろう。
 何時も何時も変わらない景色ばかりを見続けて、時の平衡が崩れた時にのみ我らがいる世界へと行くことが出来るのだから。
 何か事件が起こってくれないかと神とは思えない事を考えつつ、ディアルガはふとある光景に目を止めた。
 それはとある田舎にて行われている、小さなお祭りの光景であった。
 小さなやぐらをたててその上で和太鼓をドンドンと叩いている。その周りを囲むように人々がなにやらゆったりとしたテンポのダンスをし、その周りを囲むように食べ物や飲み物を売っている屋台が軒を連ねる。
 なんてことはないごく普通の夏祭りの光景であったが、ディアルガはついつい見入ってしまう。

「ほぉ、随分と楽しそうにしておるな……全く、私が退屈で仕方がないというに……」

 ふうっと大きな息を漏らし、そこでふとあることを思いつく。

「――ならば、この祭りに参加すればいいだけの話ではないか。ただ、時間の均衡を守るという仕事があるから出来ないが……。
だがこの体だけを残し、魂を別のポケモンとして変形すればあるいは……」

 むぅっと考えにふけるディアルガ。悩みに悩み、彼は一つの答えを出す――。



 一方こちらは空間神、パルキアが住む世界。こちらはこちらでなにやら色々とあるようだ。
 パルキアはディアルガが見ていた鏡と同じ物を見つつ、なにやらうーんと唸っていた。

「さぁ〜って、今日はどんな奴にイタズラしてやろうか……」

 うっすらと邪悪な笑みを浮かべながら一言。ディアルガと比べて随分と神としての質が下がった気もするのだが、彼もれっきとした神である。そうは見えないが。
 彼が司る力空間とは、ありとあらゆる場所から場所へと道をつなぐ力である。
 例えばAからBまでの距離が何十キロもあるとする。しかしパルキアの力があればそれを零にすることも不可能ではない。むしろ朝飯前だ。
 その力を悪用し、鏡で見えた人間やポケモン達に空間を繋いでイタズラをしまくっている、神々の中でも結構問題児としてパルキアは有名なのだ。
 彼が感じる不満は“孤独”。絶対的な力を持つ神である故に一匹で過ごさなければならないという事が一番の要因であり、誰かに気付いて欲しい、という想いが歪んでしまったが故にこのような行為へと走ってしまったのかも知れない。

 今日も誰にイタズラをしてやろうかと悪巧みを行っていると、ふとある光景に目を止めた。
 それは、とある田舎にて行われている、小さなお祭りの光景であった。
 小さなやぐらをたててその上で和太鼓をドンドンと叩いている。その周りを囲むように人々がなにやらゆったりとしたテンポのダンスをし、その周りを囲むように食べ物や飲み物を売っている屋台が軒を連ねる。
 なんてことはないごく普通の夏祭りの光景であったが、それはついさっきまでディアルガも見ていた光景だ。

「へぇ、夏祭り……ね。ここでちょっとばかし暴れてやるって言うのも面白いな……」

 にたぁっと笑みを浮かべて、しかし何かを思いついたようにハッとする。

「いや待てよ? どうせなら魂を体から解放して、一般ポケモンとして紛れ込むのもありだな。よし、早速行って暴れ回ってやるぜ!」

 きっひっひとまるで子供のような笑顔で早速準備に取りかかるパルキア。本当にこいつが神で大丈夫なのかと不安になる光景である。


 二対の神が、同時に世界へと降りて行く。一方は暇つぶしの為に、一方は悪戯をする為に。
 この時二匹は、この決断がその後どういう風になるのかを考える事は無かった。
 せめてディアルガだけは、時間を司る力で時のトンネルを覗いてみた方が良かっただろう。だがしかし、運命はそうする事を望まなかった。
 さぁ、一体どうなる事やら……?




〜後書き〜
↑の奴一体誰だよw 自分はこんな書き方しねぇての!! まぁいいけど(いいんかい!?)
四作目、Bコースにて神様を絡めてみました。
結構良作だと思うんだけど、どうだろう? まぁいいや。
でわ!
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.26 )
日時: 2010/09/06 23:01
名前: ノルスタルジー将軍伍長

B『君は死人に何を見るか』


 夏祭りの日。
 私は事故にあった。



「え? なにこれ?」
 『私の手術』が行われているであろう手術室の扉の前に私は立っていた。
 生死をさまよっている人間がベッドに横たわっている自分を眺めている、そんな話はよくあることだ。
 だがそれにプラスしてスーツ姿の男の子が見えるという話は聞いたことがない。
 そして今私が見ているのはまさしくそれなわけで……
 スーツを着ているものの、その男の子はそれを着るには幼く見えた。大体十七か八、私と同じくらい。そもそも茶髪でスーツを着こなす人なんてあまり居ないように思う。
「はいこんにちわ」
「こ、こんにちわ」
 挨拶をされたので私も返そうとしたが、あまりにも非日常的過ぎる光景に戸惑い、口がうまく回らなかった。
「いやー、ね、事故っちゃったね。痛かったでしょ」
「うぇ、え?」
「あーごめんねー、ちょっと現状を理解していない感じだねー、あのねー、君今幽霊的なポジなのよ、わかるー? アンダースタンティング?」
 私の頭を押さえつけまくし立てる男の子。同じクラスの田中と同じような口調で、少し腹が立つ。
「し……死んだんですか! 私死んだんですか!?」
「いやねー、もし君が死んでるとしたら呼び名は『幽霊』な訳ね、でもねー、君はね『幽霊的』な訳ねつまりこれどういうことかというとねー、君まだ死んでないって事なんだよねー」
「は、はぁ」
 まだ現状を理解しきれないがとりあえず自分がまだ死んでいないということに胸をなでおろす。世の中には自殺したがりの女の子も居るが別に私はそうじゃない。むしろ長生きしたいくらいの勢いだ。
「ギリ死んでないから、いやほんとギリ。ぶっちゃけるとこの手術成功するし、まぁ君の選択しだいでは失敗になるけども」
「ちょっと待って! 整理を! 頭の中を整理させてください!」
 両手で彼を制し、その場にしゃがみこんで一生懸命考える。できる限り冷静になろうとも勤めた。
 近くの商店街で開かれる夏祭りに行こうとした時、私はトラックにはねられた。チョー痛かった今思い出しても泣ける。
 んで、今生死をさまよっていると。そんで、今なぜか『私じゃないところに居る私』の前にこの男の子が現れたと。ん? これは小説とか漫画とかでよく見た、いわゆる王道的なあれだ。
「死神!」
 私は立ち上がり反射的に彼を指差してそう言ってしまった、冷静になって考えてみれば彼が死神だろうが私立高校生だろうがものすごく失礼ない行為だ。
「あ、そういうこと言っちゃう? 君そういうこと言っちゃう? あのね、話せば長くなるんだけどねそもそも天使とか死神とかそんなもん君らが勝手に作り出したものであってねたとえば今から君を俺が向こう側に連れて行くとするわなそうすれば君は向こうで生活することになるんだけどもねそれを楽しいと思えば君の中で俺は天使だけどもねそれを楽しいと思わなければ君の中で俺は死神もしくは悪魔になる訳だよなにこのダブルスタンダードっぷりは君らのいいように解釈しやがって大体なんで死神とか悪魔とか黒基調のイメージなんだよこちとら仕事するときはスーツだっつーの大体天使のイメージ裸ってあんた馬鹿かと死ぬのかといやそいつがいつ死ぬかとか知ってる訳なんだけどさなんと言うか気持ちの問題でそういうのすごい腹立つだいた」
 私の発言がそれほど気に食わなかったのか死神が長々と何かを語っている途中に手術室の扉が開いた。扉が私と死神をするっとすり抜け、あぁ、私『幽霊的』だなと改めて感じた。
「やば! おい、場所変えるぞ!」
 死神は手短に言うと私の手を掴んだ。次の瞬間私たちは病院の近くにある公園に居た。本能的にベンチに腰掛ける。腰が抜けたというのも理由のひとつだ。
「死神さん、何で急に場所を?」
 正直瞬間移動的なものにあまり驚きを感じなくなっている私が怖い。
「……死神じゃないっつーの、ちゃんと名前があるんだ、ほれ」
 死神はポケットから会社員がよく首から提げているネックストラップを取り出し、巻かれた紐を解いた後に私に見せた。なんか、『天国』とか『請負』とか私を再びファンタジーの世界に連れて行きそうに単語があったので無視し、ミカミと書かれた部分だけを見た。
「ミカミ、さん」
「そ、ミカミ。さーて、なんだか無駄な時間を使いすぎたけども、さっさと本題にはいっかぁ!」
 ミカミさんは邪魔くさそうにネックストラップを首にかけると背広のポケットから小さなメモ帳を取り出した。
「えーっと、コニシ……リカコ?」
「あ、サトコです」
 理子という私の名前は読み方が難しかった。
「あ、そう、サトコちゃんね。あのねー、ぶっちゃけると君ね百六歳まで生きるのね、あ、俺とあった記憶とかなくせるから安心してね、んで、今回の事故はなんと言うかこっちから見ても事故でね、ま、たまにあるんだけどねそういうことも。んで本題なんだけども、サトコちゃん、生きる? それとも死ぬ?」
「は、はいぃ!?」
 突込みどころが多すぎて、単語の形をした言葉が出てこなかった。だめだ、この状況に私の慣れが追いついていない。
「いやそんな反応されても」
「あ……あなた生きるとか死ぬとかそんなに簡単に」
「いや、そのなんと言うのかな、こっちとしてもこんな事をしてしまったことに若干の引け目があってね、一応死ぬ権利ってのを与えようかなと、あの会社の方針でね」
「そ、そんなの生きるに決まってるじゃないですか! 嫌ですよ死ぬのは!」
 ベンチから立ち上がって怒鳴るように言うとミカミさんはちょっとたじろいた。
「あ、そう。いやね、最近多いからね。あの自殺って言うの? あれね、あれ大変なのよこっちとしてはね」
「知りませんよ」
「ま、愚痴だと思って聞いてよ、そもそも最近は何万人もの人間が死んでるわけよ、いやほんとに。ま、そういう人たちはこっちがいつ死ぬかリストを抑えてるんだけどね、たまにいるんだよね、こう突発的に死ぬ奴が、で、会社としては常勤の人間をよこす訳には行かないからさ俺みたいなさ、なんと言うか引退組っていうの? 非常勤の人間が借り出される訳ね」
 ミカミさんが身振り手振りを交えて説明する。
「あれホントすごい迷惑なの、こっちとしても優雅な隠居生活を送りたいのにさ、マジ勘弁。あとさ」
 ミカミさんの話はとても長くなりそうで、私はちょっとボケッとしていたがが近くで何かが破裂する音が聞こえて我に帰った。
「空襲か!?」
「違います! 花火! 大変お祭りが始まっちゃう!」
 ミカミさんは両腕で頭を抱えてしゃがみ込んでしまっている、少しからだが震えていてその風貌はうさぎによく似ていた。
「戻して! 早く私を生き返らせてくださいよ! お祭りが終わっちゃう」
 急いで病院に戻らなくては。
 病院のほうに向かおうとした私の脚をミカミさんが掴んだ。こけた、でも痛くない。『幽霊的』ってステキ。
「いやいや、病院には行きたくないし! そもそも今生き返ったってすぐに祭りに行くのは無理だろ常識的に考えてみろ、なんかいろいろあるんだろあの点滴とか……採血とか」
「あなたさっきから病院嫌いですね! 死神的なあれなんだったら病院とか平気でしょ」
「……血が嫌いなんだ」
 ミカミさんは私から目をそらしていった、心なしか顔が赤い、恥ずかしいのかな。
「いや知らんし、あ、そうだ! あなた達の責任なんだから何とかしなさいよ! 出来るでしょ!?」
「いやーそんなにお祭りに執着されても……」
「あぁん!?」
 この地域は娯楽が非常に少ない、私は空手部に入っているが本当に娯楽が部活ぐらいにしかない。
 その私から年に一回しかないお祭りを向こう側のミスで取り上げるなんて……その残酷さをミカミさんはわかってない。
「そ、そんな怖い顔しないでよ、何とかするから機嫌直してよ」
「とりあえず足はなしてください」


 「ちょっと待ってろ」といってミカミさんは消えた、さっきの瞬間移動的な奴だろう。
 しばらくすると再び私の前に現れた、瞬間的に。
 だがさっきとは大きく違う、今回現れたミカミさんはミカミさんではない、ものすごく難しいことを言っているがそんなにわからないことではなくて、単純に姿形が違うってだけだ。瞬間移動してこなかったらミカミさんだと気づかなかっただろう。
 今回のミカミさんはどこかの高校の制服を着ていた、だけど一昔前の制服っぽい。耳が隠れる程度の黒髪でイケメンだ、元もイケメンだったけど。
 ミカミさんは女の人を背負っていた、これも近所の高校の制服だ、やっぱり一昔前だが、肩ほどまである黒髪で、まぁ悔しいけども美人、目がいい感じに細くて唇もいい感じに薄い、儚い感じの美人。
「ぜぇ……ぜぇ……これサトコちゃんのね」
 ベンチにぞんざいに投げられる美人。地面に投げないだけ思いやりが感じられるけども……
「え? これ人ですよね?」
「……はぁはぁ、厳密にひぃ……厳密には違う……会社の方針で……何か……何かの手違いがあったらいけないから……自殺とか事故とかで……死を選んだ人間は型をとるのね、見た目の型を……それを……ちょっと失敬して来たの……」
 言いたいことは大体理解した、要するにこれを使って祭りを満喫しろと。
 彼はえらく衰弱していた、瞬間移動ってそんなに体力を使うのかしら?
「水……ありますよ」
 公園にある給水器に手を伸ばすと彼はそれに向かって一直線に向かっていった。なんだかゾンビゲームみたいだった。
 そして私はベンチに寝転がる美人さんと向かい合った。 
 いや、これを私の分って言われても正直困る。
「キャンプしたことある? 寝袋に入る感覚でいいよ」
「はや!」
 水を飲んだであろうミカミさんが後ろから言った。
「つか体つらい……マジ体重い」
「そんな大げさな」
 寝袋に入ったことはないが、布団をかぶるのと似たようなものだろうと高をくくり、いっちょ彼女の中に入ってみる。

 彼女の中は真っ暗だった。恐怖と不安に少し悲鳴を上げてしまった。その後に、目を瞑っているのだから当たり前だと気づいて、五秒前の私を殴りたくなった。
「うわっ!」
 夕方だというのに目を開けるとすさまじく眩しかった。
「その型にとっては久方ぶりの太陽だからな、しばらくしたら慣れる」
「はい……」
 右手で目を覆いながら体を起こすと確かに少し重い。きっと前が軽すぎたのだろう。
「金の心配はするなよ、ホレ」
 ミカミさんは制服の内ポケットから高校生らしいオトナっぽくも子供が残っている財布を取り出すと中身を見せた、諭吉がぎっしりだった。
「なんでこんなに」
「向こうの世界に金を持っていく奴は一杯いるんだよ、必要ないから直ぐに集められるんだけどな、ま、謝罪の気持ちって奴よ」
 本当に高校生がするように悪戯っぽく笑うと、それをまた内ポケットに戻した。
「それじゃいっちょ行こうか」
 ミカミさんは私の手を引いて足早に公園を出ようとする、えらく乗り気だ。
「いや、そもそも何でついてくるんですか」
「そりゃぁ君がなんか妙なことしないためだよ、いや一応信頼してるけどね、なんかあるとこっちの世界の人にも迷惑がかかっちゃうから、それに」
 彼は私の手を引いたまま道路に飛び出した、あわてて彼の腕を掴み歩道に戻す、車がめったに通らない道路だったからよかったものの。
「ちょっとこっちを楽しみたくて……ところで祭りってどこでやってるの?」
 私が怒る前に彼は子供の様に笑った。




あとがき

『落ちにつながる落ち』として自分的には満足した作品
自分では納得してる。
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.27 )
日時: 2010/09/06 23:01
名前: ターケーシ

Aコース〜残りものには毒がある〜

ん……なんだ、やけに外が騒がしい。誰だ。俺様の昼寝を邪魔するのは。
戦闘データなら朝方に取らせてやっただろうが。あのジジイ、まだ俺になんか用があんのか。
そう思った矢先、俺は突然居心地の良いモンスターボールから外の世界へ引きずり出された。天井の真っ白な照明が太陽みたいに眩しくて、俺は反射的に前足をかざして目を護った。

「ほっほっほっ! さあ、好きなポケモンを選ぶがよい!」

はあ?
白衣のボケジジイの意味不明な台詞が俺の混乱に拍車を掛ける。
「おい、先に選ばせてやるぜ!」
目の前にはジジイと共に人間のガキが二人。偉そうにほざいた方の一人は黒服でツンツンボサボサの茶髪、全身からクソ生意気な臭いをプンプンさせていやがる。はて、どこかで見たツラだな。
ああそうだ。確かコイツはこのジジイの孫だ。名前は知らねえ。そもそもジジイが名前を呼んでるところを一度も聞いたことがねえしな。
んで、もう一方のすかした奴は?
赤い帽子に赤い服。なんだこの統一感、捻りが全然ねえ。見覚えもねえな。

赤いガキは無言で孫に向かって頷くと俺には一瞥もくれねえで真っ直ぐな視線を向ける。
俺の隣の、ヒトカゲに。

ヒトカゲの視線と赤いガキの視線が一本に結びついた瞬間。
奴らの間を何か熱くて強い物が走り抜けたような気がして、俺はなぜか急に胸が苦しくなった。

「じゃ、おれはコイツだ!」
孫が抱き上げたのはゼニガメ。脳天気な奴らの笑顔を見た瞬間。
胸の痛みがさっと退いた代わりに今度は無性に腹が立ってきやがった。

「ほっほ! 二人ともいいポケモンを選んだようじゃのう! これから旅のパートナーとして仲良くやるんじゃぞ!」

いいポケモン? 旅? パートナー?
そうか。そういう事か。そういう事なんだな。
――――畜生!

てめえらよくも……この俺を無視しやがったな。コケにしやがったな……!
鈍いフシギダネにドジなヒトカゲ。この中で一番強いのはそいつらじゃない。この俺だ。この俺なのに。
なのに、なのに、なのに。どうして俺が選ばれないんだよ。

ジジイ、孫、赤いガキ、ヒトカゲにゼニガメ。覚えてろ。
俺がどんな屈辱を受けたか、俺がどんなに強いかってことを絶対分からせてやる。いつか、いつか必ずだ。


その夜、俺はジジイの研究所を抜け出した。
俺を頂点に導くための、最強のトレーナーを見つけるために。




あとがき

お題とのズレは自覚していますが、読み切り漫画というものを意識してあえてこういう終わらせ方にしてみました。
起承転結って難しい。
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.28 )
日時: 2010/09/06 23:02
名前: とあるRの白黒神話

Aコース「今日から頑張る」



「虫除けスプレーは持ちましたか?」
白木海都が自分の荷物を確認しながら、隣で荷造りをしている黒町夏樹に尋ねた。
二人は、今日からポケモントレーナーになるのだ。
隣街に住むポケモン博士の研究所までポケモンを貰いに行く所だ。
隣街までは遠くはない。
子供の足でも二、三時間もあれば着く。
冒険と呼ぶには物足りない小旅行だ。
「んーと、オッケーオッケー、ばっちりよ」
夏樹はスプレー缶を手に元気に応えるが、その様子に海都はうんざりとしてため息を吐く。
「その整髪スプレーで、どうやって虫を防ぐんですか?」
「んェ? あぁ!? これ虫除けスプレーじゃない!」
「こっちに転がって来たのが貴女の虫除けスプレーだと思いますが?」
慌ててバッグをひっくり返す夏樹に海都は虫除けスプレーを転がし渡す。
「んゥ、ありがと」
夏樹は虫除けスプレーを受け取ると、それをバッグに詰め込んだ。
「それから、荷物はちゃんと整理して、綺麗に纏めた方が良いとも思いますが?」
海都のもっともな指摘に、夏樹は面倒くさそうに「入ればいいじゃないの」と応える。
「……ところで、そちらは着替えですよね、僕にはそれがカバンに入りきる様には見えないのですが?」
「ん……は、入るわよ! こう、詰め込めば……詰め込めば……詰め込む……」
夏樹は無理にバッグに荷物を詰め込もうとしているようだが、やはり海都の指摘通り入りそうにはない。
「貸してください」
海都が夏樹のバッグを受け取ると、中の物をすべて出していく。
「……女の子のバッグを漁るってどうなのよ?」
「貴女の任せていたら、日が暮れてしまうと思いますが?」
不満そうに呟く夏樹だが、海都は取り合わない。
「……男の子に世話されるとか、あたしの女の子としての存在意義をクライシスするつもり?」
「そんなもの始めからなかったと思いますが……何ですか? これは」
海都がバッグの中からそれを取り出し尋ねる。
「見りゃわかるじゃん、枕」
夏樹が当然のように答える。
「それはわかりますが、なんでこんなものが入ってるんですか、と聞いています」
「ほら、あたし枕替わると眠れなくなるし」
ピンと人差し指を立て言う、枕って大切だよね、と。
「枕が替われば眠れなくなるような人は、学校でも眠らないと思いますが?」
容赦のない突っ込みに夏樹は「んゥ……」と呻く。
「あ、あれは……そう、教師の催眠術よ、もしかしたらダークホールかも知れない」
無茶苦茶な、と海都が呆れる。
「もしかしたら学校と言う建物自体が眠りに誘う効果があるのかもしれないわ」
妙案だと言わんばかりだが、海都は素直に呆れていた。
「じゃあ、居間のソファで眠るのはどう言い訳するんですか?」
「んゥ、あ、あれは……テレビ、そうテレビよ、テレビから眠くなる電波が流れてるのよ」
何年か前に騒がれたロケット団のジョウトラジオ塔事件。
その際にラジオを通してポケモンを操ろうとしたらしい、と夏樹は言う。
「貴女はいつからポケモンになったんですか、枕はいらないですね」
「仕方がないわね」
夏樹は残念そうに枕を抱き締める。
「道具は種類事に整理整頓していれる……あれ、毒消しがありませんが?」
「え、毒消しいる?」
「あった方が良いと思いますが」
「わかった、じゃあ買ってくる」
夏樹はそう言うと勢い良く部屋を飛び出して行く。
「……毒消しを買うのは行く途中でも良いと思いますが……って傷薬までないじゃないですか!」

海都が夏樹の荷物を纏め終わった頃、ようやく夏樹が戻って来た。
「買ってきたわ、マヒ直し!」
誇らしげにマヒ直しを掲げ……
「……貴女が買いに行ったのは毒消しだったと思いますが?」
「んェ? そだっけ?」
「です、それから傷薬もありませんが」
沈黙、むしろ撃沈する夏樹。
「……行って来る!」
再起動。
「買い物は往く途中でも間に合いッ…」
慌てて海都が叫ぶがそれよりも先に夏樹が飛び出していってしまった。
「……人の話をちゃんと聞く人ではないと思いますが……」
ふるふるに握りこぶしを震わせて呟く。
「僕の話を聞けー!」
海都の叫びが虚しく響いた。

「買ってきたわ! 傷薬となんでも治し!」
夏樹が帰ってきたのは日が傾きだした頃だった。
「ずいぶんと遅かったですね、そしてなんでなんでも治しなんですか?」
「んゥ、傷薬売り切れてたからも一つ向こうの店まで行って来た、なんでも治しは……ほら、なんにでも効くじゃない?」
便利よね、と人差し指を立て……
「つまり何を買うか忘れたんですか」
海都に図星を突かれ、明後日の方向へ視線を向けた。
「コダックでももう少し物覚えが良いと思いますが」
「コダックバカにしないでよコダック、あのとぼけた顔とか完璧じゃない」
なぜかコダックを力説し始める夏樹。
「別にコダックはバカにはしてませんが、と言うか、バカにしてるのは貴女だし」
「んナッ!? 誰がバカよ! 誰が!」
あーはいはい、と海都は適当にあしらい、時計を指差す。
「もうこんな時間です、かなり急がないと日が落ちるまで間に合わないと思いますが?」
隣街までは遠くはない、と言えどすぐに行けるほど近くもない。
「あ、嘘?」
「嘘ではありませんが、着くのは夜になると思いますが」
だから早く行きましょう、と急かす海都。
「よし、わかったわ」
夏樹もそれに元気良く応え……
「今日はここまで!」


どうやら二人の旅は、もう少し先になるようである。




その頃。
「遅いわね、まだかしら? こんなに遅くなるなんて……もしかして野生のポケモンに襲われでもして!?」
二人がたくさんの人を振り回す話も、もう少し先である。
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.29 )
日時: 2010/09/06 23:03
名前: コップ

Aコース[子ども発大人行き終点はありません]

数の暴力の残虐性なんて語るべくもない周知の事実だと思っていた俺、当然のごとく長いものに巻かれろ精神の人生をしゃにむに生きてきたから、実際マイノリティ側に立っているような、異端だと後ろ指を差されるような状況に陥った時、混乱するのは仕方のないことではないだろうか。高校三年生になって初めて告白を考えた俺がそう感じるのは、それが初めてだからに他ならないのかもしれないけれど、何かを初めてするときの感覚は既に経験していることを考えるとそれはどうも違う気がして、やはりこのどうにかなりそうな感覚はマイノリティ側に立ったのではないか、と勝手にそんな風に思ってしまう。誰かが誰かを好きになるのは当たり前のことで、それがマイノリティだというのは毛頭おかしいことだが、この感覚はきっとそれに近いものだろう。と俺は自分で自分を納得させる。いや、納得したい。俺がもつこの恋の感覚は、誰でも持っているようなそんなありふれたものではなく、俺独自の俺だけが持ち合わせる世界で唯一のものであってほしいという滑稽な願いであり、俺自身そんなことはないとわかっているつもりだけれど、しかしマイノリティな、特別なものでありたいと思わせるこの感覚。これってやっぱり、何か別世界的な異質なものを思わせる。
 こんな発情期の中学生みたいなことを考えながら、友人であるともきの家のトイレの前、腕を組みながら仁王立ちする俺ってなんだろう。いやいや、それはいつまでもトイレから出てこようとしないともきが悪いのであって別に変なことを考えているわけではない。
「なあともき、お前いつまでトイレに籠ってるんだよ」
「黙れさっさと戻れ俺の至福の時を邪魔するなというかなんでお前そこにいるんだよ」
「俺がお前の家にいるのっていつものことじゃん」
「だからなんでトイレのドアの前に立ってるんだ。部屋で漫画でも読んでろよ」
 ドアの向こう、ToToの便器に座ることに至福を感じるような奴にもっともなことを言われたのに少しカチンと来て、問答無用で俺はそのドアを引いた。
「おい貴様開けやがったな」
 黄色い電気を浴びながら、恐い顔でともきが睨んでいた。
「え、お前トイレの中で本読むの?」
「見ればわかるだろこれが最高の体勢なんだ。冬なんか便器が暖かくて特に最高だ」
「どこのハカセだよ」
「ハカセってなんだよ」
「お前は小学生のとき一体何を読んでいたんだ」
「忍玉乱太朗」
「な、なるほど」
 ともきはジロリと俺を睨んでしっしと追い払うように手を動かすが、そんな程度で引き下がっては友人が籠っているトイレのドアなんかを開けた意味がない。壊れたおもちゃみたいに手を動かし続けていたともきだったが、やがてそれも疲れたらしく、疲れた手をパタパタ振りながら溜息をついた。
「ToToの便器の素晴らしさが分からない奴は去れ」
「こたつ入れよ。あれの方がぬくい」
「知るか。もういいからさっさと閉めろ」
 そう言って、ジーンズを下ろしてパンツを下ろしていないという格好で身を乗り出してきたともきを「どうどう」なだめ便器へ戻す。足元にジーンズがだぶついてて相当歩きにくそうだ。
「なんだよ要件があるなら早く済ませよ」
 しおりも挟まず片手で本をパタン閉じて一応とりあってくれる辺り、ともきはこれでなかなかいい奴なのである。
「俺、お前の妹に告白する」
「死ね」

すぐまたさっきよりも力強く、しかしもぞもぞと動きながら身を乗り出して来たともきは、俺の抵抗を振り切ってドアを閉めてしまった。
「おいいいきなり閉めるな」
「まずいきなり開けるなそれになんだその爆弾発言は」
「いいじゃんかなちゃん好きなんだから」
「許さん。うちの妹をお前みたいな勝手にトイレを開けるような輩には渡せん」
「お前がトイレに籠ってるから悪いんだ」
「じゃあ出るまで待ってろ」
「出たら話聞く?」
「それは駄目だ」
 なんだこのシスコン野朗、と言いかけるが、こいつはシスコンを誇らしげにしていることを思い出して寸前でそれを呑み込む。
「なあ、いいだろ」
「許さんといったら許さん」
「ケチ」
 って言いながら、なんで俺はこいつに許可なんか得ようとしているのだろうかという疑問にぶち当たる。友達としてやっぱそれって言っておくべきだから? でもそれってかなちゃんと関係あるか? ……。かなちゃんがこいつの妹というだけで、かなちゃんはかなちゃんでありかなちゃんでしかない。昔ならまだしも今は二十一世紀。ちゃぱつにするのはジユー(笑)だろ、とか何をやろうとジユー(笑)だろ、とかそういうことではなく自由意志が認められている今、俺が誰に告白して誰と付き合おうと、邪魔される筋合いはない。ならば、なぜ俺はこんなことをしているのだろうか。
「じゃあ、なんで駄目なの?」
 沈黙。ドアの向こうでいきり立っているのか、それとも無視を決め込んでいるのかはわからない。ぼうっと返事を待っていると、ドアノブがゆっくり下がって少しだけ開いた。ドアを開けろ、という意味で受け取った俺は、今度はおそるおそる開いてみた。
 考える人のポーズを取っているともきがいた。アホか。
「何やってんの?」
「なんでお前が駄目なのか説明してやるからありがたいと思え」
 やたらと上から目線なのがもの凄く気になるがこの際それは気にしないことにして、俺はともきの言葉に頷く。
「まずお前は告白されてからしか付き合ったことがない」
「それだけ?」
「そう急ぐな。焦るな。まだ説明終わったなんて一言も言ってないというかまだ一言目だろ」
 まったく、とブツブツと独り事を言いながらも「それで」、とともきは続けた。
「いるじゃん。誰かと付き合うことが大人な気がして誰とでもほいほい付き合ったり、カップルとか大人、とかそうとうダサいこと考えている中学生」
「うん」
「お前ってそういうのを上から達観しているみたいに見えるんだよ。別に付き合うって珍しくないじゃん。誰でもやってんじゃん、って」
「うん」
「そういうのもまたダサい。達観してクールぶってるというか、女を知ってる俺アピールというか」
「俺ってそんな風に見えてんの?」
「というか、お前はきっとどこかでそう思っているんだよ。誰と付き合ってもお前ってそうだ。俺はなんとも思ってないけどなみたいな雰囲気出して、達観してる」
「マジかよ。すげえショック……。それってただの嫌な奴じゃん」
 その通り、と首を縦にふるともきを見て、さらにショックを受けた。
「でも、普通みんなそうなんだよ。中学卒業して高校入ると、付き合うのって当たり前でしょ? みたいな空気でさ、それを初々しくやってるのって、何か逆に恥ずかしいじゃん。どうせだったら強がりたい。俺もそう思うよ」
「なんだよ、お前も俺と一緒かよ」
 で、それがなんでかなちゃんに告白しちゃ駄目だってことに繋がるのかはまったくわからなかったけど、俺がそんな風に見えていてそんな風に達観しているのかもしれないということを知れたのはよかったのかもしれない。
 振り返ってみれば、俺はともきの言う通りなのかもしれない。自分の評価など他人が決めるわけだから、そういう風に見えていたり、どこか心のどこかでそんな風に思っているのだとしたら、それは改めるべきだ。
 そんなことを俺がぼうっと考えていると、ともきは再び「でさあ」と続ける。
「俺らってここまではどうにかこうにか来れるわけだけど、というか、皆似たような道辿ってくるわけだけど、ここから先がわからないんだよな。ここから先は、未開だ。未知の場所だ。大人になるって言うの? なんか、わかんねえよな本当」
「ふうん。で、お前はそこからどうしようと思っているわけ?」
「そこから先は、それぞれさ。お前はお前の未知を探検すればいいし、俺は俺の道を探検する」
「……探検ね。でもそれって恐いよな。何も見つからないかもしれないし、途中で死ぬかもしれないし、帰ってこないかもしれない」
「へへ、お前は途中で死ぬかもな」
「嫌なこと言うなよ」
 ここで会話は終わったとばかりに、ともきは再び立ち上がってもぞもぞと動きながら、俺をのけてドアをしめた。さっきと同じで不機嫌そうなのに変わりはないが、俺は抵抗しなかったしともきも乱暴ではなかった。
 沈黙。再び俺らは沈黙する。ともきはもう言うことはないとでも言うように静かになり、俺もとくに言うことがなくなったのでそこに立ち尽くす。
「じゃあ、探検してくる」
「仕方ない。行ってこい」


[fin]


==========================


「で、これを私に読ませてどうするわけ?」
 かなは、そう言って数枚の原稿用紙を半分に折った。
「ほら、なぜ俺がともきに言いに行ったのかとか、ともきがなぜ駄目って言ったのかとか、そういうのを予想してもらおうと思って」
平日昼間の図書館の屋上、フェンスの柵に寄りかかりながら、俺とかなは二人で立っていた。後ろでは俺達の町が広がっていて、ここからだと町が一望できる。ともきの家はここからだと見えないが、きっと今でもトイレに籠っていることだろう。
「じゃあ、まず僕がなんでともきに言いに言ったのか」
 ふふん、と得意げな目でこちらを睨んで、かなは「簡単簡単」と漏らした。
「それはあなたがお兄ちゃんに後押ししてもらいたかっただけよ。一番の友達であり告白相手の兄に後押ししてもらえば勇気出るもんね」
「ちぇ。言ってくれるよなあ本当」
「違うの?」
「その通りなんだけどさ」
 本当に、その通りだった。それは今考えればの話でしかないのだが、確かにあの時俺はともきに後押ししてもらおうとしていた。少なくともその目論見はあったはずだ。だって、告白なんて未開を一人で探検するなんて、恐いじゃないか。
「じゃあ次。なんでともきが駄目って言ったか」
「シスコンだから」
 実の兄をシスコンというかなもどうかと思うが、これはきっと正解。普通に考えりゃ当たり前だ。一介の高校三年生が一つ下の学年の女の子に告白するだけで、あれほどくそ真面目なことを語るはずがない。だからこの問いの答えはともきがシスコンだから、で正解なのだが、この場合は別の意味が生じてくる。
 人間はいつだって問いがあって答えが見えてくると思いがちだが、その逆だって十分ありうる。どういう職業につけばいいのかな。どういう大学に入ればいいのかな。どういう人と結婚すればいいのかな。そんなことを考えていたって、きっといつまでも答えはみつからない。でも、あるとき自分が何ができて何ができなくて、何がしたくてしたくないのかはっきりしてきたとき、要するに自分を知ったとき、その問いの真の意味が見えてくる。自分という人間を知ることで、問いが見えてくる。答えが定まり、問いの意味を知る。
 本当のところ、ともきが本心からどういうつもりで言ったのかはわからないから、憶測でものを言うことしかできないけれど。
「何一人で難しい顔してるのよ。あたしがいること忘れないでよね」
「ごめん。ない頭でいろいろ考えてた」
「それで、正解なの? 正解なんでしょ? 正解よね?」
「うん、だいたい正解」
「なにそれムカツク。なんでよ」
「さあ、なんでだろう」
「ふうん。まあいいや、じゃ、早く行こうよ。映画、何時だっけ」
「四時。まだ時間あるから大丈夫だよ。ちゃんとDS持ってる? セレビイもらえるんだから、ちゃんと持っていかないと」
「大丈夫、ちゃんと持ってるわ」
「よし、おーけい。あとさ、さっきから十秒刻みで電話してくる君の兄貴がうざいんだけど、どうすればいいかな」
「こうすればいいんだよ」
 かなは僕から携帯を奪い取り、電池パックを抜き取って、自分のバッグへしまう。「返してほしけりゃ今日は一日私と居なさい。それからキスをしなさい」「……めちゃくちゃだなそれ」「嫌?」「……いんや、ちょろい御用で」
 僕は言う。かなは笑う。僕は大人になる。加奈も大人になる。僕らは進む。未開へ進む。探検は、一生続いていく。

<おわり>
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.30 )
日時: 2010/09/06 23:08
名前: Rという名の秋桜

【バケモノ、それは冤罪につき】 =Aコース

 小さい頃、わたしには友達と呼べる人間がいなかった。今もそれほどいるわけではないけれど、そのような次元ではなく、中学校以前に、友達のような関係の人間関係を体験した記憶がまるでないのだ。わたしはいつも、どのような人間と、なにをしていたのだろうか。思い出をたどっていくと、友人関係にとどまらず、なにもかもがうっすらと感じられ、自分がまるで、アイデンティティを確立し終わってからこの人間社会どこかから送り出されて、わたしという“完成品”が市場にぽんと登場したような、そんなイメージに苛まれる。わたしという人格の形成が、どのような経緯をたどってされていったのかが、自分自身で掌握できない、わたしにはそれが堪えざることであり、それだから、過去を振り返るのはわたしにとって苦痛の所行でしかなかった。

 今、そんな苦行を敢えて犯しているのも、幼少から大学生の終わりまで住んでいたここでの人生を少しでも思い出して、感傷的感情に思いを馳せようと考えていたからであった。この春、わたしは、この街にもう足を踏み入れることがないであろう、遠い彼方へ、やはり一人で出かける算段であったから。雪解けが終わりかけた、三月の終わり、淡い桃の色の風を感じながら、わたしは通っていた小学校から自宅までを散策していた。
 この辺りは地震が頻繁に発生する。数年前、桃の花の匂いがこの街に訪れた季節に、大地震がおこって津波がこの街を襲った。それからは、高台以外の人家が極端に少なくなり、人々が寄り付かなくなった。わたしの実家はもともと高い場所にあったため津波の被害は免れたものの、この天災でたくさんの知り合いが死んだような記憶が残っている。「あなたの幼いころの記憶が曖昧なのは、この出来事が“トラウマ”になっているからだと考えられます」と、精神科の医師はわたしに、哀れみの目でそう言った。
 自宅から小学校まで約一キロ程度の道のり。市街地とは名ばかりの、寒い国道沿い裏の路地を行くと、視界が我が母校の校庭で開けた。高いフェンス越しに、校舎を見やる。3階立て、鉄筋コンクリート製の外観はひどく冷たい。わたしの思い出を置いてきたはずのこの敷地内は、わたしに“淋しい”というニュアンスの感情しかもたらさなかった。ぐるり、校庭の裏へ周りって、北に位置する場所へ移動する。わたしの目的地は、最初からここであったから、まっすぐに歩みを進めた。『裏山』と呼ばれていたこの小高い丘には、街や海を見晴らす展望台があったはずだ。高台に続く小路には、桃の木が並び、豊満な匂いが一面に漂っていた。

 1年前。大学3期生の冬の終わり、わたしはこれに似たような匂いに惹かれた。
その女は、何かにつけて愉快そうに笑う女だった。へらへら、という擬態語がよく似合って、いつも着古した奇抜な洋服ばかりを着て、耳にはピアスの穴が何個も開けてあって、顔のつくりは整っているのに、間抜けそうに無防備でいて、そのくせ人の感情には敏感で。ああ、馬鹿な女だった。そんな彼女が、関係が深まったある夜、わたしが寝ている隣で、わたしを見つめて涙を流していたときの彼女は、なぜだろう、格別に美しかった覚えがある。
「どうした?」わたしは驚いて彼女に問う。彼女もわたしの目が覚めたことに驚いて慌てたようなフリをして、赤く腫らした瞼を、わたしからそむけた。「寝ぼけてた」と彼女は身体ごと私に背を向けて、そのまま何も言わなかった。しばらくの沈黙。目が冴えてしまい、いたたまれなくなったわたしは彼女を後ろから抱きよせる。華奢な彼女の身体はわたしの胸の中で小さく、その瞬間、わたしは彼女が無性にいとおしく感じられた。
「あなたはなぜ、私がよかったの?」彼女は震えた呼吸でそうつぶやく。「……匂い、いや、唇かもしれない」わたしは真面目に答えた。この匂いがお好きなら、この香水と寝ればいいじゃない。そう言って笑う彼女に、そういうニュアンスじゃないと、わたしはまた真面目に撤回する。そして、『なぜ彼女がよかったのか』という的確な理由を探した。
 彼女と出会ったあの時、その刹那、手繰ることを拒んでさえいたわたしの記憶から、なぜか自然に、ある出来事が思い出された。小学生時代だったと思われる。学校の帰り道、何かを探してわたしは、今現在歩いているこの裏山を進んでいた。どういった目的で裏山に侵入したのかは覚えていないが、探検とか、秘密基地探しとか、そういったなんらかの名目での散策だったんだろう。ひたすら山を登って行って、夕暮れで辺りが赤黒い光で照らされた頃、わたしは、そこで、妙な雰囲気の、白い肌の少女と出会い、短い会話をした。――いや、実際は出会っていないかもしれない。そのあたりで記憶が曖昧になる。その直後、自分の足元や視界ががくがくと大きく揺れ、木々が騒いだ。今思い返すと、それは、精神科の医師の言う“トラウマ”になった地震の日だったのだろう。恐怖の感情の中、その場で動けなくなり、視界がぼやけて、意識が遠のいて、いつの間にかわたしは病院のベッドで眠っていた。
 なぜこの記憶が、彼女の登場で思い出されたのかはわからない。だが、この記憶が引き出されてから、わたしは彼女を強く意識するようになったのだ。彼女にはそこまでのことは言わず、ただ「きみの匂いで昔を思い出して安心するんだ」とだけ言う。
「私の匂いと唇の色で、あなたは、なんかわかんないけど、昔のことを思い出して、それで、結局、私のことを好きになったの?」彼女はわたしに身体を向き直った。いつもの、馬鹿のようなしゃべり方でわたしに問うてくる、わたしは素直にそれを肯定する。彼女は笑って、その唇でわたしにキスをした。
その1週間後、この街で震度が6を超える地震が発生する。彼女はその混乱の中、わたしの前から、あっけなくその姿を消してしまった。「まあ、きみのその嗅覚を持ってすれば、どうせまた会えるから」そういい残して。

 彼女との関係はそれまでだった。年月だけが流れて、彼女が結局何者だったのかはわからずじまいである。連絡が取れなくなってから半年はさまざまな手段で必死に彼女を探したが、それを過ぎたあたりから、なぜか、彼女の言うとおり、またどこかで会えるのではないかと、妙な自信がついて、それ以来は、普通の人間のように日常生活を送ることに専念した。あれから1年経ち、そうして今、彼女を思い出した匂いをたどって裏山を歩いていると、ぽろぽろと、精神科の医師のいう“トラウマ”になった幼少期の記憶が嘘のように舞い戻ってきた。
 あの日、わたしは友人たちと一緒に、普段は立ち入り禁止であるこの裏山へ探検をしに来た。秘密基地を作ろう、とか、いろんな本が落ちているとか、おばけが出るとか、そんな情報を教えあった、わくわくという感情。それを持ったまま、ずっとこの遊歩道を歩くと、桃の花の匂いがさらに増してきた。同時に、わたしは、ふとその道が外れた遠く向こうに、おんなのこの姿を見たような気がした。「ねえ、あそこに女の子がいるよ」わたしはそう発言し、そのほうへ興味の赴くまま引かれるようにずんずん歩いていく。「やめようよ」「いいじゃん行こう」「こわいよう」友人たちの声。歩くたび遠ざかっていって、ふと気がつくとわたしは一人はぐれる形になっていた。夕日が赤い。寒さの残った風が、その火照りをぬぐう。むしろそれ以上の寒気を誘って、わたしはその場で足を止めた。「だれかいるの?」の言葉を、耳の静けさをかき消すために独白のように搾り出して、周囲を見回す。人影らしいそれはやはりおんなのこだった。
「いるよ」それの声が聞こえる。
「だれ?」わたしは問う。
「ないしょ」それが返す。
「いじわるするなよ」茶化された怒りを隠さないわたしに、その女声は、短く、ごめん、とだけ言って、そのあと一呼吸。「ねえ、アブソルって知ってる?」彼女は問うてきた。知ってるよ、とわたしは答えた。アブソル。それは普段姿を潜めているが、極稀に人の前、特に子供たちの前に姿を現す。そして、その後は決まって天災が起こると伝えられている幻の獣である。それなので、普段それは別の呼び名で忌み嫌われていた。「“バケモノ”でしょ?」
 その一言に、彼女の視線が刺さる。瞬間に、す、っとわたしのそばで彼女がわたしを直視していた。背丈は同じくらい。肌の白さと唇の赤のコントラストが、わたしにはなぜが強烈に印象に残っている。
「アブソルはね、災いを呼ぶ者ではないの。ただ彼はね、災いの匂いに惹かれてしまうだけなの。彼も被害者なの」静かに彼女はまくし立てる。わたしは怖じて一歩引き、「ごめんなさい」とだけ言った。「ううん、それだけちゃんと言いたかった」と、彼女。一瞬の沈黙の後、「あなたも、わたしの匂いに惹かれたでしょう? あなたならわかるはずよ」と笑った。やり取りの中、そろそろ日が暮れるという、空が紫のころになり、そろそろ帰ろうと焦り始めたわたしに、彼女は「今は山を降りちゃだめ」と言う。「この上をずっといくと、展望台があるから。そこで今日はいなさい。私も一緒にいてあげるから。きっと誰かが助けに来てくれるから」
 彼女の言うとおりに、展望台へ上がる。わたしたちはそこで、打ち解けるわけでも、拒絶するでもなく、微妙な距離で会話を続けた。この裏山には野良エネコがよってきて会議をするとか、ジグザグマはまっすぐ走るんだよとか、そんな話。沈黙の合間、見上げれば、漆黒の空は星の粒に彩られており、ふたりで、きれい、とつぶやいて、そのまま、意識を失くし、気がつくと病院で、母に手を握られていた。
 地域全体が混乱を極めたまま学期がはじまり、わたしは、裏山に一緒に行った友人のうち三人が津波に飲まれて行方不明であるということを知る。わたしが見た少女の話はその生き残りによって広められ、わたしは瞬く間に“バケモノ”として虐げられることとなる。わたしが記憶を捨てたのはそのころからだ。以来信頼する友人を作らず、ここまで生きてきた。
 少し疲れた。わたしは気の株に腰を下ろし、夕日を見やった。あの時と同じ景色。頬を焼く、熱い光。周囲に咲きほこる桃の花はよりいっそうに匂いを増し、彼女がすぐそこにいることを教えてくれた。

――衝動。
 走った。立ち上がり、眼球をむき出しにして、走った。ひたすらわたしは走った。急勾配の荒々しい斜面、苦しい胸をかきむしって、喉が渇く。呼吸がどうしようも荒くなり、唾液と汗とが舌に絡み付いても、しかし、何にも構わない。足元から、頭上から、茂った枝や雑草がわたしに押し寄せる。波のように行く手を阻んで、それを除けるわたしの腕から、鮮血。追いかけてくる桃の匂いと血液の臭いと同時に、血管がむき出しになっているような鼓動を感じた。
 瞬間、木の根に足を奪われ、前に体勢を崩される。否応なしに掌を地面に預ければ、それは三番目、四番目の脚となった。聴覚と嗅覚とが研ぎ澄まされる感覚。四肢で地面を駆け抜ける感覚。それはもはや快感に近く、全身の毛孔の奥が蠢くのを感じて、視界が狭くなる。無我夢中のまま、我に帰ることも許されないまま、わたしの身体は『体毛の白い獣』に変態していた。覚醒と呼ぶに相応しい熱に犯されながら、わたしは有り余る高鳴りでわたしは咆哮の如く声を張り上げた。刹那、それに反応した周囲の空気が旋風を巻き起こし、それは刃に変わる。生み出された疾風はさながら鎌鼬の如く、わたしを遮っていた何もかもを切り裂いていった。
 遥か視線の先、遠くで、わたしを呼ぶ声が聞こえる。桃の花の匂いがする。欲情が止まらない! 今わたしの意識は正常だろうか、狂っているのだろうか。わたしは走っているのか、飛んでいるのか、どこへ向かおうとしているのか、ああ、わからない。ただ、ぬかるんだ、道なきこの視線の先を、彼女の匂いがするこの先を、わたしは走った。
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.31 )
日時: 2010/09/06 23:12
名前: Rという名の牛丼

【反抗期計画】=Bコース


「横山、ちょっと、ごめん」
 今この状況を、ぼくと彼女との今この事実を『運命』だとか『必然』だとか、そんな、ちゃちな言葉なんかで、言いあらわしたくはない。
――しかし、ぼくには残念ながら、『運命』だとかなんだかんだ感じてしまうようなシチュエーションに出会わせたときに、それ以外それ以上の言葉で言い表せるような語彙能力を持ち合わせてはいない。これは、つい最近になって思い知ったこと。ついでにぼくは詩的なセンスも、みんなが、あっと驚くような言葉えらびだって、ああ、文章においての創作に関しては、なんの取り柄もない。まあ、かといって作文以外が得意かと言えばそうでもないのだが。
 だから、ありきたりな言葉でしか、ぼくはこの場面を描写できない。
「好きだったの。きみのことが、ずっと、好きだったの」
 これは、きっと『偶然』なんだ、と。


 ぼくが雛を好きになったのはいつからだろうか。あまり大した理由はなかった気がする。意識しないうちに、惹かれていた。高校に入学した日から同じクラスで、お互いに文科系で、お互いにひねくれ者だったから、それだけで十分な理由になるだろうか。いつの間にか会話を重ねて、ぼくらはお互いを知り合った。ぼんやりしてて、ほんわかしてて、でもあたまがよくて、何も無いところで転んで、胸が大きくて、太ももがむちむちしている雛が、ぼくには天使のように思えた。彼女と会話をするだけで、「よっしゃー」って気分になったし、制服の着こなしとか、髪型とか、持ち物なんかにも気を遣ったりして。なんだか毎日、がらにもなく、さながら馬鹿な学生のように浮かれていた。
 でも、ぼくには、彼女に愛の告白ができるほどキザな男じゃないし、かといって、好きな女の子をいじめるような子供みたいなマネもしたくなかった。でも、友達として一緒に、これから先もずっと一緒にいるなんて、とても耐えられない! ぼくは弱って、結局パソコンの前に座って、最近流行の某テレビアニメの某あずにゃんとにゃんにゃんするにゃんな生活が長く続いた。


 そんな生活にも耐えかね、結局ぼくは、この胸のうちを、共通の知り合いである安田に相談することにした。彼女や彼女の友人に聞かれたら困るから学校から場所を移し、近所のコンビニへ。お茶と某ファミチキをごちそうして、駐車場のすみっこに座り込む。「どうした?」安田は間抜け面でペットボトルのふたを開け、ようとして「あけてえー」とぼくにそれを差し出した。いざ相談をはじめる雰囲気になって、茶化されるかと思ってちょっと恐々としていたけれど、結局熱弁してしまう。彼はぼくの心配をよそに、意外とちゃんと、うんうんうなづいて聞いてくれた。ああ、こいついいやつなんだな、と思った。一通り話し終わり、彼はお茶を飲み干して言った。「まあ、あきらめなさいよ」びっくりした。理由を問う前に彼が答えを教えてくれる。「いやだって俺も好きだし」すごくびっくりした。「まあうそだけど」よかった。
 ぼくが一通り彼にその無駄すぎるやり取りに対する不満と怒りを述べた後、彼は普通に謝ってくれる。「まあ、あれでしょ」と彼が言う。
「雛がすごくすきだけど、言えないし、だからといって言えないままもいやだしって感じな。もう告白しちゃえばいいのに」
「そう、まさにそう。告白は、ちょっとまだ……内緒にしたい」ぼくは答える。安田は、まあばればれだったけどな、とぼそっとつぶやいて、え、と焦るそれに対するぼくの返答を待たずに、こう切り出した。
「おまえさー某人気テレビアニメの某あずにゃんが好きなんだろ?」そうです、と僕はまじめに答える。大倉はどう見ても某むぎちゃんだろ、とかれはぼそっと言って、続けた。
「じゃあさ、お前も作ればいいんじゃないかな。雛との、二次元みたいな理想の関係を、二次元の中で」


 安田はなんだかんだでいい奴だ。某人気テレビアニメを教えてくれたのも安田だったし、某あずにゃんのフィギュアをドヤ顔で自慢してきて、虜にしたのも彼だった。その絵の上手さはなかなかのもので、同人誌を出版するサークルに所属し、コミックマーケットなる物に出品するほどらしい。そこまでいくとぼくにはわからな世界だ。そこに、彼は住んでいる。「お前の理想の、雛との関係を、ちょっと小説っぽく書いてみたらいいんじゃない? もしいいようだったら、俺が漫画で書いてやるよ」彼の提案は、魅力的でもあり、ちょっと見当はずれでもあり、でもしかし面白そうだったから、その提案に乗ることにした。
 とはいっても、僕は小説なんて書いたことないし、読んだことだって、児童文学書トカライトノベルとか、その程度だったから、僕は弱った。インターネットでいろんな情報を集めて基本を学び、ワードで少しづつだけれど、ぼく、ヨコヤマとヒナの小説を書いていくことにした。


「え。なにこれ」
 数日後、すごい恥ずかしかったけど、とりあえずプロットから、といって見せたそれを、安田は鼻で笑った。ストーリーは簡単。ごくふつうの高校生のヨコヤマが、同級生のヒナに片思いする。二人は仲がよくなって付き合うことになる。だけど、ヒナの引越しのせいでお互い離れ離れになってしまう。お互い心の距離が離れてしまい、最終的にヨコヤマが死ぬ。というもの。「いや、つか、失恋してるコレ! ってかお前死んでるし! なんなのコレ!」
「いや、だって……」ぼくは弁解する。ヒナに告白されるのは僕の願望。引越しは起承転結の“転”でのイベント。ラストの死ぬのは、雛を殺すのは絶対いやだったから、自分が死ぬことにした。と。安田が問う「え、なんで誰かが死ぬ必要があったの?」ぼくは答える。「だって、誰かが死んだらやっぱ感動するじゃん?」
「もういい、とりあえず書いてみれ」呆れ顔で彼はそう言って、某人気テレビアニメの原作マンガを読み始めた。


 ぼくは結局、その小説を書き始めることにした。しかし、書けない。書きたいことは決まっているのに、言葉が出てこないし、上手い表現も浮かんでこない。かといってあまり機械的に書いたら自分のロマンチックで熱い感情が伝わらないから、がんばってこだわった。プロットには細かく伏線を引いてあり、それを暗喩したりするのもずいぶん手こずった。やはりサイトのお世話になって、某グーグル社の検索機能をフル活用したし、純文学も読み始めた。もともと好きになったら盲目になってしまう性質なのも影響して、ぼくはそれを完結させるという目標を達成するために躍起になった。実生活のほう、雛との関係は相変わらずで、やっぱりぼくは、彼女のぼんやりとした雰囲気としゃべり方が大好きだった。
 途中、ヒナに告白されるシーンにぼくは、祭りというシテュエーションを加えた。今度実際に、近所で、小規模では歩けれど、花火大会があるから、それに合わせてみたのだ。その日は、去年と同様、雛と安田と三人で行くことが決まっている。彼女は浴衣を着てきてくれるそうだから楽しみである。安田は今年もカキ氷で腹を壊すんだろうか。ぼくも気をつけないと、雛に醜態をさらしてしまう。


 祭りの当日。
 ぼくと安田は電車に乗る駅が一緒なので、電車で二人で会場まで移動することにした。周りは浴衣を着た人々やお面をかぶる子どもたちなどであふれかえっていて、さながらお祭り気分だ。ぼくはなんだかわくわくして電車に乗り込む。
「最近、例の小説はかいてんの?」安田がぼくに問う。ぼくは、パソコンから携帯電話にデータをコピーして保存してあるプロットと途中経過を見せる。ざっと読んで、彼は、なかなかかけてるね、と笑った。
「そのくらいしっかりしてたら絵合わせてもいいかもね。ちょっと考えとくよ。絶対い作品になるぜ」
 彼にも、ぼくのこの小説に対する思いが伝わったようだ。クリエイティブな面も持ち合わせている彼が友人でよかったと心からこのとき思った。


 二人でカキ氷を食していると、雛は待ち合わせの時間から5分遅れてやってきた。浴衣の着付けに途惑ったらしい。そういう女の子の事情は、母や妹のやり取りを通して知っていたから、小説にも取り入れてあった。安田も「小説と同じじゃねえか」と笑い、雛は「?」という顔をして、買ってきたチョコバナナを食べていた。
 花火大会が終盤に近づいて、安田はカキ氷にあたり、トイレにこもってしまう。写真だけでも撮ってやろうと携帯電話のカメラモードで写真を撮ろうとするも、なかなか上手に取れなくてイライラしていると、雛が「ねえねえ」と人差し指でぼくの腕をつんつんした。
「どうした?」トイレ? 続けようと思ったけれど、女性にそれは失礼なのでやめておく。彼女はうつむいて、やはりなにやら苦しげだった。
「横山、ちょっと、ごめん」
「いいよ、じゃ一緒にトイレ行こ」と言いかけたぼくを彼女の腕がぐっと引き止める。
「好きだったの、きみのことが、ずっと、好きだったの」
 彼女は泣き出しそうな顔で、ぼくに切々と思いを語ってくれた。
 ぼくは、うれしくて、かなしくて、もう、なにがなんだかわからないまま、花火が終わるのも気づかず、彼女が帰ってしまったことにも引き止めることができず、安田に突っつかれるまで放心して座り込んでいた。
「いやー終わっちゃったかー」彼はそういいながら、目で雛を探した。「あれ? 雛は?」
 ぼくの思考がはじけた。
「雛……。引っ越して私立に転向するらしいんだ」


 え? と安田は怪訝な顔をしてぼくに詰め寄った。「どうした? 何があったんだ」ぼくは、今起きたことをありのまま彼に話す。彼女がトイレに行くのかと思ったら愛の告白をされたこと、今この場で告白したのは、夏休み中に遠くの地へ引っ越してしまうからだということ。そして彼女はこの場から去ってしまったということ。告白の返事はまだしていないということ。
「なあ、やっぱりおかしいよ」安田がすべてのぼくの話を聞き終えたところでぼくに言う。「お前が小説にしたことが、現実になってる。今日彼女が遅れてきたのも、転校の話も、告白も……あ、」彼は続ける。「お前、小説では、告白の返事、いつした?」
 ぼくははっとする。「……返事は、先延ばしにするんだ。怖くて。悲しくて。でもそうして結局、彼女が引っ越すその日に、付き合おうって返事をする……」
「まあここまではシナリオどおりか」安田は奇妙に笑った。「偶然だ。……偶然だよ」ぼくはその言葉をひねり出すのが精一杯で、『偶然』という意味を忘れてしまうほどに、何も考えられなくなった。
「お前さ、小説の結末、自分で何にしたか、もちろん覚えてるよな」
 すこしの沈黙の後、安田がぼくに言う。ぼくはまたひどく狼狽した。
「お前、しぬぜ」

10
「お前小説はどこまでかけてたんだっけ?」ぼくは安田に引っ張られるように、祭り帰りの人並みの中、電車に乗り込んだ。「祭りの日、告白されて、彼女が転校してしまう日あたりまで、とりあえず」ぼくの言葉に、彼はしばらく押し黙る。「今から、そのシナリオを変えることは?」
「無理だよ。伏線が回収できない。回収し切れなかったら、話が中途半端で気持ちが悪く……」ぼくはさっきから否定の言葉しか口にできなくなっていた。安田はまだ考える。
「ここで小説の流れとリアルの流れを変えるのは簡単だ。きみが彼女の告白を断ればいい。だけど、それだったら意味が無い。君が幸せじゃ無い結末は、リアルにも小説にも必要の無いものだ」電車はぼくらの下車する駅に到着し、ぼくたちは電車を降りて歩き始める。
「いや、やっぱり、伏線はきちんと回収しつつ、お前の言葉選びのセンスと、もって行き方次第では、きっと、そう、もしこの小説とリアルがリンクしているなら、そんなばかなことが本当に起こるなら、ヒナの転校だって止められるかもしれない!」
 安田ははしゃいで、声を張り上げた。安田って、こんなに大きい声の出る奴だったっけ? とぼくはなんだか不思議になり、同時に、ひどくテンションガあがってきた。
「……じゃあ、じゃあ、ヨコヤマとヒナが結婚すれば、ぼくと雛も結婚……」
「できるさ!」安田はすかさず重ねてくる。ぼくたちは、見つめあって、ぼくの家へ、わっと駆ける。
 こうして、ぼくと、安田との地味な、最後の『反抗期計画計画』が始まった
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.32 )
日時: 2010/09/06 23:14
名前: kagero

A・Unknown village

 強かった風も少しずつ弱まり、砂嵐のせいで見えなかった前もようやく見えるようになってきた。
 赤土だらけの荒野で建物も何もなく殺風景だった先ほどまでとは違ってようやく人が住んでいる村が見えてきた。いや、村というか集落というべきか。この集落は俗にヴァイナビレッジと言われている。
 ヴァイナビレッジにはテントのような家が乱雑に建てられている。とてもじゃないが栄えている気がしない。
 それもそのはずこの辺りは赤土だらけで風も強く赤い砂嵐治まらないためが農作、牧畜が一切ダメ。生息している野生ポケモンも僅かばかりの岩、地面、鋼ポケモンばかりだ。
 しかも他の街に続く道路もない。食糧輸送措置でも取らないと食べるものが何もなさそうなこの集落は一体何を食べて暮らしているのか。
 そんな辺境の地であるこの集落の中心部には、遺跡と思われる一際目立つ建造物がある。誰がいつ建てたか、そういう年代も何も分からない。
 交通の便の悪さ、周囲の環境の悪さから遺跡街としてヴァイナビレッジは発達しなかった。しかし自分のような物好きの探検家が何人もこの遺跡を調査しに出かけに行っているのだ。それなのにこの遺跡についての情報が一切得られないと言う事は、本当に何も分からなかっただけなのかそれとも命を落としてしまったのか……。
「ありがとうレントラー、もう大丈夫」
 自分を乗せ続けていたレントラーが、自分を降ろせるように体を低くする。レントラーから降りた自分は首にぶら下げていた水筒の水を一口飲み、残りの水をレントラーに飲ませてやった。
 赤土だらけな上に水がこの辺りにないので水分の補給はできない。そのため残り水は八リットル程用意してある。
 レントラーをボールに戻し、とりあえずはその辺のテントに入って話を聞いてみることにした。
「すみません」
「……何かね」
 言葉に反してテントの中にいた五十過ぎの男の口元は微かに笑っていた。その男の風貌は、汚らしい服装に好き放題伸びた髭と髪からして浮浪者、いや昔見た山賊、それに準じる人のように見える。
「この集落にある遺跡の調査なんですが」
「ああ、全然構わんよ。好きにやってくれ。このまま真っすぐ出るとテントと違ってちゃんとした建物がある。そこを使ってくれて構わんよ、昔来た探検家が勝手に作った家だ」
「……はあ」
 やけに要領がいい。こういう対応に慣れているのか。
「ただ、一つだけ忠告をしておこう」
 今度はさっきとちがって男の口ははっきりと笑っていた。
「この集落では夜にうろつかない方がいい」
 この言葉が突っかかる。どういうことだ? 確かにこの辺り一帯は夜になると冷えるのだがたかが知れている。それすなわち危険というには幾分及ばない。
 一礼をしてから言われた家に向かう。言われた通り真っすぐで、丁度遺跡がよく見える。家に入る前に手持ちのデジタルカメラで一枚遺跡を撮らせてもらう。
 遺跡は写真の一枚さえ情報がなかったので初めて見るがなかなか荘厳な雰囲気を放っている。遺跡自体は石造りの……。どうだろう、形的には城のようだが窓が一切ないし入り口らしい入り口がパッと見たところ見つからない。
 家に入らせてもらう。もちろん鍵などはかかっておらず、誰でも入れるようになっているようだ。内部はワンルームで、古い電球と年季の入ったテーブルと椅子、粗雑なベッドが一つずつ。床には少し古臭く汚れた緑色の絨毯が広がっていた。床には何らかの文献か、資料かよく分からないものが散らばっていた。
 とりあえず私物を置いて肩を回し首を回しストレッチをする。長旅で疲れた体が休息を要求しているようだ。だがまだやることがすこしばかしある。
 ポケットから携帯電話を取り出す。予想はしていたが圏外。交通もダメ、電波もダメ、なるほど確かにこれでは外部に情報が行きわたりにくい。一つ目の疑問の、なぜ遺跡の情報が一切ないのかということが判明した。
 そしてもう一つ確認したいことがある。どうやらこの家は窓が無ので玄関の扉を開いていかないと外が明るいかそうでないかが分からない。
「もうこんな時間……」
 夕陽は順調に地平線に隠れていこうとしていた。夜までは少し情報を整理しよう。
 散らばっていた文献類を読み始める。どうやらかつてこの遺跡を探検していた男が記した日記のようなもので変色が始まっている。丁寧なことに日付まであるが約十年前。そんなに前に遺跡の調査が始まっているのに大手の大学かその辺の研究団体が遺跡の調査に取り掛からないのは何故だ。
 文献には遺跡の入り方と遺跡の内部について多少の情報が記されていた。やはり遺跡そのものには入り口がないようで、遺跡の手前にある石で出来た小さな小部屋にある隠し階段から侵入するものらしい。内部は暗く、灯りが無いととてもじゃないと辺りが見えないとのことだ。
 しかし情報はそれだけで途切れている。他の紙にも同じようにここを訪れた探検家が似たような内容を書き連ねていた。
 さて、そろそろ良い時間だろう。椅子から立ち上がって最小限の荷物だけ小さなリュックサックに移し替え、玄関の扉を右手で開ける。左手にはモンスターボールをしっかり握っている。
 まるでスパイのように慎重に家を出ると、辺りはすっかり夜。月と空に浮かぶ星が綺麗だ、ここでなら天文学の研究もはかどりそうである。
 そんなことよりも、今日寄ったテントで男に言われた『夜にうろつくな』という忠告の意味を確かめなくてはならない。
「……。ケーシィ、フラッシュをお願い」
 握っていたモンスターボールからケーシィが現れ、辺り一面をしっかりと照らしつくす。昼間並みの明るさが自分の周囲を照らし出すが特にこれといった変化はない。
「離れるないで」
 と言いつつ片手でしっかりケーシィを抱きしめて周囲の探索を始めた。自分とケーシィが至近距離なので自分の目が光でやられないようにケーシィは光をそれなりに抑えている。昼間とこれといって変わっている様子はないのだが、あれは単なる脅しだったのか? もしかして男にとって見られたくないものがあったから外出を禁じた、とかか……。
 その刹那、突風が吹きつける。それも単なる突風でなく、意識的な者だ。はっきりとした敵意を感じる。
 砂を巻き上げた突風は、視界をはっきりと消してきた。フラッシュで辺りが明るくなっても目が見えなければ意味はない。
 目を守るため左手でケーシィの目を、右腕で自分の顔をカバーするので精いっぱいだ。
 突風が止むや否や今度はアンノーンの大群が自分とケーシィをドーム状に囲うように現れた。一体いつの間に、いや突風で目が塞がれていた時か。それは分かる。しかしなんだこの量は。
 一匹一匹数えた訳じゃないがザッと見たところ千に近い数はいてもおかしくない。このアンノーン達はどこから現れたのか。人の持つポケモンにしては量が多すぎるから野生だろうか?
 しかし男の忠告の意味がわかった。夜には野生のアンノーンの大群が襲いかかってくるということか。
 考え事をさせてくれる時間はここまでのようで、アンノーン達がそれぞれこちらに向かって好き放題目覚めるパワーを打ち始めた。もうここは本能的な指示しかできまい。
「ケーシィ! 逃げるよぉ! テレポートォォ!」
 従順なケーシィはその叫びに応じてくれた。この辺の地理が分からない、そして赤土だらけでアトランダムに並ぶテントから距離感が妙に掴みにくいこのヴァイナビレッジなのでどれほどの距離を稼げたのか。
 さて走って逃げようかと思った時、再びアンノーンの大群がこちらに向かってやってきた。南無三!
 ここまでか! 思わず目をつぶったものの一向に攻撃を食らう気配がない。左腕で抱きしめたケーシィが必死に鳴き、暴れはじめることでようやく目を開いたがどうやらいつの間にか家にいたようだ。ケーシィが自分でテレポートしてくれたのだろう。感謝をこめてケーシィの頭を撫でる。
 あくまで探検家であってトレーナーでないのだ。ポケモンの扱いには慣れてる自負はあってもそれは決して高い水準ではない。ああいうとっさの場面ではどうすればいいのかが分からなかった。
 大きくため息をついてケーシィをボールに戻す。外に出ると危ないということの裏返しは外に出なければ安全ということなのだ。とにかく汚れ、汗の臭いのするベッドの上で横になることにした。この調子だと明日からの調査が大変なことになるな……。
 先行き不安もいいとこだが体力を回復させなければ明日の調査も危ないだろう。目を閉じれば簡単に眠りの底に落ちて行った。



 目が覚めると太陽はすでにある程度の高さまで昇っていた。腕時計を確認すると十一時、もっと早く起きるつもりだったが疲れが蓄積しすぎたのだろうか。
 それはともかく今日こそ本格的に調査の始まりだ。もう一度持っていくべき荷物を確認しなくては。帽子をギュッとかぶり直す。
 そう思って大きめのリュックサックの中と小さめのリュックサックの中を確認していくとすぐに異変に気付いた。
 荷物が足りない。主に水と食料品だ。あらかじめ携帯していた二リットル以外の六リットル分と、缶詰などの保存食をいくらか盗まれた。缶詰はもう今日の分でなくなってしまう。このままだと街に戻ることができない、それまでに飢える可能性が非常に高い。
 もっと大量に詰めてきたはずなのだがいったいどうして減っているのか。盗まれたのか? いつだ、もしかして昨日の夜か? 念のために寝る前、番犬の代わりに玄関にレントラーを放っていたのだがレントラーは戦った跡がないし眠らされたり麻痺らされたりといったこともなさそうだ。
 まさかアンノーンに追われている間か……? いやいや、その間は短かったはずだ。どんどん謎が増えていく。
 しかしどうだろうと結果はこうだ。帰れないとなると……。ここに散らばる文献の一つに自分の物を加えて散るしかないのか。
 ああ、もっと他の地域も探検したかった。シンオウ地方には魅力的な場所が様々あるから是非とも行きたかったのだが。
 すっかり心の折れてしまいそうな自分にレントラーが体当たりをしてきた。当然手加減されているので転ぶ程度で事なくを得た。
 立ち上がるとレントラーが起こった表情でこちらに向けて吠えてくる。まるでそんな弱気になるなと叱咤するかのようであった。
「ごめんね」
 そうだ、こんなとこでくよくよしていても何もない。どうせなら当たって砕けろという感じだ。
 レントラーの顔をまんべんなく撫でてあげるとレントラーは機嫌がよくなったようだ。
 そうして探検に必要な最小限の荷物、そして食料品を全て小さなリュックサックに詰めると早速家を出たのであった。
 ここから遺跡までは徒歩六分ほどの距離。脇にはレントラーが控えているので危険があればすぐに察知してくれるだろう。
 文献の通り、遺跡から離れた石造りの小部屋に入る。この小部屋自体には入り口の扉などなく、千客万来と言わんばかりだ。
 そして記述通り隠し階段が。しかし隠しというよりは階段を蓋していたと思わしき床の石は除けられていたので隠しとは程遠い。
 階段を少しばかり降りると辺りは真っ暗だ。陽が一切届かない位置まで潜ってしまったのでフラッシュがないとこれより先へ進むのは困難だ。
「ケーシィ、フラッシュを」
 モンスターボールから飛び出したケーシィが眩い光を放って辺りを明るく照らす。どうやら階段の先には通路が広がっているようだ。この通路はまだしばらく先まで続いている。
 通路の壁も石で出来ている。一歩一歩しっかりと歩いていくと、通路は終わりにさしかかる。なるほど、通路の終わりがが遺跡の地下とでもいうべきか。
 通路が終わると今度は大部屋、だろうか。大部屋に入る前にデジカメで二枚ほど写真を撮る。この大部屋の床は黒色で壁から天井は灰色、さらに天井はドーム型になっていて高さ的には遺跡の頂上まで続いているようだ。この様子だと遺跡内部はこの大部屋一つだけで終わりなのか?
 大部屋に入り、壁などに手を触れる。冷たい石で年季も入ってそうだが、それでも非常に強固で崩れそうな様子は一切なさそうだ。
 まさかこの遺跡がこれだけな訳があるまい。ここまで何もないならもっと前に調査結果が出てもおかしくない。何かあるのか?
 そのときだった。急に足元がグラグラ揺れて崩れ始めたのだ。急な出来事に何も対応できなかった。自分だけでなくケーシィ、レントラーも下へ落ちていく。
 落ちていく過程で上を見たが、崩れ落ちた床は何故か落ちずに空中で止まっている。それもそうだ、あの黒い床は背中を上に向けたアンノーンの塊だったのだ。そしてこんな大量なアンノーン、昨晩襲ってきたアンノーンに違いないだろう。
 落ち方がまずかったので下手したら骨を折るかと思ったが、先に着地したレントラーが背中で受け止めてくれた。もちろん衝撃は来てきつかったのだがまだまだ余裕だ。
「ありがとうレントラー」
 まんざらでもなさそうにレントラーは吠える。
 それにしてもアンノーンは夜と違って全然襲ってこない。かろうじて問題なのは床がまたアンノーンによって塞がれてしまったので下手すれば帰ることができないということだ。
「ケーシィ、もう少し強く照らして? ここも一応写真に残しておくね」
 そう頼むと嫌な表情を一つも見せずにさらに眩い光を放つ。まずは頭上にいるアンノーンを。そして今度はアングルを下げて部屋を撮ろうとするが……。
「これは……」
 血痕があちこちに散らばり、白骨死体が大量に転がっていた。この遺跡には生還者がいないという話を聞いていたがなるほど、アンノーンによって道を塞がれ閉じ込められたせいでいずれ飢えてしまい、死んでしまう。既に液状化しているものもあったりと状態はメチャクチャで、見るに耐えれない。
 こういう腐臭には慣れている自分だが、鼻の利くレントラーにとっては地獄過ぎるだろう。可愛そうなのでひとまずボールに戻してあげてこの地下の部屋を探索する。
 どうやらまだ奥に進む通路があるらしいが、落ちた時にどっちがどっちか分からなくなってしまったのでどこに向かってるかが分からない。今いるところは死体と遺物しかなくどれも腐っているので特に探索する価値はない。というよりも早く出たい。そんなとき、脚で何か重たいものを蹴ってしまった。
「……」
 それはこの遺跡の石と同じ素材から出来てるであろう、灰色の鍵のような物だった。だが、鍵と言うには大きすぎる。一メートルくらいはあるだろうか、試しに持ち上げてみようとしたが重くて持ちあがらない。
「どうしたものか」
 直感的にはこの鍵には何かしらの意味があるだろうと告げている。しかし自力で持ってはいけない。とすれば仕方ない。
「ケーシィ、念力でこれを持ち運ぼう」
 ケーシィから不思議な力が発せられ石の鍵が持ち上がる。しかし念力を使うためにフラッシュで発していた光が非常に弱くなり、可視の範囲は二メートルくらいか。
 暗くなると同時にガサガサとする音が上の方からする。思わず腰にぶら下げていた懐中電灯を引き抜いて音の発生源に向けると、床(今いる場所から言うと天井だが)だったアンノーンが一斉に動いていた。これはまるで昨日の夜に襲われたような。しかし懐中電灯で照らしているアンノーンはだるまさんが転んだをしているかのようにピタリと動かない。
 夜に襲ってきたアンノーン、そして光が弱まると襲ってきたアンノーン。そうか。このアンノーン、明るさに弱いのか。
「ごめんケーシィ。その石の鍵を一旦降ろしてもう一度フラッシュを」
 ズシン、と鍵が落とされる音が響くやすぐに眩い光が部屋を包み込む。アンノーンは完全に動きを止め、そして再び天井に戻って遺跡の一部になっていく。しかしどうしたものか。まるで夜といいこの部屋といい自分達の邪魔をしているようだ。
 邪魔? そうか。きっと夜に襲うときは余所者の排除、今襲うのはこの石の鍵を運ぶのを防いでいるのか。この部屋のあちこちにある血痕は襲われた探検者のものだったのだろう。
 ここまで頑なに石の鍵を運ばせないようにするということはこの先に何かあるのか。しかしどうして運ぼう。……一つだけあるか。
 幸いだったのは、ケーシィが鍵を落とした下に少し大きめの石が転がっていたことだ。少し浮いた石の鍵をリュックサックから先っちょが金属になっているロープでグルグルと巻きつけ、しっかりととめておく。
「ダイノーズ、頼む!」
 ボールから現れたダイノーズは、自慢の磁力でロープの金属を引き寄せさせ、重い石の鍵を浮かび上がらせる。磁力で動いてしまえば物理的な力なんて関係ない。
 念力が使えないケーシィの代わりにアイデアを使って石の鍵を運ばせる。うん、問題ないな。恐らくはこのまま行けるだろう。
 部屋の先には再び一本の通路が伸びている。その通路にも死体が転がっている、せめて踏んでしまわないようにするのが情けか。
 横には二メートル、高さもそれなりにあるこの通路をダイノーズ、石の鍵、自分、ケーシィの順で進んでいく。途中までは遺跡と同じ石の造りだったが、急に土で出来た所謂普通の洞窟になってきた。まるでこの遺跡が洞窟につながるものだったかのようだ。そして軽く下りの傾斜となっている。
 何か音が聞こえたのでダイノーズとケーシィの歩みを停めさせる。チョロチョロチョロというこの音は……。水か?
 ヴァイナビレッジ周辺は乾燥地帯であり、水脈が完全に枯渇しているはずだ。しかしなぜ。この謎もこの先を行けば解決するだろうか?
 再び歩み始める。十五分程またもや洞窟を突っ切っているときだった。ケーシィが左足にしがみついてきたのでバランスを崩し、尻もちをつく。それに気付いたダイノーズがゆっくりとこちらを振り返って止まった。
「どうしたの?」
 ケーシィは自分が進もうとしていた場所を指差す。その方向を覗くと、十メートルくらい道が無くなっていた。下は奈落の底……というわけではないが落ちると助かる見込みは厳しい。なぜなら地下水が集まって川が流れているからだ。こんな地下でどこかに流されれば本当に危ない。
 ダイノーズはそもそも地面から何センチかは浮いているし、ケーシィだって自分の体を宙に浮かせるくらいは簡単だ。しかし自分は地に足をつける生き物。ここを乗り越えるには。
 そこでの解決方法はダイノーズが磁力で浮かび上がらせている石の鍵に乗ること。僅かな磁力で浮かび上がっている石の鍵に乗るよりダイノーズ自身に乗った方が安定するがこの位置からじゃ届かない。
「位置……。そうだ! ダイノーズ、動かないで。ケーシィ、一緒にダイノーズの上までテレポート!」
 ケーシィが腕を掴むと一瞬でダイノーズの頭の上に乗った。幸いにもダイノーズの頭は中央部に突起が少しあるだけで基本的には平である。着地はバランス良くできた。
 そのままふよふよとダイノーズの頭の上で落ちないように神経を気配りしながら待機していると、ようやく地上に到達した。そして今まで土だらけの洞窟に緑が見え始めた。
 緑……か。ここまで来ると思い当たる節は一つだ。まさかそんな夢物語な話があるのか? いや、もうここまで来ると信じるしかないだろう。
 さらに二十分ほど歩くと洞窟の向かい側から光が差してきた。ここはどれくらいかは分からないがかなりの地下になるはずなのに光が差すとはどういうことだ。
「ケーシィ、もうフラッシュはいい。お疲れ様」
 ここまでずっとフラッシュを続けてくれたケーシィに感謝してボールに戻す。
 光の方へ足を進めると、そこには楽園があった。木はないが草がたくさん生えているので草原というところか。そしてそこで取り分け目立つ存在は泉だった。
 この楽園、上を見上げるとあまりに眩しくて光源がどこか探れない。目線を元の位置に戻すと、この楽園の中で浮いている存在が一つだけあるのに気付く。泉の脇にこれまた石碑らしいものがあるようだ。
 石碑に近づいて、そこに文字があるのを知り読もうとするがこれは今まで読んだことのない字だ。どうしても読めない、それに近しい文字も思いつかない。きっとこの泉に関するもののはずだ。
「それ、読もうか?」
 ふいに背後から声がかかったので、急いで後ろを振り返る。少し痩せこけている感じの、ほぼ同い年くらいの青年が七メートルくらいの距離でいた。
 急いでレントラーのモンスターボールに指をかけるが、青年は両手を突き出して「待って待って!」と慌てふためく。
「敵じゃないよ、君は探検家だよね? 僕もだ」
 とはいえまだ気を許したわけではない。いまだ警戒を続け、鍵を運ぶダイノーズとともに近づいてくる青年に対して距離をとる。
「その石碑に書かれている文字はULテキストっていう種類だ。この間のシント遺跡で同じ文字を発見されたばかりで、ズイ遺跡などのよりもさらに古い文字だからまだ解読出来る人は少ないんだよ」
 じわりじわりと二人して動き続けているためいつの間にか青年は石碑の傍に位置していた。
「この石碑に書いていることは、今はヴァイナビレッジとなっている場所の昔話だ。教えてあげてもいいが、一つだけ交換条件がある」
「交換条件……?」
「何か食べるものはない? どうやらヴァイナビレッジは盗賊の集落らしく、探検者のスキを盗んではギリギリ探検に行くだけ行ける分だけ残して奪ってしまうようだ。それに気付いたのは後になってからだけどね」
「貴方が石碑を本当に読めるという保障は?」
「とある大学教授の助手、と言っておこうかな」
 まだまだ怪しいが、ここは聞くだけ聞いておこう。
「分かった、信用する」
 青年は非常に愛くるしい笑顔を見せた。最後の缶詰を青年の元まで手渡しするとそれにがっつき始めた。
「うん、ありがとう。それでこの石碑の内容だけど、簡潔にまとめると、ヴァイナビレッジは元々はこの地方で一番緑で栄えていたところだったらしい。緑が豊かとなれば農産資源ももちろんある。それを狙って他国は戦争を仕掛け続けた。そしてやがて焦土となるだろう土地を守ろうとした当時の王様と思わしき人がこの地下深くにその自然を封印したんだ」
 話が眉つば過ぎる。自然を封印? どういうことだ。青年はそう悩む自分を見てははっと笑った。
「もしも信じていないなら試してみれば?」
「え?」
「その石の鍵を泉に放り投げるんだ。そうすれば封印は解けるらしい。簡単に封印が解けないように、複雑な仕掛けを作ったようだが確かにそうだね。僕は石の鍵を運ぶソースがなかったから、誰かが運んでくるのを待ってたんだ」
「待ってた?」
「そう、ここじゃ昼も夜も分からないが、感覚的には半年以上は待ってたのかな。泉の水を飲んで、草をそのまま食べて。まあ草は栄養分がなくてとても辛かったけどね」
 もしこの青年が言っていることが嘘ならば泉に投げ捨てるとそこから回収することは一切出来ない。しかしこの洞窟もこれより奥があるようには思えない。そうなればやるしかないだろう。どっちにしろふん詰まりだ。
「分かった、やってみる。ダイノーズ!」
 ダイノーズは泉の上まで石の鍵を誘導すると、磁力の力を無しにする。ドプン、と石の鍵が泉に飲み込まれると、泉の中から大量の光が放たれる。目を両腕で覆うも、視界だけでなく意識も白一色に染まっていく……。



「大丈夫かい?」
 青年が肩を揺らしてくれたので目が覚めた。ゆっくりと体を起こし立ち上がると、眼前には大きな湖、川、草、木々が広がっていた。さっきの楽園とは違う。あれは泉と草原しかなかった。
「ここはどうやらヴァイナビレッジのようだ。あの家分かるかい?」
 木造の小さな家、あれはこの集落に来て泊った家だ。
「君が目を覚める前に少し調べたが、あの遺跡一帯が沈んで湖になったようだ。まだ確認してないがアンノーン達も遺跡の中にいるままかもしれないね」
「……」
 ずっと被りっぱなしだった帽子を脱ぐと、薄いブルーの長い髪が帽子から解き放たれ背中に流れる。青年はそれを見て驚きの顔を一瞬見せたがすぐに自分と同じくしばらく湖を眺め続けていた。



 その後、ヴァイナビレッジはヴァイナタウンと名を改め、たくさんの人が住みつきたくさんの人が農業等自分の仕事に従事した。
 ヴァイナタウンは緑を保ち続け、発展を遂げた。湖の端には薄いブルーの長い髪の女探検家と、優しげな笑みを浮かべる青年探検家の像が建てられ、いつまでもこの湖と街を見続けている。
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.33 )
日時: 2010/09/06 23:14
名前: でんぐりがえり

Aコース [ユーアンドアイ、愛]


 ホウエン地方ヒマワキシティ。ツリーハウスが魅力的で、自然と一体化したような町。
 この町の子供達は皆自然の中で育ったようなものである。そのためか、幾分やんちゃで怖いもの知らずな部分がある。
 子供は大きくなればなるほど外の世界に憧れを持つものだ。大人から子供だけでは行ってはいけないと昔から禁じられている町の外に子供だけで行きたいと、誰もが沸々と感じていた。
 この日、ポケモンセンターの近くで、いつものように子供が数人集まっていた。
 和気あいあいと今日の遊び内容についての話しあいを進めているうちに、このグループの中心と言える仕切り役のテツヤがそうだ、と切り出した。

「町の外に探検に行こうぜ!」

 そうして始まった、彼等の小さな思い出。




 昨日の探検するという提案から一日経って午後一時、ポケモンセンター前。少し灰色の雲が空にある、影のある天気。
 十分ほど前にここにやってきた女の子、ミナトは長い黒髪をポニーテールにして青いTシャツに白い短パンをはき、水色のリュックを背負っての軽装だった。
 誰かが来ることを願いながら、ミナトは少し咳き込んでからリュックの中身を確認するように一度前に持ってきて中を覗く。
「……わっ!」
「わああっ!?」
 大きな声と共にミナトの背中を男の子が押す。ミナトの背後からそろりそろりと忍び足で近づいていたテツヤだ。
 突然のことにミナトもいつもは出さないような大きな声をあげる。心臓が大きく跳ねて口から跳び出してしまいそうな勢いで彼女は驚いた。
 大きなリアクションにテツヤは仕掛けた方なのに逆に驚きつつも、満足気な笑みを隠せない。
 とんでもないスピードで鼓動を打つ心臓を押さえるようにミナトは胸に手を置く。睨みつけるようにテツヤを見る。
 テツヤはピカチュウのプリントが大きく描かれたTシャツと黒い短パンを身につけ、黒いリュックを背負っている。
「てっちゃん……びっくりしたよ、もうっ」
 テツヤのことをミナトはてっちゃんといつも呼んでいて、それは二人の間の親しい仲を象徴していた。
 ミナトは少し頬を膨らませる。ごめんごめん、とテツヤは軽く謝った。反省しているようには見えないがミナトもそこまで怒っているわけではないので問題は無い。
 その後少し場を落ち着かせるように二人は息をついた。
「暑いなー」
「暑いね」
「今日俺んち夕方まで誰もいないんだ」
「そうなんだ」
「うん。まあいっつも昼は俺遊んでるから、家に母ちゃんいたとしても怪しまれることはないけどな」
「そっか」
「……そういや、こないだ借りたゲーム進んだ!」
「ほんと? やっぱりてっちゃんはすごいね」
「なんかできたんだよ。変なとこに鍵があってさー……なんかお前顔赤くね?」
「え? 気のせいだよ」
「そっか、なら別にいいんだけど」
 他愛もない会話が続く。少し間を置いて、テツヤは辺りを見回す。
 ポケモンセンターの近くにある時計は、一時三分を指していた。
「あたしたちだけ?」
 ミナトが少し不安そうに尋ねると、テツヤは両手を腰に当てた。
「わかんね。ソウタが来るかなって思ったけど。案外集まらないもんだな」
 その後十分ほど彼等は待ったが、他に誰か来る様子は無かった。
 行き先はミナトの提案でヒマワキシティの西、一一九番道路に決定する。



 水溜りが多く、鬱蒼と茂る草むらと木々が目に入った。近くを流れる大きな川の音が耳に入ってくる。
 空には分厚い雲。この辺りの地域は年中雨が非常に降りやすい。昔ヒマワキシティにまで水面が届いたこともあるらしい。
 テツヤとミナトは周りをきょろきょろと見回し、普段は見ない景色に心臓が鼓動を速めるのを感じた。
「あっミナト! あれモモンの実じゃないか?」
 嬉しそうに声をあげるテツヤの言葉にミナトはテツヤの指差す方向を見やる。彼の言った通り、ピンクの木の実のなる木があった。
 テツヤは駆け寄ってその木の元にやってくる。遅れてミナトも小走りでやってくるが、身長の低い二人は手を伸ばしても指先すら届かない。
「くそお届かないじゃん! あれ絶対うまいのに」
「うん」
 ミナトは残念そうに頷く。真上を見上げてモモンの実を見つめる二人。
「……よーし!」
 テツヤはにやりと笑った。そして後ろに数歩下がると爛々と眼を輝かせる。ミナトは少し嫌な予感がして後ずさりする。
 テツヤはスタートダッシュを切った。そして木の一歩手前で少し身体を逸らして木に思いっきり体当たりをした。木が大きく音を出して、同時にテツヤにもダメージが来て彼はその痛みに顔を歪ませる。
 肝心のモモンの実は大きく揺れるが、落ちることはなかった。
「てっちゃん、大丈夫!?」
 痛みによろけて地面に膝をつくテツヤに慌ててミナトは駆け寄る。
「いって……」
 苦渋の表情で木にぶつかった部分を押さえているテツヤに、尚更ミナトの不安は大きくなった。しゃがみ込んでテツヤの顔を覗き込む。
 が、テツヤは俯かせていた顔をぱっと上げてミナトに思いっきり笑って見せた。
「このぐらいどうってことねえよ! それより、無理だったなーくそお」
 悔しそうにテツヤはモモンの実を見上げる。
「仕方ない。登って取るか!」
 そう言うとテツヤは少し近くを見回すと、モモンの実の木の隣の木に歩み寄り、低い枝に手をかけた。腕に力を入れて足を幹にかけると、あっという間に枝に足を乗せた。その後次々と枝から枝へと渡り歩いていく。大分高くなってきたところでモモンの実のある枝に慎重に渡り、ついに手の届くところまでやってくる。
「やった!」
 思わず声をあげるテツヤはモモンの実をもぎ取った。
「ミナト、おとすぞ!」
「う、うん」
 ミナトは手をかざしモモンの実の受け皿を作る。テツヤはその手に狙いを定めて場所を調節する。
 と、その時テツヤは背後で何かが動いた音を聞き、後ろに目配せをすると眼を大きく見開いた。
「うわあ!」
「てっちゃん!?」
 驚きのあまりテツヤは体勢を崩し足を滑らせて、そのまま下へとまっさかさまに落ちる。
 突然の出来事にミナトは驚くが身体が先に動いていた。テツヤが地上に叩きつけられるその前に、ミナトは彼の下へとやってくる。直後テツヤがミナトに圧し掛かった。
 しかし重みと勢いとがミナトにはあまりに大きすぎて、支えきれずそのままミナトは地面に突っ伏す。
「ミっミナトごめん! 大丈夫かっ」
「え、うん、大丈夫だけど早めにどいて……」
「うわ、ごめん」
 テツヤは慌てて立ち上がる。安堵したミナトはよろよろと立つ。少し頭に痛みが掠めた。
 少し怯えた表情でテツヤは再び木を見上げる。合わせてミナトも見ると、そこには小麦色の固い身体をしたポケモン、コクーンがいた。表情はあまりよくわからないが、じっと二人を見つめて少し震えている。しかも一匹だけではなくその背後にもビードルの姿が何匹かあった。ビードルは憤怒の表情を露わしていた。
「なんか……やばい気がする」
 ミナトは呟いた。
 その時、一段と大きな音がして二人は身体を大きく震わせた。
 耳障りな大きな羽音が耳に入り、途端に二人の顔が青くなった。その音のする主が何なのかこの状況から分かったからだ。
「てっちゃん逃げよう!」
 ミナトは叫び恐怖に動けないテツヤの手を無理矢理引っ張る。それではっと気がついたテツヤは急いで走り始めた。
 少し遅れてから二人の走り去る様子を睨みつけるように現れたのは、彼等が予想した通り、大きな羽と刺を持つスピアーである。大きな赤い眼をぎらりと光らせた。
 ミナトは頭がふらふらとするのを感じた。が、湧き上がる恐怖が無理矢理にでも足を走らせる。
 その時、頭上から水が落ちてきて二人は顔を上げた。灰色の重たい雲から雨が降ってきたのだ。
 少し振り向いてみるとスピアーはこちらに向かって飛んできていた。
「てっちゃん、草むらに!」
 息を切らせながらミナトは言った。テツヤはそちら側を向くと、彼等の背丈以上もある草むらが生い茂っていた。
 迷う暇などなくそこに跳びこむように入る。
 雨量が尻上がりに多くなってくる。彼等が草むらの中で走っている最中には、既に土砂降りになっていた。
 草むらはうまく彼等の姿を隠してくれたようだった。スピアーは草むらの上を通過した。降りだした雨のひどさから反撃を断念する他なかった。
 少しずつスピードを弱めて、途中で止まり耳をすませるテツヤ。よく景色は見えないが、恐らく逃げ切ったのだと思い安堵の表情を浮かべた。
 ミナトも立ち止まる。叩きつける雨の音が鼓膜に響き、頭がハンマーで殴られるような痛みに襲われた。思わず頭を押さえて、その場に座り込んだ。朝から感じていた寒気が一層大きくなり、身体を大きく震わせる。
 その様子に気付いたテツヤは目を見開いた。
「みっミナト! どうした、あの化けもんはどっか行ったぞ」
「……大丈夫」
「大丈夫じゃねえだろ!」
 そういって少し肩を揺さぶるテツヤ。しかしその行為は逆にミナトを苦しめる。その揺れでまるでミナトは大きく回されているような感覚に襲われ吐き気を感じる。
 テツヤの呼吸がようやく安定してきた頃、周りで草むらを掻き分ける音がした。テツヤはミナトに身を寄せて辺りを不安げに見回す。
 すぐにその正体を知ることになる。
 茶色と白と交互に色分けがされた体毛を持つ、ジグザグマだ。テツヤが確認できる範囲だけでも四匹はいる。
「くそっ」
 テツヤは何かこの場を切り抜ける手立ては無いかと急いで見回す。が、背の低い場所からの視界では外の様子は殆ど見えない。
 その時テツヤの懸命にこらした視界の中に穴のあいた大きな草の塊が目に入る。
 そこに入るしかない、テツヤの頭にそんな考えがよぎった途端、ジグザグマの群れの内の一匹が声をあげた。瞬間、他のジグザグマ達が二人に襲いかかった。
 テツヤは大きく眼を見開いた。
「うわあああ!」
 叫び声をあげた時には二人の身体は宙を飛んでいた。
 ミナトが先に落ち、身体の中にこもっていたものが口から吐きだされる。酸味と苦みとその他わけのわからないものが混じった嘔吐物が地に叩きつけられた。
 少し遅れて落ちたテツヤは身体の痛みに声にならない悲鳴をあげつつも、ぱっと顔をあげてミナトに駆け寄る。
「ミナト!」
 明らかに苦しげに項垂れるミナトの背をテツヤは軽く叩く。それと同時に視線だけは周りを見て様子をうかがう。
 草むらの間からいくつもの黒い瞳が二人を見ている。雨粒がますます大きくなりそれだけで痛みを感じた。
 咳を絶えず出し続けるミナト。呼吸はまともにできなかった。
 俺のせいだ。テツヤは心の中で思った。
 ミナトの体調が少しおかしいことは何となく気付いていた。そしてミナトから「一一九番道路に行きたい」という言葉を聞いた時に彼は分かったのだ。彼女の目的は単純にこの場所を探検することじゃないということを。昔からよく遊んでいた仲であるために彼女の事情をよく知っているテツヤだから分かった。
 小さな少女の背に乗せる右手を少年は強く握りしめた。悔しさに歯を食いしばらせた。

「アブソル、電光石火!」

 聞いたことのない女の子の声が雨の中で跳ねる。
 テツヤが俯いていた顔を上げて瞬きをした時、鋭い風のようなものが彼の右隣を過ぎ去った。
次に聞こえてきたのは打撃音と、ジグザグマ達の悲鳴。
「え」
 草むらの向こうにいたあの黒い瞳が次々に消えていく。倒れたものもいれば逃げ出すものもいた。
 あっという間の出来事にテツヤは口をあんぐりと開けた。身体中の震えは止まり、呆気にとられている。
 雨だけが相変わらず降り続けている。

「大丈夫?」
 後ろから声をかけられてテツヤは後ろを振り向く。
 テツヤやミナトより年上の女の子は赤いバンダナを頭につけて、少し長い茶色の髪は雨に濡れていた。全体の服の雰囲気も赤が中心だ。
 女の子は二人の様子を見やり、すぐにミナトの様子がおかしいことに気付き傍にしゃがみこむ。
「大変、この子すごい熱! ちょっとどいて」
 そう言われるとテツヤは逆らわずに慌ててその場を少し離れる。すると女の子はミナトを抱き上げ、テツヤが見つけたあの大きな草の塊へと向かいその中に入っていった。
「君も入っておいで。この中なら安全だし雨も避けれるよ」
 顔だけを出して女の子は言うと姿を消す。テツヤは呆然っとしていたが急いで女の子の入っていった場所に入る。

 草の塊の中は意外にも広く、テツヤは辺りをきょろきょろと見回した。机と椅子くらいしか置かれていない。
 髪から水を滴らせて、大きくくしゃみを一度するテツヤ。鼻水と顔をびしょぬれの袖で拭うと、女の子がミナトを寝袋の上に寝かせているのに気付いた。
「ミナトっ」
 テツヤはミナトの傍にやってくる。女の子は赤いタオルでミナトの身体を拭いていた。その間もミナトは苦しげに声を喘いでいる。
「すごい熱」
 ミナトの額に手をあてて女の子は苦々しく声を漏らす。
 その場にテツヤは座り込んで、俯く。
「ごめんミナト……俺が探検なんて言わなけりゃ良かった。ミナトが風邪ってことに早く気がつかなきゃいけなかったのに、俺、なんにもできなかった……」
 呟くような謝罪の言葉に一同は沈黙する。女の子は唇を噛みしめながらウェストポーチを探り、様々なものを出していた。
 部屋の中では少し籠った雨の音が叩く。その中で、足音が入口から聞こえてテツヤはそちらをさっと見て口を開けた。
 雨水を滴らせながらも美しい白い体毛に身を包み、頭にある大きな鎌のようなものが鋭く光る。女の子の持つポケモン、アブソルだ。
「アブソル、ありがとう。ちょっと待ってて」
 手を忙しく動かしたままで女の子は早口に言う。アブソルは少し溜息をつくと三人の元にやってくる。
 足音にミナトは瞼を開け、そして驚いたように口を開いた。
「マシロ?」
 ミナトははっきりと言った。
 その言葉の意味が理解できずテツヤはアブソルとミナトを交互に見やる。対して女の子は意味が何となく分かったのか、ミナトの顔を覗き込んで苦笑した。
「このアブソルは私のポケモンであって、君の知ってるアブソルじゃないの」
 女の子の言葉にミナトの表情に影が入る。
 そして女の子の発言によってテツヤはようやくミナトの言った理由を知った。
 マシロというのはミナトの父の持つポケモン、アブソルの名前である。
「ミナト……やっぱりお前、お父さんに会いたかったんだろ? 天気研究所にいる、お父さんに」
 テツヤはミナトの顔を心配そうな眼で見ながらそう言った。ミナトは視線をテツヤから逸らし絶句する。
 女の子は鞄から取り出した、額にはれる冷たい小さなシートをかざす。
「シートはるね。ちょっと冷たいよ」
 一度声をかけてからミナトの額にそれをはる。ミナトは氷にも似た冷たさに思わずびくんと身体を震わす。
 少し咳の方も落ち着いてきたところである。頭痛は続いているが、少し楽といえば楽になっていた。女の子はその様子に安堵し、肩の力を少し抜いた。
「良かった、ただの風邪みたいね」
「ありがとうございます」
 テツヤは声がうまく出せないミナトの代わりに感謝の弁を述べると、女の子は軽く笑う。
「でも、君達どうしてこんなところで」
「探検のつもりで……遊びの感覚で来たんです」
「うーん、まあ気持ちは分かるけどねえ」
 数秒置いてから女の子はにっこりと笑ってからテツヤの左肩に手を置く。テツヤは座り込んでいる女の子と視線を合わせた。
「我慢すれば出れるから、今日みたいなことはやめときなさい」
 口元は笑っているが眼は真剣である。その勢いに押されるように、テツヤは黙って二、三度頷いた。女の子はテツヤの柔らかな頭を撫でてやる。
 その後女の子は様子を伺うように再びミナトに視線を投げかけた。ミナトはそれに気付くと少し咳き込む。
「……あの、お願いがあるんです」
 ミナトは囁くような声を絞り出す。虫の声同然で、掠れている。その様子にテツヤは思わず身体を震わせた。
 女の子は首を傾げながら顔を近付ける。
「リュックの中に、お父さんへの、お弁当入れてるんです」
 女の子は軽く頷いて相槌を打ちながら、傍に置いていたリュックに手を伸ばす。引き寄せて中を覗くと、案の定中もびしょびしょである。あさると一番底にピンクの弁当箱があった。
 プラスチック製で中は無事であるようだ。念のために蓋を開くと、なんとか原型を保っている大きな御握りが3つ、無理矢理詰められていた。その横に、小さく折りたたんだ紙も見える。
 これ? と女の子は訪ねてみるとミナトは大きく頷いた。
「お父さん、明日まで帰ってこないって……こないだのルネの天気がおかしくなった日から、忙しくて、それで、家にもあんまり帰ってこなくて……疲れてるかもしれないから、どうしても届けたいんです」
「それは、私に届けてほしいってことかな」
 ミナトは頭を小さく縦に振った。
「ほんとはあたしが届けたいけど、こんな身体だから……お父さんに、心配かけさせたくないんです」
 言い切ってから大きくまた咳き込む。女の子は慌ててミナトの背中をさすってやる。
 テツヤは言葉が出なかった。自分が思っていた以上にミナトは父のことを思っていた。

 ミナトには母がいない。
 二年前、一一九番道路の大洪水が起こったその時、天気研究所の研究として水質調査を行っていた。が、予想以上に水かさの増える量が速く、逃げ遅れてしまったのだ。荒れ狂った波に呑まれ、数日後水死体として少し遠い一一八番道路の浜辺に打ちあがっていたのを発見された。
 その後ミナトの父は養育費を稼ぐために懸命に働いている。だが、それは家を長く開けることに繋がってしまった。
 幼いミナトは父への思いを募らせた。そして飛びこんできたテツヤの提案である探検。その瞬間、父に会いに行けると思ったのだろう。リスクを負ってでも会いたかったのだ。

「……分かった。お父さんはなんていう名前?」
 女の子はお弁当を大切に腕の中に寄せる。ミナトは汗を滲ませながら少し笑みを浮かべた。
「ありがとう、ございます……リョウです。瀬戸涼です」
「セト、リョウさんね。オッケー、確実に届けるわ。ここから近いし、すぐに行ってくる」
 女の子は立ち上がった。それからケンタを見ると小さな頭を撫でる。
「一応アブソルをここに置いていくわ。すぐに帰ってくる。この子の傍にいてあげてね」
「……うん」
 テツヤは相変わらず落ち込んだ顔つきでいた。
 それを見た女の子は少し顔をしかめて、しゃがんでテツヤに視線の高さを合わせる。テツヤは視線を上げる。
「男の子がそんな顔じゃだめだよ。後悔することなんていっぱいあってもそれが何。もう過ぎた事なんだから、うじうじしててもしょうがないでしょ。今やるべきことをやるの。そして今やるべきことは、あの子の傍にいてあげることだよ」
 怒っているような口調だった。実際少し怒っているのだろう。テツヤは唇を噛みしめて、言われた言葉を噛み砕く。ゆっくりと自分の中に浸透していくのが分かった。
「うん」
 自然と頷いていた。
 女の子は笑った。綺麗な笑顔だった。
「重大な仕事だよ」
「うん」
「病気の人にとって、傍にいてくれる人っていうのはすっごく大きな存在だからね。それだけで力になれるの」
「うん」
「よし」
 すっくと女の子は立ち上がりウェストポーチに弁当箱を入れると、背を向けた。が、直後に思い出したようにまた振り向く。
「私の名前はハルカ。君は?」
「えっ、あ……テツヤです。あっちはミナトです」
「テツヤにミナト、オッケー。じゃあすぐに戻ってくるわ」
 そう言って女の子――ハルカは今度こそ本当にこの場所から離れた。

「……よし」
 テツヤは決心する。苦しみながらも少し落ち着いたミナトの顔の横に身体を持ってくる。
 不思議な気持ちに彼は包まれていた。なんだか救済されたような気がしたのだ。
 ミナトはそっと瞼を開くとテツヤを見つけ、そうすると安心したように口元だけ笑って見せた。
 その笑顔だけで、テツヤは嬉しくなれた。



 一一九番道路北西に位置する天気研究所。
 その白い建物に走っていくハルカ。先程の自分の秘密基地から距離は眼と鼻の先のようなものであるから、すぐに辿りついた。
 雨の中を一生懸命走り、ハルカはようやく研究所の中に跳び込んだ。その音に入口近くにいた女性の研究員は驚く。
「あれ、ハルカちゃん! どうしたの、こんな土砂降りの中!」
「あ、すいません、ちょっと用事があって……。あの、セトリョウさんはおられますか?」
「セトさん? 瀬戸さんなら、あ、丁度あそこに。瀬戸さーん!」
 女性は右方向に向かって叫んだ。その間にハルカはウェストポーチからタオルと弁当箱を出し、まずはタオルで顔を拭く。
 その間に呼ばれた男性が気付いて早歩きでやってくる。少し驚いた表情でハルカと女性の元に寄った。
「どうしたんですか、僕に何か?」
 ハルカにとって彼は初対面だった。赤の他人であるのに用事があるなんて、彼には思ってもみなかったことだろう。
「初めまして。ハルカといいます。あの、これあなたの娘さんからの預かり物です」
 その言葉に彼は目を丸くして、ハルカが差し出した弁当箱をじっと見つめる。しばらく沈黙が続いていたが、彼はその弁当箱を受け取る。
 すぐにその蓋を開けると、御握りと小さな紙に驚きを隠せなかった。
「これを、娘が?」
「はい、ミナトちゃんがあなたに。すごく心配されていましたよ。でも……」
 ハルカはミナトの体調のことを言うなという言葉を思い出す。
「ミナトちゃん、すごい熱を出しているんです」
「……え?」
 リョウは突然の宣告に思わず息を止める。ハルカはきっと彼を睨むように顔を引き締めた。
「仕事は大切でしょう、それはよく分かります。ですが、それでミナトちゃんは淋しい思いをしているんです! 私はさっきあの子と出逢ったばかりですが、それぐらいよく分かりました。……私の父もいつも忙しいですが、病気の時はつきっきりで看病してくれました。それがどれだけ嬉しかったか……」
 吐きだしていく言葉は滝のようだった。それは突き刺さる様に形の無い衝撃としてリョウに届く。
 ハルカは一度自らを落ち着かせるように深呼吸をした。
「……今ミナトちゃんはこの近くにいます。ちょっと遊んでいたらこの雨やらで風邪をこじらせたみたいで。この後私が家にお送りします。できるなら……家に帰ってミナトちゃんの看病をしてあげてください」
 早々と言い切るとハルカは腰を折り礼をした。
 呆気にとられたリョウは慌てて礼を返す。顔を上げたハルカはにっこりと笑った。
「それでは、失礼します」
 ハルカは傍にいた女性の研究員にもお辞儀をすると、すぐに出ていった。



 あっという間の風のようなできごとにリョウはしばらく唖然としていたが、隣の女性に肘をつかれると我にかえる。
 その後御握りをじっと見つめ、震えた手で一つ掴む。大きな彼の手にすっぽり収まった。
 それをかじり噛む。米の甘さとほんのり塩辛さが口の中に広がる。塩御握りのようだった。数カ月前に自分が御握りの作り方をミナトに教えたのを思い出した。
 味は彼にはとても美味しく感じられた。世界一の御握りだと思えた。そして自分は世界一幸せな人間だと思えた。
 熱いものが彼の目頭に上ってきたが何とか耐える。
 次々とかぶりつきあっという間に一つ食べ終える。指についた米まで舐めると、御握りと弁当箱に挟まれていた小さな紙を取り出す。
何重にも折られていて、それをゆっくりと開いた。開いてももちろん小さな紙だった。

“おとうさん おしごとがんばってね みなと”

 そう赤の色鉛筆で書かれた言葉。
 リョウは唇を噛みしめ、手紙を持った手で軽く目を拭う。
 まだ拙い文字だ。だけど思いはしっかりとこもっていた。ちゃんと伝わった。

「瀬戸さん」
 女性が少し心配そうに顔をのぞかせる。リョウは顔を上げて女性の方を向いた。その目は決心したように強く光っていた。それを見て女性はふっと笑う。
「……私から所長には伝えておきますから、家に帰ってあげてください」
 その言葉にリョウは少し驚いた。女性は先程の会話の一部始終を聞いていたのだ。リョウは感謝の気持ちに包まれ、甘えさせてもらうことにする。
「ありがとうございます」
 満面の笑みを浮かべる女性の顔にリョウは苦笑した。そして体の向きを変えて纏っていた白衣を脱ぎながらきょろきょろと周りを見回しそれを目にとめる。
「マシロ、帰るぞ」
 白い床に寝そべりリラックスしていたアブソル、マシロはその言葉を聞くと瞼を開きゆっくりと立ち上がった。
 丁度良いタイミングで外の土砂降りもやみつつあった。



fin.
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.34 )
日時: 2010/09/06 23:15
名前: きぃぺ

 Bコース『#8 その後の話、御祭騒ぎと神隠し』


「妹を探して欲しいんです」
 鳥坂は女子生徒に頭を下げられて困惑していた。
「そんなにかしこまらなくてもさ、同い年だし、そんな風にされると」
 彼にはその後にどう言葉を続けるのが一番賢いのか、見当もつかなかった。放課後、今から生徒達は部活に向かおうかという時間帯のことだった。
「とりあえず、話は聞くよ」
 肩に担ぎかけていた学校用かばんを下ろし、誰の席か分からない机の上に腰かける。鳥坂はため息をつきたくなったが、目の前にいる彼女の深刻な表情を見てためらった。

 彼女は何から話そうか悩んでいるようで、しばらくの沈黙が流れた。出来れば放課後は早く帰りたい鳥坂にとっては、早く終わらせたかった。
「てか、何で俺に相談しようと思ったの」
 鳥坂は聞いた。声から漏れる苛立ちを何とか隠そうとする。
「波多野君から。部活が同じだから相談したらさ、『鳥坂くんを頼ったらいいよ』って」
「波多野?」
 思わず顔が引きつる。波多野は、高校に入ってから仲良くなったクラスメイトだ。やたらと鳥坂と共に行動を取りたがるので、鳥坂は色々自分の話をせざるを得なくなった。
 鳥坂の先祖の中で一人だけ、人食い妖怪を退治する仕事をしている者がいたらしい。実家には彼の残した文献が保管されていて、両親はよくその妖しい存在のことを寝る前に聞かせ、鳥坂を怖がらせた。
 そんな血筋のためか、人には見えないものを見て、引き付ける力がある。あまり嬉しくはない。おおよそそういう存在は、鳥坂にとってよいものとはならない。
 波多野はそれを知ると、どこからか妖しい事件を持ちこみ、鳥坂に解決してもらおうとする。鳥坂にとってはただのトラブルメーカーだ。

「鳥坂くん?」
 苛立つ気持ちに囚われ、少し黙ってしまったようだ。
「あぁ、ごめん。そう言えば君の名前聞いてなかったね」
「7組の岸田よ」
 岸田さん、と鳥坂は復唱する。毎度毎度、新しい人に会うたびに冷や汗をかかずにはいられない。鳥坂は人の名前を覚えるのが苦手なのだ。
「それで、岸田さんの妹が行方不明なんだ」
 岸田は頷く。
「昨日祭りあったでしょ。4日連続の初日のやつ。妹もつれて行ってたんだけど、途中ではぐれちゃって」
「あぁ、神社の周りのやつね」
「そうそう。色々探しても見つからなくて、結局帰ってこなかった」
 大事じゃないか、と鳥坂は驚く。
「迷子のお知らせとか、警察行ったりとかは?」
「したよ。それでも見つからなかった」
 言葉を発した分だけ、岸田の肩が小さくなっていくような気がした。鳥坂は空気の抜けていく風船を思い出した。
 岸田は息を吸い込み直すと、顔を上げて続けた。
「それでね、もしかしたら神隠しじゃないかって話になって」
「神隠し、ねぇ」
「ねぇ、どう思う」
「どう、って言われてもなぁ。見てないから何とも」
 一瞬期待したような岸田の目は、また伏せられた。その様子を見て、気持ちが焦ってしまった鳥坂は、ついうっかり言葉を出してしまう。
「でも、まぁ、少し努力はしてみるよ。岸田さんも、今日はお祭りの関係者のとことかと協力して探して」
 本当に、ありがとう、と岸田は声を上げる。鳥坂はメールアドレスを交換し、また連絡すると伝えて別れた。

 岸田を見送り、教室を出ようとすると、廊下に波多野が立っていた。
「よぉ」
「よぉじゃねぇよ。また面倒なことを押しつけやがったな。それに部活はどうした」
 鳥坂の怒りを尻目に、波多野は笑った。
「まぁいいじゃん。人助けだと思えば。それに鳥さん、部活やってないからいつも暇そうじゃないか」
 悔しいが、反論できない。波多野は鳥坂のことを鳥さんと呼ぶ。
「どうせ俺の頭は鳥さんですよ」
 鳥坂は吐き捨てるように言った。波多野は全く聞く様子もなく、部室の方向へと歩き出した。そう言えば、と考える。結局波多野が何の部活をしているのか、鳥坂は知らない。聞こうと思っても会ってからはついつい言い忘れる。
「鳥さんで悪かったな」
 もう一度、鳥坂は呟いた。

 家に帰って、資料をひっぱり出しながらプランを練る。
先の残した情報は膨大で、調べるのには時間がかかる。段ボールをふた箱、自分の部屋に移す。重量に負けて、どすんと落とすように置いてしまった。
 今日の祭りに参加して今から急いで探す、というのは、得策ではない。もしただの誘拐だったなら、出来るだけ早く対応した方がいいし、一高校生が関わることではない。警察に任せればいいのだ。
 しかし、魑魅魍魎の仕業だったなら、事情は違ってくる。妖怪たちの行動原理は人間には理解しがたいものばかりだ。例えるなら、奴らは人間で遊んでいる。恐らく、得体の知れないものに対する知識など、多くの人間は持ち合わせていないだろう。
 一日などという短いスパンでは、おもちゃにした人間を捨てない可能性がある。大事なら、壊さずに大事にとっておくかもしれない。しかし、そうじゃないかもしれない。
 それはふたを開けてみるまで分からないことだ。だから、鳥坂はふたを開けてから何が起こっても無事に済むように準備を整える。
 ちらとカレンダーを見やった。今日は金曜日だから、明日は休みだ。今日と明日の午前中をかけて、祭りと妖怪について調べ上げる。実地調査は、明日の夜だ。
 鳥坂は岸田に、その旨を伝えた。

「こんばんは」
「よう」
 鳥坂は岸田と合流する。時計に目をやると、午後8時。空も暗くなり、普段の日なら高校生が外出していたらそろそろ怪しまれる時間帯だ。
「やっぱり妹さん、いなかったんだな」
 鳥坂は言う。
「うん。やっぱりこれ、アレなのかな」
「アレだな。俺もそう思う」
 神隠し。つまり、岸田の妹の誘拐事件の正体。急に岸田の頬が赤くなるのに気付く。
「こんなに必死に探してるのにさ、ひどいよね」
 泣きそうな声をしていた。既に家族が二日間、行方知れずなのだ。心配もするだろう。鳥坂は深く息を吐いた。
 祭りの囃子と雑踏が、小さな通りを張り詰めた空気に仕立て上げる。出店が神社に続く通りに並び、提灯が延々と遠くまで掲げられている。
「とりあえず、神社の方まで行ってみようか」
「分かった」
 神社までは、石畳のゆるい上り坂になっている。そのせいか、神社までの距離が妙に遠く感じられた。
 途中で、お面屋を見つけてはたと止まる。
「どうしたの?」
 岸田が聞く。鳥坂は口元に笑みを作る。
「これ買おうと思って」
「あ、かわいいね」
 色々なお面が並んでいる。戦隊モノの仮面5色、最近人気のヒロインものの妖精。
 ポケモンが一番上に並んでいるのを見て、鳥坂は苦笑いする。
 古くからあるようなオーソドックスな狐の仮面も売っていた。それが一番安かったので、それを購入する。
「岸田さんも買っといた方がいいよ」
「そう?」
「うん、必要だろうから」
 どれにしようかな、と悩んだ末に選んだのは、ポッチャマのお面だった。一応ゲームは一通りやったので、鳥坂はそれがどんなポケモンなのかを知っている。
「似合う?」
 笑いながらお面を付けて、聞いてきた。
「似合うんじゃないの」
「そっけないねぇ」
 岸田は頬をふくらました。

 仮面を頭に付けながら、二人は神社の前までやってきた。下に敷かれた細かい石が、踏まれるたびにじゃりじゃりと音を立てる。
 暗い時間に見ると、おごそかな雰囲気が一層強まる。きっとそれは、気のせいではないだろう。目に見えない何かが、そこで力を蓄えているのだ。鳥坂には屋根の上に、うっすらと巨大な何かの影が見えていた。
「神隠しが起こる条件って言うのは、いくつかある」
 鳥坂は切り出した。
「正確に言えば、今いる世界から違う世界に移動する条件だな。
 一つは、一人で完全に道に迷うこと。これが神隠しの中で一番多いケースなんだ。これは元いる世界から別の世界に移動してしまう場合に起こる。恐らく、岸田さんの妹もそれで神隠しにあったんだと思う」
 岸田は納得したように頷く。
「もう一つは、禁忌を犯したとき。
 怪談話で聞いたことないか? 『この扉は、絶対に開けてはなりません』っていうヤツ。もし自分が妖怪とかに閉じ込められた場合、そういう禁忌は破らなきゃいけない。相手は自分を閉じ込めたいから、都合のいいように相手の行動をそれとなく禁止する。だから、世界の出口はそこにある」
 岸田の顔をちらと見やると、良く分かっていないような顔をした。
 鳥坂はため息をついて、話を続けることにする。柄にもなく、熱くなり過ぎただろうか。
 二人はさらに、神社の本殿に向かって歩いていく。
「とにかく、入ってはいけない場所って言うのは、普段行けないような閉じた場所への入り口なんだよ。例えば、この神社の建物の中。
 俺らにしてみれば、ここは地元だろ。知ってる場所じゃ迷子にはそうそうなれない。だから、こうやって行くしかない」
「行くって、その……妖怪のいるところに?」
「そうだ」
 誰も見ていない瞬間を見計らって、鳥坂は手早く戸を開け、抵抗するより早く岸田を連れて中に入る。
 トン、と音がした時、外との関係が完全に断たれたような気がした。外の雑踏が聞こえなくなったのだ。

 鳥坂は二回拍手をし、二回頭を下げた。暗闇の向こうにいる何かへの敬意を払うためである。
――勝手にそちらの門を叩いてしまった無礼をお許しください。お邪魔します。

「よし、扉を開けて。ゆっくり」
「うん」
 カラカラ、という音を抑えながら、岸田は扉を開けて行く。
 外で行われている祭りは、まだ続いている。二人は外に出た。
「ここからは、お面をつけろ。絶対に外すなよ」
「何で?」
「元々お面って何のためにあるのか知らないだろ」
 岸田は頷く。
「そもそもお祭りってのは、人と霊と妖怪が一緒になる場所なんだ。他のものとの違いを隠すために、お面を被る。ここから先は妖怪だらけだ。人間がいるって分かった時点で、俺らみたいなのは即、食われてしまう」
 狐のお面を付けて、鳥坂は外に出た。
 確かに祭りは続いている。提灯の橙色の光が続き、にぎわっている。しかし、どこか雰囲気が違う。
 空がないのだ。星一つなければ、透き通って見通せるような高さを感じない。
 これが妖怪の世界か。鳥坂は今更ながら、ぞっとした。

 道を歩けば、いろんな姿をしたものとすれ違う。人の形をとっているものもあれば、獣のような姿をした生き物もいる。鳥坂の数倍ある巨人もいた。どうやって出店に入るんだろう、とその姿に恐れを抱きながら疑問に思う。
 出店はどういうわけか、人間のやっているものと殆ど同じに見えた。フランクフルト、やきそば、たこせん、金魚すくい、スーパーボールすくい、おもちゃ。今風だ。
「手を離すなよ」
 ここから先は迷子になり得る。鳥坂は岸田の手を握り、先へ進んでいった。
「離したらどうなるの」
「そんなこと聞くなよ。迷子になってお前も帰れなくなるしれないってこと。妹さんの二の舞に知らないからな」
「へぇ、こんな風に?」
「え?」
 岸田の手が、鳥坂から離れた。と思いたかったが、どうやら違う。消えた、としか考えられないような感触だった。手のひらから急に、握っていた手が無くなった。
 横をふと見てみれば、そこに岸田の姿はなかった。
「おい」
 何処へ行った。返事はない。

 仕方が無いので、一人で出店の間を歩いていく。
 後ろ盾がいなくなったせいか、急に周りの全てが大きくなったように見えた。心を強く持たねば、つぶれてしまいそうだ。
 ふと、鳥坂は自分の目を疑った。見知った人間がいるような気がする。彼は手を振って、こちらに笑いかけている。鳥坂は彼の元へ走った。
「波多野!」
 鳥坂は名前を呼んだ。少し暑くなって、狐のお面を外す。
「やっほー」
「やっほー、じゃなくてさ、お前、どうしてこんなところにいるんだよ」
 鳥坂は少し狼狽していた。
「いやぁ、俺もたまにはお前に協力してやろうと思って、妹さん探してたんだよ」
 波多野はきしし、と笑い声をあげる。そして、鳥坂に耳打ちする。
「それでさ、見つけたんだ」
「え、妹さんを?」
「ああ。来る?」
「行くに決まってるだろ」
 こんな危なっかしいところに、わざわざ何をしに来たと思っているんだ。鳥坂は眉をひそめる。
「じゃ、行こう」
 元気よく、波多野は歩きだす。

 場所は意外とすぐ近くだった。
 路地を抜け、焼き鳥屋とお面屋の間をくぐり抜けると、少し広い広場のような場所に出た。
 しゃてき、とひらがなで大きな看板がかかげられていた。広場全体を占める、巨大な射的ゲームのようだ。
「でかいな」
 鳥坂は呟いた。近づいてよく見ようとする。
『いらっしゃーい! 祭り名物、超巨大射的ゲーム! 実弾を使ったリアリティがウリ! 楽しいよぉーっ!』
 背中に花の咲いた巨大なカエルが、葉巻を吹かしながらはやし立てた。鳥坂は苦笑いした。お面屋でポケモンを見た時と同じ気持ちだ。
 任天堂は何を考えているんだろうか、と鳥坂は思う。ポケモンと言うのはデザインもネーミングも、妖怪の姿に酷似している。
 周りからは、ヒューヒュー、と口笛を吹いたり、手を叩いたりして盛り上がっている。いつの間にか、鳥坂は大勢の妖怪に取り囲まれていた。
『そこの人間の兄ちゃん、やってくかい』
 はたと気がつく。そう言えば、波多野に会った時に無意識的に仮面を外してしまっていた。あわててつけようとして、やめる。バレてしまったなら、もう同じことだ。
 もう一度的に目をやる。それに気付いた瞬間、鳥坂は目を見開いた。
 木に括りつけられた中学生ぐらいの女子が、意識を失ってぐったりとしているのだ。な、と言葉を発して、鳥坂は固まっていた。
「これは、どういう」
 鳥坂は中心に立てられた景品を指差す。波多野は淡々とした口調で答える。
「な、見つけたって言ったろ。あれがそうだよ」
 鳥坂は言葉が出てこなかった。やはり、岸田妹は妖怪のおもちゃにされていた。
「どうすんの、兄ちゃん、やってくのかい、やんねぇのかい。当たったものなら何でも、兄ちゃんにくれてやるよ」
 いらついたような言い方で、店主ははやし立てる。その顔は笑っていた。

「お前、本当に波多野か」
 鳥坂は波多野を睨んだ。波多野は両手を大げさに上げて、にやりと笑う。
「あぁ、君の知っている波多野祐樹そのものさ。でも、白状しよう。波多野祐樹は本当は存在しない人間なんだよ」
 そう言うと、飛びあがってくるくると回る。すると、波多野は紺色の狐のような姿に変わった。後ろから、ゾロアいいぞ、とはやし立て、笑う声が聞こえた。それが波多野の本名か、と鳥坂は察する。
『ついでに言うと、岸田さんもね』
「グルだったってわけか」
 一歩退きたくなる気持ちを抑えて、何とか姿勢を保つ。波多野は続ける。
『妖怪退治屋の血を引く人間がこの街にいるって聞いたからさ、俺らとしてはやっぱり迷惑じゃん? 早めに潰しておきたくて、皆でそいつをやっちまおうって話さ。誰がその人間なのかを探すの、苦労したんだぜ。何人かに目を付けて、仲間をけしかける。そうやって虱潰しに調べたよ。鳥坂がそうだって確信するまでに一か月かかった』
 少し踊るように跳びはねながら、鳥坂の周りをぐるぐる回りながら話す。
 それで、最後の仕留めにかかるためにこちらに入ってくるように仕組んだ。そう言う事か。
「じゃあ、あそこにいるのは」
 鳥坂は括りつけられた女子を指さした。
『あれがホントの岸田さん。妹ってのは、ウソさ』
 波多野はキシシと笑った。
 うーて、うーて、と周囲からのコールが聞こえる。波多野は辺りを見回して、鳥坂に言う。
『まぁ、ただ俺達が鳥さんを食うだけじゃみんなも面白くないからさ、ちょっと遊ばれてやってよ。一回ぐらいショータイム見せてもいいんじゃない?』
「ショータイムって」
 鉄砲が急に浮き、鳥坂の右手に無理やり収められる。
 恐らく波多野の念動力か何かだろう、と鳥坂は推測する。ちゃんと鳥坂の手が鉄砲を持っていることを確認すると、波多野は射的の台に乗っかり、声を上げる。
『さーぁ、皆さん、鳥坂くん最後のショータイム! 助けたかった女の子を撃たなきゃいけないの巻、始まるよー!』
 そういうことか。ショータイムの意味を鳥坂は理解する。鳥坂が救出する筈だった岸田を殺さなくてはいけない様子を、魑魅魍魎は楽しんでいる。
 周囲の歓声は更に大きく上がる。コールお願いしまーす、と波多野が言うと、発砲をはやし立てる拍手の音が聞こえる。拍手の間隔はどんどん短くなっていく。
 鳥坂は銃を握り締めた。



 あとがき
祭りがテーマなのに、思ったよりも幽霊、お化けものが少ないのが意外でした。
書くのにもうちょっと時間が欲しかったなぁ。
メンテ
Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.35 )
日時: 2010/09/06 23:16
名前: モソソクルッペェ!

Aコース「帰る場所」

 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、これはちょっと予想外だよまずいって死んじゃうってどうすんだよやばいやばいやばい、なんだよあいつら強すぎ、意味わかんないどうなってんだよ無理だよどうやったって勝てない。何がどうなったらあんなに強くなるんだよ、おかしいだろ野生であそこまで強いって駄目だろあいつらそこら辺のジムリーダーのポケモンより強いよ。「ちょっ! アリゲイツ! もういいから逃げよう! 集団相手は無理だ!」悪かった! 僕が悪かったからどうか許してください! って言ったってあいつらは止まらない。くそう、なんなんだよ一体。どうなってんだよ。ジムバッヂを六つもってたら強い部類に入るんじゃないのか。ジムリーダーなんて瞬殺できたはずなのに、なんだってここのポケモンは皆強いんだ。僕は、負けないはずだった。余裕で勝つつもりだったのに、噂以上の強さだ。ゴローンのくせしてイワークのくせして、僕のアリゲイツの水鉄砲がまったく効かない。まるでシャワーでも浴びているみたいに、気持ち良さそうに、何事もなかったかのように攻撃をしてくる。ジムリーダーを六人も破った僕のアリゲイツの攻撃が、ただのシャワーにされてしまっている。一体ずつならまだなんとかなるが、集団で来るともう無理だ。くそう。「ア、アリゲイツ! こっちだ!」後ろからくる、というより転がってくるゴローンの群れから、直角に曲がってそれを避ける。岩陰に隠れ、やりすごす。やっぱり、シロガネ山に来たのは、もとい、侵入したのは間違いだった。あそこはやばい、と言ったマスターの言葉は本当だった。バッヂ六つじゃ勝てない、僕じゃ勝てない。……僕は、弱い。ここは、この山は、僕を殺す。

 容姿が悪く、性格も最悪。何が出来るわけでもない。そんな僕が一つだけまともに出来たのが、ポケモンバトルだった。僕の唯一の誇りだった。僕には親がいなかった。施設に入っていた。その中では、僕が一番強かった。僕がバトルで勝つと、いい試合をすると、皆が褒めてくれた。僕を見てくれた。ポケモンバトルは、僕の心のライフラインだった。それが、全てだった。負ければ僕はただのクズで、誰も僕を見てくれない。僕からポケモンバトルをとれば、もう、何も残らない。水気のなくなった雑巾のように、僕はカラカラになる。そんな風に過ごしていたある日、施設に強い子が入ってきた。かろうじてバトルには勝ったが、僕はこの世界にはもっともっと強い人がいるんだとわかり、恐くなった。自分を脅かす者がいるんだと知って、震えた。だから、僕は施設を飛び出した。この世界で一番強くならなくちゃ気がすまなかった。誰であっても僕のライフラインを潰すことだけは許さない。絶対に許さない。そんな風に恐い顔で旅をしていると、僕は凄く強くなった。アリゲイツと一緒に、ジムリーダーと闘った。最初はハヤトというジムリーダーだった。とっても弱かった。瞬殺だった。その次闘ったツクシも、弱かった。連続切りが必殺技みたいだったけど、そんなものは僕のアリゲイツには効かなかった。その次のアカネも、マツバも、シジマも、みんなみんな弱かった。ジムリーダーなんて偉そうな肩書きの割りに、どいつもこいつも弱かった。でも、ミカンというジムリーダーは強かった。見たこともないポケモン、ハガネールというポケモンを出してきて、こいつがとんでもなく強かった。負けそうだった。僕のアリゲイツが、初めて負けそうだった。でも、僕は勝った。負けたら僕は終わる。カラッカラの雑巾になる。僕はその時点で駄目になる。だから僕はいつだって全力で、寸分も手を抜かなかった、僕は勝った。いつもいつでも崖っぷちに立って闘っている僕は、どうやら強いらしい。負けたら終わりという恐怖に怯えながらも、僕は、この試合でさらに自信をつけた。この地方に、このミカンというジムリーダー以上に強いトレーナーはいないのだろうと思った。勝手に判断した。僕にとって、それは確信であった。わりと長い間旅をしてきたつもりだし、道行くトレーナーにだって負けたことがないし、ジムリーダーだって今までは瞬殺で、だから、強くなった僕が互角に戦い合えるトレーナーに出会えたことは、とても大きなことだった。実際ミカンはこの地方でも上位に入る実力を持つトレーナーだと聞いて、さらに確信を強めた。この地方でなら、もう負けない、この地方は、僕のテリトリーとなった。この地方でなら、僕はもう、カラッカラの雑巾にならずに済む。僕は安心した。唯一のものが奪われなくて、僕の心はもの凄くやすらいだ。僕はまだ、僕でいられる。僕が僕であるための誇りは、保たれる。それは、どうしようもなく嬉しいことだった。そんなある日、僕はシロガネ山という場所があるのを聞いた。この地方のジムバッヂを全部持ち、四天王に勝たなければ入る権利さえないほどの場所だと聞いた。僕の心は、また騒いだ。まだ僕を終わらそうとする場所があるのかと、憎悪さえ覚えた。とんでもなく強いポケモンがいるとは言え、野生のポケモンだ。僕の敵ではないと思った。でも、そこに住み着いている、そんなとんでもないところに住み着いているトレーナーがいるということは、気に食わなかった。僕を終わらそうとする奴がいることが、もう、許せなかった。僕はすぐにシロガネ山に乗り込もうとした。アサギシティの喫茶店のマスターは、やめろと言った。あそこはやばいと、強すぎると、顔を青くしていた。でも僕は、それはあなたが弱いからだと言った。マスターは怒らなかった。ただただやめろといい続けた。僕は言うことを聞かなかった。僕は負けるはずがないと思っていた。少なくとも、山に入るだけならなんの問題もないと思っていた。四天皇なんて倒さなくても、そいつを倒せば僕が一番であることは固いと思ったから、すぐに山へ侵入したのだけれど、僕は、マスターが言っていた「やばい」ということの意味をすぐ知ることになった。この山は、いや、もう山の麓から、その辺をほっつき歩いているポケモンでさえ、ジムリーダーのポケモンよりも強い。山の中に入れば、その強さはさらに飛躍した。僕のアリゲイツでさえ、一匹一匹相手をするのでやっとだった。群れてこられると、どうしようもなかった。初めて味わう敗北に、僕は何がなんだかわからなくなった。体が震えた。恐くなった。泣きたくなった。これで誰も僕を見ないと思うと、それだけで僕は竦みあがった。一対一で勝てるはずのポケモンでさえ、もう勝てないような気がした。アリゲイツと、フラッシュをお願いしているレアコイルと一緒に小さくなって、僕は、ひたすら岩陰で震え続けた。

「なあ君、なんでそんなところに蹲っているんだ?」声をかけてきた人がいた。ゆっくりと顔をあげると、全身真っ赤なトレーナーが立っていた。「あんた、誰?」「俺? レッド」「なんでここにいるの?」「外じゃもの足りないから」「もしかして、あんたここに住み着いてる人?」「まあ、そんな感じ」僕の中身が騒ぎ出した。わあっと体中から何かが噴出したような気がして、僕は、レッドという男をにらみつけていた。僕は、まだ、終わらないかもしれない。こいつを殺せば、倒せば、僕は、僕を取り戻せるかもしれない。こいつさえ、こいつさえどうにか倒せれば!「アリゲイツ! ハイドロポンプ!」即座に反応したアリゲイツが、目の前に立つレッドの正面に向かって、水を放つ。勝った。ふいうちだったら、僕にだって勝てる。たとえこいつが、この山のポケモン皆に勝てるのだとしても、ふいうちならば、僕の勝ちだ。僕の誇りは戻ってくる。僕はまた僕になる。皆が僕を見てくれる。僕を僕と見てくれる。「おいおい、いきなりはひどいじゃないか。やるならちゃんとやろうぜ」「あ……あぁ」レッドは、何事もなかったかのように、ちょっとだけ右にずれて、ハイドロポンプを避けていた。「な、なんで……」「トレーナー自身も強くなきゃいけないって、なんとか団のボスが言ってたぜ」……僕は、こいつに勝てない? 僕は、こいつに勝てない。僕は、こいつに勝てないよ。僕は、終わる。僕はなくなって、僕はどうなる? 死ぬ? やっぱり死ぬしかない? ……。バトルが弱い僕は、独りだ。また、独りになってしまう。こんな顔も悪くて何も出来なくて、頼りのバトルも駄目なんじゃ、僕は誰にも見てもらえない。僕が僕足りえる部分がなくなる。「だ、だめだだめだ……」「なに? ぶつぶつ言ってんなよ。やるならやろうぜ」「お前、死ねよ。お前はやく死んじゃえよ!」僕は、レッドに飛び掛った。こいつを倒さなきゃ僕は駄目だから、もう、とりあえず突っ込むしかなかった。レッドはひらりと身をかわし、僕はすぐに起き上がって再び突っ込む。ひらり、ドスン。ひらり、ドスン。ひらり、ドスン。僕は進むしかなかった。レッドは笑っていた。楽しそうにしていた。こんなバトルでも、楽しそうにしていた。「く、くそう……」「せめてポケモンに手伝ってもらったら? お前のポケモン、辛そうにしてるぜ」「くそ、くそ、僕は、お前に勝たなきゃ」「まあいいや」ひらり、ドスン。ひらり、ドスン。ひらり、ドスン。「ほら、もう諦めろよ。お前の身一つじゃ俺には勝てないって」「うるさい!」「馬鹿だなあ」「黙れ!」「でも、その勢いは嫌いじゃない」ヒラリ、どすん。ヒラリ、どすん。ヒラリ、ドスン「お前、強いんだか弱いんだかわかんねえ奴だな」「うううううううう」「ちゃんとしろよ、そうしたら、お前もっと強いぜ」「う、うう、うるさい!」ヒラリ、ではなく、初めてレッドは、僕を殴り飛ばした。突っ込もうとしたところを殴られたので、僕は横にそのまま倒れた。そんな僕を見てか、アリゲイツが大きく声をあげた。レアコイルも声をあげた。二匹が同時に攻撃するのが見えた。レッドが笑みを浮かべ、腰のモンスターボールに手をかけた。僕も立ち上がった。ただ、突っ込んでいった。

 ボコボコにされた。僕も、僕のポケモンも、皆ボコボコにされた。完膚なきまでに叩き潰され、もう起き上がれないんじゃないかというほど痛めつけれた。レッドは鬼だった。「お前、気失わないのな」「黙れ」「お前、もっと頑張れよ」「黙れって言ってるだろ。僕、あんたが嫌いだ。あんたは僕を殺す。あんたのせいで、誰も僕を見ない。僕はまた独りだ。せっかく積み上げたものが、あんたに全部壊された。だから嫌いだ。僕はあんたを許さない。いつか絶対やっつける」「どうでもいいけど、頑張れって」「あんたとは嫌いだから喋らない」「へへ、俺はお前大好き」レッドは、そう言ってニカっと笑った。「何度も言うけど、頑張れよ。世界中の誰もがお前を見ていなくても、俺はお前を見てるぜ。だから、頑張れ。俺を倒せるように頑張れ。頑張ったらもう一度ここに来い。また俺がぶっ飛ばしてやる。そうしたらまたもう一度頑張れ」「な、なにを……」「だから、俺がお前を見ててやるって言ってんだよ。寂しいんなら、俺んとここいよ。いつでもぶっとばしてやる。でも、俺に勝ちたかったら、お前のポケモンの中でもとびっきり強いアリゲイツだけじゃ駄目だ。全員と仲良くなって、全員で強くなってこい」「余計なお世話だ!」僕は、ほとんど動かない体にむちうって、無理矢理起き上がる。アリゲイツとレアコイルをモンスタボールに入れ、ゆっくりと歩きだす。「どこへ行くんだよ」「ポケモンセンター」「連れてってやろうか」「やだ」「そんな事言うなよ。俺とお前の仲だろ」「知らないよそんなの」「だって無理だろ。洞窟暗いし、レアコイル動けないし」「お前がやったんだ」「いいから手伝わせろ」「来るなうざい」「照れるな馬鹿」レッドはそう言って、僕の背中を叩いた。「痛いよ」「悪いなわざとだ」「知ってる」「そうか」僕は不思議と心地よい気がした。もう僕は僕でいいんだと、そんな不思議な安心感につつまれた。ポケモンセンターへ行ったら再び旅立とうと、僕は決心した。

[了]

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