Re: 2010年秋企画【投稿期間10/16〜11/6】 ( No.24 )
日時: 2010/11/06 22:24
名前: ョン ID:


題名【かわいいあの子】
テーマ【雨】

 あの子かわいい。あの子に声をかけよう。そう決めたのは、ある冬の雨の日の午前中のことだった。大通りから二本ほど離れた路地を歩いていると、赤色の傘を差しながら歩く私服姿のかわいい子を発見したのだ。この道をよく使うのだろうか。何故賑やかな大通りを歩かないのだろうか。どこへ行くつもりなのだろうか。僕はそんな他愛のないことを考えながら彼女の後をつけた。ミニスカートからスラリと伸びた足が綺麗だ。茶色がかった髪も、きっともの凄く綺麗だろう。顔はまあ、かわいいのが当たり前だ。そんなことを考えていると、いきなり声をかけるなんてあまりに唐突ではないかという疑問が浮かび上がった。驚かせてしまうのではないか、怒らせてしまうのではないか、嫌われるのではないか、逃げられるのではないか。そう思うと、僕は声をかけられなくなった。
 しばらく彼女の後をつける。彼女と同じ足を出し、同じ速度で歩く。雨のおかげで後ろの気配が消されているのか、僕がついていることにまったく気付いていないようだった。よし、と無意味に心の中でガッツポーズを決めてみる。決めてみて、自分が見ていることばかりに集中して、声をかけるという当初の目的を忘れかけていることに気付いた。いや、別に見ているだけでもいいのだが、ここはやはり声をかけておきたい。そうするべきだと思う。
 彼女が道を左に折れたことを知る。それくらいに僕は彼女のことをじっと見ながら歩いていた。彼女に倣って道を左に折れ、電信柱を五本程通り過ぎたところで、この辺りには大きな公園があることを思い出す。妙な形をしたオブジェが中心にのさばる噴水がありその周りには芝生が広がっているのだ。気取った風に洒落た場所で、カップルなんかが待ち合わせに使っているのだった。
 となると、当たり前の予感が僕の中によぎる。そう感じるとそう見えてくるのが不思議なもので、彼女の足がその公園に向かっているとしか思えなくなり、そして案の定彼女はその公園の中へと入っていった。人口的な林の中の舗装された道を抜け、中央部分へと抜ける。ああ、まずい。僕の予感が現実みを帯びてくる。芝生が広がる公園の中央にある噴水の前には、傘を差しながら一人の青年が立っていた。僕は予感を確信に買え、噴水の辺りが見える距離ある木にそっと隠れる。彼女はやはりその青年の元へと歩いていった。くそう、やはりそういうことか。あの子には彼氏がいるということか。ああ、なんたること。あんなかわいい子が、あんなどこにでもいそうなチャラチャラした奴と付き合っているなんて、これは一体どうしたことだ。
 いつの間にか身を隠すことも忘れてぶつくさと独り事を呟きながら彼女を見ていると、迂闊にも僕はあのチャラチャラ野朗に気付かれてしまったらしい。や、やばい! と思ったが、時既に遅し。僕のことを彼女に話したのだろう。彼女もこちらを振り向き、あっ! と驚いたように口をあけ、こちらへづかづかと近寄ってくる。うわあやばい怒られる! と一瞬逃げようかと思ったが、よく考えると別に逃げる必要はない。だってただあの子をじっと見ながら後ろをつけていただけで、不審者ではない! なので僕はこちらからも近づくように、堂々と身を乗り出す。すると怒ったようにむすっとした彼女のかわいい顔を、さらに真っ赤にし、力強く地面を踏みしめて近寄ってくる。ずん。と最後の一歩を僕の前で踏み、彼女は言う。
「もう、なんでパパがこんなところにいるのよ!」

 おわり