予感
「ユウスケ、何かいい訳はあるか?」
「返す言葉もないよ……」
朝起きると珍しく父さんが台所で朝食を食べていた。普段だったらもういない時間なのに珍しいと思って声をかけると説教をされた。
理由は二つロケット団の時の件と火事の時の件だ。あれは自分でも無茶苦茶なことをやったなと思うし仕方ないけどさ……朝ごはんを食べながら説教されるってのはつらいよ。
「全く、スクールを卒業したらポケモントレーナーとしての修行の旅をするんだろ。その際に危険な目に遭うことは何回もあると思うが……自分から飛び込むようなことをするんじゃない。僕や母さんも心配してるしランちゃん達みたいなお前の親しい友達だってそうなんだ。それは肝に命じておくんだ」
「うん、それは分かってるよ」
父さんの言う通りなんだよ。僕がやったことはすごい無謀な真似なんだ……こんな事して下手したら身近な人が泣いていたと思うとすごいつらい
「でもだ、何かを守ろうとしたところは僕は評価したいな。よく頑張ったな」
ず、ずるい! さんざん説教しといて最後に上げるなんて卑怯だ! お陰で後悔とも優越感とも分からない気分になる。ああ、朝からどうすればいいのさ!
「トレーナーとして僕ができることをしただけだよ。無茶してごめんなさい」
素直に頭を下げる。あーえーう〜ん……なんかモヤモヤする
「それでよし。それじゃ僕はそろそろ仕事に行くよ」
『しかしユウスケもケンスケに似てきたものだ。血は争えないものだな』
「ホントよね。誰かのために無茶をするところもそっくり」
「ユウミもフーディンも余計な事を言わなくていい。それじゃいってくる」
父さんは少し今のにムスッとした顔をしながら席から立ち上がり鞄を手に取って台所から出ていく。へ、へぇ……知らなかった。今は刑事やってて落ち着いてるのにそんな時代があったんだね。意外だよ
「いってらっしゃい。それじゃユウスケ、あなたもスクールに行く準備をしてきなさい。後、お父さんに言われたように危ないことに飛びこまないこと。いい?」
『だってさユースケ』
「う、うん。善処するよ」
最近物騒だからね。何か起こらなければうれしいんだけどな
◆
「へぇ〜、おじさんにそんな時期があったんだ」
「うん、意外だなって。そんな父さんは想像できないよ」
すでに放課後。特に何もなく授業を終えて今ランと下校しようと玄関に向かっているところだ。こうやって一緒に帰るのもなんとなく久しぶりな気がするよ。
「でもユースケくん、最近ホントに無茶するようになったよね。何かあったの?」
ん、まあなりゆきってのもあるし、動かないと不安で仕方なかったってのもあるんだけどさ
「この間本屋で誰かさんに言われたことが悔しかったんだよ」
「あ、ごめん。気にしちゃった?」
「結構ね。でもいい傾向だと思うんだ。おかげで後悔しないで済んだしね」
火事の時のケーシィの事もだしオーキド博士の研究所の事それのどっちでもだ。自分自身の日常が破壊されずにすんだんだ……多少怖い目にあったけどリターンとしては何にも変えられないものだよ
「そっか。ピカチュウ、あたし達もユースケくんとケーシィに負けてられないよね。もっと強くならなくっちゃ」
『ぴかちゅ』
ランのバッグから少しだけ顔を出しているピカチュウが頷いているのが見える。すごい愛らしい笑顔なんだけど……かわいい顔して容赦ない電撃攻撃を放つんだよなぁランのパートナーは
『こっちもだ。なあユースケ』
「当然、負けるもんか」
よし玄関に着いたね。自分の下駄箱のもとに歩いていきふたを開いて外ばきのシューズを取り出す。ん?
「ユースケくん何か落ちたよ」
「えっと……これはなんに見えるケーシィ」
『どう見ても便箋だな。えっと、市販で売ってるなんとかメールって奴だよな』
どう見てもそうだよね。ポケモンに持たせるタイプの手紙の便箋で結構可愛いデザインだから女の子に人気なんだよね。エリのとこでランやクラスの女の子が買っているのを何度か見たことがある。ってことはこれっていわゆるアレ?
『おいおい、ユースケにラブレターだなんて何事だよ! こんなことがあったって知ったらケンイチが切れるぞ』
ケ、ケーシィその言い方は無いんじゃないかな。確かにケンイチは割とそういうことを気にする性質だからケーシィの言うこともわかるんだ。普段は落ち着いた雰囲気を出しているくせに女の子関係になると割と暴走するんだよねケンイチは
でもラブレターか……なんかニヤけちゃうな
「……よかったね。それで相手は誰なの?」
「えと……便箋には書いてないよ」
心なしかランの声が拗ねている時のそれと同じように聞こえる。一体どうしたんだろう? さっきまでご機嫌に話していたのに急にこれだよ。山の天気と女心は変わりやすいって聞くけどさっぱりわからないよ。
それより送り主が誰か見てみよう。開封してっと……
「なんて書いてあるの?」
「果たし状……ってあれ?」
『え?』
「え?」
……見間違えではないよね。どっからどう見ても果たし状って書いてある。ああ、勘違いだったんだ。なんかがっかりしたというより安心したのはなんでだろう
それより読み進めようか
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果たし状
1対1のポケモン勝負を申し込む。4時半に南の孤島で待つ
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ずいぶん簡単な内容の手紙だな。南の孤島ってマサラタウンの南にある名前のない小さな島の事だよね。少し変わったポケモンが生息してるんだけど……行くのが難しいから行こうとする生徒なんていないんだよね
それにしても差出人も書いてない。一体誰がこんな果たし状を送ったんだろう
「どうするケーシィ?」
『売られた勝負だ。買わないわけにもいかないだろう?』
「だね。それじゃいってみようか」
よし、僕は果たし状を適当に畳んでポケットの中に突っ込んでからロッカーから靴を取り出して履く。それじゃ行こっか!
「待って、あたしも行くよ。南の孤島は危ないからユースケくん達だけで行かせるのは心配だよ」
『ぴかぁ!』
そう、だね……野生のポケモンもいるしこの果たし状がなんらかの悪戯でひどい目に合う可能性だって十分にあるんだ。油断なんてできない
「それじゃよろしく頼むよ」
「ん、それじゃ早く行こう。あまり待たせるのもよくないよ」
『ユースケ、ランの言うとおり早く行こうぜ。廊下の方を見ろよ』
えっと……最悪のタイミングでリョウトがこっちに向かってきてるじゃないか。僕がランといるところを見られたら何をされるか分かったもんじゃない!
「そ、そうだね。早く行こう!」
「ふぇ!? ユ、ユースケくん、急にどうしたの? ねぇ!」
これはまずいとランの右手を掴んで引っ張るように僕は走る。そのあったかくて柔らかい感触に一瞬甘酸っぱいよううな気分になるけど今はそんなこと考えてる暇はないんだ。ただ、今は気づかれる前に学校の外へ向かって走った