Four Dimensions Survival ( No.2 ) |
- 日時: 2011/04/02 02:32
- 名前: 乃響じゅん ID:nDltgKfM
2
夢の中で、グリーンは別の男になっていた。 観客席に溢れんばかりの人。試合開始のアナウンスに歓声が湧きあがり、スタジアム内の熱と緊張は高まっていく。 対峙している赤い髪の男が、先にモンスターボールを投げる。何かこちらに向かって叫んでいるようだったが、あまりの歓声にかき消される。しかし、何となく言っていることは分かる気がする。ここは屈強なポケモントレーナー達の集う、ポケモンリーグなのだから。試合は準決勝まで進み、チャンピオンまであと2歩というところまで来ていた。相手も、グリーンにすり替えられた男も、今大会の優勝候補として注目を集めているトレーナーだ。 巨大なベージュ色のドラゴン、カイリューがボールから飛び出る。やる気を見せんばかりに、一吠えしてみせる。 ごくり、とつばを飲み込む。カイリューから溢れるプレッシャーは他を圧倒する。だが、この男がこれしきで判断力を失うような奴ではないことは、グリーン自身がよく知っていた。 左手を伸ばし、ボールを選び取る。相手がドラゴンタイプ、しかもひこう付きとなれば、答えは一つしかない。 投げたボールから出て来たのは、サイズだけなら負けずとも劣らないのりものポケモン、ラプラス。フィールドが岩場であるせいで動けはしないが、ちょっとやそっとの攻撃ではびくともしない。 両者のポケモンが出そろったところで、観客の声が静かになる。ポケモンに指示を飛ばす声が聞こえなくなるような事態を配慮してのことだ。グリーンならそんな配慮など無くとも何とかする方法を持っているが、今グリーンはグリーンではない。 試合開始の手が上がる。それと同時に、二人はポケモンに指示を飛ばす。 「れいとうビーム」 ラプラスが口を開き、口の前にエネルギーの塊を作って大きくしていく。すばやさが遅いせいで、チャージに時間がかかってしまうのが難点だが、相手の弱点を突けば一撃で倒せるはずだ。 「ばかぢから!」 腕に力を溜め、カイリューが襲いかかってくる。氷タイプを眼前にしてポケモンを交替しないのは、攻撃力と防御力、どちらに自信があってのことなのか。 カイリューは力を溜めた腕を引き、姿勢を低くして横からラプラスの胴を狙う。巨体同士のぶつかりあい。鈍い衝撃がフィールドの空気を伝っていく。 横向きに加えられた力が大きすぎて、ラプラスの体がぐらりと傾く。口に溜めた冷気を抱えきれず、青白い光線があさっての方向に飛んでいく。 ラプラスの体は横に倒れた。自力で起き上がるのは不可能だろう。審判も、その様子を見て戦闘不能と判断したようだった。カイリュー側に色旗が上げられる。巨大モニターに映った、こちら側のモンスターボールマークが一つ消滅する。スタジアムの声がまたフィールドを埋め尽くす。 ラプラスをモンスターボールに戻す。次の手は既に決まっていた。迷うことなく、次のボールを投げ飛ばす。 出て来たのは、橙色の翼竜、リザードンだった。ほのおタイプはドラゴンタイプにいまひとつの相性だが、素早さでは勝っている。カイリューはばかぢからを使っているせいで、物理技の威力が落ちている。もしかしたら、強力なカイリューの攻撃をいくつか耐えてくれるかもしれないという淡い期待もあった。 「エアスラッシュ」 リザードンに指示する技を叫ぶ。 「ストーンエッジ」 相手が一歩遅れて、カイリューに指示を飛ばす。それより早く、リザードンは空気の刃を放ち、カイリューを切り刻んでいく。強烈な突風も合わさって、思わずカイリューは顔を両手で覆う。怯んだ。とは言え、巨体の動きが鈍っていないところを見ると、ダメージはそれほど大きくなさそうだ。 「もう一発」 リザードンは続けてエアスラッシュを放つ。ごり押しだが、現在の手の中ではかなり有効なはずだ。 カイリューは攻撃を耐えきり、反撃に転じる。もう一度、ストーンエッジを放ってくるかと覚悟したが、実際には違っていた。 「おいかぜだ!」 相手トレーナーの指示。カイリューは翼を大きくはばたかせ、あの小さな羽からは想像もつかないほどの強い風を起こした。エアスラッシュで後ろから吹き抜けていた風が、逆転する。 もう一度、リザードンにエアスラッシュを指示したが、追い風の強さに負けて、相手のカイリューまでは届かない。 さっきまで辛そうだったカイリューの顔に、少し余裕が戻る。 「ストーンエッジ」 いくつもの尖った岩が、リザードンを襲う。避ける方向を指示したが、数の多さと、追い風での動きにくさがあいまって、途中から全弾食らってしまう。最初は何とか膝をつかずに持ちこたえていたが、全身の切り傷や打ち身が増えていくにつれ、バランスは崩れていく。最後には、その場に倒れこんでしまった。 審判がリザードンの戦闘不能を告げる。場内は更に熱気に包まれる。カイリューに追い詰められたトレーナーの最後の一匹に、スタジアム中の誰もが注目していた。
ここで、急に自分と男の意識が分かれた。 フィールドを写す視点は、昔グリーンが見た、モニター上のアングルに切り替わる。さっきまでなかった、熱を込めて語る実況者の声がはっきりと聞こえるようになった。 「さぁ、ワタル選手のカイリューがラプラス、リザードンと続けて二体撃破! レッド選手後がありません! 辛くなってきましたが、最後に出すのはどのポケモンでしょうか」 さっきまで自分の視点だった男、レッド。かつて同じ街から同じ時期にトレーナーの旅に出て、幾度となく手合わせしてきた。結果は全て、グリーンの負けに終わった。だから、決勝戦でリベンジをするつもりで、自分も準決勝まで勝ちあがってきたのだ。 彼の手をほぼ知り尽くしているつもりだっただけに、この勝負の行方はある程度予想できた。レッドには、切り札となるポケモンがいる。何度も戦って、どれだけ攻め込んでも、最後にはそのポケモンが出てきて、完璧なコンビネーションに打ちのめされる。次に出すポケモンは、きっとそいつだと思った。というか、他に出すポケモンがいるのだろうか。他のどれでも、グリーンには勝てる気がしなかった。 テレビの実況者も最後のポケモンの予想はグリーンと同意見のようで、こいつは分かっているな、とひそかに感心していた。 長考の末、レッドはボールを投げる。 この時の衝撃を、グリーンは今でも忘れない。出て来たポケモンの姿に、自分の目を何度も疑った。 切り札のポケモンではなかったのだ。 重量級のいねむりポケモン、カビゴン。欠伸をしながら、のそのそと起き上がる。 確かにカイリューは倒せるかもしれないが、残り二体はどうするつもりなのか。グリーンは混乱した。 その後の展開は、酷いものだった。カイリューのばかぢからで体力の殆どを削られ、カビゴンの攻撃で仕留めたものの、次に繰り出されたギャラドスに一撃で倒されてしまったのだ。 何故レッドは、あそこで切り札を使わなかったのか。使えない理由でもあったのか。彼の敗北した姿をモニターで見たのが最後、一度も会ったことがない。 「くそっ」 自分が負けた以上に、悔しい気持ちを味わった。 胸の中に不快感が溜まっていくような感じがして、夢はそこで途切れた。
電話が鳴って、目が覚めた。手探りで枕元の携帯電話を探し出し、電話の主を確認する。 「もしもし、オダマキ先生?」 「朝早く起こして悪かったね、それより大変なんだよ、研究室の子とトキワの森にフィールドワークに出かけたんだけど、一人帰って来ない子がいるんだ。君に探すのをお願いしたいんだけど、いいかな? 君の実力を見込んでのことだ、頼むよ」 慌てた口調で、オダマキは話す。グリーンは話を聞きながら、メモ用紙とペンを調達する。 「分かりました。今みなさんのいる場所を教えて下さい。すぐに向かいます」 オダマキは集合場所を告げ、フィールドワークの目的は朝のホーホーやヨルノズクの習性を調べることだと明かした。 「うちからだと結構近いんで、三十分もあれば着くはずです」 「うん、宜しく頼むよ」 オダマキの声は少し泣きそうになっていて、電話が切れる直前では言葉がかすれかかっていた。元々子供っぽい人だとは思っていたが、大丈夫か、とさすがに心配になる。冷蔵庫から腹を満たせるものを幾つか選び、強引に胃に流し込む。 朝の支度を手早く済ませ、一人暮らしの部屋を飛び出した。
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