Re: 2010年秋企画【投稿期間10/16〜11/6】 ( No.17 )
日時: 2010/11/05 03:31
名前: 曼珠沙華 ID:

題名【雨は嫌い】
部門【A】
テーマ【雨】

 雨が切り裂くように冷たく僕を襲っている。
 丈の長い草がざわりと、雨と風に揺れて小擦れ合う不気味な音を聞きながら、何故僕は此処に居るんだろうと濁った頭で考える。
 考えるまでも無いのだけれど。
 僕は僕を連れていた人間に捨てられた。実に無造作に。
 理解出来ずに後を付いて行こうとした僕だったけれど、それは叶わなかった。振り返り僕を見て鳴った舌打ちと共に彼女の掴んだ珠から閃光。
 眩んだ視力の回復した僕の眼前には夕日色の毛皮を纏った四足の獣。頭と顎下にはもこもことした飾り毛が靡いている。
 人間達に『ガーディ』と呼ばれる、僕と同じ種の仔が唸り牙を剥き僕を見据えていた。眼光鋭く睨みつけ、今の空を染める夕日の色をした毛を逆立てた前傾姿勢。
 訳も分からず、彼女へと視線を向ける。その時はまだ、捨てられた等とは考えもしなかった。何故優しかったあの娘が僕をあんな冷たい眼で見下ろしているのか理解出来なかった。
 でも――
「ああ、うざったい。アンタより強いの手に入ったからもうアンタは要らないの。わかった?」
 ――そう鋭利な声で言い放たれれば、どんな奴だって自分がもう好かれていない事を理解すると思う。
 それでも、もう一度僕にあの優しい笑顔を向けてくれるんじゃないかとありえない思いが膨れ、結果一歩踏み出した。
「だから、付いてくるなって言ってんの! ガーディ、インファイト!」
 彼女はそう叫んだ。
 『ガーディ』。僕もそう呼ばれていた。そして彼女が叫んだのは『わざ』って呼ばれるアレだろう。でも『インファイト』なんて僕は知らない。
 だからそれは僕でなく目の前の『ガーディ』に言ったのだろう。
 なんて考えていたら眼前にその顔が。
 避けようとするも間に合わない。全身を殴打されて僕は吹き飛んだ。
 弧を描き飛び叢の中に落ちた僕は、彼女の足音が遠ざかるのを聞きながら身動き一つ取れず倒れ伏す。何時の間にか雨まで降ってきた。
 そして今に至る。
 風が吹き荒ぶ。日が暮れるにつれ雨も酷くなってきた。
 全身ずぶ濡れ。追い打ちの如く大粒の雫が『タネマシンガン』のように打ちつける。もっとも、あれはこの雨よりも辛くないが。
 身体は尻尾を動かすことすら儘ならない。だのに意思とは関係なく小刻みな震えが止まらない。
 寒さが痛さにすり替わる。視界が黒く染まり意識が白く濁る。
 ざあざあと止まない雨。次第に痛さすら感じなくなってきた。
 そして、日向に寝転がって微睡むような幸福感が全身に広がってくる。
 ざあざあ、びうびう、荒ぶ雨音さえも心地良い。
 眠りに落ちるように意識がすう、と落ちていく。
 嗚呼、これが死か。
 混濁した意識の中でそう理解し、思い出したように瞼を閉じる。
「わ、ちょっと! 大丈夫?!」
 完全に意識が暗闇の底に落ち切る刹那前に甲高い声と共に僕の身体が持ち上げられたのを感じ、僕は気を失った。


「チロ! フレアドライブ!」
 ギラつく直射日光。陽炎の揺れる熱世界に僕は居る。四肢に力を込めた前傾姿勢で牙を剥いて。
 彼女の指示。それが聞こえ、理解した刹那に僕は劫火を纏って猛進する。
 視界の先には紅い外殻を有した二足の虫。
「ハッサム、シザークロスで迎え討て!」
 『ハッサム』と呼ばれたその虫に少年が指示を飛ばすのが聞こえる。
 言下、そいつは両の鋏を交差させ重心低く僕を真っ直ぐ見据えてくる。
 肉薄。
 受身を考えない僕の捨て身の一撃と交差した斬撃が衝突する。
 結果は――
「く、戻れハッサムッ」
 ――僕の勝利。炎を纏いながら地面を滑る『ハッサム』が少年の持つ球体に戻っていく。
「やったねチロ! これであっちも残りは一体よ!」
 僕の後方で嬉しそうにそう言ってくる少女。そちらに振り向き短く啼いて応える。
 僕は彼女に救われた。風雨の中で僕を見つけた彼女は僕を抱えて走ってくれたらしい。
 僕が気を失う前に聞いたあの声と感覚は彼女のものだったようだ。
 そして彼女と共に行くことを僕は選んだ。彼女は良く接してくれた。他の『ポケモン』達も親切だった。
 知らなかった『わざ』も知った。あの恐ろしい雨を打ち消す『にほんばれ』というそれがそうだ。
 身体も大きく『ウインディ』と呼ばれる姿になった。
 彼女のおかげで僕は強くなった。もう雨は怖くない。
「行けニョロトノ」
 少年が出してきたのは黄緑の蛙。
 戦闘開始。
「よしッ! チロ、ソーラービーム!」
 指示の下、太陽光を力に変える。燦々と降るそれによって通常よりも早く攻撃に移れる。
 はずだった。
 しかし一向に溜まらない。
 気がつけば黒雲が空を覆っている。
「ハイドロポンプ」
 一転、猛烈な雨が降り注ぐ中少年の指示が響く。
 雨水が蛙の口元に集まっていく。
 次瞬、極太の水流が放たれた。
 迎撃は無理。躱そうと脚に力を込める。
 しかし濡れた地面に脚を取られた。
 直撃。
 衝撃に意識が押し流される。

 嗚呼、雨なんて大嫌いだ!!

@@@@@@@@@@

2000文字ぴったりです。
描写削りまくりで死にたくなりました><