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2010年秋企画 結果発表
日時: 2010/10/06 05:22
名前: 鵺作◆0OEZgPvU1GE

2010年秋企画


☆ごあいさつ
秋も半ばまで至りまして、そろそろ冬の足音が近づく季節となりました。旧サイトの頃より有志で定期的に開かれておりました季節の企画は今回からサイト公認行事となりました。
サイト移転後の最初の企画として多くの皆様に参加していただければ幸いです。


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☆企画概要
◇主旨

短編の小説作品を投稿し、その完成度を競います。

◇日程

・テーマ発表日  :10月9日(土)
・作品投稿期間  :10月16日(土)〜11月6日(土)
・投票期間    :11月7日(日)〜11月14日(日)


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☆参加ルール
◇基本規約

・企画作品は必ずこのスレッドに投稿してください。

・一作品につき必ず一レス(30,000字)に収まる長さにしてください。

・参加のための申請などは一切ありません。気まぐれでのご参加もドンと来いです。

・作品投稿の際のHN(ハンドルネーム)は自由です。複数投稿してそれぞれ別のHNを使用しても構いません。ただし投票用のHNは自演防止のため一つに統一してください。

・過度に性的、および暴力的な文章はご遠慮ください。また、それらの判断基準は運営側で判断させていただきます。

・当企画においては例外的に一次創作の投稿を許可しています。ただしポケモン以外の二次創作はおやめください。

・お一人様につきの投稿数の制限はありません。アイデアの思いつく限りいくつ投稿していただいて差し支えありません。

・投稿の際の記事には以下の内容を必ず記入してください。
@作品タイトル(題名欄に記入していただいても構いません)
A部門
Bテーマ
C本文
 なお、あとがきなどの本文終了後の文章のご記入は任意です。

・以上の内容が守られない場合、投票の凍結、最悪の場合は作品を削除することがあります。


☆投票ルール
1、全作品から一番優れているものに金賞、二番目に銀賞、三番目に銅賞を選んでください。金賞一つ、銀賞一つ、銅賞三つでお選びください。
2、ひとり1レスのみです。感想などを書きたい場合は見やすいように同じスレに収めください。
3、複数の仮面HNを使用している方は自演を避けるため、一つに統一またはポケノベで使用しているものにしてください。
4、書き方は問いませんが、できるだけ読みやすいものにするようお願いします。
※その他
・金賞は三点、銀賞は二点、銅賞は一点と加算されます。
・投票権はこのサイトの全住民に等しく与えられる。作品を書かなかった者も気軽に投票してもよい。
・投票された記事については厳密にIPチェックを行い自作自演をチェックいたします。
・投票方法に誤りがあった場合、その投票は無効となる。


参加した方、しなかった方、どなたでもご自由に投票してくださるとうれしいです

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☆部門
今回の企画初の試みとして、テーマの前に「部門」を設けることにしました。

◇【A】ショートショート部門
本文を2,000文字以内(400字原稿用紙5枚分)で完結させてください。締め句の「完」「了」「fin」などは本文に含みません。
文字数のカウントは↓「小説HTMLの小人さん」などの文字数計測ツールをご利用いただき参考にしてください。
http://htmldwarf.hanameiro.net/easy/novelpagemaker.cgi

◇【B】三題噺部門
次に掲げる三つの事物を必ず作中に登場させてください。
「やかん」「イチョウの木」「博物館」
三題噺とはなんぞや? という方は↓のサイトを御覧になることをおすすめします。説明や実際の三題噺などが載っていて大変参考になります。
http://www.geocities.co.jp/Milkyway/2231/

◇【C】無制限部門
制限なしです。テーマの範囲内であなたの心の赴くままに自由に書いてください。


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☆テーマ

以下に掲げる二つのテーマの内、お好きな方をお選びください。テーマの使い方や解釈は参加者の皆様にお任せします。

◇【T】「雨」
 梅雨ほどではありませんが、秋もまた雨の多い季節です。秋の天気は変わりやすいとも言いますしね。

◇【U】「橋」
 そういえばポケモンBWでは巨大な橋が五本かかってますね。みなさんどの橋が一番好きですか?




投稿作品目次 >>12
投票について >>28
メンテ

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Re: 2010年秋企画【投稿期間10/16〜11/6】 ( No.26 )
日時: 2010/11/06 22:59
名前: 来来坊

部門「B」
テーマ「橋」
題名「辻褄合わせ」

 あるところに、ひとつの島があった。
 多くの人間が住んでいるわけではなかったが、島民全てが真面目に働いており、島は豊かだった。
 その島からは他の陸が見えなかった、周りに島や大陸などは無いのだろう、だが島民たちはそんなことを気にすることは無かった。別に周りに人が居なくて困ることも無い。
 その島には橋が架かっていた。何が通るのか分からないがとてつもなく幅広く、何で出来ているのか分からないがとてつもなく丈夫で、何処に行くのか分からないほどに長く、島から橋の向こう側を確認することは出来ない。良くも悪くも質素と言えるその島には似使わない橋。
 橋にはとある言い伝えがあった
『あの橋を渡ると大きな幸せが待っている、だが、あの橋を渡ると大きな幸せが無くなる』
 と言うものだ。
 島民は皆人生に一度は想像する、この橋を渡り、大きな幸せを掴んだ自分を。
 だがそれは一瞬で、すぐに自分の役割――たとえば畑を耕したり、たとえば子供の面倒を見たり、たとえば夫のために料理を作ったり――を思い出し、それらに戻った、今のままの生活でも十分に幸せで、それを捨てることなど考えられなかった。

 島に、一人の男が居た。この男は赤ん坊の時に島の中心のイチョウに少し似ているが何の種類だか分からない大きな木の傍で見つかった。
 島は十分に豊かで仕事もある。子供を捨てるなどということはありえなかった、すぐさま両親探しが始まったが、誰も該当する人間は現れない。橋の向こう側から誰かが連れて来たに違いないと皆が思ったが、橋の監視員がそれを否定した。
 結局誰の仕業であったのかは分からなかったものの、赤ん坊はアダムと名づけられ島民全員が親となり育てられた。アダムはすくすくと健康的に育ち、つい先日に十七の誕生日を迎えた。
 アダムにはこれと言って仕事が無かった、時折何らかの手伝いに借り出されることはあったがそれも別にどうしてもアダムが必要、という訳ではない。ちょうどアダム一人だけが島の輪からはみ出しているかのようだった。

「橋の向こう側に行ってみようと思うんだ」
 橋のふもとで、アダムは監視員のユートに言った。
 ユートはアダムより三歳年上で、父の仕事を継ぎ、橋の監視員をしている。
 と言っても原則的に橋を渡る人間を止める権利は無く、島の歴史上橋の向こう側から人が来たことなど無い、ただ眺めるだけの仕事なので時間をもてあまし、よくアダムと冗談を言い合っていた。
「何だって! アダム、悪いことは言わないが止めておけ」
 ユートは声を荒げる。
「俺の親父や、爺さん、爺さんの親父、爺さんの爺さん、そのまたずーっと前の爺さんがこの橋を見てきたが、誰も向こうからは来なかった、多分向こうにゃ人なんていない、向こうに陸があるかどうかさえ怪しいと思うね」
「それでも構わないよ、それなら帰ってくればいい。ユート、僕はずっと僕の役割について考えていたんだ」
「役割?」
「そう、役割。例えば君なら橋の監視であったり、農家だったら僕達が食べるものを作ることだったり、そういうものが僕にはないんだ」
「それは仕事ってことか? それなら心配すんな、この島にはお前一人くらいなら余裕で食わせるほどの財がある」
「そう言うことじゃない、僕では上手く言い表すことができないが、なんと言えばいいのだろう、この島にすんでいる以上やらなくてはならないことがあるような気がするんだ」
 本当は仕事をするわけでもなくただ食わせてもらってることの引け目もあったが、それをいってしまうと島民の性格上何がなんでも引き止められると思ったので言わなかった。
 ユートは頭を二三度掻いた後、ばつが悪そうに言った
「俺は監視員だが、この橋を渡ろうとしている人間を止める権利は無い。あくまで向こうから人が来ないかどうかをチェックするだけだ。だからお前がどうしても向こうに行きたいというのならば、友として忠告することしか出来ないんだ。もう一度言うが、この橋の向こうがどうなっているかなんて俺は知らないし、誰も知らない。帰ってこれる保証も無いし、お前はこの生活を捨てなければならない。それでも行くか?」
 普段は冗談を言い合っている親友の、恐らく自分に向けては初めてであろう真剣な表情があった。
「約束するよ、俺は向こう側を確かめてきて帰ってくる。俺が居なくなることで手薄になる仕事もないし、この役割は俺にしか出来ないと思う。もし向こう側に何も無かったら、君が無職になるだけさ」
 なるほど、とユートは笑い。
「それならば、友として出来る限りの協力をしよう、島の皆も協力してくれるさ」


 次の日の早朝、橋のふもとにはアダムとユートの二人が居た。
 準備は一日とかからずに整った。
 保存の聞く食料が大体一か月分、とても快適に眠ることが出来る寝具、小さくても暖をとることが可能なランプ、よく分からないがあると落ち着くやかん。その他もろもろの便利そうな道具とそれらを全て入れることが出来る丈夫なリュック。島民がアダムの為に準備してくれたのだ。
「俺はこれをやるから」
 ユートはアダムに小さな袋を渡した。
「なんだいこれは? 中を確認しても良い?」
 ユートがうなづき、アダムは袋を開ける。
 手のひらほどの大きさの円盤、ずっしりと重くピカピカと光っているそれは羅針盤だった。
「これは君の親父さんの物じゃないか、これをもらう訳には行かないよ」
 それはユートの父が橋のふもとの海岸で掘り起こしたものだった、この島に羅針盤の技術はあったが、必要が無いので誰も作っていなかった。
「構うもんか、そんなもの使わなければ将来博物館に飾られるだけだよ」
 アダムの手から羅針盤をヒョイと取り上げ、表面の硝子を袖でこする。
「不思議なもんだ、この橋はちょうど北の方向に伸びている」
 それをアダムに見せる、それを覗き込むと確かに針の赤いほうが橋がかかっている方向を指していた。
「お前は寝相が悪いからな、もし橋の真ん中で、どっちに行けば分からなくなったときにはこれを見ればいい、針が赤いほうがお前の進む道なんだ、遠慮せずに持って行け」
 再びユートがアダムにそれを渡す、アダムは、良いのか? と一度聞き、ユートがめんどくさそうに何度も頷いたので、それを袋に入れポケットにしまった。
「じゃぁ、行ってくるよ」
「おう、約束だ、絶対に戻って来いよ」
 橋の石畳は、アダムが生きてきた中で一度も踏んだことが無い感触だった、だがどこかで感じたような、よく分からない感触。
 後悔するから、行くときに島のほうを振り返るのはやめておこうと昨日の晩には思ったが、いざ踏み込むとどうしようもなく不安になって一度だけ、一度だけだからと自分に誓い、振り返った。
 普段より高い位置から、それも今までとは全く違う方向から眺める島は、妙に新鮮だった。
 だいぶ小さくなっていたが、自分に向かって笑いながら手を振るユートだけがいつもと変わらぬ光景に思えた。
 アダムはユートに向かって手を振り、また歩き出した。


 橋はとにかく長かった。
 最初の二日間はとにかく海しか見えなかった、不安と焦りに駆られたがとにかく足を前に進ませることでそれらを考えないようにした、横にも広い橋の真ん中を歩いてみたり、時々走ってみたりもした。
 三日目の途中から霧が立ち込めてきて、すぐ先も見えなくなるほど視界が悪くなった、もらったランプを片手に進めるだけ進んだ。腹が減ったら食料を少しだけ食べ、眠くなったら寝た。太陽が見えなくなったのでどれだけの時間がたったのか、どれだけの日にちがたったのかは分からなかったが、進むべき方向は羅針盤が教えてくれた。
 三回寝て、再び眠くなったあたりで霧が晴れ、一まず安心したが、現れたのが霧が出てくる前と殆ど同じ光景だったので少し失望した。
 それから再び歩いた、睡魔に襲われてもギリギリまで歩いた、むしろ眠気があるほうがいつもの光景がぼやけて気が楽になった。
 それから暫くたって、少しずつ見える光景が変わってきた。
 橋の終着点、向こう側が見えてきたのである。
 まだ小さくとしか見えないが、それはきちんとした陸地であった。
 アダムは一まず安堵し、そして向こう側にもちゃんと陸があったことを喜んだが、同時にとてつもない眠気が襲ってきた、もう何日も寝ていなかったのだ。アダムは取り合えず睡眠をとることにした。
 翌日、アダムは早足に橋を歩いた。
 近づくにつれ向こう側の様子がよく分かるようになった、家々がきちんと並んでおり、生活レベルは自分の島と余り変わりないように思えた。不思議なことに、どこか懐かしいような気がした。
 もっと近づくと、橋のふもとで一人の男がこちらを見ていることに気づいた。帽子をかぶり、双眼鏡でこちらを見ている、何処と無く緊張している風な雰囲気があった。
 もっと近づくと、男の風貌も分かってきた、線の細い中年、歳は四十くらいだろうか、こちらが手を振ると向こうも同じように手を振り返した。


 アダムは橋を渡り終えようとしていた、向こうの男が呼んだのだろうか、橋のふもとには多くの人が集まっていた。
 やがて橋を渡り終えた、何日かぶりに踏む土は、少し柔らかすぎるような気がした。
 ふもとに集まった人たちは皆拍手でアダムを迎えた、自分の島ではこうは行かないだろうなと思った。
 ふもとに立っていた男が、足早にアダムに近づき、不意に抱きついた。アダムは突然のことに戸惑い、ただされるようにしていた。
 そして男はハッキリとしない声で言った。
「お帰り、アダム」
 突然自分の名前が呼ばれたことに驚き、アダムは反発する磁石のように男から離れた。男はあっけに取られた様子だったが、すぐに納得したような表情になり、
「あぁ、すまない、突然すぎたかもしれないね」
「誰だ、アンタは?」
 アダムは素直に質問した、男は一瞬動きを止め悲しそうな顔をしたが、それでもすぐに納得したような表情になり、
「確かに君に比べたら老けてしまったかもしれないね、私だよ、ユートだ」
 男はそういって両手を広げた、しかし其処に居るのは少しやせ気味の中年の男であり、アダムの知っているユートとは雰囲気こそ似ているが年齢が全く違う。
「でたらめを言うな、ユートはそんなに老けていない! それ以前に何故こっちにユートが居るんだ!」
「老けているのは仕方が無いよ、君が島を出てからもう二十年だ、むしろ君が若々しすぎるような気がするよ」
「二十年? 馬鹿言うな、確かに橋は長かった、だが俺は二十年どころか一ヶ月だってあの橋の上には居なかった。いやまてそれ以前にそもそもこっち側にユートが居る訳無いんだ!」
「アダム、何を言っているんだ? この島はお前の生まれ故郷で二十年前にお前が出て行ったんじゃないか」
「違う、違う違う! そんなはずは無い」
 ユートの意見を大声で否定しながらアダムは自分が間違っていないことを自分に言い聞かせるためにポケットの羅針盤を取り出した。針の赤いほうは橋とは反対の方向に向くはずだあったが。
「そんな……」
 羅針盤の赤い針は少しの狂い無く橋の方向を指していた。
 ユートはそれに気づき、アキの肩に手をかけた、アキがそれを振り払うことは無かった。
「よく分からないが、アダムは動揺しているんだよ、そうだ、この島をいっしょに回ろう、島の中心の大木もまだあるよ」
 ユートは人だかりに向かってユーキと呼びかけた、するとその中から少年が一人出てきて男に近寄った。
 アダムはその少年を見て、ユートに似ているなと思ったが、似ているだけで何かが違っているような気がした。
「私用が出来た、お前が橋の監視をしなさい」
 少年ははいと返事をすると男から手帳のようなものを受け取り、橋のふもとへと向かった。
「俺の島にあんな奴は居なかった」
 アダムが少年を見ながらそういうと、
「そりゃそうだろう」
 と男が言い、少し照れくさそうに
「アダムが出て行った後に生まれた、私の子供だ」



 ユートと二人で島を回れば回るほどアダムはこの島が自分の生まれ故郷ではないのだろうかと思うようになった。
 それぞれがそれぞれ古くなっているとはいえ、自分の記憶と何も変わっていなかった。
 島民たちの中にはもちろんアダムのことを覚えている人がいて、騒ぎを聞きつけてアダムを見つけると、感激して泣いてしまったり、抱きついてきたりした。
 自分がよく遊んでいた小さな女の子が美人に育ち、所帯も持っていた。
『大きな幸せ』とはこれのことなのだろうかとアダムは考えた。皆からの歓迎、自分が心配されていたと言う何とも言えないむず痒い気持ち。
 やがて島の中心部に到着した。
 そこには太く、高く、逞しい木があった、だが別にアダムは驚かない、アダムが知っているころからこの木は太く、高く、逞しい木だった。
 アダムは子供のころからそれの近くで遊んでいた、子供心ながらにそれの近くに居ると落ち着くと言うことが分かっていた。余りにも木のそばにいるので島民たちは「アダムは木の子供なのではないか」とまで言った。
「アダムの帰りを一番楽しみにしていたのは案外そいつかもしれないな」
 あはは、と笑うユート、笑顔は別人だがその笑い方は若いころと同じだった。
 アダムはそれに近づいて手を幹につける。
 太さや高さが変わっていても、その手触りは変わっていなかった、そして何より、落ち着く。
「……信じられないが、確かにここは俺が生まれた島だ」
「そいつは良かった」
 アダムは、木の根元に、小さな種が落ちているのを見つけた、この木の種なのだろうか、しかしアダムはこの木の実を見たことはなかった。
 取り合えず、それをポケットにしまいつつ、言う。
「だが分からない、俺は橋を渡っただけなんだ、何故それで二十年も時がたつんだ」
「そんなことはどうでもいいじゃないか、今夜は盛り上がろう」
 ユートがアダムの背中を叩く、だがアキは別の考え事をしていたためにそれに気づかなかった。
 それから何日がたった。島民に向こう側について聞かれたがうまく答えることが出来なかった。
 島は相変わらず豊かで、皆が一生懸命に働いている。
 アダムは仕事を探したがやはり無かった、向こうの島に居たときに感じた疎外感をこの島でも感じた。
 やがて、必ず戻ると言うユートとの約束を思い出す。



「……なんだって?」
 再び橋のふもと、アダムとユートが話している。
 アダムは来たときに背負っていた鞄を足元においており、それは再び膨らんでいた。
「帰るんだ、橋を渡ってね」
 ユートは腕を組み、ううむとうなり声を上げた、眉間のしわがユートの親父そっくりだなと思った。
「アダム、変だとは思わんか、お前は二十年の時を越えてこの島に帰ってきたのにまた帰るという。アダム、君は何処に帰るんだ?」
「シンプルな問題だよ、俺が居るべき場所さ。俺の居る町には俺より三歳年上のユートがいる、たしかに君もユートだが、俺の知っているユートじゃぁ無い、だから帰るんだ。二十年前の君との約束を果たしに」
 ユートは目を瞑り、アダムの説明を聞いた後もずっと目を瞑っていた。
 だが、やがて目を開け、静かに、様々な感情を押し殺したように
「二つ、言いたことがある。どうか黙って聞いていて欲しい」
 と言った。そしてアダムの返答を待つことなく言葉を重ねる。
「一つ、私が思うに、君は君の思う向こう側、つまりは二十歳の俺がいる世界には戻れない。何故ならば、私が二十歳のときに君は私の元に帰ってこなかったからだ。これではつじつまが合わない」
 ユートらしくない、理論的で筋の通った話にアダムは少し面食らった。そしてそれはアダムが全く考えていなかった可能性でもある。
 ユートはさらに続ける。
「もう一つは……友人として、向こう側に行ってほしくない。二十年前にも同じようなことを言った気がするな、だが今回のこれはそのときよりもずっと、ずっと強い気持ちだ」
 ユートはそう言って両手をアダムの肩に置いた、それに込められている力は強く、アダムは少し痛みを感じた。
 まっすぐアダムの両目を見つめる、その目にはうっすらと涙が浮かんでいるようにもアダムには見えた。
 だが、アダムにはアダムなりの理由がある。
「ユート、ごめん」
 ゆっくりと一歩下がる、アダムの両肩から手がずり落ちた。
「俺はずっと、ずっと悩んできた、何の役割も無く、ただ生きているだけの俺に。お前や島の皆にはそれぞれやりたいこと、実際にやら無ければならないことがあるのに、俺にはそれが無い。お前らには台本だったり、役目だったりがあるのに、俺にはそれが無い。だから、だから橋を渡ることが俺の役割だと思った」
 頬を水滴が伝う、隠し続け、表に出すときも冗談の様に話した感情が静かに漏れ始めていた。
 その感情は、劣等感や、罪悪感、その他の様々な負の感情を詰め合わせたもの、この島の人間は持ち合わせていないであろう感情。
「案の定、島についてからは元の生活に後戻りだ、役割が与えられず、ただ生きている」
 アダムは袖で顔をぬぐうと鞄を背負う。
「俺は橋を渡る、それが俺に与えられた役割だ」
 それを聞いたユートはアダムに背を向けた。
「二十年前のように見送りはしない。二度も親友が離れていくのを見たくはない」
 ユートは声を出すことなく泣いた、単純にアダムが離れていくからではない。
 彼の中に眠る形容しがたい感情、自分たちでは理解の出来ない感情が彼にも辛く、力に慣れなかったことを悔いた。
 アダムも同じように泣いた、彼の立場になれば当然自分も同じようにするだろう、自分が悔しくてたまらなかった。努力でどうにかなる問題であればどれほどの努力をしたであろう。
「ユート、ごめん」
 アダムは駆けた。

 アダムは振り返ることなく、駆け続けた。
 不思議と眠くは無かった、いや、彼の心が眠いと言う感情を生み出さなかった、同じように空腹も感じなかった。
 とにかく駆けた、どれだけ走っても同じ光景があろうと、霧が回りに立ち込めようと、その霧が晴れようと。ありとあらゆる感情から逃げる様に、否実際に逃げていたのかもしれない。
 やがて、向こう側の島の全貌が見えてきた。だがアダムが思い描いていたものとは全く違う。信じたくない、今すぐに消えてなくなってしまいたい光景だった。
 彼は走るのを止め、呆然とした。
「嘘だ……嘘だ」
 島はだだっ広い草原が覆っていた。
「知らせないと」
 引き返し、事の顛末を誰かに知らせようとした。
 だが、引き返したところで、再び向こう側に自分が思い描く光景が無いことは十二分に分かった。
 アダムは落胆し、取り合えず今見える島へ行くことにした。

 その島はとにかくだだっ広い草原だった。
 橋を監視する小屋も、家も、自分が知っている人も居なかった。
 とにかく草と、丸々と太っていて動きが鈍い四本足の動物しか居なかった。何が起こったのか、未来にはこのようになってしまうのか
 アダムは小さな袋からピカピカ光る羅針盤を取り出した。
 羅針盤の針の赤い方は再び橋のほうをさしていた。
 羅針盤の硝子にユートの顔が浮かんだ。
「くそっ!」
 アダムは羅針盤を力任せに思い切り海に投げた、見た目より思い羅針盤は余り遠くに飛ばず、割と浅瀬に小さな水音と共に消えた。
 アダムは草原にひざを着き、生まれたばかりの赤子の様にで泣き叫んだ。
 様々なことが悔しく、様々なことが悲しく、様々なことが腹立たしい。
 どれほど時間がたったであろうか、やがて泣きつかれたアダムは崩れ落ちるように眠りに着いた。
 アダムは、何かが自分の頭を触っていることに気づいて目を覚ました。
 その原因を確認したとき、アダムは感電してしまったかのように跳ね起きた、そこには自分と同じような年頃の女が居たのである。
「君! 何処から来たんだ」
 女はさほど驚くことなく、アダムの質問に答えた。
「それが分からないの、気づいたらここに居て、ふらふらしていたらあなたが居たのよ」
 アダムは訳が分からなかった、てっきり橋を渡ってきたものだと思ったからである。
「何故俺のすぐそばに?」
「それも分からないわ、ただあなたのそばに居れば安心したの、でも、これでよかったわ」
 女はニコリと笑った、アダムはその女の表情に悪い感情はいだかなかった。
「なぜだい?」
「少なくとも退屈ではなくなるわ、それにあなたとても私のタイプなのよ。私はイブと言うの、あなたは……」



 それから何年かたって、彼らには何人かの子供が生まれた。
 食料や、水の心配は無い。水は定期的に雨が降ったし、食料はそこらへんに居る丸々と太っていて動きが鈍い四本足の動物を捕らえればよかった、しかもこの動物は繁殖力が強いのだ。
 アダムは島の真ん中に服のポケットに入っていた種を植えていた、少しでも故郷を思い出したかったのだ。それも順調に育ち、最近ではようやく木と呼べるような高さになっている。
 アダムは幸せだった。恐らくこれこそが自分の役割であるのだろう。だがたまにユートや島の人間の顔を思い浮かべ、胸が苦しくなることがある、果たしてどちらがより幸せであったのだろうか。
 その木の下でうつらうつらとしていると、イブが彼に話しかけた。
「ねぇ、私分からないことがあるの?」
「なんだい?」
 イブはアダムに顔を近づけ子供達に聞かれないように囁いた。
「何故あの橋を渡ってはならないの?」
 イブは長すぎて向こう側が見えない橋を指差した。アダムはイブや子供達に何があっても絶対にあの橋を渡ってはならないと教えていた。
「そんな事か」
 少し硬い笑顔を作りながら答える。別れ際のユートの台詞が頭に浮かぶ。
「あの橋を渡ると大きな幸せが待っている、だが、あの橋を渡ると大きな幸せが無くなる。それだけの話だ、自分たちに離れるべきではない役割あって、十分に幸せなら渡る必要は無いよ、だから俺達が渡る必要は無いんだ」



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