赫奕たる銃弾
完結編 『過去よりも、今と明日へ』
大護
(マフィアの野郎…あえてクルーを囮にして船を乗っ取る算段か?)


俺は睡眠ガスの類いと思われる霧の中で、口を押さえながら銃を構える。
現実的に考えてオモチャの様な重さの銃だが、この世界はSFだ。
だとしたら、○ーミネーターとか○ラえもんとかの世界で出て来る様な武器の可能性も高い。

とりあえず、試し撃ちはしとかねぇとな!


大護
(基本的な機構は同じっぽいな…安全装置はこれで、後はトリガー弾くだけ)


俺は片手で軽く操作してそれを理解する。
そして、足音がした方に向かって俺は銃を撃った。
すると、ピシュン!と軽い音が鳴って短い光線が出る。
俺はおおっ!と軽く感動し、撃たれた対象を見てみた。
…が、相手はビクともしてないのかすぐに反撃をして来た。
カンカン…と俺の足元に何かが投げ付けられ、俺はそれを見てすぐに飛び退く。
船内側に飛び退いた俺が見た物は閃光弾だ。

俺は一瞬目が眩むも、すぐに反応して目を瞑りやり過ごした。
だが、少しの間は目が見えない…足音が一気に雪崩れ込んでる、突入して来やがったか!


大護
(ちっ、あのアーマーみたいなのはレーザーとかビームを弾く性質があんのか?)


少なくとも、確実に体には当てたはずだ。
なのに即反撃とはダメージが無かったとしか思えない。
倒れた気配も無かったし、対策はされてたってこったが…

俺はすぐに光線銃を捨て、ナイフに持ち替えた。
そして目を瞑りながら相手の気配だけを便りに前に出る。
どの道ガスで視界は悪い…相手は対策してるだろうから、こっちの動きは丸見えだろう。
問題は向こうさんの銃だが…


大護
(果たして船内で発砲出来るかな? 飛べなくなったら最悪だろうからな!)


俺は相手の銃が過剰火力だと予測し、銃は撃たれないとタカを括った。
そして予想通り、敵は発砲して来ない。
俺は瞬時に敵の懐まで踏み込み、目を瞑ったままナイフを振った。
手応えは…あり! 首付近を切ったはずだ、最初の奴と同じなら即死するはず。

その後、ズダァン!と敵が倒れる音が響いた。
俺はすぐに気配を読み、相手の人数を把握する。
ザッと4人! 全員マフィアで輸送コンテナは?
多分最後方だろう、それっぽい音が聞こえる。
俺は若干目を開け、状況を確認した。
よし、見えるな…!


大護
「…ガスは大分散ったか、これなら視界も十分だ」


時間が経つにつれ、ガスは外へ放出されていった。
敵はやや慌てた様子で俺に銃を向けている。
前に見たのと同じ物であり、光線銃だろう。
撃てるのか? 船に傷が付くぜ…?

俺はナイフを片手でクルクル回し、少々眩暈がしながらもしっかりと敵を見据えた。
獣型のポケモンって所か? 全身黒づくめの武装してるから顔も解らねぇが…

武器を使うって事は、自分の技には自信が無いってこった。
ポケモンなら、下手な銃器よりよっぽど強い技が使えるんだからな。


大護
(あったぞ…コンテナだ、あれに姫さんがいるんだな?)


俺は最後方に見えるスロープの上でコンテナを見付けた。
大きさは直径1.5m四方位だ…人ひとりは余裕で詰め込めるな。
さて、敵は4人…何とかなるか?

実際にはかなり辛い。
所詮俺は生身の人間だからな…しかもガスの影響で眩暈がしてる。
少なくとも今の俺は疲労もそこそこあり、万全の状態では無いのだ。

しかも武器はナイフと残弾1発の愛銃のみ…
相手は獣型っぽいが、全身フル武装のポケモンか…
やれやれ…面倒なこって。


ドバァァァァン!!


敵A
「な、何だ急に!?」

敵B
「後方から…ぐあっ!?」


突然、敵の後方から水飛沫があがる。
何か強烈な衝撃を受けたのか、敵はこちらに向かって吹っ飛んで来ていた。
俺はそれを回避して状況を確認する。

これは…水だな。


大護
(ってー事は、今度こそ増援さんが来てくれたってこった…)


俺は少し息を吐き、ナイフを片手に前に出た。
そして慌てている残りの敵に近付き、すかさず首を切り裂く。
俺は踏み込んでから数秒かからずにふたりを始末し、悠々とコンテナの元まで辿り着いた。
すると、スロープの下には敵が水浸しでおねんねしている。
俺は息を吐き、ハンカチをズボンの後ろポケットに捩じ込んで頭を掻いた。



「…お前がダイゴ・ツワブキか?」

大護
「そういうアンタは佐藤さんとこのクルーか?」


俺たちはそれだけ言葉を交わし、互いに警戒を解く。
相手は異様な右腕をした赤い髪と服の屈強な男だった。
その右腕はまるで砲台の様に大きく、本人の体格を上回るその巨大さはまさに圧巻だった…

気になる事は他にも色々あるが、今は残念ながらそんな余裕が無い。
俺はすぐに切り替えてこう促す。


大護
「とにかく急ぐぞ…コンテナは開けられるか?」

赤い男
「ふん、こんな物…!」


赤い男は右腕から水を発射し、その衝撃で鍵を破壊した。
鉄製の頑丈な奴みたいなのに、あっさりとかよ…
どうやら、かなり高圧縮した水鉄砲みたいだな…成る程敵さんが1発で吹き飛ぶ訳だ。
あんな砲弾みたいなウォーターガンを食らったらそりゃ痛いだろ…ガンってかキャノンみたいだが。


赤い男
「…この少女がそうか?」

大護
「ああ…間違いない」
「よし、すぐに撤退だ…追手が来る前に逃げるぞ?」


赤い男は無言で俺よりも速く移動を開始する。
どうやら、足にはホバー装置みたいな推進装置を付けているみたいだ。
成る程、あんな重そうな腕でも機敏に動けるってか…○ムみてぇだな。


大護
「って、俺が足引っ張ってんじゃねぇか!?」


赤い男は姫さんを左腕で抱き抱えて移動してくれていた。
俺は気が若干抜けて動きがあからさまに鈍い…
やれやれ…やっぱ無理するもんじゃ無かったかな?



………………………



赤い男
「戻ったぞ! すぐに発進だ!!」

佐藤
「オッケー、ギル! 大護君は!?」

大護
「だぁ〜!!」


俺は完全に息を切らし、佐藤さんの船内に入ってすぐに倒れた。
そのまま意識は朦朧とし、俺は眠りに落ちる…
ダメだ…今度こそ、限界だ…な。


佐藤
「ありゃりゃ…どんだけ無茶したの〜?」

ギル
「ふん、ひとりでマフィアの船内に潜入して交戦していた様だからな…」
「無鉄砲な物だ…私の到着を待てば良かったものの」

佐藤
「まぁ、それだけその娘が大事だったんじゃない?」
「とりあえず船はすぐに出るから、ふたりを部屋に運んでおいてくれる?」

ギル
「了解だ、任せておけ」



………………………



大護
「………」


俺が目を覚ますと、独特の駆動音が耳に入る。
確か、佐藤さんの船に飛び込んだんだよな?
だとしたら、とりあえず無事に宇宙には飛び出せたのか?
俺は上半身を起こし、少し頭を抱える。
くそ…まだクラっと来るな。
ここまでロクに休まずやって来たからか、流石の俺も疲労困憊の様だ。


大護
「……ん?」


俺の寝ていた布団に突っ伏す存在を俺は発見する。
透き通った白く長い髪が布団の上に散らばっており、椅子に座ったまま顔面から布団に突っ伏していたのだ。
俺は少し安心し、しばらくそのまま休む事にした。


大護
(姫さんも、無事で何よりだ)


俺は部屋をザラッと見回す。
部屋は正にSFって感じの広い空間。
窓からはほとんど光も差しておらず、恐らくは宇宙なのだろう。


大護
(これで…仕事も終わったか?)


佐藤さんも管轄外まで行けば大丈夫と言っていたし、さしもの宇宙海賊マフィアとはいえ無茶はしないだろう。
何処の世の中でも、ヤクザは警察に手を出さねぇモンだからな…


大護
「………」


俺は、ふと考える。
このまま元の世界に帰れないのであれば、俺は一体どうすりゃ良いのか?
このまま佐藤さんと一緒に別の銀河に行くか?
それとも、何処か安全そうな星で降ろしてもらうか?

家に残している家族の事も心配だ。
皆、俺を探してたりするんだろうか?
それとも、向こうじゃ時も止まっているんだろうか?
考えても考えても…答えなんて出はしなかった。


大護
(いっその事、この世界で骨を埋めた方が良いのか?)


帰る方法が無いなら、そうするしかない。
納得はしかねるが、それでもどうしようもない。
俺は所詮ただの人間だ…神様じゃあ無ぇ。
それが運命なら…受け入れるしか無ぇわな。

俺は再び上半身をベッドに埋め、両手を後頭部に当てて寝る。
とにかく休養だ…今は体をマトモにしねぇとならねぇ。



………………………



ギル
「…つけられてるのか?」

佐藤
「流石にね…でも、そろそろワープ可能宙域に入るから引き離せるはず」
「いくらマフィアって言っても、ワープで別銀河まで行けば迂闊に近付いて来ないはずだよ」

大護
「それが解ってるなら、すぐに攻撃して来るんじゃないのか?」


俺たちはメインルームとかいう場所で話し合っていた。
佐藤さんは操舵を担当し、ギルは砲撃主。
俺は立って佐藤さんの側にいた。
今は絶賛逃亡中であり、どうも少し離れた場所からマフィアに狙われてるらしい…


佐藤
「すぐに仕掛けられるなら、こっちも加速するだけさ!」
「スピードなら、そんじょそこらの船に負ける程この子は遅くないよ!?」


そう言って自信満々に佐藤さんは言い放つ。
余程の自信なのか、満面の笑顔だな…


佐藤
「そういえば、電話充電しておいたよ?」

大護
「おお…忘れてたぜ、助かった」


俺は佐藤さんからスマホを受け取り、すぐに電源を入れる。
しばらく起動画面に入り、俺は立ち上がるまで待っていた。


佐藤
「ホントに古いタイプだよね〜今時、USBケーブルで有線充電とか逆に貴重だよ!」

大護
「こっちじゃ逆にこれが主流だからな…」


俺は起動したスマホのロックを解除する。
そしてまず画面に映ったのは、ひとりの女の顔…


ピース
『………』

大護
(…ん? 珍しいな、黙りこけるなんて)


いつものピースなら毒舌のひとつでも出て来るだろうに。
それとも、何かあったのか?
俺は何となく気になるも、すぐにスリープさせてスマホをズボンのポケットに突っ込む。
まぁ、ピースの事は後からでも良いだろ。


大護
「姫さんの事、本当に頼んで構わないのか?」

佐藤
「良いって良いって! どっちにしても追われる立場でしょ?」
「それなら私たちと来た方がきっと安全だよ! こっちもトラブルには慣れてるし♪」

ギル
「ふん…お前の場合は自分からトラブルに巻き込まれるからな」


ギル(ブロスターというポケモンらしい)はレーダーを見ながらそうボヤく。
どうやら佐藤さんとは長い付き合いみたいだが、別に夫婦とかじゃ無さそうだな…
とはいえ互いに信頼はしてるみたいで、そういう関係なのは傍目からでも解る。

ぶっきらぼうそうに感じるが、ギルも佐藤さんの行動を否定したりはしないみたいだし…


ギル
「とにかく、お前は気にするな」
「サトーはこうと決めたら絶対に折れん」
「不器用な女だからな…生き方に関しては」

佐藤
「あっはは…君に言われると複雑だけどね〜」


俺は軽く息を吐き、とりあえず納得した。
ここに預けりゃ姫さんは多分大丈夫だ。
後は、良くも悪くも運命次第ってこったろう。
俺の役目は本格的に終わりだ…後は、気ままに流れてみるかね?


大護
(やれやれ…こういう時タバコが無ぇのは辛ぇな)


この世界にも何処かでタバコはあるだろうし、まずはそれを探してみても良いかもしれない。
ピースも一緒なら、そんなに退屈でも無ぇだろうし。

…充電の問題は残ってるんだがな。


大護
「そういや、俺のスマホはどうやって充電したんだ?」

佐藤
「そりゃケーブル自作したよ〜、出力が想像以上に低いからかなり気を遣ったし…」
「一応これがそうだよ〜、それならこの船のコンセントから充電出来ると思うから」


そう言って佐藤さんはケーブルとアダプターを渡した。
何か、物凄くコンパクトで軽い…
いかにも未来の物質です!って感じのケーブルだな…
とはいえ自作というだけあり、シンプルな色合いでロゴとか規格とかも書いてなかった。


大護
「ありがたく頂くぜ♪」


俺はそう言って笑い、一旦部屋に戻る事にした。
とりあえず、ピースを問い詰めるか…



………………………



大護
「ピース、どういうつもりだ?」

ピース
『…まさか、こんな形で帰って来るとは』


俺は部屋に戻り、すぐに扉を閉めてからスマホを起動させる。
そして開口一番ピースにそう言い、当のピースは何やら呟いた。


大護
「どうしたんだ? 何か気付いた事があるのか?」

ピース
『…誰にも言わないって約束出来ます?』


俺は顔をしかめて口ごもる。
あのピースが、口止めだと?
それも、誰にもってか…?


大護
「…言いたくないなら良い」

ピース
『ダイゴはやっぱりそう言いますよね…』
『本当は気になる癖に、絶対に踏み込もうとはしない』
『…まぁ、そんなダイゴが私は好きなんですけど♪』


ピースは無理矢理笑っていた。
俺は異様な違和感を感じてしまう。
あの暴君が、こんなにまでしおらしくなる程重要な話なのか?
いつものピースは、今ここにいねぇみたいだ…


ピース
『…佐藤 花子は、私のボディを修理してくれた恩人…マスターなんですよ』

大護
「…!? 何…だ、と?」


俺はいきなり衝撃を受けてしまう。
ピースが言った言葉を俺はすぐに理解する事が出来ず、その意味を探してしまったのだ。
ピースはそんな俺の反応を余所に、静かに語り始めた…


ピース
『とある計画の最中、私は死んでいた所をマスターに拾われました』
『当時の私は既に脳が死んでいて、ボディも半壊状態…』
『マスターはそんなポリゴンだった私のボディと脳を造り直し、今の私は再起動しました』


それは、正にピースの過去。
ポリゴンってのは、人工的に造られたポケモンとは聞いてたが…
まさか、あの佐藤さんがピースを造ったってのか?
かなりの天才肌だとは何となく感じてたが、相当凄ぇ人だったんだな…


ピース
『まぁ、それから色々あって私はポリゴン2に進化』
『マスターやギルさんと一緒に、この船で宇宙に出てました…』
『ですが私の訓練テスト中にゲートが開き、私は転移してダイゴに拾われたんです』


俺は言葉が出なかった。
つまり、ここはピースの故郷ってこった…
俺は、それならどうすりゃ良い?
ピースは…やっぱり佐藤さんと一緒にいたいのか?
それなら…俺は。


大護
「ピース、それなら…」
ピース
『過去の話ですよ』


俺の言葉をピースは遮ってそう言う。
その声色はいつもの暴君であり、俺のよく知るピースの声だった。


ピース
『何同情しようとしてるんですか?』
『今の私は、もう佐藤 花子が覚えている私じゃありません』
『よって、あの人はもうマスターでも何でもないのです!』
『今の私は、石蕗 大護の妻…それ以上でもそれ以下でもありませんので!』


俺は、思わず吹き出してしまう。
そうかよ…それがお前の選んだ選択なら、俺は何も言えやしねぇ。
それなら…俺たちは永遠のパートナーだ。
それで、良いんだろ。


大護
「…なら、これからどうする?」

ピース
『このままじゃ子作りも出来ませんし、何処かでボディを調達しますかね?』


既に帰れない事前提なのな!
とはいえ、確かにそれなら本格的に考えなきゃならんからな〜
ピースもこのままだと欲求不満で暴走しかねんし、対策は必要かもしれん。


大護
「とりあえず、佐藤さんに頼んでキャタピラ戦車のボディでも造ってもらうか…」

ピース
『いや、それ完全にギャグですよね!?』
『いくら私でも、キャタピラポリゴンは勘弁ですよ!?』


俺は大笑いして腹を抱える。
何だ…別にこのままでも楽しくはやっていけそうだ。
つまる所、人のあり方なんてモンはその場次第なんだろう。
俺たちがいる場所その物が、そもそもの居場所なんだ…


佐藤
『これより、長距離ワープに入ります!』
『全クルーは衝撃に備えてください! 後5分後にゲートへと突入します!』
『繰り返す! これより長距離ワープに……』


そんな台詞が船内のスピーカーに流れていた。
どうやら、ワープに入るらしい。
結局、マフィアは仕掛けて来なかったか…
姫さんは、これでようやく安全圏に入るな。


ピース
『ワープが終われば、別の銀河ですね』

大護
「どんな場所か、お前は解るのか?」

ピース
『第7太陽系銀河なら、ダイゴも解ると思いますよ?』
『もっとも、この世界の地球には人間は住んでいませんがね』


俺はそれを聞いてああ…と思う。
地球もちゃんとこの世界にはあるのか…
とはいえ人間は住んでない、ね…それも宇宙の摂理なら仕方無ぇんだろう。
星にだって、寿命はあるらしいからな…


大護
「まっ、何にせよこれで一段落だ…」
「早ぇとこタバコの1本でも吸いたいぜ…」

ピース
『この時代でもタバコはあるでしょうけど、値段は相当すると思いますよ?』
『買う気なら、しっかり稼がないといけませんね〜』


俺は聞いてげんなりする…タバコは貴重品ってか。
やれやれ…世知辛いねぇ〜
俺は頭を抱えながら、禁煙生活を余儀無くされる事となった。
そして若干の不安を感じつつも、数分後に船はワープへと入る。
若干の揺れと共に船はゲートへ突入…そこからしばらくはワープの旅だそうだ。

窓から見える形式はまるでアニメの一幕…形容しがたい世界が外には広がっていた。


大護
「スゲェな…ホントにワープしてんのか?」

ピース
『そうですよ…別銀河まで一気に移動しますので、10分以上はこの状態ですね』


俺は軽く感動しながら外を見続ける。
淡い光が点いたり消えたりしており、それらは光の帯を引いて高速で流れているのだ。
おおよそ人間には理解不能なんだが、とにかく凄いとしか言い様が無かった…


大護
「やれやれ…しばらくはこんな感じか」


俺は、この時妙な違和感を感じる。
そして気が付いた時には…俺は見知らぬ場所に立たされていた。


大護
「な、何だと!?」


「ようこそ、我が母艦へ…ダイゴ・ツワブキ」


俺は薄暗い部屋で何者かに話しかけられる。
俺が声のした方を向くと、何やら浮いている車椅子に座った老人が見えた。
服はまるでマフィアのドンって感じのイメージで、やや近未来的。
この時点で、俺は状況を理解する。


大護
「まさか、ワープ中に俺を拐ったってのか!?」


「ふふふ…確かに遥か遠くの別銀河へ行かれては、こちらも手は出せんからな」
「しかし、得てして長距離ワープというのは無防備な物よ」
「より強力な力を持つ相手には、その弱点をさらけ出す事になる…」


老人は、頭に何かチカチカ光るヘルメットを被っていた。
何かの装置の様にも見えるが…コイツもポケモンなんだよな?

一見、見た目はただの人間に思えるが…顔には青い縦筋、耳は赤く横に伸びている?
そちらには青い横筋が入っていた。
そしてやけに気になったのは、胸部の水晶体らしき物。
大きさは結構あり、心臓の数倍はありそうな大きさだ。
とりあえず、この状況がマズイのは明白だな…



「ふふふ、そう構える事は無い」
「今回は君と交渉をしようと思ってね」

大護
「交渉だと? その前にテメェは何モンだ?」


「おっと、説明が必要だったかね?」
「それはすまない…私は『デオキシス』の『ワイズ』」
「宇宙海賊マフィアのゴッドファーザーさ」


聞いた事無ぇポケモンだが、マフィアのゴッドファーザーね…
つまり、コイツは正真正銘ボスってこった。
そんな大物が、俺に交渉だと?


ワイズ
「ダイゴ・ツワブキ…私は君の事が気に入った」
「人間という希少種でもあるし、何よりもその腕が素晴らしい!」
「無能とされるその身で、私の部下を悉く退けたのだから…」

大護
「勘違いすんなよ? 俺ぁ俺の仕事でやっただけだ」
「マフィアの下っ端なんざやる気は無ぇ」

ワイズ
「そうか、ならばこれではどうかな?」


突然、ワイズは指を鳴らして姫さんを呼び寄せる。
どうやら既に捕まっていた様で、姫さんは気を失っているみたいだ。
体はロープで縛られている、あれだと気が付いても逃げられないだろう。
俺は舌打ちをし、ワイズを睨み付けた。
すると、奴は余裕の微笑を浮かべてこう続ける。


ワイズ
「いかがかな? この少女と交換条件というのは?」

大護
「悪党の言う事を信用しろってのか?」
「ましてや、マフィアの言う事を?」

ワイズ
「君は中々に賢いが、それでも甘い…」
「その甘さはこの業界では不要だぞ?」

大護
「………」


俺は頭の中でどうすれば良いか考える。
相手の能力が解らねぇが、ここには奴ひとりしかいない。
つまり、ひとりで十分という自信の現れ。
組織のボスが、こうやって堂々と姿を見せて交渉しているのだ。
俺の手持ちじゃ、多分勝ち目は無いんだろうな…

だったら、俺がやるべき事はひとつしかない。


大護
「全部お見通しってか?」

ワイズ
「私の超能力の右に出る物は、この世におらんよ」
「ましてや、私程長い時を生きたデオキシスもいまい」
「読心、洗脳、転移…ありとあらゆる超常現象は起こせると思ってくれて構わない」
「もっとも私は神では無いのでね…世界を創造したりは出来ないが」


スケールの大きなこって…
だが、それならそれで付け入る部分も無くは無い…か。


大護
「本当に姫さんを諦めてくれるのか?」

ワイズ
「勿論だ、君というこの世にふたつとない原石に比べれば、モスノウの王族など路傍の石に過ぎないのだから」


つまり、天秤にかける必要も無いってか…
それなら、俺が選ぶ選択はこれしか無ぇな。


大護
「良いだろう、要求を飲んでやる」
「ただし、姫さんの安全を確認してからだ」

ワイズ
「ふふふ、良かろう…」


ワイズは微笑して指を鳴らすと、姫さんの姿は消える。
そして、すぐに俺の視界が変わった。
どうやら状況を見せられている様で、姫さんは佐藤さんの船にある部屋へと転送されていた。
偽物かどうかは判断しかねるが…まぁ、仕方無いか。


ワイズ
「いかがかね? 約束は守ったぞ?」

大護
「ああ…なら、これで俺はアンタの仲間だ」
「もっとも、生きてれば…だがな!」


俺はそう言って愛銃の引き金を引く。
サイレンサー無しの銃声は部屋に大きく響き、銃弾は対象の肉と骨を貫いた…
その対象とは…俺自身だ。



………………………



キィィン!! キン! キン!


ワイズ
「……!」


大護は、自らの命を捨てた。
確かにマフィアの仲間にはなったが、大護は姫の安全と引き換えに命を捨てたのだ。
たった1発残されたその弾丸は床へと転がり、死体からは血が流れ出る。
脳を的確に撃ち抜いたそのダメージは、確実に即死だった。


ワイズ
「…ふふふ、成る程それが君の選んだ道か」
「これは確かに私の負けだな、この未来は読めなんだ」
「しかし、君はやはり甘い…私の力を想定出来ていなかった」


ワイズは手を死体に翳し、損壊した死体の細胞を再生させた。
失った血は戻らないものの、大護の肉体は傷ひとつ無い状態に戻る。
意識はすぐに戻らないものの、適切な処置をすればやがて目を覚ますだろう。

これこそがワイズの能力の一端。
人体の細胞を急速に活性化させ、その場で再生させる事すら片手間でやってしまえるのだから…


ワイズ
「…そうか、もう行くのか」
「良かろう、得られる物は得た…私が負けを認めた以上、好きにするが良い」


ワイズが何者かと会話をする。
すると、大護の体はその場から消えてしまった。
部屋に残ったのはワイズひとりであり、ワイズはふふふ…と笑ってひとつの戦利品を回収する。

それを指先で転がし、ワイズは満足そうにしていた。


ワイズ
「この世にふたつと無い、貴重なDNAが付着した弾丸」
「彼の心は確かに手に入らなかったが、これだけでも素晴らしい戦果と言えるな…」


ワイズは銃弾を星の輝きに当てて光を反射させる。
メタルジャケットの50口径マグナム弾は、その光でキラリと輝いた。


ワイズ
「まさに、『赫奕たる銃弾』よ」
「この輝きは、永遠に我らを照らすであろう…」



………………………



チュン…チュン!


大護
「………」


俺は、小鳥のさえずりで目を覚ます。
すると、そこは俺の部屋でありどうやら時刻は朝の様だ。
俺はクラっとする頭を抱えながら、ゆっくり体を起こした。


大護
「いってぇ…昨日、そんなに飲みすぎたか?」


そんな酔い潰れる程飲んだ記憶は無ぇんだが。
俺はとりあえず、枕元にあるタバコを手に取る。
そしてすぐに火を点け、俺は朝の余韻に浸った。


大護
「ふぅ〜なーんか、長い夢を見ていた様な気分だな?」


俺は煙を吹きながら窓を見る。
カーテンを閉めきっているから、薄暗ぇな。
しかしカーテンを一々開けるのも億劫になり、とりあえずベッドから立ち上がって灰皿を手に取る。
すると、いきなりバタン!と大きな音をたてて、ひとりの女が入って来た。


ピース
「おはようございますマイダーリン!!」

大護
「おう、朝から元気だなお前は…」

ピース
「ふふふ〜何なら朝勃ち処理してあげますよ?」

大護
「せんで良い…そもそも勃って無ぇからな」


俺は冷静にそう流して灰を灰皿に捨てる。
ピースは胸を持ち上げてアピールするも、俺は全く目に入らなかった。
それよりも頭が痛ぇ…


大護
「とりあえずとっとと出て行け、すぐに俺も出るから」

ピース
「仕方ありませんね…すぐに来るんですよ?」
「折角の愛情込めたトーストが冷めてしまいますので!」


そう言ってバタン!と大きな音をたててピースは出て行った。
朝から騒がしい奴だ…
しかし、オーブンのタイマーで焼くだけのトーストに愛情など込められるのだろうか?
それはむしろピースの愛情ではなく、トースターの愛情にも思えるのだがこれは俺だけだろうか?

俺はとりあえずタバコを1本吸いきってから着替えを済ませる。
そして痛む頭を我慢しながら、リビングへと向かった…



………………………



蛭火
「おはようございます大護」

大護
「おう、蛭火たちは今日も仕事だったな…」

細歩
「大護〜…おはよ〜…」


細歩は目を瞑りながら、そう言ってトーストをかじっていた。
いつもの事だが、細歩は朝が極端に弱ぇな…
それでもエスパータイプだから、食事とか普通に出来ちまうんだから凄ぇモンだ。


ディアルガ
「………」

大護
「お前もいんのかよ…そろそろ自分で家見付けたらどうだ?」


ディアルガは顔をしかめながらトーストをかじっている。
結局、あれからディアルガは頻繁に居着いていた。
近くには妹の常葉さんもいるんだから、そっちに住めば良い物を…


ディアルガ
「ふん、別に良いじゃない…部屋は空いてるんだから」

大護
「だったらせめて働け…ネット代くらいは何とかしろ」

ピース
「全くです! 働かざる者食うべからずだと言いますのに!!」


ピースはデカイ口を聞くものの、裏家業以外ではコイツも働いて無い。
家事は最低限やる様になったものの、基本的にそんなモンは家族全員がやれる時にやるモンだからな…
むしろ普段の食事代を考えたら、ピースはマイナスまであると思うが?


ディアルガ
「まぁ、その内何とかするわよ…」

大護
「早めにそうしろ、何かあってからじゃ遅いんだからな」


俺はそう言ってトーストにバターを塗ってかじりつく。
そして、ブラックのコーヒーを飲みながら朝食を済ませた。
後は各々のタイミングで朝食は終わり、それぞれが別々に動き出す。



………………………



蛭火
「それじゃあ行ってきます!」

細歩
「行って来ま〜す〜…」


そう言って蛭火たちは仕事に向かった。
あのふたりの収入があるからこそこの家はやっていけるんだ…ホントに助かるぜ。


ピース
「さて、洗い物を済ませますかね…」


ピースは終わった朝食の片付けに入る。
アイツはいつもどっかに出掛けて買い食いしてるみたいだが、ホントに大丈夫だろうか?
まぁ、アイツの自由をどうこうするつもりはないんだが…


ディアルガ
「さーて、イベントイベント!」


ディアルガはそう言って部屋に向かう。
イベント…とはゲーム内イベントの事だろう。
アイツのネトゲ厨もどんどん進行してるな…


大護
「カネは、まだ寝てるのか?」


朝には起きて来なかったし、皿も出して無かったからな。
まぁアイツもそろそろ仕事を見付けたみたいだし、それなりに忙しくなってるんだろう…


大護
「さて、俺も出掛けるかな…」


俺は財布とタバコをポケットに突っ込み、そのまま外に出る。
特に目的は無い…今日は仕事も依頼も無ぇからな。



………………………



大護
「………」


俺は近くのコンビニの喫煙所でタバコを吸う。
段々と外で吸える場所も少なくなってんだよな〜
日本のタバコ規制も、厳しくなっちまったもんだ…


大護
(だが、なーんか忘れてる気がするんだよな〜?)


俺は記憶の片隅にある何かを気にしていた。
それはまるで夢の様な記憶であり、酷く曖昧な物。
ただひとつ確かなのは、俺の銃から1発だけ弾が無くなっていたという事実だ。

理由は解らないし、家族も知らないと言っていた。
落とした痕跡も無ぇし、そもそも撃った記憶も無い。
何で、そんな事になったのかねぇ〜?


紫音
「あっ、オッジサーン!」


タバコを吹かしてる最中、紫音ちゃんが俺の方に駆け寄って来ていた。
今日は平日のはずだが、何でこの時間に?


大護
「今日はどうした? 学校は?」

紫音
「うーん、ほら最近ウィルス感染予防って世間が言ってるじゃない?」
「それで、一旦授業が停止してるんだよ…」


ああ…そういう事な。
そういや、蛭火たちもソーシャルディスタンスとか言ってたな〜
年始から徐々に感染拡大してる新型ウィルスってのに対しての処置ってこった。


大護
「そもそも、PKMでも感染すんのか?」

紫音
「海外では何例かあるんだって…ほら、やっぱり私たちも基本の代謝は人間と同じだから」

大護
「そりゃたまったモンじゃねぇな…早くワクチンが出来ねぇと」


何処もまだ新型ワクチンは手こずってるって話だからな。
やれやれ、今年はどうにも問題が多いぜ。
便利屋の仕事も、もう少し増やさねぇとな…
この時期ならデリバリー業界は引く手数多か?
その辺を重点的に探してみっかな…


紫音
「あ、ゴメンね! これから友達と会う予定だから!」

大護
「おう、気を付けてな〜」


俺はタバコを咥えながらそう言って手を振る。
結局、紫音ちゃんとの約束はまだ果たしてない。
トラウマの克服はしたものの、流石に現役高校生孕ませたら紫音ちゃんが大変だからな…

まぁ、それはまた後の楽しみという事で…


大護
「…トラウマ、か」


俺は痛む頭を押さえる。
何かがあった気がするのに、全く思い出せない。
だが、もしかしたらそれで良いのかもしれない。
もし、それがまたトラウマを引き出す様な何かだった場合、俺には邪魔な物だ。

今の俺は、もう過去の復讐に囚われる必要は無いのだから…


大護
(今の俺は、今の生活が充実している)


俺はふっ…と笑みが零れた。
確かに何かあったのかもしれない。
だが、それは多分過去の話だ。
だったら、俺は前を見よう…今を、そして明日を見る為に。

地獄の様なあの日に、もう決して戻らぬ様に。


俺の復讐は…もう終わってるのだから。










Avenger 赫奕たる銃弾


完結編 『過去よりも、今と明日へ』 完



The End…
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Yuki ( 2020/09/09(水) 14:59 )