Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.3 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:45
- 名前: 挽きたて珈琲豆
- Aコース「暗闇は人を……」
ああ、いつからこうなっただろう、私の腕の中にいる彼女も血色を悪くして、その栗色の瞳を細め、がたがたと体を震わせる。 それは暗い、暗い洞窟の中のこと、私は足場を確認すると、そこには石ころ一つも見えない、私の靴さえもだ。 彼女はひたすらに震えている、肌触りのよい彼女の尻尾も体もこんなにも温かなのに、この空気はどうだろう、震え上がるようだ。
日光の遮断されたこの場所では外気の気温はあまり関係ないも等しい、今この肌で感じ取っている駆け抜けるような寒気がそれを物語っている。 ただ、外気ばかりではない、こんなにも恐ろしいほどに寒気を感じ取る要因はきっと……。
聞こえるのだ、彼女にも、あの音が。 彼女は私の腕の中で、震える声で小さく「ぶい」とないた、彼女のいつもの可愛らしい声がまるでライターの灯のようだ、ともってはいるが、ちょいとした風ですぐに消えてしまうあの火とどこか似ている。
ゆっくり、歩を進める、もう一歩、足音を出さないように歩を進めた。 ひやりとした空気を目いっぱいに吸い込むと、胸の辺りがまるで毒に侵されたように苦しくなる。 あまりの寒気に振るえあがった、蝙蝠であるが蝙蝠でない生き物が頭上をかすって飛んでいく、あいつは超音波で私の位置がわかるのだ、きっとあの音の位置も。 しかし私と彼女にはわからない、彼女はその栗色の毛が覆う長い耳をたれ下げ、音を聴くことを意識的に拒んでいる。 私はどうすることもできない、こんな洞窟の中にいたらいずれ餓死してしまう、私はあいにく石ころの怪物のように岩や土を食べて暮らすことはできない。
音は止まない、明かりを灯す術もない、さっきあの音に彼女以外のものはいわゆる瀕死の常態にされてしまった、もてる道具もすべて使った、彼女も気力をなくしてしまった、あいつには勝てない。 それならば逃げるしかない、あの音に気づかれず、この洞窟の中から。
元は遊び半分だった、興味本位とも言い返しても間違いではない、私とて弱くともトレーナーの端くれ、このような場所に来てもいいではないかと立ち入っては見たものの、このような状況に置かれると後悔しかあるものはない。 興味も失せた、それでもこの洞窟を探検せざるを得ないのは、出口がわからないからだ、あの音に襲撃され、散々逃げ惑い、出口を失った。 あの音はまだ止まない、あいつはこちらの位置がわかっているのだろうか。
一歩、二歩、一つ、二つ、私と私以外の岩を削る音、少ししか音を立てていない私のものとは違い、やつの足音は大きく、爪で引っかくようなバリバリとした音がついて回る。 ごつごつした壁に二の腕を軽く擦りつけて一歩、二歩、すりすりと擦られる音も僅かばかり響く。 足元を確認しつつ、また一歩、突然がけが現れることだってあるかもしれない、音に襲われたら終わりでも、死にたくはない、うるさいばかりになり続ける鼓動は私がまた生きているのだと言うことを思い出させる。
強烈な外気の冷えと、私の額に流れる冷や汗、呼吸も荒く息苦しい、彼女は私にしがみついた。 絶えられない足音、絶えない心音、絶えない緊張感。 地図が見えない、磁針もない、あったとしても見えない、取り出せない。 ただ歩く、生き残りたくて、私は今生きるために探検をしている、それもだ、
「洞窟」ではなく「生死の境」を
洞窟探検に力を注ぐ暇はない、そんな精神状態の余裕もない、走馬灯が繰り返される、冗談じゃない。 恐怖はやがて怒りへと姿を変えていく、しかしここで叫びたくっても意味はない。 感情がせめぎあい、新たなる感情を生み出す絶えない足音への焦燥。
身が震え上がり情けない声が口から出た。 突然早まる足音、なりふりかまわず、気づかれることも考慮に入れず突然私も走り出した。 足下は不安定だ所々躓きそうになるが足を止めるわけにもいかない。 彼女はパニックを起こした私の腕の中で暴れる、そんなに暴れないでくれ君を落としてしまう。 石を蹴る音奴の爪が石を引っかく音、奴だこっちに迫ってくる気配奴の荒い呼吸絶好の餌を逃がさんとする熱い呼吸だ。 楽しそうでもある、目の前が滲む脚も疲労がたまってきたしかし止まるわけにはいかない。
服を引っかかれた体が宙を泳ぐ。 動きが止まったことで私の中の臓物が骨にたたきつけられたようだ、吐き気にも似た気持ちの悪さがこみ上げ、それすら許されないくらいに急速に血の気が引き始めた。 彼女は私の腕から滑り落ちていった、僅かな衝突音と彼女の悲痛な「ぶい」という声が聞こえた。 私の体はくるりと走ってきた方向へ向かされ、獣の口から吐き出された息が顔にかかる、太く力強い腕だ、振り解けもしない。 相手の顔も見えない、ただ光を灯す術を施行していた際に奴の姿は見た。 腹に円を描いた模様のある巨大な熊だった。
体が揺れる、わかる、牙が近づいている、動悸は酷くなる。
いろんな意味をもった、嗚呼、なんて短い手段の少ない「探検」
暗闇は人を……
絶望的にさせる
end
夏と言えばホラー、題材は「探検」 煮えたぎる物語のある夏ではなくこういう夏もいいのではと試行した結果なんとも稚拙な文章の完成。 ちなみに彼女はイーブイ、蝙蝠でない生き物はズバット、石ころの怪物はイシツブテ、足音はリングマとなっております、文章中であまり描写がなかったしポケモンとも言わなかったので何人が気がついたでしょう? 探検と言っても実際に見て歩くことだけが探検とは言わないのでまた違ったほうの探検も入れてみたり。 ひやりとしたものを感じていただけたら大変喜びます。
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