Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.20 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:56
- 名前: がぶりす
- 【さよなら花火】Bコース
彼女との出会いは一週間程前に、友人らと神社裏のお墓で肝試しをしたときだった。 親がお金持ちなので俗に言うお坊ちゃん暮らしをしている僕だから、屋敷の者がこんなことして遊んでいると知れば血相を変えて飛んでくるだろう。 なにせあの墓には女の子のお化けが出るという噂があるのだから。 僕と友人はそんな話あるわけないと笑いながら、それを検証するついでに肝試しを始めたのだ。 油性ペンで名前を書いた石をもって十時半過ぎに神社に僕含め五人で集まり、そこから一人ずつ懐中電灯を持って墓場の奥の方にある地蔵の側に石を置く、至って簡単な遊びだ。そして僕が石を置きに行く順番は五番目、つまり最後である。 先に戻って来た他の皆は幽霊なんていなかった。と、不服そうにしていたので僕もやはりそんなものかと思い、スタートを切った。 大中小、古いの新しいのが多種多様に混ざった墓石だらけの墓場は、それは確かに一人ぼっちで行くのには怖いのもある。 何か変な影が見えるとドキッとするが、懐中電灯で照らすと大概はしょうもないもので、まあ肝試しなんてこんなものかとそれなりに楽しんでいると指定されていた地蔵の前に着いた。 スタートしてちょっとしてから一度曲がれば後は一本道なので暗くてもまだ小学三年生の僕でさえ簡単にたどり着けた。 他の友達に倣って地蔵の前に石を置こうとしたとき、地蔵の向こうにまた影が現れた。 一瞬ひやりとしたが、またどうせしょうもないものだろうと思って懐中電灯をその物影に当ててみたら、白地に赤の模様がたくさん入った着物を着ている14歳くらいのショートカットの女の子がそこにいた。 「……」 「……」 僕も彼女も互いに驚き戸惑いを隠せなかった。 「えーと……、わー!」 彼女は何をとち狂ったのか急に両手をあげて襲っちゃうぞ表明をしているが、怖いどころかとても可愛いらしかった。 「こほん。さっきから気になってたけど君たち何してたの?」 彼女は手を下ろして咳払いをしてから尋ねる。 「……肝試し」 知らない人とは話をするなと口酸っぱく言われていたがこの娘(こ)とならいい気がした。 「なーるほどね。だから石を置いてたんだぁ」 彼女は優しく微笑みながら僕の隣へやってきた。それを見て可愛いと同時に綺麗だなと思った。思えばこれが恋だったのかもしれない。 僕の隣で石を一個一個見ている彼女に、何をしてたの? と尋ねようとしたとき、とんでもないことに気がついた。 この娘、足が、具体的には足首より下が……ない。 人は本当に恐怖したとき叫び声なんて出ないらしい。腕の力が一気に抜け、右手に握っていた懐中電灯を落としてしまう。 「んっ、どうしたの?」 どうしたのじゃないよ本当に幽霊がいたよどうしよう逃げたいでも身体が動かない僕どうなっちゃうの怖いよ。 懐中電灯を落として彼女の顔が見えなくなったためどんな顔をしてるかわからない。もしかしたら口が裂けるほど笑っているかもしれない。 彼女は懐中電灯を拾い、それで顎から光をあてて「みぃたぁなぁ〜」と声を作ってきた。 「ひぃっ!」 ようやっと叫び声が出せた。我ながら情けないにも程がある。身体の膠着が解けたらしくそのまま勢いで尻餅をつく。痛かった。 しかし彼女はあはははと笑うだけであって、僕をとって食うようなことはしなかった。 「なんか驚かしてごめんねー。大丈夫?」 「……」 彼女は尻餅をついている僕に手をそっと差し伸べた。手もすり抜けるんじゃないかと思ったが、その手は触れる上に普通の体温をもっていた。幽霊ってこんなものなのか、自分の知識の幽霊とはどうやら差違があるようだ。 「はい、懐中電灯」 「ありがとう。……君は」 「うん、死んじゃってるみたいだね」 なぜそんな笑いながら言う。 「……大丈夫なの?」 言ってから自分でも何が大丈夫なんだよと突っ込みたくなった。しかし、彼女は怒ることも変な顔もせずに笑っていてくれた。 「わたし? まあ大丈夫とは言えないんじゃない? 死んじゃってるし」 「そ、そうだよね。ところでなんで死んだの?」 初めて彼女が暗い表情を見せたのでしまったと思った。 「……。ごめん、わかんないの。でもお祭りのときに死んだ気がするの。死ぬ前のことは覚えてなくて」 「浴衣着てるもんね」 「あの、お願いがあるの!」 すると彼女は急に涙目で嘆願してきた。断れるわけがない。 「一緒に来週のお祭りに行ってくれない? わたし、そしたら何か思い出せそうな気がするの」 「うん」 なぜなら……。まあ、やはり、好きになってたかもしれないからだろうか。
僕だってまだ小さいけど男である。やっぱり彼女に恋をしているのかもしれない。四六時中彼女のことしか考えれず、何事にも上の空だった。相手が幽霊だったとしても、そんなものは僕には関係なかった。今の僕ならその気になれば大男さえ倒せそうな気がした。 そして念願のお祭り当日。 彼女とは前に会った地蔵の前で待ち合わせていた。相変わらずの浴衣姿と微笑みで僕を待ってくれていたようだ。 「さ、行こ?」 可愛らしく首をかしげて手を伸ばしてくれた。その手をしっかりと握ると祭りで賑わっている町へと二人して歩き出した。 「わぁ!」 ようやく祭りの会場にたどり着くと、様々な人が様々な服装で、様々な表情を浮かべていた。 彼女はそんなたくさんいる人の中でもとりわけ一番の笑顔でいた。 「なんか懐かしいよ」 もう既に涙目の彼女。繋いでいる彼女の腕をぎゅっと強く握ると彼女は我に帰った。 「あっ、ごめんね」 「何か思い出したの?」 「うーん、思い出せそうなんだけど」 「まあゆっくり考えなよ」 「うん……」 しょんぼりとしてる彼女はなんだか見てるのが辛かった。話を変えるべきだ。 「たこ焼き食べる?」 幽霊が食べるかは知らないけど触れるなら食べれそうだろう。 「えっ?」 「僕おごるよ」 小三がませた真似を。と思われるかもしれないが、冒頭でチラと触れた通り一応金持ちの息子なのでお金だけはあった。 彼女が何か言う前に、たこ焼き屋台のおっちゃんにたこ焼きを頼んだ。 「僕、お金だけはあるから。はい」 「それじゃあお言葉に甘えて……。ありがとう!」 「他にも何か欲しいものとかしたいこととかあったら言ってね」 「うん」 ああ、その笑顔がもっとみたいなあ。たこ焼きを頬張る彼女も素敵で見てるこちらもつられて笑顔になる。 「君の家お金持ちなの?」 「親が実業家なんだ」 たこ焼きを食べ終えた僕らは祭りの雑踏の中特に目標もなくぶらつき出した。 「へぇ、すごいね! お金持ち憧れるよ!」 「っていうことはお金持ちじゃなかったんだ」 「おぉ、なるほど! 確かに! なんか君といるといろいろ思い出せそうね」 途中で金魚すくいもやった。射的も、輪投げもやって、あとはたまごせんべいも食べた。 彼女は僕の身の上話、たとえば学校の話とかをよく聞いてくれて、とても楽しそうにしていた。 友人にも幸い会わずに済んだし、彼女の足首より下がないことにも誰も気づかれなかったみたいだ。順風満帆。 「ねぇ、さっき家がお金持ちと言ってたよね」 「それがどうしたの?」 「お宝とかあるの?」 「なんでお宝なの?」 「えっ、いやぁ。だってお金持ちってそんなの持ってそうなイメージなんだけどなぁ」 ……言っちゃダメってお父さんには言われてるけど彼女になら。 「あるよ」 「へー! やっぱり! どんなの?」 「なんとか、っていう綺麗な大きい宝石の指輪なんだ」 「お父さんとかが付けてるの?」 「ううん、強化ガラスの箱に入れて家の中で飾ってる」 「泥棒とか来ないの?」 「昼は警備員がいるし、夜は赤外線で誰かが来たら分かるようになってるし、鍵を使わずガラスもちょっとした振動を感知したらブザーがなるようにしてるから泥棒なんて怖くないよ」 「すごいねぇ」 「しかも鍵は指紋認証なんだ。僕の両親か僕じゃないと絶対に開けらんないの」 「すっごいね! あ、あの綿菓子一緒に食べない?」 「いいね」 そこからまだ楽しい時間は続いた。スマートボールもやった。他にも河原に言って祭り名物の特大打ち上げ花火だって一緒に見に行った。 しかし花火を見ているとき急に彼女の顔が曇った。 「どうしたの?」 だが答えることはなく彼女の体は震えるだけであった。そしてこの祭りの花火大会自慢の特大花火が開く轟音が鳴り響くと同時だった。 「きゃああああああああ!」 彼女は悲鳴を上げてその場でうずくまった。流石に周りの人も怪訝な顔をしたが、そんなのには構わず僕は本能的に彼女の腕を掴んで河原から駆け出した。 彼女は何も言わずに僕の行動に準じて着いてきてくれた。気付けば神社の境内まで戻っていたようだ。 休みなく走ったせいで僕も彼女も息が切れていた。彼女の浴衣も多少崩れている。 しかしそんなことよりも彼女の青い表情だ。 「大丈―――」 「思い出したわ……。わたし」 「……」 「あの花火」 「花火が?」 「たぶん五年前くらい、あの花火がわたしの方目掛けて飛んできたの」 「飛んできたって……」 「お父さんが花火職人でね、わたしもお父さんの側で花火を上げるのを見てたのよ」 「そしたら失敗して、か……」 「うん」 彼女は吐き出したい物を全て出しきったのか再び笑顔に戻っていた。儚く消えそうなものだった。 「今日は楽しかったよ? お陰で満足出来た。もう思い残したこともないしね」 「えっ」 ということはもしかして……。どうしたら彼女を止めることが出来るのだろう。僕は彼女ともっといたい。でもそれは僕の自分勝手なものかもしれない。彼女の本当の幸せは……。 「ね、目を閉じて?」 「え?」 「いいからいいから」 訳も分からず目を閉じると、柔らかく、暖かいものが僕の頬に触れた。僕だってわかる。キスだ。 嬉しくて、優しくて、でも切ない。 唇が僕の頬から離れた。僕は胸が高鳴っていてドキドキしていたからまだ目が開けられない。 「本当にありがとう。このことは絶対忘れないよ……」 彼女の声が耳元でそっと聞こえた。まるで風のように耳を通り抜けて消え去った。 そっと目を開くと、もう境内には誰もいなかった。最初から叶わないと思っていた恋だったけど、そこから大事な何かを学べた気がする。 遠くで咲く花火を見ると笑っている彼女が見えた気がした。
「お疲れ様」 「ふぅ」 境内から離れたとこで少女がボディスーツを着た男の元に駆け寄る。 少女は浴衣を脱ぎ捨てると男があらかじめ用意していたボディスーツに着替え直す。 「まさかここまで上手く行くとは思わなかったわ」 「部分ステルス装置で足だけ透けさせて幽霊にする。子供にはインパクトたっぷりさ」 「触れる時点で疑問に思われるかと思ったわ」 「子供の方が案外現実を受け止めるもんだよ」 「……」 少女は先程まで一緒にいた少年を思い出して複雑な表情を浮かべた。 「それにしても思ったより喋ってくれてこちらとしても好都合だったな」 「まったくね」 「さて、仕事をしにいくか」 「指紋認証のキーもあの子の指紋をこっそり取ったから大丈夫よ」 「ああ。今回の獲物は大きいぞ! その分盗む価値があるってところだ! 行くぞ!」 二つの影は闇の街を走り抜ける。今回も華麗に颯爽と宝を盗むことが出来るのか。少女は不敵な笑みを浮かべるのであった。
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