卒業試験
「おはよ、ユースケくん! 眠そうだけどそんなので今日大丈夫?」
「おはようラン……朝がこんなのはいつもの事だよ。大丈夫、、試験前には平常運転になってるよ。なってみせるよ」
今日は卒業試験当日。昨日卒業式を終えて次の日だというのにこの卒業試験だ。余韻とかそういうのには浸らせてはもらえない
卒業試験っていうのはいわゆる免許取得のための試験みたいなもので、トレーナーやブリーダー志望の人だけが受ける試験なんだ。合格した人は晴れて免許であるトレーナーカードを発行してもらって旅に出ることが出来るんだ。当然落ちたら近々また追試を受けることになるんだけどね
「ほら、ケーシィもまだ眠そうだし問題ないよ……うん」
『……俺は、バトル前に起きればいいけど…お前は…ペーパー…試験があるからな』
途切れ途切れのテレパシーが聞こえてくる。余裕ぶってるなぁ……僕だって眠いなりに試験前で緊張してるってのにさ。
「アハハ……それで自信の程はどう?」
「リョウトが相手だからね……自信とかそういうの関係なく負けるわけにはいかないよ。勝負のカギは知恵と勇気」
『それと…直感…だな』
ケーシィの言うとおりそんなところだよ。この3つと今までスクールでやってきたことの積み重ねがあれば勝てるよ。今日のために切り札だって準備したんだ……負けるわけにはいかない!
「しっかりしてよ……一緒に合格してケンイチくん含めて3人で旅に出るんだから」
「分かってるよ。ペーパー試験だってなんだってやって見せるよ」
そうだよ……寝ぼけてる場合なんかじゃないよ。目の前に一つ目標がある以上は躓く訳にはいかない! とりあえず目を覚まさないとね……よし、学校までダッシュだ!
「ラン、目覚ましついでに走ろう! しっかり着いてきなよ!」
「あ、待ってよユースケくん!」
そう言って肩にかけていた鞄をかけなおしてから走り出した。さってと早くスクールに行ってケーシィを叩き起こしてペーパーもバトルもフルポテンシャルでやれるようにしないとね。さあ、全力で行くぞ!
◆
ペーパーテストも終わって残るは実技試験……ポケモンバトルのみ! 僕はベルトからボールを取り出してそれを眼前まで持ってくる。ケーシィ、テスト前に叩き起こしたけど居眠りとかしてないよね?
「ケーシィ」
『オーケーだユースケ。ヘラクロスと勝負する準備は万全だしメガホーンの直撃をもらう覚悟もできてる……やれるさ!』
いや、リョウトのヘラクロスはそのむしタイプの必殺技って言える技は覚えてないけど……というかそんな技をもらったらケーシィの防御力じゃ+抜群のダブルパンチで【ひんし】状態どころですまないんじゃないのかな……まあ今でもつのでつく攻撃でも危ないんだ、当たらなければの原理でやるしかないよね
「それじゃ行こうケーシィ」
『おう。頼りにさせてもらう』
それは僕のセリフだよ。ボールをベルトにセットしなおしていつもの演習場に向かう。そこが今回の会場だからね……よし、行こう!
僕は扉を開いて中に入る。そこにはもうミナミ先生とリョウトが来ていた。リョウトは目を閉じて腕組みしてすでにフィールドで待機している。
「先生、お待たせしました。さあリョウト、始めようか」
僕もバトルフィールドに入ってすぐに戦えるように構えた。緊張を唾を飲んで誤魔化そうとする。怖がるんじゃない……しっかりするんだ!
「ユースケ、お前にはランは渡さん!」
「お前は何を言っているんだ。アイカワ、試合準備は出来てるな!」
「大丈夫です。やれます!」
ランは関係ないよ! いや、リョウトには渡さないしむしろ僕の……僕は何を言うつもりなんだ!
とりあえずケーシィを出そう、頼むよ!
「頼むよ、ケーシィ」
僕はモンスターボールからケーシィを出した。よし、さっきも言ってたようにやる気も十分! 後は僕がプレッシャーに負けないだけだ!
『緊張してる場合じゃないぞ。勝つんだろ?』
ん、なんか緊張してるのがばれてる……まあ付き合いが長かったらばれるか
「GO!!ヘラクロス」
それに対してリョウトはヘラクロスだ。パワーもタフさもケーシィより圧倒的に上だ。こっちが一撃でももらう前に決めるしかない!
「ふふふ、ユースケ!貴様を地獄に送ってやるぞ。覚悟しろ!」
怖いなぁ。なんていうか自慢の正拳をしてきそうだよ……それも納得できないほど理不尽な理由でさ
ま、そんなことないよね
「よし! 始め!」
先生の試合開始のコールがかかった。最初は様子見だ……リョウトのやり方は知ってるつもりだけど、つもりでかかって痛い目を見るつもりなんて僕には一切ないよ!
「ケーシィ!シャドーボール」
簡単な攻撃でとりあえずヘラクロスに仕掛けてみる。命中することもあまり期待してないんだよね
「ヘラクロス、飛び込め!」
ヘラクロスは体を半身にしてシャドーボールを回避、そしてそのままヘラクロスがケーシィに向かって駆けてくる。格闘技で言う体裁きか……最小限の動きで回避する芸当は他の動作をする時間が増えるからやっぱり強い
「ヘラクロス、角で突く攻撃」
『ヘラッ!』
『そう簡単に!』
「追撃が来るよ! テレポートだ!」
ケーシィは大きくバックステップをして何とか回避に成功した。けどヘラクロスは止まらない。また角を突き出してきている。
けどバックステップをしてまだ地面についていないケーシィは隙だらけだ。そこに角の一撃が決まる寸でのところでケーシィが消える。出てくる場所は……
『お約束通りだ!』
「背後、ガードしてダメージを押さえろ!」
恒例の背後取りだ! マンキーぐらいの小柄ならバランスを崩すためのキックは通用するかもしれないけど、ヘラクロス相手にそれはできない。だったらやる事は一つだけだ!
「シャドーボールで!」
ケーシィはシャドーボールを放つ。直撃、だったけどヘラクロスは後退するだけで吹っ飛ぶには至らない。だったらもっと叩き込むまで!
「シャドーボールで押し切ろう!」
『徹底的に叩き込む!』
休めると思うんじゃない! バランスを崩しているヘラクロスにケーシィは次々とシャドーボールをぶつけていく。第一射でバランスを崩してるから第2射以降は回避できていない。3発4発5発……これだけの直撃を受けてるんだ。これだけ受ければ……!
「行けるな、ヘラクロス」
え……まだやる気!? これだけの直撃を浴びているのに耐えてくるヘラクロス。耐えて耐えて一撃に賭ける……ベテランのボクサーみたいな印象を受ける戦い方だ。それ故に一発だってもらえない!
「こらえる発動! ユースケ、ケーシィ、ヘラクロスを止められるものなら止めて見せろ!」
『ヘラッ!』
リョウトとヘラクロスの咆哮。こらえるを発動してケーシィにただただ突進してくる。テレポートで回避に専念する? いや、そのうち体力が足りなくなって失敗したところを狙われるに決まってる! だったらやるべきことは一つ!
「ケーシィ、特大のシャドーボールを使おう! こらえるだって構わずに吹っ飛ばして距離を取る!」
『ちっ! やるしかないか!」
ケーシィは頷いてからシャドーボールのエネルギーを貯め始める……引き付けて
「そこだ!」
『吹っ飛べ!』
よし、目の前で直撃だ! これで吹っ飛んで……
『ヘラァ!』
う、嘘!? あの特大のシャドーボールの中を突っ切ってきた!? ジャイトのマンキーも大概だったけどあのサイズを受けてくるなんてなんてパワーファイトを! こらえるで突破が……
「いけえ正拳突きだ!」
『―――!』
「ケ、ケーシィ!」
ヘラクロスの突き出した拳がケーシィに突き刺され吹っ飛ばされる。そ、そんな……
「とったぞ! ユースケ!」
『ヘラ!』
『勝手にやられたことにすんな!』
え……このテレパシーはケーシィじゃないのか? だとしたら今吹っ飛ばされたものは!
『オレならここだ!』
「今だ!」
ケーシィはヘラクロスの真上に回っていた。それを確認した僕はケーシィに攻撃を促す。みがわり……体力を消費して自分そっくりの人形を作り出す技だ。これが僕たちの切り札だよ!
みがわりを作って素早く死角にテレポートしてたんだ!
「ヘラクロス!」
何発もシャドーボールを受けていてその上に一瞬油断した時にシャドーボールをぶつけられたヘラクロスはついにダウンした。そしてその前にケーシィが何とか着地する。ふぅ……ヒヤヒヤするよ
「ヘラクロス戦闘不能、よってユースケの勝ちだ」
先生の僕の勝利を告げるコールがかかる。その瞬間に声は上げないけどつい分かりやすくガッツポーズをしてしまう。僕の力かっていえば怪しい、ラストだってケーシィの咄嗟の判断があったからこそだけど勝てたことが嬉しくて仕方ないんだ!
「戻れヘラクロス……くそぉ、認めないからな。絶対ランは渡さないから」
リョ、リョウト、いつまでそんなこと言っているのさ! 流石にそれは女々しいというか割り切ろうよ!
「なんの話をしているんだ?」
「子供にもいろいろあるって事……じゃないですか?」
とため息交じりに先生に返すしかなかった