5. 謎の男 ( No.6 ) |
- 日時: 2010/09/07 00:45
- 名前: Pause ID:
- 「すんませーん、ここらへんにモルフォンの男の子いないですかァ」
住民達が身を寄せ合う中で、妙に間延びした聞き覚えのない声が聴こえた。ジャスティスは振り向く。自身はモルフォンだ。 「そんでもって、ついでにジャスティスって名前のやついませんかねェ」 「何だって!」 その言葉に、ジャスティスは立ち上がった。 「ん? アンタか? ジャスティス・サルファーってのは」 「そうだ!」 怒ったように言って、自分を呼んだ男を見回す。 見たことのない種族だった。短く癖のある深い緑の髪、燃えるような――それこそ、目の奥に焼きつく炎のように――橙のマフラーを巻いて、軽い言動をそのまま服にしたような格好をしていた。 「お前は誰だ!」 そのまま口に出すと、男は困ったように眉を下げて、なぜか口角を上げた。 「オレ? ヴィオレントってンだ。見たことねェか? バクフーンさ」 ジャスティスが口を開く前に、住民達がざわめく。バクフーン、まさか、でも見なかった、炎ポケモンだ、この大火は、口々に声が上がる。異様な反応にジャスティスは皆を見下ろすと、傍らに座るハルフも不安げな顔をしていた。 そのざわめきを劈いて、鋭い叫びが上がった。 「さては、お前がアニマに火を放ったのか!?」 身体中を煤だらけにした、マリルリのルキが立ち上がる。彼を中心に一瞬声が静まり、バクフーンの男に対する非難の声が爆発した。ルキが殴りかかろうとしたのを、男は難なく交わした。 「違ェよ、誤解だって! 俺がたまたまバクフーンだったんだって」 その声は誰にも届かない。立ち上がって吼える住民達は一斉に男の両腕を拘束した。 「何しにきたんだ!!」 ジャスティスは男と距離を取る。男は拘束されながら、飄々と言葉を放つ。 「いやーちょっと指令を受けてねー、アンタを連れてくるように言われちまったンだわ」 何だって、と歯を食いしばるジャスティスの前に、人影が立ち上がった。ジャスティスを護るように、彼に背を向けている。長い黒髪、黄地のフレアスカート。 「お母さん!!」 ハルフはジャスティスを振り返る。 「ジャス、穏やかじゃないわね。この子に何のご用ですか」 内に秘めた炎。赤い瞳が男を射抜く。 「あれ……お母さん……? ですかァ。ちょっとね、この子を覚醒させるとか」 ハルフはそれより先を聞かなかった。刹那、煌く光を纏う。右手を真っ直ぐ男に向け、 「お引き取りなさい――パワージェム!!」 弾丸のような光が次々と拘束された男に命中する。男はうッ、と呻いてから、ニヤリと笑った。口を大きく開けて、息を吸い、黒い煙を大きく吐き出す。誰かが叫んだ。 「煙幕だあ!!」 風を起こせ、伏せろ、と次々に声が上がる。混乱に陥った中で、男の拘束が解ける。 悲鳴が上がった。 「お母さああああーーーん!!!」 「!? ジャス!!」 黒い世界の中、ハルフが叫び返す。ジャスティスを掴まんとがむしゃらに腕を伸ばしながら、風起こしを放ち続ける。鳥ポケモン達の風起こしや吹き飛ばしが重なり、ほどなくして煙幕が払われる。 男がいない、探せ、との声に混じって、ハルフの肩を叩くものがある。 「ハルフさん、ジャスが……」 大きな赤い瞳が見開かれる。口に両手を当てて、ハルフはその場に崩れ落ちた。 「ジャス! ジャスティス!! 返事をして……!!」 何も返ってこない。夜明けの近い空に、叫びはどこまでも高く響き続けていた。
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