旅する罪人 ( No.1 ) |
- 日時: 2011/02/10 23:20
- 名前: ティス ID:rsaGHJ4w
- 一話「怯える瞳」
一人、少年は真っ白な息を吐いた、何処までも白い銀世界を踏みつける。 背景が流れるように動き、次第に少年の吐息は小刻みになっていった。 ぼろぼろになった黒いマントを風になびかせ、その見事に澄み切った左目の栗色の瞳が揺れた、右目は眼帯によって隠されている。
彼の跳ねた銀髪が降り積もる雪で覆われていて一歩進むたびに銀の中から白が零れ落ちた、すでに何時間も雪の降る外に出ていることがわかる。 白いこの空間では夜でも目立ちすぎるその黒の上着、冬の気候であるというのにこれが彼の常備の服だと思わせるような、擦れた後が所々に見られる硬そうな生地のハーフパンツ。 そして腰には大きな丸い結晶がついたベルト、モンスターボールと呼ばれる物が二つほどついていて背中の辺りには何かがあった。 その何かは同じような黒なので彼のマントに溶け込むように見え辛くなっている。
やがて森林の中へ逃げ込むように入り込み、一度立ち止まると深呼吸をしてから再び走り出した。 そして木上から落ちてきた尻尾が手の形をした紫の体毛を持つポケモン、エイパムを見ると急ブレーキをかけたように足元の雪を宙に舞い上げ止まった。
エイパムはそんな彼にすりより、愛想のよさを振りまく。 少年はそんなエイパムに微笑を投げかけ、そっと手を伸ばす。
エイパムの体に触れた、しかしそれは人肌の物ではない、黒く光る持つところからほぼ直角に曲がっていて、彼の右手の人差し指が添えられているのはその物体から出ている突起。 彼は左に膝をつき、優しげな瞳を浮かべて息を一定のリズムで荒く吐きながらその黒い物体の先端をエイパムの額に押し付ける。
「キミの主人は何処? 君のためにも案内して欲しいんだ、これが何か知っているよね」
先ほどまでとてもにこやかで愛らしかったエイパムの表情は凍りついた。 エイパムは彼の言うとおり、それを知っていた。
「銃」と呼ばれる兵器、エイパムはその瞳の焦点が合わなくなったように瞳があちこちに動いた。 怯えている、体が震えている事が彼は見た目から、銃口からも知ることが出来た。 しかしその銃口を放さない、優しかった瞳が次第に悲しみを帯びていって威圧感を与えるようにもう一言言った。
「キミが人間に捕まえられたポケモンなんだって解ってる、卵から生まれてきたんだろう? ここら辺にいる野生のポケモンは火薬の臭いを嗅ぎ取って僕には近づいてこないからね」
エイパムは大きく目を見開いた後に強く目を閉じ、そして尻尾で彼の右腕をはじいた。 逃げようと後ろを向いたエイパムに、大きな音が鳴り響いてから鉄の塊がめり込み、貫く。
そこからは真っ赤な液体が流れ出し、左手に持っていたもう一つの押さえ込まれていた銃のトリガーを元の位置に戻すと、両腕をだらんと下げて、傷口を見ると怯えた目をしてそれが目の前に入らないように俯いた。 やがて彼の全身が震えだした、彼のベルトについていたボールが開き中から出てきた茶色の毛並み、首のところには特に白い毛が多く愛らしい姿をしたポケモン、イーブイが心配そうに彼を見つめた。
「ベレッタ、やっぱり怖いんだ、あの怯えた目が、表情が、あのどろどろした赤い液体が、風穴が……」
ベレッタ、そう呼ばれたイーブイは小さく鳴いて、彼の体を駆け上り、左肩に乗ってさらに近くで少年を見つめた。 少年はそんなベレッタの頭を彼女が落ちないように優しく右手で撫で、そして言う。
「甘い考えなのは、戦場に来てこんな考えじゃ命取りになることも分かってる、でもね、怖くてたまらないんだ……」
彼がそのように言っていると、先ほどの銃声を聞き取ってやってきたのか、必要なだけ防寒対策をした割と軽装の男は彼の近くに倒れていたエイパムだったモノを見た。 途端にその男が怒りが混ざった瞳で彼を見た。
憎しみ、瞳に負けないくらいの憎悪の念がこもった声で少年に言う。
「お前が俺のポケモンを殺したのか」
静かな怒り、少年はその言葉を聞いて何も言わずに一度だけ頷いた。 男はその行動を見ると赤と白の球体を叩きつけるようにして投げる。 ボールから出てきたのは長くたくましい岩の体を持つ蛇、イワーク、煙とともに出現するといきなり少年に襲い掛かった。
少年は突進してきたイワークを難なく避けると、肩に乗っていたベレッタに横目を投げかける。 ベレッタは何が言いたいのか解るように頷き、そこらじゅうに茂っていた樹を力ずくで倒してようやく体が止まったというイワークに鋼と化した尻尾を叩きつけた。
悲痛な叫びが森中に響く、まるで何かが地獄の底から這い出てくるような痛ましく、おぞましい断末魔の叫び。 男はポケモンの攻撃が難なく避けられたことに驚きを表現し、そして驚いた彼の額に一センチほどの穴が開き血を吹き出させると倒れた。 今度は静かだった、少年は銃口の当たりに筒のような物をいつの間にかつけていて、それが音をあまり出さないようにしているらしい。
少年は今や生き物ではなくなった三つの死体を見ると、呟くように言った。
「ごめん、ごめんね……、ごめんなさい」
頬に涙が走った、そんな彼のところへベレッタは走って戻っていき彼の頬に流れる涙を舐めた。 酷く心が乱れている、涙が止まらなくなって、体も震えてきた。
殺したくなかった、出来ることならば戦いたくなかった。 そう繰り返してばかりの事後は何の役にも立たない後悔と罪悪感。
少年はただ思う。
でもこの戦争に裏の人間が関わっていたら長引くだけだから……。
臆病で、でも殺すことしか戦争を止めるすべを知らない彼はまた一つ罪をかぶった。 数分ばかりたって心が落ち着いてきたころ、まだ震える両手に銃を持ち、ベレッタを肩に乗せて歩き出した。 涙の後もそのままで死体の恐怖を拭い去れないまま、いつも見慣れた死体の山場にすべく戦場へと向かった。
ふらつく足取りで雪を踏みしめ、まだ微かに流れる涙をぬぐい、弱々しく。
空に舞う純白にも染まらず、あたりの闇よりもただ、暗く。
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お久しぶりです。 ( No.2 ) |
- 日時: 2011/02/11 13:03
- 名前: レイコ ID:oBAeZNMM
- こんにちはティスさん。
私のことを覚えていらっしゃるか不安ですが、お久しいです。
懐かしい冒頭ですね。当時からティスさんの小説を拝読していた身としては、此度の復帰は大変嬉しいことです。 更新を楽しみにしております。それでは。
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返信 ( No.3 ) |
- 日時: 2011/02/11 18:09
- 名前: ティス ID:e.oNrK6w
- こんばんわ、レイコさんお久しぶりです。
覚えていてくださり感極まります!
内容的にはあまり変わりませんが加筆修正を繰り返してがんばって更新していきたいと思います。
レスありがとうございます、今度は最後まで書けるようにがんばります。
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旅する罪人 ( No.4 ) |
- 日時: 2011/02/11 18:13
- 名前: ティス ID:e.oNrK6w
- 二話「貴族殺しの破壊人」
「お前……、一体、どっちの味方なんだ……」
その瞳に負の感情を宿らせながら、男は震える声で言った。 足音がそんな彼に近づき、黒光りするぬくもりの無い冷たさが額に触れると声にもならない息が彼の口から溢れる。 男の目の前にいるのは少年、しかし少年が先ほど立っていたのは死体の山の前、死体は戦争している軍人、両国の軍人とも見境なく殺されている。
少年の右肩に乗ったイーブイが、幼く可愛い顔を持ちながらも冷たく彼を見下していた。 少年の腕は震えていた、震えていたから少年は弱いと思い込んでいたのに、引き金が引かれると必ず誰かが死んだ。 外れることの無い銃弾、そして攻撃を絶やさなかった小さく鋭い牙が全滅へと導いた、イーブイといえど少年の肩に乗っているのは庶民に愛されるアイドル的な生き物ではなく、戦闘に長けた兵器だった。
軍人はもう先が見えていた、この少年が自分を救うことなど無いことがわかっていた。 手持ちのポケモンも、他の軍人のポケモンも、手持ちの武器でさえない。 全てが少年と肩に乗っているポケモンに壊されたのだった、今はただ少年のちょっとしたためらいに生かされているだけ。
ためらいが別の物に変わったとき、それは男の死ぬとき、少年は右手の人差し指に力を入れた。
銃声
開いた風穴から血が飛び出し、男は後ろに倒れてしまった。 少年はそれを見ると肩を抱いた。 しかしそれもつかの間、深呼吸を一度すると走り出す。 一連の動作をしている間にイーブイは少年の頭の上へと移り、振り落とされないようにしっかりとしがみついた。
走っている間にベルトについた大きな丸い結晶を軽く叩く。 途端にそれが輝き、一つのリュックが彼の前に現れるとそのリュックのチャックを開けて替え玉が入っている銃のマガジンを取り出し、それを銃に入っていた空のマガジンと交換すると空のマガジンをリュックに突っ込み、また大きな結晶を叩いてリュックを消した。 物をどのような原理かは不明だが収納するものらしい、おそらくモンスターボールと同じ原理のものだろうがしまうものはポケモンのみではないようだ。 銃を背中側についているホルダーにしまうとついでに取り出しておいた非常食をかじり、肩に乗っているイーブイにも一つ食べさせた。
数分後、大きな城が少年の前に現れ少年はその城を見上げながら門番として立っていた兵士の顔面にとび蹴りを喰らわせ、気絶させると城の中に入り込んでいった。
複雑な通路を迷わずに進み、出くわした見張りのポケモンを肩に乗っていたイーブイが一撃でノックアウトし、ガードの弱そうなポケモンならば少年が持っている銃で的確に額を貫かれた。 疾走が止まることはなく立ちふさがった者は容赦なく殺され、あるいは気絶させられてゆく。
やがて少年の足元には真っ赤な絨毯が現れた、その絨毯はまっすぐに大きな扉へと伸びていっている。 戦争に導入されているせいか城の警備はそこまで厳重でなく、少年は大きな扉を開けるとその奥に広がっていた部屋を見た。
一番奥の玉座と思われる豪華な椅子には戦場を知らない権力者がいた。 そいつは少年を見ると兵士ではないことにすぐに気がつき、部屋の壁際にいたらしい兵士を呼んで少年に攻撃指令を出した。 剣や槍、銃を持った兵士とよく鍛えられているように見られるポケモンたちが一斉に少年とイーブイに攻撃を仕掛けた。
群がる敵に少年は一つ深呼吸をしてから両手に持つ拳銃を発砲した。 兵士はみな強固な鎧を身にまとっていたが、小さな銃弾はその鎧のつなぎ目に命中し、その装備はほぼ意味のないものと化していた。 ポケモンたちは鎧を着せようにもないが、鍛えられているせいか防御力には自信があるといった雰囲気があったが、その自慢の防御力も空しく小さなイーブイ一匹に何匹も犠牲になっていった。
悲鳴が響き渡る、優勢のはずが気がつけば数分のことだったというのに半数以上も減っていた。 あまりの数の多さに拳銃の弾をきらせてしまった少年は銃を背中のホルダーに戻し、さらに隠し持っていたのか今度は首の後ろ側に手を突っ込み、別の銃を出した。
リボルバーのタイプで弾数はそこまでないが威力は一級品、獣のような銃声が再度鳴り響き八人を殺めると殺めた兵士の持っていたライフルを拾って引き金を引く。 イーブイはその小さな体からは考えもつかない力強い一撃を繰り出し兵士のポケモンを全滅状態にしていた、最後の一匹の喉を噛み千切ると鎧を着ている兵士の一人に狙いを定め鋼鉄と化した尻尾を鉄仮面に叩きつける。
あっけなく鉄はへこみ、倒れた兵士の鉄仮面の隙間からはどろどろとした血が円状に広がっていった。 頭が割れてしまったのだろうか、少年は高く飛び上がり一人の兵士の頭を踏みつけて一回転しながら踏みつけた兵士の首元にライフルを打ち込み、残り三人ほどの兵士をイーブイに任せて玉座に座っている裕福な身なりをした男の方へ走る。 余裕を浮かべていたはずの表情が恐怖に変わった。
弾が残っている長身の銃の口を男の額に当て、あれだけの人数を相手にして少しも疲れていない様子の少年を見て思わず叫ぶような声で命乞いをする。
プライドなど一瞬にして砕け散った。 恐怖の前になすすべも持たないその人に、少年は優しく笑いかけて優しい声で質問をした。
「あなたが他国の土地を求めたために起きた戦争で、何人の人が死んだと思います?」
その質問には柔らかさなど一切含まれていなかった、三人の兵士の始末を終えたイーブイは少年の下へ駆け寄り、体をよじ登って肩に乗った。 男はその言葉を聞いて、生きることが出来ないということを悟った。 もはや何も話さなくなった男に悲しい笑みを浮かべたまま、ゆっくりとライフルの引き金を引いて……放った。
刹那の出来事にしか過ぎなかった、男はその額に風穴を開けて玉座の背もたれに体を預け、動かなくなった。
「分からない、分からないよ、貴方の考えていることが……」
返り血をたくさん浴び、ほとんど赤黒く染まってしまった彼は吐き気がするような血の臭いを嗅ぎ顔をしかめた。
自分の後ろに広がった何処までも続くような数の死体を見て、彼は来た道を歩きだした。 そして城から出た後、この寒さの中で気絶していた門番の呼吸を確認し、呼吸がなくなっていると知るや悲しそうに目元に涙を浮かべた。 そう、同じ。 気絶させてもさせなくても野ざらしにしてしまえば結果は最終的に同じところへと帰着する。
先ほどの戦闘のときの動きをしていたものとは似ても似つかないような弱々しい足取り、肩に乗ったイーブイの頭を撫でると、広がった、振り続ける雪で覆い隠されてゆく死体を見て嗚咽交じりに泣き出した。 寒さではない何かが少年を襲い、また体が震え、それでも何処へ行くというのか歩き続ける。
吹雪と化してきた気候の中、少年はどこかへ消えていった。
後に殺されずに場内で気絶していた人々が口々に言った。
あの少年は、近頃有名になっている、戦争を止めるために多くの生き物を殺す、中でもその中心となっている人物、貴族を最終目的として動く旅人だと。 長引く戦場に必ずそいつは現れ、一部では戦場の怪物と呼ばれている。 途絶えることのない恐怖に皆少年だったとしか言うものはおらず、顔は覚えてないといった。 ただ一つ、マントが翻る様が悪魔の羽に見えて仕方がなかった、あれは人間じゃなかったのではないかと噂が流れるほどであった。
しかし、貴族を目的とする彼にはもうそれより有名なあだ名がついていた。
「貴族殺しの破壊人」
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旅する ( No.5 ) |
- 日時: 2011/02/12 22:30
- 名前: ティス ID:1cWJRzrA
- 三話「罪人」
咆哮、黒光りするその物体は小さな球を吐き出すと目の前にいた人間を打ち抜いた。 人がポケモンに対抗するために人同士が争う場を終結させるために作られた物だ、温かみがなく冷たい光を放っている。 立ち上った煙にトリガーを引いた少年はふっと息を吹きかけると、それをベルトについていたホルダーにすとんと軽い音を立てながら入れる。
生き物だったものを見て、少年は悲しそうな怯えたような瞳をすると目をそむけ、走りよってきたイーブイの頭を撫でてやると呟くように言った。
「今日も無事に終わったよ、行こう、ベレッタ」
彼女を優しく両手で包み、肩に乗せてやると少年は走り出した、振り返った先に広がる現実から目をそむけるために。 広がったのはひたすら続く石造りの廊下に横たわっている、いろいろな生き物の死体。 すでに腐敗臭が漂っていて、吐き気すらしてくるその無残な有様を見ないように、出来るだけ前を見ながら彼は走った。
いろいろな物があった、頭や胸の辺りに風穴を開けているもの、食いちぎられている物、頭が割れているもの。 戦いがあったことはぼろぼろになった石造りの建物と、そしてこの有様でわかるだろう、しかしこんな物は今の世界では日常の風景で、何の罪もない物がこのような魂もない器と化すことは珍しくもない。 兵隊だって同じこと、一日何人、ポケモンも一日何匹こうなっているかを数えてもきりがない。
だからこそ人は戦争をして生き延びようとする、一番初めに戦争をしだしたのは何処の国だったのだろうか、戦争をしている国が多すぎて見当もつかない。 最終的には彼のように、武力を持って戦争を終結させるしかない、話し合いなんてするだけ時間の無駄だ、お互い大きな損傷が出ている、利益なく終わればそれこそ今までに家族を失ってきた国民の不満を爆発的に高めることに繋がる。 結論、皆戦好きだ、皆欲張りで自分に利益が帰ってこないとまた反乱を起こし戦いは拡大する。
もう雪の降らない国境にやってきた彼が生き物の魂を葬らない日はなかった。 勿論、常に彼とともにいる彼女もそうなのだが。
彼は精神的に疲れきっていた、殺すことは日常茶飯事でも未だに殺すことにためらいを持つ彼にとっては殺すことはおろか、一滴の血を見るだけでもそれは生々しく脳裏に焼きついて離れなくなる。 恐れている物を毎日見るのだ、それが嫌でたまらない、でも彼は生き物を殺す、彼女と一緒に。 戦わなければいけない義務が彼にはない、彼は血や怯えた死体の表情を怖がり敵と対峙したときに銃を握る手が震える。
なのに何故戦うのか。
たて看板と地図を頼りに町に着いた彼は真っ先に宿屋を目指して歩き始めた。 昔はポケモンセンターという物があり、ポケモンを回復させる装置と旅をする人々に無償で宿を貸し与えるといった施設があったものの、今ではそれは戦争の手助けにしかならない。 心の優しい人々で命を救うこと、保護するための者の集まりであったために、戦争などという人々が傷つくような行為に加勢したくはないというその人々の思考が一致してポケモンセンターなる建物はなくなってしまった。
在ったとしてもそこにある機械は複雑で常人には理解しがたい構造、扱い方をするので無意味に等しく、邪魔なので取り壊されて今は軍用地にされていたりすることが多い。 昼間であるがそんなことは気にせず、部屋を借りるとベッドに倒れこんですぐに寝息を立て始めた。 イーブイのベレッタは危ないな、といわんばかりにその可愛い顔を曇らせると、彼の顔の横辺りに来てふさふさの尻尾で顔を覆い隠すと彼女もまた寝始めた。
意識のない彼らにとって時の流れは速く、目が覚めたころには辺りがすっかり暗くなっていて朝まで眠ることが出来なかったので結局昼寝のようになってしまった。 うつ伏せだった体を寝返りを打って仰向けにし、左手をベッドに当てて右手を額に当てながら上半身を起こす。 左のほうでうずくまったまま寝ているベレッタを見て微笑みながら頭を撫でると、小さく声を出して彼女は小さく縮こまった。
優しい月の光が入ってくる窓辺を見て、少年は綺麗な窓の奥に映った半月をガラス越しに左手の人差し指でその輪郭をなぞった。 誰に対してでもない、でも確実に誰かに話しかけるような内容が彼の微かに開いた唇から漏れ出した。
「これでいいんだよね……、これで」
その言葉が表すのはおそらく今彼がしていることだろう、戦争を止めるために人やポケモンを殺す。 彼がベッドの上に左腕を下ろしたとき、眠っていたベレッタの体が一瞬ビクッと揺れ、しかし何事もないと寝ながらも悟ったのか何事もなかったかのように再び寝息を立てる。 眼帯のかかった右目の位置を右手で撫で、そのまま誰かに話しかけるような独り言を続ける。
「戦争を止めるには、悲しみの鎖を砕くにはこれしか方法がない、ないはずなんだ」
優しい光の光源をゆっくり、寂しそうな瞳をしながら見た。 窓に再び指紋をつける様に指を滑らせた。 それは文字のようで、それを綴り終えてからしばらく沈黙を迎えた後、一言呟く。
「偽善者を気取る殺人鬼は、罪をかぶるのは、僕だけでいい」
その言葉を口にするときの瞳にはまるで生きている感じはしなく、瞳だけならもうすでに死んでいるようだった。 ガラスにありありと映った、戦争を望んでいなく殺すことに恐怖し戸惑う彼は自分で自分を殺すように、そのような瞳で、そのような言葉を機械のように途切れ途切れに何度も呟いた。 きゅ、という乾いた音を立てて窓ガラスに滑らせる指を止め、瞳を閉じて、開く。
ガラスに映っていたそのときの彼は、冷たい瞳をしていた。 他人を思う覚悟がその瞳を作り出したのだろうか、しかしその瞳も長くは続かないだろう。
弱くて、怖がりな、全く戦という舞台には似合うことのない彼のことだから。
少年は横に寝ていたベレッタを起こすと、彼女を肩に乗せて宿で出される夕食をとりに歩き出した。 ドアノブをひねり、暗い部屋から明るい電灯のついた廊下に出るとまぶしかったのか目を細めて、そして食事の取れる広場に向けて歩き出した。
月光に照らされた窓、そこには彼になぞられた部分がくすんで浮き上がっているように見えた。
そこに書いてあったのは、彼が自分に向けた言葉が綴られていた。
「偽善者、臆病者、罪人」
思いつく限りの言葉が、そのほかにも綴られていた。 自分を責めたって自分が奪った命が戻ってくるわけではない、そんなことは少年はわかっている。 それでも、後悔せずにはいられないのだ。
いくつもの命を奪ってきて、いくつもの命を絶望の中へ叩き落として。 彼自身どうしようもなく戦闘に溶け込んで、敵はほとんどいないほどに強い。
それでも、それでも彼は、臆病だったから
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旅する罪人 ( No.6 ) |
- 日時: 2011/02/15 12:38
- 名前: ティス ID:WP.r/H7A
- 四話「遭遇」
戸惑った心のまま私は知らず知らずのうちに見つめていた。 それは今から少し前のことだった。 私の住んでいる村はもうすでに栄養がなくなってしまった大地のため、作物が育たなく食料を買い足しにいかなければならない環境下にあった。 そのため週に一度、近くの王国に食料を買い足しに行く必要がある。
戦場の中を抜けていくんだもの、誰も行きたいはずがない。 しかし行かなければならないので、その村に住んでいる村人はどんな子供でもポケモンを持っている、週代わりで買い足しにいけるように。 でも子供の場合ポケモンの腕も未熟なので親から離れないのが普通なのだけれど、私は自分でも思う、どうしようもなく意地っ張りな性格で、親とはなれて行動していると戦渦に巻き込まれて親とはぐれてしまった。
戦渦に巻き込まれたの、場合によっては命を落とすことは珍しくない。 私は私の親ほど持っているポケモンも強くなく、敵国の民と悟られると軍人に攻撃され、パートナーはあっけなく倒されてしまった。 パートナーであるイーブイの痛々しい姿に涙が流れてきて、目の前にいる敵国の兵士の強そうな黒と灰色の体毛、鋭い牙と瞳を持つ狼、グラエナを見てパートナーを抱きしめながら震えていた。
その鋭い牙が私を襲おうとしたとき、銃声が響き渡った。 襲ってきた軍人は力なくふらつくと倒れ、グラエナは突然の事態に振り返ると鋼鉄と化した何かにその頭を割られた。 鈍い音が鳴り、顔を青白くさせた私は倒れたグラエナの上に舞い降りるように自らのパートナーと同じような外見を持つポケモンか軽い音を立てて着地したのが見えた。
そのイーブイは可愛い顔に似合わない冷たい瞳で私を見下してきた。 瞬間的に私は悟った、このイーブイは自分を助けたのではなく、近くにいた敵対するものを倒しただけなのだと。 私はイーブイの後ろから背の高めな、銀髪が目立つ、眼帯をした少年がゆっくり歩いてきたことに恐怖をした。
その童顔から見ておそらく同じくらいの年だとは思ったものの、体の回りにまとうオーラという物が全く違うことに気がついた。 右手に握った銃が、私は冷たく語りかけてくるような気がした、「死ね」と。 彼は私の額にその銃口を当てて、冷たい感触が私を震え上がらせた、それでも私は助からないとは思っていたので、せめて今腕の中にいるパートナーだけは助けて欲しくて、
「この子は、助けてあげて……」
私は震える声で呟くように言った。 その言葉を聞くと彼は私の額から銃口を離し、ベルトについていた結晶を軽く叩くとリュックを出現させ、その中から道具箱のようなものを取り出して、スプレー状の傷薬と消毒薬、ガーゼ等を出して優しく私に言った。
「わかった、その子を助けてあげる」
・・・・・ そんなことがあって、私は彼といた、城下町に行く最中だと言うと、彼はそこに行くまで守ってあげると言い、共に行動していたのだ。 私はまだ両親に会うことが出来なかったけど、彼のおかげで無事につけそうだと思った。
彼の手は震えていたけど、それでも彼が強かったから。 彼のそばにいたイーブイも軍人のポケモンが何匹束になっても敵わないほどに強い。
目が覚めた私のパートナーも、その段違いの強さに呆然とした。 同じ種族なのにどうしてこうも違うのか、パートナーは悲しそうに俯いた。
気がつけば、彼の後ろには敵国の軍人がいて、今にも殴りかかろうとしている、あわてて助けようとしたけれども…… 私がそんな気を起こさなくても彼は全然平気だった、殴りかかろうとした軍人の方を見ずに強力そうな裏拳がとんだ。 その後に力強く飛び上がって体制を崩したそいつに頭めがけて回し蹴りをして、体制が悪い彼に襲い掛かろうとしていたそいつのポケモンの額に風穴を開けた。
あんなに忙しそうに戦っているのに、私に近づいた敵も難なくやっつけて、何十人もいた軍人は全員地に伏してしまった。 そうしてそれを見た後、恐怖と、尊敬から頭が真っ白になっている私に、返り血で見るたびに汚れて行く彼はそっと手を差し出して優しく言うのだ。
「さぁ、行こうか」
死体には目を向けないように、銃を背中に隠して、震える手で。 強い、でもこの人は確実に殺すことを怖がっている。 笑顔の裏にある本心がすぐに見え隠れする人だ、戦っている最中は全くそんなそぶり見せなくなったのに、終わった瞬間にこれだ。
一緒に走り始めて、いつも見慣れた買出し先の城下町についた。 彼もここが最終目的地みたいで、私はこの後彼に何をするのかたずねてみた。 すると彼はいきなり悲しそうな表情を作って、私を見てくる。
「僕がここの国王を殺すって言ったらどうする?」
……、一瞬冗談だと思った、第一質問をしているだけだし、そう決め付けるのは良くない。 でも、彼の目はうそを言っていなかった、その栗色の瞳が、きっとそれが彼の目的なのだと無理やりにでも信じさせるような強い輝きを秘めている。 驚きで何もいえなくなった、この国の王は確かに戦争好きでろくでもないけど、その人を失ったらこの国は戦争に負けて、そしてそれと同時に国が他国に吸収されてしまう。
「絶対に、駄目……」
震える声で、何とか勇気を振り絞って言った私に、彼は悲しそうな瞳で笑いかけて、城のほうへ歩き出す。 そしてその最中に言った。
「他国との戦争に負けるとかは考えなくていい、もう戦争には勝っているから、向こうの国の王はもう殺したから」
どちらにせよ止めなければならないと思った、君主をなくした国は荒れるだけだから。 でも何を言っても彼は止まってくれなかった。 だから、言った。
「王を殺すことは、国を壊すことにも繋がる大罪なのにどうしてそんなことを……」
私がそれを言いかけると、途端に優しかった彼の雰囲気は変貌を遂げた、肩に乗っている彼のイーブイもそうだ、振り返らない彼に対して彼女は私を見下したような瞳で睨みつけてきた。 今まで戦った後は決まって震えていたのに、今の彼が放つ威圧感は悲しくて、凄まじい。 悲しい威圧感を放つ彼がしばらくして私に言った。
「罪人になったっていい、罪をかぶる覚悟はもうとっくにしてあるから」
それを言うと彼は走っていった、途端に城下町に悲鳴と警報装置が作動したのか騒音が響き渡る。 その騒ぎに乗じて逃げてきた両親に私は会うことが出来たのだけれど、結局村に帰ってから数日後、聞いた話だと王は何者かに殺されたらしい。 あの人だと思った、そして、旅人だけれど食料等も十分に補給したのか、それとももうこちらの方面には用がないからかこの村に来ることはなかった。
大罪人が来ないのはいいことなのかもしれない、けど……。 聞きたいことがあった、何故あなたは自分の意思で罪をかぶるのか、とかいろいろ。 覚悟はもうとっくにしてある、その言葉を言ったときの彼の後姿は暗く、寂しかった。 あの時助けてくれたお礼もまだ言ってなかったし、本当に聞きたいこととか言いたいことだらけだった。
あの人と遭遇したことは、たぶん、一生私の中に残るだろう。
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旅罪五話 ( No.7 ) |
- 日時: 2011/02/17 23:35
- 名前: ティス ID:zvI5zw0.
- 五話「例えそうだとしても」
青白くなった表情で、目前に立つ恐怖の象徴を恐る恐る青年は見た。 幼ながらそのポケモンバトルのセンスと、割りとある体力、身体能力を認められ、兵として導入された彼はこれが初の戦場であった。 しかし、その初陣で思いもよらぬ人物と遭遇したのである。
所属されたころよりお世話になった上官とともに行動し、一つの小隊の兵として仲間と行動していたのだが、いきなり小隊長のポケモンが倒れたところから始まった。 その場にいた全ての兵が、その瞬間に見ることになった。 小さな、その愛らしい外見とは裏腹に、驚くほど冷たい笑みを頬に浮かべた、栗色の獣を。
その獣は一瞬にして小隊長の喉元をえぐるように噛み千切り、その毛並みよりもさらに綺麗で鮮やかな瞳を今度は小隊の兵に向けた。 目の前で小隊長が殺された恐怖が、判断を遅らせ、思考を鈍らせた。 一瞬の戸惑いが後悔に変わった、途方もなく強くて、ばたばたと皆やられていく中、青年とその上官は抵抗した。 上官がその獣を銃で撃ち抜こうとしたときに、まさに早業と言わんばかりに銃声が響き渡り、青年が気がついたころにはもう、遅かった。
一緒に暮らしてきて、一緒に軍人に認められた彼のパートナーが栗色の毛並みを持つ獣に一撃で叩きのめされ、地に伏せる。 おそらく死んではいないのだろうが、起き上がってはくれそうになかった。 どれほどの距離を走ってきたのだろうか、先ほど銃を撃ったと思われる少年が息を切らしながら彼のところに歩いてきて、そっと呟くように言った。
「これで……、出陣した戦闘兵は最後……」
その一言は、もう彼以外の兵が皆、殺されたことを現していた。 後は城に残った兵を殺し、そして一国を束ねる王を殺せば終わりなのだろう。 その彼は少年のことを知っていた、おそらく戦が長引く限り、必ず奴は現れるから気をつけろと、先ほど少年によって殺された上官が何度も話してくれた。
「戦を終わらせるために、虐殺に等しいほど人を殺す、大罪人」
「貴族殺しの破壊人」
実際に彼は実物を見たわけではない、おそらく上官もどんな外見をした人物なのかわからなかったのだろう。 少年の手持ちも解らなかった、第一この戦乱の世、生き延びることに執着し、軍人になる少年だって珍しくなかった。 だから、戦った。 戦ってから気がついたから、どうしようもない、手を出したら、見つかったら最後。 その人の情報が流れないのは出会って正体に気がついた軍人、そして一般人が恐れてそのことを思い出したくないがために話さなかったり、殺されたりしたからだ。
そうして今、少年は、彼に拳銃の先を向けている。 少年は思っていた、青白い顔をして、恐怖に満ちている彼が命乞いをしてくると。 大体軍人になり始めた人々は皆そうだったから、自分に課せられたその役目がどれほどの物なのかを自覚していない。 そして、そう言う人間は大体彼のような表情をしている。
「殺したかったら、殺せ」
しかし、彼の口から出た言葉は、それだった。 少年は驚いた、しかし、その言葉を言った彼に驚きなんかなかった。
人並みはずれて正義感が強く、人のことを思える明るい好青年。 面倒を見てくれていた上官が笑いながら彼の第一人称を語ったときの言葉。 楽しかった日々が走馬灯のように流れ、そして彼は深く瞳を閉じた。
「生きようとは、思わないの?」
そっと、全てを破壊した銀髪の片目の少年が、震えるような口調で聞いてきた。 寒くなんかない、きっと怯えているのだと彼は思い、そして、それと同時に彼なりに考えて人を殺しているのだと思った。 こんなに震えているのに、ただ戦をしたいばかりに戦っているなんてことは、ないはずだと思ったから。
その少年の問いに、彼はそっと答えた。
「たとえあんたと戦っても俺は負ける、それに、この状況で今更何もする気はない、しかも動いた瞬間撃つだろ、あんた」
冷静な口調、それでも、普段明るい彼はこんなときでもそんな雰囲気を捨てきれずにいる。 少年は彼に不思議な感覚を覚えた、今まで戦ってきた中に、こんな人は居なかったから。 肩に乗ってきた少年の相棒が、同じように不思議そうな瞳で彼を見つめる。
「それに……、いくら新人でも、弱くても兵は兵らしく、誇りを持ったまま死にたい、強さの格の違いを見せられても、抗う意思を見せた先輩たちみたいに」
こんな状況に立たされているというのに、強い響きを持った言葉。 少年はそんな彼の言葉に、俯いた。 うらやましく思ったのかもしれない、こんな状況に立たされても何も動じていない彼の強さに。 しかし、今までの人々とは違った彼に少し興味が出てきたのかもしれない、一言をお別れの言葉と自らに言い聞かせて発砲する彼少年が、再び質問をした。
「もしその先輩たちが、君の事を好いていて、生き残れるチャンスがあったなら、君になくなってしまった分を生きてほしいと、そう願っていたのなら、どうする……?」
まるで生きたいと、そういって欲しいような少年の問いかけ。 そんな雰囲気を感じながらも、彼はそんな少年に、それに気がついていないかのような返答をする。 その瞳を閉じたままで、ただ、終わることを望みながら。
「それでも俺は、生き残ったとしたらまた戦う、守りたい物があるから」
はっきりと、そう言った。 しかしその後に、今終わることに疑問など感じていない、新米兵士、または戦歴なんて関係ない、彼の素が含まれた言葉が出た。
「それに、皆怖いのに、俺だけが逃げるなんて、できるわけないだろ」
違う物を感じていた、だけれど、まさかここまでとは思わなかった。 彼は誇りを持っている、それは強くて、驚くほど白く、綺麗な物。 わざわざこんな場所で汚すことのない、とても純粋な物。 少しではない、そんなkれに大きなためらいを見せたこの少年に、彼は一言、引け、と言った。
何の迷いもない、ダメージを受けて弱っていると微塵も感じさせない声で。
獣の雄たけびのような銃声。
ここで、初めて少年の手から愛銃が滑り落ちた。 この戦で初めての、本当に悲しい涙が流れた、少年のパートナーはそんな少年を驚いた表情で見て、そしてすぐに悲しそうなその涙を舐めた。 極限状態の不安定な心の中で、震えるその手が肩を抱いた。
小刻みに震える彼は、とても世の中では破壊人と称される物には見えないほどに小さく、儚い。 震えるその手で、思い切りでない力を出して弱々しく音を立てて地面と衝突したそれを拾い上げると、意識をなくした彼に背を向けて歩き始める。
「ごめっ……なさい……ごめんなさい……」
流れる涙をそのままに、ただ、そう呟きながらふらふらと弱々しく歩き始める。 そんな心の強い彼を、一思いに殺そうと思った、誇りを持っていて欲しかった、自分と同じく臆病者にならないで欲しかった、でも、少年は長年の戦闘経験から、一目見て解った。
その球が貫いた場所、そこが、急所ではなかったことを。
まだ彼が、息をしていたことを。
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旅罪六話 ( No.8 ) |
- 日時: 2011/02/22 13:48
- 名前: ティス ID:zjP5ZmL6
六話「大切な」
少年はゆっくりと歩き始めた、もうこの戦争では涙は出尽くした。 足取りは重く、しかし一歩、また一歩、前にと進んでいく、天井にぶら下がった豪華なシャンデリアも、赤の絨毯も人気がなければ不気味に存在感を増すだけ。 血に染まった大理石のような床、横たわる数え切れもしない死体の数々、玉座に座るのは前に突っ伏した魂の宿らない肉塊。 変わらず、少年の肩のうえに乗っているのは彼のパートナーのイーブイ、ベレッタ。
また一つ、戦争を止める代償としてたくさんの命を消した。 灯火は赤々と燃え盛っていたのに、ろうそくはまだ長く、溶けてなくなるまでの時間はたくさんあったのに、火を吹き消された。 長い廊下を俯きながら歩き、少年は血で染まった床を見ながらふと思う。
この前もこの前の前もそのずっと前も、同じ景色を見た、と。
大量虐殺を繰り返している。 それでもこれしか戦争を止める方法はないのだと少年は言い聞かしていた。 そして、待っていた、自分がこの罪を裁かれるそのときを。 ただでは死ぬまいと思っている、敵とみなした相手またはそれ以外でも攻撃を仕掛けてきたのなら応戦するし、死に至らしめる。
単純に待っていた、実力を持ってして、自分に打ち勝つことのできる相手を。 死に場所を選べるほど誇り高いとも思ってはいない、戦場で死ねることに何の喜びも抱かない。 たとえ戦場でなくてもいい、誰かが罪を裁いてくれるとき、そのときをずっと待っている、どんな惨い殺され方だとしても、きっと彼はかまわないだろう。 自分は、裁かれるべき罪人なのだと理解しているから。
ただで死なない理由は一つ、少年をパートナーと決め、その少年のためにどんな非道なことでもしてきた、彼女のため、もう一匹の相棒のため。 彼はどんなときでもこの二匹に支えられてきた、彼女らは悲しいと感じることが出来る、殺す感触に嫌悪感を覚えている。 それでも少年のために、それを表情に出すまいとして冷たい表情を作っている、少年をリードするように虐殺に等しい勢いで敵を殺していく。 勿論少年はそれに気がついていないわけではない、ずっと前から知っていた。
自分たちを抜けらもしない泥沼に引きずり込んだ大罪人の彼に、笑いかける。 一緒にいたいと思っている、そんな彼女らのため、きっと少年が死んだら悲しむのだろうと思っているから。 終わりたくて、でも終われない、彼女らを安全のために突き放すことも出来ない。 抜けられもしない泥沼に、「貴族殺し」と称されたころからはまり込んでいる。
戦友、いや、血みどろな言葉で表さなければ親友とも取れる、彼の唯一の心の支え、その支えをなくして彼は歩むことは出来ないだろう。 少年は彼女らに感謝している、それこそ言葉では言い表せないほどに。 彼女らは辛そうな表情をしながらも命を奪っていく少年を見守っていた、どんなときでも、彼をただ信じていたから、彼が好きだから。
「ねぇ、これでいいんだよね? これで……」
少年はいつも迷っている、その少年の言葉に、ベレッタはそっと首を振った、返事を返しても種族の違いにより言葉が通じるはずもない。 そして、その少年の迷いに答えることが出来なかった、戦を終わらせると言う目的、それはいいことといえよう、弱き物はそれを望んではいないから。 しかし、そのために大量の命を奪うこと、それは誰がどう見ても一目瞭然、悪いこと。 その二つが交じり合ってるからこそ何も言うことが出来ない。
ただ、それに迷うこと、そこに少年の弱さがあり、戸惑いがあった。 そしてそこには虐殺と言う響に嫌悪感を抱いていると言うことでもあった、そのまだ消えない彼の弱さを、彼の優しさを疑ったことは、彼女と、もう一匹の彼の相棒は一度もなかった。 臆病で、弱くて、正しいことをしたいのにそれが出来ず、曲がった方向へ進み泥沼に陥った、そんな彼。 それでも、優しかったから、今にも崩れ落ちそうな精神力の中、自分たちのことを思ってくれている優しさを感じ取れたから、今でも彼女達はこの少年についていくことを決めている。 たとえその先には暗闇しか待っていなくとも。 そっとベレッタは少年の頬にすりついた、「でも、私はあなたについていく」それを伝えるために。
もう涙が出ない少年は、そんな彼女の心が伝わったのか、ありがとうと呟くように言って、彼女の頭を優しく撫でた。
彼はいくつの国を滅ぼすようなことをしてきたのだろう、そのようなことを聞かれたとしても彼は答えることが出来ないだろう。 それほどまで多くの国同士の戦争を強制的に止めてきた、どんなに小さくても、そこが戦場と呼ばれる舞台であるならば。 大小かまわず戦であるならばそこに行き、虐殺を繰り返しては罪を重くし、心を壊していく、毎日がその繰り返し。
ぼろぼろになった彼を支えるのはいつも決まった彼の相棒たち、戦場にはめったに出さない相棒も彼を支え続ける。 一部の国では殺人狂とまで呼ばれている破壊人は泣きもするし震えもする、怖い物だってあるし、殺すことを楽しんでいるわけがない。 ただ、彼はめったに心から笑わない、笑いたくないんじゃない、笑えなくなった。 辛いことが多すぎて、それから立ち直る前に辛い罪を、悲しみを積み重ねていく。
他の誰かが彼にそうしているわけではない、そうしているのは彼自身。 だけど、その辛さを分かっていながらもそれを止めることが出来ないのは、日々日常的に行われている戦があるから。 立ち直る前に、いや、立ち直る時間さえ彼には与えられていない、与えていない。 そうして彼は自分を責め続ける、そのうちに心は凍り付いていって、緩むことが出来なくなった。 少しは彼女らによってその氷が溶かされるときがあるが、それは表には出てこない、凍てつくような吹雪が一瞬やむだけ。
「……どうしたらいい、どうすれば、争いは無くなる?」
それが分かれば苦労はしないと言うもの、しかしそれが分からないから世界は破滅へと向かっていく。 今や争いがこの世界からなくなることは無い、それは、昔に人々が持てるものを全て使って起きた大きな戦争からのこと。 その戦争に、世界初としてポケモンが主戦力として使われた、炎は一体を焼き尽くし、命を支えるべき水はたくさんの命を飲み込み、電気は、氷は、全てが破壊の力へと変わった。 最も多く使われたのが毒、敵の健康を奪い、崩し、そして一気に畳み掛ける。
それからと言うもの、トレーナー志望の人でなくともポケモンを所持せざるを得なくなった、自分を守るために、自分のために。 そう、全ては己のため、そんな勝手なことにつき合わされているポケモンたちは自分たちの存在をどう思うだろう、悲しみ、それとも怒りか。 少なくとも今彼のそばにいる二匹は悲しみを覚えた、だからこそ、自分を兵器として使う彼に惹かれ、彼についていった。 元からポケモンは所持しておらず、どれだけの命を奪ったか少年にさえわからない愛銃と、己の力を持って戦う彼に、過ぎた力を持ったために、暗闇の中へ必然的に飲まれていく彼に。
今では闇に完全に飲まれないために彼女らが必要になった、闇に飲み込まれずにいるのは彼が心の中に作った彼女らの居場所だけだった。 何度心の中で、言葉で、思っただろう、言っただろう、ありがとう、と。 それでも足りない、しかしどうしていいのかも分からなかった、でも、これだけは分かった。
『君たちがいてくれたから、僕はまだ人のままでいられる』
吹き荒れる吹雪の中に、たった一つだけ輝いたままでいてくれる灯火。 それは友として、今も彼を見守っている。
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旅罪七話 ( No.9 ) |
- 日時: 2011/03/11 12:04
- 名前: ティス ID:e.oNrK6w
- 七話「機械人形」
魅せられた人間はそう簡単には元に戻らない。 命の危険にさらされるまで、または大きな傷を負うまでそれの虜にされ、過ちを繰り返す。 ただの人間ならその過ちは小さい物かもしれない、それならただ自分自身を壊していくだけだ。
だけど、それがもし、人間や、その人間のポケモンたちの命を握る立場の人間なら?
それらを用いてとんでもないことをすることが出来る、虐殺、破壊、侵略。 何をしてもいい、自分が一番偉いんだから。 止める人なんていない、不満を持っていても魅せられた権力者に反発しようものならその場で制裁を加えればいい……。 皆は、まるで操り人形のように都合よく動いてくれる。
命を握る立場にありながら、国王は無茶苦茶な人だった。 ほしい物は全て手にいれる、気に食わない物は全て壊す。 ずっと一人でいるのが好き、だけど人を動かすのも好き。 欲張りでろくでなしな人柄、そんな国王は嫌われていた。
でも
そんな王の流す涙は誰も知らない、時々見せる悲しそうな表情を知らない。 嫌っている人々はそんな彼の悲しみを、痛みを、その中に宿る孤独を知らない。 悪者扱い、やっていることが酷いから反発することも出来ないが、彼は反発しようとも思っていなかった。 悪いことだと、分かっているから。
何故、悪者になりたいのか、分かっていてそうするのか、誰も聞いたことがなかった。 聞けばきっと、すぐに制裁が待っていると考える人ばかりだったから。
やがて起きた国民の反乱、王を守ろうとするものは誰一人としていないはずだった。 しかしそんな中にもいた、一匹のポケモンが。 心臓部のところにひときわ鮮やかな赤い色の突起物のある、頭の緑以外は何処までも白く美しい体をしたポケモン、「サーナイト」
価値のない人間を守る必要があるのか? そう問えば彼女は間違いなく答えるだろう。 いいえ。
なら何故守るのか、言葉を返せば、彼女は、そっと答えた。 主に仕えることを光栄に思うような表情で、堂々と、迷いのない、限りなく澄んだ美しい瞳のままで。
「あの方は、お優しい方です」
そんな彼女に向かっていった生き物は、みな倒れていった、ただし死んではいない、気絶をしただけ。 主に抗う輩すらも殺さない彼女が言う、「優しい」と。 それは戦争と言える舞台にいたるまで発展した、国民対王の、不利な戦争。 どんなに疲れていても彼女は主を守った、その間病気や寿命で死ぬ者はいても、戦いで死んだものは誰一人としていなかった。
しかしどんなに被害がなくとも、「破壊人」はやってきた、そこが「戦場」だから。 やってきた彼はやはり強く、国民の反乱の波を押し切って彼女のところへと着た。 肩に、長い間パートナーとして日常をともにしてきた「兵器」を乗せて。
毎日戦闘を繰り広げ、おまけに誰一人として殺さないという大きなハンデをつけて戦ってきた、疲れきった彼女は瞬時に悟った。 『ああ、勝てないな……』、と。 それを分かっていても、彼女は戦った、結果はすでに見えていた惨敗、倒れた彼女に、もはや感情がないのではないかと思うくらいに無表情な王は近づいて、もう額を打ち抜かれて息絶えた彼女の風穴付近にそっと指を当て、流れ出た液体でその手を赤に染めた。
ずっと守ってくれていた者が殺されたのに、表情のない顔、それを見て少年は少し腹立たしくなり、彼女を撃ったリボルバーを彼に向ける。 少年の肩に乗っている彼女も同じように怒り、そして王を睨みつける。 しかしそれでも表情は変わらない、王はもうすぐで死ぬかも知れないと言うのに、表情は固まったままで言った。
「どうすれば、よかったんだ? クラエス」
ポツリと小さく出てきた言葉、表情は変わらないままで、その瞳からは涙が流れ始めた。 少年はそれを見て、奇妙に思った後、一つのことが浮かんできた。 『この人は、感情とともに出てくる表情を知らないのではないか』ということが。 そんなことはありえないとも思ったが、今彼は間違いなくそんな状況である、特に表情を出すまいとしているわけではない、表情は一寸も変わらないままただ涙が流れ出している。
しかし、彼の周りにまとわりつく雰囲気は、間違いなく「悲しみ」を帯びていた。
「教えられたことをしても上手く行かない、間違いではないといわれて、やれといわれたことをやっていただけなのに、お前まで失った」
「何 よ り も 、必 要 と し て い た の に」
大きな音、王はそんな風にしか思わなかったかもしれない。 閉じた瞳、暗くなっていった世界。
少年の瞳は怯えていた。 特に王の容姿にはいつもどおりの残酷な赤く染まった穴が開いているだけ、いつもならこんなに怖いと思うことはなかった。 「罪を犯した」、それが少年の中に強く根付いた。
罪を背負うことは覚悟をしていたはずなのに、本当に、この人は悪者なのか、それが分からなくなったのだ。 やることを定められ、植えつけられた機械のようなその人、感情を持つことは強要されなかったのに、権力を振りかざし、他の生き物を苦しめることを強要されたその人に罪があるのかが。 そんな彼に唯一感情を持つことを許してくれた、彼女、誰もが見ていないところで、そんな彼女に向けられた、彼女だけが知っていた王の「優しさ」、少年の前にいた人物にはなかった、「感情」。
殺すことが王にとっては開放だったのかもしれない、だけど、少年がしたかったのはこんな悲しい開放の仕方じゃなかった。 見てしまった、彼に残った、最後の感情がなくなるそのときを。
機械人形の最後の感情を、心の居場所を、奪った。
狂い咲いた傲慢の中で、狂気を埋め込まれた、機械人形は、相変わらず無表情のまま。
必要なものだったのに、必要な存在だったのに、それを奪われたまま。
色づいていない、死んだ世界の中で、「自分自身」を狂気に殺されたまま……。
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