Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.31 ) |
- 日時: 2010/09/06 23:12
- 名前: Rという名の牛丼
- 【反抗期計画】=Bコース
1 「横山、ちょっと、ごめん」 今この状況を、ぼくと彼女との今この事実を『運命』だとか『必然』だとか、そんな、ちゃちな言葉なんかで、言いあらわしたくはない。 ――しかし、ぼくには残念ながら、『運命』だとかなんだかんだ感じてしまうようなシチュエーションに出会わせたときに、それ以外それ以上の言葉で言い表せるような語彙能力を持ち合わせてはいない。これは、つい最近になって思い知ったこと。ついでにぼくは詩的なセンスも、みんなが、あっと驚くような言葉えらびだって、ああ、文章においての創作に関しては、なんの取り柄もない。まあ、かといって作文以外が得意かと言えばそうでもないのだが。 だから、ありきたりな言葉でしか、ぼくはこの場面を描写できない。 「好きだったの。きみのことが、ずっと、好きだったの」 これは、きっと『偶然』なんだ、と。
2 ぼくが雛を好きになったのはいつからだろうか。あまり大した理由はなかった気がする。意識しないうちに、惹かれていた。高校に入学した日から同じクラスで、お互いに文科系で、お互いにひねくれ者だったから、それだけで十分な理由になるだろうか。いつの間にか会話を重ねて、ぼくらはお互いを知り合った。ぼんやりしてて、ほんわかしてて、でもあたまがよくて、何も無いところで転んで、胸が大きくて、太ももがむちむちしている雛が、ぼくには天使のように思えた。彼女と会話をするだけで、「よっしゃー」って気分になったし、制服の着こなしとか、髪型とか、持ち物なんかにも気を遣ったりして。なんだか毎日、がらにもなく、さながら馬鹿な学生のように浮かれていた。 でも、ぼくには、彼女に愛の告白ができるほどキザな男じゃないし、かといって、好きな女の子をいじめるような子供みたいなマネもしたくなかった。でも、友達として一緒に、これから先もずっと一緒にいるなんて、とても耐えられない! ぼくは弱って、結局パソコンの前に座って、最近流行の某テレビアニメの某あずにゃんとにゃんにゃんするにゃんな生活が長く続いた。
3 そんな生活にも耐えかね、結局ぼくは、この胸のうちを、共通の知り合いである安田に相談することにした。彼女や彼女の友人に聞かれたら困るから学校から場所を移し、近所のコンビニへ。お茶と某ファミチキをごちそうして、駐車場のすみっこに座り込む。「どうした?」安田は間抜け面でペットボトルのふたを開け、ようとして「あけてえー」とぼくにそれを差し出した。いざ相談をはじめる雰囲気になって、茶化されるかと思ってちょっと恐々としていたけれど、結局熱弁してしまう。彼はぼくの心配をよそに、意外とちゃんと、うんうんうなづいて聞いてくれた。ああ、こいついいやつなんだな、と思った。一通り話し終わり、彼はお茶を飲み干して言った。「まあ、あきらめなさいよ」びっくりした。理由を問う前に彼が答えを教えてくれる。「いやだって俺も好きだし」すごくびっくりした。「まあうそだけど」よかった。 ぼくが一通り彼にその無駄すぎるやり取りに対する不満と怒りを述べた後、彼は普通に謝ってくれる。「まあ、あれでしょ」と彼が言う。 「雛がすごくすきだけど、言えないし、だからといって言えないままもいやだしって感じな。もう告白しちゃえばいいのに」 「そう、まさにそう。告白は、ちょっとまだ……内緒にしたい」ぼくは答える。安田は、まあばればれだったけどな、とぼそっとつぶやいて、え、と焦るそれに対するぼくの返答を待たずに、こう切り出した。 「おまえさー某人気テレビアニメの某あずにゃんが好きなんだろ?」そうです、と僕はまじめに答える。大倉はどう見ても某むぎちゃんだろ、とかれはぼそっと言って、続けた。 「じゃあさ、お前も作ればいいんじゃないかな。雛との、二次元みたいな理想の関係を、二次元の中で」
4 安田はなんだかんだでいい奴だ。某人気テレビアニメを教えてくれたのも安田だったし、某あずにゃんのフィギュアをドヤ顔で自慢してきて、虜にしたのも彼だった。その絵の上手さはなかなかのもので、同人誌を出版するサークルに所属し、コミックマーケットなる物に出品するほどらしい。そこまでいくとぼくにはわからな世界だ。そこに、彼は住んでいる。「お前の理想の、雛との関係を、ちょっと小説っぽく書いてみたらいいんじゃない? もしいいようだったら、俺が漫画で書いてやるよ」彼の提案は、魅力的でもあり、ちょっと見当はずれでもあり、でもしかし面白そうだったから、その提案に乗ることにした。 とはいっても、僕は小説なんて書いたことないし、読んだことだって、児童文学書トカライトノベルとか、その程度だったから、僕は弱った。インターネットでいろんな情報を集めて基本を学び、ワードで少しづつだけれど、ぼく、ヨコヤマとヒナの小説を書いていくことにした。
5 「え。なにこれ」 数日後、すごい恥ずかしかったけど、とりあえずプロットから、といって見せたそれを、安田は鼻で笑った。ストーリーは簡単。ごくふつうの高校生のヨコヤマが、同級生のヒナに片思いする。二人は仲がよくなって付き合うことになる。だけど、ヒナの引越しのせいでお互い離れ離れになってしまう。お互い心の距離が離れてしまい、最終的にヨコヤマが死ぬ。というもの。「いや、つか、失恋してるコレ! ってかお前死んでるし! なんなのコレ!」 「いや、だって……」ぼくは弁解する。ヒナに告白されるのは僕の願望。引越しは起承転結の“転”でのイベント。ラストの死ぬのは、雛を殺すのは絶対いやだったから、自分が死ぬことにした。と。安田が問う「え、なんで誰かが死ぬ必要があったの?」ぼくは答える。「だって、誰かが死んだらやっぱ感動するじゃん?」 「もういい、とりあえず書いてみれ」呆れ顔で彼はそう言って、某人気テレビアニメの原作マンガを読み始めた。
6 ぼくは結局、その小説を書き始めることにした。しかし、書けない。書きたいことは決まっているのに、言葉が出てこないし、上手い表現も浮かんでこない。かといってあまり機械的に書いたら自分のロマンチックで熱い感情が伝わらないから、がんばってこだわった。プロットには細かく伏線を引いてあり、それを暗喩したりするのもずいぶん手こずった。やはりサイトのお世話になって、某グーグル社の検索機能をフル活用したし、純文学も読み始めた。もともと好きになったら盲目になってしまう性質なのも影響して、ぼくはそれを完結させるという目標を達成するために躍起になった。実生活のほう、雛との関係は相変わらずで、やっぱりぼくは、彼女のぼんやりとした雰囲気としゃべり方が大好きだった。 途中、ヒナに告白されるシーンにぼくは、祭りというシテュエーションを加えた。今度実際に、近所で、小規模では歩けれど、花火大会があるから、それに合わせてみたのだ。その日は、去年と同様、雛と安田と三人で行くことが決まっている。彼女は浴衣を着てきてくれるそうだから楽しみである。安田は今年もカキ氷で腹を壊すんだろうか。ぼくも気をつけないと、雛に醜態をさらしてしまう。
7 祭りの当日。 ぼくと安田は電車に乗る駅が一緒なので、電車で二人で会場まで移動することにした。周りは浴衣を着た人々やお面をかぶる子どもたちなどであふれかえっていて、さながらお祭り気分だ。ぼくはなんだかわくわくして電車に乗り込む。 「最近、例の小説はかいてんの?」安田がぼくに問う。ぼくは、パソコンから携帯電話にデータをコピーして保存してあるプロットと途中経過を見せる。ざっと読んで、彼は、なかなかかけてるね、と笑った。 「そのくらいしっかりしてたら絵合わせてもいいかもね。ちょっと考えとくよ。絶対い作品になるぜ」 彼にも、ぼくのこの小説に対する思いが伝わったようだ。クリエイティブな面も持ち合わせている彼が友人でよかったと心からこのとき思った。
8 二人でカキ氷を食していると、雛は待ち合わせの時間から5分遅れてやってきた。浴衣の着付けに途惑ったらしい。そういう女の子の事情は、母や妹のやり取りを通して知っていたから、小説にも取り入れてあった。安田も「小説と同じじゃねえか」と笑い、雛は「?」という顔をして、買ってきたチョコバナナを食べていた。 花火大会が終盤に近づいて、安田はカキ氷にあたり、トイレにこもってしまう。写真だけでも撮ってやろうと携帯電話のカメラモードで写真を撮ろうとするも、なかなか上手に取れなくてイライラしていると、雛が「ねえねえ」と人差し指でぼくの腕をつんつんした。 「どうした?」トイレ? 続けようと思ったけれど、女性にそれは失礼なのでやめておく。彼女はうつむいて、やはりなにやら苦しげだった。 「横山、ちょっと、ごめん」 「いいよ、じゃ一緒にトイレ行こ」と言いかけたぼくを彼女の腕がぐっと引き止める。 「好きだったの、きみのことが、ずっと、好きだったの」 彼女は泣き出しそうな顔で、ぼくに切々と思いを語ってくれた。 ぼくは、うれしくて、かなしくて、もう、なにがなんだかわからないまま、花火が終わるのも気づかず、彼女が帰ってしまったことにも引き止めることができず、安田に突っつかれるまで放心して座り込んでいた。 「いやー終わっちゃったかー」彼はそういいながら、目で雛を探した。「あれ? 雛は?」 ぼくの思考がはじけた。 「雛……。引っ越して私立に転向するらしいんだ」
9 え? と安田は怪訝な顔をしてぼくに詰め寄った。「どうした? 何があったんだ」ぼくは、今起きたことをありのまま彼に話す。彼女がトイレに行くのかと思ったら愛の告白をされたこと、今この場で告白したのは、夏休み中に遠くの地へ引っ越してしまうからだということ。そして彼女はこの場から去ってしまったということ。告白の返事はまだしていないということ。 「なあ、やっぱりおかしいよ」安田がすべてのぼくの話を聞き終えたところでぼくに言う。「お前が小説にしたことが、現実になってる。今日彼女が遅れてきたのも、転校の話も、告白も……あ、」彼は続ける。「お前、小説では、告白の返事、いつした?」 ぼくははっとする。「……返事は、先延ばしにするんだ。怖くて。悲しくて。でもそうして結局、彼女が引っ越すその日に、付き合おうって返事をする……」 「まあここまではシナリオどおりか」安田は奇妙に笑った。「偶然だ。……偶然だよ」ぼくはその言葉をひねり出すのが精一杯で、『偶然』という意味を忘れてしまうほどに、何も考えられなくなった。 「お前さ、小説の結末、自分で何にしたか、もちろん覚えてるよな」 すこしの沈黙の後、安田がぼくに言う。ぼくはまたひどく狼狽した。 「お前、しぬぜ」
10 「お前小説はどこまでかけてたんだっけ?」ぼくは安田に引っ張られるように、祭り帰りの人並みの中、電車に乗り込んだ。「祭りの日、告白されて、彼女が転校してしまう日あたりまで、とりあえず」ぼくの言葉に、彼はしばらく押し黙る。「今から、そのシナリオを変えることは?」 「無理だよ。伏線が回収できない。回収し切れなかったら、話が中途半端で気持ちが悪く……」ぼくはさっきから否定の言葉しか口にできなくなっていた。安田はまだ考える。 「ここで小説の流れとリアルの流れを変えるのは簡単だ。きみが彼女の告白を断ればいい。だけど、それだったら意味が無い。君が幸せじゃ無い結末は、リアルにも小説にも必要の無いものだ」電車はぼくらの下車する駅に到着し、ぼくたちは電車を降りて歩き始める。 「いや、やっぱり、伏線はきちんと回収しつつ、お前の言葉選びのセンスと、もって行き方次第では、きっと、そう、もしこの小説とリアルがリンクしているなら、そんなばかなことが本当に起こるなら、ヒナの転校だって止められるかもしれない!」 安田ははしゃいで、声を張り上げた。安田って、こんなに大きい声の出る奴だったっけ? とぼくはなんだか不思議になり、同時に、ひどくテンションガあがってきた。 「……じゃあ、じゃあ、ヨコヤマとヒナが結婚すれば、ぼくと雛も結婚……」 「できるさ!」安田はすかさず重ねてくる。ぼくたちは、見つめあって、ぼくの家へ、わっと駆ける。 こうして、ぼくと、安田との地味な、最後の『反抗期計画計画』が始まった
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