Re: 短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.4 ) |
- 日時: 2010/09/15 23:51
- 名前: 月光
- フィールドが完全に元の状態に戻り小休止を少し挟んでから、定刻通りタタとマリンがフィールドに姿を現す。
両者がフィールドに現れるとともに会場が再び熱気に包まれる中、二人の反応は対照的である。 勝気と言うか目立ちたがりなのかマリンの方は景気良く周りに手を振るが、一方のタタは無愛想な、少し機嫌が悪そうにただ悠々と歩く。 二人が互いの所定トレーナーサイドに辿り着くと同時にディスプレイに表示されたルーレットが回り出し、フィールドを選択する。 ぐるぐると回るルーレットの中、暇そうなマリンは正面のタタを見据え、薄ら笑って声を掛ける。
「随分と無愛想なのね。変わった格好してるし、それ何?」 「造園のための格好。これは木鋏、これが輪鋏。それでこっちが剪定鋏。あと右足につけてるこれが鋸。このケーブルはあれね、チェーンソー引っ張ってくるときに使うの」 「何か随分とえげつない物ばっかり揃えてるのね。て言うか、何でそんな凶器の持込が許可されてるのよここ」 「ポケモンの方がよっぽど凶器だと思うけど? 本当に冗談じゃないわよ、せっかく手入れした庭なのにトレーナーは容赦無くバトルに使うわ挙句の果てにはその庭の持ち主が生態系外の野生ポケモンどっからか連れてきて放つわ、全く失礼しちゃうわよ」 「そんなトレーナーのトーナメントによく参加する気になったわね、貴方」 「私だって別にこんなところまで来るつもり無かったわよ」 「じゃあなんでここにいんのよ」 「それは貴方……んーなんていうのかしら。せっかくだから行けるところまで行こうという精神と言うか……実は出会いを求めていたりいなかったり」 「はっ?」 「とにかくどうでもいいの、ここまで来たことはここまで来たことよ!」
最後の方が小声になっていたタタの言葉にマリンは首を傾げるが、タタはばつが悪そうに横を向く。 それと同時にディスプレイのルーレットが止まり、表示されたフィールドに二人とも観客とともに注目する。 『森』――それを見た瞬間タタの表情が若干明るくなり、同時にマリンはだるそうに溜息をつく。 一造園師如きならどのようなフィールドでも問題ないのだろうがここはチャンピオンリーグだ、そんじょそこらの造園師がそもそも参加できる場所などではない。 つまりフィールドの優位は戦いにおいて大きな差となる。拮抗したレベルなら、それこそ勝敗を分ける。 決定と同時に会場全体の数箇所の地面が大きく左右に割れ、地下から巨大な木が何本も現れる。 さらに数箇所には池、岩場、沼地など、若干湿地帯寄りの森に見える景色が並べられる。 戦いが始まる――マリンが気を引き締めてボールに手を掛けるが、タタは徐に一本の木に近づき、その表面をゆっくりと撫でる。
「……本当は外でいつまでも、自然のままに生きたかったのよね。無理やりこんなところに移植されて、さぞ苦しいでしょうね」 「な、何してんのあんた?」 「分からない? 木とコミュニケーションを取ってるだけよ」 「木と……こ、こみゅにけーしょん〜? あんた、悪いこと言わないから精神科紹介するわよ」 「あら、それなんて自然を馬鹿にしたトレーナーの典型ね。貴方、ろくに自然と向き合ってこなかったんじゃないの?」 「ぬうぅ、私はこう見えても前はレッドとグリーンと並んでカントーで覇を成した三強のうちの一人なのよ! 自然と向き合わなくても、十分強いわよ」 「その三強、いつの話かしらね。時代は進む、自然と共に世界は進歩する。貴方には、まだ早かったかしら」 「このー、さっさと掛かって来なさいよ! カメックス、一番手ゴー!」 「自然は私の味方。そして彼らを私好みのフィールドにコーディネイトしてあげる。このフィールド、私がもらう。行って、アリアドス」
両者のポケモンが出揃ったと同時にフィールドの熱気は最高潮に達し、一気に攻めるマリンに対してタタは早速木の影に姿を隠す。 いきなり隠れると言う選択肢に些か不意を突かれたマリンだが深追いせず、まず真っ先に彼女も一歩引いて池の近くに徐々に近づいて行く。 互いに自分のフィールドでの勝負を展開しようとし、戦いがスローペースになる。 先ほどの一進一退のハイスピードのバトルとは打って変わっての展開に、観客の熱気が徐々に引いて行く。 期待していた展開と違って白けたっと言う風にも見えるが、それでも静まり返った中に集中は集まっている。
観客席とは別の場所にある選手控室兼報道陣使用室でも、戦いの様子が会場の数カ所に設置されたカメラからの映像で映し出される。 選手たちは一様に将来の対戦相手になるであろう敵の状況を見ており、アスカも二人の戦いに注目している。 グラフィック表現された鬱蒼と生い茂る草木の為にビデオカメラはなかなかフィールドの様子が映し出せず、仕方なくディスプレイの映像を写すカメラマンも多い。 その中でスミレは未だに始まらない激突を息を飲んで待ちながら、良く見えないフィールドにカメラを向ける。 とは言えこの場所は位置的に野球ドームで言うなら選手たちがいる場所に等しいので、数十センチの草木が生い茂るガラス越しのフィールドは、やはり良く見えないのだが。 どう言う戦いになるのか――バトルの初心者であるスミレには、はっきり言ってどう言う状況なのか良く分からない。
「互いに自分のフィールドで勝負……長引くのかしら」 「いやぁ、案外早く決着付いちゃうかもしれませんよ。この戦いも」
スミレの横に立っていたのはポケモンレンジャーの制服に藍色のセミロングヘアーの女性で、スミレは一瞬驚いて肩を震わす。 まるで気配が無かった――幽霊みたいな現れ方に若干驚いたスミレだが、すぐに深呼吸をして息を整える。
「あら、驚かせてしまったかしら?」 「いえいえ。確かポケモンレンジャー期待の新人と言われているエリサさんですよね。確か去年のホウエン地方のリーグでは優勝でしたよね?」 「いやはやお恥ずかしー。師匠はむしろ初戦でボコられてやられるのを期待してたみたいなんですが、何かその……勝っちゃって」 「随分と、サディストな師匠ですね。でも優勝したってことは、師匠からは独立したんですか?」 「えっ? またまた御冗談を、あの人相手じゃ私なんて運良くて相討ちですよー。あの人の知り合いの警察官なんて私じゃ足元にも及びませんよ」 「それでも実績は素晴らしいと思いますよ。遅いようですが、優勝おめでとうございます」 「えへへ、ありがとう」 「――せかしら?」 「ふえっ?」
彼女らの横の席でただ目前とディスプレイの映像を見ていたアスカの肩がわなわなと震えており、エリサのことを力強く睨む。 さすがのエリサもその視線の威圧力に押されたらしく、ギョッとしながらスミレの後ろに身を隠す。猫のようだ。
「去年のホウエンリーグ七位だった私への嫌がらせかしらねー、真横でそんな会話するなんてねー」 「あ、いえ別に私たちはそう言うつもりで会話していたわけでは」 「そそそそうよ。あっ、思い出した! 貴方確か去年のホウエンリーグで見たわ、アザシ君にギリギリで負けたアスカさんよね?」 「むー負けたことを露骨に披露して、私をいじめて楽しいわけ!? いいわ、それならここでいっそのこと決着つけてやるってのよきゃわあ!?」 「何をやっているんだ阿呆」
今にも飛び掛かりそうだったアスカの後頭部を唐突にチョップがクリティカルヒットし、アスカはそのまま後ろに倒れる。 打たれた個所を擦りながら立ち上がると、シリュウが醒めた形相でアスカを見下ろしており、彼女の額からだらだらと汗が流れる。
「控室で何をしている、お前」 「……てへっ」
ガン!?――再びシリュウの鉄拳がアスカの頭を直撃し、目を回したアスカはそのままソファーに倒れる。
「済まない。弟子が申し訳ないことをした」 「あ、いえ。私たちも心に無いこととはいえ、申し訳ないことを……あれ、貴方、どこかで会ったことがありますか?」 「え? シリュウさんとエリサさんって、お知合いなんですか?」 「……気のせいだろ。世の中には似たような顔の人が沢山いるものだ。それより、フィールドは森か」 「そうですね。私は長引くと思ったのですが、エリサさんは案外早く勝負がつくと言ってます」 「エリサとか言ったな。その理由は?」
話を振られたエリサはスミレの後ろからぴょこっと姿を現すと、一度ソファーに倒れているアスカに目を移す。 完全に沈黙……気絶していないようだが、どうやら不貞腐れているように見えないこともない。 その証拠に先ほどから何かブツブツとつぶやいており、『師匠なんて』とか『私にだけ妙に厳しい』とか、何かと小声で愚痴を垂れる。 最もエリサに聞こえているのだからシリュウにも聞こえており、再び鉄拳がアスカの頭を直撃する。
「互いの分野に持ち込むと言うことは、互いに万全の態勢です。つまり、先に仕掛けた方は明らかに不利になります」 「えっ、そうなんですか? どっちも万全なら、やっぱり長引くと思うんですが……あっ、でも結局はどっちかが仕掛けないと試合終わりませんよ」 「バトル経験があまりないスミレさんなら、そう思っても仕方ないでしょう。当然、どちらかが仕掛けなければ終わりません」 「……あっ、だから先に仕掛けるために今は攻撃の準備に転じているんですか?」 「えぇ、そして恐らく攻撃に出るのはタタさん。相手の領域が広過ぎる以上、マリンさんは待つしかない」 「そうかしらね、私はむしろタタさんの方がマリンの攻撃待つような気がするけど。アリアドスでしょ、どう考えても待ちでしょ」
ソファーで寝転がっていたアスカもすぐに意識を取り戻し、膝を突きながら会話に参加する。 どうやらもう愚痴っているのが馬鹿らしくなって来たらしく、特に邪険の無い元の状態に戻っている。気持ちの切り変わりが早いようだ。 話が弾み過ぎて何を言っているのか分からないらしく、スミレは両手を込んで首を傾げている。
「両方八十点ってところだな。いや、アスカは十点」 「えっ! な、何で私だけいつもそう厳しい評価をするんですか!? うわーんばーかばーか師匠のばー」
ガンッ!
「まずマリンが攻撃に転じる可能性は十分にある。今までの性格から考えれば、あいつは作戦を練っているが奇抜なことをするタイプだ。これが十点」 「残り十点はなんですか?」 「先に攻めた方が不利……そんなことは常識かもしれないが、はたしてそれがここで通用するかどうかだ」 「いてて……どう言うことっすか師匠?」 「――フン。俺とお前の勝負みたいなものだ、先ほどやったのにもう忘れたのか」
エリサとスミレの後方には両腕を組んだまま未だに牽制の応酬が続くバトルをディスプレイ越しに見ながら、会話に割って入る姿がある。 先ほどアスカと短期的だが激闘を繰り広げ、苦戦の末に何とか彼女が勝利した、エリサとは別のホウエン代表のトレーナー。
「この大会のルールは『一体でも戦闘不能になったら負け』だ。つまり、いくら攻めが不利とは言え、先手必勝を取れるメリットは、やはり攻めにある」 「あそーか。いくら待ちが便利でも、それは持久を想定して、交代を効率的に考えたときに最も効果を発揮する」 「――フン、気付くのが遅い。つまりこのルール下では攻めになろうと護りになろうとどちらにもそれ相応のアドバンテージとリスクがある。そこの師匠さんが言いたいのは、概ねこんなところじゃないのか」 「やれやれ外野に全部持っていかれるとは、アスカ……お前、去年も似たようなことは教えたはずだが」 「はうっ……て、てへっ」
ガンッガンッガンッ!
「とは言え、どっちが勝つかまでは……推測は難しいな」
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Re: 短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.5 ) |
- 日時: 2010/09/15 23:52
- 名前: 月光
- フィールドでは池の近くに陣を構えるマリンが、ただただ周囲を取り囲む木々を眺めている。
周辺は背の高い草で覆われているため観客席からはまだ全体の様子が見えるが、マリンの視線だと大部分が草木に覆われていて状況が分かりにくい。 分かることは着実にタタが有利なフィールドを増やし、徐々にマリンを周りから追い詰めていること。 アリアドスを使っている時点で森のフィールドは完全にタタに地の利をもたらしている。池の近くで無ければ、まともに戦っても相手の思う壺。 だからと言って待ち続けるのは性に合わないし、何より相手は絶対に水から攻めて来ることは無い。 観客や観戦室、モニター越しからは分からない感覚。フィールドに立つ者のみが互いに感じることができる、相手の気配。 先に動くのは自分――正確には既に動かされているのかもしれない。だがマリンとしては、そう思うのは癪だった。
「私だって好きで自然破壊するわけじゃないけど、人が改造する自然ってのは馴染まないのよねー」 「それは貴方が人為的に作られた自然しか知らないからよ。自然と調和した人のフィールド……それは自然に、人間が解明したアルゴリズムと効果を与えるの」 「残念だけど小難しいこと考えるのは好きじゃないのよ。隠れながら会話も疲れるでしょ、取っ払ってあげる。カメックス!」
木々の間から響く声の音源を指差し、マリンの指示と同時に池の中からカメックスが這い上がる。 スローな動作でしっかりと地面に足を食い込ませ、踏ん張りを利かせたカメックスの甲羅から二つの砲台が姿を現す。 本来ならもっと素早く行う動作だが幸いに相手は待ちに徹している。ならばリズミカルな戦いよりも十分に準備をして、次の攻撃へ繋げることができる。 誰もが考えていたのはマリンもタタも、自分に有利なフィールドで戦うことを望んでいると考えていたこと。 しかし実際は違っている。そもそもマリンは待つ気など毛頭に無いのだ、池に来たのも、徹底的に攻撃する水を補給するため。
「面倒だから一発目から行っちゃおうか。カメックス、ハイドロカノン!」
最大まで膨張した甲羅に蓄えられていた水、まるでダイナマイトが爆発したような爆音と共に、二つの砲台から激流となって放たれる。 恐らくはマリンのバトル経験上、最大まで溜めたハイドロカノンを放ったのはこれが初めて。 空気を、大気を震わせ放たれた水のミサイルは正面に構えていた大木に直撃し、その大木を根元から抉り、遠方にまで吹き飛ばす。 観客席の近くまで吹き飛んだ大木は他の木々と擦れ合いながら禍々しい音を立てて地面に落ち、大量の葉と粉塵がバトルフィールドを覆い尽くす。 木の陰に潜んでいたタタは苦笑しながらその姿を現し、びしょ濡れになった状態の彼女に、マリンは笑いながら手を振る。
「アリアドスの姿見えないようだけど……ハァーイ、ご機嫌いかがー?」 「ちょっ……なんて危険な技使うのよ! 一歩間違えてたらアレ私直撃して病院送りどころか霊柩車呼ばれてたじゃない!?」 「バトル中の事故なんて良くあることじゃない。カメックス、一旦池に戻――」 「そうさせると思うかしら?」
青褪めていたタタの表情に余裕が戻り、同時にカメックスの動きが鈍いことにマリンはすぐ気付く。 先ほど放ったハイドロカノンは水系最強の威力を持つ大技なだけに確かにその反動はでかい。だがカメックスの動きの鈍さは、それだけではないように見える。 素早く池の水を掬ったマリンはそれをカメックスに向けて撒き散らし、同時に水の動きが妙に変則的なことを一瞬で見切る。 空中に留まった小さな水は今にも垂れそうな雫となり、ゆっくりとカメックスの方へと移動して行く。 見えないほど、だがカメックスの動きを縛るほどの強固な糸。目を凝らして見てみると、幾重にも巻き付いた糸がカメックスを縛り付けている。 幾重にも伸びている糸の中の一本、その先には木の陰から様子を窺うアリアドスがさらに大量の糸で作った巣の中に身を隠している。 短時間に作ったにしては異常なほど精密な巣……アリアドスは口から紫色の液体を出すと糸にゆっくりとたらし、その液体はゆっくりとカメックスの方へと進んで行く。 一連の動作には恐らく十秒もかかっていない。反動もあり動けないカメックスにマリンが水を掛けたときには、既に毒は流れている。
「さて、大木一つ吹き飛ばした代償ぐらいは取ってもらわないとね」 「抜け出せば良いだけよ。カメックス、高速ス……カメックス?」
様子が可笑しい。確かに束縛された状態だが、ここまで異様に苦しむほどの拘束力は無いはず。 原因は別――マリンは一本の糸から流れて来る僅かな液体に気付くと、それがカメックスの体に微量だが確実に注がれているのを見た。 強力な毒。完全に先手を取られたマリンは舌打ちし、だが冷静に作戦を考える。
「どくどくか、陰湿な攻撃するわね。カメックス、高速スピン」
先ほどの攻撃の反動も無くなり、毒で苦しんではいるが動けないほどではない。まずはこの糸から抜け出すことが第一。 砲台のうち一つを閉じ、もう一つの砲台から放たれた大量の水はカメックスの体を激しく回転させ、身体中を覆っていた大量の糸を一気に引き千切る。 運がよければアリアドスを引っ張り出せる――だがマリンの予想通り、アリアドスはカメックスに引っ張られるより早く、自身の糸を切った。 時間が経てば経つほどカメックスは不利になる。しかしあえて交換せず、マリンはカメックスへの指示を続ける。 本来なら交換すべき場所で攻撃の指示。マリンが交代するであろう前提で行動を考えていたタタの表情が若干曇り、アリアドスにハンドシグナルを送る。 離れたポケモンに指示を送るにはいくつか方法があるが、タタが主に使うのはどうやらハンドシグナル、つまり手を動かして送る指示。
「悠長に手で指示送る暇なんて無いわよ! カメックス、猪口才な巣ごと凍らせちゃいなさい!」 「むっ、少しまずいかしら……」
毒は体力を蝕むものであって技の威力を下げるものではない。つまり、弱点タイプの攻撃を受ければ、このレベルの大会ならほぼ一撃二撃の世界だ。 さらにマリンはアリアドスの正確な位置を掴んで来た。アリアドス素早く木々を移動するより早く、カメックスの開かれた口から冷気の光線が一直線に巣の場所を襲撃する。 巣に利用していた大木が一本丸々頭から根まで完全に氷漬けになるなか、アリアドスが別の木から何とか逃げ出したかのように落下する。 再び放たれた冷凍ビームをアリアドスは別の木に糸を伸ばし、それを手繰ることで何とか回避する。 姿が見えてしまうと攻撃力では圧倒的に不利。そもそもマリンのかメックスは攻撃力がその辺のポケモンとは比較にならない。 凍りついた大木と地面の範囲を見たタタは息を呑み、時折アリアドスが放つ糸も、さすがに二度目以降は水流で迎撃される。
「姿が見えちゃえばなんてことないわね。逃げてばかり無いで少しは反撃でもして来たらー?」 「ハイドロカノンと言い冷凍ビームと言い馬鹿みたいな威力ね。さすがはかつてカントーでも三強と呼ばれたってとこかしら」
タタの額から一筋の汗が流れ、アリアドスが彼女の目の前に何とか帰還する。 同時にマリンは不敵な笑みを浮かべつつも、腰のボールへゆっくりと手を伸ばす。
「かつてじゃないわ、現在進行形のつもりよ。いつかあいつらを見返してやりたくってね、だから……貴方はここで敗れるのよ!」 「来る!……違う!? アリアドス、くもの――」 「はい残念でした」
一瞬の硬直――タタの動きが僅かに止まった瞬間にマリンはボールをカメックスに向け、褐色の光がその巨体を小さなボールに収める。 それと同時にアリアドスの尻尾から放たれた大量の糸が宙を舞い、先ほどまでカメックスがいた場所を糸で覆い尽くす。 如何にも攻めるかのように見せかけておきながらのポケモンの交換。右手に持っていたボールを腰に戻し、同時に左手に持っていたボールを池に向かって投げる。 光の先に現れた人型のようなポケモン――ゴルダックは素早く水中に潜ると、アリアドスの糸が届かないギリギリの範囲に先手を打って回避する。
「やってくれるわね。やっぱりここに来ると、その辺のトレーナーのように行かないわ」 「当たり前でしょ。何よりあんたの相手はこの私よ、勝てる奴なんていないのよ!」
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Re: 短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.6 ) |
- 日時: 2010/09/15 23:53
- 名前: 月光
- 激しいバトルが行われているのかドーム全体がどよめき、まるで小さな地震に見舞われているような感じされする。
そんなドームの中の一室、清潔感溢れる真っ白な空間に真っ白なカーテン、さらにいくつも配置されたベッドがそこを医務室だとすぐに推測させる。 ナース服に身を包む女性は艶美な両足を机の上に載せながら左手に手鏡を持ち、右手に口紅を持っている。 暇そうにしている女性の胸ポケットから突然小さな音が鳴り響き、化粧を中断されたことに少々不機嫌そうな表情を浮かべながら、女性はポケギアを取り出す。 名前の欄には『A1』とだけ表示されており、これが名前で無くコードネームのようなものを指しているのは明らかだ。
『よぅ、そっちは暇人みたいだなA7』 「A1、そっちの首尾は?」 『少しはコミュニケーション取ること覚えろよ。化粧し過ぎんとババァになった時苦労すんぞ』 「ぶっ殺すわよ」 『おー怖い怖い』 「で、連絡の内容は?」
不機嫌に苛立ちもプラスされ、爪先で何度も地面を叩きながら女性が問い掛ける。
『こっちの制圧は完了した。あとはA3からA6達がそれぞれ制圧し終われば……何時でも行けるぜ』 「だが開始のタイミングはまだよ。A0の指示があるまで動かないこと」 『……正直、俺あいつ気にくわねーんだけど。隣の馬鹿はお気に入りらしいが』 「A2が? でも、実力はある。何よりここまで組織を再生したのは、奴の手腕だと認めざるを得ないわ」 『そりゃ分ってるさ、だが気にくわないもんは気にくわないんだ。どうだ? この作戦が終わってボスが戻って来たら、奴を消すってのは』 「無理よ。私たちが束になって掛かったって勝てる気がしない。言え、実力だけなら奴はボスより遥かに強い。これは事実。そのカリスマ性だって、ボスには劣るものの、それに匹敵するものがある。私たちには、相手にできるレベルの奴じゃないわ」 『そうかい、まあいいや。兎に角この計画、失敗は許されない』 「えぇ。もし暇なら、他のところの制圧でも手伝ってあげればどうかしら?」 『無理無理。俺らは自己中過ぎるから決まったパートナー以外との協力プレイなんて無い無い』 「そう。じゃあ、精々しくらないでね」 『お前もな』
ポケギアの電源が切れたことを確認し、A7と呼ばれた女性はそれをポケットに戻す。 再び手鏡を右手に化粧をし始める。バトルドーム全体を揺るがす騒音など、まるで気に無いで。
池に陣を構えながら念力系の攻撃で遠目から攻撃するゴルダックに対し、アリアドスは森の中から糸による奇襲を繰り返している。 毒タイプ持つ以上、エスパータイプの技も使って来る敵に対して正面から堂々と挑むのは分が悪い。 さらにゴルダックはアリアドスが苦手とするエスパー技の攻撃を使用するにもかかわらず、本体は水タイプのみしか持っていないため、虫タイプの攻撃は大ダメージは期待できない。 現状、木の影からゴルダックに糸に毒を塗ったりミサイルばりでの遠距離攻撃を繰り出すが、尽く回避されている。 むしろゴルダックはサイコキネシスを広範囲に広げ、威力よりも蓄積ダメージを狙っている。 このままではアリアドスが先に力尽きる――静かに、だが互いに細心の注意を払いながらの攻防に、観客も緊張が絶えない。 アリアドスでは辛い。だがタタのもう一匹の手持ちであるフローゼルでは水タイプのスペシャリスト、マリンには熟練度的に不利。 確認する必要がある……一つだけ。 タタは唇の端を僅かに舐めると、池の対岸で両腕を組んでいるマリンに大声で話しかける。
「かなり不毛な攻防が続いてるけど、さっきみたいに大胆な技で辺りをふっ飛ばさないのかしら?」 「んー? 環境破壊されるのが望みなの?」 「そうじゃないけど……貴方みたいな大胆な攻め方を好みそうな人が、こんなチマチマした戦法を取るのが不思議でね」 「ふふーん、そうやって私を森の中に引っ張りたいのかしら? いやー、むしろこっちの戦力分析ってところかしらねー。わっかりやす」 「っぐ……可愛げの無い」 「でもまぁいいわ、この優しい優しいマリンさんが教えてあげる。ハイドロカンを使えるのは残念ながらカメックスだけよ。尤も、あんなのに頼らなくても私の本気は凄まじいけどねー」 「その本気を見せないでこんな不毛な戦いを続けるなんて、時間の無駄だと思わないの?」 「そうね、確かに飽きて来た感じはするわ。ところでこんな会話をしてるうちに、変化があること気付いてる?」
えっ?――タタが湖に浮かぶゴルダックを良く見ると、瞳を閉じて何かに集中しているように見える。 この間ゴルダックは攻撃して無く、ただアリアドスの攻撃を、マリンの指示に従ってギリギリのラインで避けていた。 何かが来る。その予感をタタが感じるより早く、ゴルダックの瞳が見開かれる。
「森ぐらいなら軽く飲み込むわよ……波乗り!」
水面から飛び出したゴルダックは再び池の中にダイヴし、その飛び込んだ場所を中心に大きく湖が渦を巻く。 同時にその回転力はやがて収束すると外部に向き、アリアドスがいるであろう方向に多少の広さを持たせ、激流となって襲い掛かる。
「瞑想……補助効果ね!?」 「御名答。アリアドスだろうとポケモンを取り変えようと、この技を喰らって無事なわけがな――」 「分かりやすい。まんまと掛かってくれるなんて」
巨大な津波がタタとアリアドスを飲み込まんとする勢いで迫り、会場はトレーナーにも攻撃が行くのではとどよめく。 基本的にこのような特殊なバトルフィールドでトレーナーが攻撃に巻き込まれても、それは事故として処理される。 仮にここでタタがマリンの攻撃に巻き込まれても、それは彼女の状況判断能力が悪かったとされるだけ。 津波が森を飲み込む……だが巨大な水の壁が森に迫るより早く、突如として発生した巨大な爆音と共に、水が全てその場で蒸発する。 池の水を全て注ぎ込んだ巨大な波乗りが、謎の蒸発。 あまりに突然の事態に処理が追い付かないマリンはただ呆然とし、降り注ぐ水の中に佇む一体のポケモンの姿を凝視する。 巨大な胴体に両肩から立ち昇る業火、さらに大砲のように太い両腕を持つポケモン――ブーバーンだ。 確かにブーバーンは炎タイプの中でも屈指の火力を誇るポケモンで、広範囲に波乗りを広げてしまった分その火力で多少なら蒸発させられることも考えられる。 だが、解せない――
「いくらブーバーンだからって、あり得ない。私のゴルダックの波乗りを蒸発させるなんて」 「貴方はさっき私の質問に答えてくれたから、教えてあげる」
唖然とするマリンを前に、ブーバーンがゴルダックに向けて腕を向ける。
「貴方の言う通り、普通ならいくらブーバーンでも波乗りに負けて私の負けだったわ」
その手に宿る炎が強さを増していき、既に攻撃の準備が完了しつつある。
「でも貴方の放った波乗りには、一つだけ燃える要素が含まれていたの」 「そりゃ、水素は爆発するけど……電気分解してな――」 「違うわ。先ほどまでの不毛なやり取り。その結果辺りに飛散した、私が事前に巻いておいた種……それが芽生えて、花となった」 「……糸!?」 「そう、アリアドスの糸。しかもその糸はとても繊細で上質なため空気が浸透しやすく燃えやすいようにしておいた。さらに表面の密度を上げることで中に水が浸透せず、同時に攻撃力も上がるからカモフラージュにもなる」
ブーバーンの攻撃の準備が完了し、ようやくその愚鈍なモーションに気付いたマリンは、水がほとんど無くなったフィールドに立っているゴルダックを見る。 その周りにもまだ大量にアリアドスの糸が残っており、タタが二回両手を叩く。
「はいはい。ではこれにて、大木一本吹っ飛ばした分の報いを受けてもらおうかしら」 「ゴルダック! そこから離れ……間に合わない! っち、ハイドロポンプ!」 「ごめんなさいね。それも間に合わない」
マリンの指示とほぼ同時のタイミングで放たれた巨大な火炎放射はゴルダックが放ったハイドロポンプではなく、地面に大量に伸びているアリアドスの糸の一端に直撃する。 あっと言う前に炎がゴルダック全体を包み込むと同時にハイドロポンプがブーバーンに直撃するがその巨体は倒れず、さらに追撃と言わんばかりにブーバーンがゴルダックのいる場所に右手を向ける。 その動作を見たマリンは慌ててモンスターボールを右手に掴むが、近くの糸に引火した炎が小さな爆発染みた巨大な炎を起こし、その動きが硬直する。
「もー何でこんなタイミングで!?」 「自然が私に勝てって微笑んでるのかしらね。フィールドがもっと水で満ちてたら、私が負けてたかもね」 「そんな仮定、勝ってからいいなさいってのよ!」 「そのつもりよ。ブーバーン、終わらせてあげよう。炎に苦しむ、あのポケモンを」
タタの指を鳴らす合図と共にブーバーンの腕から巨大なエネルギーの塊が放たれ、それは一直線に、業火の中で苦しむゴルダックへと直撃する。 強烈な破壊光線による爆発に吹き飛ばされたゴルダックは遠方まで吹き飛び、更なる爆発で空気中の酸素が一気に無くなり、広がっていた炎が一気にその威力を弱める。 振り返ったマリンはゴルダックのもとへ駆け寄る。倒れているゴルダックは既に戦闘不能になっており、指一本動かすのがやっとの状態だ。 終わった――タタがほっと胸を撫で下ろした瞬間、彼女の前方に居た巨体が僅かにふらつき、片膝と右手を地面についた状態で何とか体勢を立て直す。 慌てたタタがブーバーンに駆け寄ると、後姿では分かり辛かったが、ブーバーンは若干苦しげな表情を浮かべている。 喰らった攻撃は威力が弱体化していたハイドロポンプただ一発……そのただ一発にも拘らず、ブーバーンにそれ相応のダメージを与えていた。 もし火炎放射を放つのがもう少し遅く、完全な状態で攻撃を喰らっていたら――その一発でKO負けもあり得た状況に、タタは息を飲む。
「……ったく、恐ろしい子ね。さすがは過去カントーで三強と言われていたってところかしら」
苦笑したタタは倒れたゴルダックをボールに戻し、溜息と共に項垂れていたマリンに元へ歩み寄る。 背後から迫って来る足音にマリンは気だるそうに反応し、手を差し伸べるタタを見て目を細める。
「何よ?」 「見て分からない?」 「……はぁー三強なんて偉そうに粋がってたくせに、あの二人どころか造園師にすら勝てないなんて」 「接戦だったじゃない。正直、今回はこのフィールドが味方してくれた節が大きいわ」 「別にフィールドのせいで負けたなんて負け惜しみ言うつもりはないわよ。ただこのテレビ見て、レッドとグリーンの奴はどう思ってんのかなーって思って」 「知り合い?」 「いや、いつか私の手で完膚なきまでに倒すべき存在。まぁ、ライバルってのかな」 「ボーイフレンドがいるだけ良いじゃない。私なんて……はぁー」 「どしたの?」 「何でも無い! ほら、さっさと控室に戻るわよ!」 「うわっ!? ちょ、引っ張らないでよー!」
倒れていたマリンの手を強引に掴んだタタは何故か半ばやけくそ気味に歩き出し、大歓声の会場を後にする。
『白熱のバトルでした! そして試合終了後、両者共に健闘を讃え合うかのように退場して行きます! 友情を感じます!』 「ちょっと待てー! この拉致のような力技のどこに『友情』があるのよ!? って、痛い痛い痛い放してー!」 『さて、次のバトルはジョウト代表のシリュウ選手とシンオウ代表のヨウタ選手です。バトルは休憩を挟んだ十分後、次はどのような試合が行われるのでしょうか!?』
「えっ、師匠がいない?」
会場の怒号による地鳴りをその身に感じる選手控室で、アスカは気の抜けた声でそう聞き返す。 小型カメラを持ったスミレは不安そうにアスカの問いに頷き、困った様に頬を掻く。
「そうなの。最初の試合前の心境を聞いておきたかったのだけれど、ヨウタ選手の後にって思ったらいつの間にかいなくて」 「うーんトイレかなー。いやでも師匠って試合前は基本的に精神統一してその場から動かないものなのに……いやでも、もしかしてこのパターンは……」 「な、何か心当たりがあるんですか?」 「まさか、師匠……なんてこと、だからあれほどするなって私は言っておいたのに!?」
アスカはまるで中に入るなと忠告した我が子どもがそれを無視して看板を素通りした場所を目撃したように怒鳴り、それと同時に控室から飛び出す。 向かう先は決まっている。後ろから根性で付いて来るスミレだが、アスカの足の速さに既に息が上がっている。カメラなど回している暇はない。
「ア、アスカさん……ま、待って下さい!……ど、どこに行くんですかー!?」 「医務室!」 「シリュウさんは……はぁ、はぁ……じ、持病か何かお持ちなんですか?」 「違うわよ。もーあの人の趣味なの、『アレ』は!」 「『アレ』って……はぁ、何ですかー!?」 「献血!」 「……は、はへえええ!?」
あまりに予想外の原因にスミレは一気に力が抜け、アスカはそんな彼女を置いて医務室に急ぐ。
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Re: 短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.7 ) |
- 日時: 2010/09/15 23:55
- 名前: 月光
- 医務室についたアスカは息を切らしながら扉をノックし、ゆっくりと扉を開いて医務室の中に入る。
「あらあら、また患者さんかしら?」
回転椅子に腰掛け書類に目を通していた女性はくたくたのアスカを見るなり、クスクスと笑いながら微笑みかける。
「あの、師匠がここに来てませんか?」 「師匠? 今いるのはさっき負けたマリンさんのポケモンと、シリュウさんって参加者だけね」 「その人です! どこ、どこのベッド!?」 「あらあら、シリュウさんのお弟子さんなの。顔色が優れなかったから点滴打ってるわ、あの奥のカーテンがかかってるベッドよ」 「あ、ありがとうございます!」
クスクスと笑う看護師の指差したベッドに早歩きで近づいて行き、アスカはカーテンの隙間から一度中の様子を窺う。 中には点滴の針を右腕に指しているシリュウが暇そうに寝転がっており、小さく安堵のため息をついたアスカの存在に気付いたのか、視線をカーテンの奥に向けた。
「アスカか、悪いなこんな状況で。どうやらお前を殴り過ぎて、体力が尽きたらしい」 「何で試合前日なのに献血するんですか! あれほど試合前はしないように言っておいたのに、私の心配りが完全に無意味じゃないですか」 「仕方ないだろう。『献血をお願いします』と言われて断れるほど、俺は献血を嫌っていない」 「理由になってませんよー師匠」 「調子に乗って二ヶ所でやったのがまずかったな」 「だから! それが可笑しいって言ってるんです!?」 「医務室ではお静かにー」
回転椅子に座っている看護師の注意にアスカははっとして口を塞ぎ、相変わらずカーテン越しに小声で話す。
「どうするんですか、このままだと不戦勝になっちゃいますよ」 「無理だな。ヨウタと言う選手には悪いが、とてもじゃないが戦える状況ではない」 「……師匠が出れば、絶対勝てるのに」 「どうだかな、この大会のレベルの高さはお前の方が一足先に感じているだろう。俺が本気を出しても、際どいかもしれん」 「私、優勝して見せます。師匠の為にも」 「気を張り過ぎると負けるぞ。まぁ、期待させてもらおうか」
カーテン越しにクスクスと笑う声が聞こえると同時に、大事に至っていなかったことにアスカは薄らと微笑み、ほっと胸を撫で下ろす。 横目でそれを見ていた看護師は気だるそうに溜息をつき、「若いって良いわねー」っと億劫そうに呟く、小声で。 同時に力無く医務室の扉が開くと同時にくたくたになってやってきたスミレが入室し、二三歩歩くと同時に力無くその場に座り込んで停止。 さすがに面倒臭くなってきたのか看護師も額に手を当てだるそうに溜息をつき、とりあえずコップに水を汲んでそれをスミレに差し出す。
「ほら、どうぞ」 「あぁ……どうも、すみません」
受け取った水を息を少し整えてから一気に飲み干し、大きく息を吐いてからコップを看護師に返す。
「アスカさん、シリュウさんの様子はどうでしたか?」
既に十分以上の時間が経過しており、トレーナーサイドにはヨウタが今か今かと戦いを待ち、イライラしているのか、腕を組みながら足先で何度も地面を叩く。 早く強敵と戦いたいヨウタとしては必要以上に焦らされる今の状態は地獄同然、地面を蹴飛ばしたり地団太踏んだり、兎に角はち切れ寸前だ。 頻りに会場の隅にある放送室を睨み付けるヨウタの視線に司会者も視線を逸らしながらただ黙っており、そんな彼の元に神の救いの如く一枚の紙が横から差し出された。 何だ?――文面を眺めながら顔を顰める司会者の表情を窺うヨウタは、不満十分の表情のまま司会者の言葉を待つ。
『只今情報が入りました。第三試合のトレーナー、シリュウ選手が体調不良で医務室に運ばれたため、この第三試合はヨウタ選手の不戦勝となります』
いきなり何の前触れも無く不戦勝になったことに会場はどよめきに包まれ、同時にフラストレーションマックス状態のヨウタの血管が僅かにキレる。 プルプルと震えるヨウタの元へ不戦勝を告げにスタッフが駆け付けると、彼は射殺すような鋭い視線と同時にそのスタッフの襟首を掴み、引きちぎれるぐらいに胸倉を引っ張った。
「どーいうこっちゃいこりゃ!? あぁ!? こっちは十分以上待たされてんだよ体調不良じゃなくて明確な病名なりなんなり言わんか俺はな電車で『ただいま人身事故が発生しましたため』って言うだけで原因言わない国鉄とかも大嫌いなんだよ!」 「っちょ!? お、落ち着いてくだぐるじいですから!」 「誰でも良いから強い奴呼んで来いよさもないと俺は内側から破裂してこの辺一帯に血液ばらまげへ!?」
スタッフを掴み挙げていたヨウタは腹部に唐突に走った激痛に悲鳴を上げ、スタッフを落すと同時に真下を見る。 腹を見ると服が若干凍りついており、その氷の発生している相手の手から徐々に体へと視線を移して行き見た姿、勝手にボールから出て来た、彼のフローゼル。 冷凍パンチの直撃を受けたヨウタはその激痛からゆっくりと後ろに傾き、その視界が黒く染まっていく。
「キュリー、お前もか……」
倒れ込んだヨウタの足を掴んだキュリーと呼ばれたフローゼルはそのまま彼を引き摺り、出入り口を通りフィールドから出て行く。
『えー、ヨウタ選手と相方のフローゼルによるコントでした。次は第四試合! シグレ選手対カズハ選手! 互いにライバル視していると言う因縁の対決なだけに、これは目が離せません。お客様には大変申し訳ありませんが、選手準備のためもうしばらくお待ちください』
選手控室でディスプレイを眺めていたカズハはようやく出番が来たとばかりににんまり笑うと、立ち上がって離れた場所にいるシグレの元へ歩み寄る。
「ようやく俺たちの番だな。いいか、俺は絶対にお前には負けねー」 「粋がるのは良いが、精々それが空回りに終わらないと良いな」 「そうやって冷静ぶって今のうちに言いたいこと言っておいた方が良いぜ、今日でテメーは晴れて俺より弱いと万人に知られるからな」 「そうか、なら手加減せずに全力で貴様を潰してやる。今のうちの吠えたいだけ吠えてろ」
二人の間に渦巻く邪悪でどす黒い空気に周りの全員関わりたくないと言わんばかりにスルーを決め込み、記者団もその険悪な雰囲気に近づけずにいる。 端のソファーでは先ほどの衝撃から目が覚めたヨウタがゆっくりと起き上がり、不戦勝になったのを知って再び暴れそうになるが、キュリーの冷凍パンチを頭に受けて再びダウン。 立ち上がったシグレより一歩先に行かんとばかりにカズハは先に選手控室を後にし、呆れたように溜息をつくが、シグレも負けじと早足で控室を後にした。 険悪な雰囲気がようやく無くなったことに記者団がどっと溜まっていた緊張を重苦しい息と共に吐き出し、アスカは二人の幼稚さに少し呆れて溜息をつく。
「どーして男の子って血気盛んなのかしらねー、うちの師匠がマシに見えて来た」 「そう言えば、アスカさんはどう言う経緯でシリュウさんと師弟関係になったんですか? こう言うと何ですが、あの人は余り弟子を取るように見えないんですけど、年齢的にもあまり差が無いように見えますし」
メモ帳とペンを要したスミレは記者モードに入る。
「師匠はお堅いですからねー、多分弟子入り志願しても突っぱねられると思いますよ」 「でもアスカさんは彼は師弟関係なんですよね?」 「私が初めて旅に出た日、タウンマップを持ってたのに物の見事に迷子になっちゃったんですよ、私が。そのとき助けてくれたのが、師匠だったんです」 「助けてくれたっと言うことは、野生ポケモンに襲われていたのですか?」 「いやいや純粋に道に迷ってくたびれてたって意味っすよー。五年ぐらい前だから私もまだ子どもだったし、私夜が怖くてねーおお泣きしてたみたい」 「それで、シリュウさんが助けてくれたと」 「野生のスピアーに襲われそうになったとき、師匠が間一髪で助けてくれたんです。隣町まで連れて行ってくれて、ポケモンセンターへの泊まり方も教えてくれた。私は、あの人に憧れた。いつかあんな人になりたいって」 「なるほど……でも、結局どうやって弟子入りしたんですか?」 「いやー素直に『弟子にしてください』って言ったけど突っぱねられたから、ずっとあの人の後ついて回ったんですよ。途中ではかなり疎まれてたけど、最終的に私が勝ったーみたいな」 「根比べで勝ったと言うことですか。ちなみにどれぐらいの期間彼の後をついて行ったか覚えてますか?」 「六ヶ月ぐらいかな」 「なが!?」
素直に本音が出てしまったスミレを前にアスカはちょっと顔を赤くしながら笑い、それを打ち切るようにブザーが鳴ると、二つのディスプレイにカズハとシグレの姿が映る。 二人がそれぞれの出入口からフィールドに現れると同時に大歓声が起き、その衝撃で起きたヨウタを再びキュリーが冷凍パンチでノックアウト。 真っ直ぐに互いを見据えた二人の間には激しい熱線が飛び交い、両者が一歩ずつ近づいて行く度、その度合いが飛躍的に伸びているのが観客にも見えているはずだ。 カズハとシグレが互いのトレーナーサイドについた瞬間にフィールドを決定するルーレットが周り出し、両者がこれから戦うフィールドを決定すべく回転する。
『フィールドが間もなく決定します。果たして、フィールドはどこにって、えぇ!?』
ルーレットが止まる……より早く、カズハとシグレは同時に持っていたモンスターボールを投げると、褐色の光と共にモンスターボールから互いのパートナの姿を現した。 司会者がいきなりのフライングで驚く中、ルーレットが指したフィールドは何の変哲も変化も無い最もニュートラルのフィールド『コロシアム』だ。 何の変化も無い、アスカ達が戦った『草原』のフィールド以上に純粋な戦いが強いられ、ある意味普通過ぎる場所。 シグレが投げたボールから現れたのはオレンジ色の肌に強靭な翼、激しい方向と共に炎を噴き出す凶悪さを露骨に表すポケモン、リザードン。 対するカズハは四本の腕に強力な筋肉を蓄える怪力無双のポケモン、カイリキー。 シグレとカズハは同時にそれぞれのポケモンに指示を飛ばすとそれぞれのポケモンが一気に走り出し、フィールドの中央で激突する。
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Re: 短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.8 ) |
- 日時: 2010/09/15 23:55
- 名前: 月光
- 低空で宙を舞うリザードンと一直線に迫るカイリキーがフィールドの中央で激突し、両者の両腕がそれぞれ握り合い互いに相手を押し合う。
拮抗しているように思われたが直ぐにカイリキーがリザードンを後ろ後ろへと押して行き、背中を反らせて踏ん張るが力比べで分が悪いのは見るからに明らか。 顔を少し横に向けて横目でシグレの指示を仰ぐリザードンに対し、シグレは軽く右手を横に倒し、それを上に持ち上げる合図。 小さく頷いたリザードンは必死に支えていた腕の力を抜くと同時に意図的に後ろに倒れ込み、右足をカイリキーの腹に潜り込ませて持ち上げた。 不意を突かれたカイリキーはその巴投げにまんまと掛かるが、残っていた下の二本の手でリザードンの足首を掴み、一瞬取り乱したリザードンの両手を振り払う。 背中から落ちるはずだったカイリキーは難なく両足で着地すると同時に、背中のしなりを利かせてリザードンの足首を握る手に力を入れた。
「猪口才な小技何て意味ねーぜ、そのまま叩きつけてやりな!」 「リザードン、完全に逃げようとするな。狙え!」
一撃必殺にすら思える強力な筋肉と強烈な腕力によりリザードンを振り上げると同時に、リザードンの右翼が大きく広がる。 叩きつける……より僅かに早くリザードンの右翼がカイリキーの左腕を小さく斬り裂き、左手のフックが緩まった。 しかしそれで攻撃が終わるわけではなく、右手一本ですら十分と言えるほどの強烈な速度による叩きつけにより、何かが破裂するような強烈な音と同時に、リザードンの体が地面から跳ね上がる。 それを追撃するようにジャンプしたカイリキーより一歩先にリザードンが空中で姿勢を整え、目の前に迫ったカイリキーの側頭部を強烈にキック。 さらに口から溢れ出る強烈な炎を吐き出す……と思われた瞬間、リザードンが空中で激しく咳き込み、炎はその咳と共に空中に飛散した。 落されたカイリキーは背中から直撃で落ちるが素早く立ち上がり、地面に降りて来たリザードンとの間合いを慎重に詰める。
「おいおい、炎の出せないリザードン何て電気の出せないピカチュウよりしょぼいんじゃねーか」 「馬鹿にしないことだな。ピカチュウは電気が出無くても可愛さで人気がある」 「そいつはどうなのよ?」 「格好良さで人気がある。別に、炎が出無くてもお前如き葬り去るのに苦労は無いけどな」 「劣勢のトレーナーの台詞がそれかい、一匹目で終わらせてやるよ! カイリキー!」
カズハの指示と同時にカイリキーがフィールドを駆け出し、一気にリザードンとの間合いを詰める。 だがそれよりも早くリザードンは翼を羽ばたかせると同時に口から炎の代わりに黒い煙、煙幕を噴き出し辺り一面を黒く染め上げ、カズハとカイリキーの視界の外へ。 同時にリザードンがボールに戻されたのか僅かに煙幕の一部が褐色に光、同時に新たに何かが繰り出されたが、相手の姿が見えない。 相手が分からない――幾度となく戦っている二人だがその都度に二人は若干ポケモンが変わっているのだ、恐らく相手はカイリキーに有利なタイプ。 交換のためにカズハがボールに手を掛けた瞬間、薄気味悪い紫色やら黄色に輝く光線が煙幕を突き破り、一直線にカイリキーへ襲い掛かる。 完全に交換に向いていた意識の間隙を突かれたカズハはカイリキーへの指示が遅れ、体を捻るも右肩に光線が当たったカイリキーが弾かれ、彼の前まで吹っ飛んだ。
「物理って感じじゃないな。特殊攻撃、しかもカイリキーがここまで吹き飛ばされる……最悪だ、相手はあいつか!」 「お前はタイミングを誤った。このレベルの大会、一瞬の判断ミスで即死だぞ」
未だにフィールドは局所的に濃い煙幕に包まれており、接近戦を得意とするカイリキーとしては相手が見えないこの状況は圧倒的不利。 対して相手はエスパータイプの技、サイケこうせんを使ったことから察せられるにまずエスパータイプと見て間違いない。 巨体のカイリキーを肩に当てただけで吹き飛ばすほどの圧倒的念動力を持つポケモン、煙幕の中からであっても恐らくは的確にその位置を掴み、攻撃を当てて来る。 少なくても相手の姿を見えなければ勝算は皆無に等しいが、カイリキーを交代するだけの隙を与えぬ連続攻撃に、避けるだけで既に精一杯。 ただ攻撃を避けて、煙幕が晴れるのを悠長に待っているだけでは、反撃できるタイミングを窺うだけでは勝てない。 むしろ今の状況を利用しなければいけない、煙幕で姿が見えないことで心のどこかに生じている隙……カズハはカイリキーの後ろに常につくように移動しつつ、煙幕を見据える。 最適である、そのタイミングを狙うため。
「リザードンの煙幕うまく利用したわね。カイリキーに反撃のチャンスが来るのは当分先だし、交代する余裕も無いからカズハさんはかなり苦しそうね」 「そうかしら、どっちかと言うと何か狙ってるくさいなーあの目。何か持ってるわね、打開策」
ビデオカメラを回しながら小声を呟くスミレに、後ろでソファーに寄りかかりながらアイスクリームを舐めているアスカが口を挟む。 エアコンが十分に効いている部屋なのに寒くないのかな――スミレのちょっと心配そうな視線などなんとも思わず、アスカは視線はただただフィールドの二人と二匹。
「狙っている? カイリキーを交代せず、このまま行く手をですか」 「相手は相当なエスパータイプ、普通に待ってたらまず勝てない。私ならそうね、この状況を一気に変える手を考えるわ」 「そんな都合の良い手があるのかしら」 「さぁね。でもまあそんな都合の良い手を作らないと、勝てないわよ」
煙幕の影響でシグレ自身も相手の姿と自分のポケモンを目視できないでいるが、目で見る必要が無いほどに自身のポケモンのこの状況下での強さには自信がある。 実際に先ほどから彼の繰り出した二番手、フーディンのサイケこうせんは煙幕を突き破りながら何度もカイリキーに襲い掛かり、致命傷ではないまでも確実にダメージを蓄積していた。 観客が何やら騒がしいが、完全に相手を出し抜いた状況に優位を感じているシグレには、それすらカイリキーの逃げ回る姿への反応にしか思えない。 両腕を組んで不敵に笑っていたシグレは唐突に右の頬に小さな冷たさを感じ取ると、一瞬驚いて目を瞑ってしまったが、目を開けてみると空から何かがぽつぽつと降り出す。 雨だ……上を見ると先ほどまで晴々していた青空の一部に黒い雨雲が生み出されており、そこから降り出す雨がフィールドを突き差したのだ。
「こんなタイミングで雨?……しまった!? フーディン、リフレク――」 「おせーぜ! カイリキー、ばくれつパンチ!」
上を向いている一瞬の間により降り注いだ雨がフィールドに蔓延する煙幕を吸い尽し、晴れた視界の中でカイリキーが姿丸出しのフーディンに迫る。 物理防御力を上昇する補助技、リフレクターが発動するより一歩早くカイリキーの拳がフーディンの腹部を強烈に捉え、その華奢な体が大空に舞い上がった。 しかし吹き飛ばされたフーディンも空中で体を翻すと同時にスプーンの切っ先をカイリキーに向け、パンチにより体勢が固定されている相手に強烈な光線を叩き込む。 一瞬のやり取り……それぞれのトレーナーの前に吹き飛ばされたポケモンたちは完全に動くことが無く、カズハとシグレの呼びかけに両方とも応えない。 審判が駆け付けフーディンとカイリキーの様子をそれぞれ確認し、赤と白の旗を使ってバツ印を描き、放送室に向かって首を横に振る。
『な、何と両者ノックダウン! ライバル同士の第四試合、まさかまさかの両者ノックダウン! これによって予定されていたこの勝負の勝者とシードであるエリサ選手の試合が飛ばされ、ヨウタ選手対エリサ選手になります!』
完全にノックアウトされたポケモンをボールに戻し、カズハとシグレは互いに激しい火花を散らす視線を交えながら、フィールドの中央で睨み合う。
「やってくれるじゃねーの、煙幕だけであんな不利になるとは思わなかったぜ」 「お前こそやってくれたな。まさかカイリキーがあまごいを使うとはな、俺の計算の外だった」 「本当はこの後でトドゼルガに交代するつもりだったが、まあ結果こうなっちまったもんは仕方ない。っは、良い勝負だったぜ」 「お前こそ不得意タイプ相手によくやった方だな。だが、次は絶対に叩き潰す」 「やって見やがれバーカ」
笑いながら暴言を吐くカズハが右の拳を前に出し、そっぽを向きながら鼻で笑うシグレが左の拳を出し、互いに軽くぶつけてから互いに反対の道を進む。 大量の歓声に見送られながら二人はそれぞれの出入り口から出て行き、司会者がそれを確認してから次の予定を急いで確認。
『両者の友情に私も胸が熱くなりました! 次の試合はシードのリア選手と第一試合勝者であるアスカ選手による試合です! 開始は十分後、皆様楽しみにお待ちください!』
激しい風が旗を靡かせるドーム上部にあるテラス、タマムシシティの街並みを見ながらポケギアを手に持つ男は、飄々とした表情でただ相手と会話を進める。
『どうやら一回戦が終わったみたいね。放送室、電力室、電子制御室、会場の各所の配置は既に整ったらしいわ』 「よし、後は全てが終わるまで待てばいい。余計なことはするな、A8からA10には特に団員の制御を徹底させろ。余計な動きを察知され、手を打たれては詰まらん」 『了解。それじゃあ、私はここで待たしてもらうわ』 「……なぁA7、お前はこの作戦に、何を期待している」 『なぁに今さら、ロケット団の復活、サカキ様の復帰。それ以外ないでしょう。貴方は違うのかしら」 「さぁな……すまない、もう一つ用事が増えそうだ。お前にもう少し働いてもらおう」
ドーム上部にあるテラスの入り口の横の壁に張り付いているマリンはギリギリまで姿を見せないようにしながら、柵に肘をついて会話をする男を見る。 会話の内容が全て聞こえるわけでは無いがその男が醸し出す雰囲気、所々聞こえるワードに、不穏なものを感じずにはいられない。
「何であいつがここに……」
相変わらずポケギア相手に会話をする男から目を放し、マリンは急いで自分のポケギアを取り出して警察の番号を入力する。
――マズイ、この雰囲気はまずい。早くしないと
「何をしている。そんなところでこそこそと」 「ッ!?」
まるで瞬間移動でもしたかのように突如として後ろに現れた男に、マリンは心臓が止まるほどの衝撃と共に手に持っていたポケギアを蹴り飛ばされる。 一歩後ろに下がると同時にポケットに手を伸ばし、ボールを手に……できない。 チャンピオンリーグでは敗者は念のためにポケモンを全て医療室に預けて治療を受けさせ、閉会式と同時に返却されるのだ。 その既成事実を思い出すと同時にマリンは一つの思考に至り、歯を噛み締めて目の前の男を睨み付ける。
「まさか、この大会がそもそも!?」 「悪いが便乗させてもらったよ、これほど都合の良い場所もなかなか無かったからな。そのルール、不自然だと思わなかったのか? 何故『傷付いて無いポケモンまで預ける』必要がある? 全く、やりやすくなる」
男の悪魔のような、しかしその余裕の表情からは笑み一つ零れず、背中に強烈な寒気を感じたマリンは一気に踵を返す。 だがそれよりも早く男が一瞬にしてマリンの横に飛び込むと、初めて小さな笑みを浮かべた。
「殺しはしない。喜べ、君は安全圏だ」
言葉と同時に男の拳がマリンの右脇腹を捉え、彼女の体が地面から浮かび上がり階段へ向かって一直線に吹き飛ばされる。 右手を伸ばすが男の右手の甲を僅かに引っ掻いただけで終わり、彼女の体が怪談の角に叩きつけられ、さらに何度も何度も転がりながら、最終的に下の階の扉にぶつかって止まった。 死んではいないものの完全に完全に意識を失っており、むしろこれだけ豪快に転がり落ちて大きな傷が見られないのは奇跡的と言って良いはずだ。 男は階段をゆっくりとした足取りで下りて行き、倒れているマリンを持ち上げて背負い、そのまま廊下を歩き出す。
「悪く思うな。そこにいたお前が悪い」
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Re: 短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.9 ) |
- 日時: 2010/09/16 00:13
- 名前: 月光
- 短く感じられた十分間の短い休憩を挟み、アスカとリアはそれぞれ対極に位置する出入り口から姿を現し、会場が再び熱気で溢れる。
一歩一歩と歩み寄りアスカとリアはトレーナーサイドに入り、司会者の合図と同時に大型ディスプレイのフィールド決定ルーレットがゆっくりと動き出した。 ベルトが鬱陶しいほどジャラジャラと巻かれている黒のジャケットをはためかせながら、リアはアスカを指差し薄らと笑う。
「ようやく僕の出番が来たわけだね。出番が無いまま道化になっちゃ、誰の悲劇も生まれない」 「はぁ、何言ってるかは訳分からないけど、とりあえず貴方はサーカス団に入団希望ってことでいいのかしら」 「それも良いかもしれないね。この大会、僕はトレーナーとしての人生を賭けていてね、君には悪いがここで終わりにしてあげよう」 「同情でもしてほしいのかしら? 悪いけど、私だって負けられないのよ。さっき格好つけちゃったしね」 「年上に花を持たせると言うのも、大事なものだよお譲さん」
フィールドを差すルーレットがゆっくりと速度を落して行き、二人が戦うべきフィールドが決定される。 指定されたフィールドは『海』。ディスプレイが光ると同時にアスカとリアの立っているトレーナーサイドの四方が小さく煙を噴き出し、さらにフィールドを十分に囲むほどの壁が円を描いて地面から飛び出した。 全ての壁の下部がゆっくりと開くと共にそこから大量の水が噴き出し、アスカが慌ててムクホークのフルックを出して逃げようとするが、それより早くトレーナーサイドがゆっくりと浮かび上がる。 まるで巨大なビート板の上に立っているような不安定な気持ちに駆られながら、尻餅ついているアスカを見てリアは薄ら笑いながら小さな溜息。
「あはは、今の君は突然現れたハリボテのエンテイに驚いて倒れる道化みたいだ。君の就職先にも良いんじゃないか、サーカス団」 「ぬぅ、こ、これは別に驚いたわけじゃないもん! 私はね、ただ泳げないだけよ!」 「……素晴らしい悲劇だ」 「はぁ?」 「泳げない少女が海のフィールドで戦い、敗れ、涙し、最終的に海に身投げするも誰かの手によって助け出される! 素晴らしい悲劇、人は悲しみを乗り越えて成長する!」 「駄目だこの人、頭が少し愉快なことになっちゃってる。危ない薬でもやってるんじゃないかしら」 「おっと、僕としたことがちょっとだけ感化されてしまったようだ。さて、手加減はしない。当たり前だけどね」 「泳げないからって私が海のフィールドが苦手だと思ってんなら、それは大間違いよ! 英語の回答にアラビア語を書くぐらい間違いよ!」
――彼女の方も相当頭が愉快なようだ
リアのちょっと哀れみが込められた視線に気づかないアスカは、腰から取り出したボールを大きくフィールドに投げ込み、褐色の光が稲妻となり海に落ちる。 徐々に現れたその姿は長い首に水色の体、人が乗るのに適している巨大な甲羅を持つのりものポケモン、ラプラスだ。 対するリアの投げたボールから現れた褐色の光は海の表面に落ちることは無く空中でその姿を現し、ラプラスよりかなり小型のポケモンが姿を現した。 特殊攻撃系を得意とするマジカルポケモン、ムーマージは空中に現れると同時に大きく眼を見開くと、アスカの目の前に突然絵にかいたような目玉が跳び出す。 驚きと同時に一歩後ろに下がった瞬間、今度はボールの開閉スイッチにも同じような目玉のマークが現れ、いくら押してもボールが反応しない。
「先手で悪いね、くろいまなざしで君のポケモンは逃げられない」 「……最初っから逃げる気なんてさらさらないっすよ。プラス、相手の出方が分からない以上は様子みよ。潜りなさい!」 「させるか。ゴネリア」
リアの指示より早く既にゴネリアと呼ばれたムーマージは目の前に生み出した不気味な色を輝く球体をラプラス目掛けて打ち出し、ラプラスも急いで海の中に潜る。 間一髪のところでシャドーボールを回避したラプラスは海の底に潜り、再びムーマージがシャドーボールを繰り出し連打するが、水圧で威力が減衰し、その攻撃も全く当たらない。 相手の姿が見えない以上攻撃はできないし、リアはアスカの視線を確認するが、彼女の視線は彼のムーマージを常に捉えていたラプラスを見てはいないようだ。 不規則に動き回るムーマージに視線を戻した瞬間、水面に映る影が僅かだが盛り上がると、リアは目を見開く。
「避けろ!」
一瞬にして感じ取った攻撃の気配をいち早く叫んだリアの声に反応し、ムーマージは進行コースを直角に変化した瞬間、水面を突き破りラプラスが敵へと突撃。 かろうじて回避したように見えたが、ラプラス特有の長い首をダイナミックに振り回し、頭の突起がムーマージの急所を強烈に取られる。 吹き飛ばされるムーマージ……だけではなく、攻撃したラプラスも同時に激しい衝撃に襲われ、背中から先ほど飛び出して来た水面に落下し、激突した。 直ぐに姿勢を立て直したムーマージのダメージが観客やアスカが想像したより遥かに軽く、逆に無傷なはずのラプラスの方も相応のダメージを負っている。
「まさか、嫌味なムーマージね」 「悲劇の痛みは皆で分け合うものさ、君がゴネリアを仕留められない限り、いたみわけは効果を発揮する」 「なら何度でも捉えるだけよ。プラス!……あれ?」 「同じことを二回する道化はつまらないだろう。ゴネリア、やれ」 「プラス、何で潜らな……ッチ、反撃して!」
アスカの混乱の隙をついたムーマージの強烈なシャドーボールとラプラスから放たれた冷凍ビームが空中で激突し、激しい衝撃波が辺り一面に吹き荒れる。 どうやらムーマージの攻撃は恐らくシャドーボールのみ、さらにエネルギーを溜めて放った攻撃がラプラスの一瞬の攻撃と互角だった辺り、火力の面ではあまり心配することはない。 むしろ怖いのは先ほどの『いちゃもん』による技の制限、そして『いたみわけ』によるダメージの共有、さらに他にもいくつかの補助技を持っているはず。 再びアスカの指示によりラプラスが水中に潜る瞬間、ムーマージはあろうことか水面に近づいて行き、足を少しだけ水面に付けた。 格好の餌食――相手にどのような思惑があるか分からないが、アスカとしてこれは見逃すことができないほど、一撃でムーマージを倒すことができるチャンス。 迫る。だがラプラスの姿が僅かに水面から見えるようになった瞬間、ムーマージの体が激しく発光し、水中に電流が迸る。 相手を麻痺させる技、電磁波。だがリアの思惑とは裏腹にラプラスは攻撃を苦にせず、一直線にムーマージに迫り、頭部の突起で相手を吹き飛ばした。
「馬鹿な、麻痺してそれほどの機動性が出るはずが――」 「貴方のムーマージが状態異常を使って来る可能性があるのは踏んでたからね、悪いけど守らせてもらったわ」 「なるほど、しんぴのまもりか。だが、これで勝った気でいるのは些か早計だな」 「どうせ次で決ま……歌声?」
フィールドに響き渡るガラスのように綺麗な歌声、アスカがその歌い手であるムーマージを見た瞬間、邪悪に微笑む目がラプラスを捉えた。 背中に寒気が走る。アスカの精神の隙をついたリアはムーマージをボールに戻すと、次に新たなポケモンを繰り出す。 出て来たポケモンは再び水面の僅かに上にその姿を映し出した、僅かな冷気を纏って。 同時に水面に入水したラプラスの僅かに苦しみ始め、新たに姿を現したポケモン、ユキメノコの体が激しい稲妻を迸らせる。 マズイ――ラプラスがユキメノコ目掛け冷凍ビームを放つより早く、相手の放った雷がラプラスの周りに激しく降り注ぎ、ラプラスの背中に直撃し、冷凍ビームが水面に当たり氷の島を作った。 悲鳴とは思えない程に美しい声を上げるラプラスはを前に、ユキメノコは躊躇うことなく再び攻撃の準備へ。 エネルギーを溜め始めたユキメノコの攻撃の隙にアスカは瀕死寸前のラプラスをボールに戻し、次に出すポケモンを選定する。
「ゴネリアのくろいまなざしの効果が無くなったから君のラプラスは戻せるものの、ほろびのうたを使ったからな、そもそも戻さざるを得ない」 「ポケモンを交換する余裕なんて与えて、負けても知らないわよ」 「一回戦の君の戦いは見た。このフィールドでまともに戦えるのはもうムクホークしかいない、そして既に僕のリーガンは最高潮のボルテージ、どの道詰んだよ、君は」 「……やっぱり貴方、サーカス団に入るのがいいかもね」 「何?」 「今の貴方みたいなのを、道化って言うのよ!」
アスカがボールをフィールドに投げ込むと同時にユキメノコの雷が辺り一面に降り注ぎ、ボールから現れ、褐色の光の鱗を払ったのはバクフーン。
「馬鹿な、このフィールドじゃ立つことさえ――」 「貴方の目玉はピッピ人形の目玉なのかしら、スペースならちゃんとある!」
雷の直撃を受けたバクフーンは苦痛に表情を歪ませながらも何とか体勢を立て直し、だがそんなバクフーンの攻撃の準備を待たず、ユキメノコのシャドーボールが襲い掛かる。 雄叫びを上げるバクフーンは敢えてそれを避けて反撃しようとはせず、シャドーボールの直撃を受けて氷の上で僅かに仰け反った。 登場際に受けた至近距離での雷の直撃、さらに体勢を整える前に受けたシャドーボール、本来ならダウンしても可笑しくは無い攻撃の数々。 だが未だにバクフーンは立っている。リアは今にも倒れそうなバクフーンの姿を見て、納得したかのように小さく何度も頷く。
「なるほど、こらえるか。確かに次の攻撃に繋げるにはそれが最善の手だし、タイプ的にリーガンの不利は否めない。だがもはやそんなモノは関係無い」 「どうしてかしら?」 「君は全力のユキメノコを相手にするが、片や僕は一撃を課する程度で良い。違いは圧倒的さ」 「……あっそう。ルーシー! 一気に決めちゃいなさい!」 「リーガン、終わらせてあげ……何?」
広範囲攻撃である雷を打つためユキメノコの帯電が始まる……瞬間、突然力尽きたユキメノコは浮力を失うと同時に、ゆっくりとバクフーンの前へ落ちる。 何が起きたのか理解が追い付かないリアに対し、司会者もどのように実況したらいいか困っているが、アスカだけはただ一人爽快な笑みを浮かべ、右手の握り拳を振り上げてガッツポーズ。
『何が起きたのか、全く理解が追い付かない、追いつけない! ですがアスカ選手は高らかとガッツポーズ、そしてユキメノコは戦闘不能! 勝者はアスカ選手!』
水の排水が始まると同時に水位が一気に下がり、水が完全に抜けきるより早くリアはユキメノコの元へと駆け寄る。 アスカも完全に排水が終わり周りを覆っていた壁が無くなってからバクフーンの元へと歩み寄り、軽く頭を撫でてからボールに戻した。 何度もリアがユキメノコを確認するが、目立った外傷が見当たらない上、攻撃を受けた形跡が見られない。
「どう言うことだ、何故、何が……」 「私がプラスをボールに戻す前、何をしたか分かるかしら」 「いや……待て、僅かだが違和感が……そうだ、あの鮮やかに感じた悲鳴。そうか、君も」 「ほろびのうたを使わせてもらったわ。フルックだと一撃でやられていたかもしれないけど、ルーシーだから一撃ではやられなかった。そして二撃目も、狭い足場で避けきれないし、時を稼ぐことに集中した」 「そして、ほろびのうたの効果が来たっと言う訳か。全く君の言う通り、僕はとんだ道化だったようだな。恥ずかしい限りだ」 「とは言ってみたものの、実はほろびのうたの効果がもう少し遅かったら、やられてたのは私なんだけどね」 「決まった勝負にもしもは無い。過去の悲劇にも喜劇にも、もしもは無い。君は僕に勝った、その事実は変わり無いさ」
ユキメノコをボールに戻したリアはゆっくり立ち上がると、右手を差し出し微笑む。 その握手をアスカも受け、再び会場から鼓膜が割れんばかりの声援が飛び交った。
「僕の旅はここまでだ。いつの日か、また別の形で会えるのを楽しみにしていよう」 「えっ、閉会式どうせまた会うわよ」 「そう言うことじゃないさ、今度はもっと悲劇的で、喜劇的な場所であえることを願っているよ」 「……えぇ、またいつか」 「そうだ、君にはまだ教えて無かったな」 「何を?」 「僕の家は何かと両親が五月蠅くてね、優勝できなければプロトレーナーを止めるのもそれがある意味理由ではある。で、こう言う大会に出ると必ず何かしらSPとかを仕込むんだ、勝手に」 「それはまた、随分と苦労してるのね。親馬鹿に」 「その筋の情報だけど、この大会、何かがある。何かは分からないんだけど、どうも嫌な空気がするんだ。気をつけた方が良い」 「嫌な空気?」
アスカは周りの匂いを嗅ぐが特にこれと言った匂いはせず、先ほどまでしていた潮の匂いすら見事に無くなっている。
「もしかしたらこれは美しき喜劇の始まりなのか、はたまた絶望的な悲劇なのか……さて、どっちかな」 「貴方、小説家か詩人にでもなった方が良いんじゃない」 「それはよさそうだね、検討しておこう。それじゃあお譲さん、またあとで」
踵を返したリアは軽く手を振り、アスカの前から去って行く。 『何か』……リアの言葉に根拠の無い不安を感じたアスカは観客席を見渡し、その声援に応えて不安を紛らわす。
――何が、何かがあるの?
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Re: 短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.10 ) |
- 日時: 2010/09/16 02:08
- 名前: 月光
- 激戦を終えたアスカとリアは傷付いたポケモンを医務室に預け、現在彼女は選手の控室におり、リアの姿は周りには確認できない。
先ほど彼が述べていたことが気になっているアスカだが、今はまず目の前の大会で優勝することが最優先の目標。 しかし先ほど医務室に行った際にベッドにマリンが気を失った状態で寝ていたことをが、リアもそうだがアスカも少し疑問に思っていた。 看護士が言うに恐らく階段から足を滑らせて脳震盪を起こしたのだろうと言う。 ここ事態は別に不自然だとは思わない、体中に痣が沢山あったところを見るに階段から落ちて怪我をしたと言う彼女の言葉自体は恐らく本当だろう。 だがマリンを誰が運んできたかについてはあまり教えてはくれず、あくまで『知らない男性』としか言っていない。 あれほど運動性能に優れていたマリンがそんな簡単に階段から落ちて怪我なんてするかしら?――俯いて頭を捻るアスカだが、これがどうして不自然と思うか自体が不自然にすら思ってしまう。 シリュウの方は既に点滴も終わって体調を取り戻しており、看護師曰くあと少し安静にすればラストの試合には控室に戻って来れるらしい。
「うぅ、ラストの試合は師匠が直で見るんだ。負けられない」 「ぬうぅ……っは! ここはどこだ!? 試合はどうなった!? 今何時だそんなことはやっぱりどうでも良いから早く戦わせろ!」 「うわぁ、鬱陶しいのがまたお目覚めだわ」
先ほどまで何度も何度も気を失っていたヨウタはようやく完全に復活すると、フローゼルの冷凍パンチを右手でいなして軽快に回避する。 正直言ってアスカとしては五月蠅いので眠っていて欲しかったが、ここまでせっかく来てバトルが全くできていないフラストレーションを考えれば、まあ少しは哀れみも覚えるものだ。 ヨウタは壁に掛かっているディスプレイに表示されたトーナメントの表を確認し、先ほどアスカとリアの戦いが終わり、まだ自分の番が来ていないことに再び歯を噛み締めた。
「まだなのか! 俺はいつになったらこのイライラを解消できるんだ!」 「――フン、五月蠅いぞ貴様。カントーの馬鹿ゴリラは控室で大人しくすると言う常識すら学ばないのか。動物園のヤルキモノですらもう少し静かだ」 「一回戦楽しそーに戦ってたお前と違ってこっちはまだ何もしてないんだよ! それとも何か、お前がこのイライラを晴らしてくれるのか!?」
フローゼルに近づいて行ったアスカはその肩を軽くポンっと叩き、互いに頷き合うとゆっくりとヨウタに近づいて行く。
「何だ、やるのか? フン、今ポケモンは持っていないが、人間としてぶちのめしてやってもいいぞ」 「上等だちょっと表まで面か――ん? 何だ?」
後ろから肩を叩かれたヨウタが後ろを振り向いた瞬間、二つの拳がその顔面をクリティカルに捉える。
「五月蠅いってんのよ!」 「ぐほうぁ!」
アスカとフローゼルの強烈な拳をもろに受けたヨウタは派手に吹き飛ぶと同時に壁に叩きつけられ、ベッドで気を失っていたマリンより遥かに酷い状況に見える。 熱い友情が生まれたのか拳と拳を軽くぶつけ合ったアスカとフローゼルを前に、アダムは鼻を鳴らしてそそくさとその場から少し離れた。 壁にもたれてぐったりとしているヨウタをフローゼルが持ち上げると、そのまま少し離れた場所のソファーの上に彼の体を放り投げ、気が立っているのかさらに彼の腹部にもう一発パンチ。 あまりに酷い状態に少しうろたえたエリサがウェストポーチから塗り薬を取り出してヨウタに近づいた瞬間、その瞳が一気に見開かれ、エリサが小さな悲鳴を上げて立ち止まる。 何あいつ、化け物の一種なの?――横目で一連のやり取りを見ていたタタは首を左右に振って意識を鮮明にするヨウタを見て、同じ人間とは思えない何かを感じた。
「えーっとヨウタさん、大丈夫ですか?」 「あぁ、まるで問題ない」 「よかった。次戦う相手がまた居なくなったら、私としても悲しいわ」 「……そうか、俺の次の対戦相手はお前だったな。その服装、ポケモンレンジャーか。戦うのが楽しみだ」 「ホウエン代表のエリサです。慌てなくても、直ぐに戦えます。それまでは体調を整えておいて下さいね、後で負け惜しみは効きませんよ」 「手厳しい奴だな、いいだろ分かった。次はアスカとタタか……おいタタ、さっさと終わらせろよ」 「何で私にあんたが指図するのよ」 「同じシンオウ代表として応援してんじゃねーか、頑張れよー」 「ったく。とは言え、当然だけど負けるわけにはいかないわね」
鋭い視線で自身を見据えるタタの視線に気づいたのか、アスカもタタの視線に自分の視線を重ね、二人の間で意識と意識がぶつかり合う。 そんなタタのすぐ傍で座っていたアダムは小さく息をつくとともに立ち上がり、居心地の悪い選手控え室を出ると、廊下を駆けていたリアにぶつかり彼の華奢な体が反動で跳ね返された。 まるで子どもがぶつかったかのように微動だにしないアダムはリアの存在の存在に気が付くと手を伸ばし、リアもその手を受け取って弾みをつけて立ち上がる。
「お前、さっきから走り回っているようだが」 「ちょっと調べ事をしててね、走り回るのは得意じゃないから結構疲れているよ」 「……第六感と言うのを俺は信じる方なんだが、この大会、始まった瞬間から時折不穏な空気を感じる時がある。お前もそうだと言うなら、俺にも手伝わせろ」 「何も起きないのが一番良いんだけどね、手伝ってくれるならありがたい。ただ異変に気づいても下手に手出ししない方が良い、僕らは今ポケモンを持っていない」 「それも含め、何か不穏だ……不穏の正体を探す前に、俺は少しすることが出来た。嫌な予感には、少し手を打っておく」 「わかった。お互い、何事も無く後で会おうか」 「――フン、精々お互いくたばらんようにな」
リアが差し出した拳をアダムも拳で受けると、それぞれ別々の方向に向かって歩き出す。
医務室から回復したポケモンたちを受け取って来たアスカは一度深呼吸し、何度味わっても緊張する大歓声の海へと突き進む。
『さぁ出てまいりました! アダム選手とリア選手を立て続けに破ったアスカ選手が、迫力は今回の大会でもナンバーワンだった戦いを制したタタ選手が、ゆっくりとフィールド中央へと進んでいきます!』
それぞれ指定の位置に着くと同時にお決まりの大型ディスプレイによるルーレットが大きく回転を始め、アスカもタタも既にモンスターボールを右手に持つ。 徐々に回転の速度を落して行ったルーレットが次なるフィールドの場所を指定した瞬間にアスカとタタはそれぞれボールを投げ、同時に褐色の光がフィールドに稲妻となって落ちた。 指定されたフィールドは『コロシアム』、再び何の変化も訪れないフィールドでのバトルになっただけに、今までフィールドの地の利を生かした戦術を使っていたアスカに対する評価が若干低く見積もられるのは拭いきれない。 繰り出されたアスカのポケモンはアダムの時同様先手のムクホーク、対するタタは今大会で初めて見せたフローゼルを繰り出し、互いに互いの動きを警戒しフィールドを駆け巡る。
「まずは様子見と行こうかしら、フルック! でんこうせっか!」 「ならこっちも。フローゼル、でんこうせっかよ!」
空中から一気に降下して襲い掛かるムクホークに対しフローゼルは尻尾を大回転させるとともに地面を走り出し、最高速度のままジャンプして互いに空中で激突し合う。 重苦しい衝撃音と共に弾かれたムクホークは一瞬ひるみ、同じく弾かれたフローゼルは着地すると同時に尻尾を激しく回転させながら口から冷気を吐き出し、辺り一面に鋭い氷の破片を風に乗せて展開。 気象を変える技の一つ『あられ』、激しく打ち付ける暴風と氷の粒の中をムクホークは風に身を任せ移動することで、ダメージを最低限に抑える。
「あられの時は相手の出方を予測し、それを待って対処すべし……師匠の言う通り、無理な行動は命取りね」 「何もしなくても命取りよ。寒いときに油断してると、植物は一気に萎えてチャンスを失ってしまう。ここはもう、私のフィールド」
不安定な視界の中でタタの言葉に意識を奪われている間にフローゼルの影が一気に動き出し、あられの中を流れに任せて動くムクホークの元へ突っ込む。 一瞬『でんこうせっか』に見えたようだが若干違う、敵の攻撃の直撃を受けたムクホークがアスカの前にゆっくりと着地すると、その攻撃を受けた羽の場所が若干凍っており、動かない。 先ほどの方にただの攻撃ならこういう現象にはならない。恐らく敵が使った技は水を纏った先制攻撃である『アクアジェット』、あの素早さに『あられ』のフィールド、分が悪い方だ。 ここは無難に交代すべし――目の前に下りて来たムクホークをボールに戻し、アスカは別のボールをフィールドの中央に投げ込む。 状況を圧倒的に有利にしている要因はこの視界不良による『あられ』、そしてその中で自由に動け、かつ圧倒的な速度を保持するフローゼルの性質。 ボールから現れたポケモン、バクフーンはフィールドに現れると突然背中の炎を全開にし、渦巻く『あられ』を突き破る様な激しい咆哮を手人に向かって吠えた。 それと同時にフィールドを覆っていた大量の氷の粒が水となって地面に落ちて行き、スタジアムの上部から激しい太陽の光が大量に降り注ぐ。
「っく、何が――」
タタ自身の視界も若干悪かったこともあり相手のポケモンの行動が見えにくかった、それが災いし突然上部から降り注いで来た眩しい光に、彼女とフローゼルの視界が一瞬白く染まった。 それと同時に駆け出すバクフーンは背中から激しい炎を生み出し、フィールドに棒立ちするフローゼル目掛け重い突進を繰り出す。 吹き飛ばされたフローゼルは何とか空中で身を回転させ体勢を整えると、再び迫り来るバクフーンの攻撃を横に回避し、反撃することなくさらに後ろへ。
「そうか、にほんばれをされたってわけね。今度は貴方のフィールドかしら」 「自分に有利な状況を作り出せって散々言われてんだから、ここで負けちゃあ私がまた馬鹿扱いされちゃうわ。さぁ、行ける限り突っ走るわよ!」
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Re: 短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.11 ) |
- 日時: 2010/09/18 00:29
- 名前: 月光
- 『にほんばれ』の効果によって『あられ』を打ち消し炎タイプと草タイプの技が特に恩恵を受け易く、本来タイプ的に不利であるバクフーンがフローゼルとほぼ対等の立場になった。
状況的に不利に追い込まれたとは言え依然としてタタは余裕の表情を崩さず、冷静に現在の状況を分析し、次なる一手を導き出す。 彼女は造園師をしているので自然と草タイプや虫タイプのポケモンの技や特徴から天気による影響までをかなりの領域で把握し、技のカテゴリーに至ってはそのタイプには収まらない。 通常『にほんばれ』を行われた場合に一番警戒すべきなのは草タイプの多技『ソーラービーム』、普段は巨大な太陽エネルギーの為時間がかかる技だが、強烈な太陽光の下ではその条件は外されるのだ。 つまりフローゼルすら一撃で屠り去られても可笑しくはないのだが、彼女は知っている。 バクフーンは『ソーラービーム』をどうやっても習得できない、故に現在の状況下で『ソーラービーム』による一撃必殺は存在しえない。
「この状況ではまだ五分五分と言ったところかしら、互いに交換も天候操作をする暇も与えてもらえなさそうね。このまま行くしかないか」 「状況が一気に悪くなったってのに、少しは慌てたりしてくれないのかしら」 「バクフーンがフローゼルの弱点タイプの攻撃を持っていないのは、草タイプのの技を知っている私なら分かる。フローゼル、アクアジェット!」 「甘い! バクフーン!」
体に水を纏うフローゼルは再び超加速すると、背中の歩のを激しく燃やすバクフーン目掛けて突撃して行く。 圧倒的な素早さを前にバクフーンはその攻撃を避けることなく正面から直撃し、苦痛の表情を浮かべるがフローゼルの体が逃げないように両手でロック。 そのまま真上へ放り投げると同時に再び激しい咆哮を打ち鳴らし、バクフーンの右腕が激しい電流を帯びると、落ちて来たフローゼルの側面へ強烈に叩きつけた。 想定外の攻撃に大きなダメージを受けたフローゼルは明らかに苦しみの表情を浮かべ、タタの表情の端にも僅かだが焦りの色が帯びている。 いきなりの『かみなりパンチ』、日差しは先ほど強くなったばかりなのでまだしばらくの間は弱くならないと考えると、この状況はタタにとって些か不利か。 天候を変えようにもバクフーンもアスカもそんな隙を与えてくれるとは考えにくく、ポケモンを取り変えようにもアリアドスでは絶対的に不利。
「長考ってのは感心しないわね。ルーシー、一気に決めちゃえ!」 「避けなさい!」
炎を体に纏い強烈なエネルギーを込めて迫り来るバクフーンを前に、フローゼルは苦しみに濁った息を吐くと同時に体中の力を抜く。 捉えた!――アスカがそう思った瞬間、バクフーンの目の前にいたフローゼルは一気に力を解放し、先ほどよりもさらに速い動きでバクフーンの『かえんぐるま』を避けた。 素早さを上昇させる技『こうそくいどう』、相手のバックを取ったフローゼルは再びアクアジェットで襲い掛かるが、さすがに読みやすい攻撃なだけに今度はバクフーンも横に符轍鮒してこれを回避。 突っ込んで来たフローゼルが真横に来た瞬間に再び右に突進し、敵の脇腹に強烈な一撃――のように見えたが、フローゼルの姿がバクフーンの視界から消えた。 進路を一気に真下に変えたフローゼルは体を回転させながら地面を掘り進み、穴の中から削岩機のような激しい音がアスカ達の耳を刺激する。
「袋のねずみって事のことね、ルーシー! かえんほうしゃ!」
意気揚々に指示を飛ばすアスカに対しタタはただ黙って目の前の様子を見守っており、バクフーンが口に溜め込んだ圧倒的火力を穴の中に注ぎ込む。 それと同時にバクフーンの真下の地面が盛り上がり、土を砕いて現れたフローゼルの鋭い打撃が敵の腹部を捉え、強烈に後ろへ吹っ飛ばした。 炎タイプの弱点の一つ地面タイプの攻撃『あなをほる』の直撃、空中で半回転したバクフーンは何とか着地するが、その際に僅かだが体勢が崩れる。 まだまだ日照りの時間は有効、今まさに訪れた小さなチャンスを見逃すわけにはいかない。 相手の一瞬の隙を見抜いたタタはアスカが指示を出すより早くフローゼルにボールを向け戻そうとするが、バクフーンの『かえんほうしゃ』をフローゼルが避けて阻止された。 攻撃を避けると同時に尻尾を大回転させ加速をつけながらバクフーンに突っ込み、それを迎え撃つようにバクフーンも相手に向かって突進。 フィールドの中央で再び二匹のポケモンが激突し重々しい旋律を奏で、一進一退の攻防線に観客の声援もヒートアップを抑えられない。
『まさに攻めて攻めての激しいバトル! 誰がこれほどアクティブになると予想できたか!? タタ選手の方が長く使っている分、フローゼルに疲れが見えます!』
司会者が言うほどフローゼルに疲れが見えているわけではないが、フローゼルの方は一度ムクホークと『でんこうせっか』同士で激突している。 だがそれを抜きにしても若干フローゼルの方が劣勢、初激で不意を突かれた『かみなりパンチ』のダメージがやはり大きな原因となっているのは間違いない。 両者ともに激突した際の反動を利用して相手から距離を取り、バクフーンはアスカの前に、フローゼルはタタの前へと戻って来た。
――今が『にほんばれ』だからって『あられ』にしようとすれば攻撃されるか、すぐ『にほんばれ』で元に戻される。今の状況から言って私が先を取らないといけない……ちょっと危険だけどやるしかない
「フローゼル、状況を戻すわよ。あられ!」
大きく息を吸い込んだフローゼルが細かい水を泡のように出すと同時に尻尾を大回転させ、冷たい冷気が辺り一面を徐々に多い出す。
「ならこっちが戻せば良いだけ、焦っちゃダメ。ルーシー、元に戻して!」 「あらあら、攻めておけばよかったのに」
雄叫びと同時に背中の炎をバクフーンが燃やした瞬間、タタはフローゼルを素早くボールに戻すと同時に、新たなボールを構える。 もしこの場で天候が変化するデメリットを無視してでもバクフーンがフローゼルに攻撃を強行し、結果的に倒せていれば状況はかなり変わっていたはずだ。 だが倒せなかった場合は天候が『あられ』になってしまい、途端に状況が逆転してしまう。 頼りの綱である『にほんばれ』の影響によって弱くなる水タイプの技だって威力を取り戻し、アスカの価値は厳しくなっていた。 倒せるか倒せないか……その二つを天秤にかけたアスカが相手の強さを鑑みて状況の再生を試みた結果、タタの方が一歩先に躍り出たのだ。 状況が再び晴天になると同時にタタは一回戦でも使用したブーバーンを繰り出し、噴き出された炎をバクフーンは横に飛んで素早く避ける。
――失敗したなー、これじゃあプラスに変えても逆効果だなぁ。ルーシーで行くしかない、負けられないんだから!
繰り出す炎攻撃を尽く回避するバクフーンに業を煮やしたブーバーンは思い切り右足を持ち上げると、それを強烈に地面目掛けて叩きつける。 同時にフィールド全体が激しく振動している間にブーバーンはフィールドの地面に両手を差し込み、動きを止められているバクフーン目掛けて投げつけた。 さらに立て続けに抉り取った地面を連続してバクフーンに投げつけ、激しい粉塵に視界が封じられたアスカは、指示を出せるが前が見えない。 繰り出される『がんせきふうじ』がようやく止むと同時に大量の粉塵が徐々に晴れて行き、アスカが目を開けると目の前には巨大な岩盤の山。 息が上がっているブーバーンの目の前の地面は深く深くえぐり取られており、その深さと範囲が如何に大量の岩盤を投げ飛ばしたのか、出来上がった山と共に物語る。
「ルーシー!」 「あらら、ちょっとやり過ぎちゃったかしら。ブーバーンももう少し手加減してあげれば、必要以上に痛めつけずに済んだのに」 「……なーんちゃって、これでさっきのお返しは完了ね」 「えっ?」
俯いていたアスカが不敵に微笑んだ瞬間、ブーバーンの足元が僅かに盛り上がると、地面を貫きバクフーンが急襲。 完全に勝利を信じていたタタは変化を見落とし、地面から出て来たバクフーンは勢いをそのままにブーバーンの急所目掛け強烈な突進を繰り出し、その巨体が豪快へ宙に浮かぶ。 一気に勝負を決めんとばかりにバクフーンは遠方に着地したブーバーン目掛け突っ込み、ブーバーンもふらつきながらではあるが、腕を構え相手に標準をロックオン。
「このまま負けるわけにはいかない、全国の造園師の夢は私に掛かっているんだから。ぶっ飛ばしなさいブーバーン!」 「ここが大きな壁よバクフーン、強大な攻撃に対しての心構え――分かってるわね!」
さらに速度を上げたバクフーンは加速を続けると同時にその姿が左右に分身し、その全てが凄まじい速度でブーバーンへと突進する。 放たれた白い一筋の光、『はかいこうせん』は衝撃波で地面を抉りながら中央のバクフーンを貫通し、さらに後方で徐々に地面に近づき接触すると、激しい爆発と共に地面を豪快に抉り取った。 先ほどの戦いでマリンのカメックスが見せた必殺技に優るとも劣らない威力、後方からの激しい風に揺らるスカートを抑えながら顔を引きつらせ、苦笑する。 再び迫り来るバクフーンに狙いを定めるブーバーンは横目でタタを見て指示を仰ぎ、それよりも早くタタもバクフーンの動きを観察し、諦めない。 一回戦であるアダムとの戦いは観戦していたとき、彼は何かを目印にして影分身を見切っていたのをタタはしっかり見ていた。 聴力で補うなんて化け物染みたことは不可能、ならば彼女にできるのは……相手の、バクフーンの影。
「今は日差しも強く影もしっかりしている! 影のあるバクフーンを……え?」
迫り来るバクフーン、だがその全てには既に影が無く、四体のバクフーンはブーバーンを煙のように貫通すると、その姿を消す。 慌ててタタが上を見ても左右を見てもやはりバクフーンの姿は無い、先ほどの戦いのようにアスカがジャケットを放ったということも無い。
「そう来ると思ったわ、残念だけど本物は……」
アスカの力強い言葉と同時にブーバーンの後方の地面が盛り上がり、慟哭を上げながら現れたバクフーンが炎を巻き上げながら現れる。
「あんたの後ろよ! 決めろ!」 「なっ、同じような……」
後方から強烈に突っ込んだバクフーンは再びブーバーンの急所を強烈に取られ、相手の巨体が吹き飛ばされると同時に力無く地面を転がって行く。
「同じような攻撃に、やられるなんて!」
吹き飛ばされたブーバーンは完全に戦闘不能の状態になり、バクフーンも激しくよろめくが何とか踏ん張り、しっかりとその場に立つ。 会場からは大きな歓声が湧き上がり、タタが急いでブーバーンの元へと駆け寄り、アスカもバクフーンの元へと駆け寄った。 戦闘不能にはなっているもののブーバーンに大事は見られず、とりあえず一安心したタタはボールへ戻すと、立ちあがってアスカに手を差し伸べる。 アスカはバクフーンをボールに戻す前に右手を差し出しタタの手を握るが、彼女の手には一切の容赦が無い。
「まさか、貴方みたいな若い子に負けちゃうとはね……残念だわ」 「いたた痛い痛い」 「ごめんね、造園師やってるとどうしても握力強くなっちゃって、こうして握手するとちょっと痛いみたいなの」 「それでマリンも痛がってたのね、納得だわ」
腫れものでも出来たのではと思うほどに熱い右手に息を吹きかけるアスカを見て、タタはクスクス笑って踵を返す。
「頑張ってね、貴方は沢山のトレーナーの気持ちを背負った。優勝しないと、皆に怒られちゃうわよ」 「私は絶対優勝する。師匠にもそう誓ったし、皆のためにも負けない」 「……その気持ちが、折れないことを祈ってる。巨大な木はね、一見頑丈そうに見えて、実は案外簡単に折れちゃったりするの。貴方は若いわ、この先からは草原に生える草のようなしなやかさを求めるのもいいかもね」 「つまり……どう言うこと?」 「ふふ、この先頑張りなさいってことよ。辛いことを乗り越えたとき、人は自然と強くなる。不動の草木の様にね」
言っている意味がよく分からないのかアスカは少し頭を傾げるが、タタは彼女にこれ以上は何も言わず、出入り口からフィールドを出て行く。
『さぁ何ともダイナミックなバトルでした。次の戦いはヨウタ選手対エリサ選手、共にまだ一度もバトルはしていないため、この二人が戸の様なポケモンを使うのか期待が高まるところです! 開始は、十分後!』
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Re: 短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.12 ) |
- 日時: 2010/09/18 00:33
- 名前: 月光
- 十分の休憩を挟んだ後、大歓声に包まれながらフィールドの左右にある出入り口から、二人の選手が入場する。
一方から出て来たエリサは落ち着き払った表情と足取りでフィールドへと近づくのに対して、反対方向から出て来たヨウタは強烈な雄叫びと共に、フィールド中央へもう突進。 凄まじく正反対な選手の入場に会場の観客達は若干戸惑うものの、むしろその方が面白いとばかりに一気に変わり身して声援へと変わった。 既に相当溜まっているヨウタはフィールドの中央へかなり早く到着すると同時に指を鳴らし、その様子を見ていたエリサは薄ら笑い、ゆっくりとフィールドの中央へ到着。 美女と野獣と言う言葉がこれほど似合う勝負もまた珍しい、右手に持ったボールを何度も空中に投げながら待つヨウタに、静かにその場で佇むエリサ。 二人の視線が重なり合うと同時にフィールドを決定するルーレットが強烈な勢いで回り出し、戦うべき運命の場所を決定する。
「ようやく戦える。絶対勝ってやらあ!」 「悪いけど、どれほど張り切っても私も絶対に勝って見せる。恐れず立ち向かう、それがレンジャーの精神」
回転するルーレットが徐々に速度を落して行き、全員の視線がその指針に奪われる。 決定音と共にルーレットが指したフィールドは『火山』、フィールドが決定すると同時に会場の至る場所に設置された立体3D再現装置がフル稼働し、さらにフィールドの数カ所の地面が開いた。 開かれた場所からは岩石が置物のようにリフトによって持ち上げられ、さらにフィールド全体も火山帯を意識しているかのようにでこぼこに歪む。 グラフィックによりフィールド全体が焦げ茶色の溶岩帯の色に染め上げられ、さらに中央を流れる巨大な溶岩から感じる錯覚とは思えないほどの熱に、ヨウタもエリサも汗を流さずにいられない。 実際はただ地面に設置された加熱装置によって熱くなっているだけなので触れても死にはしないだろうが、そこに触ってしまったらそれ相応のダメージがあるのは覚悟した方がはずだ。 だがその熱を吹き飛ばすように大声を上げるヨウタは持っていたボールを大振りにフィールドへ投げ込み、褐色の光と共にゴウカザルがさっそうと姿を現し、同じく大声の雄叫び。 トレーナーとポケモン揃って落ち着きが無いわねーほんと――反対にボールを構えたエリサは華麗なサイドスローでボールをフィールドへ投げ込み、現れたのは巨大な爪と特徴的なひれを持つポケモン、ガブリアス。 フィールドが火山地帯だけにゴウカザルにも有利に見えるが、ガブリアスとしてもこのフィールドはそれほど苦にはならない場所だろう。
「ガブリアスか、確かに強力な敵だが俺たちは止められんぞ! 一気に攻めろ、マーズ!」 「確かに素早い、だけど私達だって負けてない。アリス、落ち着いてまずは相手の攻撃を分析するわよ」 「そんな隙、俺達には通用しない!」
岩場を鋭いジグザグ移動で迫り来るゴウカザルは動き出す前のガブリアスの後ろを取り、迷うこと無く固めた拳を振り抜く。 だが相手の高速な動きをしっかりと捉えていたガブリアスは後方からのパンチを左に避けるが、何故か避けたはずにも関わらず腹部に衝撃が走り、その巨体が僅かに浮いた。 同時に再びゴウカザルは鋭い動きでガブリアスの視界の外へ移動し、後方から先ほど同様パンチを仕掛ける。 ダメージを受けながらもしっかりと相手の動きを見ていたガブリアスは再び振り抜かれたゴウカザルの拳を避けた瞬間、また避けた直後に激しい衝撃。 完全に先手を取ったゴウカザルは薄ら笑うと同時に今度はガブリアスに追い打ちをかけるが如く急接近し、再び先ほどと同じく超スピードのパンチを繰り出した。 相手の動きにエリサは全神経を集中し、ガブリアスが攻撃を避けた瞬間、ゴウカザルの揺らめく影が実物の動きと反して独りでに動き出す。 その影の拳がガブリアスの影を攻撃した瞬間、実物のガブリアスも同様の場所に衝撃を受けるとともに僅かによろめいた。 絶対敵中攻撃の一つ『シャドーパンチ』、あれほど荒々しい態度を表に全面的に出しておきながらゴウカザルの素早さを生かした、狡猾な連続攻撃。
「なるほど、ただ叫んでるだけの雄叫び屋ってわけじゃないようね」 「お前こそ貧弱に見えて冷静に相手の攻撃を見切って来たな、さらにガブリアスもタフだ。なるほど、強いな」 「ありがとう。でも私達だって、ただやられっぱなしじゃないのよ」
不穏な空気を感じ取ったゴウカザルが一度ガブリアスから距離を取った瞬間、大きな咆哮と共にガブリアスは激しく体を回転させ、周りの空気を巻き込み激しく巻き上げる。 先ほどから攻撃によって吹き飛ばされたガブリアスが地面を削って巻き上げた粉塵、さらにゴウカザルが激しく移動するために知らず知らずのうちに巻き上げていた細かい砂、それらを巻き込み巨大な砂嵐が吹き荒れた。 同時にガブリアスの姿が砂嵐の中へと溶けるように消えて行き、腕で目をガードするヨウタとゴウカザルは、完全にその姿を見失う。 どれほど俊敏性に長けていようと絶対命中の技を持っていようと、そもそもその当てるべき相手の位置が分からなければどちらに向かえばいいのかさえ分からない。 吹き荒れる砂嵐の中でポケットからゴーグルを取り出したヨウタはそれを装備し、とりあえず視界が砂嵐から保護するための腕で遮られる事態は避けることが出来た。 しかし肝心のガブリアスの姿は見受けられず、ポケモンを取り変えようにも恐らくその一瞬の隙を狙っているはず。
――厄介な状況だ、まさかここまで酷い砂嵐だとは……だが
粗ぶる神経をゆっくりと落ち着け、目の前でゴウカザルが見えざる場所からの一撃を受けて仰け反った瞬間、通り過ぎた僅かな影をその眼に捉える。
「そんな猪口才な小細工は俺様には通用しない! マーズ! 一時半の方向にぶちかませぇ!」
既に次の一撃に多技を使用することを悟っていたかのようにゴウカザルの右手には溜め込んだエネルギーが一気の炎として膨れ上がり、辺りの粉塵を染め上げ灼熱へ。 腰を深く落とすと共に鋭い俊敏性を駆使し再びフィールドを縦横無尽に駆け巡り、僅かに見えていた影、ガブリアスへの背後へ一気に迫る。 まだ距離がある……だがゴウカザルはそれを無視して強烈に燃え盛る右手をガブリアス目掛けて振り抜き、爆発的な火力が渦を巻きながら一気にガブリアスに迫り、その姿を飲み込んだ。 激しく舞う砂嵐を突き破った強烈な炎技『フレアドライブ』に飲まれたガブリアスの悲鳴が轟くと、重量物質が地面に落ちる重い音と共に、砂嵐がゆっくりと収まる。 フレアドライブの反動でゴウカザルも少しよろめくが特に重症と言う訳ではなく、砂嵐が取り払われると、ガブリアスがその場で力無く倒れていた。 同時に砂嵐で良く分からなったが最後に見せた強烈無比のフレアドライブでガブリアスを仕留めたのだと考えた観客は大きな声援を上げるが、ヨウタの表情は明るくない。 何かが可笑しい……如何にフレアドライブが強烈だとは言え、ガブリアスがこれほどあっさり倒れるとは思えない。何よりエリサはまだその場に構え、ガブリアスに声をかけてないのだ。 直ぐにヨウタは辺り一面を見渡すと予想通りある一つの物が見つかった。溶岩近く、ガブリアスがすっぽりと入りそうなほどの巨大な穴。
「……マーズ! 避けろ!」 「気付いたのは見事ね、だけど一歩遅い!」
倒れていたガブリアスが煙のようにその姿を空中へ飛散させると同時に、ゴウカザルの下の地面が盛り上がると、土を巻き上げ現れたガブリアスがゴウカザルを強烈に突き上げる。 完全にヨウタの勝利だと思っていた観客体も一瞬言葉を失い、先ほどやられたのが身代わりだと分かった瞬間、再びバトルが再開されたことに大きな声を上げた。 地面タイプの攻撃が直撃したゴウカザルだが地面に落ちる瞬間何とか体勢を立て直し戦闘態勢を取るが、明らかにこのままガブリアスと渡り合えるという状況ではない。 一気に勝負を決めに掛かるガブリアスが急接近し爪を振り上げるが、それを見た瞬間にゴウカザルは一気にガブリアスへ迫り、ダメージを感じさせないほどの素早いパンチを放ち顔面を捉える。 先制攻撃に特化した技『マッハパンチ』、威力が小さいとは言えど完全に隙を突かれ顔面を殴られたガブリアスはひるみ、その隙にヨウタはモンスターボールにゴウカザルを戻す。 敵のガブリアスがひるんでいる間にもう一つのボールを取り出し、それをフィールドの中央を投げると同時に、ガブリアスがボールから出て来た相手に飛びかかった。
「おっと、今度の相手は力押しでどうにかなる様な相手じゃねーぜ」 「これって!」
ヨウタの投げたボールから現れたポケモンはガブリアスの両手に自らの両手を合わせ、地面に巨大な脚をつけると、フィールド中央で力比べが始まる。 完全に拮抗した力、同じ姿、ヨウタが繰り出したポケモンもまた……ガブリアス。 同じ力で押し合う二匹……だがエリサのガブリアスの方が既にダメージを負っているためか、徐々にヨウタのガブリアスが一歩一歩と前に相手を押し出して行く。 後退を続けるエリサのガブリアスが一つの巨大な岩に背中をついた瞬間、ヨウタのガブリアスは強烈な頭突きを相手に見舞いして回転し、尻尾で相手のガブリアスの腹部目掛けて強烈に打撃。 岩を砕いてエリサのガブリアスは吹き飛ばされるが、まだまだ余裕があると言わんばかりに倒れた状態から起き上がり、激しいうなり声を上げる。
「まだまだ、その程度じゃ私は負けませんよ」 「そうこなくちゃ面白くねぇな、掛かってこいや!」
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Re: 短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.13 ) |
- 日時: 2010/09/18 00:34
- 名前: 月光
- 二匹のガブリアスは互いに繰り出す攻撃を寸前で回避してはカウンターを繰り出す動作を繰り返し、非常に一進一退の攻防線が繰り返されている。
両者共に細かい技は使用せずあくまで攻撃力重視のドラゴンタイプの技を放つが一歩のところで見切り合い、互いにまるで決着がつくような気配が訪れない。 砂嵐をどちらが起こしても状況はあまり変化はしないし、中途半端にテクニカルな戦いをしようとすれば、立ちどころに相手のパワーによって叩き潰されるのが関の山。 エリサの方は先ほどの身代わりで体力を消費しているのだから下手に攻撃は仕掛けられず、ヨウタの方もその作戦にハマってしまっているので迂闊に手を出すわけにはいかない。 互いに大胆にかつ慎重に……大歓声の中で、二人は相互に相手の動きを窺いつつ、確実に狙えるタイミングを待つ。 わざと隙を作って誘い込む作戦に出るか、それともこのまま続けて少しでも相手の体力を削り倒す、もしくは次への一歩として繋げるか。 エリサの冷静な思考とは正反対に、慎重に様子を見ていたヨウタだが、先ほどから何度も組んだ腕の人差し指で腕を叩いている。
「まどろっこしい、非常にまどろっこしい! ヴィズ、作戦変更だ! 周りのことは気にするな、暴れまくれ!」 「攻めて来たわね。アリス、まずは相手の攻撃を避けることに専念するわよ。必ず隙はできる、そこを突くのよ」 「男なら拳で語りやがれ!」 「私達は女よ!」 「そうか、それはすまなかった!」
会場全体を吹き飛ばすような巨大な鳴き声を上げると、ヨウタのガブリアスは先ほどよりさらに速度を上げてエリサのガブリアスへと襲い掛かる。 大きく尻尾を振るうと同時にそれを相手目掛け叩きつけるが、それでもエリサの指示の元、ガブリアスは相手の攻撃を的確に横へと回避。 振り抜かれた尻尾は大地へ振り降ろされると同時に巨大な衝撃を奏でながら岩盤に激しい亀裂を入れ、会場を揺らす地震と共に岩盤から抉られた小石がエリサのガブリアスへ襲い掛かった。 強い――エリサが無意識に感じるほどに敵のガブリアスの攻撃力は高く、あの一撃に捕まってしまったら恐らく相当の痛手を負うことは間違いないだろう。 連続的に繰り出される殺人的な威力の攻撃を紙一重で避け続けながら相手の疲労を誘い、八撃目でヨウタのガブリアスの動きが一瞬鈍った。
「捉えた! アリス、ドラゴンダイブ!」 「ようやく気やがったな、最初からそうやって来てればよかったんだよ! 掛かって来い!」
相手の攻撃を回避しつつ空中へとジャンプしたエリサのガブリアスは一気に降下し、咆哮と共に激しく空気を切り裂きヨウタのガブリアスへ襲い掛かる。 攻撃をはずしたヨウタのガブリアスも素早く後ろへジャンプして一つの平らな岩の上に立ち、再び激しい咆哮を上げ、相手に向かって突っ込んだ。 互いに空気を切り裂き突進する『ドラゴンダイブ』、落下の速度をつけている分だけエリサのガブリアスが有利にも見えるが、既に身代わりやゴウカザルのシャドーパンチなどでダメージは蓄積している。 二匹のガブリアスが空中で激しく激突すると同時に凄まじい衝撃波が辺り一面の粉塵を吹き飛ばし、エリサとヨウタに激しい風が襲い掛かる。 風が止むと同時に二人とも目の前の様子を見ると、二匹のガブリアスはその場に倒れてしまい、ピクリとも動かない。 ダブルノックアウト……審判がそれを確認しようと動き出した瞬間に二匹のガブリアスは同時に指先を動かすと、再び激しい咆哮と共に立ち上がった。
『何と言う二匹でしょうか! あれだけの激突にも関わらず、両者ともに健在! 一体この二匹、どこまで行くんだ!』
司会者は健在と言うが実際のところエリサのガブリアスもヨウタのガブリアスもほぼ瀕死の状態、先に相手の攻撃を喰らった方が今すぐ倒れても可笑しくない状態。 二人と二匹の睨み合いが空気を圧縮しているかの様に息苦しく、観客も次の一撃がどうなるか固唾を呑んで見守るしかない。
「よう、次の攻撃で終わりそうだな」 「そうね……だけど、負けない」 「いいね、その覚悟。ヴィズ、終わらせろ!」 「アリス! 決めて!」
ゆっくりと歩き出した二匹のガブリアスは徐々に速度を上げて行くと走り出し、地面を唸らせ激しい叫びと共に爪を振り上げ、互いへ向かう。 同じ構えに同じ技、ドラゴンタイプの強力な爪をそのまま攻撃に使う原始的にしてシンプル、『ドラゴンクロー』を両者ともに繰り出し、互いのプライドを賭け放つ。 やはり先ほどの激突で多少多くダメージを被ったヨウタのガブリアスが一瞬ひるむが僅かに速く動き攻撃を繰り出すが、エリサのガブリアスの翼を僅かに掠り、完全に攻撃をはずした。 エリサが勝った――観客の誰もが思い、そしてエリサのガブリアスがヨウタのガブリアスを攻撃した瞬間、攻撃はまるで立体映像を貫通するかのように擦り抜け、その姿が空中へと溶ける。 ここに来て、あくまで直線を貫いていたヨウタによるまさかの変化球に、不意を突かれたエリサは目を見開き、ヨウタは苦々しそうに薄ら笑うが、喜びが感じられない。
「悪いな、小賢しいのは趣味じゃない……だが、負けるわけにはいかん!」
地面が盛り上がると同時にそこを突き破って現れたヨウタのガブリアスがエリサのガブリアスの顎を捉え、強烈なアッパーによって空高く舞い上がる。 思い溜息……ヨウタが僅かにフィールドから目を逸らした瞬間、空に舞うガブリアスが霧のように消え、空間へと霧散。 やられた――目の端でその一部始終を不確実ながら捉えていたヨウタがフィールドに目を戻した瞬間、先ほど彼のガブリアスが出て来た穴からもう一体のガブリアス。 静寂を切り裂くかのように現れたエリサのガブリアスがヨウタのガブリアスを今度は吹き飛ばし、今度こそ消えなかったガブリアスは、地面に落ちて動かない。 飛び出して来たエリサのガブリアスは地面に着地すると同時に激しくよろめき、何とか近くの岩に凭れかかる形でその体勢を維持している。 慌てて駆け付けた審判が倒れているヨウタのガブリアスへと近づき様態を確認すると、直ぐに持っていた白い旗をバツ印にして放送室へと信号を合図を送った。
『決まりました! 最後の激しい読み合い、制したのはホウエン代表のエリサ選手!』
今度こそ静寂を打ち破り今大会でも最大級の拍手と声援が送られ、ディスプレイにエリサの勝利が宣言された。 試合が終了すると同時に立体3D機能が停止し、同時に辺り一面に合った岩もフィールドの下に格納され、デコボコだった地面は平らになって全て元通り。 ヨウタは急いで倒れているガブリアスの元へと駆け寄り、エリサも自身のガブリアスを労いボールに戻した後、彼の元へと歩み寄る。 声をかけようとしたエリサの前であろうことかヨウタは倒れいているガブリアスの顔面を二三発引っ叩き、エリサがそれを咎めようとした瞬間、倒れていたガブリアスが目覚め一瞬にして立ち上がった。 脅威的な回復力とスタミナにエリサは呆れるしかない苦笑し、『それでこそ俺のガブリアスだ』っと満足そうに頷いたヨウタは、彼をボールに戻しエリサを見る。
「最高に楽しいバトルだった。最後に小細工なんて、しない方がよかったのかもな。やっぱり俺には向かないようだ。お前の方が強かったと言う訳か」 「褒めてもらって嬉しいけど、実は私の方も、貴方以上に無茶苦茶してるときもあるのよ」 「どう言うことだ?」 「さっきドラゴンダイブ同士でぶつかる直線、私はアリスに身代わりの指示を出した。体力をさらに削って、それで耐えられるような攻撃じゃない」 「だが耐えていた……そうか、お前も相当な馬鹿ってわけだ」 「そう、『きあいのハチマキ』で耐えられるか耐えられないかの賭けだった。運良く残った、それだけ。確率的には、貴方の方が勝っている可能性は高かったの」 「だが負けた、その事実は変わらない。起きたことに『もしも』なんて付ける趣味はない。いいか! 今度会った時は絶対に倒すからな!」 「えぇ、楽しみにしてるわ。次会う時をね」
再戦布告を終えたヨウタは溌剌と笑うと踵を返し、大歓声に見送られてフィールドを後にする。 エリサは薄ら笑うと同時に背中を向けると、同じく大歓声に後押しされながら、再び訪れるフィールドを去った。
『凄まじい戦いでした。私が途中で解説を忘れるほどの激戦、送ってくれた二人にもう一度拍手を! そして次はファイナル、作戦と実力を駆使して勝ち上がって来たアスカ選手! そして今目の前で圧倒的激戦を勝ち抜いたエリサ選手による、最終勝負! 十分後、歴史に残る勝負が繰り広げられるのは間違い無し! それでは、十分後に!』
エリサとヨウタがフィールドでそれぞれ大歓声の拍手によって見送られているとき、医務室のベッドで寝転がりながら大会の様子を見ていたシリュウの元へ、アスカがひょっこりと姿を現す。 看護師の人は何か仕事があるのかその場にはいなかったので、勝手に入ったアスカが彼のベッドの前まで来ると、シリュウの視線がそちらへ向いた。
「……アスカか」 「はい。えっと、その……特に用事は無いと言えば無いんですけど……頑張ります、私!」 「ならこんなところに来てないでイメージトレーニングでもしてろ。次の相手は今の激戦を勝ち、お前が七位だったホウエンリーグ優勝者、嫌味でも何でもなくこれは事実だ。お前より、遥かに格上だ」 「……はい、分かってます。だけど、負けていいなんて思っていません。師匠の為にも、私が勝った皆のためにも、絶対に!」 「お前は俺の弟子なんだ、負けは許さんぞ」 「は、はい! 頑張ります、ありがとうございます!」
明るい表情を浮かべ若干頬を赤く染めるアスカは溌剌と頭を下げると同時に保健室を飛び出し、看護師とぶつかりそうになったのか謝る声が聞こえ、廊下を走る音が響く。 入れ替わりで入ってきた看護師は少し愚痴を垂れながら書類をデスクの上に広げ見下ろしながら、カーテンの奥にいるシリュウに話しかける。
「何か言ってあげたのかしら師匠さん。あの子、すっごい元気だったわよ」 「別に、お前には関係ない」 「そう、ごめんなさいね。それより、もう体調は大丈夫?」 「問題ない」 「全く、献血した人が貧血で倒れるなんて本末転倒ね。貴方が自分の献血のお世話になるかもしれない、こんな面白い話は無いわ」 「そうだな」 「……ねぇ、一つ教えてほしいんだけれど」 「断る」 「何であの子を、弟子にしようと思ったの?」 「質問に答える気はない。もうすぐ次のバトルが始まる」 「分かりました。直に見に行くのは構わないけれど、あまり無茶しないでくださいよ」
看護師は呆れて溜息をつきながら書類に目を通す作業に戻り、シリュウは胸から下げるロケットを右手に握りながら、黙ってディスプレイを睨む。 そこには放送室で現在の状況を解説するポケモン協会理事長の姿があり、一度舌打ちしたシリュウはゆっくりと起き上がると、スリッパを履いてカーテンを開けた。 一瞬ふらついたがシリュウだがしっかりと足を踏ん張り、選手控室に向かって歩き出す。
「父さん、母さん、ヒナ、皆……あと少しだ、あと少しなんだ……待っててくれ」
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Re: 短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.14 ) |
- 日時: 2010/09/19 01:04
- 名前: 月光
- 長く感じた十分間はあっという間に過ぎ、フィールド出入り口のベンチに座っていたアスカはより一層深く深呼吸し、雑音か歓声かも分からない声がするフィールドの方を横目で見る。
予選から長い戦いを勝ち抜き、このコロシアムに来てから三人の強敵と戦い、彼らの想いを引き継いでいるアスカの面持ちは無表情。 相手はシリュウも言っていた通り一戦しかしてないとは言え激しい死闘をくぐり抜け、アスカ自身が七位に終わったジョウトリーグで初参加にも拘らず優勝を収めたホウエンで最も期待されている新人ポケモンレンジャーだ。 油断していては恐らくあっという間、それこそ全く攻撃の隙を与えてもらえず負けてしまうかもしれない。 改まって今再び自分がこのチャンピオンズリーグの決勝戦に居ることを考えると、アスカは呼吸が少しずつ早まり、両手両足が妙な寒さに震える。 先ほどのバトルでもそうだがホウエンリーグでのエリサの戦いも、アスカはシリュウの指示もあってしっかりと観察し、見ていた。 この試合は師匠であるシリュウが直接見ている試合なだけにアスカとしては当然負けられないし負けるわけにもいかず、もう一度深呼吸すると、入口のランプが赤色から青色に変わる。
『さぁーついに最終バトル開始です! 怒涛の快進撃を続けるアスカ選手、そして激しい激闘を制したエリサ選手、入場!』
司会者の紹介と共に立ち上がったアスカは光が差し込む入口を見据え、先ほどより重い足を一歩一歩と進める。 先ほどまでも確かにフィールドに出るときは脚が普段とは違う間隔を覚えていたが、今回は今までとは違い、まるで足の裏が地面にくっついて動かないかのような感覚。 立ち向かわなければいけない相手、立ち向かわなければいけない場所……絶対に勝たなければならないという重圧がアスカの心に乗りかかり、圧迫する。 氷に張り付いた足を無理やり引き剥がすような感覚に襲われながら光溢れる世界へ飛び込むと、先ほどよりも凄い声援に迎えられ、アスカは観客席を見渡した。 変わらない――多くの人に迎えられたアスカは苦笑しながら溜息をつくと、先ほどまで動かなかった足が嘘のように軽快に進む。 正面から歩いて来るエリサを見据え、相手も向かって来るアスカを見据えながら薄らと笑みを浮かべ、二人がフィールドの中央に来ると、互いに手と手をつなぐ。
「良い顔してるじゃない。余裕って感じなのかしら」 「そう言う貴方だって随分余裕ありそうね。師匠が選手控室で見てるんでしょ、だったら恥ずかしい戦いはできないわね」 「そうね。だから、貴方にはここで負けてもらう」 「私だって負けたら師匠に色々言われちゃうの。いやまぁ勝ってら勝ったで何か言って来るって言うか、結局何しても何か言って来るんだけど……負けないわ」 「お互い負けられないようね。とは言え、私は勝つ」 「私だって、絶対に勝つわ」
二人がそれぞれのトレーナーサイドに戻ると同時に巨大ディスプレイのルーレットが周り出し、二人が戦うべき最後のフィールドを決定する。 皆の視線がディスプレイに注がれる中でアスカとエリサだけは互いの視線を重ね合っており、そしてディスプレイがゆっくりと動きを遅くして行くと、二人とも右手にモンスターボールを。 フィールドが決定すると同時にアスカとエリサはそれぞれ一瞬だけ決まった場所を確認し、右手も乗っていたモンスターボールを迷うことなくフィールドへ投げた。 指示されたフィールドは『沼地』、アスカ達の周りの地面の色が突然茶色に染まり出すと、トレーナーサイドを除いて徐々に辺り一面の地面がドロドロに緩くなって行く。 アスカの投げたボールから現れたのは飛行タイプのムクホーク、反対にエリサの投げたボールから出て来たポケモンは姿を現すと同時に沼の中に潜り、そのすがたをみせていない。 恐らく水を下から噴出してフィールドをドロドロにしているのだから、エリサが繰り出したポケモンは水タイプと見るのが妥当だろう。
「さて、姿が見えないとなると……厄介ね」 「ふふふ、私は自由にやらせてもらうわ。ミカロス、あまごいよ!」
姿が見えないとは言え沼自体は決して深くはないのか、相手のポケモンが一瞬動いた際に生じた泥の動きを、アスカは視界の端でしっかりと捉えた。
「そこだ! フルック、とっしん!」 「目敏いわね。ミカロス、迎撃にシフト!」
沼の中に潜む敵目掛けて迫るムクホークが水面に近づいた瞬間、沼の中から現れた水を纏う尻尾に激突し、パワーで勝ったムクホークが相手を沼の中から吹き飛ばす。 衝撃と共に泥の中から姿を現したのは泥のフィールドには似付かない美しきフォルムを持つ、いつくしみポケモンのミロカロス。 さらに追撃するべく『とっしん』の速度を保ったままのムクホークが迫るが、泥の中に逃げ込んだミロカロスは直ぐにその場から姿を消すと、再びどこにいるのか分からなくなった。 フィールドのあらゆる場所に目を配らせるが静かに移動しているらしくミロカロスの動きが掴めないアスカは、ムクホークをひたすら旋回させるしかできない。 相手が何かアクションを起こせば位置が分かるが、動き少なく静寂のうちに実行されてしまっては何も分からないのだ。 観客がどよめいているようだがフィールドに何かが起きている気配も無い、恐らくはミロカロスが姿を現さないことに対するものなのだろう。 どこから――アスカが一面に気を配っていると突然彼女の視界の上側を切り裂くように光線が横切り、旋回していたムクホークの右翼をかすると、羽が少し凍りつく。
「なっ! 後ろ!?」
アスカが後ろを振り向くと先ほどまでは人が歩けるほどの泥濘程度だった場所がいつの間にか巨大な沼地になっており、その一部が若干だが凍りついている。 先ほどの観客のざわめきはアスカの後方で沼地が徐々に広がっている物に対して、恐らくはミロカロスが少しずつ水を出してその領域を拡大していたのだ。 手っ取り早く『にほんばれ』をしてバクフーンへとつなげる手もあるが、先ほどエリサが『あまごい』の指示を出したところを見るに、交代の時の隙を突かれて更なる沼地へ変えられかねない。 アスカが後ろを向いている間に今度は彼女の正面目の前で『れいとうビーム』が発射され、旋回するムクホークの翼を再び掠り、凍りつかせる。 このままでじわじわと体力を削られ負ける……アスカは右方向から放たれた『れいとうビーム』を見切ると、今度はしっかりとムクホークに指示を出し回避させる。
「埒が明かない、ちょっと不安だけどやるしかないわね。フルック! 沼地を利用するわよ!」 「何か来るわね。ミカロス、打ち落して!」
ムクホークが大空で翼を羽ばたかせながら咆哮を上げ、少ししてアスカの後方から放たれた『れいとうビーム』を、今度もしっかりアスカが指示を出して回避させる。
「見切られた!?」 「何度も同じ手に引っ掛かるほどアホじゃないわ、そして今ならいる場所も分かる。フルック、ぶっとばせえ!」
放たれた『れいとうビーム』を回避すると同時にムクホークはアスカの後方目掛けて風を切り裂きながら一気に突進し、池の中で蠢く影目掛けて沼など気にせず突っ込んだ。 激しい衝撃と共に辺り一面の泥が高く跳ね上げられ、巻き上げられた泥はアスカとエリサ、さらには観客のいる場所まで飛び散り飛散する。 ゆっくりとアスカが目を開けてみるとムクホークの体がミロカロスを地面と挟むような形で捉えており、だがまだ体力が残っているのか、ミロカロスが口を開くと青白い光が集まって行く。 必殺の『ブレイブバード』の衝撃でダメージがあるムクホークだが相手よりも一足先にその尻尾を両足で掴み、羽ばたくと同時に相手の巨大を振り回しながら大回転。 パワー溢れるムクホークの荒々しい技に会場は一気に盛り上がり、相手を大量に回転させたムクホークはミロカロスを空中に投げると、再び羽ばたいて相手に迫る。 空気を切り裂き捉えに掛かるムクホークに対し振り回されたミロカロスはおぼろげな意識の中で確実に『れいとうビーム』のエネルギーを蓄え、敵を視界に収めてそれを発射。 まさに眼前まで迫っていたムクホークがミロカロスに激突すると同時にミロカロスの攻撃が放たれ、互いの攻撃がそれぞれにクリティカルにヒットした。 空中に居たミロカロスはさらに空高く吹き飛ばされ、相手の『れいとうビーム』の直撃を受けたムクホークは、体中を凍らせながら蛇行して落下。 吹き飛ばされたミロカロスは上空で苦しいながら姿勢を整えると同時に水を噴射し、ムクホークとミロカロスは互いのトレーナーの前に落ちて来ると、ぐったりとその場に倒れそうになる。 暗黙の了解――アスカとエリサはそれぞれボールを手に取るとポケモンを戻し、次に出すべきポケモンをその手に構えた。
『何と両者ともに同時にポケモンを交換! むしろ二人が互いに納得し合い、隙を作り合って成立した不文律のようにも見えます! この勝負、この先まだまだ荒れそうです!』
ボールに戻したアスカとエリサは構えたモンスターボールを再びフィールドに投げ込むと、それぞれのボールから褐色の光に導かれポケモンが姿を現した。 アスカが繰り出したボールから飛び出したラプラスは沼の中にその身を沈め、エリサが繰り出したポケモン、ヘラクロスは沼の上に立つ。
「行くわよ、アスカさん」 「こちとら行かせてもらう、次が第二ラウンドよ!」
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Re: 短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.15 ) |
- 日時: 2010/09/25 23:39
- 名前: 月光
- 繰り出されたラプラスは間髪置かずに口元にエネルギーを溜めると、泥濘に立っているヘラクロス目掛けてフェイントも何もない『れいとうビーム』を打ち込む。
若干足が泥に浸かっていたヘラクロスはそんなモノを苦ともせずに抜け出すと、羽ばたいて向かって来たラプラスの攻撃を余裕を持って回避した。 だが先手を取ったアスカは連続で指示を出し相手に攻撃の隙を与えず、空中に逃げたヘラクロスだが遠距離攻撃のせいでなかなか反撃の機会が訪れない。 まずは接近する――エリサはラプラスの放つ『れいとうビーム』の回数をしっかりと確認し、さらに何回の攻撃にどのようなインターバルがあるのかをその眼で見切る。 連続で放たれる『れいとうビーム』、ヘラクロスが翼に僅かに掠ったその瞬間、ラプラスが次の公的のために大きく息を吸う直前、エリサはすかさず指示。
「ヘレス! 今よ!」 「へぇ、数回見ただけでプラスの隙を突くなんてやるわね。でも今度はこっちの番、潜りなさい!」
放たれた『れいとうビーム』を回避し一気に加速をつけたヘラクロスが角を向けてラプラスに迫るが、それを見越したアスカの指示で泥の中に潜るラプラスに攻撃は当てられない。 猛スピードで迫っていたヘラクロスは水面ギリギリを飛行し、潜ったばかりのラプラスがその後方に現れると、すかさず相手目掛けて『れいとうビーム』を放った。 しかしその瞬間にヘラクロスの姿が左右に幾重にもブレ、何十匹の分身のうち一つを打ち抜いた『れいとうビーム』は、アスカの目の前の泥に当たって一面を凍らせる。 ラプラスが再び泥の中へと姿を隠すとヘラクロスは空中で大きく反転し、影分身の数も合わせて全てが先ほどまでラプラスがいた場所目掛けて突進。 薄ら笑うアスカの表情を見たエリサが指示を出すより早くラプラスが今度はヘラクロスの後ろに現れると、再び発射した『れいとうビーム』を横薙ぎに放ち、ヘラクロスを一気に蹴散らしていく。 消える、消える、消える……日地番左にいたヘラクロスへついに『れいとうビーム』が迫り、アスカが捉えたと確信し攻撃が当たると同時に、弾かれたヘラクロスの姿が霧のように消え去った。 影分身を引率するためだけの『みがわり』!?――辺りがアスカを見渡すと同時に突然強くなった日差しが彼女の眼を刺激し、腕で光を遮りながら上を見上げる。 両手を広げるヘラクロスに強くなった日差し、ほぼ確実に『にほんばれ』をしたと思われるが、大抵の人はヘラクロスが『にほんばれ』を覚えるメリットが分からない。 だがアスカは知っている。ホウエンリーグでエリサは今回のメンバーのほかにメガニウムを持っていた、つまり本来このヘラクロスが『にほんばれ』をするのは後続の草タイプの為だが、まさかこのような形で使われるとアスカも予想していなかった。 強烈な日差しに沼から少しずつ水分が抜けると同時に固まって行き、干上がり熱せられて来た沼からラプラスが姿を現した瞬間、ヘラクロスが迫る。
「まずいわね。プラス、今のうちに手を打っておくわよ!」 「させない! ヘレス、一気に攻めるわよ!」
ラプラスが再びフィールドを潤すべく水を吐き出すよりも早くヘラクロスが迫り、泥に埋まっていたラプラスの背中の突起の一つを掴むと、激しく羽ばたき泥からその巨体を引っ張り出す。 持ち上げたラプラスをフルスイングしたヘラクロスはその巨体をさらに上空に放り投げると、右手に強烈な力を込め、落ちて来るのを今か今かと待っている。 投げられたラプラスは上昇を食い止めると今度は一気に落下していき、真下で攻撃を構えているヘラクロスを見ると、むしろ落下する速度を利用して一気に相手に迫った。 下で待ち構えるヘラクロスと上空から落下して来るラプラス、普通に見ればヘラクロスが優位に攻撃できるが、油断はできない。 迫る二匹、そして互いが互いに攻撃を繰り出した瞬間、両者がそれぞれ互いのトレーナーの位置に向かって吹き飛ばされた。
「プラス!?」 「ヘレス!」
吹き飛ばされたポケモンを互いのトレーナーが大声で呼びかけると、互いにそれほど強くはないが、しっかりとした鳴き声で返事を返す。 落下を待っていたヘラクロスが放った攻撃は十分にエネルギーを溜めて始めて放てる技『きあいパンチ』、一方でラプラスは落下の速度と己の体重の大きさを利用した、ひれを使った『のしかかり』の攻撃。 着地したヘラクロスは怯むことなく走り出すと翼を広げ、さらに角が光り輝き始め、凄まじいプレッシャーを構えてラプラスに迫って行く。 幸運にもまだ泥が多かった沼地に落下したラプラスもすぐさま姿勢を立て直し、正面から向かって来るヘラクロスが泥で僅かに足を取られた瞬間、最大出力で『ハイドロポンプ』の発射。
「これで終わらせて! プラス!」 「こっちこそこれで終わらせるわよ! ヘレス!」
放たれる激しい水流の中に飛び込んだヘラクロスは角を使い水を切り裂き突き進み、速度が落ちているが確実にラプラスの元へと突き進む。 依然として上空から降り注ぐ『にほんばれ』の効果もあってラプラスの水流には普段の半分ほどの威力しか感じられず、水流の中の影がついにラプラスの目の前を捉えた。 『ハイドロポンプ』を突き破ったヘラクロスはラプラスの顔面を『メガホーン』で一突きし、水流の方向がずれた瞬間、さらに着地して腹部目掛け強烈な角で薙ぎ払う。 200kg以上あるラプラスの巨体が豪快に吹き飛ばされ、泥の上を二転三転してアスカの前まで転がって来た。 これ以上攻撃を喰らうとマズイ――ラプラスの体力の限界を感じ取ったアスカはボールを手に取り、ヘラクロスより早く戻せることを祈りながらボールを向ける。 間に合わないと思われるタイミングだが既に相当のダメージがあったことと泥濘に足を取られたことでラプラスは無事にボールに戻され、そのタイミングを見越してエリサもヘラクロスをボールに戻した。 そしてアスカとエリサはそれぞれ同時にボールを構え、それをフィールドに向かって投げる。両者が三匹を全て使う、この大会初めての事態だ。 ボールから繰り出されるのは業火に身を包み躍り出るバクフーン、激しく慟哭と恐怖を刷り込むような咆哮を上げるガブリアス。
「互いに最後のポケモンか、負けられないわね」 「うふふ、そっちのバクフーンが曲者で主力だって言うのは知っているわ。油断はしない、確実に倒す」 「強敵と戦うときは己の戦い易いフィールドを作れ。闇雲に立ち向かう者に未来は無い。己を律し、先を見据える者だけに未来はやって来る……やって見せます、師匠」 「何かのおまじないかしら!? アリス、まずはこっちのフィールドに引きずり込むわよ!」 「させない!」
出現と同時にガブリアスはフィールドの地面に思い切り尻尾を叩きつけると、『にほんばれ』によってすっかり乾燥した泥の破片が舞い上がり、その巨体は回転させる。 だが先を見越して駆け出していたバクフーンの炎を纏いながら繰り出された突進し、紙一重で回避したガブリアスは『すなあらし』を阻止され、地面を蹴ってバクフーンが再び突進。 回避の僅かな速度を右足を軸にして回転させ、迫り来るバクフーンとガブリアスの回転する尻尾が激突し、両者ともに衝撃で僅かに吹き飛ぶ。 日照り歯弱くなってきたがまだ『にほんばれ』の効果が続いており、泥は以前乾燥したままでバクフーンの炎の威力も高い。 弾かれた際に口から業火を放ち、その推進力を利用してガブリアスから距離を取りつつ攻撃するが、鋭い俊敏性によって右腕を僅かに掠る程度で避けられた。 回避すると同時にガブリアスは一気にバクフーンへの距離を詰めると、地面を蹴って大きく上にジャンプすると同時にバクフーンの姿が幾重にもブレる。
「その対策は知っているわ。右から二匹目、アリス!」 「簡単にやられない。相手のペースを乱すことを、私は常に取り組んできた!」
振り抜かれたガブリアスの右翼の爪がバクフーンを捉える瞬間、バクフーンの体から溢れだす煙のようなものがその真下に集まり、物体としての堅さを得たその台を利用してバクフーンが跳ぶ。 作り出された『みがわり』は振り抜かれたガブリアスの攻撃によって直ぐに煙となって空中に溶け、上空へジャンプしたバクフーンは炎を纏い、隙だらけのガブリアスの背中への直撃。 ガブリアスの悲鳴が小さく響くが直ぐに体を反転させると同時にバクフーンの体を両腕でしっかりとホールドし、地面に向かって一直線に降下すると、すれすれで相手の体を叩きつけてさらに踏みつける。 互いに直撃……だが、先に攻撃を喰らった際に衝撃なのか、ガブリアスの攻撃を受けたバクフーンは直ぐに立ち上がり再び口から灼熱の業火。 しかし今度はガブリアスが『かえんほうしゃ』が迫るよりも早く二つの姿に別れ、エネルギーから出来たガブリアスと本体のガブリアスが一気にバクフーンへと接近。 右か左か、既に日照りの効果が殆ど無くなって来ている今、攻撃をはずしたら若干だが不利になる。
「分からない……ルーシー、でんこうせっかに切り替えて!」 「そう来るわよね。アリス、ドラゴンダイブ!」
バクフーンが火炎を止めて『でんこうせっか』に切り替えた瞬間にガブリアスは地面を蹴ってさらに加速し、二匹のガブリアスがさらに空気を切り裂き迫り来る。 ミスった!?――今ここで中途半端に指示を止めればバクフーンが混乱してしまいかねない。かと言って『でんこうせっか』と『ドラゴンダイヴ』では、地力が違い過ぎるのは明らか。 二匹のガブリアスとバクフーンがフィールドの中央で激突すると金属同士がぶつかり合った様な激しい音が響き、衝撃波がアスカとエリサを襲う。 『みがわり』によって作られた一匹のガブリアスが消えると共にバクフーンが激しく上空へ吹き飛ばされ、アスカの声で何とか意識を留めたバクフーンは、受け身を取って地面に着地。 再びガブリアスの攻撃が来る……誰がもそう思ったその瞬間、泥濘に足を取られたガブリアスは、加速の勢いが余って激しく転倒する。 僅かに顔を強張らせたエリサが上空を見上げると既に日照りは終わっており、その影響で地面の底から溢れる水によって泥が再び蘇ったのだ。 見逃せないチャンス、アスカの指示によってバクフーンが空に向かって咆哮を飛ばすと、再び先ほど同様に日差しが強まり地面が乾き出す。 同時に背中に最大級の炎をともしたバクフーンは小細工を無しに一直線にガブリアス目掛けて駆け出し、一瞬の戸惑いで余裕が無いガブリアスは、横目でエリサの指示を仰ぐ。
「アリス、こうなったら力で勝つしかない。ぶっ飛ばすのよ、それしかないわ!」
頷いたガブリアスは素早く両手を広げると同時に走りやすくなった地面を駆け出し、頭で空気を切り裂きながら、炎を纏うバクフーン目掛けて『ドラゴンダイブ』を繰り出す。 もはやこうなったら地力の勝負、どっちが強いか、どっちの攻撃が勝るか、ただそれだけの純粋な勝負。
「決めて! ルーシー!」 「吹き飛ばせ! アリス!」
二匹がフィールドでぶつかり合い、再び激しい轟音と共に、辺り一面を突風が包み込んだ。
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Re: 短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.16 ) |
- 日時: 2010/11/27 21:58
- 名前: 月光 ID:jpa7EYnY
- フィールド全体を包み込む激しい衝撃波によって激突地点を中心に激しい砂塵が巻き上げられ、吹き荒れる突風がアスカとエリサを包み、砂塵が観客席を覆い尽くす。
衝撃波と同時に二匹のポケモンがそれぞれ対局の方向に吹き飛ばされ、地面を何度も転がりながらようやく速度が遅くなり、両者ともにピクリとも動かない。 しかし先ほどのカズハとシグレのバトルのようなダブルノックアウトの制度は決勝戦には適応されず、あくまでもどちらか一方が動くまで待ち、先に立ち上がった方が勝ちとなる。 審判が両者のテンカウントを終えると会場全域にブザーが鳴り響き、先に立ち上がった方が勝ちになるシステムが適応。 ブザーの音に意識をしっかりと取り戻した二匹は震える体に鞭を打つと両足に力を入れて踏ん張り、揺れる体を何とか保ちながら体を起こしていく。 どちらが先に立ち上がるか……先ほどまで歓声と応援で五月蠅かった会場が今は小鳥の鳴き声が透き通って聞こえるほど静寂し、目の前の結果をただ見つめていた。 それぞれの手持ちを固唾を呑んで見守るトレーナーの前で二匹のポケモンほぼ同時に立ち上がり、しかしその瞬間、一匹のポケモンが崩れ落ちる。
「ルー……シー……?」
ゆっくりと崩れて行くバクフーンが完全に地面に倒れた瞬間、静寂の壁を打ち破り大きな歓声が会場内に湧き上がった。
『バクフーン惜しくも崩れる! 立っているのはエリサ選手のガブリアス、今大会最大の激闘を制したのはホウエン代表のエリサ選手です!』
爆発的な歓声の中でエリサは溜まっていた不安と恐怖を安堵の息と共に出し、今にも倒れそうなガブリアスの元へ歩み寄り、頭を撫でてボールに戻す。 バクフーンが倒れたと同時に走り出したアスカは体の様子を一通り確かめるが特に問題は無く、安堵の溜息と同時に震える両腕でバクフーンを強く抱きしめてからボールの中へ。 負けた……今まで幾度と無く負けは経験して来た。しかしそれら全てを超越して、今回の負けは……辛い。 しゃがみ込み俯いたままのアスカへ歩み寄るエリサは同声を賭けたらいいのか分からず少し戸惑うが、突然立ち上がったアスカに驚き肩を震わせる。 笑顔で差し出される右手、小刻みに震えるその手をエリサも右手でしっかりと握り締め、フィールドの中央で互いが互いを讃え合って握手。 力強く握られる手をエリサも力強く握り返し、好戦的な瞳で見つめて来るアスカに対し、エリサは穏やかな表情を返す。
「良い試合だった。こう言っては気を悪くするかもしれないけど、もっと簡単に勝てると思ってたの。だから途中、凄く怖かった。追いつかれる……追い抜かれる……ってね」 「慰めなんていらないわ。負けは負け、勝ち負けに途中の過程何て関係無い……いつもそう言われてる。だから、勝つことが全て」 「そうね、慰めなんて逆に失礼だったわ。戦ってくれてありがとう、次にどこかで合うようなら、もう一度戦いましょう。今みたいに、互いの全力を出し切って」 「望むところよ。今回は勝ちを譲ってあげるわ。あともう一度言うけど勘違いしないでよね、私は負けて悔しいなんて思ってない。むしろこれから絶対に勝ってやろうって、意気込んで来たわ!」 「怖いわね。勝利に貪欲なトレーナーほど怖いって師匠には言われてたけど、貴方からは強くそれを感じる。次、楽しみにしてるわ」
微笑みながら踵を返したエリサはフィールドを去って行き、大歓声に送られながらアスカも日照りと放水装置が止まって乾いたフィールドの上を歩いて去って行く。 観客の健闘を讃える声援も司会者が熱気を込めて話す言葉もアスカの耳には入らず、出入り口からフィールドの外へ帰って来ると同時にコンクリートの壁を右手で思い切り殴り、ずるずると膝を着くと大粒の涙が溢れ出した。 視界が涙で滲み全てがぼやけ、目頭どころか顔全体が熱くなり、上手く呼吸ができず苦しくなって何度も嗚咽と咳が漏れるが、涙は一向に止まらない。
「ちくしょう! ちくしょーちくしょーこんちくしょー! 何で、どうして!? 私は……っぐ、わだじは! なんで!?」
負けられない戦いで負けてしまった……恥ずかしさと己の未熟さに今すぐでも頭を叩きつけて死んでしまいたいほどの苦しみが、絶え間なくアスカに襲い掛かっていた。 何度も何度も右手で壁を叩いて行くうちにその力は弱くなっていき、虚しさと悔しさだけがただひたすらその場を包み込む。 廊下の奥から近づいて来る足音……もはや涙と鼻水で言葉すら出ないアスカは揺らぐ視界の端に入ったその姿を見ると、顔を歪ませその人物を見上げた。 彼女を見下げるその姿は決して彼女の健闘を褒め称えているものではなく、むしろアスカに追い打ちをかますには十分なほどの威圧感。
「じしょう……」 「負けて悔しがるだけの元気はある様だな。ならばこんなところで泣いて無いで負けた原因や要素、次勝つためのプランを組み立てろ!」 「わだじ、ぜっだい勝つっていっだのに……師匠のま、前で……なのに……わだじばっ!?」
アスカが顔を上げた瞬間にシリュウの張り手が彼女の左の頬を叩き、突然の出来事にアスカは言葉を失い、黙って目の前のシリュウを見上げる。
「まずは泣き止め。やるべきことが出来るのに何もしない……俺はそう言う輩が大嫌いだ」 「……すみ……ません……師匠」 「お前は負けるといつもいつも俺の前では強気を見せていたが、部屋に戻ると何十分も泣いていたな」 「な、何でそれを知ってっつ!?」
アスカが問い掛けるよりも早くシリュウの左手が彼女の右頬を叩き、再び彼女を黙らせる。 叩かれた右の頬を抑えながら俯くアスカは再び目から一筋の涙が流れ、それと同時に彼女の頭に、シリュウの手が軽く置かれた。
「泣くほど悔しい……人は己の無力さを知り、悔しい想いを糧に強くなる。やるべきことは確かにある、だが……こう言う時ぐらいは、泣いたって良いぞ」 「でも、さっきは」 「アレは師匠としての言葉であり、今のは俺個人言葉だと思え。よくやった」 「じ、じじょおおおお!」
再び号泣したアスカがシリュウに抱きつこうとした瞬間、その抱擁は見事に回避されると同時に、彼女の頭にゲンコツが落ちる。
「ただし甘えてばかりでいいと言う訳ではない」 「はれぇ?」 「闇雲に立ち向かう者に未来は無い。己を律し、先を見据える者だけに未来はやって来る。いいか! 先を見据えろ、そして自分を律しろ」 「は、はい!」 「この先辛いことはいくらでもある。お前に、それらを乗り越える覚悟があるか!?」 「あります……どんなに辛いことがあっても、私はそれを乗り越えて見せます! なぜなら私は、世界で一番素晴らしい師匠の弟子だから!」
アスカは立ち上がると同時に勢いよく答えると、再び頭に手を置いたシリュウが僅かに微笑みを見せた。 だが何故かアスカにはその微笑みがむしろ何故か悲しんでいるように見え、彼女が言葉を駆けるより早く、シリュウがその手を退ける。
「それで良い。次の対戦者が来る時の邪魔になる、さっさとここを離れるぞ」 「あれ? 決勝は今終わったはずじゃ――」 「トーナメントの勝者はチャンピオンのワタルと戦う権利が与えられるわけだが……おっと、噂をすれば……だな」
外で司会者が再び熱気に満ちた声で何かを叫ぶ声より、廊下の奥から聞こえて来る一歩一歩の力強い足音が、アスカの意識を奪い取る。 漆黒のマントに身を包む男……カントー地方ポケモンリーグ現チャンピオンのドラゴン使いワタルが姿を現すと、彼はアスカの前まで来ると足を止めた。
「放送室から見ていたよ。己の全力を尽くし、多くの物を駆使する力……良い勝負だった」 「あ、ありがとうございます!」 「これからリーグ優勝者と戦おうと言うのに他人の戦いの賛美とはな、カントーリーグチャンピオンはお人好しなのか愚かなのか」 「し、師匠!? チャンピオンに対して何と言うか凄い無礼だと思うんですけど、その――」 「はは、そう言う考え方もありか。どうやら君は、良い師匠に巡り合ったようだね。いずれ君とも戦うような予感がするが、根拠が無いことは言わないでおこう」 「いいえ、きっと貴方と戦って見せます。根拠だってあります」 「へぇ、それは?」 「私は、この素晴らしき師匠の弟子です! 絶対に強くなって、貴方とも戦って見せます!」
きょとんとした表情を浮かべるワタルはしばらくするとクスクス笑い出し、頬を膨らませたアスカの横で、シリュウまでもが溜息をつく。
「な、何でそんなにがっかりするんですか師匠!」 「はははは、いやいや素晴らしい根拠だ。楽しみにしているよ」
マントを靡かせたワタルは大歓声が溢れるフィールドへ向かって再び歩き出し、反対方向に踵を返したシリュウの後に続き、アスカも慌てて歩き出す。
医務室の一角、デスクに向かって書類を処理している女性はポケギアを取り出すと、番号を打ち込み電話を開ける。 二三回のコールの後に相手は電話に出ると、多少のノイズが入ってからようやく第一声が送られて来た。
『もしもし』 「あら、他人行儀ね。何かノイズが聞こえたけど、電波が悪い所にいたのかしら?」 『イヤホンを付けただけだ。それより、何の用だ?』 「放送室に忍び込んだA1とA2が例のシステムを発見したので、念の為報告したわ。貴方の言ってた通り、放送室がコロシアムの制御塔みたいね」 『分かった。その件については後日、詳しく調べてお知らせしよう』 「面倒な時にかけちゃったみたいね、ごめんなさい。カモフラージュ、頑張って下さいね』
女性看護師がポケギアの電話を切り、マリンの寝ているベッドを一瞥し、再び書類に目を通す偽りの作業に戻る。
ポケギアの電源を切ったシリュウはそれをポケットに戻し、横を並ぶアスカがちょっと興味ありそうに尋ねる。
「イヤホンして電話なんて珍しいですね。何かこう、重要な電話だったんですか?」 「特殊な信号を使う会話方針だからな、イヤホンじゃないとよく聞こえないだけだ。それよりアスカ、早くポケモンを医務室に連れて行ってやれ。俺は先に選手控室に行く」 「わかりました。今夜は奮発してすき焼きなんてありませんかねー師匠」 「そうだな、ソーセージぐらいなら買ってやろう」 「……私、父親の買い物に付き合う小学生じゃありませんよ」 「そんなくだらないことを言ってないでさっさとポケモンたちを連れて行ってやれ、一刻一秒を争うかもしれないぞ」 「くだらなくなんてないですよ! うぅ〜、兎に角何か豪華な晩御飯にしましょうね! 約束ですよ!?」
頬を膨らませてから舌を出すアスカは早歩きでシリュウの前から姿を消し、医務室にポケモンを預けに行く。
「約束……か……」
残されたシリュウは小さく息をつき薄らと笑うと、持っていたポケギアの電源を入れ、再び先ほど掛かってきた電話の相手に通信を飛ばす。 胸にあるロケットを握り締る。ディスプレイに映る放送室、カントーポケモン協会会長の姿を睨みながら。
「待っていろ……」
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Re: 短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.17 ) |
- 日時: 2010/11/13 17:56
- 名前: レイコ
- こんにちは。レイコです。
旧ポケノベ移転お疲れ様でした。タイトルも変更して新たなスタートですね。 こちら改めて読ませて頂きました。以下はその感想です。
※未読の方はネタバレに注意。
やはりキャラの描写がお見事です。どの人物も応募キャラとは思えない程生き生き動いていますね。 そして迫力満点のバトル。どの試合も選手とポケモンの個性が光り、見ていて飽きが全くきません。
・アスカVSアダム 通称ポニテVSランボー。人間の同士の遣り取りからすでに勝負は始まっていますが…初っぱなから熱いのなんの! ムクホークやバクフーンの戦法はもちろん、メタグロスから放たれる一発一撃のパワー、スピード感がたまりません。最後まで格好良かったです。
・マリンVSタタ 女性同士のバトル。ぱっと見おっかないです。 互いにスピードにかまけて攻めるタイプではなく、何を仕掛けてくるか分からない相手という。溜めから一気に大技への持って行き方も、そのギャップが大きく引き立てているようです。 ポケモンの持ち味が生かされたバトルでした。
・シグレVSカズハ 不戦勝ですっころびました。気を取り直して次の試合へ。ライバル対決ともいえるムードに無条件で盛り上がってしまいます。前試合がフィールドを生かすバトルだとすれば、今回はフィールドを造り出すバトルとでも言えそうですね。意外と早く決着がつきましたが、正直後半はマリンに目がいってしまって…
・アスカVSリア 他と比べるとかなり短いですが、読み応えは充分ありました。状態異常と読み合いのバトル、原作のゲームに近い熱さを感じます。不穏な空気がいよいよ浸透してきましたね…
・アスカVSタタ こちらもゲームでよくある天候バトル。天候を制した者がバトルを制するといっても過言ではないと思います。どちらがより有利な状況に持って行くのか、どんな技が繰り出されるのか、タイプの相性がいつひっくり返るか分からない展開にはらはらさせられました。
感想は一旦ここで区切らせて頂きます。またお邪魔させて頂きますね。それでは次回更新お待ちしています。
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短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.18 ) |
- 日時: 2010/11/27 23:04
- 名前: 月光 ID:jpa7EYnY
- おーレイコさん、感想ありがとうございます。態々戦い毎に分けて書いて下さるなんて、ありがたいことです。最近何か自分の文章が陳腐化してるんじゃないかって、心配しています。
それぞれのバトルは毎度どうするか割と悩んでいて、これでいいのかって思ってしまうのですが、楽しんでもらえているのは何よりです。これからも頑張るお!
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短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.19 ) |
- 日時: 2010/11/27 23:05
- 名前: 月光 ID:jpa7EYnY
- 医務室にポケモンを預けたアスカは急いで選手控室に戻って来ると、エリサとワタルのバトルは既に終盤のラストステージに差しかかっていた。
このバトルも先ほどのトーナメントの形式従って勝負を繰り広げており、シリュウによると既にそれぞれ三体目のポケモンを繰り出しているらしい。 最後のポケモンはエリサがヘラクロスでワタルがカイリュー、ディスプレイを見無くてもフィールドに変化が無いことから、場所は『コロシアム』だ。 カイリューの繰り出した業火をエリサのヘラクロスは横に回避すると同時に一気に相手との距離を縮めると、懐に飛び込んで力を溜め込んだ強烈な一撃を繰り出す。 決まった!――肩で息をするアスカが拳を握り締めた瞬間、吹き飛ばされたと思われたカイリューがその反動を利用して強烈な尻尾の打撃を繰り出した。 視界の外側からの攻撃に後頭部を撃たれたヘラクロスは激しくふらつき、そこへ体勢を整えたカイリューの『メタトンパンチ』が強烈にクリーンヒット。 吹き飛ばされたヘラクロスは宙高く舞い上がると地面に落下し、近づいた審判が放送室に向かって白旗でバツ印を作って送る。
『決まりました! 激戦の末に勝利を収めたのはカントー地方ポケモンリーグチャンピオンのワタル選手! 強い! チャンピオンズリーグの優勝者エリサ選手を、よ力を持って倒しました!』
ヘラクロスとカイリューをそれぞれボールに戻した両者はそれぞれフィールドの中央で固く握手し、観客の声援に見送られながら二人ともフィールドを去って行く。 余力を持って――その部分がアスカには少し的外れな解説に思えたが、相手がポケモンリーグチャンピオンなだけに司会者の方も無意識のうちに過大評価の言葉を選んだのかもしれない。 これを以って全ての試合が終了し、ワタルとエリサが医務室にポケモンを預けた後で、優勝者に対する表彰と優勝賞品授与が行われる予定だ。 控室の選手たちはコロシアムのフィールドに向かうために立ち上がり、表彰式はフィールドに入ることを許可されているカメラマンたちがぞろぞろとその後に続く。 アスカ他の方を叩いたシリュウが部屋を出て行き、カメラを持ったスミレも部屋を出ようとして、ただ一人突っ立ってフィールドを眺め続けるアスカに歩み寄った。
「どうしたんですか、ぼーっとしちゃって……やっぱり、負けが悔しいんですか」 「ううん、それはもう乗り切ったの。この景色も見納めで、何か長い様で短かったなって思うと、何か寂しくなっちゃって」 「何となくわかるわけど、皆を待たせたら怒られちゃうわよ」 「うん、行きましょう」
チャンピオンズリーグコロシアムの医務室、少しうなされながら突然目を覚ましたマリンは一瞬自体を理解するのに時間がかかったが、直ぐに状態を起き上がらせて立ち上がる。 体温保持のための白衣を脱ぎ捨てると横に置かれていた自分の服に素早く着替え、最後に辺り一面を見渡すが、どうしても巻所のモンスターボールが見つからない。 カーテンを急いで開けると白衣を着た女性が突然後方で大きな音を立てたマリンに驚き椅子から転がり落ちそうになるが踏み止まり、ズレた眼鏡を直しながらマリンに微笑みかけた。
「あら、もう傷は良いのかしら。大した回復力だわ、骨折はしてないみたいだけど打ち身とかしてるから、まだ安静にしてた方が――」 「大会は! 大会はどうなってるの!?」 「そんなに慌ててどうしたの。あぁ、もうすぐ表彰式が始まるわね、貴方も急いで向かった方が良いわ」 「それどころじゃないのよ! ポケモン、私のポケモンはどこ!? 早くあいつを止めないと、大会自体が大変なことになる!」 「……大変って、どう言う意味? それに、ポケモンは休憩中よ」 「説明してる時間は無いの! 兎に角ポケモンを返し……まさか、貴方も!」
マリンが全身の傷に鞭を打ちながら一気に後ろに下がって距離を取り、不敵で不気味な笑みを浮かべる女性はゆっくりと立ち上がり、右手にモンスターボールを構える。 普通の看護師が放つオーラとは明らかに違う、もっと黒くて、そして知っている気配……そう、マリンが感じたのは、明確な敵意。
「なんだ、あの人の事を知っているの。だったら、ここを出すわけにはいかないわ。でも安心して、貴方が何もしなければ私も何もしな――」 「五月蠅いわね良いからポケモン返せってんでしょうがこの『おばさん』が!」 「ッのガキ……人が気にしてることをズバッと言ってくれるじゃないの。丁度良いわ、これからあんたをぶちのめす『お姉さん』の名前を覚えておきやがりなさい。『シンボルクロス』が一人、ミネル。嬲り殺しにしてやるわ、精々泣き叫びやがれ!」 「あんた、人に対してポケモン使う気!?」 「我々ロケット団に普通のトレーナーの常識など当てはめるんじゃないわよ! 糞ガキが!」
放たれたモンスターボールから繰り出されたミルタンクは跳び出すと同時に体を丸くし、地面を削るほどの高速回転を駆使して一気にマリンに迫る。 激しく痛む全身を無理やり動かし横に飛んだマリンの足の裏をミルタンクの回転する皮膚が掠り、勢いをそのままにミルタンクが壁に激突した。 コンクリートでできた壁に体の半分ほどが減り込む威力を目の当たりにしたマリンは顔面を蒼白させ、先ほどの攻撃が直撃してたかと思うと血の気が引く。 一歩一歩と迫って来るミネルと壁から抜け出して来たミルタンク、二人に挟まれたマリンが舌打ちすると、右足に何かがコツンとぶつかる。 モンスターボール……しかもマリンの名前が底に刻まれている、彼女のモンスターボール。 恐らく先ほどのミルタンクの部屋を揺るがすほどの衝撃によってどこかに置かれていたモンスターボールの固定が外れ、幸運にも彼女の元へやって来たのだろう。 ベッドとベッドの陰に隠れる形のマリンの変化に相手はまだ気づいておらず、マリンはボールを足の裏に隠すと、両手を上げながら立ち上がった。
「ま、待ってくれない。話し合えばほら……ね? ちゃんと分かるときもあるわよ。『お姉さん』だってさ――」 「今さら取り作ろうったってそうはいかねーわよ。お前は私の逆鱗に触れたんだ、精々嬲って弄んで糞のように扱ってやるってんのよ」 「……貴方、何か言葉遣い変じゃない?」 「どうも怒ってると言葉が少し変ってーか乱暴になるらしいんだけどね、そんなの大した問題じゃねーだろですわ。くたばりやがれ、糞ガキが!」 「そうやって怒ってばかりいるから、重要なところを見逃す」 「あぁ?」 「近づき過ぎた……それが決定的な敗因よ」 「訳分からねーことを、抜かしてんじゃねーわよ!」
ミネルがマリンの襟を掴みかかろうとした瞬間、鼻で笑うマリンは右足でモンスターボールの開閉スイッチを開き、褐色の光が彼女の後ろに現れる。 同時にマリンは大きくジャンプすると同時に空中で回転して繰り出したポケモン、マリルリの後ろに隠れ、右手の指を擦り合わせ音を奏でた。 それを合図にマリルリは大きく息を吸い込むとミネルの方へ顔を向け、もはや逃げられないであろう攻撃の距離に、彼女の表情が途端に引き攣る。
「お、お前! さっき偉そうなこと言っておきながらトレーナーを攻撃する気!?」 「だって仕方ないじゃない。相手は悪の組織だもん、正当防衛ってやつよ」 「ふざけるな! そんなことしてただで済むと――」 「思ってるわよー。だって私、あんたみたいに若さに嫉妬してる『おばはん』見てると、すっごくイライラするんだもん」 「テメー!」 「マリルリ、やっちゃってー」
もはや形振り構わず怒りのままに飛び出して来たミネル目掛けマリルリは小さく息をふき替えるように水を噴き出し、彼女の顔面に当てて動きを止める。 流れるように今度は指示を失い狼狽するミルタンク目掛けて最大級の『ハイドロポンプ』を繰り出し、凄まじい水流に吹き飛ばされた巨体が再びコンクリートに減り込み、医務室全体が振動した。 目を攻撃されたミネルは化粧が落ちて若干お化け屋敷に登場する幽霊みたいになっており、その顔を見たマリンが思わず少し噴き出し、彼女の顔を指差し笑う。
「ぎゃははははなーにその顔!? もう駄目! だいばくしょーだわこりゃあ! 妖怪『四十路お化け』って感じー!」 「殺す……テメーだけは絶対に殺してや――」 「調子乗ってんじゃないわよ、えぇ? 三下の癖に私を殺すだぁ?」
大爆笑から一転し殺人鬼のような醒めた表情になったマリンはミネルの胸倉を掴むと、眼前まで顔を近づけて睨み付ける。
「ひっ、ミルタンク! 何してる、早くこのガキを轢き殺しちまえってんのよ!」 「あいつなら壁に減り込んでおねんねしてるわよ。さて、私を馬鹿にして殺そうとした代償、たっぷりと味あわせてあげるわ。この糞婆が!」 「は、ははは……これだからガキってのは……」
全てのトレーナーが一同に集う中でエリサの表彰式が行われ、壇上に上がった彼女にポケモン協会会長から表彰状とマスターボールが手渡された。 少し羨ましそうに眺めるアスカの頭をシリュウが軽く叩き、少し嬉しそうに溜息をついたアスカは姿勢を正して前を見直す。 大歓声の拍手の中で少し恥ずかしそうに手を振りながら戻って来たエリサをそれぞれのトレーナーが拍手を送り、アダムの横に戻って来る。 アダムとリアは互いに視線を重ね合うと小さく頷いて周りを見渡すが特に何か異常が目立った感じはみられず、先ほどの心配が杞憂に終わるのを祈るしかない。 彼らが見つけた小さな異常は二ヶ所、電力室と電子制御室。 本来立ち入り禁止の場所にいた人間……もちろんただの警備員や管理人と言う可能性も否定できないが、気になる存在であった。 意気揚々となった会場でポケモン協会会長がチャンピオンズリーズ終了の挨拶をし、最後に観客に感謝の言葉を贈る。
『皆さん長い間真にありがとうございました。トレーナーたちによる熱いバトル、どうか忘れずにその胸に刻んでください!』 「会長、俺からも言いたいことがあるんですがいいでしょうか?」
――師匠?……
今までどんな大会で何があっても自分から特に述べることのなかったシリュウを知っているアスカは、態々手を上げて主張するシリュウに僅かな不安を覚えた。 それと同時に感じ取った小さな変化……会長に許可されて壇上に歩み寄るシリュウのその手を掴み取って、止めてしまいたくなる妙な衝動。 会長からマイクを受け取ったシリュウはゆっくりと壇上に上がり、そして会場を一通り見回してから次は参加トレーナーたちを見回し、アスカと一瞬視線が重なる。 不安――アスカが駆け寄ろうとした瞬間にシリュウの鋭い視線に足が凍り付き、シリュウが小さく何かをつぶやくがアスカの耳に届かない。
『皆さん、今回は態々チャンピオンズリーグに足を運んで下さってありがとうございます。大会は楽しかったでしょうか? 残念ながら私は、体調不良によって参加できませんでした』
普通……それが余計に、不安。
『ところで私はジョウトのトレーナーとしてここに来ましたが、出身はグレン島のある村です。ずっと、こういう機会を待っていたんですよ……ねぇ、会長』 「君、一体何を言って――」 『ようやくこの機会が巡って来た。貴様を同じ失墜に叩き落すため、絶望を嘗めさせるため、この日を待っていた』 「だから何を言っているんだ君は!」 『思い出せないのか、貴様の懺悔に。まぁいい、じっくり思い出させてやる……立て』
シリュウの合図と同時に会場のおよそ十人に一人が一斉に立ち上がり、服を脱ぎ捨てると同時に下から現れたのは黒い服と『R』の印。 ロケット団……会場の声が一気に恐怖の声へと変わり、同時にアスカがシリュウの元へと駆け寄るが、その道を阻むように一人の影が割って入る。
「シリュウ様には手を出させん。例えお前が偽りの弟子であっても……な」 「な、何よあんたは!?」 「イシュタル、余計な事をするな。お前はこれからの行動に備えろ」 「はっ、了解です」
一歩二歩と後ろに下がるイシュタルは踵を返すとモンスターボールから一匹のポケモンを繰り出し、その鳥ポケモンの背中に乗って観客たちの元へ戻って行く。
「師匠! これどう言うことですか! 何やってるんですか一体!? 馬鹿なことしないで戻ってきてください!」 「どうもこうもこう言うことだアスカ。俺はな、復讐のために長年機会を待っていただけ。お前はそのための、カモフラージュ。まぁ見ていろ、黙っていれば……直ぐ終わらせてやろう」
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短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.20 ) |
- 日時: 2010/11/30 20:53
- 名前: 月光 ID:8bLQ1Uks
- 会場に蔓延る万を超すロケット団団員の数に一気にどよめきに包まれると同時に混乱と悲鳴が起こり、しかしそれより早く全てのシャッターが降り出入り口は封鎖されている。
さらにコロシアム上部のスライド式の天井も完全に閉じており、今やここは完全密閉された犯罪現場だ。 フィールドの左右にある選手入退場用の出入り口はシャッターが元々無いので開いているが、そもそもそんなところまで行ける者がこの状況下でいるわけがないし、どの道別の場所でシャッターが閉まっているだろう。 ここのシャッターはポケモンが暴走した時のために備えて頑丈に作られており、ポケモン協会のテストによればカイリューの『はかいこうせん』ですら破壊は不可能らしい。 さらにそのロケット団たちに対抗できそうなこの会場内屈指の実力者たちのポケモンは全て医務室、最初から戦える者などいない状態だ。 全てが計算され尽くされた状況……順調に進む計画にだがシリュウは笑うことすらせず、険しい顔つきのまま放送室の方に向き直る。
「ヘルメス、オシリス。人質はどうしている」 『……あーあー、テステス。こっちは終わってんぜ旦那。ポケモン協会会長の妻と息子、うっせーから殺してやろうと思ったが眠らしておいた。見せしめに指三本ほど落しておくかい?』 『リーダー……ご指示を……あぁ……心配無く……この馬鹿が何か……勝手しようとしても……私が……抑えておく』 「この情報は全世界オンエアーだ、そんな物見せなくていい。そう、見せるならもっと醜悪で残虐で、この肥えた豚野郎を地獄の深遠にまで蹴り落とすぐらいのプレイを見せてやるよ」 「貴様! 妻と息子に何を――」 「黙れ豚野郎、てめーがして来たことに比べれば命の一つや二つが何だ。精々今のうちに懺悔でもしてろ」
顔に怒りを滲ませながら壇上に駆け上がろうとする会長をシリュウは軽く蹴り飛ばして叩き落とし、地面に倒れた会長の横に二人の団員が降りて来ると、その手足をしっかり固定する。 反撃の機を窺っていたワタルは会長が捕まると小さく舌打ちし、マントの中で隠しながら持っていたモンスターボールを強く握りしめた。 そんなワタルの表情を一瞬横目で見たシリュウは薄らと邪悪に微笑み、彼が指を鳴らすと同時に、会場の席から跳んで来た団員たちが参加者やカメラマン達、ワタルを地面に押し倒し、その両手と両足を固定。 アダムやヨウタにしてみれば振り払うのは容易だが、ポケモンがいない状況と現状を鑑みれば、今一人でただ馬鹿みたいに暴れたところで効果なんてない。 何かを喋ろうとしたアスカだがそれより早く団員が彼女の顔を地面に叩きつけ、軽い脳震盪を起こしたのか虚ろな瞳のまま彼女の体から力が抜ける。 一瞬それに鋭く反応したシリュウが倒れているアスカを見るが、忌々しそうな表情を浮かべるとともに一度深く呼吸し、会場の座席へ振り向いた。
「さて会場に来て下さった皆様、楽しみをぶち壊すようなことをしてしまって、大変申し訳ない。だが我々としても、ロケット団の復活は宿願。そこで、皆様のポケモン……頂戴したい」
元々ロケット団は他人のポケモンを奪う集団、それを考慮すれば別にこの発言は可笑しくは無いが当然反発の声が上がり、だがそれは直ぐに団員達によって黙らせられる。
「それさえしていただけれは皆様の身の安全は保証しましょう。我々はどこかの誰かさんと違い、正当な約束は守るタイプなんでね」
壇上の下で押さえつけられているポケモン協会会長を侮蔑の眼差しで見下しながら一歩一歩と壇上を下りて歩み寄り、彼の前まで来ると、腰を降ろしてしゃがみ込む。 今にも殴りかかりそうだががっちりと抑えつけられた会長は血眼になりながら歯を噛み締めてシリュウを睨み上げ、そんな彼の顔面を、シリュウが右手で一度殴打。
「何だその目は、お前はこれぐらいやられて当然のことをしたんだろうが。ポケモン協会会長と言う傘がありゃ、自分には火の粉は降りかかるまいとでも思ってたのか? あぁ」 「貴様……何が、何がしたいのだ!」 「ロケット団の復活――っと言いたいところだが、それは俺にとってはサブミッション。俺の中のプライオリティでは、別の項目がナンバーワンだ」 「あ、あのシリュウ様。その発言はどう言った意味で――」
会長を抑えつけていた団員の一人が若干の畏怖を込めながら質問するのに対し、シリュウは薄らと笑うと、会長の頭を踏みつけてから答える。
「安心しろ、別に裏切るとかそんなことじゃない。ロケット団を復活させる、これは本気だ。まだ何か意見があるか」 「いえ、ありません。申し訳ありませんでした」 「それでいい。さて、とりあえずあんたに聞きたいことは二つだ……一つ目、レシラムはどこにいる」
レシラム……その言葉を聞いた瞬間に倒れている会長の表情が一気に硬直し、同時に震えながら自身を見下すシリュウを再び見上げる。
「お前は……まさか……」 「さて、どうなんだ。俺達一族を犠牲にして、お前が手に入れようとしたレシラム……隠しててもいいことにはならんぞ」 「な、何のことだ。そんなポケモンは知らん」 「つまらん嘘は止めろ。お前が察しての通り俺は『グレン』の生き残り、グレン島……お前らのせいで、一時期見る影すら無くなってしまった。レシラムの次はグラードンか。しかも今度は全壊。どこまでも腐った奴だな、お前は」 「知らん! 私はそんなもんは知らん!」 「しらを切るならお前の女房と息子を殺してやってもいいんだ。俺は優しいからな、犠牲を少なくしたいのさ。さあ、レシラムはどこだ」
放送室の方に視線を向けた会長はいつの間にかロープで天井に尽くされた状態でぐったりと寝ている女性と男の子を見ると、歯を噛み締めながらゆっくりと口を開く。
「……捕まらなかった」 「ふん、やはりな。貴様ら如きではレシラムもグラードンも所詮は無理と言うことだ」
立ち上がったシリュウはポケギアを取り出すと同時にある番号へ電話を掛け、数回のコールの後相手が電話に応じる。
『もしもし?』 「報告だ。やはりレシラムはイッシュの伝説通り、ストーンになっていると見るのが妥当のようだ。ゼクロムも同様だろうな。それから、キュレムの存在には気をつけるがいい」 『やはりそうか。だが随分素直に教えるな、私の計画が完成すれば君のポケモンも解放することになるのだが』 「俺はこの瞬間の為だけに行動している。あとのことはあとのことだ。お前は資金提供、俺は情報と物資提供。それだけだ。この関係も、今日で終わりだろうな」 『残念だ、君はしらたま、こんごうだま、はっきんだまを手に入れ提供してくれるほどの素晴らしい人材なだけに、悔やまれる』 「既に成功した気でいるようだが、精々気をつけることだ。ロケット団もアクア団もマグマ団も、あのギンガ団も子どもにしてやられた。歴史が繰り返すとしたら……お前が心配で仕方ない」 『安心を、私はそんなへまはしない。入念な計画、長年のプロジェクト……最後に聞きたいのだが、いいかな?』 「なんだ?」
電話の隙に誰もおかしな動作をしていないか一通り確認し、シリュウは再び通話相手に意識を向ける。
『君はロケット団の元副幹部。ならば分かっているはずだ、なぜ我々に協力した? いや、協力を仰いだ? 私達が互いに敵意を向けていたことは、上層部だった君は知っているはずだろう』 「ではお前は何で俺の申し出を受けた。資金提供、情報提供、ロケット団が復活することでお前たちにメリットは無い」 『そう、ロケット団が復活することは脅威だ。だがそれ以上に、君の申し出の説明、プロセス、そして本音の憎悪……私はそこに惹かれた。私はね、頭が良くて堅実な人間が大好きなんだ』 「俺が堅実……っふ、色眼鏡だな。本当に堅実は奴は……」
団員に抑えられ未だに意識が戻らないアスカを見下ろしながら、シリュウは無表情で述べる。
「約束を破らないものだろ」 『……そうか。さて、そろそろ用事があるので切らせてもらうよ。この通話が最後になるかもしれんな。さらばだ、我が友シリュウよ』 「じゃあな、精々頑張ることだ。ゲーチス」
通信を終えたシリュウは会長の頭から足を退けると会場に振り返り、待機している団員達に向かって首を一度縦に振る。 それと同時に団員たちが動き出し、それぞれ近場に居るトレーナーを見ると、無抵抗の彼らから無理やりモンスターボールを奪い、それを袋の中へと突っ込んでいく。 静かな会場でただ黙々とモンスターボールを奪われていく……異様、そう言うのがピッタリな光景。だがそれも、今起きていることを考えれば納得の状況。 今会場にいる中でも屈指の実力者たちであるチャンピオンリーグ参加者、さらにチャンピオンのワタルが完全に抑えつけられ、さらに圧倒的人数のロケット団、その中でも鋭い気配を放つ三人の幹部達。 最も恐ろしいのが、この状況を生み出した、ロケット団復活のプロセスを作り出したシリュウ。スムーズに進む作業に、だがシリュウの表情はどこか満足のいかない、懸念を覚えていた。
――スムーズ過ぎる。いや、問題ないはずだが……何かを見落としている。何だ? 失敗の要因。会場は良い。あとは目の届かない場所。そうか、一応確認しておかねば
思慮をめぐらせるシリュウがポケギアを取り出したその瞬間、フィールドの出入口の闇から凄まじい速度と回転を持ったモノが現れ、一瞬反応が遅れたシリュウだが、突撃して来たそれを何とか回避する。 だが会長を抑えていた団員二人がそれによって吹き飛ばされ、好機と見たワタルが二人の団員の手を無理やり振り払うと同時に、モンスターボールを構えた。 謎の飛来物は激しい回転のまま空中でUターンし、アスカや他の参加者達を抑えていた団員たちを横薙ぎに吹き飛ばしながら、現れたトレーナー用の出入り口の闇の奥へ。 突然のことに一瞬視認が遅れたシリュウだが、Uターンの際の僅かな減速の間にその姿を確かに見た。
「カメックス……ミネルめ、しくじったな」
忌々し気な表情を浮かべるシリュウを余所に今度はその出入り口から一人の少女、マリンが息切れ切れに姿を現し、その横にカメックスがゆっくりと着地。 突然の事態に重なる突然の事態、会場にいた全てのトレーナーが、ロケット団団員が見ている前で、マイクを構えたマリンが吠えた。
『オラァ腰抜け共! 何すんなりポケモン渡そうとしてんのよ、馬鹿かあんたらは! ポケモントレーナーなら戦わんかいポケモン持って無い人守らんかい! そこの眼鏡サラリーマン! 今持ってるボール開いて目の前の団員攻撃せんかい! こいつらが、本当にポケモン奪っただけで済ませるような連中にお前ら見えるのか!?』
突然訳の分からない激昂の矛先を向けられたサラリーマンは体をビクッと振るわせると同時にボールの開閉スイッチを押してしまい、出て来たイワークが目の前の団員の上にジャストで降り注ぐ。 完全に偶然の産物とは言えロケット団の団員が一人倒れた。まるで武器庫で爆発が起こったかのようにそこを起点に一気にモンスターボールが開く音が響き渡り、一瞬にして反抗と溜まっていたトレーナーたちの苛立ちが爆発した。 先ほどの怒鳴り声で体に響いた痛みを必死に抑えながら、さらにマイクを構えマリンの言葉が会場を切り裂く。
『やればできるじゃない! ポケモン持って無い人はなるべく会場の上に逃げて、持ってる奴はそいつらを護りなさい! それぐらいできんでしょ! それと、カメックス!』
マリンの合図に頷いたカメックスは甲羅からキャノン砲を出すと、甲羅の中に隠していたものを一気にフィールド上へと発射する。 降り注ぐのは数多のモンスターボール。そう、チャンピオンリーグ参加者たちの所有していた、バトルの治療のためと言う名目で医務室に奪われていたモンスターボール。 団員達の束縛から逃れたトレーナーたちは降り注ぐボールの中から的確に自身のボールを手に取り、気を失っていたマリンの頭にボールが一つぶつかり、その痛みでアスカの意識が一気に現実に呼び戻された。 現状を把握するのに、そう時間はかからなかった。会場の全体で起こっている大地震と勘違いするほどの激しい激動、立ち上がりボールを手に取る参加者たち、入り口であおむけに倒れたマリン。 そしてその現状を忌々しそうに見つめ、アスカと目が合った瞬間、舌打ちをして拳を握るシリュウ。 モンスターボールからカイリューを繰り出していたワタルによって会長は先ほどの場所から参加者たちの付近へ連れて行かれ、偏っていた状況が一気にフラットになる。
「あの状況から激一つでここまで持って行くとはな。さすがはかつてカントーの三強と言われていただけのことはあるな、危険慣れしている」
僅かな賛美を込めながらつぶやくシリュウに対し、会長を取り返して一気に攻勢に転じたワタルが動く。
「奴は今一人、カイリュー! 『はかいこうせん』だ!」
殺さない程度の速度重視の『はかいこうせん』、だがその攻撃がシリュウに届くよりも早く、上空から現れたその影が攻撃を薙ぎ払う。 先ほどアスカが近づいたときも現れた、ワタルも見たことが無い飛行ポケモンに跨る青年、イシュタル。 空中からの降下速度をそのままに地面すれすれを飛行するそのポケモンはかぎづめでカイリューの右手を掴み、凄まじいパワーでその巨体を空中へと持ち上げる。 舌打ちしたワタルは連れ去られるカイリューの尻尾に捕まり、勢い良く引っ張られるカイリューとワタルは、客席の一角へと激しく叩きつけられた轟音が響く。 そこにいたトレーナーとポケモン、団員を吹き飛ばし、椅子と階段を凹ませたカイリューとワタルがゆっくりと立ち上がった。
「シリュウ様の邪魔はさせん。相手になるぞ、チャンピオン」 「カイリューの『はかいこうせん』を弾くとはな、大した鍛え方をしているようだな。参加者たちにも動いてもらうがまずは……俺が相手になろう。相手に取って不足は無い。俺はカントー地方チャンピオン、ワタル! お前の名を聞こうか!」 「シリュウ様に選ばれし『シンボルクロス』の一人、イシュタル。そしてパートナーのウォーグル。行くぞ、チャンピオン!」
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短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.21 ) |
- 日時: 2010/12/06 00:24
- 名前: 月光 ID:ltDmG3Fc
- ワタルとカイリューがイシュタルに連れされると同時にチャンピオンズリーグ参加者たちは会場の真ん中にモンスターボールを構えながら互いに固まるように集まり、周りの状況を再度確認する。
会場の至る所で繰り広げられるバトル、何を考えているのか今のところ動こうとしないシリュウ、出入り口付近で激痛のため再び気を失ってしまったマリン、先ほどイシュタルの乗っていたウォーグルの羽ばたきによって吹き飛ばされた際に気を失って倒れているポケモン協会会長。 こんな場面に居合わせるのが場違いだと言うように溜息をつくタタの後ろで、アダムとリアが互いの顔を見合わせると頷き合い、シリュウに聞こえない程度の声で話を切り出す。 現在の状況を整理するとこうなる。簡単に言えば崩壊したはずのロケット団が終結し、チャンピオンズリーグの放送室やシステム関係の部屋を占拠、首謀者のシリュウはフィールドに一人きり、そして全体が混戦状態。 だが事前に不穏な空気が会場のどこかから潜在的に醸し出され、詳しくは言えない、直感に働き掛ける不安の様な何かがあった。 故にアダムとリアは各自でそれぞれチャンピオンズリーグ終了前に動いてこのスタジアム全体をさり気なく確認した結果、恐らく敵がいると思われる場所は、先ほどの出来事も含めて三ヶ所。 放送室、電力室、電子制御室。そしてこの会場そのものにも何人か先ほどワタルを連れ去った様な戦闘に特化した団員が、恐らく二三人はいるはず。
「俺とリアで予め調べた結果がこんなものだ。それぞれの部屋に二人ほど作業員に化けていた奴がいた。そいつらも無力化しないと無意味だ、表だけ抑えても意味が無い」 「そこで分散して対処しようと思う。放送室にはカズハ君とシグレ君、電力室にはヨウタさんとエリサさん、電子制御室にはタタさんとアダムさん。会場は僕とアスカさんとあそこで倒れてるマリン、後で叩き起こしておこうか。あとワタルさんだ」 「よし! 目標が決まってんならさっさと行くぜ。おらシグレ、さっさと行くぞ!」 「全く、俺に命令形で指示するな。だがまぁ、今はそうも言っていられない状況か」 「そうね。ヨウタさん、早く電力室に行き――」
「やれ」
先ほどまで思慮に耽っていたシリュウが無線機に合図を飛ばした瞬間、放送室を中心に一瞬にして膨れ上がった薄い膜のようなものが会場の内部全体を一気に覆い尽くし、すぐに会場は元の状態に戻った。 余りにも一瞬のことに会場でバトルしていたトレーナーたちは気づいていない。だが会場の中心にいた参加者たちは、今一瞬に自分たちを覆った妙な光に体をこわばらせる。 今の妙な光は何なのか、少なくともシリュウがどこかに指示を飛ばしたがために作動したものだと言うことは確かなこと。 シリュウは動きが止まった参加者たちの方に視線を向けると、それぞれの表情と感情を読み取るように視線を流し、再び少し上を向いて思慮に耽ると、余り間を置かずして口を開く。
「今のシステムは『ファーストロック』と呼ばれるこのコロシアムに設けられたシステムだ。トレーナーは『最初のポケモンしか出せない』ようになる。つまり、一匹出したら、もうそのトレーナーはポケモンを出せない」 「こんなシステムの存在は、私は知らなかった。私の師匠もこんなシステムのことは、必要無いからかもしれないけど教えてくれなかった。何で貴方は知っているのかしら」 「こんなときでも情報を引き出そうとする、ポケモンレンジャーとしては及第点だが、状況を考えてから言うことだな。だが既に俺が配置した『シンボルクロス』達の場所も分かっているようだな。そしてそれを倒そうとする行動力、団結力、知恵……そんなお前たちにチャンスをくれてやる」 「……師匠、今からでも、止めるつもりな――」 「お前たちはそれぞれの場所に行きたいんだろうが、本来俺と会場の『シンボルクロス』たちがそれを許すはずが無い。だが、それを許可してやる」 「悲劇の中にある一筋の光を、まさか悪役である君が注ぎ込むとは。これは悪の囁きか、それとも気まぐれかな?」 「ただし条件が一つだけある」
ゆっくりと右腕を持ち上げるシリュウに誰もがモンスターボールを右手に構えるが、彼の右手はただ一人の人物を指しただけだった。
「アスカ、長々と隠れ蓑になってくれた礼だ。ここで俺が直々に相手をしてやろう。他の者は手を出すことは許さん、手を出せば俺自ら会場のトレーナーどもをカメラの前で殺す」 「ふざけんな! エリサ、電力室行く前にこいつをここで潰しておいた方がいい! こいつが親玉なんだろ、だったら今すぐにでも――」 「止めて!」 「……アスカさん?」 「エリサさん、ヨウタさん。他の方々も、それぞれ先ほどリアさんが言った場所に向かって下さい。あの人は有言実行をする人、本気で先ほどの言ったことをためらい無くやる。だから、ここは私に任せて下さい」 「――フン。行くぞタタ、電子制御室だ。ついてこい」 「あーもう、何でこんなことに巻き込まれなくちゃいけないのよ!」
アダムが駆け出すとタタは重い溜息をつきながら頭を掻き、だが断ることなく彼のあとに続いてフィールドから出て行く。 それを皮切りにカズハとシグレは放送室目指して駆け出し、ヨウタとエリサも電力室に向かって走り出した。 リアは会場のはずれで倒れていたマリンを少し強引だが頬を叩いて起こすと、目が覚めたマリンは再び空元気を絞り出し、カメックスの背中にリアと乗って会場の観客席へ。 会場の中央ではシリュウとアスカのみがその場に残され、先ほどまで五月蠅かったはずの周りの騒音が酷く静かに聞こえ、二人はただ視線を交わらせる。 二人の間を流れる恐ろしいまでの静寂が、時を操る。 普段なら何と言うことも無い時間が、一言二言交わすぐらいに用いる時間が、アスカの中ではこの上なく長く感じられた。 何を言えばいいのか分からない……啖呵を切ったはいいものの、射殺すほどに静寂に満たされているシリュウの視線を前に、アスカは緊張で心臓が縛られるようような苦しみが、呼吸が早くなるのを確かに感じる。 正反対にシリュウは相変わらずの平静。僅かに震えだしたアスカをまるで貶すかのような小さな息を吐き、未だに会場で倒れて気絶しているポケモン協会会長を一瞥。
「アスカ、お前は家族がいるな」 「え、えぇ」 「よし、まずはそっちから殺すとするか」 「なっ!? そんな――」 「その感情だ。お前は恐ろしく動揺し、同時に心の底で俺への殺意が湧いたはずだ。それを最大限に抱えているのが、今の俺だ。お前が師匠だと思っていた奴は、醜い復讐者だと言うことだ」 「……何が、言いたいんですか?」 「一瞬でも『その感情』を抱いた者はシンパシーを得る。俺の家族、一族は、こいつらの実験のために滅びた。もう十年近く前の話だがな」 「えっ……」 「もうわかっただろう。お前は偽りの弟子だったが、どうだ、今からでも俺の方に着く気はないか? お前の実力なら、それなりの地位に――」 「お断りします」
先ほどまで僅かな動揺が確かにあったはず、しかしそれを抑えたアスカの発言は、一筋のぶれもない。 あまりに呆気無く断られたことにシリュウは一瞬明らかに驚きに目を見開くが、すぐに無表情……いや、若干の笑みを手で隠しながら笑う。
「随分ときっぱり断るな。そいつは、その糞野郎は、それ以外にも多くの――」 「私の『師匠だった人』が言っていました。『常に自分を貫き信じろ』と。私は『貴方』の気持ちの全てなんて分かりません、でもこれだけは言える。多くの人を巻き込む貴方のやり方は……間違っている」
呼吸が戻った。緊張が消える。迷いの無いアスカの視線を前に、シリュウはポケギアを取り出し仲間へと連絡を取る。
「おい、フィールドの場所だけ『ファーストロック』を解除しろ」 『旦那ー面倒臭い注文はやめてくれよー。今扉の外に二人組がもう来ててさ、危ないんだよ』 「そうか、言い方が悪かったな……さっさとやれ、命があるうちにな」 『ど、どうしたんですかい旦那、声に凄味が……了解、すぐに解除しますよ。おいヘルメス、扉破られねーようちゃんと抑えてろ!』 『やっている……だが……そろそろ……限界だ……来るぞ』 『オラァ! ちょこまかすんじゃねー、シグレ! さっさとこいつら葬り去るぜ!』 『ッチ。旦那、解除は完了したぜ。それじゃー』
無線越しにカズハの五月蠅い声が響くと同時に通信が切られ、シリュウはポケギアをポケットにしまいモンスターボールを構える。
「さて、フィールドに掛かっている『ファーストロック』だけ解除した。アスカ、お前は全てのポケモンを持って掛かってくるチャンスをやろう。俺が使うのは一匹だけだ。どれだけ強くなったか、俺に見せてみろ」 「分からない。何で貴方は態々私だけここに残したのか、そもそもこんな事態に陥らないための準備はいくらでもできたはず。私は知っている。貴方の用意周到さを。何でそんな、自分から不利になるようなことをするの」 「……さぁな」 「でも、いかなる理由があろうと、私は貴方を止める。ロケット団幹部シリュウ、私は貴方をここで倒す」 「今一度確認しよう。俺に、勝てる気でいるのか?」 「勝てます。いえ、勝たないといけない」 「……立派になったもんだ」 「えっ?」 「俺に勝てるなどと……妄言を吐けるほど立派になったとは思わなかったよ。地図すらまともに読めなかったお前が」 「無駄話は、それで終わり?」 「そうだな、俺らしくない。行くぞ、アスカ」
右手に構えたボールをシリュウがフィールドに投げ込むと、空中ではじけたボールから褐色の稲妻が地面に突き刺さる。 光の塊は輪郭を形作り徐々にその鮮明さを増し、現れた姿は褐色の殻を破ると同時に、その巨大で硬質な鋼の体をフィールドへ降ろし、同時に会場全体を轟かさんほどの爆音を腹の底から吹き飛ばす。 会場全体を一瞬にして駆け抜けた衝撃波により静寂が一瞬その場を支配し、全てのトレーナーと団員達の目がシリュウと彼のポケモン、ボスゴドラの元へと集められた。
「さぁ、全てを狩りつくせ!」
シリュウの言葉と共にボスゴドラが一度地面を思い切り踏みつけると、強化素材でできているはずの会場の地面全体に亀裂が走り、足を突いていた全ての者を例外無く凪倒す。 強過ぎる衝撃にアスカは尻餅をついて後ろに倒れ、その様子を見ていた団員達の士気が一気に上がり、ロケット団団員達の勢い余る声が会場を支配した。 亀裂でできた小さなくぼみに落ちてしまったアスカは激しく打ち付けてしまった尻を擦りながら立ち上がると、正面で先ほどより一層激しい表情とオーラを纏うシリュウを前に息を呑む。 これが、これこそが……今まで共に過ごした中で、一度も見たことが無かったであろうシリュウの全力。 先ほどまで上がり掛けていた高揚は消えはしない。消えはしないし、今でも維持されているはずなのに、足が激しく震えて、手がうまく動かない。 迷いは無い、信念は曲げない、ここで倒さないといけない……それなのに、怖い。逃げたい。戦いたくない。 挑む意志はあるのに震えてボールすら投げられないアスカを見たシリュウは落胆したように溜息をつくと、侮蔑を込めた視線をアスカに送る。
「……逃げたければ逃げろ」 「なっ!?」 「正直がっかりだ、勢いだけの『勝てる』宣言だったとはな。こんな腰抜け、仲間になったとしても邪魔なだけだったか。曲がりなりにも、偽りにも俺の弟子だった奴がこんな腰抜けだなんてな、残念極まる」 「私は……私は!……」 「挑むことすらしない、それは――」 「最も愚かな行為!」
震える右手でボールを掴み、普段より不器用ながらもアスカはボールをフィールドに投げ込む。 投げ込んだと同時に覚えた不思議な違和感。先ほどまでボールを投げるどころか掴むことすら体が拒絶するほどの震えだったのに、今は何故か、自然に体が動いたようにすら感じた。 繰り出されたムクホークはアスカの目の前に降りて来ると迷うことなく目の前の敵であるシリュウとボスゴドラを睨み付け、次に後方のアスカを見て、一度大きく頷く。
「どうやらポケモンの方が分かっているようだな。強大な敵であっても、やるべきことはあるとな」 「フルック……ありがとう。そうだ、目の前の敵ほどで無いにしろ、私は今まで格上の相手と戦ってきた。そしてかつての師匠から教わったはず、『諦めるものに勝機は来ない』って。1パーセントでも可能性があるなら、私は戦う。誰とだって!」 「満点だ。お前を見ているとつくづく俺の正しさが証明されているようで気分が良いな。だがそれと今の状況は別だ。行くぞ、一分ぐらい持てよ」
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短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.22 ) |
- 日時: 2011/03/29 12:17
- 名前: 月光 ID:FIsVwswI
混乱に巻き込まれ至る所で火花がぶつかり合う会場の中で、巨大な鳥ポケモンを従える少年イシュタルと、チャンピオンのワタルは対峙する。 周りの騒音がまるで静寂に感じるほど二人の感覚は研ぎ澄まされ、イシュタルとワタルは互いに互いを警戒しながら間合いを調整。 側面からの攻撃だったにしろカイリューのはかいこうせん防ぎ、さらに大容量の巨大を軽々と場外まで引っ張り叩きつけるだけに鍛え抜かれた相手の脚力と足の握力、その要因がワタルの攻撃を抑止している。 だが逆にイシュタルの方にも誤算はあった。側面からの攻撃で何とか防げたものの、正面からあのカイリューのはかいこうせんを受けたら恐らく勝てなかった。 現に手持ちのポケモンは気丈に羽ばたいて飛行を続けているが、右翼には眼に目ないまでも深刻なダメージがあることは容易に想像できる。 硬直……時間が経てば経つほどにロケット団が有利になるのか不利になるのか、ワタルにも予想は出来ない分早めに勝負は決めてしまいたい。 ワタルは少し肩の力を抜くと、それを見たイシュタルも相手に合わせて緊張し過ぎた自分の体にリラックスを与える。
「君はみたことも無いポケモンを使うが、どこの地方出身なんだい?」 「ウォーグルを知らない奴に、出身を言っても意味はあるまい」 「なるほど、ウォーグルと言うのか。ところで君は随分と彼に忠誠を誓っているようだが、何故彼を慕っているんだ?」 「貴様には関係あるまい。無駄話の時間は惜しい、行くぞウォーグル!」
イシュタルがバックステップで戦場から距離を取ると同時にウォーグルが羽ばたき、空中で弧を描きながらカイリューとワタルに襲い掛かる。 迫り来る翼の斬撃をその巨体からは想像できない身のこなしでカイリューは一歩後ろに下がって回避し、再び旋回して戻ってくるウォーグルの攻撃も難なく回避。 さらに二度の攻撃を仕掛けるもカイリューは身を翻してワタルを護りながら戦い、五撃目の攻撃が繰り出されたその時、カイリューの尻尾が唸りを上げた。 直進するウォーグルの左翼とカイリューの巨大な尻尾が激突し、互いによろめきながら弾かれる。 だが体重が重いカイリューの方が素早く状態を立て直し、動きが止まっているウォーグル目掛けて空間を震わすほどの強烈なタックル。 周りでも小競り合いが起こっているため広範囲な攻撃は出来ないワタルだが、素早いカイリューの機動性と体重が幸いした結果だった。 少し吹き飛ばされたがウォーグルは素早く空中で体勢を立て直し、イシュタルがその背中に飛び乗ろうとしたその瞬間、吹き飛ばされて来た団員が彼の背中に直撃する。
「くそ、邪魔だ!」
苦痛の声を堪えるイシュタルは素早くその団員を蹴り飛ばし立ち上がるが、主人の身を案じて後ろを振り向いた瞬間、彼よりも早くワタルの指示が響く。 さらにそのワタルノ指示よりも一歩先んじてカイリューは動き、飛行しながらの強烈な拳をウォーグルに向けて振り抜いた。 入る!――ワタルが確信したその時、起き上ったイシュタルは言葉による指示ではなく高音の口笛を吹き、それを聞いたウォーグルが急上昇。 渾身の『メガトンパンチ』を回避された上に旋回して来たウォーグルの『ブレイブバード』がカイリューを正面から取られ、その巨体が高らかと宙に浮く。 ワタルの大声で素早くカイリューは空中で体勢を立て直し、同じく姿勢が整ったイシュタルが今度こそウォーグルの背中へと飛び乗った。 ポーチの中から小型のスプレーを取り出すとそれをウォーグルに吹き付ける――はずが、飛んで来た小石がイシュタルの手を取られ、痛みから傷薬が地面に零れる。 投擲主であるワタルは落ちた傷薬をイシュタルよりも早くその手に取り、それをバトルフィールドの方に向けて投げ捨て、上を見た。
「そう簡単に使わせると思うか、俺が」 「さすがはチャンピオン……こちらの行動を完全に読み、常に一手先を取るとは。だが負けん、負けるわけにはいかない」 「何が君をそこまで動かす。君のような純粋な誠意を持つ者が、本当にこんなことを望んでいるのか?」 「シリュウ様が望んだことなら、それは俺が望むこと。あの方の恩に報いることが出来るのなら、俺は何万人が不幸になろうと構わない!」 「では聞こう。この惨劇を君の崇める彼が本当に望んでやっていると思うか? 君なら、分かるんじゃないのか」
ワタルの問い掛けにもはや答えることすら鬱陶しくなって来たイシュタルではあるが、答えられないのではそれは忠誠心とは言えない。 それにイシュタル自身も、実はずっとこの問い掛けの答えを自分の中で考え続け、答えを出そうとしていた。 分かっている。今フィールドで戦っているシリュウがロケット団にいる目的はロケット団復活のためのではなく復讐であり、あくまでロケット団の復活はその復讐の副産物であることも。 上司であり厳しかったがその中に確かに優しさを持っていたシリュウが、本当にこのような事態を望んでやっているのか……正直、イシュタルには分からない。
「シリュウ様の尊大な思考は俺の意志が及ぶところではない。あのお方の考えは――」 「俺は彼の考えを聞いてるのではない。君がどうなのか聞いているんだ」 「……答える必要はない」 「俺には考えられないんだ。君のような真っ直ぐな心を持つ青年を惹き付けて止まないシリュウと言う存在が、本当に心の底から、この悪行を望んでいるとはな」 「知った口を聞くな! お前に分かるものか。ウォーグル、このつまらない戦いを終わりにするぞ」
イシュタルを載せたままウォーグルは力強く羽ばたくと同時に一気に加速し、今度は蓮華気を考えず真っ向からカイリューへ突進する。 対するカイリューも迎え撃つ姿勢を取り、地面を蹴って迫り来るウォーグル目掛けて機敏な巨体を突っ走らせる。 激突する直前にイシュタルはウォーグルの頭を小さく撫で、二体が激突したまさにその瞬間、その背中を蹴って体が宙へと飛び出した。 体勢が崩れたウォーグル目掛けカイリューのアッパー気味のメガトンパンチが今度こそ炸裂し、その巨躯が天井まで届く。 激しいひび割れを天井に刻んだウォーグルがゆっくりと地面に落下し、カイリューが主人の方を振り向いた直後、その眼の色が変化。 左手を後ろに回され喉元にナイフを突き付けられた状態で拘束されたワタルと、ワタルの後ろで激しい形相を浮かべるイシュタル。
「ウォーグルを犠牲に俺を狙うとは、そこまでして勝利が欲しいか」 「俺が欲しいのは勝利ではない。シリュウ様の望む結果、シリュウ様の役に立つこと。それだけだ」
助けるタイミングをカイリューが窺うがイシュタルは一瞬も気を緩めることはなく、戦いの影響が少ない上部を目指し階段を一歩一歩と後ずさりながら登る。
「バトルに勝って勝負に負けたか。敗者の戯言だが、聞いてくれるか」 「正直お前の質問は聞き飽きたが、まあ良いだろう。なんだ」 「君があのシリュウをそこまで慕っている理由は何なんだ? その並々ならぬ忠誠、彼のどこに惹かれたんだ」 「……俺は幼い頃、家族を全て失った。父も母も……妹も、瓦礫の下敷きになった」 「全員か?」 「全員だ。俺の住んでいた村はイッシュ地方の山奥にある小さな田舎の村だったが、幸せだった。そう、協会の連中どもがバトルドームを作るなんて言い出す前まではな」 「バトルドームだって」 「そうだ。丁度このドームの試作品とでもいう感じの物を、奴らは俺の故郷に作ろうとした。村も賑わった。きっとこれで、村は豊かになって人も増えると思った」 「……ならなかったのか」 「現実は俺を簡単に裏切った。ドーム作成のために広域の土をほじくり返したせいで地盤が緩み、そこに例年以上の豪雨のために土砂崩れ。家族が目の前で死んだ。誰もが予期して無かった豪雨だったのは確かだが、俺は絶望しかなかった。そんな俺を助けてくれたのが、シリュウ様だった」 「どう言うことだ」 「俺は強くなりたかった。大切な人を護れなかった俺が、俺は許せなかった。そんな俺を、シリュウ様は強くしてくれたんだ。これ以上ない、これが俺の忠誠の理由」 「強くなるだけなら他にも方法はいくらでも、それこそ強いポケモンを奪うだけでいいはずだ。なのに君は自分の地方のポケモンを丁寧に使い、これ以上ない信頼と共に戦った。強さだけじゃないはずだ、君が彼に惹かれたのは」
ワタルの全てを見据え射抜くような視線を前にイシュタルは先ほどとは違い僅かな恐怖を感じ、視線を逸らしてただカイリューだけを視るようにした。
「この業界では、優しさや甘えは……己を堕落させ、あっという間に命を奪う」 「俺は過去にもロケット団と戦ったことがあるが、確かに彼らには互いを助け合うと言う概念が見られなかったな。協力することはあっても、助け合いには見えなかった」 「トップともなれば、なおさら非情さが必要になる。なのに、優しいんだ」 「誰が?」 「シリュウ様さ。イッシュの組織に入れず、落ちこぼれていた俺を拾ってくれた。ただ駒として生きていくだけの運命しか残っていなかった俺に、ぬくもりをくれた。まるで……父の様に」 「なるほど。どうやらシリュウと言う存在は、全てが悪と言う訳ではないようだな。だがしかし、この所業は許されないぞ」 「そんなことは分かっている。俺はシリュウ様に言われた通り、自分の意志で動いているんだ」
――自分にとって一番大切なものを護れ。それは人やモノではない。では、人が真に護るべきモノは何か分かるか
「あの時言って下さった。自分の親指を、胸に向けながら……」
――自分の気持ちだ
全て同時だった。 カイリューとイシュタルの間に割って入るかのように、激しいバトルによって吹き飛ばされて来た小さな少女。 先ほどのウォーグルの激突の衝撃で脆くなっていた天井のコンクリート。 倒れ足を怪我して動けなくなってしまった少女が上を見ながら、恐怖と共に口走った小さな一言。 ワタルよりもカイリューよりも、誰よりも早く動いたその影は倒れている少女に向かって駆け出すと同時に大きく飛び込み、その背中を押し、僅かにその小さな体を横に退けた。 落下して来る巨大なコンクリート片を止める時間も余裕がある者もいない。 突き飛ばされた少女がコンクリートの真下に倒れている人物を見たとき、ワタルの首元に着きつけてあったナイフが、地面に落ちて綺麗な音を奏でる。
「よかった……」
あの時助けられなかったのは、自分に実力が無かったからではない……無かったのは、勇気。 自分は強くなれただろうか。自分は……人に誇れる、自分の誇りを護るだけのことが出来ただろうか。 今自分は、一体どんな表情をしているのだろう。 目の前の少女の表情からは、先ほどから続く恐怖と驚きの感情時か読み取れない。 まぁ良い、護るモノは護ったのだ。 それに自分の役目も、ここまで事が進めばもうないと言っても過言ではない。 ただ一つの無念は、最後まで隣に立てなかったことぐらい。
「イシュタル!」 「さらばだ、チャンピオンワタル。ありがとうございます……シリュウ様」
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短編シリーズ 〜 チャンピオンズリーグ 〜 ( No.23 ) |
- 日時: 2011/04/06 20:42
- 名前: 月光 ID:ltDmG3Fc
- 荒れ狂う戦いが続く会場内部の南部、負傷者の保護に奔走していたリアは左方から迫る水の激流を眼の端に捉え、椅子の陰に隠れてそれを回避。
周りにいたロケット団の団員や一般人のトレーナーを大量に巻き込む水流は一気にフィールドまで流れて行き、広範囲を一気に人のいない場所に変えた。 リアはモンスターボールを右手にゆっくりと椅子の陰から顔を出し、激流の攻撃を仕掛けた主を睨み付ける。 出されているポケモンは中に漂うキングドラ、その後ろにはローブに身を包んではいるが、顔に厳つい刺青が入っていることが見て取れた。 笑顔と無縁そうなその顔はにやりと笑うと再びキングドラに指示を出し、リアの隠れている場所を局所的な激流が襲い掛かる。 だが間一髪でそこを飛び出したリアはその攻撃を回避し階段に躍り出るが、体に傷のようなものは見当たらない。
「品の無い戦い方だね。顔も刺青だらけだし、道化にぴったりだ」 「女みたいな優男か、まともにボールを投げられるかも怪しいものだ。だがガラス製品の様な貴様を壊すのも、楽しそうだ」 「三下の台詞だね。それより君は自分の仲間も吹っ飛ばしたけど、わざとなのかい」 「……俺はな、兎に角ぶっ壊すのが大好きなんだよ。匠が手掛け精巧に作られたガラス製品を叩き割る。トランプで作られたタワーの途中を弾いて崩壊させる。子どもの大切なおもちゃを踏みつけて壊す……快感だ。安定が壊れる時こそ、どんな小さな世界でも激流が流れる! その変化を見るのが、大好きなんだよ」 「本当に品が無いね、君とは友達になれそうにない。今回はちょっと、僕も沸点が低そうだ」
無表情のままリアがモンスターボールを構えた瞬間、目の前の男は君の悪い笑みがをさらに深めて気味悪く笑う。 非常に不愉快な笑いだが何かを感じ取ったリアはモンスターボールを投げるのを戸惑い、その手を止めた。
「ひゃっはっは賢明だな。お前、タイマンって得意か?」 「どう言う意味かな?」 「今この会場には『ファーストロック』が掛かっている。一匹目のポケモンを出したら、もう次は出せない。最初の一匹が全て、ガチンコってわけよ」 「……なるほど、そう言うのは苦手だな。僕は連携で戦うタイプだからね」 「貴様のバトルはしっかり見ていた。警戒するはユキメノコぐらいだ、さっさと出したらどうだ」 「気に入らないな」 「はあ?」 「僕の他の手持ちを馬鹿にしたような発言が、気に入らないと言ったんだよ。特に君の様なウドの大木に馬鹿にされるなんて、屈辱以外の何でもない」 「言ってくれるなガラス製品が。なら使わなければいい、下で寝てろ!」
男がこめかみを痙攣させながらリアを指差し、キングドラが階下にいるリア目掛けて広範囲の水流を容赦なく放つ。 リアは周りのトレーナーたちが激流に巻き込まれない範囲を意識しながらその攻撃を避けつつ右手にモンスターボールを構えるが、投げるよりも早く次の水流が立て続けにリアを襲撃。 隙が欲しい――リアが心の中で舌打ちし、五度目の水流を避けた瞬間、会場の正反対の方向で天井の一部が崩れて下へと降り注いだ。 目の前の男と同じコートを着た男が下にいた少女を突き飛ばし、落ちて来たコンクリートにその身が完全に押しつぶされる。 隙が欲しいと思っていた張本人のリアに隙が生じ、逆に目の前の男はそんな事象には眼もくれず、次の水流がリアを飲み込み吹き飛ばした。 息が出来ないなかで手摺りに背中から強烈に打ちつけられ、水流が過ぎ去り、リアは激しく呼吸しながら上にいる男を鋭く睨みつける。
「おいおい、何油断してんだ? あぁ、ひょっとして俺に隙が出来るとでも思ったか。馬鹿だねー壊れるのを見るのが俺の楽しみだってさっき言っただろ」 「君の仲間じゃないのか。いや、少女を助けた先ほどの人が、君の仲間だとはむしろ僕が信じたくはないね」 「あぁー仲間だよー仲間仲間。仲間だけどさ、それが壊れるのを見るってのも面白いよな。あいつはシリュウ様に異常なまでの忠誠を誓ってたからな、正直うざかったんだよ。あのまま死んでくんねーかなー」 「救いようが無いね。悲劇は素晴らしいものだが、これは悲劇じゃない。ただ虚しいだけの戦いで、お前の様な粗大ゴミが蔓延るゴミ溜めと同じだ」 「お前ももうすぐ生ゴミになる、遺言でも残しておけばどうだ?」 「必要ないさ」 「そうだな、そんな余裕は与えられずにお前は――」 「必要なのは君の方さ」
リアはベルトが大量についたジャケットを脱ぐと地面に叩きつけてその上に乗り、右手で指を鳴らした瞬間、目の前の男の後方に影が浮かび上がる。 現れたユキメノコは既に十分に溜めた電力を一気に放出し、地面に張り廻った水を介して男とキングドラを一度に仕留めた。 余りに一瞬の衝撃に男もキングドラも完全に不意を突かれ意識を失い、服の一部を焦がしながら倒れる。 額の汗をハンカチで拭ったリアはジャケットから降りてベルトをじゃらつかせながら服に着いた水と汚れを振り払い、近づいて来たユキメノコにウィンクしてボールへ戻した。 同時に倒れていた男が驚くべき早さで意識を回復するが肉体が言うことを聞かないのか、呻き声を上げることしかできない。
「な、なぜ……いつ出した……」 「最初からさ。君は僕がリーガンを出していないと油断して、馬鹿みたいに攻撃して来た。キングドラを攻撃して君に逃げられても困るし、君を捉えてキングドラに暴れられても困る。だから一気に仕留めることにしたのさ。いや、面白い道化っぷりだったよ、君」 「俺が、キングドラを使っていなかったら……どうしていたつもりだ」 「その時はその時考えるさ。ちなみにこのジャケット、断熱防寒絶縁と頑丈なものでね、僕のお気に入りさ。ただベルトじゃらじゃらさせてるだけじゃない」 「……殺せ」 「ん?」 「ここで捕まり破壊が出来ないぐらいなら、死んだ方が幾分マシだ。どうせ俺に怒りを抱いているのなら、殺してくれ」 「断る。君を殺したって僕の怒りは収まらないし、君が最も嫌がるのが投獄だと言うのなら、僕は迷わずそっちを選択する。精々脱獄でも頑張るんだね」 「ふっ、人で無しとはお前の様な奴を言うのだろうな」 「かもね。君の悲劇に救いはないよ、終わらない悪夢で人生を締めると良い」
リアがキングドラの攻撃から身を隠している時、中央フィールドを挟んで反対側では一部だけトレーナーとロケット団が全くいない空間が形成され、二人のトレーナーがその中央で火花を散らしていた。 中央では既に体中の痛みで呼吸が荒くふらついているマリンがカメックスを使用ポケモンとして出しており、反対側には巨大な恐竜の姿を持つポケモン、ラムパルドとそれを操るロケット団団員。 フードの隙間から見えるのはまだ幼い少年の表情と淡く優しい黄緑色のセミロングの髪の毛、来ているローブがややだぼだぼで、時折裾を踏んでは転びそうになっている姿にマリンは呆れながら溜息をつく。 しかしながら辺りの椅子や階段は既に大部分が破壊されており、そのほとんどの所業はこのラムパルドの純粋な突進のみで行われた。 無邪気な笑い声と共に再び少年はラムパルドに突進する指示を出し、マリンとカメックスが同時に右方向に回避を図る。 順調であった回避だが右足に激痛が走った瞬間にマリンは体勢を崩して転び、それを見たカメックスは回避行動を止めると、正面から来るラムパルドに向かって自身も突進。 明らかに突進力のあるラムパルドが勝つことは明白過ぎた結果であり、カメックスはラムパルドの突進を止めることはできたがマリンの目の前まで吹き飛ばされ転がって行く。 既に満身創痍――その様子を見た少年は不貞腐れたような表情を浮かべ、マリンの体を上から下まで観察した。
「ボロボロだねー。保健室で寝てれば痛い思いしないし、誰もお姉ちゃんを責めなかったのに(憐れみ)」 「生憎私はじっとしてるのが嫌いなの。それにあんたのようなゴキブリみたいに復活して来る奴らは、ここでちゃんと叩いておかないとね。一人いれば百人いるのがロケット団だったかしら」 「酷いなーゴキブリはそもそも森の中に住んでる生物であって、人間が先に彼らのテリトリーに湧いて来たんだよ(雑談)」 「弱肉強食よ。人間の方が大きくて強かった、それだけよ。そして小さな君も、大きな私と言う存在によって叩かれるの」 「まんしんそーいの人が戯言言ってるー(笑)」 「さっきから最後に妙な言葉追加するの止めない? 正直聞き辛いし何か痛いわよ、貴方」 「良いもんだ、僕は気にしないもん(ガラスのハート)」
少年は視線だけマリンとカメックスをしっかり捉えながらそっぽを向き、その隙にマリンは素早く立ち上がって体勢を立て直す。 会話や強気な言葉でせめて状況を変えようとしているのだが、この少年とラムパルド、マリンは先ほど出会ったときは直ぐに倒せると考えていた。 だが実際はマリンたちの回避中や視線の移動などの一瞬の隙をついた完璧なタイミングで攻撃の指示を飛ばしてきており、マリンが攻撃の指示を出すより早く、ラムパルドに回避の指示を出している。 先読みと洞察……この二点において、目の前の少年はマリンがかつて戦ってきたトレーナーの中でもトップクラスにいることは間違いない。 万全の状態ならそこまで苦戦する相手でもないだろうが、全快のカメックスとは違いトレーナーであるマリンの体力の方が持たない可能性がある。 時間を稼ぎ、隙をつく――マリンは相変わらず不貞腐れて唇を尖らせている少年に軽く手を振ると、少年も笑いながら手を振り返した。
――馬鹿っぽいけど可愛い。あんな弟がいたらなぁ……
「そう言えば名前聞いて無かったけど、あんたの名前は?」 「お姉ちゃん、人の名前を聞くときは自分の名前を先に教えるんだよ(社会マナー)」 「そうね。私はマリン、カントーで三強と呼ばれた女よ! どう、凄いでしょ」 「三強……おぉ、何か強そう!(憧れの目線)」 「でしょう。で、貴方の名前は?」 「ウェヌス・リッチス。それでそれで、三強のマリンさん僕の名前を聞いて何がしたいの? ジェンガ?(大好き)」 「あーえっとーそうね。ウェヌス君は今何歳?」
何聞いてんだろ私――とりあえず隙を作ろうとしただけなのに本格的な会話に発展してきた結果、先にマリンの方が隙だらけになっている。 だがウェヌスはそんなマリンの隙を突くようなことはせず、純粋な笑顔を浮かべて両手を前に突き出した。 一瞬経過したマリンだがウェヌスは全部の指を立てて十と言う数字を表現しているだけで、一瞬焦ったマリンは全身の筋肉が無駄にちょっと痛い。
「十歳! 書類上は十歳にしておけってシリュウ様が言ってた(難解)」 「えっ? つまり、本当は何歳なの」 「九歳(真実)」
右手の親指が折りたたまれた。
「……えーっとウェヌス君。君は自分が社会的な反徳行為しているって自覚、ひょっとしてない?」 「はんとくこーいって何?(また難解)」 「悪いことってこと。人のポケモン奪ったり人をいたずらに傷つけたり、モノを壊したりするのは社会的に悪いことなの。シリュウが教えてくれたり……しないわよね」 「うーんっとね、シリュウ様にはとりあえず勉強して運動して、自分のやりたいことを一生懸命やれって教えられたよ」
意外だわ――シリュウがウェヌスにもロケット団の根本的なことを教えてると思っていたマリンとしては、この回答がある意味一番意外性があった。 となるとウェヌスは自分がやっていることが悪だと言うことを正しく認識できていないだけで、無駄な戦闘は避けられるのではないか。 教育や説得となるとどうも自信が無い――現に先ほど乱暴な言葉遣いや強引な指示を出していた――マリンだが、頭をひねって考える。 少しの間沈黙が流れ、暇になって来たウェヌスが動こうとしたのを見たマリンは慌てて口から兎に角言葉を紡ぐ。 相手を動かせるわけにはいかない……成功すればウェヌスとの戦いが避けられるし、何よりもウェヌス自身をロケット団から解放できるから。
「ウェヌス君は道徳の勉強はした?」 「してない(知らない)」 「そうねー例えばウェヌス君が友達とジェンガをして遊んでいました。そこに知らないおじさんたちが来てジェンガを奪ったら、ウェヌス君はどう思う?」 「シリュウ様なら一緒に遊ぶ!(むしろ遊んでほしい)」 「知らないおじさんね」 「蹴り殺す(マジ)」 「簡単に殺すとか言わないの。同じようにね、周りの人たちもポケモンを奪われることは嫌なのことなの。ウェヌス君だって、殴られたら痛いでしょ。それと同じ、周りの人は自分と同じで痛みを感じる。ただ視界に入るだけの物体じゃないの。シリュウは、奪ったり殴ったりするのがいいことだって教えてたの?」 「……シリュウ様は、自分が嫌がることは人にするなって言ってた。もしするなら、一生人から責められることを覚悟しろって言っていた(意味深)」 「そう、悪いことをしたら、どこかで必ず何かしらの報いが起きる。ウェヌス君は、何でこんなことをしてるの。シリュウの教え、破ってない?」
今度はウェヌスが唸り声を上げながら頭を傾げ、圧倒的チャンスな状態であったがマリンはあえて何もしない。 むしろこの状況に余計な横槍を入れる者がいないか周りを常に警戒して睨み、ウェヌスに余計な衝撃を与えないようにする。
「僕は、ただシリュウ様に喜んでほしくて……ただ、それだけで(言葉にし難い)」 「本当に彼は喜んでると思う? 君に正しく生きて欲しいと思って優しくしてくれたシリュウが、君が悪いことをするのを見て感謝していると思う?」 「分からないよ。僕、どうすればよかったんだろ、どうすればいいんだろ。分からないよ(泣きたい)」 「甘ったれるな」 「えっ?」 「何が正しくて何が悪いのか、どうすればよかったのか、どうすればいいか……どれもこれも、最後は自分で決めるしかないの。今はまだ押してくれる人がいるけど、いつか君も大人になって、全部自分で決めるときが来る」 「全部自分で……」 「大人になるってね、自分で自分の在り方を決めるってことなの。もう一度考えてみようよ、君が今してるのは、正しいことなのか。シリュウはそんな君を見て喜んでくれてるのか。彼は、本当は何を君に期待しているのか」 「……シリュウ様は、こんなことする人じゃない。イシュ兄も、何だか迷ってたみたいに見えたのは、これが悪いことだったからかな(半信半疑)」 「イシュ兄?」 「イシュタル兄さんのこと。あっ、本当のお兄さんじゃないよ。ただ僕捨てられて、シリュウ様に拾ってもらって、イシュ兄に仲良くしてもらって……お兄ちゃんが出来た様で、嬉しかったんだ。でも、もし二人が今の僕を見て悲しむなら、もうやらない」 「よし、じゃあ約束。この先まだまだ悪いことを知らずにやっちゃうかもしれないけど、絶対に悪いと思ったことはしない! ほら、指切り」
マリンが痛みを我慢してウェヌスに近づき、ラムパルドが警戒していたがウェヌス自身もマリンに歩み寄っていくのを見て、必要以上の警戒を解く。 二人が右手の小指を取り合って約束をした瞬間、会場の天井の一部が崩れ、同時にワタルの声がマリンとウェヌスにも届いた。 降り注ぐコンクリートが真下にいたイシュタルに降り注ぎ、その姿が見えなくなった瞬間、ウェヌスは直ぐにラムパルドの背中に跨り、イシュタルが潰された場所に行くよう指示。 激しい雄叫びと共にラムパルドが戦場を切り裂き駆け出すなかマリンも行こうとしたが激痛が酷く、地面に倒れて目の前が徐々に暗くなっていく。 このままじゃ危険だ――そう思うが体が動かず、徐々に重たくなっていく瞼が閉じられる中で、一人の男が彼女の前に歩み寄る。 知らない男だ。大会参加者でもなければ今まで見て来たロケット団の団員でも無く、ただその風格と威圧感だけは今のマリンでもはっきり分かった。 強い……ただそれだけを想い、マリンの意識は次第に闇に溶けていく。
「お疲れ様お嬢さん、いやー昔の水奈を彷彿とさせる暴れっぷりだったな。さて、向こうの方も順調のようだし、そろそろ俺も本格的に動くか」 「貴方は……誰なの……」 「国際警察さ。コードネームはジャスティス、まあ名前がまんまなんだけど。兎に角お疲れ様、あっちは大丈夫そうだ、心配するな」
ジャスティスと名乗った男は先ほどウェヌスたちが突っ込んでいった方向を指差し、溌剌と笑って見せる。 一安心したマリンは今度こそ完全に意識が途切れ、体が持ち上げられる感触と共に眠りに落ちた。
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