終わりと新たな始まり ( No.43 )
日時: 2010/09/07 00:24
名前: でりでり ID:
参照: http://www.geocities.jp/derideri1215/

「───です。そして今度の3D投影機はベルト状になっていて、簡単な操作で簡単になおかつコンパクトに立体映像を伴ったカードバトルが出来るようになります。お手元の資料の十二ページをご覧ください。これが設計図案です。現在まだ正式名称は未定ですが、仮名として『バトルベルト』という名前としています。小売希望は十万円のラインを越えるか越えないか、調整中というところです。図案を見て分かると思われますが、バトルベルトは前回のステージ式3D投影機とは違いモニターがありません。モニターが不必要になるように、資料十三ページをご覧ください。ポケモンの立体映像が表示されている時、ポケモンの真ん中くらいに残りHP、ついているエネルギー、現在の状態異常が全て表示されるようにシステムされております。何か質問等ございますか」
 昨日に風見杯があり、翔との壮絶な戦いをしたとは思えない程静かな毎日だが闘いはまだ続く。
 今は株式会社ポケットモンスターで新しい3D投影機、バトルベルトの売り込みをしているところだ。
 普段は高校生をしているのだが父親の命で休みの日や学校を終わってからの時間を返上して父親の会社で働いている。
 俺の一人演説が終わり、静寂が再び訪れた会議室に小さな腕が一つ上がる。松野さんだ。
「価格はどうなの? 主なユーザー年齢的にも四万越えると苦しいわよ?」
「調整中です。出来る限り抑えるつもりですが」
「わかったわ、ほかに質問はないわ」
 これでようやく会議が終了。会議室を出る人がそれぞれ伸びをしたり、うーだのあーだの言って視界から消えていく。これで会議室に残ったのは俺と松野さんだけになった。
「風見君、これから時間あるかしら」
「大丈夫です」
「ちょっと込み入った話なのよ。あまり人に知られたくないから」
「分かりました、部屋を手配しておきますね。……風見杯関係ですか?」
「惜しいわ。『風見杯に出ていた藤原拓哉について』、よ。連絡待ってるわ」
 それだけ言い残すと松野さんは会議室から去って行った。一人取り残された俺は考える。
 確かにあの日の藤原は日ごろ学校で見る彼とはまるで違う、別人格と言うべきか。そのような感じを醸し出していた。
 そして少年を3D投影機無しでサマヨールを呼び出し、幽閉。恐らく松野さんの話とはここのことだろう。
 不穏な心が渦巻く中、資料を整え会議室を出る。



 風見杯から二日。前日の月曜は祝日だったので本日火曜から学校。
 教室につくなり、いつもの連中以外に普段はそこまで話さないクラスメイトまで押し寄せてくる。どこからか俺の優勝の知らせを聞いたらしい。
 その中で熱心なのが、緑色の短い髪が特徴の蜂谷亮(はちや りょう)だ。
「四百万ってすげえな!」
「まあもう手元にはないけどな。借金返してまたいつも通りすっからかんだ。俺みたいな素寒貧捕まえてもうまい棒一本さえ出てこないぜ」
「別に金目当てで集ってるわけじゃないさ。いや、そういうと嘘になるかもしれないけど、俺もポケモンカード始めようかなぁ」
「どうしてさ」
「賞金だろ賞金!」
 蜂谷の眩しい笑顔に、賞金が出る大会はたぶん今回限りだと思うとはなかなか言いづらいかったのだが思わぬ横槍がやってきた。
「ばーか。風見杯が異例なんだよ」
「なんだ、恭介かよ。お前も初心者なんだろ? お前が言ってもあんまり信用できないな」
「しょ、初心者っつったってお前よりは経験者だ!」
 急いで胸を張る恭介だが、とても虚しく見える。
「なあ、翔。今回だけなのか?」
「たぶんな。余程の事がないと賞金なんてでねーよ」
「一攫千金のチャンスだったのになぁ。……でも俺もちょっとポケモンカードやってみようかな」
「だったら俺が教えてやるぜ!」
 再び蜂谷の目の前に恭介が現れるも、右手だけであっさり恭介はどかされる。
「俺にも教えてくれよ!」
「ああ、いいぜ蜂谷。放課後からやるか?」
「もちろんさ」
 蜂谷が満足そうに自分の机へ戻っていくと次の来客者が現れる。
「おはよう、翔くん恭介くん」
「おっ……拓哉か」
 一昨日の記憶が思わず蘇る。しかしあの時の凶暴性は夢だったのか、きわめていつもの気弱な拓哉だった。
 俺が応答に少し詰まっていると、元気そうに恭介が拓哉に声をかける。
「おお、拓哉! 昼休みに俺と本気の勝負しようぜ!」
 本気の勝負と聞いて拓哉の眉がピクッと反応する。
「俺と本気の勝負だぁ? いいぜ、ブッ潰してやる」
 口調と声音が一昨日の凶暴拓哉だった。これは二重人格なのか?
 ハハハハハと高らかに笑いながら席へ着く拓哉をよそに、俺と恭介はただ固まるばかり。特に事情を知らないほかのクラスメイトは皆揃って口あけながら拓哉を見る。そして睨みつけられたのか、皆授業の準備に戻っていく。
「翔、アレって……」
「ああ。恐らくは二重人格だろう」
 恭介の問いに答えたのはあろうことか風見だった。
「うおお、風見か」
 風見は恭介を少し睨むと俺に対して話しかける。
「カードのこととなるとあの凶暴な人格が出るようだな」
「なるほどねぇ……」
「まあ翔との勝負で改心したのだろう、特に気にかけることはないな。それよりも三月に大会があるんだが、出ないか?」
 風見の大会という言葉に俺よりも先に食いついたのは恭介だった。
「本当か!?」
「嘘をついてどうする。ポケモンチャレンジカップ、略してPCCという大会だ。もちろん出るよな?」
「ああ!」
「もちろん出るぜ」
 俺たちの答えに風見は満足そうな表情を見せる。
 しかしこの時新しい脅威が俺達の前に再び現れようとは思いもよらなかった。


───
これで風見杯編終了となります。
次回からPCC編、これからもよろしくお願いします。