精神戦 ( No.58 )
日時: 2010/09/07 22:28
名前: でりでり ID:
参照: http://www.geocities.jp/derideri1215/

「風見君!」
「松野さん!」
 夜の闇に包まれた駐車場に松野さんが現れた。多少走ったのか肩が上下している。
「今のところは優勢ね」
「ところで久遠寺が能力者っていうのは?」
 能力者。この前の風見杯で起きた藤原拓哉の例を思い出す。負けるとは思いたくないが、負けた時のことが気になるのは確かだ。
「やっぱり藤原とかのように……」
 藤原の能力は『相手を消すこと』。本人は『次元幽閉』と言っていたが、やはり久遠寺もそういう類のものなのか。
「久遠寺さんの能力は『位置検索』よ」
「は?」
 かなり身構えていたのに帰ってきた答えが意外としょうもないことでちょっとガッカリもした。しかし位置検索? なるほど、確かに俺の住所を教えていないのに俺の家を知っていたのは説明がいく。
「だから、負けたとしても消されたり病院送りとかそんなことはないはずだけど気を抜いちゃダメよ」
 松野さんはグッと目に力を入れた。この人の目力は恐ろしく強い。思わずシャキンと背筋が伸びる。
「それに、能力者と戦う事だけで負担になるんだから。精神力で負けたらあっという間に飲み込まれるわよ。能力者との戦いで一番大事なのは強い心!」
「そろそろわたくしのターンを始めてもよくって?」
 ずっと無視されていた久遠寺が、怒ったのか俺が松野さんに返事する前に声をかけてくる。
「ああ、始めてくれ」
「わたくしのターン。ハッサムに達人の帯をつける」
 ハッサムの突出したお腹の辺りに帯が巻かれるが、ちょっと不格好。
 達人の帯は装備したポケモンのHPと与えるワザのダメージを20増やすポケモンの道具だが、達人の帯がついているポケモンが気絶したとき相手が引くサイドは普段より一枚多い二枚となる。久遠寺は打点を増やしに来た。
「続いてサポーターのハマナのリサーチを発動。このカードの効果はもちろん分かっていらして?」
「たねポケモンおよび基本エネルギーを合計二枚までデッキから手札に加えるカードだ。馬鹿にするな」
「わたくしはストライクとチェリンボを加えますわ」
 しかし加えたところでベンチには出せない。出したとしても、出した番には進化できないからレジアイスでバトル場に引き出され、俺のギャラドスの餌食になる。久遠寺もそれを分かっているのかポケモンをベンチに出してこない。
「ハッサムでギャラドスに攻撃。振りぬいてください!」
 ハッサムがまたもやギャラドスにハサミを振りぬく。ギャラドスの豊富なHPがあっという間に虫の息。
 振りぬくは自分の場にポケパワーを持つポケモンがいなければ威力が30上がり、更にチェリムのポケボディー、日本晴れによって草タイプであるハッサムの威力が10、達人の帯で20上昇している。よって元のダメージが40のはずの振りぬくが100という超強力な威力に変わる。
「これで風見君のギャラドスのHPは30よ。ターンエンド」
 気持ちで負けたら飲み込まれる。踏ん張りどころはここだ!
「行くぞ、俺のターン!」
 しかしドローが冴えない。手札はわずか三枚。どう乗り越えるか考えるんだ。
 今の俺の場には満身創痍のギャラドス、ベンチには傷を負ったガブリアスLV.Xとレジアイス。レジアイスのポケパワーは使えない上、ギャラドスを逃がすこともできない。
「俺もハマナのリサーチを発動! フカマルと超エネルギーを手札に加える。フカマルをベンチに出し、超エネルギーをフカマルにつける」
 これで手札は残り二枚。レジアイスのポケパワーの発動コストとして常にキープしていたい。
「ギャラドスで攻撃。テールリベンジ! 90ダメージを受けてもらおう」
 ギャラドスが振り下ろした尻尾をハッサムが両手の挟みで受けるも、ハッサムのHPバーは四分の一。達人の帯で120まで最大HPが増えたハッサムだがもう30まで削ってやった。
「さあ、お前の番だ」



 一見サイドの枚数的にも風見君が有利のように見えるけど、押しているのは確実に久遠寺麗華だ。
 もうHPが30しかないハッサムだけど、アレだけで風見君のポケモン二体は確実に気絶させてくる。
 風見君はきっと心の底で「所詮『位置検索』程度ならばどうってことないだろう。藤原とは違って負けた時のリスクもない」と高をくくっている。
 それがダメなのだ。能力者との戦いは精神戦。先に心が挫けた方が負ける。能力者達は概して強い意思を持っているのにそんな事では勝てない。
 とはいえ相手は人間、揺さぶればその強固な意思も崩れるはず。なのだけど、風見君はそういった会話能力がない。
 あらかじめ私がシェイクしたんだけど、役立ててはくれないようだ。
「わたくしのターン。グッズカードのポケドロアー+を二枚発動。このカードは一枚単品で使った時と、二枚同時に使った時で効果が変わるわ。二枚同時に使ったので、わたくしはデッキから好きなカードを二枚加えてシャッフルします」
 風見君の表情はまだ余裕が浮かんでいる。余裕であれば余裕であるほど心のスキが出来て窮地に陥ってしまうのに彼は気づかない。しかし、ここでアドバイスしたところでむしろ今度は焦りに変わるだけで、彼のためにはならない。彼のためと思うなら、黙って見守ることが一番だ。
「そしてサポーターカードのオーキド博士の訪問を発動。山札から三枚引いてその後、手札から一枚デッキの底に戻します」
 手札を増強してきたわね。一気に動いてくるはず。
「手札からスタジアムカード発動。破れた時空!」
「破れた……時空だと」
 風見君の表情から余裕が消え、みるみる生気を失っていく。
「このカードがある限り、互いにその番に場に出たばかりのポケモンを進化させれますわ。私はストライクをベンチに出し、ハッサムに進化させて草エネルギーをつけまして。バトル場のハッサムで攻撃! アクセレート!」
 アクセレートのワザの元々の威力は30だけど、チェリムと達人の帯によって威力は60。残りのHP30のギャラドスはハッサムの攻撃を受けて気絶した。
「俺の次のポケモンはガブリアスLV.Xだ……」
「わたくしはサイドを一枚引いてターンエンド」
 もはや風見君には焦燥しか見えない。このままだと正常の判断も出来ない、声をかけるなら今。
「風見君! アクセレートの効果に気をつけて!」
「効果……」
「アクセレートで相手のポケモンを気絶させたとき、そのハッサムは次の風見君の番ではワザのダメージも効果も与えれないわ」
「ガブリアスにエネルギーをつけてガードクローをしかけようとしたが、尚早だったな。だったら! 行くぞ、俺のターン!」
 風見君の目に闘志が戻った。さあ、どんな戦術を見せてくれるのかしら。
「フカマルをガバイトに進化させる。そして俺も破れた時空の効果を使わしてもらうぞ。今進化したばかりのガバイトをガブリアスに進化だ! 更に水エネルギーをガブリアスにつける」
 風見君の手札が一気に消費されて残り一枚になる。
「俺は手札からユクシーをベンチに出す。そしてこの瞬間にポケパワーを発動だ。セットアップ!」
 セットアップは手札が七枚になるまでドローする強力なポケパワーだ。しかし、当のユクシー自体のステータスは乏しく、HPはわずか70。
「手札のスージーの抽選を発動。俺は手札のニドラン♀と不思議なアメをトラッシュしてデッキから四枚ドローする。そしてガブリアスLV.Xのワザを使わしてもらう。蘇生!」
 空いているベンチに白い穴が形成された。そしてその穴の中からギャラドスがリフトアップして出現する。
「ガブリアスLV.Xの蘇生は、自分のトラッシュのLV.X以外のポケモンをたねポケモンとしてベンチに出す。俺はその効果によってギャラドスを戻した。ターンエンドだ」
「一度倒されたポケモンを戻してきたところでどうなるのかしら」
「笑っていられるのもいまのうちだ」
 焦燥の色が風見君から消えていく。少しずつ、自分のペースを取り戻してきたようだ。本人に自覚はないと思うが、どうも彼は思っているよりも周りに流されやすい。しかしそれは一度だけ。自分のペースを取り戻した彼はもう迷わない。
「わたくしのターン。手札のポケモン図鑑を発動しますわ」
 ポケモン図鑑は自分のデッキのカードを上から二枚を確認し、片方を手札に。もう片方をデッキの底に戻すグッズカード。グッズなのにドローが可能という扱いやすさがウリだ。
「続いてチェリンボをベンチに出しますわ。続いてサポーターのデンジの哲学を発動。手札が六枚になるまで引きます。今のわたくしの手札は0。よって六枚ドローしますわ」
 手札の枚数が風見君とほぼ互角になった。久遠寺麗華にはまだまだ余裕の表情が浮かんでいる。
「チェリンボをチェリムに進化させます。そしてベンチのハッサムに草エネルギーをつけて、わたくしはそのガブリアスLV.Xに攻撃をしますわ。アクセレート!」
「またアクセレートっ!」
 ハッサムがはさみでガブリアスの腹部を強く打撃するように突進する。ガブリアスのHPバーは完全に尽きて倒れ伏す。
「サイドを一枚引きますわ。これで追い抜きましたわね?」
 確かにサイドは久遠寺麗華が一枚上回っている。その上、彼女の場には次の番に攻撃を受けないハッサム。ベンチには同じくすぐに攻撃に移れるハッサムがいる。そしてそのハッサムを支援するチェリムが二匹。それに対して風見君のポケモンは、置物と化したユクシーとレジアイス。そして蘇生したばかりのギャラドス、エネルギーが二個ついたガブリアス。状況的には風見君が責められ続けているという感じだ。
 だがしかし。
「だったらガブリアスが次の俺のポケモンだ」
 風見君の表情は純粋なところから来る笑みに包まれていた。



風見「今日のキーカードはチェリム。
   ベンチにいてこそ活躍するカードだ。
   ポケボディーの日本晴れで炎、草タイプのワザの威力が上がるぞ」

チェリムLv.30 HP80 草 (破空)
ポケボディー   にほんばれ
 自分の草ポケモンと炎ポケモンが使うワザの、相手のバトルポケモンに与えるダメージは、すべて「+10」される。
  あまからかふん 20
 自分のポケモン1匹から、ダメージカウンターを2個とる。
草無無  ソーラービーム 50
弱点 炎+20 抵抗力 水−20  にげる 1