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ナギサシティ。絆のお話。
日時: 2011/01/17 00:44
名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:u8YXgOJo

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番外編 ( No.24 )
日時: 2011/03/24 20:05
名前: 来来坊(風) ID:.2AuWWoc

番外編『老兵、かく語りき』


 ジムリーダーデンジのあの戦いから半年と少し、私はまだナギサシティの旅館を寝床にしていた。
 あの日、私はデンジに惨敗し、観客席から彼らの試合を傍観していた。
 そこで私は確信した、自分はまだあのレベルではないと。それと同時に、トレーナーである以上、あのレベルに近づきたかった。
 不甲斐無き自分を恥じ、私は時間の許す限りナギサジムで鍛錬を積むことにした。
 ナギサジムのリーダーを含む若く才能のあるトレーナー達との鍛錬は自らのレベルを上げる貴重な経験であった。
 

 どこか遠くで、さざ波の音が聞こえ、野生のペラップ達が心地よくさえずる音が聞こえて私は目覚めた。
 半年と少しの間に冬が通り過ぎ、最近は過ごしやすい。
 相変わらず旅館の風通しは良いし、相変わらず日当たりも良い、何時もと同じ朝だった。
 だが、私は今日と言う日を大事にしなければならない、否、大事にしたい。この何時もと同じ朝を味わえるのは恐らく今日が最後になるだろう。
 昨晩、故郷から手紙が届いた。内容は簡単に言えば『誤魔化しきれなくなったので帰って来い』と言う物、仕方ないと思う、そもそも一ヶ月の予定を半年と少しまで引き伸ばしていたのだ。上手く誤魔化していた息子に感謝を述べたい。
 旅館の朝食を腹に収めた後お気に入りのスーツに袖を通して、世話になった皆に最後の挨拶をするためにジムへと向かった。


 珍しい事に練習場にデンジ君は居なかった、聞けば応接室に居るらしい。てっきりジムの改造にいそしんでいる物かと思ったが不思議な日もあるものだ。そもそも、応接室は何処だっただろう。
 記憶をたどりながら何とか応接室にたどり着きドアをノックする。「どうぞ」とデンジ君の声が聞こえたのでドアを開けた。
「あ」
 よく効きなれた女の子の声が聞こえた。
 応接室の中にはデンジ君とチマリ君が机をはさんで向き合うように座っていた。机の上には何らかのポスターと何枚かの書類がある、一瞬だけ婚約届けが頭に浮かんだが馬鹿な考えと頭を振った。
 恐らく、何らかの事で話し合っていたのだろう。迂闊だった、そうと知っていたらずけずけと入る事はなかった。
「失礼」
 挨拶なんて今日中にすれば良い、別に急いでいる訳ではないのだから。そう思い、ドアを閉めようとした。
「あ、大丈夫です、大丈夫ですよ」
 デンジ君が慌ててそれを制す。
「ちょうど、あなたの意見が聞きたかったところだ」
 立ち上がり、チマリ君の横の椅子に座るよう求める。私は彼の好意に甘え、其処に座る。チマリ君はその間何も喋らなかった、俯いて何かを考えていた。
 机の上のポスターに目を向ける、それはイッシュ地方で何年かに一度開かれ、次は来年の今頃に開催される大きなポケモンバトル大会の物だった。
「ロバートさん」
 デンジ君が声を上げたので、私はその横にある書類に目を向ける前にデンジ君のほうを見た。
「貴方はイッシュの生まれだと聞きました。このリーグについてどう思われますか?」
 そう言ってポスターを私の目の前へと移動させる。もう一度良く確認するがそれは確かに私の知っているあの大会の物であった。私が子供のころから存在しているし、スポンサーもしっかりしている。
「イッシュでは最も権威のある大会のうちの一つです。伝統もある、出場者に対する規定も厳しい、不正に対する罰則も厳しいですしチェックも堅い。そして、当然のようにレベルが高いです」
 横でチマリ君が小さく声を漏らした。
「妙な噂は聞いていますか?」
 不安そうな表情でデンジ君が返した。チマリ君の様子もおかしい。
「この大会の歴史は古いが、そんな話は聞いた事がない。第一、イッシュのポケモン協会が絶対に許さないはずです。其れほどこの大会の価値は高い」
 デンジ君が安堵の表情を浮かべる。
「実は、昨日推薦状が届いたのです」
 推薦状と聞いて、思わずデンジ君の顔を二度見てしてしまった、確かにジムリーダー等が推薦選手として出場する事は良くある事だった。私が婚姻届けだと思ったのはどうやら推薦に関する書類らしい。
「ははぁ、なるほど。確かに大会ごとに何人かの推薦選手が出場する事もあります、他の地方のジムリーダーが出場した事もありますから貴方が選ばれても不思議ではない。非常に光栄な事だと思いますよ」
 デンジ君の戦いと、イッシュの著名なトレーナーを重ね合わせる。
「いや、それが」
 デンジ君は机の上の書類の下に敷かれていたこれらが入っていたであろう大き目の封筒を取り出し、私に手渡した。
「推薦されたのは、私ではありません」
 それの宛名の部分を見て、私は自らの体が熱く、熱くなって行くのを感じた。
 恐らくこれは、あるトレーナーの歴史の始まり。そして、私の予測と勘が正しければ衝撃的な一ページになるだろう。別にそれ自体はそこまで仰々しい事ではないではない、そういうことはポケモンバトルと言う興行がある限り定期的に起こりうる。
 だが、恐らくこれから巻き起こるであろう事がどのような結末を迎えようと、否どのような結末を迎えるのか想像するだけで、私の血がより早く、より早く循環する。
 宛名には、チマリ君の名前があった。
「なるほど」
 私がこれまで見てきたチマリ君の戦いを思い出す。確かに、あの大会に相応しい。大会委員もいい目の付け所をしていると思う。
「素晴らしい瞬間に立ち会えたようですな」
 当事者ではないのに微笑んでしまう。デンジ君とチマリ君も信用ある大会と分かって一安心だろう。
 だが、デンジ君のほうはまださえない顔をしている。徐に顔を上げると、先ほどから黙っているチマリ君に言った。
「チマリ、ロバートさんの言うようにこの大会は信用のあるものだ。お前の実力なら良い所までいけると思うし、俺も出来る限りサポートする」
 デンジ君の発言から察するに、何時ものチマリ君からは想像できないが、彼女はまだ出場するかどうか決めかねているのだろう。
 デンジ君はチマリ君の反応を待っていたし、チマリ君は先ほどから喋らない、私は口を挟む権利が無いように思えて黙っていた。少しの間、皆が黙った。
「出場した方が良いのは分かってる」
 小さな声で、チマリ君が言った。私もデンジ君もそちらに顔を向ける。
「勝つ自信だってある。だけど」
 チマリ君がまた口をつむぐ。
 私にはその理由に心当たりがあった。否、恐らくこの場に居る全員が分かっている。だが、誰も口に出す事は出来ない、チマリ君はトレーナーとしてのプライドから、デンジ君はチマリ君を愛するが故に。
 この場を変えることができるのは恐らく私だけだ、そして私はこの場を変え、話を次の段階に進める義務があるのだと思う。私がこの場にいるということはそういうことなのだろう。
「イッシュは、遠いかね?」
 場の空気が変わる。
 恐らく図星だろう、デンジ君もそれが分かっているようで、一度目線を落とした後再び顔を上げた。
 チマリ君は膝の上に乗せた両の拳をぐっと握り、
「遠いし、怖い」
 彼女の声は、僅かに震えていた。
 彼女は自他共に認める素晴らしいトレーナである、故にこのチャンスを逃す自分が許せない。声の震えは自らへの軽蔑からだろう、短いその言葉を引き出すまでにどれほどの葛藤があったのか。
 だが、同時に彼女はか弱いアーリーティーンでもあるのだ。
「イッシュに行った事はあるかね?」
 チマリ君が首を横に振る。
「シンオウから出た事も無いのに、イッシュなんて」
「見知らぬ土地に不安を覚えるのは、恥じることではないよ。それは、トレーナーの強さとはまた別の問題だからね」
 デンジ君が、私と目を合わせる。
 少し、嘘を言った。
 人間的な精神力も十分トレーナーの強さとして数えられるだろう。だが、それは興行にでるような精神的に成熟したはずのオトナに対して求められる物だ。彼女のような若者がプレッシャーに押しつぶされる事もある。ただし、それを乗り越えて初めて一人前のトレーナーと言われるのかもしれないが。
「私は、今日でイッシュに戻らなければならない」
 話題を変え、本来伝えに来た事を彼らに言う。
 チマリ君は少し驚いたようで「え」と声を出し、こちらを見た。
 デンジ君が何か言おうと口を動かしたが、右手で其れを制した。何時もの癖が出て、少し高圧的だったかもしれない。
「もちろん、私はこの大会を観戦する。それも生でだ」
 ポスターを指でトンと叩く。
「チマリ君、耄碌爺の独り言だと思って聞いてもらいたいが。私の中で君の記憶が薄れる前に、私はもう一度君の戦いを見たい」
 それは本心だ。
「イッシュでの滞在期間のことは私が保証する。どんな要求でも答えよう」
 私は自由に家計を動かせる立場には無い人間ではあるが、そのくらいの事は出来る、否、やらなければならない。もちろん彼女の戦いを見たいと言う自分のエゴのためにだ。
「時間は、まだ一年もある。ゆっくりと考えて結論を出すと良い」
 立ち上がり、帽子をかぶって、デンジ君に感謝の言葉を述べた。社交的に間違った事は言っていないはずなのだが不思議と何を言ったかはあまり記憶に残らなかった。
「それでは、失礼するよ」
「あ、ロバートさん。送ります」
 ドアを開ける手をデンジ君が制して言った。
「私も」
 チマリ君も跳ねるように立ち上がった。
「いや、遠慮しておく、見送りと言うのは何処で止めれば良いのかややこしい。こちらも、いつまでも振り返って手を振らなければならないしね。この部屋までで十分だよ」
 本来なら、見送ってもらいたいものだし、今日はゆっくりとする筈だった。
 だが、チマリ君がデンジ君に相談する時間を一秒でも長く残したかった。私のこういう辺に頑固なところは本当に幼いと思う。まぁこの幼さのおかげで得をした事もあるが。
「あぁ、そうだ」
 ドアを閉める直前、私はチマリ君とデンジ君両方に向け発破をかける。
「この大会が開かれる時期に他の大きい大会は無いから、もしかしたら。彼、も顔を見せるかもしれないな」
 二人とも、同じ男を想像しただろう。
 ドアが閉まる直前に見た、彼らの顔と言ったら。




 エレベーターで最上階まで上がり、敷き詰められた絨毯に足を踏み入れる。足の裏が沈むような柔らかさは苦手だ。だが、一般とは違う内装にしなければ威厳と言う物が出ないらしい。
 広く取られた廊下の先にある扉の内、一番重厚な扉をノックする。
 どうぞ、と言う声が聞こえる前に扉を開く、中に居る人物に気遣いなど必要ない。
「父さん」
 無駄に大きい椅子から立ち上がった中年の男、私の息子、ビンスだ。
「久しぶりだな」
「父さん、貴方はこの会社の相談役なんだ。いくら現地調査と言う建前があろうとも、帰ってきてもらわないと困るんだよ」
 ビンスは言い聞かせるように私に言ったが、その言葉に威厳は無かった。あくまで私の機嫌を損なうまいとしている。
 息子は不安なのだ。私が彼の前に居ない事が。精神的な支柱として私が必要なのだろう、妻が先立ってからはその姿勢が顕著だ。どんな形であれ会社の社長なのだからもう少し自立して欲しい物だ。そもそも、この会社をここまで大きくしたのは私ではなく、ビンスだ。
「次から、気をつけるさ。そんな事よりも、イッシュ大会の事のスポンサー推薦枠のことなんだが」 
 イッシュでも最大規模のイベントに我々の会社もスポンサーとして何年も貢献してきた。ある一定の貢献をしているスポンサーの権利として選手を推薦する事が出来る。ビンスもその権利を有しているようだが、彼はバトルに興味が無いので毎回枠を余らせていた。
「ある男を推薦したい。まだ交渉もしていないし、所在もつかめていないが、必ず探し出す」
 自分の言ったことには、責任を持つ。
 もちろん、彼らとイッシュの猛者のマッチアップが見たいのもあるがね。
メンテ

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