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ナギサシティ。絆のお話。
日時: 2011/01/17 00:44
名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:u8YXgOJo

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メンテ

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第十五話 ( No.15 )
日時: 2011/01/30 16:51
名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:SkMAlWjQ

「偶然だと思うかね?」
 ロバートがチマリに問う。
 チマリは取り合えずいすに座り、
「海岸で彼が読んでいた本はポケモンの進化に対するものでした、それでも出来すぎです」
 ふてくされたように言う。
「世の中にはそういう出来すぎたこともある、そしてその場に居ることが出来るからヒーローになれるんだ」
 ロバートが口元を緩める。


 ボールから飛び出してきたのはサンダース、素早さが自慢のポケモンだが出てきてから一歩も動かない。
 少しの時間、お互いに指示も何も出さないにらみ合いの時間が続いた。
 サンダースの毛がだいぶ逆立っている、時間が立てばたつほどに高威力のプレッシャーが俺にのしかかってくる。
 先に動いたのはデンジのほうだ。
「十万ボルト」
 デンジの指示と共にサンダースが電撃を飛ばす、目に見えて高威力だ。
「左、電光石火」
 最高のタイミングで指示を出した筈だったがブラッキーはギリギリで避ける、ブラッキーの種族的な素早さが芳しくないのもあるしブラッキーそのものが戦いになれていないのもあるが、やはりサンダースの種族的な素早さとデンジとのコンビネーションが非常に高い。
 だが、それなりの戦い方は考えてある。
「電光石火でつめろ」
 十万ボルトを撃ったことで若干の隙が出来ているサンダースにブラッキーが襲い掛かる。
「すなかけ」
 そのまま前足で地面を巻き上げ、サンダースの目付近にすなを飛ばす。
「光の壁」
 デンジの指示でサンダースはすぐに体制を整え肉眼では捕らえにくい壁を一瞬で作り出す、デンジの冷静な指示も、その意図を理解するサンダースも全て素早い。
 ブラッキーが巻き上げた砂はすべて壁に叩きつけられサンダースには届かない。
 だが壁から砂が落ちたとき、ついさっきまで居たそこにブラッキーはいない。砂かけがある意味で目潰しの役割を果たしている。
「だましうち」
 サンダースの視界を砂が覆っているうちに横から回り込んだブラッキーがサンダースの懐に飛び込む。
「右移動光の壁」
 攻撃があたるギリギリの所でサンダースは横に跳ねとび、先ほどまでサンダースが居た場所に再び壁が作られる。
 サンダースには確実にブラッキーが見えてなかった筈だが、デンジの的確な指示で事なきを得た。
 ブラッキーが壁に激突する、ダメージは無いが少したじろぐ。
 そして再びにらみ合い。
 だまし討ち程度なら迎撃に回ってもいいのだが、それをも光の壁で防ぐ。
 壁には多量の液体が付着していた。
 首筋が熱くなり、嫌な汗が噴出してくる。
 入れ替え不可のこの試合形式では毒状態というのはかなりの痛手となる。そしてブラッキーは、興奮すると全身の毛穴から毒素の混じった汗を出す性質がある、直接的な打撃攻撃により相手をどく状態にし、後はブラッキーの耐久力を武器に相手を倒す戦法、成功すれば一匹で二匹のポケモンが倒せることになるが。
 これも、読まれている。
 ブラッキーがサンダースより種族的に素早さが劣る以上、逃げに回ったデンジに直接攻撃を当てるのは難しい。
 しかし、デンジもあまり積極的には動けないだろう。
 直接的な攻撃はもちろん出来ない、だが遠距離から高威力のものを放っても大体は避けられ隙を作る、電磁波などでブラッキーを麻痺させることは出来るだろうが、ブラッキーの特性はシンクロ、麻痺になってしまえばサンダースの長所がひとつ消える。できることは遠距離からの小技か、こちらの攻撃に対して光の壁を出す程度。
 三対二で数的に有利なのは俺、ここは愚直に、ただ突き進む。
「正面、電光石火」
 真正面からサンダースへと向かう。どのようなカウンターをされようとブラッキーが一撃で落とされるようなことは無い。
「光の壁」
 想定の範囲内だったのだろう、デンジが素早く指示すると再び壁が作られる、だが今回は俺もそれを読んでいる、これまでは読み合いだったが、読み合いではなく、それぞれのトレーナーの判断力が勝負を分ける戦局へとシフトしている。
「怪しい光だ」
 ブラッキーの首の模様が光り、相手に幻覚のようなものを見せる、肉眼に捕らえにくい、硝子の様に透けている光の壁は今回は仇となった。
 だがサンダースは特別変わった行動はとらない、混乱状態にさせることは失敗したのか。
 その隙にブラッキーは壁を回り、再びサンダースのサイドをとる。
 だが、俺が次の指示をする前にデンジが叫んだ。
「左、電磁波!」
 光の壁じゃない。
 サンダースは電磁波を放つと同時にブラッキーと向き合う、ブラッキーは電磁波をまともに食ったがシンクロによってサンダースも麻痺する筈。
「だまし討ちだ!」
 ブラッキーに指示を出すが麻痺の影響で少し行動が遅れている。だがそれは相手も同じ筈だった。
「二度蹴り」
 驚くほど早く、サンダースが後ろ足で蹴りを見舞う、右足で顎を、左足で腹部を的確に捉える。
 悪タイプに対して相性のいい格闘タイプの技をぶつけられブラッキーの足元がふらつく、だがサンダースの近距離戦闘力の貧弱さに助けられ戦闘不能にはいたっていない。
 サンダースの動きはいまだに鈍らない、だが見る限り毒状態になっている。
 シンクロのラグを利用し、その間に毒状態になることでシンクロを実質的に無効化した、麻痺よりも毒を選んだのは短期決戦に自信があるからか。
 そしてこの状況は非常にまずい、サンダースは二度蹴りを出した後すぐに体勢を立て直す、対するブラッキーは麻痺し素早さが落ちている状況でまだ足元がおぼつかない。
 そしてサンダースの体毛はこれでもかと言うほどに膨らんでいる。
「十万ボルト」
 サンダースの尻尾から電撃が放たれる、電気の中でもかなりの大技。近距離に居たブラッキーに避けるすべは無いが。
 電撃が当たったのはブラッキーのやや後ろ、当然ながらそこには何も無い。
「どうしたサンダース!」
 サンダースには二つの敵が見えているのだ、一つはブラッキーであり、そしてもうひとつは怪しい光が見せる幻影。それら二つによりサンダースは混乱していた、混乱状態は他の状態異常とも症状が重なる。
 そして、大技を放ったサンダースは隙だらけだ。
「しっぺがえし!」
 ブラッキーが前足をサンダースにおもいきり叩きつける、相手の隙を突けばつくほど威力のあがる大技に、サンダースの体が宙に浮く、混乱はこの衝撃で解けるだろう。
 ブラッキーの攻撃力も褒められたものではない、いくらサンダースが打たれ弱いからといってこの程度では落ちないだろう、もう一手の何かがいる。
「つめろ、電光石火」
 ブラッキーが麻痺しているなりに素早く倒れているサンダースへと向かう、それを見てデンジも指示を出す。
「ミサイル針」
 素早さではやはり適わないが、得意の電気技を出すにはまだ帯電量が足りていない。倒れていたサンダースは体勢を立て直すと尻尾を高く掲げ、向かってくるブラッキーに対して体毛を飛ばす。
「怯むな、押し返せ!」
 サンダースを倒すにはここしかない、針の雨の中にブラッキーが突っ込む。ブラッキーの全身に針が突き刺さるがスピードは落ちない。
 デンジは逃げる指示を出さない、逃げに回ると毒に侵される。デンジもここが勝負どころだと感じているはずだ。
 ブラッキーよ、耐えてくれ。
「ダメ押し!」
 ほとんど頭突きのような形でブラッキーの攻撃が当たり、針攻撃がやむ。後方に吹き飛びながらもサンダースは踏ん張り堪えていたが、やがて体が崩れ落ちた。
 審判員は一まずサンダースに対して赤旗を揚げる、デンジは何か納得したような顔でサンダースをボールに戻した。
 そして審判員がブラッキーを確認する。
 ブラッキーの目はまだ爛々と輝いており一応全ての足で立ってはいるが、全身に痛々しくサンダースの体毛が突き刺さっておりとても戦えるようには見えない。二度蹴りとミサイル針で体力も相当削られているだろう。
 ほとんど始めての実戦でここまでやってくれるとは正直予想していなかった、さすがは彼女の娘だ。
 審判員がポケモンを戻すか否かを俺に問う、戻してしまえばもうこのバトルでは使えない、相手は残り一体でこちらはブラッキーを含めずに残り二体、定石ならばブラッキーはそのままにしておき、相手のポケモンを確認してから次に出すポケモンを決める、だが次にデンジがどんなポケモンを繰り出そうとも俺のアンカーは揺るがない。
 一応ボールを取り出してはみるがブラッキーは動きは明らかにそれを拒否していた。
 そもそも『勇敢』な性格であるし、初めての実戦にもっと身をおきたいのだろう。
「戻るか?」
 確認の意味を込めブラッキーに問う、だが奴は後ろ足で地面を掻いただけで振り返りもしない。
「続投でよろしくお願いします」
「そりゃそうだろう。そもそも何故聞く必要があるんだ」
 右手でマスターボールを捏ね繰りながらデンジが審判員を弄くる。
「さて、久しぶりだよ、ここまで追い詰められたのはね」
 形式的には追い詰められていてもまだ表情に笑みが見えるデンジに若干の苛立ちを覚えた。
「あなた、状況分かってますか? 三対一なんですよ」
「分かっている、だがこんな経験初めてじゃない、俺が何千回と繰り返してきた戦いの中にはこれよりもしびれる状況だってあった、だがそれらの戦いでも俺は彼を使わなかった」
 マスターボールを眺める。
「そろそろ始めよう、これが俺の切り札、この国が脅威を感じたポケモンだ」
 デンジがマスターボールを投げる。
 ボールが光り、中のポケモンが現れる。
 俺の予想はサンダーやライコウといった伝説のポケモン。だが現れたそれはそれらよりももっと驚異的なポケモンだった。
 人型ポケモンというのは大体体長一メートルから二メートルまでだ、そりゃそうだろう、人と同じようなサイズだから人型と言うのだ。
 だがボールの中から現れたそのポケモン、通常なら百八十センチ程度しかない筈のエレキブルは目分量で見ても軽く二メートルと半分はあった。瞳が通常と違い青い。
 突然変異種、見るのは初めて、そして戦うのもちろん初めてだった。
メンテ
第十六話 ( No.16 )
日時: 2011/02/02 14:20
名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:pZAQLgsY

「エレキブル。だけど、大きすぎる。通常のものに比べて体毛の色も濃いし、瞳の色も違う」
「突然変異種の最終進化系……マスターボールが必要なわけだ」
 ロバートが声を上げる。独特の緊張感があった。
「何それ?」
「人間と同じだよ、ポケモンにも異常な遺伝子を持ったものが生まれうる」
「でも、突然変異種なんて見た事も聞いたことも無いわ」
「ポケモンは人間に比べてデリケートな存在だ、大体の突然変異種はまだ卵のころや、幼生のときに細胞の成長に体が耐え切れず死滅する、だから一般には殆ど知られていない。
 だが、ごく稀に、本当に何十年かに一度の次元で成長しきってしまうことがある、それがおそらくあのエレキブルだ。すごい、私もはじめてお目にかかる」
 ロバートは食い入るようにエレキブルを見つめていた、まるで好奇心旺盛な少年のようだった。
「何でそんなポケモンをデンジさんが……」
「突然変異種は人間にとって脅威だ、何百年か前に突然変異種のギャラドスが国を半壊させたと言う記録もある、だから国はエキスパートにその捕獲、保護を依頼する。ポケモンを必ず捉えることの出来る最高にして最低のボール、マスターボールの使用も厭わない。おそらくデンジ君は電気のエキスパートとして国から依頼されたのだろう」
「……知らなかった」
「しかし」
「え?」
「これでキリト君が勝つのは難しくなった、もしデンジ君があのエレキブルを完全に操れるのならば、並みのポケモンに勝ち目なんて無い」



 とんでもない、とんでもない切り札だ。
 いや、切り札なんてもんじゃない。俺が今まで経験してきた試合でこんな切り札を切られたことあるか?
 突然変異種の、最終進化系。 圧倒的という言葉がそいつには良く似合う。
 このエレキブルを前にして『ただでかいだけ』と言ってのける人間がこの世に何人いるだろう。
 だが、ここはサーカスではない、ジム戦だ。相手はジムリーダーデンジ、『電気ポケモン』のエキスパート。勝つ手段を考えなくてはならない。
 取り合えずブラッキーを動かそう、体力はギリギリで麻痺している、到底勝ち目は無いが……何もしないよりかは行動を起こしたほうがいい。ネガティブに考えるのは試合が終わってからだ、試合中はプラス思考が鉄則。突破口は案外こういうところから開けたりするものだ。
「嫌な音」
 どこから出されているのかは知らないが、ブラッキーが悲鳴のような、金切り声を上げる。
 いつ聞いても心地のいいものじゃないな。
 エレキブルが微妙にたじろぐ、嫌な音は集中力を削ぎ、一時的にガードをとかせる効果がある、だがそれも相手が上級プレイヤーなら大して通用しない。
 むしろここで嫌な音を使ったのは別の目的、これで再びそろった訳だ
 デンジはまだ動かない、今のブラッキーはお世辞にも素早いとはいえないのに。エレキブルと言う種族はそれほど鈍重な種族ではないのだが、もしかしたら巨大すぎるが上に機動力が無いのかもしれない。
「詰めろ、電光石火」
 ブラッキーがエレキブルに接近する、それでもまだデンジは動かない。
 ブラッキーが飛び掛る。タイミングは今しかない。
「とっておき!」
 ここでデンジが動いた。
「放電」
 バチン、と一瞬何かがはじけるような、大きな静電気のような音。
 そして、ブラッキーが地面に落ちる音。審判員が赤旗を揚げる。
 その技は俺の知っている放電ではなかった、放電と言うのは長時間、ポケモンがためている電気を放出する電気タイプの中でも屈指の大技。
 だがその放電は一瞬だけ、時間にして一秒にも無いくらいの、本当に静電気のような短いものだった。
 それでも、ブラッキーは大きく弾き飛ばされている、力学に反したように、巨大な何かに殴りつけられたように。
 ブラッキーを犠牲にしてわかった……いや、再認識した事は、あのポケモンが、規格外で、非常識で、俺が今まで戦ってきたどんなポケモンよりも『ヤバい』と言うことだった
メンテ
第十七話 ( No.17 )
日時: 2011/02/01 21:10
名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:y7CoRI7c

 ブラッキーをボールに戻し、腰にセットする。
 本当ならば今すぐに回復させてやりたいが試合中の回復行為は原則認められていない。
 そして、手持ちを回復させたいのはデンジも同じだ。
 もう少し、耐えてくれ。
 二つのボールをベルトから外し、両の手で持つ。
 考える時間が欲しかったが、ポケモンの交換は長くとも一分以内に行わなければならない。毒の状態異常に配慮したルールだ。
 プラスに考えれば、一分間は考えても良い。それぞれを見比べ思考をめぐらせる。
 突然変異種の、最終進化系と戦うと言うことは、本を読んだり、教えを受けるようなこととは違う、すでにある道を歩くのではない。この前例の無い戦いにおいては俺が道を作らなければならない、もちろんその様な経験は無いに等しい。
 これまでの様にデンジが俺に語りかけてくることは無い、余裕からか、それとも俺の心中を察しているのか。おそらくは後者だろう。
 左手に握っているボールを眺める。アンカーは決まっている。問題はこいつでどのように攻めるかだ。
 過去の経験を頭に浮かべ、我に帰りそれをかき消す作業を何度か繰り返した。過去など役に立つものか。
 時間は残り少なかった、審判員が時計を気にしている。別に時間をオーバーしても失格になる訳ではない、失格とされるのは一分と三十秒を越えてからだ、一分を越えてもポケモンをすぐに出すようにと促されるだけだがそれもある意味で敗北だ。
 右手のボールを腰にセット、そして左手でボールをエレキブルから距離をとるように投げる、ボールからポケモンが出てくると同時に俺は叫ぶように指示を出した。
「しびれごな!」
 ボールから姿を現したロズレイドはエレキブルに向かって植物の種子のようなものを飛ばす。
 選んだ戦術は、少し奇抜的な速攻。
「散らすな、火炎放射」
 種子が破裂し粉を撒き散らす前にエレキブルが炎を吐き出し種子を焼き尽くす。技の精度に穴は無い。
「足元、右腕タネマシンガン!」
 ロズレイドが突き出した右腕からタネが放たれる。
 粉が失敗するのは予想していた。それよりも重要なのはエレキブルが火炎放射を使えると言うことと、その精度に穴がないと言う情報。あまりうれしいものではないが分からないよりかは分かるほうが良い。
 タネはエレキブルの足元に放たれ、土煙が上がる。エレキブルは一歩後退するがそれ以上のことはしない、デンジの指示を待っている。
「構うな、ロズレイドに火炎放射」
 そのまま口から炎を吐き出す。
 だが距離が遠い。
「右に避けろ、距離は変えるな」
 スペースのある右側にロズレイドを逃がす。その間に出来るだけ短い時間で、思考をめぐらせる。
 この行動でわかった事は、エレキブルとデンジはそれほど多くの実戦は積んでいないということだ。
 デンジと共に多くの試合をこなしてきたポケモン、たとえば彼のレントラーなどは、トレーナーの意図を数少ない言葉で理解することが出来る。
 だが先ほどデンジは散らばったタネマシンガンの弾に対する指示と、攻撃対象の選択の指示を出した。
 隙がひとつ見つかった。
「ロズレイドに向かって電気ショック」
 攻撃が当たっていないことを確認したデンジはすぐさま次の指示を出す。エレキブルが先に仕掛けるのは初めてだ。
 頭から生えている二本の角の間に青白い火花が散る、それは一瞬でバスケットボールほどの球体になる。
 エレキブルがそれを放とうとした時にロズレイドに指示を出す。
「下がれ」
 ロズレイドは立ち位置を一歩か二歩ほど後方にずらす。
 電気の球体は先ほどまでロズレイドがいた場所に狂い無く着弾し地面をえぐる。
 技を避けられた苛立ちか、距離を変えられたくなかったのか、エレキブルは前に踏み出そうとする。
「行くな!」
 エレキブルの行動を予測してなかったのだろう、デンジが焦って声を上げる。
 だがエレキブルがその動きを止めたのは一歩前に、タネマシンガンの弾が散らばっている箇所に足を踏み入れてからだった。
 ロズレイドの右腕から放たれるタネは『宿り木のタネ』着弾後にすぐに発芽を開始するものと、何らかの刺激を受けて初めて発芽する二種類のものがある。先ほどばら撒いたのは後者のほう。
 刺激を受けた宿り木が発芽を開始し、エレキブルの足に複雑に絡まる、草結びの要領だ。
「落ち着け! 大した仕掛けじゃない!」
 困惑の声を上げるエレキブルをよそに宿り木が胴に絡まり、それを支柱にさらに上へと絡まろうと成長を続ける。
「焼き切れ! 最大出力の放電だ!」
 理想の展開だった。
 恐らく宿り木は簡単に突破される。そもそも宿り木に相手を拘束するほどの強度は無い。
 重要なのはエレキブルの動きを一時的でもいいので止めることと、注意をこちらから逸らさせる事だ。
「こっちも最大出力だ」
 隙が大きすぎる大技も、今なら確実に当てることが出来。致命的なダメージを与えることが出来る。
 ロズレイドが両腕を前に突き出す。同時にエレキブルが両腕を振り上げ、威圧的な雄たけびを上げる。それぞれの手が尻尾の先端を一本ずつ握っていた。
 青白い光と思わず耳をふさぎたくなるような騒音がエレキブルを包み込む、これまでみてきた放電とは物が違う、エレキブルを中心に半径一メートルほどの電磁の半球体が作られていた。
 宿り木を焼ききり、無防備になったところを狙う。
「リーフストーム!」
「放電を続けろ!」
 ロズレイドの両腕から数多の葉が放たれ、それらは巨大な竜巻となりエレキブルに襲い掛かる。
 草タイプ最大威力のその技はエレキブルが纏っている電磁のシールドを着き抜け、雄たけびを上げ続けるエレキブルに襲い掛かる。
「放電やめ!」
 デンジの指示でエレキブルを包んでいた電磁の壁が解かれる。エレキブルは両腕をだらりと下げており、周りには大量の葉が巻き散らかされていた。
 リーフストームは直撃した。二の手三の手を使えば勝負は決まる。
「ロズレイドに電撃波」
 デンジが指示を出す、刹那エレキブルは再び雄たけびを上げ、角から火花を散らす。電気が貯まるスピードが先ほどより速く感じられる。
 それはこれまでの物よりも段違いのスピードで放たれた。
 判断が追いつかない、かわすことは不可能だ。
「根を張る!」
 両足を地面に突き刺したロズレイドに電撃波が直撃する。
 リーフストームは確かに直撃した筈だった、だがエレキブルの電撃波を見る限り消耗している様子はない。
 あまり考えたくないが突然変異種ゆえ耐久力も桁違いなのだろうか、可能性としては十分に考えられる。だがエレキブルは種族的には決して耐久力があるわけではない。いくつかの可能性が頭に浮かんだ。
 根が地面に電気を逃がしたために致命傷にはなっていないがその代償として。
「ロズレイドはもう逃げられない、とっしんだ」
 地面に根を張ったことによってもう移動することが出来ない、だが根を張らなければ相当なダメージを食っていただろう。スピードのある電撃波を放たれたときすでに戦局は決まっていた。
 エレキブルがその巨体に似合わず素早く距離を詰める。
 逃げられないのなら、最後の抵抗をするまでだ。
「両腕、タネマシンガン」
 ロズレイドは臆さず、両腕を突き出し種を放つ。
「放電状態を維持しろ」
 再び放電、先ほどに比べれば規模は小さいがそれでも十分な勢いだった。
 エレキブルはタネマシンガンをものともせず、むしろ先ほどよりも速度を上げ、ロズレイドに突っ込んでくる。
「ギガインパクト」
 電磁を纏ったギガインパクトにロズレイドが下敷きになる。殆どのしかかりに近い形だ。
 状態を確認するまでも無く、審判が赤旗を揚げた。
メンテ
第十八話 ( No.18 )
日時: 2011/02/02 18:43
名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:pZAQLgsY

 ロズレイドをボールを戻し、自らの判断の遅さに悔いる。すまない。
 残るポケモンは一体、俺はすぐにボールをエレキブルの背後に向かって投げる。エレキブルはまだ体勢を立て直せていない、ギガインパクトは高威力だが攻撃後の体勢が非常に悪い。削り切れはしないだろうが、一撃与えるくらいに隙はある。
「水の波動!」
 ボールから飛び出したシャワーズはエレキブルから距離をとり、四肢で地面に踏ん張る。青い肌が光を反射しきらきらと光っていた。
「死角から来るぞ、放電」
 エレキブルは悪い体勢のまま両手でそれぞれ尻尾の先端を握る。
 シャワーズは口を開け、水流を繰り出す、隙の少ない中威力技で正面から撃つことが出来れば相手の混乱を誘うことが出来るが今回は無理だろう。
 水流がエレキブルに当たる直前に放電が開始される、シャワーズは攻撃範囲の外だったのでこれと言った被害も無く、水流は振り向きざまのエレキブルの背中と左半身にに直撃。
「真後ろだ、振り向きざまに雷パンチ」
 大きく後ろに下がりながら右腕を振りかざす。リーフストームのときと同じでダメージは受けてないように見え、技の速度も先ほどまでに比べて格段に早い。
 この時、俺の中で可能性の一つに過ぎなかったある仮定が確証となった。。
 エレキブルの特性は電気エンジン、電気タイプの技を受けてもダメージを受けず、自らの俊敏性をあげることが出来る。突然変異種とはいえ恐らくこのエレキブルも同じ特性だろう。
 エレキブルがリーフストームと水の波動を受けたとき、葉っぱや水は電気の壁を突き抜けた後にエレキブルに当たっていた。
 もしやエレキブルは相手の技を帯電させることによって無理やり電気タイプの技に変えているのではないだろうか。もちろん、普通のポケモン同士での対戦では起こりえないことだ。だが相手は突然変異種、常識は通用しない。
「下がりながらすなかけ」
 シャワーズが尾びれで地面の砂をかきあげながら身を引いて拳から身を守る。
 砂はエレキブルの顔あたりにかかり、少しだけたじろいだ。
 黒い瞳で俺をちらりと確認し、指示を仰ぐ。ぴんと張った耳で指示を聞き漏らすまいとする。長い付き合いだがこいつとならどんな強敵が相手でも何とかなるような気がする。
 これからはアンカーとアンカーの対決。
 デンジのエレキブルか、俺のシャワーズか。



「勝ちたいのか、負けたいのか、さっぱり分からない」
 チマリはうーんと唸りながら悪態をつく。
 競技場ではシャワーズとエレキブルがにらみ合っている。だが相性とサイズの関係でどうしてもエレキブルのほうが押しているように感じられる。
 ロバートはチマリの方に少しだけ視線を向かわせ「何故かね?」と聞いた。
「シャワーズをアンカーに据えるなんてどうかしてる、いや、そもそも持ち手に水タイプを組み込むことが間違っている。相手が電気タイプのエキスパートなのは分かりきっていることなのにわざわざ弱点で迎え撃つなんて」
 電気タイプにポケモンに対して水タイプのポケモンは圧倒的に不利、ましてやデンジは電気タイプのエキスパートでもある。チマリはデンジと挑戦者のバトルを多く見てきたが、アンカーに水タイプと言う選択をしたものは数少なかった。ほとんどのトレーナーが地面タイプや草タイプを中心にしたメンバーだった。
 不満と、疑問の表情を浮かべるチマリに対して、ロバートはまるで疑問を感じていない、涼しげな表情で答える。
「もし、ポケモンバトルと言うものがじゃんけんの様なゲームであったら、そういう考え方もある。だが彼らのバトルとはそんなものではないのだ。事実、私は電気タイプに対して圧倒的に有利な地面タイプのポケモンを使用し、敗れている」
 チマリはロバートがアンカーに据えていたハガネールのことを言っていることにすぐ気が付いた。
 ロバートのハガネールは、デンジのサンダースを倒したものの、レントラーの多彩な噛み付き攻撃に敗北した。
「もちろん、タイプの相性はバトルにおける絶対的な基本で、スクールで真っ先に覚えなくてはならないものの一つだろう。だが、時としてはそれよりも真っ先に優先せざるを得ない事もある。分からないのも無理は無い、君は私よりも遥かに才能のあるトレーナーだろうが、トレーナーとしての経験は私のほうが二倍以上ある、月日が立たねば分からないこともある」
 エレキブルが小さな電撃を放つ、牽制的な意味もあるであろうそれをシャワーズはひらりとかわし、先ほどと同じ距離をとった。
 チマリはロバートが何を言っているのかが分からないと言った風に首を振った。
「それは何?」
 ロバートは視線をキリトのシャワーズに移した、水色の肌には艶と張りがあり、尾びれは優雅でもありまた力強くも見えた。
「信頼関係だよ、ポケモンとトレーナーの信頼が強ければ強いほどより強固な力となる、そしてそれはタイプの相性すら覆しかねない。キリト君は水の都ルネの出身だ。シャワーズとは長い付き合いなのだろう。デンジ君にしてもそうだ、私がハガネールを使ってくることは知っていただろうにあえて電気タイプのポケモンで迎えうった」
 ロバートの説明に口をつむぐチマリに、ロバートはさらに続けた。
「最も、私が使ったハガネールだって、私が最も信頼する手持ちだったがね」
メンテ
第十九話 ( No.19 )
日時: 2011/02/03 00:28
名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:iorfcLKU

 お互いのポケモンが正面から睨み合っている。いや、正確に言えばこちらが一方的に睨まれているのだ。
 電気タイプの相手に対してこちらは水タイプ。一瞬でも隙を見せれば全て持っていかれる可能性もある。それに対し相手はわざわざ自分から向かう必要は無いのだ。
 水タイプでデンジに挑むということは傍から見れば愚かな選択かもしれない、だが、もし俺の手持ちの中で最も大切な試合の最後の最後を任せられるパートナーと言われれば、物心着く前からパートナーであったシャワーズになるのだ。
 シャワーズが前足で地面を掻いている。それは彼女が臆していない証拠なのだ。もしかしたら俺よりも冷静かもしれない。
「水鉄砲」
 指示と同時に、シャワーズがエレキブルに向け口から水を噴射する。
「たいした攻撃じゃない、電気ショックで直接狙え」
 デンジが素早く指示を出すと、エレキブルは水鉄砲を正面で受け、シャワーズに向け電撃を放つ。
 俺が何も言わずともシャワーズはそれをかわそうとする、だがエレキブルの電撃は予想以上に早く、電撃がシャワーズを掠めた。
「睨みつける」
 エレキブルの両目がシャワーズを捉える、少しでもシャワーズが不穏な動きをすればすぐに反応できるようにだろう。
 ジムリーダーらしい、合理的な戦術だ。もしタイプの相性をいいことにエレキブルが力任せに技を連射すれば必ず隙が生まれてしまう。こちらの行動を見切り、一発のカウンターで勝負を決めるつもりなのだろう。
 動きづらい状況だが、エレキブルの体に起こったある変化が隙を作った。
 エレキブルの胴体から何本かのやどりぎのつるが現れ、その体を覆おうとしたのである。ロズレイドが最後に放ったタネマシンガンの種が、水鉄砲の刺激により発芽したのだ。
 それらは弱弱しく、エレキブルの巨躯を拘束できるほどではないが、それは俺とシャワーズにとって一つの合図、反撃の狼煙だった。
「やどりぎに構うな、目の前の敵に意識を集中しろ」
 デンジもこのやどりぎがたいした拘束力を持たないことを理解しているようだった、やりにくい。
 再び硬直、お互いに動くことはほぼ無く、やどりぎが微妙ながらに成長を続けるだけ。
 我慢の限界なのであろうか、やがてエレキブルがやどりぎを体から引き剥がそうと右手を動かした。そしてそれは俺達が待ち望んでいた、隙とも言うことが出来ない本当に細い抜け道。
「黒い霧!」
 シャワーズの口から黒い濃霧が撒かれる。
 エレキブルはそれを見てすぐに攻撃態勢に入ったがデンジが制す。
「間に合わない、霧に入るな!」
 一瞬ではあるがやどりぎに気をとられていたためにカウンターを入れるタイミングを逃したのだ。シャワーズは素早く霧に飛び込み姿をくらませる。
「冷凍ビーム」
 徐々に広がりを見せる霧の中から、シャワーズが冷凍ビームを放つ、それは霧から離れようとしていたエレキブルの片足を捕らえ、地面と片足を固定した。
「炎のパンチで拘束を解け」
 エレキブルが赤く染まった右腕を地面と足を固定している氷塊に連続して振り下ろす、その間にもシャワーズは霧を吐き続け、ついにエレキブルの巨体も霧に包まれた。
 包まれたと言っても霧の高さは一と半メートルほどで、エレキブルの腰から上は霧に隠れていない。その一方でシャワーズの体は全て霧の中へと収まっている。
 相手はこちらが見えず、こちらは相手が見える。という一方的な状況を作った。
 加えて、上昇したエレキブルの俊敏さも元に戻る、睨み付けられて下がっていたシャワーズの防御力も元に戻る。
 黒い霧はかなりの範囲に広がった、もしエレキブルが霧の範囲外に逃げようとすればそれなりの隙が生まれる、デンジは霧が晴れるまで耐えるしかない。
「無理して全体を見通さなくて良い、足りない分は俺が補う」
 動揺が見えるエレキブルに、デンジが指示を出す。
 黒い霧で俊敏さが元に戻っているとはいえ、エレキブルそもそもの俊敏さ、それに加えて、デンジの的確な判断と指示。戦局的に有利になったとはいえまだ安心は出来ない。
 じり、じりと、エレキブルが移動する、エレキブルの独断だろうか、それともデンジの指示か、声による指示はないがハンドシグナルや僅かな目線の動きによる通しだってありうる。もしくは、このような状況を想定していて事前に決めていたのかも。
 霧が晴れてしまえば、またこちらが不利になる。そう思っていると。
 ぐわん、とエレキブルの巨体が動いた。先ほどまでのじりじりとした動きではなく、大股の一歩。
 それと同時に周りの霧が巻き上がり、消える。大きな動きによって無理やり霧を消そうと言うのか。なるほど、むちゃくちゃかもしれないが理にはかなっている。
「冷凍ビーム」
「後頭部を庇え!」
 エレキブルの背後の霧の中から冷凍ビームが放たれる。
 霧の揺らめきから判断したのだろうか。冷凍ビームが放たれる前にデンジが指示を出し、エレキブルは両手で後頭部をカードした。
 エレキブルの腕の一部が凍る、エレキブルは素早く背後に振り返ると霧が巻き上げられ、チラリとシャワーズの姿が現れたがすぐに霧に消えた。エレキブルは腕に熱を集め、氷を溶かす。
「今のは『みがわり』だ、本物は背後!」
 エレキブルが再び体を反転させる。
 鼓動が早まる。何故見抜かれたのか、俺はシャワーズに対して身代わりの指示を出してはいない、あの『みがわり』は俺とシャワーズの阿吽の呼吸の集大成であるからだ。
「電磁波」
 俺が混乱している間にデンジの指示が飛ぶ。
 ぶぅん、という音が聞こえ、霧の中からシャワーズが飛び出し、それは空中に叩き付けれられた。
 目の前で起こっていることに、理解が追いつかない、何故シャワーズは宙に浮いているのか、原因が分からなければ対策の仕様も無い。
 そして、シャワーズは宙に浮いているのではなく、先ほどサンダースが繰り出した『ひかりのかべ』に電磁波によって押し付けられており、俺とシャワーズはその方向に誘導されていたことを頭が理解したとき、エレキブルは右腕を大きく振り上げていた。
「メガトンパンチ」
 その指示がさらに俺を混乱させる。何故メガトンパンチなのか。この状況なら雷パンチをぶつければ殆ど勝負は決まると言うのに。
 エレキブルは左腕で二本の尻尾をまとめて掴み、体中から電気を発しながら右腕をシャワーズに向かって振り下ろす。雷パンチだ、デンジの命令を無視した。
 ひかりのかべが粉砕する音と、水飛沫、そしてエレキブルの雄たけび――絶叫と言ったほうがいいかもしれないそれ――が響き渡る。黒い霧は晴れつつあった。
メンテ
第二十話 ( No.20 )
日時: 2011/02/03 22:15
名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:iorfcLKU

 エレキブルは消耗していた。足取りはおぼつかなく、息も荒い。
 それほどの攻撃をぶつけた記憶は無い。つまり考えられることは、スタミナ切れ。もしくは、自滅。
 なるほど、そういうことかと思った、そして、俺が考えているとおりだとしたら、なんと悲しいことだろう。
 エレキブルの体からやどりぎが生えたとき、同じように発芽した『タネ』がある。ロズレイドの左腕から放たれた『なやみのタネ』だ。
 なやみのタネは相手の特性を不眠にする効果がある。エレキブルの電気エンジンを封じることで帯電による技の無効化を防ごうとしたのだ。
 だが、エレキブルは突然変異種がゆえに俺が思っている以上に特性に依存していた。自らが放つ電撃に自らの体が耐えることが出来ないのだろう、原動付き自転車にスポーツカーのエンジンを搭載するようなもの。
 今思えばデンジがメガトンパンチのを指示を出したのも、なやみのタネに気づいていたからに違いない。その洞察力、流石は最強のジムリーダーと言ったところか。
 だがエレキブルは勝負を焦り、雷パンチを放ってしまった。
「まだ勝負は付いていない! 油断するな!」
 デンジはまだ周囲を見渡し、エレキブルを鼓舞する。
 エレキブルはかろうじて両足を踏ん張り、小さく唸り声を上げる。敗北を拒否するのは、突然変異種であることのプライドか。
 霧が晴れても、シャワーズの姿は無かった。もちろんだが雷パンチで消滅した訳ではない。
 興奮で体中が暑くなる。俺はトレーナーとして負けた。
 自分が優位であることで図に乗り、対戦相手がデンジと突然変異種であることを忘れていた。追い詰めているように見せかけられ、相手の術中にはまっていた。身代わりを見破られ、光の壁へと誘導されていた。デンジの手のひらで踊っていただけだったのだ。もしエレキブルがデンジの命令どおりにメガトンパンチを放っていたら……
 水飛沫が地面の窪みに溜まる。そしてそれは一気にシャワーズの形を作る。
 『雷パンチ』を受ける直前に『とける』の指示を出していなかったら確実に戦闘不能に追い込まれていただろう。そして、指示を受けるポケモンがシャワーズでなかったとしても恐らくは敗北していたであろう。シャワーズがギリギリまで俺を信じ、独断で動かなかったからこそ、俺の指示が通ったのだ。
「全力だ! ハイドロポンプ!」
 身代わりで体力を使い、とけるで最大限の防御をしたとはいえ弱点である電気属性の攻撃、恐らくこれが最後の攻撃になるであろう、そしてエレキブルの消耗からして相手もそう長くは無い。シャワーズは四足を踏ん張り、最高の状態でハイドロポンプを放とうとする。
「迎撃しろ、破壊光線」
 対するエレキブルもシャワーズに目標を定める。
 先ほどの雷パンチで自らの体に起こっている異常に気づいたのだろう。命令に背かず、口から破壊光線を放った。
 ハイドロポンプと破壊光線が両者の中央でぶつかり合う。だがすぐにエレキブルは体勢を崩し、破壊光線はハイドロポンプに押し切られた。水流がエレキブルを飲み込み、エレキブルの巨体は力なく崩れる。
 ジムの中を静寂が包んだ、だが一人だけ、デンジだけは冷静に、冷静に言葉を放った。
「審判、見れば分かるだろう、戦闘不能だ」
 審判員は自分の役割を思い出したように、びくりと体を痙攣させると、デンジ側の赤旗を揚げた。
 同時に、ジムトレーナーたちから拍手が沸き起こる。そのとき初めて、この戦いが終わった事を実感した。
 観客席に目を向かわせ、チマリの様子を伺う。
 立ち上がり拍手をいるロバートの横で、チマリは真っ直ぐに俺を睨んでいた。


 俺達は競技場の中央に集まり、審判員にそれぞれの手持ちを受け渡した。
 審判員は開始前と同じように ボールに不正が無いことをチェックし、それらを回復装置に持っていくようにとまた別のジムトレーナーにボールを渡した。
「俺が手抜きなどせず、この戦いに本気で望んでいたことはここに居るジムトレーナー達が証明してくれるだろう」
 デンジは開口一番にそう言った。負けたとは思えないほどに満ち足りた表情だった。
「三連戦目であったとか、直前に不自然な試合の取り消しがあったとか、そういう事を言う輩が居るかもしれないが、君がこのジム至上トップクラスの挑戦者であったことはこの俺が保障する」
 そしてジャケットのポケットから小さなバッジを取り出し。
「とても、良い、勝負だった。このバッジは君に相応しい。受け取ってくれ」
 ビーコンバッジ。八年もの間、どんなトレーナーでももぎ取る事が出来なかったそれは少し埃かぶっているような気がした。
 理屈や信念で何を思っていようと、バッジを貰った時は嬉しい。
 だが同時に、悔いることもあった。
「もし、あなたのエレキブルがあの時指示に背かなければ、俺は負けていたでしょう。トレーナーとして、俺はまだあなたには及ばない」
 エレキブルがデンジの『メガトンパンチ』の指示を無視し『雷パンチ』を放った、結果として発電に僅かではあるが時間を消費しために『とける』の指示が通った。そして、発電によって体力を殆ど奪われた。
「リスクを背負って、彼をアンカーに据えたんだ。彼を攻める気にはならない。それに、あの状況は、百人のトレーナーが百人『雷パンチ』の指示を出すだろう。なやみのタネの有無に関わらずにね」
「何故なやみのタネに気づいたのですか?」
「エレキブルが電気ショックを放ったとき微かに違和感があった、彼は気づいていなかったようだがね」
 確かに、エレキブルが電気ショックを放ってからは電磁波しか電気技の指示を出していない。
 自分に重ねて考えてみる、俺は、シャワーズの些細な行動に気づけるだろうか? 負けてもなお、デンジというトレーナーは凄みを見せる。
「これで、良かったのだろうか」
 デンジが、軽く顔を伏せているのに気づき、失礼だが笑いが漏れた。戦いが終われば、またすぐに愛弟子のことを気にしている。顔を上げないのはチマリと目を合わせたくないからだろう。
「後は、彼女しだいですよ」
 もう一度、チマリのほうを見る。
 先ほどと同じく、俺を真っ直ぐに睨んでいる。デンジへの同情も、失望も無ければ。俺に対する憎しみも、怒りも無い。ただただ、トレーナーとして、戦いを求めるトレーナーとして俺を睨んでいた。
 僅かではあるが背筋が震える。それと同時に、自らのトレーナーとしての本能的な部分がチマリを一つの壁として認識していることに気づいた。
「まぁ、大丈夫そうですけどね」
メンテ
第二十一話 ( No.21 )
日時: 2011/02/04 22:19
名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:B6jioj.g

 規則的に鳴り響くポケギアの音で目が覚めた。体を起こし、背筋を伸ばす。
 ポケギアで今の時刻を確認する、昼前。昨夜は戦いのレポートを書き終えた後何時もより早くにベッドに入ったはずなんだけれども、やっぱり大一番の後は何時もより疲れる。
「さて、と」
 シーツを折りたたみ、扉のそばにおいてある網籠の中に放る。結局俺が居る間にこの仮眠室を利用したのは俺だけだった。
 別のベッドの上に散乱している私物を全て鞄に押し込み、寝床にしていたベッドと共に整える。
 そして、今日やるべきことを考える。
 顔を洗い、歯を磨こう。そして仮眠室を掃除して、身支度を整えて、センターの職員たちに軽く挨拶をした後。
 この町を出よう。



「キリト、ここは危険だから関係者以外立ち入り禁止だ」
 何時も本を読んでいた海岸。
 海を渡るためにボールからポケモンを繰り出そうとしたとき、背後から急に声をかけられ、振り返るとデンジが微笑みを浮かべながら、
「ま、別にいいけど。それよりも、何の挨拶も無かったほうが問題だな」
「す、すみません。何だかこう、恥ずかしくて」
 俺は、気持ちの切り替えがヘタだ。昨日、あれ程の激闘を演じた相手と翌日普通に話すことが出来るだろうか。
 それに、必然的に顔を合わせる事になるであろうチマリとどう接していいのかわからなかった。
「どうしてここが?」
「君がセンターからチェックアウトしたら俺に連絡をまわすように職員に言っておいたのさ。そして、更なる高みに行こうとすれば出口はここしかない」
 更なる高み、シンオウ地方四天王の事だろう。
 だが、今のところ俺にその予定は無い。昨日の戦いで、俺の中のエネルギーと言うか、そういうものが全て持っていかれてしまった。当分、戦いを望む事はないだろう。
「あなたの悪友とやらには会ってみたいですね」
 デンジの苦笑。
「ロバートさんとチマリちゃんは?」
「ロバートさんはジムでトレーナーと手を合わせているよ。時間が許す限りこのジムで鍛錬するそうだ。それに、実力でもぎ取るとさ」
 ジャケットをチラッとめくり、裏側にあるバッジを俺に見せた。
「近づいたら、殺されそうだよ」
 宿であった時に感じたロバートのギラギラとした若々しさ。紳士を装ってはいるが基本的に負けず嫌いなのだろう。
「チマリは……まだ、どう接していいのかわからない。もし君に会いたいのであれば、悪いことをしたのかもしれない」
 そんなに気にするようなことでもないのに、と思う。
 あの時チマリが俺に見せた表情は、完全に独立した、一人のトレーナーとしての顔。
 だがデンジが危惧しているのはそんなことではなく。これまでの関係が崩れてしまうこと。これまでの兄と妹、もしくは父と娘のような関係が崩れているのかもしれないと不安なのだろう。
 どちらが子供なのか、分からなくなる。
「デンジさん!」
 デンジの背後から、デンジを呼ぶ声。
 視線をそのほうに向けると、チマリと彼女の手持ちであるピカチュウがこちらに向かって走ってくる。
「デンジさん、急に居なくならないで。あなたが居ないと私の練習が進まないんだから!」
「あ、あぁ。すまない」
 何時もと変わらないように――少し気さくかもしれない――デンジに話しかけるチマリに対してデンジはまだチマリの様子を伺っている。だが、デンジの表情に少しばかりの安堵が浮かんだ。
 チマリはデンジの腕を引くと、俺のほうに顔を向け、
「あんた、帰るの?」
「あぁ、もうすることが無いからな」
「あ、そう」
 また何時ものように二言三言小言を言われるかと身構えたが、彼女の口から出たのはたったそれだけ。
 だが、すぐに彼女の目つきが変わり、
「今の私じゃあんたにもデンジさんにも勝つことは出来ない。だけどいつか、いつか力をつけて、デンジさんにもあなたにも勝つ。だからそれまで、私がまたあんたと戦うまで衰えないで、私は絶対あんたに勝つわ!」
 それだけ言って「行きましょうデンジさん」とデンジの両腕をピカチュウと共に引っ張り海岸から消えた。
 デンジは去り際に「機会があったらまた手合わせしよう、次は負けない」と言い残した。
 彼の目は薄っすらと光を反射していた。
 彼らの姿が完全に見えなくなって、先ほどまで三人の人間が居た海岸にあっという間に一人残される。
 寄せては返す波の音だけが俺の耳に届く。
「なんと言うか……我が侭なお姫様だねぇ」
 戦いというものは怖い。
 昨日まではただの少女であったトレーナーを、一晩でここまで、具体的にはジムリーダーと同じような空気、威圧感を醸し出すまでにさせてしまうのだ。
 彼女が再び俺に戦いを挑むのにどれだけかかるだろう。十年、五年……いや、真面目にやれば三年もあれば十分。
 もはやデンジさえも彼女の壁ではない。少なくとも、彼女はもうデンジに勝てないなどとは思っていないはずだ。
 自然と気持ちが高ぶり、口角が釣り上がる。
「心配事が増えたなぁ」
 ボールを海に向かって放り投げる。ややサイズが大きめのマンタインが現れた。シャワーズでは小さすぎる。
 ここら辺は野生のマンタインも多く生息する、こいつにとっても泳ぎやすい海だろう。
 浅瀬に浮かぶマンタインに飛び乗り、行き先を伝えた。
「行こう、だれでもいいから強い奴の居るところに」





メンテ
短いながら感想を。 ( No.22 )
日時: 2011/02/15 21:28
名前: レイコ ID:APj77r3A

こんにちは、スレッドでは初めまして。
完結おめでとうございます。そしてお疲れ様でした。

ポケモンバトルのおもしろさ、奥深さを改めて感じさせてくれる作品でした。
自分はしがないプレイヤーなのでデンジさんのいる高見とは程遠い存在です。
またチマリのように誰の強さに憧れているということもありません。キリトのように強さを追い求めているのとも少し違う気がします。
しかし負ける悔しさがあるからこそ勝つ喜びがあるという部分は共通しているのではないでしょうか。
負けっ放しでも勝ちっ放しでも物足りない。その狭間で藻掻く瞬間瞬間こそがバトルの醍醐味だと思っています。
本作で繰り広げられた熱い闘いを見ていると自分も闘争心を掻き立てられるようでした。
チャットの常連さんにお願いして鍛えて貰うのも良いなと思いました。

それでは。次回作も楽しみにしております。
メンテ
感想返し ( No.23 )
日時: 2011/02/17 00:50
名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:u8YXgOJo

始めましてレイコさん。
ポケモンバトルを書くのは凄く頭を使いました。ゲームの中では淡々と起こる技の応酬の描写が難しいのもありますし、ゲームの中での効果を如何に現実的に表すかなどが難しかったです。
しかし、考えている間は面白かったので皆さんもやってみればいいと思います。
今回の作品は大げさではなく、三行ごとに誰かに見てもらっていました。チャットの常連さんの協力のおかげで何とか書き上げたと思っています。

余談ですが、感想ってもらえるとめちゃくちゃうれしいですね。

それでは
メンテ
番外編 ( No.24 )
日時: 2011/03/24 20:05
名前: 来来坊(風) ID:.2AuWWoc

番外編『老兵、かく語りき』


 ジムリーダーデンジのあの戦いから半年と少し、私はまだナギサシティの旅館を寝床にしていた。
 あの日、私はデンジに惨敗し、観客席から彼らの試合を傍観していた。
 そこで私は確信した、自分はまだあのレベルではないと。それと同時に、トレーナーである以上、あのレベルに近づきたかった。
 不甲斐無き自分を恥じ、私は時間の許す限りナギサジムで鍛錬を積むことにした。
 ナギサジムのリーダーを含む若く才能のあるトレーナー達との鍛錬は自らのレベルを上げる貴重な経験であった。
 

 どこか遠くで、さざ波の音が聞こえ、野生のペラップ達が心地よくさえずる音が聞こえて私は目覚めた。
 半年と少しの間に冬が通り過ぎ、最近は過ごしやすい。
 相変わらず旅館の風通しは良いし、相変わらず日当たりも良い、何時もと同じ朝だった。
 だが、私は今日と言う日を大事にしなければならない、否、大事にしたい。この何時もと同じ朝を味わえるのは恐らく今日が最後になるだろう。
 昨晩、故郷から手紙が届いた。内容は簡単に言えば『誤魔化しきれなくなったので帰って来い』と言う物、仕方ないと思う、そもそも一ヶ月の予定を半年と少しまで引き伸ばしていたのだ。上手く誤魔化していた息子に感謝を述べたい。
 旅館の朝食を腹に収めた後お気に入りのスーツに袖を通して、世話になった皆に最後の挨拶をするためにジムへと向かった。


 珍しい事に練習場にデンジ君は居なかった、聞けば応接室に居るらしい。てっきりジムの改造にいそしんでいる物かと思ったが不思議な日もあるものだ。そもそも、応接室は何処だっただろう。
 記憶をたどりながら何とか応接室にたどり着きドアをノックする。「どうぞ」とデンジ君の声が聞こえたのでドアを開けた。
「あ」
 よく効きなれた女の子の声が聞こえた。
 応接室の中にはデンジ君とチマリ君が机をはさんで向き合うように座っていた。机の上には何らかのポスターと何枚かの書類がある、一瞬だけ婚約届けが頭に浮かんだが馬鹿な考えと頭を振った。
 恐らく、何らかの事で話し合っていたのだろう。迂闊だった、そうと知っていたらずけずけと入る事はなかった。
「失礼」
 挨拶なんて今日中にすれば良い、別に急いでいる訳ではないのだから。そう思い、ドアを閉めようとした。
「あ、大丈夫です、大丈夫ですよ」
 デンジ君が慌ててそれを制す。
「ちょうど、あなたの意見が聞きたかったところだ」
 立ち上がり、チマリ君の横の椅子に座るよう求める。私は彼の好意に甘え、其処に座る。チマリ君はその間何も喋らなかった、俯いて何かを考えていた。
 机の上のポスターに目を向ける、それはイッシュ地方で何年かに一度開かれ、次は来年の今頃に開催される大きなポケモンバトル大会の物だった。
「ロバートさん」
 デンジ君が声を上げたので、私はその横にある書類に目を向ける前にデンジ君のほうを見た。
「貴方はイッシュの生まれだと聞きました。このリーグについてどう思われますか?」
 そう言ってポスターを私の目の前へと移動させる。もう一度良く確認するがそれは確かに私の知っているあの大会の物であった。私が子供のころから存在しているし、スポンサーもしっかりしている。
「イッシュでは最も権威のある大会のうちの一つです。伝統もある、出場者に対する規定も厳しい、不正に対する罰則も厳しいですしチェックも堅い。そして、当然のようにレベルが高いです」
 横でチマリ君が小さく声を漏らした。
「妙な噂は聞いていますか?」
 不安そうな表情でデンジ君が返した。チマリ君の様子もおかしい。
「この大会の歴史は古いが、そんな話は聞いた事がない。第一、イッシュのポケモン協会が絶対に許さないはずです。其れほどこの大会の価値は高い」
 デンジ君が安堵の表情を浮かべる。
「実は、昨日推薦状が届いたのです」
 推薦状と聞いて、思わずデンジ君の顔を二度見てしてしまった、確かにジムリーダー等が推薦選手として出場する事は良くある事だった。私が婚姻届けだと思ったのはどうやら推薦に関する書類らしい。
「ははぁ、なるほど。確かに大会ごとに何人かの推薦選手が出場する事もあります、他の地方のジムリーダーが出場した事もありますから貴方が選ばれても不思議ではない。非常に光栄な事だと思いますよ」
 デンジ君の戦いと、イッシュの著名なトレーナーを重ね合わせる。
「いや、それが」
 デンジ君は机の上の書類の下に敷かれていたこれらが入っていたであろう大き目の封筒を取り出し、私に手渡した。
「推薦されたのは、私ではありません」
 それの宛名の部分を見て、私は自らの体が熱く、熱くなって行くのを感じた。
 恐らくこれは、あるトレーナーの歴史の始まり。そして、私の予測と勘が正しければ衝撃的な一ページになるだろう。別にそれ自体はそこまで仰々しい事ではないではない、そういうことはポケモンバトルと言う興行がある限り定期的に起こりうる。
 だが、恐らくこれから巻き起こるであろう事がどのような結末を迎えようと、否どのような結末を迎えるのか想像するだけで、私の血がより早く、より早く循環する。
 宛名には、チマリ君の名前があった。
「なるほど」
 私がこれまで見てきたチマリ君の戦いを思い出す。確かに、あの大会に相応しい。大会委員もいい目の付け所をしていると思う。
「素晴らしい瞬間に立ち会えたようですな」
 当事者ではないのに微笑んでしまう。デンジ君とチマリ君も信用ある大会と分かって一安心だろう。
 だが、デンジ君のほうはまださえない顔をしている。徐に顔を上げると、先ほどから黙っているチマリ君に言った。
「チマリ、ロバートさんの言うようにこの大会は信用のあるものだ。お前の実力なら良い所までいけると思うし、俺も出来る限りサポートする」
 デンジ君の発言から察するに、何時ものチマリ君からは想像できないが、彼女はまだ出場するかどうか決めかねているのだろう。
 デンジ君はチマリ君の反応を待っていたし、チマリ君は先ほどから喋らない、私は口を挟む権利が無いように思えて黙っていた。少しの間、皆が黙った。
「出場した方が良いのは分かってる」
 小さな声で、チマリ君が言った。私もデンジ君もそちらに顔を向ける。
「勝つ自信だってある。だけど」
 チマリ君がまた口をつむぐ。
 私にはその理由に心当たりがあった。否、恐らくこの場に居る全員が分かっている。だが、誰も口に出す事は出来ない、チマリ君はトレーナーとしてのプライドから、デンジ君はチマリ君を愛するが故に。
 この場を変えることができるのは恐らく私だけだ、そして私はこの場を変え、話を次の段階に進める義務があるのだと思う。私がこの場にいるということはそういうことなのだろう。
「イッシュは、遠いかね?」
 場の空気が変わる。
 恐らく図星だろう、デンジ君もそれが分かっているようで、一度目線を落とした後再び顔を上げた。
 チマリ君は膝の上に乗せた両の拳をぐっと握り、
「遠いし、怖い」
 彼女の声は、僅かに震えていた。
 彼女は自他共に認める素晴らしいトレーナである、故にこのチャンスを逃す自分が許せない。声の震えは自らへの軽蔑からだろう、短いその言葉を引き出すまでにどれほどの葛藤があったのか。
 だが、同時に彼女はか弱いアーリーティーンでもあるのだ。
「イッシュに行った事はあるかね?」
 チマリ君が首を横に振る。
「シンオウから出た事も無いのに、イッシュなんて」
「見知らぬ土地に不安を覚えるのは、恥じることではないよ。それは、トレーナーの強さとはまた別の問題だからね」
 デンジ君が、私と目を合わせる。
 少し、嘘を言った。
 人間的な精神力も十分トレーナーの強さとして数えられるだろう。だが、それは興行にでるような精神的に成熟したはずのオトナに対して求められる物だ。彼女のような若者がプレッシャーに押しつぶされる事もある。ただし、それを乗り越えて初めて一人前のトレーナーと言われるのかもしれないが。
「私は、今日でイッシュに戻らなければならない」
 話題を変え、本来伝えに来た事を彼らに言う。
 チマリ君は少し驚いたようで「え」と声を出し、こちらを見た。
 デンジ君が何か言おうと口を動かしたが、右手で其れを制した。何時もの癖が出て、少し高圧的だったかもしれない。
「もちろん、私はこの大会を観戦する。それも生でだ」
 ポスターを指でトンと叩く。
「チマリ君、耄碌爺の独り言だと思って聞いてもらいたいが。私の中で君の記憶が薄れる前に、私はもう一度君の戦いを見たい」
 それは本心だ。
「イッシュでの滞在期間のことは私が保証する。どんな要求でも答えよう」
 私は自由に家計を動かせる立場には無い人間ではあるが、そのくらいの事は出来る、否、やらなければならない。もちろん彼女の戦いを見たいと言う自分のエゴのためにだ。
「時間は、まだ一年もある。ゆっくりと考えて結論を出すと良い」
 立ち上がり、帽子をかぶって、デンジ君に感謝の言葉を述べた。社交的に間違った事は言っていないはずなのだが不思議と何を言ったかはあまり記憶に残らなかった。
「それでは、失礼するよ」
「あ、ロバートさん。送ります」
 ドアを開ける手をデンジ君が制して言った。
「私も」
 チマリ君も跳ねるように立ち上がった。
「いや、遠慮しておく、見送りと言うのは何処で止めれば良いのかややこしい。こちらも、いつまでも振り返って手を振らなければならないしね。この部屋までで十分だよ」
 本来なら、見送ってもらいたいものだし、今日はゆっくりとする筈だった。
 だが、チマリ君がデンジ君に相談する時間を一秒でも長く残したかった。私のこういう辺に頑固なところは本当に幼いと思う。まぁこの幼さのおかげで得をした事もあるが。
「あぁ、そうだ」
 ドアを閉める直前、私はチマリ君とデンジ君両方に向け発破をかける。
「この大会が開かれる時期に他の大きい大会は無いから、もしかしたら。彼、も顔を見せるかもしれないな」
 二人とも、同じ男を想像しただろう。
 ドアが閉まる直前に見た、彼らの顔と言ったら。




 エレベーターで最上階まで上がり、敷き詰められた絨毯に足を踏み入れる。足の裏が沈むような柔らかさは苦手だ。だが、一般とは違う内装にしなければ威厳と言う物が出ないらしい。
 広く取られた廊下の先にある扉の内、一番重厚な扉をノックする。
 どうぞ、と言う声が聞こえる前に扉を開く、中に居る人物に気遣いなど必要ない。
「父さん」
 無駄に大きい椅子から立ち上がった中年の男、私の息子、ビンスだ。
「久しぶりだな」
「父さん、貴方はこの会社の相談役なんだ。いくら現地調査と言う建前があろうとも、帰ってきてもらわないと困るんだよ」
 ビンスは言い聞かせるように私に言ったが、その言葉に威厳は無かった。あくまで私の機嫌を損なうまいとしている。
 息子は不安なのだ。私が彼の前に居ない事が。精神的な支柱として私が必要なのだろう、妻が先立ってからはその姿勢が顕著だ。どんな形であれ会社の社長なのだからもう少し自立して欲しい物だ。そもそも、この会社をここまで大きくしたのは私ではなく、ビンスだ。
「次から、気をつけるさ。そんな事よりも、イッシュ大会の事のスポンサー推薦枠のことなんだが」 
 イッシュでも最大規模のイベントに我々の会社もスポンサーとして何年も貢献してきた。ある一定の貢献をしているスポンサーの権利として選手を推薦する事が出来る。ビンスもその権利を有しているようだが、彼はバトルに興味が無いので毎回枠を余らせていた。
「ある男を推薦したい。まだ交渉もしていないし、所在もつかめていないが、必ず探し出す」
 自分の言ったことには、責任を持つ。
 もちろん、彼らとイッシュの猛者のマッチアップが見たいのもあるがね。
メンテ
番外編の感想をば。 ( No.25 )
日時: 2011/03/23 02:26
名前: 乃響じゅん ID:quEFBwEI

番外編!
こういう主人公のいない後日談って結構好きなんですよ〜。

スポンサーもしっかりしている、の伏線が素晴らしいです。
全然気付きませんでした。してやられた感じです。

再戦を取りはからおうとするロバートさんカッコイイですね。何と言う胸熱展開。
そんなアツさをしっかり魅せてくれたのは風さんのなせるワザですね。素晴らしいッ!

私も事前に読ませて頂いた一人ですが、「この作品をより完成度の高いものにする」という気概に満ちていたように思います。
あっぱれ!

最近知ったのですが、チマリって実際にいるキャラクターなんですね。
てっきりオリジナルかと思ってましたw

それでは、また。
メンテ
誤字発見 ( No.26 )
日時: 2011/03/23 04:21
名前: ジャック◆YLWidO8ODg ID:BwP8XN0A

誤字を見付けたので取り合えず報告です。

記事No.11
×トレーなど牛の対戦において
○トレーナー同士の対戦に於いて
メンテ
感想返し ( No.27 )
日時: 2011/03/23 19:58
名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:l3nBrnbY


>>乃響じゅんさん

感想、ありがとうございます。
ロバートはかなり好きなキャラで、いつか生かしていたいと思っていました。
最後のほうの設定などはあまりにも厨過ぎて自分でも書くのを躊躇しましたが結果的に書いちゃいました。

じゅんさんには本当に完成前にお世話になりました。本当にありがとうございます。

ゲームで幼女が居たのは覚えていたのですが、デンチマというジャンルをみたときには感動しました。一番初めに考えた奴は天才。


>>ジャックさん

把握、修正しました。
メンテ
感想と何か ( No.28 )
日時: 2011/03/28 20:01
名前: いんろう ID:uPdqhlfU

こんにちは。読んでいて素晴らしいアイディアがたくさんありとても面白く感動的な話でした。下にいろいろ書いてますがそれを気にさせない程のパワーがこの作品にはあり、そういう力をもった作品がいわゆる名作と思っているので、気にしないでください。うざったいとおもうので頼まれればいつでも消しますw


◆編集できそうなとこ。風さん以外読むの禁止

まずキャラのモチベーションを支える要素ともう一つの可能性について
突拍子もない話、この作品にはデンジさんをいじるだけで発生する別ルートがあることに気づいた。最初の方でチマリをかばう様な発言があったけど、この発言はチマリのためではなく、バトルの意味もトレーナーとしてのプライドのぶつかり合いとしてのバトルだということも肩入れを後悔したことや態度から伝わってくる。だけど、この一見複雑な感情の入れ込みを利用して実はクールな彼にもチマリを意識させながらトレーナーとしてデンジとプライドのぶつかり合いバトルをさせるルートも存在したなということ。とてもベタな話なんだけど、もしやろうとするなら最初にデンジさんを泣いて謝罪させるのではなく冷たい反応をさせること。これは彼にとっては勿論嘘の態度なんだけど、これによってバトル中も主人公にデンジゆるせない!という感情をより強力に意識させることができるし終盤最後の最後で仲直りし彼の人為的なものではなく裏側にあるような全然違った弱さや優しさを見せる感動シーンまで作れ、更にチマリとのフラグなんてものまで簡単に立てられてしまうので幅広い分野でよく使われるパターンでもある。もちろんバトルそのもののクオリティーはそのまま。純粋なトレーナー同士としてのバトルがひとつのテーマではあるし、もちろん今回のバトルに特別なドラマが必要だったかというとそれは計り知れないのだけど、ドラマとしてのバトルもわりと簡単にできたしそっちを望む人もきっと多いよという話です。キリトはどちらかというと義理より純粋な強さが似合うキャラなのだろうけど、そういったある種の極端な一途さをもった人物を、対比させる人物なしで一人称の作品の主人公にもってくるスタイル。つまり特別な感情を描くことなくずっと強さばかりにこだわらせるのは読者にとって抵抗感を生まれさせるリスクが実はあるから、それを解消するための方法もあって、キリトに近い位置にいる第三者の視点で書くような手法がとられるか(これは今回は無理)、トレーナーの世界の外にいる人間をどこかに置いてキリトと絡ませる(ロバートにそう言う側面はあったので何かしらの形で役割を持たせることはできたと思う)、もしくは彼の違った一面、つまりバランスをとるセリフやエピソードをどこかにひとつはさむ必要があったかも。

・バトルの話
チマリとのバトルの最後では、実際に本当にとどめを刺せるぞ、という表現を加えるとより迫力が出るかと思います。迫力だけでなく後の文を削れるし伝わりやすくもあるから。何故終了したのか疑問をもたせて後から解説することでレベルが高いことを表現する手段っていうはたぶん小説独特のものだろうなという感じはあって、とどめという意味ではあの場所は一番盛り上がるところでもあり少し珍しい演出のように思えた。個人的には好きだったけど。もしやるなら第三者を配置して「なぜやめたんだ?」とつっこませると読者からはわかりやすいとおもいます。
エレキブルが出た直後、演出も凝っていてなかなかよかったのだけど、手負いのブラッキーを放電で倒すのは具体例としての強さの強調にはちょっと弱いように感じたかも。マスターボールの印象約束やデンジの話で強いという設定は勿論伝わったのだけど実際に本当に強いというシーンをどこかで書いたほうが効果的。ひとつ例あげるとすると、特別じゃなくても倒せそうな傷ついたブラッキーを放電で倒すのではなく、帯電電気エンジンを利用してとっておきの必殺攻撃をへっちゃら顔で受け続けることで可能だったのではと思う。ありがちなシーンに思うかもしれないけど、攻撃が全く効かない事実をこの時点ではっきり示すこともできるから余分な場面が削れ全体のテンポが一気に良くなる。
そして、このバトルの最大の見どころである、主人公の狙いによりできた僅かな隙がテーマにからむ演出、具体的にいえば最後の命令違反による雷パンチが絆の話につながるところ、タネマシンガンでやどりぎを撒いたと思ったら、なやみの種までこっそりまき、それによって電気エンジンを封じさせ、自身の電気に一瞬怯むという弱点を利用する(ここらへんの設定は出たのが急すぎて工夫しないとよくない意味での意外性に働く可能性が)、更に「水には電気だろう」というポケモンにもわかる心理と絆・信頼関係を絡ませる。そして信頼関係の部分にはロバートのセリフ以外にも、”デンジの説明過多な火炎放射”の部分からシャワーズの無指令の溶けるとの対比として伏線まで張ってあって、あそこはホントにものすごくよく出来てると感心しました。ただ、デンジを倒すにはその部分だけスマートにもってきて表せば十分すぎると思うので他はざっくり切ってしまってもいいかもと思う気が。テンポ良くするために、光の壁とかを出して用が済んだら即勝負がつくぐらいのスピード感があればもっとコンパクトになると思います。またエレキブルの良くないと思った点、具体的にいえばメガトンパンチ絡みで、電気エンジンに気づくまでの過程とかタネマシンガン、やどりぎ、水鉄砲、なやみの種、あとトドメのハイドロポンプ、破壊光線などはしょうがないのだけどそれ以外のところは読者が「エレキブルの戦闘能力そのもの」を疑ってしまう様な要素を含んでいる気も、つまり信頼関係とバトルに不慣れであることが原因となる攻撃や防御のミス以外は彼の強さをはっきりと強調したほうがいい。そういう意味で火炎放射の場面は届かなかった当たらなかった、だけじゃなくもっと実際はリーチがあって緊迫感を意識した演出なんかはできただろうし、静電気のような電気で軽く倒せるという演出をやっておきながら中盤なのにギガインパクトという多技でとどめを刺したりやどりぎを解くのに「最大出力の放電」というフレーズもピークでないのに表現が極端で使うのは非常にもったいない。

・演出の話
もったいないという意味では、さらっと凄いことやってるのに演出的にはテンション一定でスルーというのもおしい
たとえば技を電気タイプに変えるという設定は、あれはギャラリーに気づかせてあげて驚かせてもいいかも。発想は非常におもしろいのだけどエレキブルが倒れない秘密だったというとんでもない設定なだけにその事実に気づきやすくするための、演出の起伏はあってもいいかもです。
電磁波を使い光の壁へ押しつけられパンチをくらうという場面、そしてハイドロポンプと破壊光線の場面も盛り上がるはずの場所なのにちょっと演出に欠け気味。そこで一本取られたと思うならそういう言い回しは工夫し強調するところ。エレキブルの絶叫ではなく対峙しているキリト自身のやデンジに何らかの変化があるはず。意味不明なこと叫んでもいいしクサイ言葉でもクドい言葉でも冷汗ダラダラかくだけでもいい、声もでないほどのショックならそれでもいいのだけど、キリトの心情を表すのは「目の前で起こっていることに、理解が追いつかない」くらいであとはほとんどがバトルの説明ばかりでそういうことはあまり掘り下げて書かれていなかったのがちょっと残念。バトルがひっくり返り状況が変わった瞬間、そして決着がつく瞬間。つまりせっかくの見せ場なのに読者はそのことに気づかないまま読んでいく可能性を高める原因になってしまう。非常に素晴らしいバトル内容も感情の起伏がないため読み疲れられ、面白くないの一言で終わる。ひねったやり方じゃなくても簡単に演出すれば作品そのものが化けるチャンスなのにとてももったいないです。ニヒルなキリト自身じゃなくても他のキャラにだってできるしセリフ回し以外でもいくらでもキャラやバトルのテンポを崩さずにできるはず。クールなキャラはかっこいいですが無反応なキャラはいくら強くてもちょっと不自然で逆にリアルさを失うのではないでしょうか。主人公なら尚更です。

・台詞の話
セリフでは、説得力を失っているセリフもいくつかありました。たとえばロバートの「信頼関係だよ」のセリフ、確かに具体例をあげてはいるがロバート自体キリトとレベルが明らかに違うのでいくら経験のある彼が本質的なことを急に語り出しても違和感がある。本来、核心に近いキャラに言わせるべきなのだけどこのメンツの場合バトルの伏線を張りつつ、回想の中でジムリーダーに言わせるという手法が一般的。これはこの作品で多用されてる、読者を出しぬく伏線という使い方ではなく気づかせるための伏線の使い方をするともっとわかりやすく良くなります。少々強引な設定も多いので軽い前置きの解説を含めてここで回想を交えるのもいいと思います。
そして一番致命的な問題じゃないかと思えるのがデンジさんのセリフ。セリフだけでなく態度も底を見せすぎて貫禄が失われてしまう。強いはずのキャラが何度も底を見せるっていうのはひょっとしてキリトを引き立たせたかったのでしょうか。涙を見せる場面は不器用で優しいということから理解出来ますが、自分で自分を最強だとか強いというのは、ちょっとカッコわるい・・。それも何度も繰り返し言っちゃってる。これをやるのは憎い敵キャラを演出するときか、かませキャラか、成長の途中で天狗になった主人公キャラ。これらのキャラ相手にボコボコにすることはあっても正々堂々とフルバトルするって作品は見たこと無いので、やるからには強いと言わずに本当に強いと思わせる表現や演出、展開をバトル以外でもいくつか組み込む必要があったと思います。そう言う意味ではチマリとのバトルのレベルがすごく高く、期待させるというというのも強さを想像させるのに十分な演出の一つではあったので好きでした。

以上です。キャラの配置や構成、オリジナリティの分野についてはまだ勉強不足なので今のところ言うことはありません・・。来来坊さんの次の作品をとても楽しみに待っています
メンテ
レス返し&あとがき ( No.29 )
日時: 2011/03/28 23:45
名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:AbtWRGk.

今回の感想返しは後書きと並行しようと思います。後書きもかねていますので本文を読んでいない方にはわかりにくいかと思います。

>>いんろうさん

・もうひとつの可能性について

デンジとの兼ね合いのとき「うそをうそで塗り固めるテクニックが無い」という言葉でデンジの性格を表現しました。これは自分がデンジに対して「遊び相手がいなかった天才児」という印象を持っているからです。確かにあなたが言うようにデンジが謝罪せずに冷たい反応をするというのもお話としてはありだったかもしれません、だけれども自分の中でデンジと言うキャラはそういう事ができる人間ではありませんでした。

また、キリトとデンジの間に「許せない」のような感情は似合わないと思います。自分の世界ではですけど。

バトル後の感動シーンも必要ないと判断しました。そもそもこの作品は「デンジとチマリの成長」と言うものを書きたくて書いた作品です。プロットの段階ではバトルはありませんでした。ただ、バトルを書いたほうがバトル後のチマリの人間的な成長がよりわかりやすくかけると思ったので書きました。

自分と、読者の皆様の間でもしかしたらずれがあったかもしれませんが。この話の軸はチマリです。いんろうさんが言うように「キリトに近い位置にいる第三者の視点で書くような手法がとられる」と言うのを自分はチマリに対するキリトでやったつもりでいました。ただ、バトルを無駄に凝ってしまったために前半のチマリのくだりが薄まってしまった点については今後の課題です。


・バトルの話について

『チマリとのバトルの最後では、実際に本当にとどめを刺せるぞ、という表現』とあります。ある程度上級のトレーナーになればある程度先は読めるのではないか? と言うのが自分のバトルにおける考察です。きあいパンチをスカらせた後にバックを取っただけで格の違いを表す表現は十分にできたと自分は思う、ただ、読者を置いてけぼりにしていたかもしれないけれど。

『手負いのブラッキーを放電で倒すのは具体例としての強さの強調にはちょっと弱いように感じたかも』とありますが、これに関しては全くその通りだと思います、ここら辺は完全に練り不足、今思えばロズレイドを倒すときにギガインパクトではなくてもよかったかも。突然変異主のエレキブルという設定を生かしきれなかった、もっと、もっと化け物っぽくしても問題は無かった。

表現が極端、と言うのも全くその通り。バトルに関しては痛いところを突かれまくってる。

後個人的にくいが残っていることは、あまりにもブラッキーが無双だったこと。急造で拵えたとはいえバトルのバランスがおかしい。

あと、ロバートとキリトのバトルも本来ならやる予定は無かった。だけど「チマリが如何に才能あふれているか」を表現するために書きました。ピカチュウより格段に早いテッカニンでも普通の人が使ってるとキリトのサンダースに技ぶつけられるよって意味で。


・演出について

ここに関して自分といんろうさんには決定的な溝があると思います。
もちろん、どっちが良いとか悪いとかと言う話にはなりません、どちらも正解かもしれないし、どちらも不正解かもしれない。
自分は、バトルで演出はあまり必要ないと思います、もちろん今回のような戦っている人間から見た一人称の場合です。
戦っている人間は、その場所以外に目なんていかないし、喋らないし、わけのわからない言い回しを思ったりもしないと思うんです。ただ、三人称視点や、傍観者側の一人称なら別だと思います。ただ、自分はそれらが苦手なんです、気取った台詞を考えるのも、二重三重に比喩を折り重ねたり、わけのわからないところで文章を切ったりするのが。

エレキブルの帯電電気エンジンについてですが、これが第三者にばれると言うのは絶対にありえないと思うんです、なんてたって常識じゃないんだから。でも「なぜ倒れないんだ!」的なことをロバートに言わせたほうがよかったなと後悔しています。

電磁波光の壁はおそらく自分がこのバトルにおいてもっとも自信を持ってリリースした戦術です、イーブイ進化でも帯電電気エンジンでもありません。デンジのサンダースが光の壁を出したとき「あぁ、この壁は終盤にまた利用されるな」と思った人は少ないと思います、帯電電気エンジンを見破ったキリトも思っていない設定でした。だからそれまでバトル中は感情を表さなかったのに、あのときに限って「目の前で起こっていることに、理解が追いつかない」と言ってしまったのです。ま、言わせたんですけど。

エレキブルが命令を無視して雷パンチを打つとき、確かにデンジの反応はあってもよかったかもしれない、だけど、やっぱり当事者はそっちを見ていないと思うんです。

あと、自分は『バトル』→『回想』と言うのはどうにも好かんのです。

・台詞について

キリトとロバートはもちろんレベルが違っているけど、彼にあるのは「年齢」と言う武器だと思うんですよ。むしろ、あの時、あの場所で「信頼関係だよ」などとこっぱずかしいことを言っても違和感が無いのはロバートだけだったと思っています。むしろそれを言わせるためだけにロバートを年増キャラにしたといっても過言ではないと思っています。比較的若い三人を差し置いて年食ってるロバートは本質を見抜いていたと言う。

自分は「読者に気づかせるための伏線」よりも「読者を出し抜く伏線」の方が圧倒的に好きなんです、むしろ全部読んだ後に「ん? もしかしてあれは!?」と、もう一度読んでほしいほどなんです。ここは、譲れないんです、伏線に関しては自分は読者と化かし合いをしていると思っています。電磁波光の壁なんてその典型なんですよ。
 でも、頑固にならず「読者に気づかせるための伏線」を使ったほうがいい場面もあると思いますし、うまく使えるとまだまだ幅が広がると思います。

・デンジの台詞や性格等のキャラ付けについて

もう一度言いますが、自分の中でデンジは「遊び相手のいなかった天才児」なんです、だからバトルにおける強さと人間的、精神的な強さは決して比例しないと思うんです。だからチマリに対してどう接して良いのかよくわかっていない、そしてチマリも精神的に不安定な時期。そこを書きたかった。

何度も繰り返しデンジの底を見せたのは『ジムリーダー』としてではなく人間としてのデンジの弱さを書きたかったから、もちろん、アニメとか漫画とかゲームとかのデンジはこんなんじゃなかったですよ。あくまで自分の中でですからね。強さとは、いろいろ種類があると思います、そしてその全部が強い人間なんていやしない。

自分で自分を最強という場面。自分はこの作品でデンジが『自慢』という意味で自らを最強、とか強すぎる、とか言わせたつもりはありません。ポケモンセンターでは『葛藤』ジムでは『鼓舞』の意味として使ったつもりです。そもそも自分の小説の設定では八年間無敗です、それで「いやー全然ですよ〜」なんていったら逆にどうよ?

そして、デンジの強さをうまく描写できたのか? これはできていなかったと思います。イーブイ進化をよんでいたり、突然変異エレキブルを操ったり、電磁波光の壁をやったりしましたが、それでもまだ足りなかったと思っています。次回の課題です。



『全体的後書き』

 始まりは、某大手イラスト投稿サイトでした。
 ポケモンのイラストを漁っていた自分はあるタグが目に留まりました。
 聡明な皆さんならお分かりでしょう。『デンチマ』これです。
 私はすぐに虜になりました、絶対に『デンチマ』で一本書いてやるんだ。そう思っていました。
 いろいろ頭で空想し、二週間後、書き始めました。
 なぜ幼女のチマリではなくティーンエイジャーのチマリなのか、それはたぶん若い子の精神的なあれをあれしたかったんだと思います。
 だけど自分は男です、女の子の心理なんてわかリゃーしません。そこで第三者としてチマリとデンジを傍観するキャラを作りました。それがキリトなのです。
 初めはバトルなんて書く気はありませんでした、めんどくさいから。
 しかし「序盤に張った光の壁に電磁波で貼り付けるんじゃね?」と思ったが最後、書いちゃいました。
 今思えば、書かないほうがよかった、なぜならばあれのせいでチマリとデンジの云々が薄まったなんてレベルじゃないほど薄まったからです。本当に後悔してます。
 だけどまぁ、楽しくできたし、良いかなって感じです。
 ちなみに、短いとはいえ物語を完結させたのはこれが始めてだったりします。

 最後に
 完成に際していろいろチェックしていただいたり、感想とか言ってもらったり、挙句の果てに現在進行形でキャラ募集とか無理やり押し付けたりしても全く起こること無かったチャットの皆様、感謝しております。
 これからもがんがんチェックさせるので今後ともよろしくお願いします。


 だらだらだらだらと書きましたが、結局何が言いたいのかというと。

「お前らもっと感想書き込め」

 と、言うことです。
メンテ
感想 ( No.30 )
日時: 2011/03/29 11:04
名前: でりでり ID:jJWugbBg

何回もチャットなどで完成途中のこの作品を読んでたんですが、感想を書くに当たってもう一度読み直しました。
まだ興奮が止まりません。
これこそ至高のポケモンバトルっていう感じでした。心理戦で語るは静かだけど、その水面下でも熱く激しい戦い、読み合いが繰り広げられる。ゲームの対人戦にも通ずるものがありますよね。
この作品に出るキャラはどれも魅力的で、なおかつポケモンバトルに対して真摯な姿勢でした。
彼らのそんなところがこの話を盛り上げたんだろうと思います。
>>「世界で一番強いトレーナー、それはデンジじゃない、ロバートさんでもない、俺でもない。世界で一番強いトレーナーってのは自分の中の理想の自分なんだ」
このセリフ聞いたとたんにわたしは震え上がりました。
ああ、なるほどな。これは彼らの世界に通ずるものだけでなくわたしたちにも通じますよね。
いやあもう、はい。とても面白かったです。かなり満足しました。この読了感が気持ちいい。
とにかくチマリのイッシュ戦が楽しみです。
あと、デンチマっていうジャンルをよくぞ見つけたなあと思いました。
こんな稚拙な感想ですがここで終わらせていただきます。
メンテ
レス返し ( No.31 )
日時: 2011/03/29 23:01
名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:AFo1Nw/Q

>>でりでりさん

あなたにもなんどもチャットで見ていただきましたね、ありがとうございます。

ジムリーダーが絡む小説とあって、やはりバトルはそれなりに考え込まないといけないなと思いました。結果あのようになりましたが。
>>「世界で一番強いトレーナー、それはデンジじゃない、ロバートさんでもない、俺でもない。世界で一番強いトレーナーってのは自分の中の理想の自分なんだ」
この台詞に関してはおそらく何人もの人が似たようなことを言っていると思います。だけれどもこの小説を通じてどうしても言いたいことのひとつだったので、書きました、気に入っていただいて光栄です。

デンチマは至高です。最高でもあります。
メンテ
感想 ( No.32 )
日時: 2011/03/30 13:30
名前: とらと ID:wZ1.PEMQ

三月いっぱいと言ったので滑り込みセーフですね(*´∀`大変遅くなりましたが感想を。

完結おめでとうございました。あれイッシュのリーグ戦読めるんですよね?楽しみ^^
何度か読ませていただいて、そのたびに見習いたいところがわらわら出てくる素敵な作品でした。めっちゃ面白かったです!
一回目はそりゃあもうデンチマでしたが、同時にこれほど緻密に作りこまれたバトルを読んだのは初めてだったかもしれないなってことでした。強いトレーナーっていう設定でバトルを書くのは自分にとって本当にプレッシャーのかかる作業です。能力や覚える技を見ながらバトル展開を考えるのは楽しくもありますが、ちゃんとハイレベルで面白いバトルにできるかと言われれば全く自信がありません。キリトVSチマリの、ピカチュウの最初の高速移動の時からなんかすげぇなと思っていましたが、最強のジムトレーナーとこれから伝説になるであろう男の一戦、その名に似合ったあの手この手のゲーム展開、本当に素晴らしかったとしか言いようがありません(*´∀`さすがは風さんでした。GJ!
そして何週かした今冷静になって読み返してみると、やっぱりデンチマなんですが、同時にバトルの際のトレーナーの役割について、あらためて思わされるところがあるなぁと感じています。当たり前なんですが、ただ技名叫ぶだけじゃないんですよね。明らかに人間より運動神経のいいポケモンをどうサポートさせるのかっていうのがよく見えてたバトルだったんじゃないかと思います。参考にさせていただきます

しかしデンチマですね!デンチマ?と思って某大手イラスト投稿サイトで検索してみたんですが、なるほど幼女……なるほど風さん しかも思ったより活発なジャンルで噴きました
ジム戦が終わった直後のキリトを睨むチマリちゃんの、きりっとした様子が凄く印象的でした。彼女のこれから歩んでいく道のりがどんなものであるか楽しみでなりません。将来有望な若者ってのはいいですな……ハハッ(´ω`

将来有望な風さんにも期待しつつこの辺で失礼いたします。
拙い感想で申し訳ありません、次の作品も楽しみに待っております。
メンテ
レス返し ( No.33 )
日時: 2011/03/30 22:18
名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:7Jww6XEo

>>とらとさん

滑り込みセーフです。もうくれないのかと思いましたよ^^

イッシュリーグは……どうでしょうね^^

後書きにも書きましたが、初期の構想ではバトルはありませんでした。
しかし、皆さんにいい感じの評価をもらって、あぁ、書いてよかったなと実感しています。
バトルにはそれなりに拘ったつもりです。プロレスのような「魅せる戦い」が非常に好きなので。実際にプロレスファンだったのもよく関係していると思います。

あなたの感想を読んでふと「トレーナーの存在価値」について考えが頭をよぎりました。
自分が思うに、ポケモンと言うのは非常に強力な生命体です。
例えば、ひとつの鳥かごのようなものがあるとします。
その中に野生のポケモンとトレーナーとそのポケモンを閉じ込めたとして、野生のポケモンが勝ってしまうならばトレーナーの存在価値は無いのだと思うのです。
だから、トレーナーが絡むポケモンバトルを書くのは難しいのだと思います。幸い、この作品ではいい感じの評価をもらっていますが。

デンチマ、ですが。自分は正直チマリにもデンジにもあまり思い入れはありません。ただ、デンチマがすきなのです。

それでは、感想ありがとうございました。



あ、まだまだ感想募集していますよ、遠慮なさらず書いて行っちゃってくださいね。^^
メンテ
番外2 ナギサシティ。決意のお話 ( No.34 )
日時: 2011/04/12 22:49
名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:P6lPDJ6M

 俺は今日もジムリーダーとしての責務を完全に放棄して、ナギサの灯台から海を眺めていた。
 天才と持て囃され、凡人とのバトルに飽き、より痺れる、よりレベルの高い戦いに身を投じたくてジムリーダーになったが、それは俺自身が望まないバトルをこなさなければならないと言う事であった。
 挑戦に来るトレーナーは皆つまらない。初めの方は我慢して相手をしていたがやがてそれにも飽きた。
 俺はジムを改造する事に没頭し、挑戦者と面と向かうことも無くなった。幸い、ナギサジムのジムトレーナー達は軒並み優秀で、挑戦権を剥奪されるトレーナーが多かった。
 だが、最近になってジムの改造できる部分も少なくなった。同時に、親友であるオーバから四天王加入を勧められた。ジムが異常に電気を食うせいで街全体が停電したこともあるし、そろそろこの街にも飽きた。
 ふと、背後に人の気配を感じた。あぁ、またジムトレーナーが呼びにきたのだなと振り返るとそこにいたのはキャップをかぶった少年だった。
「ポケモントレーナー」
 俺はその少年がただのトレーナーではないと本能的な部分で感じ取った、非科学的だと言われるかも知れないがトレーナーの実力はその人物のオーラ、気迫で大体読み取れる。そして俺がその少年から感じたの気迫はオーバのような四天王にも勝るとも劣らないものだった。
 そして、最近シンオウのジムを破竹の勢いで勝ち抜いている少年がいるという情報が頭の中に浮かんだ。そうか、とうとうナギサにも来たのだな。
「ナギサジムへの、挑戦者、か」
 ジムリーダーとしての最後の戦いとして、ふさわしいのではないかと思った。この少年を倒してしまえばもうナギサに強力な挑戦者が現れることも無いだろう。
 少年は、黙って俺の目を見ていた。無口な奴だ、それとも緊張しているのだろうか。
「決めた、君が弱ければ俺はポケモンリーグで戦わせてもらうとしよう。ポケモンジムの改造も終わったし、なにより、ポケモントレーナーとして痺れる勝負を望むからね。シンオウ地方最強のジムリーダーとしての実力、存分に振舞わせてもらうよ」



 思ったより早く、少年はジムの仕掛けとジムトレーナー達を突破してきた。それでもそれほどの驚きは無い、簡単なことだろう彼にとっては。
 お互いのボールを審判員がチェックする、彼のボールはかなり傷ついていて、ここまでの道のりがとてつもなく雄大だったことが伺える。そして、彼はこの幼さにしてそれを乗り越えてきたのだ。
「さて、挑戦者」
 少年の目が、俺と合う。真っ直ぐで嘘やごまかしの無い、今まで俺が見てきた実力者と同じような目だった。
「たまに俺と戦えるトレーナーがいるけれど、皆つまらないというか、手ごたえが無いんだよ」
 ボールを腰にセットする。ひとつ、深呼吸する。緊張しているのか? この俺が。
「ふぅ、俺がジムリーダーのデンジ。シンオウで一番のジムリーダーと言われるが」
 少年が一瞬だけ俺から目を離し、腰にボールをセットした。
 俺は、疎外感を感じていた。俺だけ置いていかれているような、少年ははじめから俺を見ていないような被害妄想に近いような焦り。
 少年が俺を追いかけているのか、それとも俺が少年を追いかけるのか、わからない。
「まぁ、いいや。俺にポケモン勝負の楽しさを思い出させてくれるトレーナーであってくれ」



 全体練習が終了し、ジムの皆が大体帰ったであろう頃、俺は応接室で一人コーヒーを飲んでいた、ジムリーダー室で飲みたかったのだが、あいにくコーヒーメーカーは応接室にしかない、そういえば全部の部屋にコーヒーメーカーを取り付けるという改造が残っているな。
 結論から言えば、俺は負けた。
 久々に、自らがトレーナーであることに意義を見出せる試合だった。楽しくて、痺れる、原点のような試合。
 彼はこの後ポケモンリーグで四天王と戦うことになるのだが、四天王になればまた彼と戦えるのだろうか? もっとも、敗北した俺にまだ四天王になる権利があればの話だが。
 もし、認められるのならば、再び彼と戦いたい。彼ともう一度戦えば、俺の中の満たされることの無かったものが、満たされるどころか、溢れるかもしれない。
 オーバは今ならまだナギサにいる、連絡が取れるだろうか。
 そう思っていた時、応接室のドアノブが音を立て、扉が開いた。皆帰ったはずなのに、誰だろう?
「あ」
 扉を開けたのはピカチュウの着ぐるみを着た女の子だった。名前はチマリ、地元の女の子で昔からよくジムに遊びに来ていたらしいが、つい最近ジムトレーナーとして登録された。確かまだ六歳だったと思う。泣き虫だがセンスがよく、ベテランのジムトレーナーも負かせてしまいそうな勢いがある子だ。俺に良く懐いていて、ことあるごとによって来る。
 まだ、帰ってなかったのか。もう暗くなるから早く返してあげないと両親が心配するな。
「もう、練習の時間は終わり。早く帰ろう」
 椅子から立ち上がり、チマリの傍まで寄ってドアを更に開く。コーヒーカップは、また明日で良いや。
「デンジ兄ちゃん」
 デンジ兄ちゃんとは、もちろん俺のこと。彼女から見れば、俺はお兄ちゃん。おじさんと呼ばれないだけましだと思いたい。
「ん」
 彼女を連れて、扉を閉めようとした手が止まる。
「ジムやめるの、やめて」
 その質問が彼女の口から飛び出してきたことには驚いた、いったいどこで聞いたのだろう? 少し上ずっていたその声が俺の良心を抉った。
「一体誰に」
「髪が赤くて、モコモコした人」
 オーバめ。あいつは何時も余計なことをぺらぺらと。そんなこと、こんな子供に言わなくても良いじゃないか。それにまだ辞める何て言っていないぞ。
「やめて、やめないで」
 チマリの声に、震えが混じる。
「チマリ、デンジ兄ちゃんとの練習、好きだから。デンジ兄ちゃんとの練習、楽しいから。もう、泣かないから。我慢するから」
 ドアノブを握っていた俺の手を、チマリが両手でつかむ。彼女が俺を見上げたとき、ピカチュウの顔が描かれたフードがずり落ち、彼女の両目に俺が写った。
 あぁ、そうか。
 なぜ、チマリが俺に懐いているのか、今わかった。
 この子も、昔の俺と同じなんだ。
 才能溢れるばかりに、普通の世界とは馴染めない存在。
 大人たちのように、自分で世界を広げるには弱弱しく、かと言って自分のいる世界では満足することができない。彼女にとって俺はきっと、友達。オーバのような。友達。
 もし昔の俺が、オーバと出会っていなかったら。あまり想像したくない。
「そっか」
 腰を落とし、チマリと目線を合わせる。彼女の頬を伝うものを、袖でぬぐった。
「わかった」
 ジムリーダーを辞めなければ、また、つまらない日常の繰り返し。それでもまぁ、良いだろう。
 ジムリーダーには『次代の才能の育成』という漠然とした職務もある。きっともう、俺の時代は終わった。
「やめない?」
「やめない。明日から、また練習だよ」
 チマリの顔が一気に明るくなる。俺はひとまずほっとして、チマリと手をつなぎながら応接室を出た。
 終わった人間のエゴよりも、これから始まる若い才能を優先しよう。それに、ここまで満たされたのは、ジムリーダーになってから初めてではないだろうか。
 必要とされている、それだけで十分。いや、そもそもそんな事、初めてかもしれない。
「チマリ、目が赤いぞ、今日は早めに寝たほうがいい」
「うん」
 もう泣かないと、チマリは言ったが。俺はもう、彼女を泣かせない。
 少しだけ強く、彼女の手を握った。
メンテ

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