旅罪六話 ( No.8 ) |
- 日時: 2011/02/22 13:48
- 名前: ティス ID:zjP5ZmL6
六話「大切な」
少年はゆっくりと歩き始めた、もうこの戦争では涙は出尽くした。 足取りは重く、しかし一歩、また一歩、前にと進んでいく、天井にぶら下がった豪華なシャンデリアも、赤の絨毯も人気がなければ不気味に存在感を増すだけ。 血に染まった大理石のような床、横たわる数え切れもしない死体の数々、玉座に座るのは前に突っ伏した魂の宿らない肉塊。 変わらず、少年の肩のうえに乗っているのは彼のパートナーのイーブイ、ベレッタ。
また一つ、戦争を止める代償としてたくさんの命を消した。 灯火は赤々と燃え盛っていたのに、ろうそくはまだ長く、溶けてなくなるまでの時間はたくさんあったのに、火を吹き消された。 長い廊下を俯きながら歩き、少年は血で染まった床を見ながらふと思う。
この前もこの前の前もそのずっと前も、同じ景色を見た、と。
大量虐殺を繰り返している。 それでもこれしか戦争を止める方法はないのだと少年は言い聞かしていた。 そして、待っていた、自分がこの罪を裁かれるそのときを。 ただでは死ぬまいと思っている、敵とみなした相手またはそれ以外でも攻撃を仕掛けてきたのなら応戦するし、死に至らしめる。
単純に待っていた、実力を持ってして、自分に打ち勝つことのできる相手を。 死に場所を選べるほど誇り高いとも思ってはいない、戦場で死ねることに何の喜びも抱かない。 たとえ戦場でなくてもいい、誰かが罪を裁いてくれるとき、そのときをずっと待っている、どんな惨い殺され方だとしても、きっと彼はかまわないだろう。 自分は、裁かれるべき罪人なのだと理解しているから。
ただで死なない理由は一つ、少年をパートナーと決め、その少年のためにどんな非道なことでもしてきた、彼女のため、もう一匹の相棒のため。 彼はどんなときでもこの二匹に支えられてきた、彼女らは悲しいと感じることが出来る、殺す感触に嫌悪感を覚えている。 それでも少年のために、それを表情に出すまいとして冷たい表情を作っている、少年をリードするように虐殺に等しい勢いで敵を殺していく。 勿論少年はそれに気がついていないわけではない、ずっと前から知っていた。
自分たちを抜けらもしない泥沼に引きずり込んだ大罪人の彼に、笑いかける。 一緒にいたいと思っている、そんな彼女らのため、きっと少年が死んだら悲しむのだろうと思っているから。 終わりたくて、でも終われない、彼女らを安全のために突き放すことも出来ない。 抜けられもしない泥沼に、「貴族殺し」と称されたころからはまり込んでいる。
戦友、いや、血みどろな言葉で表さなければ親友とも取れる、彼の唯一の心の支え、その支えをなくして彼は歩むことは出来ないだろう。 少年は彼女らに感謝している、それこそ言葉では言い表せないほどに。 彼女らは辛そうな表情をしながらも命を奪っていく少年を見守っていた、どんなときでも、彼をただ信じていたから、彼が好きだから。
「ねぇ、これでいいんだよね? これで……」
少年はいつも迷っている、その少年の言葉に、ベレッタはそっと首を振った、返事を返しても種族の違いにより言葉が通じるはずもない。 そして、その少年の迷いに答えることが出来なかった、戦を終わらせると言う目的、それはいいことといえよう、弱き物はそれを望んではいないから。 しかし、そのために大量の命を奪うこと、それは誰がどう見ても一目瞭然、悪いこと。 その二つが交じり合ってるからこそ何も言うことが出来ない。
ただ、それに迷うこと、そこに少年の弱さがあり、戸惑いがあった。 そしてそこには虐殺と言う響に嫌悪感を抱いていると言うことでもあった、そのまだ消えない彼の弱さを、彼の優しさを疑ったことは、彼女と、もう一匹の彼の相棒は一度もなかった。 臆病で、弱くて、正しいことをしたいのにそれが出来ず、曲がった方向へ進み泥沼に陥った、そんな彼。 それでも、優しかったから、今にも崩れ落ちそうな精神力の中、自分たちのことを思ってくれている優しさを感じ取れたから、今でも彼女達はこの少年についていくことを決めている。 たとえその先には暗闇しか待っていなくとも。 そっとベレッタは少年の頬にすりついた、「でも、私はあなたについていく」それを伝えるために。
もう涙が出ない少年は、そんな彼女の心が伝わったのか、ありがとうと呟くように言って、彼女の頭を優しく撫でた。
彼はいくつの国を滅ぼすようなことをしてきたのだろう、そのようなことを聞かれたとしても彼は答えることが出来ないだろう。 それほどまで多くの国同士の戦争を強制的に止めてきた、どんなに小さくても、そこが戦場と呼ばれる舞台であるならば。 大小かまわず戦であるならばそこに行き、虐殺を繰り返しては罪を重くし、心を壊していく、毎日がその繰り返し。
ぼろぼろになった彼を支えるのはいつも決まった彼の相棒たち、戦場にはめったに出さない相棒も彼を支え続ける。 一部の国では殺人狂とまで呼ばれている破壊人は泣きもするし震えもする、怖い物だってあるし、殺すことを楽しんでいるわけがない。 ただ、彼はめったに心から笑わない、笑いたくないんじゃない、笑えなくなった。 辛いことが多すぎて、それから立ち直る前に辛い罪を、悲しみを積み重ねていく。
他の誰かが彼にそうしているわけではない、そうしているのは彼自身。 だけど、その辛さを分かっていながらもそれを止めることが出来ないのは、日々日常的に行われている戦があるから。 立ち直る前に、いや、立ち直る時間さえ彼には与えられていない、与えていない。 そうして彼は自分を責め続ける、そのうちに心は凍り付いていって、緩むことが出来なくなった。 少しは彼女らによってその氷が溶かされるときがあるが、それは表には出てこない、凍てつくような吹雪が一瞬やむだけ。
「……どうしたらいい、どうすれば、争いは無くなる?」
それが分かれば苦労はしないと言うもの、しかしそれが分からないから世界は破滅へと向かっていく。 今や争いがこの世界からなくなることは無い、それは、昔に人々が持てるものを全て使って起きた大きな戦争からのこと。 その戦争に、世界初としてポケモンが主戦力として使われた、炎は一体を焼き尽くし、命を支えるべき水はたくさんの命を飲み込み、電気は、氷は、全てが破壊の力へと変わった。 最も多く使われたのが毒、敵の健康を奪い、崩し、そして一気に畳み掛ける。
それからと言うもの、トレーナー志望の人でなくともポケモンを所持せざるを得なくなった、自分を守るために、自分のために。 そう、全ては己のため、そんな勝手なことにつき合わされているポケモンたちは自分たちの存在をどう思うだろう、悲しみ、それとも怒りか。 少なくとも今彼のそばにいる二匹は悲しみを覚えた、だからこそ、自分を兵器として使う彼に惹かれ、彼についていった。 元からポケモンは所持しておらず、どれだけの命を奪ったか少年にさえわからない愛銃と、己の力を持って戦う彼に、過ぎた力を持ったために、暗闇の中へ必然的に飲まれていく彼に。
今では闇に完全に飲まれないために彼女らが必要になった、闇に飲み込まれずにいるのは彼が心の中に作った彼女らの居場所だけだった。 何度心の中で、言葉で、思っただろう、言っただろう、ありがとう、と。 それでも足りない、しかしどうしていいのかも分からなかった、でも、これだけは分かった。
『君たちがいてくれたから、僕はまだ人のままでいられる』
吹き荒れる吹雪の中に、たった一つだけ輝いたままでいてくれる灯火。 それは友として、今も彼を見守っている。
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