トレーナーの信念
僕とケンイチは応接室から飛び出してオーキド博士の悲鳴があった方向へ向かう。大した距離がないんだ。何かがあるとしても間に合うよ!
「最近噂の不審者……いや、ロケット団じゃな! ここになんのようじゃ!」
「ああ、この研究所には珍しいポケモンがいるからな。例えば御三家と呼ばれるポケモンとかな」
っ!? ロ、ロケット団だって……う、噂になってたけどそれって有名なポケモンマフィアじゃないか! 珍しいポケモンが狙いでこんな身勝手なことを!?
「い、行くぞユースケ! オーキド博士だけでも助ける。逃げることも視野に入れておけよ」
そ、そうだよ。怖いけど人やポケモン達の命を救う事がトレーナーとして僕たちが今やる事だ! トレーナーとして駆け出しにもなっていないからってただ逃げるだけだなんてダメだよ!
「……分かったよ。けどケンイチ、無茶は厳禁だよ」
「お前が言うなよ。行くぞ!」
声の方向にダッシュで突っ込む。多少の無茶は承知の上だよ!
視界に入ってくるのは負傷して倒れているオーキド博士とそれを見下ろす黒い服の男性。胸には大きな赤い文字でR団と書かれている。あれがロケット団……!
そのすぐ近くには毒ガスポケモン、ドガースの姿がある。さらにその近くにはボックス3つのモンスターボールが入った収納カプセル。あれを奪っていくつもり! そんなことは!
「先手必勝で行く! ガーディ、ロケット団をオーキド博士から引き離せ! でんこうせっかだ!」
「僕たちもだ。ケーシィはシャドーボールでドガースを攻撃よろしく!」
『ガゥ!』
『任せておけ!』
ガーディが登場して地面に着地する瞬間にでんこうせっかを発動して急加速をしてロケット団員に向かって行く。その後ろからシャドーボールを発動。ケーシィがドガースに向けて放つ。これが当たれば!
「なにっ!? ガッ……!」
『ドガ〜!?』
よし決まった! 僕たちの同時の攻撃は見事にそれぞれにヒットした。ここで出来た隙だ、早くオーキド博士を!
「博士、大丈夫ですか!」
「な、なんとかの……お主たちも無茶するわい」
自分たちの事だけど全くその通りだと思うよ。僕とケンイチは二人でオーキド博士の前に立つ。次に現状把握、ケーシィとガーディが構えていてそれに対して体勢を立て直したロケット団とドガース。
正直な話、怖い。でもここで逃げたらあの人にポケモンたちが、どうする、どうする!
「やるぞユースケ。相手は一人、二人でならやりようはある……!」
「一か八かになるけど……最悪逃げ回って時間を稼げるか。オーキド博士!誰か呼んできてもらえますか!」
「う、うむ、お主たちも無理せずに危なくなったら逃げるんじゃぞ!」
そう言ってオーキド博士は誰かを呼ぶために駆け出していく。ここからが正念場だ。なんとしても止めてみせる!
「ちっ、餓鬼どもが調子乗りやがって。出番だアーボ、ドガースと一緒に遊んでやれ」
『シャー!』
『ドガ〜ス!』
っ!
増えた……だけどトレーナーの処理の能力にも負担がかかるんだ。僕達のコンビネーションならやれる!
「ケーシィ、シャドーボールだ! ケンイチ!」
『ガーディ、一気に行け!』
『ガゥ!』
「そこだ、でんこうせっか!」
シャドーボールを2体のポケモンは散開してあっさりと回避する。そこに高速でガーディが踏み込みアーボにタックルを浴びせた。そしてすぐにガーディはドガースの方へ向き直り身構える
「ガーディ、ひのこだ!」
『ガゥ!』
「ちっ、構うな! たいあたり!」
ひのこなんて気にせずにドガースがガーディに激突する。その攻撃にガーディがバランスを崩してしまう。そして口を開きガーディに向き直るアーボ、そうはいかない!
「ケーシィ、テレポート!」
『わかってる! 喰らえ!』
『シャア!?』
テレポートで飛んだ先はアーボの正面。そこに回し蹴りを叩きこむ。威力になんて期待はしていないでもアーボの顔は横に向き、狙いを定めていたどくばりによる針の雨はガーディには当たることはなかった。このまま!
ってあれ?
「あのポケモンは……」
「ヒ、ヒトカゲ?」
と、突然ロケット団との戦いの戦場に現れた尻尾の炎が特徴的なポケモンヒトカゲ。な、なんでそんなところにいるのさ!
ん? 展開されたモンスターボールが落ちてるぞ。もしかしてさっきの毒針の流れ弾がカプセルにあたったその衝撃で誤作動を起こしたんじゃ……
『カゲェ? カゲッ!?』
ま、まずい……いきなり戦場に呼び出されてパニックになってる! 早く決着を!
「混乱してるようではな! もらったぁ! アーボ、どくばり。ドガースはヘドロこうげきだ!」
『ぐぅっ……!』
『ガウ!』
「ケーシィ!」
アーボのどくばりの攻撃は動揺した隙にケーシィをとらえたそれに対してヘドロ攻撃の方はというとガーディは間一髪回避している。
「ケーシィ、そこを動くなよ! ガーディ、でんこうせっかからかみつく攻撃だ!」
『ガゥ!』
『シャァァァ!』
回避の動きではねたガーディは着地の瞬間でんこうせっかで駆ける。駆けた先にはケーシィに追撃を加えようとしていたアーボがいる。
ケーシィに集中していたアーボは回避が出来ない。ガーディはがっちりと噛みついたそしてまだ怒涛の攻撃は終わらない!
「ドガース、ヘドロ攻撃をばらまけ! ガーディとケーシィをまとめて仕留めろ!」
「そうはいくか! ドガースに向かって放り投げろ!」
『ガゥ!』
『ドガァ!』
『シャァ!?』
アーボを放り投げてヘドロ攻撃から自分たちの身を守ったのか。器用な事をするよ!
『これもおまけだ! ユースケ、ヒトカゲのもとへ走れ!』
そ、そうだ! ヒトカゲは混乱してるんだ早く助けないと! シャドーボールをアーボに投げつけて決着に近づく中で僕はヒトカゲに駆け寄る。さっきばらまかれたヘドロ攻撃にさらにパニックに陥っていたヒトカゲを僕は抱きかかえる。
「もう大丈夫だよ! さあ、このまま決着をつけよう」
まだパニック状態だけど……確保したんだもう大丈夫。それより戦いを終わらせるのが先だ!
「二人がかりは分が悪いか。ドガース、えんまくだ!」
『ドガ〜』
あっ!? し、しまった! ドガースの体から黒い煙が吐き出される。に、逃げるつもり!?
「ゲホッ、ゲホッ! しゃがめユースケ……この様子だとなんとかなったか?」
うう、むせる……でもケンイチの言う通りえんまくを使ったってことは引いたのかな? だったらありがたいけど……じょじょに煙が晴れていく。ど、どうなる?
「あ」
誰もいない……さっきまでダウンしていたアーボもドガースもロケット団の団員の姿もない。な、なんとか助かったのか……そう思うとつい気の抜けたように大きく息を吐いた。
「大丈夫かユースケ? それにヒトカゲは」
『ガゥ!』
『あの様子なら大丈夫だろ』
そりゃないんじゃないかいケーシィ。僕だって怖かったけど頑張ったのにさ
「言葉をもうちょっと選んでよ。ヒトカゲもこの通り無事だよ。ね?」
『カゲエ!』
僕が促すと元気そうにヒトカゲは手を上げる。このヒトカゲ、見ず知らずの僕に対してずいぶん素直なんだな。
ほら、すごいいい笑顔をしてるよ。うん、これが見れただけあって怖い思いをしたかいがあったかな