――全ては突然かつ唐突――
時は流れ。強大な嵐も過ぎ去り大きな被害を聞くこともなく事なきを得て、ポケモン達が今日も元気に賑わっている頃……。小さな海岸の波打ち際に横たわる一つの影。時折僅かに動くのが確認出来る辺り、気を失っているだけのようだ。
「…ぅ……」
不意に目覚めたその者は、ゆっくりと身体を起こしその大きな瞳を開く。その瞳に映ったのは、海へと帰っていく真っ赤な太陽であった。
「……夕方、か。この時代の今の時間は」
――この時代――という言葉がいったいどういう意味を持つのかは分からない。ただわかる事は二つあり、セリフから察するに時を越えて来たのでは、という事。常識では解りえない何かを成し得たのだろうか。その高めの声からして、この者が女性である事。とても男性が常時出せるものとは思えない程に、透き通る綺麗な声をしている。
「……綺麗な海。ちょっと泳いでみたいなーなんて――――」
まるで人間のようにくるりと踊るように回り波打ち際に近付いた時、不意にその声が止む。理由は、彼女が水面に映った自分の姿を見てしまったからだ。その証拠に、映った自らの姿をこれでもかと言わんばかりに凝視し続けている。瞼を微動だにさせることなく、動くのは潮風になびく自身の全身を包む体毛。大きめの耳は色々な物を聞き取る事が可能と思われ、更には短くも太い一番もふもふ出来そうな尻尾。四つの脚に茶色と白に別れた体色――
「ワタシ……い、イーブイになってるぅぅぅぅぅぅぅ!?」
彼女は、イーブイというポケモン界でも希少な一匹の姿をしていた。
「あっちゃー……遂に弊害出ちゃったか……。どうすれば人間(・・)に戻れるのかしら。てか四足歩行って歩きにくいのね……」
彼女は元々人間という種族であった。この世界においては、ポケモンに比べると数える程しか存在しないとされる人間だが、彼女もその一人だった。しかし今やその姿はイーブイ。当人すらもあり得ない現状を目にして――むしろ渦中だが――混乱しているようだ。
「ホントどうしようかしら……あら?」
不意に何かを見付け、傍に駆け寄る。そこにあったのは、黄色い身体に稲妻型の尻尾、鼠のような体型をしたピカチュウという種族のポケモンが、そこに横たわっていた。
「……ねぇキミ、大丈夫?」
この出会いが、世界をかけた運命の始まりだという事は誰も知らない――――