Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.19 ) |
- 日時: 2010/09/06 22:55
- 名前: あちゃもとあらい
- A『ソングフォーマイファーザー』
「知ってるか? ポケモンだって喋ってるんだぜ」 そう言われたのは、カントー地方最後のジム戦に勝った時のことだ。トキワシティのジムリーダー、グリーンは私にそう言った。 ジムリーダーはトレーナーの実力を測るために戦うので、バッジをかけた挑戦には本気を出さない。しかし私は、その言葉を本当に実行しているのは彼だけだと思った。その一言を聞いた瞬間、私が現在トレーナーとしてぶち当たっている壁を確実に乗り越えられるヒントを得た気がした。グリーンはその壁をいとも簡単に見抜き、解決方法を最初から知っていたかのように思えた。 「どういう意味ですか」 私はもう一歩深く聞いてみる。知りたい。その想いは強くなる。彼はどこから説明すればいいのかな、と言いながら頭をかいた。 「どういう意味って……言葉通りなんだけどな。あんた、ポケモンの言葉は鳴き声しか聞こえないだろ」 私は肯定した。ポケモンは人間とは違う。 「馬鹿な話だと思われそうだけど、本当はポケモンも人間みたいに喋ってるんだよ。言葉を使って。 そうだな、例えば……あんたのマニューラ、ホレスだっけ? あいつはピンチには強そうだな。口数は少なくてそっけない感じだけど、芯がしっかりしている。あんたも負けそうになったらこの子をよく使うんじゃない? オーダイルの方は言葉が荒っぽいな。結構仲間うちでも喧嘩することが多いんじゃないか」 当たっている。愕然とした。彼が本当に言葉を理解しているのかはともかく、たった数十分のジム戦の中でこれだけ見抜かれてしまうとは。 あー、と彼はむしゃくしゃしたような声を出す。 「今の説明じゃ良く分かんないだろうなぁ。まぁ、せめて仲間の声にぐらいちゃんと耳を傾けりゃ、そのうち分かるさ」 耳を傾けろ。その言葉が、私の心にひっかかった。そうか、そうやってポケモンのことを信じてやればいいのか。
誰よりも強くなりたい。そう願って私は一匹のポケモンを盗み、ジョウト地方を旅した。新たなポケモンを手に入れ、強くないと判断したら即刻仲間から外していた。 ある人からはポケモンは道具なんかじゃないと叱咤された。それでもジム戦には勝ち続け、ジョウト地方のジムバッジを8つ全て集めた。私はそんな言葉に耳を貸すことはなかった。 だがしかし、どうしても勝てない男がいた。 どれだけ強いポケモンを持っていても、どれだけ策を練ったとしても、彼には敵わなかった。負けるたびに、追いついたと思ったのにまた引き離される、そんな屈辱を味わった。 一体何が悪いのか。ポケモンリーグ手前で勝負を挑み敗北した時、初めてかつての叱咤の意味を理解した。私と違って、彼はポケモンを大事にする。その差が、彼との実力の違いにつながっていると。 その後、盗んだポケモンを返しに研究所を訪れた。あの時盗んでごめんなさい、と心の底から謝罪した。当然怒られるだろうと覚悟したが、研究所の責任者である人は笑って「君のポケモンは君を信頼している。だからそのポケモンはもう君のものだ」と許してくれた。 あれほど心の中が晴れ晴れとしていたことはない。 許されたことより、こんな自分でもポケモン達は私を信頼してくれていることが嬉しかった。 捕まえてすぐに逃がしたポケモン達に対して、謝りたい気持ちと後悔が生まれた。だからこれからはせめて、今までずっと頑張ってきた6匹のポケモン達と共にやっていこうと決めた。もっとポケモンのことを信じてやる必要が、私にはあるのだ。
その壁を乗り越えるタイミングは唐突だった。 『行くんでしょ。この中』 マニューラのホレスがこっちに目をやり、すたすたと洞窟の中に入っていく。 「あ、あぁ」 喋った。 私は驚きを隠せなかった。グリーンの言ったことは本当だった。人間が耳を貸さないだけで、ポケモンはちゃんと言葉を喋っている。 頭が少し混乱していたせいか、少し気の抜けた返事をして、奥へと進んでいく。
今から入るのは、ハナダの洞窟と呼ばれるダンジョンだ。 あまりにも凶悪なポケモンが住み着いているため、カントーのバッジを全て持っているトレーナーでないと立ち入ることは許されない。 その凶悪なポケモンの多くは、今は無きロケット団が行ったポケモンに関する実験の被害者だ。 弱体化してしまったり極端に強くなり過ぎてコントロール不可になってしまったりなど、実験の失敗作は問答無用でこの洞窟に放りこまれる。その積み重ねが、魔界を作り出したのだ。 もちろんその事実は裏の世界の事情だ。多くの人間は恐らくこの洞窟をただの禁忌の地として見なし、詳しいことは何も知らないだろう。 私がそれを知っているのは、私がロケット団のボスの息子であるからに他ならない。目的は洞窟内にいると思わしき、一匹のポケモン。遺伝子操作によって生まれた、暴力的な力を持つエスパー。かつてロケット団の実験場で、私は一度だけ見たことがある。何十年もの間、失敗を重ねたのちに出来あがったのは制御装置を付けねば止められないほどの暴れん坊だった。 今、グリーンはポケモンを盗まれ、何者かに命を狙われている。はっきりとは言わなかったが、そう仄めかした。彼に教わったものは本当に多く、尊敬している。彼の力になるのなら、今しかない。
ロケット団の壊滅から何年もの時間が経っているからそろそろアンバランスな生命体達は何かしらの形で落ち着いているかと思ったが、少し下りただけで得体の知れない威圧感が押し寄せる。けだるく重苦しい空気。湿気や臭いのせいだと思いたかった。 「こいつは凄いな」 『あちこち見ないほうがいいよ』 ホレスが呟く。私はホレスの後をついていく形になる。洞窟内はぼんやりと光っていた。所々に刺さるように生えている、紫色の水晶が発光しているせいである。 明るいとは言ってもものの外殻が分かる程度なので、フラッシュは必要だった。レアコイルを出し、指示を出す。 「フラッシュ、頼むよ」 レアコイルは無言のままフラッシュの光を放つ。一度フラッシュを放てば、ボールに戻してもボールが光を放つので効果は持続することになる。レアコイルを戻し、ボールをランプ代わりに歩いていく。 そう言えば、レアコイルの反応がホレスとは違うのはどういうことだろう。 「あのさ、ホレス」 『何』 「レアコイルって無口なやつなのか?」 口に出すには少し気恥ずかしさがある。ホレスは気にせず答える。 『んー、あいつが喋ってるところは見たことがないね。金属みたいだから、喋れるのかも謎』 「そっか」 ただ聞けないだけというわけではなさそうなので、安心する。 「それより、俺とお前が喋ってること、不思議だと思わないのか」 『別に。会話が細かいところでかみ合ってなかった気はするけど、大事なことが伝わればそれでいいかなって思ってたし』 それにしても何でそんなことを聞くんだ、という顔をしてこっちを見つめる。私は口元に笑みを作る。目を逸らした後、私は呟いた。 「そういうもの……なんだなぁ」 なんだか拍子抜けだな、と私は思う。分かってはいたが、やはりこちらの言葉は向こうには伝わっていた。それも、しごく当たり前のことのように。 私は脇にふと目をやった。いや、やってしまったと言うべきか。 腐りかけた生物の死体があったのだ。ぐずぐずに崩れ、見ただけで嫌な臭いが伝わってきそうだった。吐きそうになり、思わず声を上げる。 『だから見ない方がいいって言ったのに。おれだってギリギリなんだからさ』
かけられた梯子を降り、更に奥深くへと進んでいく。この梯子はいったいいつからかけられているのだろう。金属でできていて、地面にしっかりと固定されている。塗装は剥がれ、赤くサビついてざらざらとした感触があった。 地下には、広い湖が広がっていた。所々に島があって、この位置から全貌を把握することは出来ない。この先に進むには湖を行くしかなさそうだ。結構底が深いことを確認すると、ボールからオーダイルを出す。 「なみのりで乗せてってくれ。あの島まで」 私は指をさす。分かった、と言わんばかりに頷き、水の中に入る。浮かんできたところを見計らって、私は飛び乗る。二人乗りは恐らく無理なので、ホレスをボールに戻す。 オーダイルの声は聞こえなかった。きっと、こいつの言葉をちゃんと聞けていないだけに違いない。何となく、耳に意識を集中させてみる。 「いつもありがとな」 と身体をたたいてやる。オーダイルは返事しなかった。それとも自分が聞こえないだけなのか。私は少し残念に思った。
目的地の島に降り、私はオーダイルをボールに戻す。そしてもう一度ホレスを出し、周りを見張らせる。 「また階段か」 上ると、開けた空間に出た。周りには光る水晶が他の場所より多く、入口付近よりも幾分明るい。ただ歩くだけなら、フラッシュが無くても十分なくらいだ。先ほどのような腐乱死体もなさそうで、安心する。この洞窟の中には珍しい道具も落ちているらしい。それを回収しながら進むのも悪くないと思った。 『後ろ!』 ホレスが叫ぶ。後ろを振り返る暇もなく、首に腕がかけられ締め付けられる。腕は人間のそれだ。声が出ない。 『離れろっ』 ホレスが自慢の爪で切りかかる。すんでのところで腕は外れ、ホレスの攻撃は避けられる。 「ちっ、お前に変わってやろうと思ったのによぉ」 「誰だあんた」 私は問いかける。我慢していた分を一気にせき込んだ。落ち着いたところで顔を上げる。彼の顔を見た瞬間、驚かざるを得なかった。え、と声を出したまま、後に言葉が続かない。彼は自分を親指で差し、不敵な笑みを浮かべた。 「驚いたか? 驚くよなぁそりゃ、お前の顔だもんな」 目の前に立っていたのは、私と同じ格好、同じ髪、同じ顔をした男だった。かつての歪んでいた私を見ているかのように、彼の笑みはどことなくおかしい。理性のタガが外れている。 『どういうこと、あんた、何者だ』 ホレスが警戒する。 彼はにやりと笑うと、身体が崩れ出す。人間らしい肌色の皮膚も、黒い服も、すべて薄い紫色に変わっていき、ドロドロと溶けていく。 『もういいや、バレちゃ意味無いし』 最終的に残ったのは、小さな紫色の柔らかそうな塊だった。 メタモン。私はそのポケモンの種をそう判断する。しかし、人間に変身するメタモンなど聞いたことがない。実際には可能なものなのかもしれないが、それにしてもこいつは狂っている。 もしかしたら、こいつはロケット団の実験の犠牲者か。そんな考えが頭をよぎった。あまりにも過酷な実験が、ポケモンの性格を歪めてしまった。確証はないのに、私は自分の中でその考えが確信に変わっていくのを感じた。 けっけっけ、と気味の悪い笑い声をあげている。ホレスは警戒し、いつでも戦えるように構えを取っている。 そう言えば、このメタモンの言葉が分かるのはなぜだろう。同じロケット団によって人生を狂わされた者だからだろうか。 だからと言って、人を殺めていいものか。
私は口を固く結んでいた。自分に成り変わって、どうするつもりだ。この洞窟の外に出て、それからどうする? 笑い方の禍々しさが、何をするのかを物語っているように見えた。 『あんたたちを殺して、表に出て、俺は自由になる。やっとだ、やっと見つけたんだ、お前みたいに化けやすい人間』 メタモンはそう言って、あは、あはと笑いながら、また別の姿に変身していく。その笑い声は、叩かなければ正常に作動しないような古い機械を私に思い出させる。
「ホレス、こいつは倒そう」 『分かった』 言葉短く、ホレスは返事をする。 『倒す? 倒すって言った? けっ、お前らが世界の何を知っているって言うんだ。 俺はここでいろんな強いトレーナーを潰してきた。どんな戦い方をするかずっと見て来た。一番強いポケモンがどいつかってこともちゃんと知ってるんだ』 そう言って化けた姿は、ライチュウだった。黄色い身体、白い腹、茶色い両手両足、針金のような細長い尻尾。 『なんだ、もっとおっきなポケモンになると思ったよ。伝説のポケモンとか』 ホレスは言う。私は同感だと思ったところで、その考えを振り払う。ホレスはボールに入っていたから知らないだろうが、とんでもなく強いライチュウを一匹私は知っている。 『俺だって最初はこいつを侮っていたさ。でも、もう覚えた』 ライチュウに変身したメタモンは、尻尾の先から薄く光る糸を伸ばす。とても速いスピードで、それはホレスの身体を突き刺す。反応出来ない。 ばちん、と大きな音が鳴り響く。電気ショックだ。それもかなり強力な。 まずい。私はホレスを抱え、メタモンから少し距離を離す。光る糸はホレスの身体を貫いたにも関わらず、傷はない。電気ショックが効いているだけのようだ。 「大丈夫か」 『うん、下ろして』 私はホレスを下ろす。 『一体何されたのか、全然分からなかった』 「速過ぎるんだ。反応出来なかった」
頭の中で、さまざまなアイデアが浮かんでは消えていく。私はこの戦法を見て確信したことが一つある。あいつが知っているライチュウは、私の知っている者と同じだ。 「あれはひかりのかべを糸状にしているだけだ。実体がないから、貫かれるだけなら平気。あれに電流を流して攻撃するんだ」 電気による攻撃は、基本的に空気中を伝って遠くへは届かない。だから接近戦でないと最適な状態を作り出せない。その欠点を確実に克服するために生まれた戦法のようだ。 『じゃあ、距離を開けても無駄なんだ』 「そう。だから、動き続けろ。回り込みながら近づくんだ。糸をぎりぎりのところで避けて、近づいていることを悟らされるな。こっそり近づいて、思いっきり冷凍パンチを食らわせてやれ」 『分かった』 ホレスは頷いて、駆け出す。頼んだぞ、と心の中でエールを送る。もう私に出来ることはここまでしかない。 あと一発でも食らえば、恐らくホレスは戦闘不能になるだろう。マニューラという種族は、元々頑丈な身体をしていない。だから、攻撃を喰らわないように素早さでカバーしている。ポケモンバトルで勝負を決める要素は、相性と、戦略と、能力の一点特化だ。 ただ、いくら速くても体力はない。早めに近づいてくれ、ホレス。
今のところ、事態は私の思うように動いている。ホレスはしっかり糸を見切り、じわじわと距離を詰めていく。上の方を糸が通ればしゃがみ、下の方を通れば飛んで避ける。ひかりのかべで作られた糸は薄く光っている。うす暗い洞窟の中では目立ってしまうため、視認しやすい。それに、メタモンの作り出す糸は、精密さと速度を同時に達成することはできないらしく、それがホレスに避けられる要因になっている。 『ちょこまかしやがって、くそっ、くそっ』 メタモンも大分焦れている。そして何より、糸に集中し過ぎているせいで、足が一歩も動いていない。よし、いける。あの糸を操作するのにも精神力を要するはずだ。 『当たらないなら、こうしてやるっ』 不意打ちだった。一直線に糸はこっちに飛んでくる。まっすぐになら、糸のスピードはとんでもなく速い。明らかに、私を狙っている。 「うあっ」 糸が左肩を貫き、強力な電流を流される。暴力的に身体を揺すられたような、そんな感覚だった。痛いのかどうか良く分からないが、あまりの衝撃に痛みさえ麻痺してしまったのだと直感する。私は立っていられなくなり、地面に倒れこんだ。 ホレスが私の名前を呼ぶ。メタモンの電撃は持続的なものではなく、一発大きな電気を流すだけだったので、少しだけ動ける隙があった。 「来るなっ」 精一杯の力を込めて、私は叫ぶ。 恐らくホレスは私を心配して、駆けつけようとするだろう。彼の姿を何とか目に入れようとした。 私の予想はやはり正しい。こちらを向いて、足を一歩踏み出そうとしている。不安が溢れ出しそうになり、くしゃくしゃになるのを必死でこらえる顔は、かつて何度も見て来た。普段はそっけないのに、私に危機が訪れるといつもこうなのだ。 私はメタモンを指差し、大きく息を吸い込んで声を張り上げる。 「俺のことはいい!」 敵を倒すことだけに集中するんだ。
ホレスの目から、迷いが消えたような気がした。 そこからはほんの一瞬の出来事だった。 高速でメタモンのそばを走り抜け、通りがけに切り裂く。つじぎりという技だ。どうやら急所に当たったらしく、メタモンは言葉にならない叫びをあげる。痛みの分だけ、声が放出される。 ターンしてさらに、爪を凍らせこおりのつぶてを投げつける。メタモンはそれを背中で受けて怯む。少し変身が解けかかって、色が紫に変わり始めている。そのまま、れいとうパンチ。メタモンの頬をホレスは思いっきり殴った。殴った部分は凍りつき、固まってしまう。さらにホレスは殴り続けた。どの個所も凍って動かなくなるまで、殴り続けた。 やがて、メタモンを行動不能にさせた氷は厚みを増し、大きな柱の形になる。ホレスは息を切らせ、足を折った。 メタモンはひとまず、完全に封印された、と私は判断した。倒したのだ。 変身が解けるか解けないか、メタモンなのかライチュウなのか良く分からないままの状態で、彼の時間は止められた。 「よくやったな」 私は何とか立ち上がり、ホレスの頭を撫でてやる。水筒から水を取り出し、飲ませてやる。 『ごめん、おれは』 ホレスの言葉は、それから先には続かない。目をつぶって、首を振っても、それは変わらなかった。 「いや、いいんだ」 私は言った。 「お前はよくやってくれたよ」 ホレスの不安げな表情は、もとの顔に戻る。少し喜んでいるのだろう。その様子は、私を安心させる。 頼りになるが、もろい奴なのかもしれないと今まで思っていた。 しかし、それは少し違うのだと悟った。言葉が通じて何となく分かったことがあるから。 私が頼りにしているだけではない。ホレスは私を頼りにしているのだ。研究所の博士も、この子達は君を頼りにしている、そう言っていたではないか。
それに気付いた瞬間、いくつもの閃きが生まれた。 同じなんだ。人間もポケモンも。よく喋るものもいれば、無口なものもいる。賢いものもいれば、愚かなものもいる。強いものが一人いる傍ら、弱いものがたくさんいる。みんな別のものを信じ、それぞれの道を行く。ただ姿が違うだけで、同じ個性豊かな生き物なんだ。 自然と笑みがこぼれて、止まらなくなる。これは大発見だと、跳びはねたくなる。 同じように憎しみあい、同じように喜びあう。同じように不和が生まれ、同じように共感が生まれる。それはきっと、言葉を持っているからできることなんだ。 そうだ。そういうことじゃないか。 「ありがとな、ホレス」 『へ? て言うか、さっきからにやにやしてどうしたんだ?』 「何でもない。さぁ、行こう。あとは俺に任せていいから」 私は立ち上がって、ホレスに手を貸した。 『任せて、って、これからとんでもないエスパーと戦うんだろ。あくタイプの俺が戦った方がいいんじゃないか』 「いや、出来る限り戦わないさ。今決めたんだ。策はある」 心を開けば、耳を傾ければ、きっと声は聞こえる。奥に眠る凶暴なエスパーだって、そうすれば分かってもらえるかもしれない。根拠のない自信だが、最高で極上の作戦であるという思いは消えなかった。 おい、と呼びとめるホレスを尻目に、私は洞窟の先へと進んだ。ホレスのため息が聞こえるが、ちゃんと彼はついてくる。 辺りの水晶は相変わらず輝き続けていた。
待っていろ、まだ見ぬエスパー使いの暴れん坊。
私は禍々しい気配のする方へ、足を踏み込んでいく。
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