Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.29 ) |
- 日時: 2010/09/06 23:03
- 名前: コップ
- Aコース[子ども発大人行き終点はありません]
数の暴力の残虐性なんて語るべくもない周知の事実だと思っていた俺、当然のごとく長いものに巻かれろ精神の人生をしゃにむに生きてきたから、実際マイノリティ側に立っているような、異端だと後ろ指を差されるような状況に陥った時、混乱するのは仕方のないことではないだろうか。高校三年生になって初めて告白を考えた俺がそう感じるのは、それが初めてだからに他ならないのかもしれないけれど、何かを初めてするときの感覚は既に経験していることを考えるとそれはどうも違う気がして、やはりこのどうにかなりそうな感覚はマイノリティ側に立ったのではないか、と勝手にそんな風に思ってしまう。誰かが誰かを好きになるのは当たり前のことで、それがマイノリティだというのは毛頭おかしいことだが、この感覚はきっとそれに近いものだろう。と俺は自分で自分を納得させる。いや、納得したい。俺がもつこの恋の感覚は、誰でも持っているようなそんなありふれたものではなく、俺独自の俺だけが持ち合わせる世界で唯一のものであってほしいという滑稽な願いであり、俺自身そんなことはないとわかっているつもりだけれど、しかしマイノリティな、特別なものでありたいと思わせるこの感覚。これってやっぱり、何か別世界的な異質なものを思わせる。 こんな発情期の中学生みたいなことを考えながら、友人であるともきの家のトイレの前、腕を組みながら仁王立ちする俺ってなんだろう。いやいや、それはいつまでもトイレから出てこようとしないともきが悪いのであって別に変なことを考えているわけではない。 「なあともき、お前いつまでトイレに籠ってるんだよ」 「黙れさっさと戻れ俺の至福の時を邪魔するなというかなんでお前そこにいるんだよ」 「俺がお前の家にいるのっていつものことじゃん」 「だからなんでトイレのドアの前に立ってるんだ。部屋で漫画でも読んでろよ」 ドアの向こう、ToToの便器に座ることに至福を感じるような奴にもっともなことを言われたのに少しカチンと来て、問答無用で俺はそのドアを引いた。 「おい貴様開けやがったな」 黄色い電気を浴びながら、恐い顔でともきが睨んでいた。 「え、お前トイレの中で本読むの?」 「見ればわかるだろこれが最高の体勢なんだ。冬なんか便器が暖かくて特に最高だ」 「どこのハカセだよ」 「ハカセってなんだよ」 「お前は小学生のとき一体何を読んでいたんだ」 「忍玉乱太朗」 「な、なるほど」 ともきはジロリと俺を睨んでしっしと追い払うように手を動かすが、そんな程度で引き下がっては友人が籠っているトイレのドアなんかを開けた意味がない。壊れたおもちゃみたいに手を動かし続けていたともきだったが、やがてそれも疲れたらしく、疲れた手をパタパタ振りながら溜息をついた。 「ToToの便器の素晴らしさが分からない奴は去れ」 「こたつ入れよ。あれの方がぬくい」 「知るか。もういいからさっさと閉めろ」 そう言って、ジーンズを下ろしてパンツを下ろしていないという格好で身を乗り出してきたともきを「どうどう」なだめ便器へ戻す。足元にジーンズがだぶついてて相当歩きにくそうだ。 「なんだよ要件があるなら早く済ませよ」 しおりも挟まず片手で本をパタン閉じて一応とりあってくれる辺り、ともきはこれでなかなかいい奴なのである。 「俺、お前の妹に告白する」 「死ね」
すぐまたさっきよりも力強く、しかしもぞもぞと動きながら身を乗り出して来たともきは、俺の抵抗を振り切ってドアを閉めてしまった。 「おいいいきなり閉めるな」 「まずいきなり開けるなそれになんだその爆弾発言は」 「いいじゃんかなちゃん好きなんだから」 「許さん。うちの妹をお前みたいな勝手にトイレを開けるような輩には渡せん」 「お前がトイレに籠ってるから悪いんだ」 「じゃあ出るまで待ってろ」 「出たら話聞く?」 「それは駄目だ」 なんだこのシスコン野朗、と言いかけるが、こいつはシスコンを誇らしげにしていることを思い出して寸前でそれを呑み込む。 「なあ、いいだろ」 「許さんといったら許さん」 「ケチ」 って言いながら、なんで俺はこいつに許可なんか得ようとしているのだろうかという疑問にぶち当たる。友達としてやっぱそれって言っておくべきだから? でもそれってかなちゃんと関係あるか? ……。かなちゃんがこいつの妹というだけで、かなちゃんはかなちゃんでありかなちゃんでしかない。昔ならまだしも今は二十一世紀。ちゃぱつにするのはジユー(笑)だろ、とか何をやろうとジユー(笑)だろ、とかそういうことではなく自由意志が認められている今、俺が誰に告白して誰と付き合おうと、邪魔される筋合いはない。ならば、なぜ俺はこんなことをしているのだろうか。 「じゃあ、なんで駄目なの?」 沈黙。ドアの向こうでいきり立っているのか、それとも無視を決め込んでいるのかはわからない。ぼうっと返事を待っていると、ドアノブがゆっくり下がって少しだけ開いた。ドアを開けろ、という意味で受け取った俺は、今度はおそるおそる開いてみた。 考える人のポーズを取っているともきがいた。アホか。 「何やってんの?」 「なんでお前が駄目なのか説明してやるからありがたいと思え」 やたらと上から目線なのがもの凄く気になるがこの際それは気にしないことにして、俺はともきの言葉に頷く。 「まずお前は告白されてからしか付き合ったことがない」 「それだけ?」 「そう急ぐな。焦るな。まだ説明終わったなんて一言も言ってないというかまだ一言目だろ」 まったく、とブツブツと独り事を言いながらも「それで」、とともきは続けた。 「いるじゃん。誰かと付き合うことが大人な気がして誰とでもほいほい付き合ったり、カップルとか大人、とかそうとうダサいこと考えている中学生」 「うん」 「お前ってそういうのを上から達観しているみたいに見えるんだよ。別に付き合うって珍しくないじゃん。誰でもやってんじゃん、って」 「うん」 「そういうのもまたダサい。達観してクールぶってるというか、女を知ってる俺アピールというか」 「俺ってそんな風に見えてんの?」 「というか、お前はきっとどこかでそう思っているんだよ。誰と付き合ってもお前ってそうだ。俺はなんとも思ってないけどなみたいな雰囲気出して、達観してる」 「マジかよ。すげえショック……。それってただの嫌な奴じゃん」 その通り、と首を縦にふるともきを見て、さらにショックを受けた。 「でも、普通みんなそうなんだよ。中学卒業して高校入ると、付き合うのって当たり前でしょ? みたいな空気でさ、それを初々しくやってるのって、何か逆に恥ずかしいじゃん。どうせだったら強がりたい。俺もそう思うよ」 「なんだよ、お前も俺と一緒かよ」 で、それがなんでかなちゃんに告白しちゃ駄目だってことに繋がるのかはまったくわからなかったけど、俺がそんな風に見えていてそんな風に達観しているのかもしれないということを知れたのはよかったのかもしれない。 振り返ってみれば、俺はともきの言う通りなのかもしれない。自分の評価など他人が決めるわけだから、そういう風に見えていたり、どこか心のどこかでそんな風に思っているのだとしたら、それは改めるべきだ。 そんなことを俺がぼうっと考えていると、ともきは再び「でさあ」と続ける。 「俺らってここまではどうにかこうにか来れるわけだけど、というか、皆似たような道辿ってくるわけだけど、ここから先がわからないんだよな。ここから先は、未開だ。未知の場所だ。大人になるって言うの? なんか、わかんねえよな本当」 「ふうん。で、お前はそこからどうしようと思っているわけ?」 「そこから先は、それぞれさ。お前はお前の未知を探検すればいいし、俺は俺の道を探検する」 「……探検ね。でもそれって恐いよな。何も見つからないかもしれないし、途中で死ぬかもしれないし、帰ってこないかもしれない」 「へへ、お前は途中で死ぬかもな」 「嫌なこと言うなよ」 ここで会話は終わったとばかりに、ともきは再び立ち上がってもぞもぞと動きながら、俺をのけてドアをしめた。さっきと同じで不機嫌そうなのに変わりはないが、俺は抵抗しなかったしともきも乱暴ではなかった。 沈黙。再び俺らは沈黙する。ともきはもう言うことはないとでも言うように静かになり、俺もとくに言うことがなくなったのでそこに立ち尽くす。 「じゃあ、探検してくる」 「仕方ない。行ってこい」
[fin]
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「で、これを私に読ませてどうするわけ?」 かなは、そう言って数枚の原稿用紙を半分に折った。 「ほら、なぜ俺がともきに言いに行ったのかとか、ともきがなぜ駄目って言ったのかとか、そういうのを予想してもらおうと思って」 平日昼間の図書館の屋上、フェンスの柵に寄りかかりながら、俺とかなは二人で立っていた。後ろでは俺達の町が広がっていて、ここからだと町が一望できる。ともきの家はここからだと見えないが、きっと今でもトイレに籠っていることだろう。 「じゃあ、まず僕がなんでともきに言いに言ったのか」 ふふん、と得意げな目でこちらを睨んで、かなは「簡単簡単」と漏らした。 「それはあなたがお兄ちゃんに後押ししてもらいたかっただけよ。一番の友達であり告白相手の兄に後押ししてもらえば勇気出るもんね」 「ちぇ。言ってくれるよなあ本当」 「違うの?」 「その通りなんだけどさ」 本当に、その通りだった。それは今考えればの話でしかないのだが、確かにあの時俺はともきに後押ししてもらおうとしていた。少なくともその目論見はあったはずだ。だって、告白なんて未開を一人で探検するなんて、恐いじゃないか。 「じゃあ次。なんでともきが駄目って言ったか」 「シスコンだから」 実の兄をシスコンというかなもどうかと思うが、これはきっと正解。普通に考えりゃ当たり前だ。一介の高校三年生が一つ下の学年の女の子に告白するだけで、あれほどくそ真面目なことを語るはずがない。だからこの問いの答えはともきがシスコンだから、で正解なのだが、この場合は別の意味が生じてくる。 人間はいつだって問いがあって答えが見えてくると思いがちだが、その逆だって十分ありうる。どういう職業につけばいいのかな。どういう大学に入ればいいのかな。どういう人と結婚すればいいのかな。そんなことを考えていたって、きっといつまでも答えはみつからない。でも、あるとき自分が何ができて何ができなくて、何がしたくてしたくないのかはっきりしてきたとき、要するに自分を知ったとき、その問いの真の意味が見えてくる。自分という人間を知ることで、問いが見えてくる。答えが定まり、問いの意味を知る。 本当のところ、ともきが本心からどういうつもりで言ったのかはわからないから、憶測でものを言うことしかできないけれど。 「何一人で難しい顔してるのよ。あたしがいること忘れないでよね」 「ごめん。ない頭でいろいろ考えてた」 「それで、正解なの? 正解なんでしょ? 正解よね?」 「うん、だいたい正解」 「なにそれムカツク。なんでよ」 「さあ、なんでだろう」 「ふうん。まあいいや、じゃ、早く行こうよ。映画、何時だっけ」 「四時。まだ時間あるから大丈夫だよ。ちゃんとDS持ってる? セレビイもらえるんだから、ちゃんと持っていかないと」 「大丈夫、ちゃんと持ってるわ」 「よし、おーけい。あとさ、さっきから十秒刻みで電話してくる君の兄貴がうざいんだけど、どうすればいいかな」 「こうすればいいんだよ」 かなは僕から携帯を奪い取り、電池パックを抜き取って、自分のバッグへしまう。「返してほしけりゃ今日は一日私と居なさい。それからキスをしなさい」「……めちゃくちゃだなそれ」「嫌?」「……いんや、ちょろい御用で」 僕は言う。かなは笑う。僕は大人になる。加奈も大人になる。僕らは進む。未開へ進む。探検は、一生続いていく。
<おわり>
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