3276文字 ( No.19 ) |
- 日時: 2010/11/05 21:46
- 名前: 夢はいつも儚げに ID:
- 【題名】ハイリンク―夢繋―
【部門】C 【テーマ】橋
「この橋をいけばどうなるものかー」 尊敬するあの人に良く似た声で誰かが叫んだ。 だから俺は一瞬で悟る。 こいつは夢だと。
いや、もっと早く気付くべきだった。 何故なら、俺が渡っている橋はとてつもなく長い。 向こう側が霞んで見えないほど長い。 その上曲がりくねっている。 無駄に右へ左へと蛇のようにカーブしている。 現実にこんな橋があるわけがない。 労力の無駄だし費用の無駄だし、何より安全性が不安な気がする。 いや、俺が知らなかっただけで、今時の建築技術は意外と進んでいて、もっとおかしな形の橋でも作れるのかも知れない。 などと考えてみたが、やはり色々と無駄だ、こんな形にする必要はない。 夢なのだろう。
ふと思う。 これが夢だとしたら、自分は何処へ向かっているのだろうか。 「危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし、踏み出せばその一足が道となる」 それはつまりあれか。 その続きとなる言葉を声と重ねる。 「迷わず行けよ、行けばわかるさ」 何処へ続いているのかなんて解らないけれど、そんなものは行って見なければ解らないではないか。 それに、どうせ夢なのだ、別に死ぬわけじゃない。 行くだけ行ってみればいい。 例え後悔したとしても、その頃には目を覚まし、きっと全てを忘れているだろう。 ならばと、俺は足を進める。 行けば解るさ、行かねば解らぬ。
橋……なのだから、下は恐らく河であろう。 恐らく、と付けたのは、何せ橋桁を見下ろしても、深い霧がかかっていて様子が解らないのだ。 ポケモンの技、霧払いがあれば良いのだが、所詮はゲームの話である。 実際にポケモンが存在したら襲われそうで怖いので下を確かめるのを諦めると、今度は上を見上げてみる。 せっかくの夢なのだから、綺麗に晴れてくれれば気分も良いものを、何故か灰色の曇天が覆っていた。 夢なら思い通りになるんじゃないかと思って念じてみる。 特性日照り、日本晴れ。 だが空は相変わらずの曇り空。 融通の利かない夢だと愚痴りながら、諦めて進む。
また少し進むと、何処からか泣き声が聞こえてきた。 声からすると女の子であろうか。 霧は橋の上まで昇ってきており、視界は悪い。 そんな中で泣き声だ。 はっきり言って気味が悪い。 そう言えば、さっきのあの人似の声は誰のものだったのか。 周りには人は居なかったと思うが、夢に現実性を求めても仕方がない。 きっと天の声的なものだったのだと決め付け、先に進む。 だが、天の声にしては可笑しい。 泣き声は近付いてきているように思えた。 いや、確かに近付いてきている。 霧の中で反響して聞こえる泣き声に混じり聞こえる足音。 それは俺のすぐ後ろから聞こえるものだった。 ぺたり……ぺたり……一歩ずつ確実に迫ってきている。 背筋が凍り付くようだった。 やがて、足音が止まった。 俺の真後ろで。 振り向いて正体を確認するべきなのか。 それとも全力で逃げるべきではないのだろうか。 だが、俺はそのどちらもしない。 いや、出来なかった。 恐怖に凍り付いた身体は俺の意志など受け付けようとしない。 俺の身体はもはや指一本どころか呼吸さえもままならなくなっていた。 迫り来るソレに襲われて死ぬのが先か、窒息して死ぬのが先か。 これは夢だ。 自分に言い聞かせる。 だが、これは本当に夢なのだろうかと言う疑問が沸いてくる。 胡蝶の夢。 普段の生活こそが実は夢で、今この世界こそが現実なのではないか? 息苦しい。 脳に酸素が足りない。 頭の中が真っ白になっていく。
そんな時に誰かの声を聞いた。
『―――――い』
「え?」 「おなかいたい」 女の子が俺のシャツの裾を引く。 小学生低学年……くらいの女の子だ。 ようやく身体が動く事に気付き、大きく息を吸う。 まるで空気を貪るように呼吸を荒げる。 そうすると少しだけ頭がすっきりした。 なんとか落ち着きも取り戻し尋ねる。 「……君は?」 「お腹痛い」 だが女の子は片手でお腹を押さえたまま俺のシャツを引っ張る。 「ぶつけたの?」 俺が聞くと女の子は首を横に振る。 「もっと……中の方?」 そして不安そうに答えた。 中と言う事は、外傷などではなく病気のようなものから来る腹痛だろうか。 病気から来る腹痛であれば、ここが痛いとはっきり認識しにくいであろうし、不安にもなるであろう。 「参ったな……」 こんな橋の上に医者などいるはずもない。 戻るにも進むにも霧でどれだけの距離があるのか解らない。 途方に暮れていると、どこからか一人の老人が姿を現した。 初老の髭を蓄えた老人。 なぜかジェントル的な燕尾服に身を包み、手には魔法少女的なステッキである。 どうした俺!? これが夢だとしたら、このジェントル魔女っ娘ステッキおじいさんは俺の想像から生まれたことになるのだろうか、やっぱり。 いや、それよりも何処かで見たことがあるような…… 「どうしましたかな?」 老人が尋ねる。 「このがお腹が痛いんだそうです、病院はありますか?」 「いいえ、この先に病院なんてありませんよ」 老人はそう答えると、女の子の前に屈み込む。 「病院へ行くならこの橋を戻った方が早いでしょう」 老人は女の子の様子を伺いながら言った。 「ありがとうございます」 老人に礼を言い、女の子の手を取る。 「歩ける?」 辛そうにする女の子は首を横に振り、そのまま地面にしゃがみ込んでしまった。 「歩けないのなら背負って行くか……」 だが、この長い橋を女の子を背負って走れるだろうか。 夢だから当然なのだが、時間の感覚はなく、どれだけ橋を歩いてきたのかは想像もつかない。 「ふむ、この子はわしが看よう、おまえさんは病院へ急ぐと良い」 俺が女の子を背負って走るよりは一人で行って救急車を呼んだ方が確かに速いであろう。 女の子は老人が看ていてくれると言うなら、それに甘えよう。 「すぐ救急車を呼んできます」 俺は答え、女の子の手を離すと駆け出した。
思えばおかしな夢だった。 たかが夢なのかもしれない。 でも、俺はこれを夢とは思っていない。
目を覚ました時、なぜか母が泣いていた。 自分は知らないベッドに寝かせられ、目の前には晧々と輝くライトがある。 ドラマとかで見るようなやつだ。 手術室の中にあるようなライト。 慌ただしく右往左往する医者達に、そこが病院であることを知る。 あぁ、そうだ。 そして思い出した。
俺は車に撥ねられたのだ。 目の前の女の子が赤信号で道路へ飛び出した。 そして思わず飛び出し…… そして一命を取り留めた。 一度は呼吸すら止まり、絶望的な状態であったらしい。 「逝くな、戻ってこい」 医師のその言葉に引き戻されるように呼吸を取り戻し、安定へ向かった。 あの女の子はどうなったのかと尋ねると、看護師は顔を伏せた。 事故の衝撃で内臓をやられ、病院に搬送されるもまもなく死亡。 結局、助けられなかったのだ。 お腹が痛いと訴えた女の子を思い出す。 あの橋は、きっと三途の川に掛かる橋だったのかもしれない。 助けるチャンスはまだあった。 俺はあの時、女の子を引き摺ってでも連れてくるべきだったのだ。 確かに夢だったのかもしれない。 俺が何をしたところで、現実は変わらなかったのかもしれない。 誰かに話したら笑い飛ばされるような話だ。 だけど、俺は、あれが女の子を助ける最後のチャンスだったのだと思っている。 まだ助けることができたのだと後悔している。
最後に付け足す。 俺の祖父なのだが、祖父も俺がまだ小さい頃に交通事故で亡くなっている。 俺への誕生日プレゼントに、当時流行っていたアニメの玩具を買いに行った帰りに。 その為、祖父の記憶はあまりない。 退院してから思い出したのだが、劇団員だった頃の写真に写っていた祖父は、多分それが衣装だったのだろう、燕尾服を着ていた。 それから、祖父が最後に買ってくれた玩具のステッキは、まだ押し入れの奥にしまってある。
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2000字に収まらなかった、とだけ。
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