放課後
「ずいぶんご機嫌だなユースケ。ランちゃんが審判だったからか?」
授業が終わってから教室に戻った僕は帰る準備をしているとケンイチが話し掛けてきた。ケ、ケンイチは何を言ってるのさ
「そんな訳ないよ。今日はマルイに勝てたから気分がいいだけだよ。僕は……そのリョウトみたいにぞっこんって訳じゃないんだからさ」
「誰がぞっこんだって?」
ぼ、僕は間違った事は言った覚えは無いけど……なんか怒気がある声が背後から聞こえて……
「なぁにリョウト、ユースケがランにぞっこんって話だよ」
「ケ、ケンイ……な、何言ってくれてるのさ!」
なんで火に油を注ぐような真似をするんだよ。ああ、背後のプレッシャーが……
「や・は・りか! ユースケ、表に出ろ! 貴様にはランは渡さん!」
タジマ・リョウト! どうしてこう煽り耐性がないのさ!
「拳をしまってよリョウト! 素人に拳を向けるなんて空手家のやる事じゃないよ!」
自分の身の危険が懸かってるんだ。ここで怖じけづく訳にはいかない!
「そんな事はどうでもいい……食らえ!」
「わわっ!?」
リョウトの拳が奮われ僕は間一髪当たらずに済んだけどバランスを崩してしまう。あ、危ない……やられると思った。
「ケーシィ、リョウトを説得してよ。僕じゃ止めれない!」
そう僕は悲鳴を上げるけど返事は無い。も、もしかして授業の後すぐだからお疲れで寝ちゃった!?
こういう時だけ図鑑通りとかやめてよ!
「おっと、ストップだリョウト。流石にお前の拳はユースケに打つのは危険すぎる」
ぼ、僕がひ弱っていいたいの!? 否定は出来ないけど煽ったケンイチが言うのはありなの!?
「む……そうだな。だがユースケ、貴様にはランは渡さん! 宣戦布告させてもらうぞ!」
え、え、拳をそれで納めるの!?
それに常日頃から僕をラン関連で目の敵にしてる人が何を今更言ってるのさ!
「い、今更だなぁ……別に僕はランとそんな関係じゃないって」
「ランに対してそんな気は無い」って言えば楽なのかもしれないけど……そう言おうと思わないのは……うわぁぁ、余計な事は考えるなユウスケ!
「口で言うだけなら簡単だ。お隣りさんの幼なじみってだけでポイント高いんだ。それを分かるんだよ!」
「ケ、ケンイチ、帰ろうか」
さ、流石にこれは相手をしていられないよ。本当に周りがみえないんだからさ!
「あ、ああ。自分で煽っておいてなんだけどこれは流石に失敗だった……」
主犯も反省する。これがリョウトクオリティだ。帰る準備は話ながらも出来ているんだ。走って逃げだそう!
「ユースケ、わざわざよーいドンで追いかけ始めると思うなよ!」
わ、わわ。捕まってたまるもんか!
鞄を手に取りながら襲い掛かるリョウトの攻撃を回避。続けて僕は足で椅子をひっくり返しリョウトを怯ませた。今だ!
「付き合い長ければ個性も弱点に出来るよ」
とは言うけどリョウトの場合は脳筋だからそうできただけで、抜け目のないケンイチ相手には無理な気がする
「走れユースケ、鞄を持ってないリョウトは出遅れる」
それも計算に入っているさ! 僕は走って廊下に飛び出ししっかりとドアも閉じてわずかでも時間を稼ぐのも忘れない
「おいアイカワ、センカワ、廊下を走るな!」
「説教なら僕達の分も次に走って出てくるリョウトにしてください」
ここで先生に捕まったらかなり面倒だから構わずに走る。はぁ、明日は説教から始まるのか……仕方ないけど、仕方ないけどため息を吐いてしまう僕だった。
◆
「ユースケくん、ユースケくん!」
「お〜いアイカワ」
うん? 僕が本屋で立ち読みをしていると声が聞こえる。この声はランと……
「どうしたのさラン、エリ」
そこにいたのはランとミサキ・エリだ。エリ、僕のクラスの委員長で眼鏡にキリッとした顔が特徴的な女の子だ。
「どうしたのさじゃないわよ。どうしてあなたはうちでいつもとんでもないページ数立ち読みしていくのかしら」
ちなみにエリはこの本屋、ミサキ書店の一人娘。
そして立ち読みの常連が僕な訳だけど……
「それは……あれ?」
「93ページって……ユースケくん熱中しすぎじゃない?」
ランに指摘されてた通り93ページ目を指すページ数。こ、これは読み過ぎてるよ!
「あはは……ケンイチ達は?」
苦笑いをしつつも二人に尋ねる。ケンイチと逃げたけどなんだかんだリョウトに捕まり、話を逸らして一緒に本屋に来たんだけど……
「いなかったけど……呆れて帰ったんじゃなかな?」
や、やっぱりそう思う? 苦笑いしながら言うランを見るのが少し辛い。
「あちゃ……ケーシィが何も言ってくれないから」
「そういえばケーシィが静かだね。頑張り過ぎちゃった?」
まあ、そうなんだろうね。普段からこういうところまでサポートして貰っているからこういう事になるんだよね。注意しないと
「みたいだね。えと時間は5時49分……もう遅いし帰ろうか」
ポケギアを確認しながら言い、読んでいた本を本棚に戻して振り返って帰ろうとしたんだけど……
「うげっ!えっと……エリ?」
うう、制服の襟元を掴まれ制止されたんだけど……きゅ、急に何を……
「お客様、立ち読みばかりではなくたまにはお買いになったらどうでしょうか? 今の本が大変お気に召していたようなので丁度よろしいかと」
「エ、エリ、目が笑ってない。怖いよ!」
笑顔なのに目が笑っていない……母さんもそうなんだけど得体の知れない感じとか色々と怖い……
「ユ、ユースケくん……」
ラ、ランが目で何か合図してる……これは素直に買った方がいいって促してるんだろうね……
「う、うう……買うよ。買いますよ!」
この空気には正直堪えられない。僕はさっきの本を右手に取ってみせる。はぁ、部屋の本棚はどんどん増えていって成長の夏だけど、財布の方は冬を迎えて死んじゃいそうだよ……
「ついでに今まで立ち読みしていった本を何冊か買っていって貰えると嬉しいんですけどお客様」
「か、勘弁して……」
この委員長にはケンイチと同じで一生勝てる気がしない。なんていうか、頭が上げれない
「冗談。追加の購入についてはね」
追加じゃない方はって事はこれは買えって事なんだ……
「すぐレジするから渡して。もう遅いから早く帰らないと危ないわ」
だったら呼び止めなくてもいいじゃないか。きっとお小遣アップとかそういうのがからんでるに違いない!
「そうだね。最近この近くで怪しい人が見かけられてるっていうしね」
具体的には黒い装束に身を包んだ人達だ。露骨に怪しいから注意するようにってスクールで言われてるんだよね。噂ではテロ集団のロケット団かもって話もあるぐらいだ。
「二人でいるから大丈夫だと思うけど……アイカワ、甲斐性みせなさいね。はいこれ」
そう言いながらエリはレジまで歩いていき店員さんからバーコードリーダーを借りてピピッとレジを済ませて僕にさっきの本を渡してくる。それに僕は財布からお金を出して手渡した。ああ、財布の冬が……
「はぁ……ありがとう。甲斐性の方は少し自信がないかな」
「ユースケくんの場合少しどころじゃないような……あ、でもたまには少し勇敢な事だって……」
「ラン、少しはオブラートに隠してよ……」
なんか面もって言われると悔しいし照れ臭いし
「はいはい。それじゃラン、アイカワ、また明日ね」
さっさと帰れって事みたいだ。危ないって話があるんだ。委員長って立場な以上は仕方ないか
「うん、エッちゃんまた明日」
「じゃあね」
それはランも察したみたいでそう言って僕と一緒にミサキ書店を後にした。それじゃ早く帰ろうか