ケンカ
「ケーシィが悪いんじゃないか! いい加減肝心なところでどうしてそんなにノーコンなのさ!」
『それを言われたら痛いけど……お前の指示も悪いんじゃねーかよ!何がテレポートで逃げ回って相手のスタミナ切れを待とうだよ! テレポート連発してたらそりゃ集中力も切れるわ!』
う、それは言われたら辛い……
「攻撃技が一手しかないしというか相手がノーマルタイプだったら手も足も出ないってどういう事さ!」
『そんな技をチョイスしたお前のセンスのせいだっての!』
……ああ言えばこう言う、そう言えばああ言う……
「もうケーシィの事なんて知るもんか! ずっとここに一人でいればいいんだ!」
『って、待てよユースケ!』
ケーシィが納まったボールを練習場のベンチに置いて僕はそのまま走り去る。
「ケーシィのバーカバーカ! もう知るもんか!」
一度だけ振り向いてそうとだけ言ってやる。全く、清々したよ!
練習場のドアをガツンって力任せに開けてそのまま出ていく。清々したところで次の授業よね。確か数学だったっけ?
「まーた喧嘩したのかお前は?」
「ケンイチ……うるさいなぁ、ほっといてよ」
ドアから出た先で腕組みをして待ち伏せしていたのはケンイチだ。待っててくれたのは少し嬉しいけどさ
「この間からまた勝てないからって八つ当たりはよくないぞ。それくらいお前も分かるだろうに」
それは分かってるけど、それが出来たら苦労しないよ
「そんな事、知るもんか」
口であんな事言った以上は後には引けないんだよ。今日もポケモンバトルの実技演出で僕とケーシィは負けた。ここ最近勝ててると思ったらこれだ。負けに負けたストレスはお互いに溜まっていて喧嘩しちゃったんだ。
「後悔って形でだけは反省するなよ」
「後悔なんて……」
「ま、いいさ。今は教室に行くぞ。授業に遅れるからな」
そう言うケンイチに僕はついていく。後悔なんて……しないって、しないと思う……
「また喧嘩しちゃったの?」
「相変わらずケンカをよくする。少しは大人になったらどうなの?」
今は昼休み、なんか本調子になれずにいる僕は気分転換でもしようかと校庭に出てみた僕はキャッチボールをしている最中の、ラン、そしてエリに出会った。
ちなみにランは結構ソフトボールが好きだったりする。地域のチームでエースをやってたりするなど実力もかなりのものなんだよね
「エリには言われたくないよ。意外に自分に甘かったりがさつなとこある癖にさ」
このエリって真面目な秀才タイプだけど、どこかそういう部分があるんだよね。少しイライラしてるから面に向かって言ってしまう。全く僕は何をやってるんだよ
「うるさいわね。女の子はいつでもか弱いものなの。乙女心くらい分かるようになりなさい?」
乙女心かあ……僕に分かる時が来るのかな? 来ない気がするのはなんでだろう。
エリはボールをランに向けて投げるとランはそれを慣れた手つきでキャッチし、またエリに向けて投げる。
「う、うーん……考えては見るよ」
「お願いだからしっかりと考えてね。ホントお願いだから」
ランにすごく心配されてるのはどうしてだろう?
「鈍感ってのはホント罪よね」
「そ、そんなんじゃないよぅ!」
? ランの投げる球が心なしか速くなった感じがする。
「ナイスボール!」
その球をしっかりとキャッチしてそう返すエリ。なんか僕もキャッチボールをしたくなってきたな。ケンイチかリョウトでも誘おっかな? そう僕が学校の方を見ると……
「え……」
ぼ、僕の見間違いじゃないならさ……なんか校舎から黒い煙が……
「ハハハ、ただの見間違いだよね?」
とりあえずごしごしと目を擦ってから校舎を見る。
うん、黒い煙だけじゃなくて炎も上がってる。
「わああ!大変だ!」
「ユ、ユースケくんどうしたの!? って、か、火事!?」
僕の反応に呼応するようにランも叫ぶ。な、なんで学校が燃えてるのさ! えと、確かあそこって購買がある場所で……
「今の時間ってセンカワとかいるんじゃない?」
……普段は購買ってあんまり混んでなかったりする。まあ田舎の学校だし、ちょっと外に出れば小さな食堂もあるしね。
それよりケンイチだ! このままじゃケンイチが……
「僕、ちょっと行ってくる!」
「ユ、ユースケくん!?」
「馬鹿言わないでよ!アンタは自分の身の丈分かってるそれを言ってるの!?」
ランが驚いたように、エリが僕を制止するように言うけど……
「大丈夫だよ。その……野次馬してくるだけだから!」
「や、野次馬って……嘘つかないでよ。ユースケくん、行っちゃダメ!」
そんなランの台詞を無視してそのまま校舎に向かう。ケンイチ、なんとも無いといいけど……
避難しようとする生徒達の中をなんとかすり抜けて校舎になんとか入る事が出来た。先生に止められそうになったけど……まあ、気にしないでおこう。
「それにしても酷いな……煙を吸わないようにしないと……」
購買の近くまで来るとすでに火がかなり回っていた。そこに飛び込むなんて危険な行為だけど今はそうも言ってられない。中の様子を確認しないと……
「ケンイチいる!?」
身を低くしながら僕は叫ぶ。出来れば、返事は返って欲しくないけど……
「ユースケか!? なんでお前がいるんだよ!」
返ってきて欲しくないものが来たよ……僕は炎の中を更に少しだけ進む。そこでは購買に居合わせたであろう先生達が消火栓を使って、それを手伝うようにケンイチら何人かの生徒達が消化器で消化作業をしている。
「みんな、大丈夫ですか!?」
「ユースケ、子供が何しに来た!」
そう怒鳴るのはもうすぐ40ってぐらいの中年の教師、ミナミ先生だ。何かとこの学校の教員は濃い人が多い。
とにかく今はいい訳を考えよう!
「その……野次馬です!」
「馬鹿野郎! ホント、馬鹿かお前は!」
い、いい訳間違えた。先生は怒鳴りながらも消化作業を続ける。
「お前はさっさと逃げろ! どこからどういう風に現れたかは知らんが、ブーバーが暴れているハズだ。死にたくなければ戻れ!」
ブーバーって! 炎タイプのポケモンでかなりヤバいポケモンじゃなかったっけ?
それが出火の原因なんだ。それにここ最近の放火事件ってそのブーバーのせいなんじゃないか? そんなの放っておいていい訳ないじゃないか!
「分かりました」
そう素直に返事だけは返す。ここからブーバーはどこに行ったんだ?
「そんなに遠くに行ってないと思うから……」
「ユースケ、お前絶対分かってる無いだろ」
ケンイチが何か言ってるけど気にしない。さっきまで購買周りしか火が周って無かったからどこか火が周り難い場所、バトルの練習場? あそこなら放っておいてもあるいは……駄目だ!
それは出来ない。そんな事をしたら!
「探すなよ! 絶対だからな!」
「分かってますよ!」
ミナミ先生の言葉を流しながら僕は走る。間に合え、間に合え!
「間に合え!」
そう叫ぶ僕の脳裏にはさっきのケンイチの台詞が横ぎる。
―後悔って形でだけは反省するなよー
後悔なんて絶対するもんか……ケーシィ、すぐ迎えに行くよ!