Re: 2010年秋企画【投稿期間10/16〜11/6】 ( No.14 ) |
- 日時: 2010/11/03 22:11
- 名前: くるりくら ID:
- 部門:【C】
テーマ:【橋】
『名もなき者へ』
−Stage−
客席から喝采がまるで滝あるいは地鳴りのように劇場全体に響き渡った。ガコンとスポットライトが一斉に舞台の上を照らす。いくつもの光の線が集結し、真昼の屋外のようだ。いよいよこの演劇の最後の場がその幕を開いた。舞台はこのイッシュの土地のどこかの平原を表しており、草を表す舞台道具がそこかしこに置かれ、中央には一本の木が配置されていた。背景には青々とした山と澄み渡った青空のようすが非常に写実的な絵で表されている。 そして舞台中央の樹木には一人の役者の姿が。彼女の役はこの演劇で非常に重要な役となる一体のポケモン。ただしそのポケモンの性別は正確には分かっていない、というよりも伝えられているところでは性別を持たない。この舞台では女性役者が役を当てているが、ほかの舞台によっては男性役者が当たることもある。しかし多くの場合は女性が役を当てているし、この戯曲を書いた人物も女性的なものを想定しているらしかった。 一陣の風を表すサウンドエフェクトが鳴り響き、それを合図にしてポケモン役の女性は一歩、二歩と客席側へと歩み寄る。そして両腕を広げるとまるで呪文を唱えるような恭しさを以て、語り始めた。 「聞け。これより語るは我の最後の物語。我の最後の告白。我が我であった最後の時。我が心はこれより大海の藻屑が如く消え、誰にも語られぬ忘却の彼方へと沈みゆく」 すると舞台の上手(かみて)と下手(しもて)双方から一人ずつまた別の役者が現れる。一人は聖職者を思わせるような何の装飾もない白のドレスを纏い白い羽毛の髪留めを着けた女性役者で、もう一人は魔術師を思わせるような漆黒のローブを纏い黒い羽毛の髪飾りを着けた男性役者。この二人はこの演劇における狂言回しの役でいつも舞台中央に立っているポケモン役について回り、ある意味でこのポケモンの心情を代弁する役も担っていた。 「あぁ……、ここはどこなの? そして今はいつなの?」 白の聖職者がポケモン役の前を通り過ぎて高らかに叫ぶ。 「ならば聞こうじゃないか。どこがいい? 今はいつがいい?」 それに対して黒の魔術師はポケモン役の後ろを通り過ぎて同じように高らかに叫んだ。 「わたしが安らげる場所ならどこでもいいわ。わたしが落ち着ける時ならいつでもいいわ」 「なぜなら」 「わたしたちには」 聖職者と魔術師はそれぞれ輪舞曲でも舞うかのように舞台の上でくるくると飛んだり跳ねたりして、やがて二人ともポケモン役のそれぞれ左右を配置に客席側を向いて立つと、右に立つ聖職者は左腕を掲げ右腕を下げ、左に立つ魔術師は右腕を掲げ左腕を下げ、中央にいるポケモン役を引き立てるようなポーズをとった。その様子は見方を変えればポケモン役をからかっているようにも見えた。そして二人は同じセリフを同時に叫んだ。 「安らぎさえ得られれば時も場所も関係ないのだから!」 その台詞とともに再び客席から割れんばかりの喝采が湧く。ここで喝采を浴びせることが、この劇における観客に課せられた伝統的な一つの役であるかのように。だからつられて僕もまた手をぱんぱんと叩いた。 「そう、我にとっては安らぎさえ得られれば場所や時などとてもとても些細なこと。迫りくる運命から逃れるに足る場所であるならば……」 ポケモン役は二人の狂言回しとは対照的に淡白な表情を浮かべ、淡々とした口調で語る。 「だけどその運命は世界をも変えるわ」 「そしてその宿命は歴史をも動かすね」 「されど、それ受け入れるのはとてもとても辛きこと。なぜに我はこのような運命に身を投じられなければならなかったのか」 「それはどうしてかしら? ポケモンはいつだって一つの道を進むだけなのに?」 「ならばその運命を変えるのは一つしかあり得ない。それは人間の都合さ!」 「そう……。我が主たる人間は二人にして一つであらねばならぬのものを、それを自ら引き裂かん。して、我が力にては二つに分かれしものをもとの一つに戻すにはあまりに無力なり。そして迫りくる選択の時を逃れ、この地につかの間の安らぎを求めん」 ポケモン役がそこまで語り終えると、それまでからかうようにくるくると動いていた聖職者と魔術師がまるでスイッチを切られたかのように静かになる。そしてポケモン役と同じ淡白で神妙な顔つきを見せると何も言わずそれぞれ上手と下手へ身を退いた。二人の役者が姿を隠したのを合図にして再び風のサウンドエフェクト。そして静かなヴァイオリンソロによるレチタティーヴォ風のBGMが流れ始める。そしてポケモン役に降り注ぐスポットライト一つを残して舞台が突然暗転した。そしてガタンという音とともにもう一本のスポットライトがポケモン役とは別の場所に光を注いだ。その場所にはいつの間にか一人の男性が立っていた。 「それは春だったか。あるいは秋だったか。寒さも暑さも感じられず、生命にとってげに心地よき季節での出来事。暖かなる陽光と爽やかなるそよ風は我を優しく慰む……」
−Real−
近くを流れる川で私はその水を口にした。川底の青々とした様子がなんの濁りもなく映し出す水はその期待を裏切らず清涼にしてなんの滞りもなく喉を潤す。空は蒼く澄み渡りふわりふわりとモンメンやメリープを連想させる綿雲がいくつも漂っていた。遠くに連なる山々はまるで一つの巨大な生き物が横になっているかのようにどっしりと据わり、そこから延長的に広大な草原が広がっていた。やがて私は一本の背の高い樫の木を見つけるとその木陰で荷物を降ろして横になった。 随分と遠くまで来たものだ。この旅を始めてどのくらい経ったろうか。一年はゆうに越しているかもしれない。さまざまな国や地方をその目に映してきた。それぞれに国柄や文化も違う。どこが良いとかどこが悪いとか関係なく、どこも何かしらの良さと悪さを兼ね備えている。そういったものが文化、文明と呼べるものなのかもしれない。 ふうっとひとつ大きなため息をつき、両腕を大きく上げて凝り固まった筋を伸ばした。そのとき自分でも意識しないうちに「うーん」と奇妙な声が漏れる。私はその声の調子の可笑しさに思わず自分で笑ってしまう。だってここには自分以外の誰もいない。誰の目にも触れない。誰の手も届かない場所だと思い込んでいたから。 ――そこにいるのは誰か? だからその声――それは声が聞こえてきたというよりも、私の頭にあるいは心に直接語りかけてくるような感覚だった――が突如どこからか響いたとき私はまるで黒甜郷裏から無理矢理現実世界に引き戻されたかのように夢見心地な気分が一気に吹き飛んだ。私は思わず立ち上がりあたりをキョロキョロと見回す。そして気づいた。すぐそばの背の高い草むらの陰に一体のポケモンが横になっていることに。ポケモンがその体をむくりと起こしたとき、思わず卒倒しそうになった。横になっていたから気づかなかったがその大きさは私の倍以上の高さを遥かに越し、まるでひとつの建物が生えてきたようだったから。 ――人間か……。怯えずとも良い。取って食おうとは考えてはいない。 それでも私は無意識のうちにあわわと滑稽な声を漏らして唇をコイキングのようにパクパクと動かすのを禁じ得なかった。 するとポケモンは自分がこんな相手よりずっと上の視線から話しかけるから相手が怯えてしまっていることに気付いたのか、一歩二歩と身を退いて樫の木の幹のそばにどっしりと座りこんだ。そして再び私の方に注いだ視線は、なんの敵意も企みも感じられなかった。 そうしてようやく私はほっと胸をなでおろすと、すぅっと肩の力が抜ける。同時に今になって先ほど私の心に直接語りかけてきた声にはまるでそよ風にも似た穏やかさが含まれていることに気付くのだった。 それにしても私の前に腰を据えているこのポケモンのなんと威厳のあることだろうか。今まで私はこんなポケモンを目にするのは初めてだった。全身から溢れ出でる風格はまるで王者のそれを思わせる。なんの証拠も根拠もないが私はそのとき、きっとこのポケモンはこの地方の伝説と呼ばれるポケモンだろうということを確信した。だからというか……私はこのポケモンが私にわかる言葉で直接心に語りかけてくることに何の疑問も抱かなかった。 しかし直後に沈黙が流れたので私は何かしらこのポケモンに話しかけなければという焦燥にかられた。そんな狼狽の中だからだったのか、次に私が口にした言葉はこの王者のようなポケモンに対してあまりに頓着の無い言葉であった。 「君は、やっぱりポケモンなのかい?」 我ながらこの質問は無いなと心中で苦笑する。 ――ならばどうする。我を捕えるか、人間よ? 「いや、そんなことは考えてないけど。だいたい君とは戦っても勝ち目なさそうだし」 どうしたことか、王者の風格を湛えたポケモンを前にしているというのに、私の口から出てくる言葉の調子はまるで友人の前にしたときのそれのように不作法だ。緊張のあまりこんな口調になってしまっているの自分で自分のことが知れない。するとポケモンはそんな私の様子をきょとんとした目で見つめると、心なしか笑ったように見えた。 ――フッ……。おかしな人間であるな。時が来るまで誰にも会わぬと思っていたが、これもまた我に課せられた宿命の一つであるか……。よかろう人間よ、しばし我の話し相手となれ。 「はぁ……」 なんだか勝手に話を進められているような気がするが、どうせ旅の途中での休息であるし、暇をつぶす話し相手もいないので私はポケモンの頼みというか命令を飲むことにした。
−Stage−
「この人間に会ったことはただの偶然か、それとも運命の一端かは知れぬ」 「そうよ! これは天からの賜りもの」 「いやいや、きっと悪魔のいたづらさ」 「されど、我には関係なきこと。我の望むものは我が心の苛みをただ少しでも和らげるに足るもの。それさえ叶えば賜りものでもいたづらでも……」 ポケモン役は自身の心の内を言葉で表す。スポットライトを浴びているのはポケモン役だけで周りは全て暗転している。それによってポケモンの心の中の動きを描写しているのだ。やがて再び舞台に光が注がれ、ポケモン役の少し離れたところに旅人役の姿が現れる。その瞬間今までモノローグを表現していたポケモン役の神妙な顔つきにパッと色が宿った。僕は役者のその演技に思わず感嘆する。表情の変化だけでこれほどに場の変わり様を表現できるとは、やはりプロの役者は違うものだ。 僕は今回のこの演劇のパンフレットをなるべく音をたてないようにそっとめくった。この舞台劇が初演されたのは今から数年前。最初は小さな劇場などで細々と演じられていたものが、この地方のとある有名な演出家の目に留まったことをきっかけに有名な演劇団体が演じることとなった。そして今僕がいる劇場はイッシュ地方の最大のホール、ライモンミュージカルホール。 このミュージカルホールでこの舞台が演じられるという話が持ち上がった時、一部で上演を反発までには至らないまでも乗り気ではない意見が多かったという。ここはポケモンミュージカルのホールなのだから、人間の演劇が上演されることに抵抗があったのだ。しかし「もともとライモンミュージカルホールは本来人間が演じていたものが、ポケモンが乱入したことによってポケモンミュージカルのホールとして定着したのだから、人が演じることになんの不思議があろうか」という館長の鶴の一声によって上演が決まったという。 そのとき僕の持っている六つのモンスターボールのうちの一つがカタカタと揺れるのを感じた。 なんだ、やっぱり君も興味があるのか……。
−Real−
――そうか、おぬしは旅人であるか。どおりでこの土地の人間にしては少し違う何かを感じたことであるか。 ポケモンは喉の奥からグルグルと鋭い音を立てた。私にはこのポケモンの表情がいまいち分からないのだが、きっと笑っているのだろうということは分かった。今しがた私はこのポケモンに自分の故郷はここからはるか遠方、海を越えた土地にあることを話した。そしてその土地ではボングリという木の実を少し加工したものの中にポケモンが入り、そして現に今私はその、ポケモンが入ったボングリという木の実を持ち歩き、現物を見せるとポケモンは大いに驚いた様子を見せた。言ってしまってはなんだが、それはまるでタネの分からない手品を目にした子供のようにきょとんとして、このポケモンの持つ堂々たる風格との落差に私は思わず吹き出しそうになってしまう。 「この地方では、この手の道具はないのかい?」 いつの間にか私はこのまるで友人に話しかけるような口調のまま定着してしまっていた。 ――この国はもっと厳ついものが使われている。 厳ついもの。確かにそうだった。この地方を訪れて早一か月ほどが経つが、ポケモンを連れている者は石のように固いもので出来た入れ物の中にポケモンを入れていた。木の実で出来た入れ物と石でできた入れ物。どちらがポケモンにとって良いのか人間である私にはわからない。ポケモンは自身の体力が弱ってしまうと小さな球ほどまで小さくなり自らを守る本能を持ち合わせている。その本能を利用したものがいわゆる“ボール”と呼ばれるものだ。 ――なるほど、住む土地も変われば使われる道具もまた異なるか そのときふわりと風がなびき、草原の草草がまるで一つの生き物のように波立ち揺らめいた。
−Stage−
さらにポケモンは旅人に対して問いを次々と投げかける。そして旅人の方は一つ一つ自分なりの答えを出していった。ある問いには即答し、またある問いにはしばしの考える時間を要することもあった。その光景はまるでどこかの昔話――ある怪物が通りがかった旅人に問いを投げかけ、それに答えられなかったら喰らうという昔話――のようだなと僕は思った。 はじめこそ、ポケモンは旅人の一つ一つの答えに満足しているかのようにその口元に笑みを浮かべていた。しかし次第に影が差す。まるで真っ青な晴天の空に少しずつ雲が現れ始め、やがて空全体を覆って曇り空へと変えてしまうかのように。そのときガシャンと再び舞台の明かりが消え、ポケモン、聖職者、魔術師を照らすスポットライトのみとなる。 「旅人の語る話は我の心にまるで泉から湧き出でる清水の如き新鮮さを与えた」 「胸を躍らせたわ! 外の世界に」 「そして絶望したね。自分は井の中の蛙なんだって」 ポケモンの役が一言一言語るたびに白の聖職者と黒の魔術師は、補足するようにあるいは茶化すようにくるくると回る。 「嗚呼、こうしている間にも時は迫る。時の残されておらぬ我は旅人に最も訊いてみたいことがあった」 「それを訊いてみるの?」 「我の最後の余興だ」 「期待外れの答えだったら?」 「期待などせぬ。ただ問うだけだ」 ガタン。再び舞台が暗転から覚めた。 そしてポケモンは一歩、二歩と旅人へと歩みを進めると、ついにまるでありとあらゆる感情が混じり合った末に何もなくなったかのような無表情で問いを投げかけた。
−Real−
――そなたの前に二つ道がある。これよりそのどちらかを選ばねばならない。引き返したりどちらか一方を選んだ後、舞い戻ってもう一つの道を選ぶことももちろんできない。そして選んだ先にあるものは何もわからぬ、何も見当がつかぬ。さあ、そなたはこの場合どうする? 心なしか、周りの空気がすうっと冷え込んだように感じられる。そのくらいその問いを投げかけたポケモンはこれまでと雰囲気が違っていた。私はそのまるで迫りかかってくるような空気の勢いに気圧され、思わずたじろいだ。いや、実際たじろいでしまうような衝撃のようなものすら感じた。 ポケモンの二つの目はじっと少しも逸らされず、私のすべてに注がれているようだ。私は直感した。この問いはこのポケモンが本当に私に問いたいことなのだと。今までの問いはこの問いのための序奏だったに過ぎない。二つの目の視線がやけに痛い。 ――そう深く考えるな。そなたの率直な答えが聴きたいだけだ どう答えるべきか迷い頭をうんうんひねっている私にポケモンは助け舟を出してくれる。 どれくらいの時間、私は思考の海を泳いだかわからない。二つに分かれた道、そのどちらかを選ばねばならない、先送りも再選択も許されぬ、選択によって未来がどうなるかもわからぬ、どうしてこのポケモンはこのような問いを私に投げかけたのか。今は考えるべきではないと分かっているにもかかわらず、まるで勝負における攻守の立場をひっくり返すかのように、私はポケモンの意図を考えた。なぜにこのポケモンはこれほどまでに真摯な態度でこの問いの答えを望むのか。 実はすでに私は問いへの私なりの回答はすでに用意はできていた。ただ、私は知りたかったのだ。このポケモンが今どのような運命にあるのか……。
−Stage−
「我が心は誰にも理解されぬ」 ポケモンは舞台上で呟く。 「だけど、巡り会えたじゃない? 最後にこの旅人に会えたという奇跡に」 その言葉は聖職者。 「運命には逆らえぬというのなら、我は運命にすべてを託そう」 「君はそれでいいのかい?」 その言葉は魔術師。 「はい。どうせ抗ったって……いつだって運命は私に非情だったんですから……」 ぽつりとつぶやき、ポケモンはその目元を一粒の涙で光らせた。 その台詞も、その声の響きも、今までのそのポケモンが持っていた雰囲気とあまりにかけ離れたものだった。僕は無意識のうちに両こぶしを固く握りしめた。カタカタとまた音がする。さきほどのモンスターボールを僕は膝の上に移していた。それに気づくと僕はボールをやさしく撫でる。まるで泣いている子供をあやすように。 −Real−
あたりはシンと静まり返っていた。今やそよ風で草花がざわめく音も、近くの小川がサラサラと流れる音も、そして自分の呼吸の音さえ耳に入ってこなかった。ポケモンは相変わらず私にじっと視線を注いでいる。そろそろその視線によって私の体に風穴が開きそうだ。 地上をあまねく照らす太陽はそろそろ傾き始めている。真っ青に晴れ渡っていた空にほんの少しずつ紅色が混ざりはじめていた。私は少しの間瞑想するように目をつむる。何かが聞こえてくるような気がする。それは周りの自然による音ではない。何かの声。あるいは叫び声か。そんなものただの錯覚だと言われたらそれまでだ。だけど、私は確かに聴いた。耳にした。このポケモンの叫び声を。 最初に会った時から何かおかしかった。このポケモンは私に何かを言わんとしているのではないか。そんな気がした。どうしてこのように気高き、また人と言葉を交わせる稀有な力を持ったポケモンがこんなところにいるのか、ずっと疑問だった。私に何かを望んでいるのなら、できることならそれを叶えたい。このポケモンのため? いや、それはむしろ私自身のためだった。 「……、ごめん。分からないよ」 その声を発した私のなんと弱弱しいことか。思わず私はポケモンから目をそらしてしまう。だけどポケモンは何も言わない。じっと私の言葉に耳を傾けている。 「こんな選択を突き付けられても、正直どうすればいいのかわからない。結果の予想すらできない選択なんて、ただの無理強いだ」 そこまできて、ようやくポケモンに動きがあった。きっと私の答えはポケモンが最も期待していなかったものだったろう。最も失望に値するものだったろう。ポケモンは何も言わず私に背を向けようとした。だから思わず私は続けた。 「こんなの、酷すぎるよね。君にそれと同じような、いやもっと大変な選択が課せられているなんて」 ピクリとポケモンの動きが止まった。 「分かったんだよ。君が今どんな運命を強いられているのか。僕なんかがこんなこと言っても何の慰めにもならないだろうけど……、辛かったんだね」 ――ほう……。そなたのような人間如きが、我の心を理解すると言うか? そんなこと尋ねられたら自信が無くなっちゃうじゃないか。心中でぼやきながらも、私はゆっくりと頷いた。 ポケモンは私の方に向き直り、再びその視線を注ぎ始めた。だから私もそれに応える。私もまた自らの視線をポケモンの二つの眼へと身動ぎもせずにじっと向けた。お互いに交わされる視線の直線はまさしく橋。私と相手とを繋ぐ橋のようだった。
−Stage−
「これは我の最後の物語。最後の告白。我が我であった最後の時なり。我、この最後の時にて一つの奇跡に出会わん」 生命は何のためにこの世に生まれ出るのか。生命は与えられた時間のうちにいくつの“他”と出会うのか。生命がその生涯のうちに最も叶えたいことはなんなのか。 このとき、少なくともこのポケモンの願いはここに達成された。 自らの心を最も理解してほしかった人間に理解されず、己と何の縁もなき人間に理解される。これを非情と呼ぶか奇跡と呼ぶか、その心はその者にしかわからない。だけど僕は信じたかった。自らの心を理解されるというのが生における最大の喜びだというのなら、このポケモンは今ここにそれを達成された。 どれだけ葛藤したことだったろう。それこそ自らの魂が塵々粉々になってしまうほどの苦悶だっただろう。自らの主である双子の争い。そのポケモンは決断を迫られた。どちらを選ぶか。目の前に提示された二つの道。ポケモンは……できることならどちらも選びたくなかっただろう。どちらが正しく、どちらが間違っているなんてことは関係ない。ただ、一つだったものが二つに分かれてしまった。ポケモンは自分の選択によってどちらかが不幸になることを望んではいなかった。 力をもっている自分の身が恨めしい。なんと無慈悲な運命であったことだろう。力さえ持たなければ、自分がこのような運命の袋小路に陥ることはなかった。 二つに分かれてしまった道、ポケモンが選択したのはどちらも選ぶことであり、どちらも選ばないことであった。
−Real−
このまま世界の終わりの時を迎えるのではないかというほど、私たちはお互い無言のままただ見つめあっていた。それこそこの大地の始まりから今に至るまでに値する時間かもしれない、それとも木に生っている木の実が枝より切れて地面に落ちるほどの短い間だったかもしれない。 そんな中先に沈黙を破ったのは、ポケモンの方だった。 ――分からない……か。そうだな、我もどうすればいいのか分からぬ。これから我がやろうとしていることが果たして正しいことなのかも分からぬ。 心ある者は、世界に数多と散らばっている謎にどれだけ正しい答えを出せるのだろう? すべての謎にすべての正しい答えを出せる存在がいるとしたら、それはまさしく神と呼ぶに値し差支えない。だが、人間もポケモンも神ではない。どんなに気高き存在も、どんなに悟りを得た存在も、生涯のうちに悩みから逃れることはできない。それは伝説と呼ばれるポケモンでさえ、その宿命から漏れることはないのだ。 物語における伝説の存在は、しばしば気高く、すべてを達観し、小さき者たちを導いていく存在のように描かれる。だが、そんな伝説たちも小さき者たちと同じように悩み苦しみ、葛藤する。そしてそのような苦しみの中にいる彼らはいったい誰が救えばいいのか。 ――名も知らぬ旅人よ。そなたが我の生を笑うことができないように、我もまたそなたの生を笑うことはできない。悩みの深さ、生の儚さは人間もポケモンも大差ない。それを理解できる者こそ橋になれるだろう。バラバラに別れてしまっている私たちのような存在同士を繋ぐ橋にな。 ポケモンはいったんそこで言葉を切った。私は思わず何事かを口にしようとしたが、ポケモンの方がまだ何かを言おうとしていたので思わずその口をつぐんだ。 ――我は、我がすべきことをするべきことを、これより行う。旅人よ、そなたに見届けてほしい。我の最期を…… そのとき、あたりがポケモンを中心としてカッと光に包まれた。
−Stage−
ポケモン役の姿は舞台の中空にあった。己の姿を照らし出すスポットライト一本を残して暗転し、何の物音もなく、あたかもポケモンを残して世界中のすべてが消えてしまったかのよう。その目には何も映らず、何も映さず、ただただ全てを諦観したかのように虚ろ。後ろから少し体を押したら倒れてしまうのではないかと思えるほどに、なんの気力も感じられない。 「……これで、我が物語は終わる。我が告白は終わる。我が我であったときは終わる」 すると、ぼんやりと暗転していた世界に光が差し込んだ。いつの間にか、舞台上は全ての舞台道具が無くなっていた。草も樫の木もそして背景も何も残されていない。まるで最初から何もなかったかのように。白の聖職者、黒の魔術師も姿を消したままもう現れる気配すら見せない。この場にいるのはポケモンと、そして旅人だけ。旅人はキュレムの足元で仰向けに倒れていた。 ポケモンはゆっくりと地上に降り立つと、倒れている旅人の頬をそっとなでる。それが合図だったのか、何もかもの色も失っていた劇場の空気にまるで天上の世界の歌声が響いた。パイプオルガン独奏による音楽。それはまるで慟哭。それはまるで歓喜。それはまるで願い。さまざまな感情がぶつかり合って混ざり合って、その結果すべてがゼロになったかのような響きだった。そして舞台上部からなにか白い雪のようなものが降りはじめる。それは舞台照明に絶妙に反射し、まるで宝石のようにきらきらと輝き、殺風景な舞台の上を美しく飾った。 「ありがとう。名も知らぬ旅人よ。最期の最後にそなたに我が心を理解してもらえて……良かった……」 そしてポケモンはもういちどありがとうとつぶやいた。 「嗚呼、我が名はキュレム。かつて二人にして一人の英雄のもとに従いたり。されどその英雄それぞれ異なる道選びて、我もまた魂を二つに裂かん。 我ついに運命に抗うこと叶わず。ならば我この運命にすべてを託すものなり」 ポケモンはその名をキュレムと名乗る。かつて双子の英雄のもとに従い、その理想と真実を実現したポケモン。その後、双子の英雄の争いによって二つの存在に分かれたポケモン。 キュレムは観客席全体を見回すように視界を泳がせる。そのとき舞台に設置されているライトが最高の出力をもって舞台上を照らした。それはまるで舞台全体が光り輝いているかのようにまぶしく、僕は思わず目をつむることを禁じ得なかった。 そしてキュレムは自らの最後の口上を述べるため、深く息を吸った。
−Real−
私は夢を見ているのか。 あのポケモンが突然光り輝き始めたのだ。その光に包まれた時、私の目の前は真っ暗になった。まるで世界が私を残してすべて消えてしまったかのように。 私の体はまるで水中を漂う藻のように、ふわりふわりとなんとも言えない感覚に包まれ、うまく手足が動かせなかった。だからそのとき唐突に声が聞こえてきたとき、一種の安心感のようなものが私を覆った。 だが、その声はあのポケモンの最後の語りだった。
−Voice−
お聞きなさい
あなた達に私の魂を二つに分け、譲ります 私が消える代わりに、あなた方があの方達についくのです
あなたたちには、あの方達についていくに相応しい力を与えます あなたには深く真実を見つめ、すべてを優しく包み込む白き炎の力を あなたには固く理想を目指し、あらゆる困難を打ち砕く黒き雷の力を
そして人とポケモンを愛しなさい そして出来る事なら人とポケモンに愛されなさい
私にはもう、一つだけの道を選ぶことが出来ないのです 私の心だけでは向あうことの出来なかった本当の真実を 私の力だけでは叶えることの出来なかった本当の理想を そしてすべてのものが望む本当の幸せな未来を どうかあなたたちは遂げて……
これよりあなた方は私ではなくなります これより私はあなた方ではなくなります あなたは真実を求める白き竜 あなたは理想を求める黒き竜
あなたたちにはすべてをものを破壊する力がある すべてをものを導いていくことの出来る力がある
やがて自分たちの王を見つけ、その未来を実現し すべての生命に祝福を……
あなたたちはこれより別々の道を歩んでいくのです そしておそらくお互い対立することとなるでしょう
それでもあなたたちはそれぞれに自らが認めた英雄のために従い 共に進んでいきなさい
だけどどうか憶えていて 私たちは元は一なる存在だったことを 私たちはともに一つの未来を目指していたことを
ひとつの魂、ひとつの道では答えは見つからないかもしれないけど きっと対立するからこそ見えてくる本当の道が現れてくる あなた方に使命と苦悩を全て押し付けて 私だけが消えてしまうのをどうか許してください
だけど私は、いつか訪れる遠い未来で 真実も、理想も、関係なく、あなたたちが共に幸せになれることを いつまでも願っています
あなたたちに、そしてすべての生命に祝福あれ
あなたたちは私のことを忘れてしまうかもしれないけど 私だけはいつまでもあなたたたちのことを憶えているよ
−Real−
私は走っている。無我夢中で……何物にもわき目を振らずに。いつから走ってるのか。気が付いたら私は走っていた。体がかって動いていたのか、何かの意思で走らされていたのかは判断がつかない。 いつしか私の身は平原を越えて森林へと入る。それでも私は走るペースを絶対に落とさなかった。実際は体の疲労をごまかしきれずに落ちていたかもしれない。しかし感覚としてはずっと私は全力疾走している気でいた。だが、とうとう私は自分の精神もごましきれずにある一つの木にもたれかかって座り込んだ。 そして気づく。私はずっと泣いていたんだと。 ――ありがとう。旅人よ…… あのポケモンの最期の声が頭の中で何度も何度も響き渡る。 いったいあのポケモンはどれほどの苦悩に苛まれていたのだろうか。自分がこれからやろうとしていることへの苦悶はどれほどのものだったろうか。 あのポケモンが言った言葉が私の中で次々と思い出されては消えていく。まるで波間を漂う丸太のように。 ポタリ、ポタリと目尻からまるで滝のように涙があふれ、止まらない。いったいこれは何の涙なのだ。 私はあのポケモンの心を知ってしまった。あのポケモンは私に最期の喜びを見出した。そして私はあのポケモンの願いを受け止められるのだろうか? あのポケモンのために私ができることはなんだろう? あのポケモンは私に何をしてほしかったのだろう? ――最期の最後にそなたに我が心を理解してもらえて……よかった…… 買いかぶらないでほしい。私は君が期待するほどの人間じゃない。私ができることは何もない。私は確かに君の心を知ったかもしれないけど、でもそれ以上に何ができるというんだ。君は消えてしまった。君は己の魂を二つに別てしまった。 私は……私は……
意味のない問答を何度も何度も幾度も幾度も繰り返しながら、私は顔を伏せ涙が止まるのをただただ待ち続けるのだった。
−Stage−
キュレムの姿は舞台中央にあった。旅人役は最後の暗転ののちにその姿を袖へと隠したため、今度こそ舞台上はキュレム役だけとなる。 全ての物語、全ての告白、そして己が己であった全ての時を終えたキュレムは、観客席へと向けて、小さく会釈した。その笑みはキュレム役の少女が自分の初めての大役を終えたことによって少しだけ気が緩んだのか、どこか小恥ずかしそうな感情が含まれていた。しかし僕たち客席から見る者にとってはそれさえも舞台を彩る演出。 劇場全体が雄たけびを上げたかのような割れんばかりの拍手喝采が鳴り渡った。そしてこの演劇のすべてが今終わりを迎えたことを告げるように、緞帳がゆっくりとゆっくりと降り、やがてキュレムの姿もそれのむこうにゆっくりとゆっくりと消えていった。 この演劇におけるキュレムは救われた。自らに課せられた運命を嘆き、それに抗おうとして叶わず、全てをあるがままに託すこととした。そして生まれたレシラムとゼクロム。 だが、本当のキュレムは救われたのか僕にはわからない。ここで語られた出来事が本当のことだったのか、僕に知る術はない。 数年前にカゴメという村の北東にあるジャイアントホール最深部で発見されたポケモンの亡骸。その年はちょうどあのプラズマ団の事件が起きてレシラムとゼクロムが復活した年でもあった。 カゴメタウンの人々はジャイアントホールから怪物が夜な夜な現れ人を喰らうという伝説を信じていた。そして村の人々は夜な夜なジャイアントホールから何かポケモンの嘆き声を耳にしていたという。だが、例の事件以降その声は聞こえなくなったという。まるでもう何も思い残すことが無くなったかのように。
−Real−
「おい、あんた大丈夫か?」 そんな声がして私は瞼を開いた。そして目に映るは木々の間から漏れてくる朝日と、私を怪訝そうに見つめる男の姿。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。こんな森の中で何の装備もせずに一晩の間眠ってしまっていたとは、いくら昨日のことがあったとはいえ無防備が過ぎるなと私は自分をあざ笑う。 よいしょと体を起こす。変な姿勢で眠ってしまっていたせいか体のあちこちが凝り固まってギシギシと痛んだ。 「あんた、平気かい? どっか具合が悪くないかね?」 どうやらこの男性は近くの村の住民なのかもしれない。私は大丈夫だという旨を伝える。それから男からこんなところで寝てるなんて野生のポケモンに襲われたらどうするつもりだったんだと怒られた。すると私は彼の足元に一匹のポケモンがついているのに気付いた。四足歩行で男の膝くらいの高さ、全身をむくむくとした体毛に覆われて、顔を覆ってる毛はまるで人間のひげを思わせて妙に威厳がある。 「その、ハーデリアはあなたのポケモンなんですか?」 「おうよ。こいつがあんたを見つけてくれたんだ」 ハーデリアはしっぽをくるくると振ってまるで自分がやった仕事を誇らしげに思っているようだった。私は目の高さをハーデリアの身長まで落とすとそっと頭をなでまわした。ハーデリアは心なしかニコリと笑うと、ワンと堂々とした色で一声鳴いた。 ――バラバラに別れてしまっている私たちのような存在同士を繋ぐ橋 あのポケモンが言った言葉が思い出される。 私はよっぽどみすぼらしい恰好に見えたのだろう。男は腹が減ってるだろうと、自分の住んでる村まで私を案内することを提案した。特に断る理由もないので私はそれに従うことにする。 そのとき、まるで天啓を受けたかのようにふと思いついた。 「あのすみません」 「なんだい?」 「村に着いたら、なにか書くものを貸していただけないでしょうか?」
−Stage−
ライモンミュージカルホールからぞろぞろと人々が帰っていく。この劇団の熱狂的なファンは関係者用の入口へと周ったりしている。ある人は今回の舞台の感想を言い合い、またある人はあそこの演技良かったね、あの演技はもうちょっとだったねと批評の言葉を述べる。また別の誰かは次のこの劇団の演目に関する期待の声などをあげていた。 僕はそんな人々の波に流されるままに歩き、出口へと向かった。そのときだった。 「おお、君も来ていたのか!」 その声は思秋期を迎えた男性のものだった。そして歳のわりには声には張りが感じられる。僕はふりむくとそこには老人向けのブラウンのスーツに身を包んだ好好爺が立ち、帽子を外して僕に手を振っていた。老人はこのライモンミュージカルの館長である。僕は館長の名前を呼ぶと軽くあいさつをかわし、今日の演劇の招待券を送ってくれたことに礼を言った。 「いやいや、いいんだよ。この舞台は君にだけは、見てほしかったからね」 その言葉の意味を僕は噛みしめる。館長は僕のことを知っている人間の一人だった。“彼ら”が数年前に起こしたあの出来事で僕がなにをしたかを。 そして僕と館長はしばらくの間他愛のない話を交わした。もう一度君のポケモンをミュージカルに出演してもらいたいだの、今日は来てない幼馴染二人はどうしているかなだのと、この人はまだしばらくは長生きしそうなものだ。するとしばらく互いの会話が煮詰まってきた折に、館長はぽつりと呟く。 「キュレムの魂は、救われたのかな……?」 僕ら二人の間に少しだけ沈黙が流れる。しかし僕は館長がこの話題を出すことは分かっていたし、むしろそのために僕に話しかけてきたんだと思っていたので別段驚きもしなかった。僕はベルトに取り付けてあるモンスターボールの一つに手をかざす。どうだい、キュレムの魂は救われたんだと思う? 僕の心の中での問いかけに、モンスターボールはカタカタと揺れる。それが肯定の意思であるか否定の意思であるかはこの場では分からない。 「救われたかどうかはわかりませんが、でもきっと喜んでると思いますよ」 館長は僕の目を見つめてニヤリと笑みをこぼした。そして視線を僕が今手をかざしているモンスターボールへと向ける。それから館長は何事かを思い出すように目をつぶってうんうんと頷くと、まるで安堵したかのような深い響きを持った声を言った。 「そうか。そうだな、君が言うのなら間違いないだろう」 それから僕は館長と別れた。館長はこれ以上こんなところでさぼっていたらスタッフの皆に叱られるよと笑いながら立ち去って行った。 キュレムは待ち続けた。自分の魂を分けた我が子レシラムとゼクロムがともに幸せになれる未来を。誰も訪れない巨大な穴の寒い寒い最深部で。来る日も来る日も……。魂のない体で。たとえ魂が抜けてしまっても体に残っている記憶だけで、ずっとずっと待ち続けた。 そしてついに長い年月の間求め続けたその日がやってきた。レシラムとゼクロムそれぞれが自らの英雄を探しだし、それぞれの未来へと向けて歩み始めた。きっと魂は同じだからキュレムは気づいたのだろう。そしてずっと待ち続けたこの日がようやく訪れたことを見届け……そしてキュレムの体はついに朽ち果てた。
−Real−
私は書いている。あのとき何物にもわき目を振らずに走り続けたのと同じように無我夢中で書いている。昨日起こったこと、出会ったこと、すべて書きとめよう。あのポケモンが私に託してくれた願いを伝えるために。 泊めてくれた家人はいぶかしげな目で私を見ているが私はそんなものには一切気を向けなかった。それどころじゃなかったのかもしれない。すべて書き終わったら謝ることにしよう。 これを書いて、誰かに伝えて……それでどうなるのかはわからない。だけど書かずにはいられなかった。 いつかこれを読む者に伝えたい。あのポケモンが願っていたことを。そして読んだ人に感じてほしい。
−Stage−
モンスターボールがカタカタと揺れた。僕の先ほどのつぶやきに反応してのことだろう。 僕は揺れたモンスターボールを取出し、それを目の前にやる。そしてじっと耳を傾けた。中にいるポケモンが言わんとしていることに。 「……うん、僕もそう思っていたところだよ」 僕はキュレムの二つに分けた魂を受けたポケモンの片割れが入ったボールに向けてにっこりと笑みを投げかけた。 ジャイアントホールに行こう。そして君の……この場合お母さんと呼んでいいのかな? 会いに行こう。 キュレムがあの旅人と出会った場所へ、キュレムが魂を二つに分けレシラムとゼクロムを生み出した場所へ、そしてレシラムとゼクロムが最初に衝突した場所へ…… 僕はカゴメタウンまでいっしょに行こうと片割れの入ったボールを開閉ボタンを押してから勢いよく投げた。 「あっ」 思わず僕は声を上げる。ボールを投げた方向には来るとき雨を降らせていた雨雲がもくもくと浮かんでいる。そこには一本の七色の虹がかかっていた。雲から雲へと繋いでいるように延びる虹はまるで空に架かる……
−Real−
私はこれからのことを考えていた。もし二つの選択肢のうちどれか一つを選ばなければならなかったなら、そして自分が選択することによって未来がどう変わるか全く予想ができないなら、いったいどの選択が正しいのだろう。私はあのときポケモンに対して言ったあんな答えは、きっと一番よくない回答だったろう。 もし、これを誰かが読むことがあれば、考えてほしい。あのポケモンが自らの運命を犠牲にしてまで悩み苦しみ続けた問いの答えを。私も考え続ける。死ぬまで考え続けることもあるかもしれない。答えは出ないかもしれない。 バラバラな存在に分かれてしまった私たちがどうすればまた一つに戻れるか。 せめて私はなりたい。あのポケモンが私に言ってくれたように、魂同士を繋ぐ……
−Stage&Real−
――架け橋……。
〜Fine〜
16,128字 『ジャイアントホールはキュレムが己の魂を二つに分けた場所。そこでレシラムとゼクロムは最初の衝突を起こし、それによって巨大な大穴ができた』 『キュレムはもともとレシラムとゼクロムだったポケモンの抜け殻で魂を持たない』 某所でこれらの考察を目にしたとき、自分の中でこの物語が生まれました。この物語はBW本編のプラズマ団Nによるポケモンリーグ乗っ取り事件が起こった後、主人公がジャイアントホールでキュレムに出会わなかった場合のifのストーリーになってます。 もともと自分はレシラムとゼクロムの元の一つだったポケモンがどんな思いで二つに分かれたのかを考えてました。それでこの物語を作りましたよってことで。 で、この物語で語った出来事は上記の説をもとにした完全なるねつ造です(笑) いつか出るマイナーチェンジ版でキュレムのことが掘り下げられるのなら、この物語で語った説が正しければ嬉しいな。外れていたら盛大に笑いましょう。たぶん後者でしょうけど(笑) 演劇が終わって外へ出ていくシーンはhttp://www.youtube.com/watch?v=lg5Fw0B3tCU 大好きなこの曲をBGMにしてました。まあイメージの参考にしていただければありがないなーなんて^^;
修正記録 11/03 旅人が村人から発見される場面での旅人の回想。 ――人とポケモンを繋ぐ架け橋 を ――バラバラに別れてしまっている私たちのような存在同士を繋ぐ橋
に修正しました。
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