赫奕たる銃弾
中編 『命を賭けた仕事』
大護
「やれやれ…まさか、こんな強行手段で来るたぁな」

マフィア
「ボスは既に怒りが限界だ、故に手段など選んではいられない」


男はそう言って、指をポキポキと鳴らす。
俺は軽く首を鳴らし、腰に差していたナイフを右手に取って、それをクルクルと振り回した。

それを見て、男は軽く笑う。


マフィア
「そんなナイフでは、この『ブリガロン』の皮膚は貫けんぞ?」


ほう、つまりそういう種族って事か…
成る程、皮膚がブリガンダインみたいな鎧を模してる訳な。
なら、確かに硬そうだ…単純にこのナイフじゃ貫くのは難しいだろう。

俺のナイフは、一応軍用とかで使う本格的なサバイバルナイフであり、切れ味はかなりの物…
普通の人間なら軽く骨まで切れる優れ物なんだが、こいつはどうやら、それすらも弾く硬さが自慢らしい。

俺はとりあえずナイフを両手で回して遊びながら、奴との距離を縮める。
奴はそれを見てボクサーの様な構えをし、打撃をしますとわざわざ予告してくれていた。
やれやれ、頭は悪そうで助かるな。

そのまま、奴は自分の射程に俺が入った瞬間に、右ストレートを放ってきた。
顔面に来るその拳は、俺に読み切られていた攻撃であり、俺は表情も変えずにそれを横にズレてかわす。
その際、ほぼ首だけを動かして俺は回避しており、俺は極力無駄な動きはせずに、ナイフを奴の心臓目掛けて突き出した。

…が、ナイフはキィン!と甲高い音をたて、奴の薄皮を傷付けるだけに止まる。
俺はすぐにナイフを引き、素早くバックステップしてまずは距離を離した。
奴はその場から前進する事はなく、不適に笑みを浮かべて構え直している。


大護
(成る程な、金属に近い性質の皮膚か…確かにナイフじゃ貫くのは無理だな)


俺は今の攻防で相手の装甲を分析する。
ナイフで突いた感じ、金属に近い感触だったのは確かだ。
だが、弾力が無いわけでもなく、あくまであれは皮膚なのだと俺は推測する。

むしろ密度を限界まで高めた繊維質か…?


大護
「………」

ブリガロン
「ふっ、まだそのオモチャで戦うつもりか?」


俺はまたナイフをクルクル回し、今度は無造作に歩いて近付く。
相手は全く警戒していない、自分の装甲に絶対の自信を持っている証拠だ。
奴は体を軽く動かし、フットワークを始めた。
だが、その動きはどう見ても鈍重…
確実なインファイターだというのを、わざわざ教えてるだけだな。

俺はそれを見て、今度は突かずに斬りつけてみる。
奴の反応を越える速度で俺は瞬時に踏み込み、胸元辺りを斬ってみた。
が、やはり金属音と共にナイフは弾かれる。
軽く傷は付くものの、奴の服を裂いただけで皮膚はほとんど無傷だった。

次の瞬間、奴は上から右腕を振り下ろしてくる。
俺はすぐに横へと転がり、それを何とか回避した。
すると、奴の拳は床を軽く抉り、床板の破片がバラバラと飛び散った。
俺は顔面を片手でガードし、破片が目に入るのを防ぐ。

そしてすぐに体勢を立て直し、俺はナイフを構えて立ち上がった。
奴の表情は変わらず微笑…余裕そうで何よりだ。


大護
(突いてもダメ、斬ってもダメか…ってぇこたぁ、的確に急所狙うしかねぇな)


いかに装甲が厚かろうと、あれはあくまで人体だ。
つまり、絶対に柔らかい部位は存在する。
服に邪魔されて下半身は解らねぇが、上半身は多分頭部に至るまで装甲が張り巡らされてるんだろう。
だとしたら、狙うのは関節部分だが…


ブリガロン
「ふんっ!!」


奴は砕いた床板を握り込んで俺に投げ付けてきた。
俺はそれを横にかわすも、背中を棚にぶつけてしまい、ガタン!と棚は横に倒れる。
やれやれ…狭い空間だけに、逃げ場が少ねぇのは厄介だな。

ちなみに、脱衣場には姫さんの服は無ぇ。
シャワーは浴びてたみたいだが、どういう事なのか?
さっさと拐って、俺を誘う為にわざわざ待ち構えてたのかね?
だとすると、律儀なこったが…


大護
(あんまし時間はかけられねぇな…)


俺はそう思い、ナイフをやや前方の足元に投げる。
するとナイフはカンッ!と音をたて、床板に突き刺さった。
ブリガロンの男は、それを見て?を浮かべる。

俺はそれに対し、つまらなさそうにあくびをした。
やれやれ、深夜だってのに仮眠も取れなかったからな…


ブリガロン
「余裕がある様だが、どうやって俺を倒す!?」

大護
「こうやるんだよ…」


奴は、余裕綽々で正面から突っ込んで来る。
そして、挑発に乗って大振りの右ストレートを顔面に振るうが、俺はそれをダッキングで回避し、相手の懐に潜り込んだ。
そのままタイミングを合わし、俺は奴の体重移動が完全に前に流れた瞬間に奴の軸足の膝を蹴る。

すると、どうだろう?
奴の体はそのまま前へと流れ、俺は足で奴の膝を床に固定し、ピンと張った状態にする。
つまり…奴の重そうな体重は、全てその膝ひとつに荷重されるってこった。

次の瞬間、ベキィ!と骨が折れる音と共に、奴は前のめりに倒れた。
そして悲鳴を上げて悶絶、奴は折れた膝を抱えて床を転がっている。


ブリガロン
「あ…がぁぁっ!? そ、そんなバカな!?」

大護
「硬いだけが脳なら、中身も鍛えろ」


俺はそう言って足元に突き刺していたナイフを、足で空中に蹴り上げて、それを手でキャッチする。
そして、俺は悶絶している奴の片目を軽く切り裂いた。
奴は更に悲鳴をあげ、無様に転がる。
俺はそれを見て、極めて冷静にこう言う。


大護
「姫さんは何処だ?」

ブリガロン
「し、知らん!! 俺は何も聞かされてはいない!!」


俺はすぐに奴の右脇を斬る。
すると…奴の右腕はダランと落ち、そのまま動かなくなった。


大護
「言わないなら、このままお前の四肢をひとつづつ潰していく…」

ブリガロン
「ほ、本当だ!! 本当に知らない!!」


俺は、奴の折れてない方の足の膝裏を斬る。
予想通り、関節の裏側は装甲が無ぇんだな…
とりあえず、これでもうコイツは逃げる事も出来ねぇ。


大護
「なら質問を変えてやる、アジトは何処だ?」

ブリガロン
「き、北だ! ここから北の方角に、今は使われてない砦がある!!」


割りとあっさり吐いたな…まぁ、その方が手間がなくて良い。
俺はため息を吐き、そのまま立ち上がって踵を返した。
そして、奴の口内に砕けた床板を蹴り込んでおく。
奴はマトモに声を出す事も出来ず、ただ呻き声をあげていた。


大護
(タイミング的に、時間差は数分か…場所が解るなら追い付くのは簡単だが)


それはあくまで人間を想定した場合の話だ。
相手がポケモンであれば、空でも海でも思いのまま…
とりあえず、姫さんの行方は最悪の状態と言って差し支えないだろう。
そもそも、その砦に姫さんがいるとも限らねぇし…

俺は軽く舌打ちするも、すぐにホテルを出た。
騒ぎに関しては、多めの金を払って黙っててもらう。
とにかく、余計なトラブルだけはゴメンだからな…



………………………



ピース
『情報に間違いは無さそうですね』

大護
「そうか…で?」


俺は深夜に町を出て、例の砦へと向かっていた。
まずはピースに調べて貰い、情報の正誤を確かめさせている。
とりあえず、砦があるのは確定…そこに人がいるのも、だな。


ピース
『姫の反応はありますけど、本気で行く気ですか?』

大護
「…俺は、プロだからな」
「受けた仕事は、必ずこなす」


俺はそう言って、残り3本となったタバコに火を点けた。
そして…それを吹かしながら、ひとりで暗い森の中に足を踏み入れる。
ここから先は、もう何が起こるか解らねぇ。
だが俺は退くつもりは毛頭無い…受けた仕事は必ずこなす。

それが、俺の生き方だからな…



………………………




「お願いします…! どうか…どう、か」


女は、燃える館の中で倒れ付しながら俺に懇願していた。
この女はティアの母親であり、一国の王妃。
だが、悲しい事にこの王族はマフィアに目を付けられていた…

そして、娘共々奴らの手にかかろうとしていたのだ。


大護
「…報酬は、どれだけ出せる?」


俺は通過儀礼として一応聞く。
あくまで俺は、外道でろくでなしの大悪党だ。
だから、善意だけで仕事をやる気は無い。
やるからには、依頼主の『心』を見せて貰う必要がある。


王妃
「今の私には、これだけしか出せませんが…」


そう言って、王妃は俺にひとつの首飾りを渡した。
それは、かなりきらびやかな装飾品であり、いかにもお高そうな代物だ。
俺はそれを手に取り、少し転がしてみる。
手触り的にはダイヤみたいな宝石に思えるが、何か違う気がするな…

俺はそれを握り締め、軽く顔をしかめる。
やれやれ…こんな異世界でも、俺は仕事をする羽目になるのか。
だが、それが良い。


大護
「良いだろう、依頼は確かに受けた」

王妃
「あり、がとう…ございま、す……」


俺が笑ってそう言うと、王妃は微笑んで涙し、そのまま事切れた。
俺は崩れ落ちそうになる館から脱出する為、すぐに依頼を実行する。

依頼内容は…娘を助けてくれ、だ。



………………………



マフィアA
「ぎゃあ!?」

マフィアB
「何だ!? 一体何処か……」


俺は夜の闇に紛れ、姫さんを捕まえていたマフィアを射殺した。
とりあえず、急所と思われる箇所をピンポイントに狙撃したが、何とか1発で死んでくれた様だ。
とはいえ、サイレンサーを持っていないこの状況じゃ良い狼煙になっちまう。

今の銃声で、他の手下も駆け付けるだろ。


大護
「おい」

ティア
「ひっ!? な、何…!?」


姫さんは俺を見て露骨に怯える。
まぁ人畜無害な顔はしてねぇだろしな。
とはいえ、これはあくまで仕事だ。
俺はそう思い、姫さんにあの首飾りを投げ渡す。

それを見て、姫さんは露骨に顔を変えた。


ティア
「お母さん…!」

大護
「それはお前が持ってろ、形見だ」

ティア
「う…うぅ」

大護
「今は泣くなよ? 敵を呼び寄せる…」
「とにかく、ここを離れるぞ!」


俺はそう言って姫さんを担ぎ、姫さんの口を塞いで走り出す。
そのまま、俺はマフィアの拠点から脱出し、そこからお尋ね者となった訳だ…



………………………



ティア
「…貴方、何のポケモンなの?」

大護
「ポケモンじゃねぇ…人間だ」


と言っても、やはり理解は出来ないらしい。
どうも、この世界には人間がひとりもいない様で、俺は相当の異端者らしいのだ。
つまり完全にアウェーであり、俺の仲間は例外除いて誰もいない。

そんな状況で、世界一凶悪なマフィアを相手にせにゃならんとは…世も末だな。


大護
「お前は、何てポケモンなんだ?」

ティア
「…知らないの? じゃあ何で助けてくれたの?」


姫さんは、本当に理解不能といった表情でそう聞いてくる。
どうやら、ハナから信用はされてなかったらしい。
そして、そんだけ姫さんの種族は価値が高いってこったな…


大護
「俺はそんなにポケモンに詳しくはねぇんだよ…」
「後、助けたのは仕事だ…お前の母親から依頼を受けた」
「お前を、助けてくれってな」


俺がそう言ってタバコを吹かすと、姫さんは露骨に嫌そうな顔をする。
そして、煙が何か煌めき始めた。
つーか、やけに寒いな…


ティア
「お母さん…」

大護
「泣くなら今の内にしろ、一回だけなら許してやる」


俺はそう言ってタバコの煙を姫さんとは逆方向に吹く。
どうやら、氷とかその類いの能力っぽいな…
姫さんの羽からは、凍り付きそうな冷気が放たれてる。
まるで鱗粉みたいにも見えるが、あれが周りを凍らせてんのか?


ティア
「…泣かないもん、泣いたってお母さんは帰って来ないから」


そう言って、姫さんは涙を溢しながら我慢した。
そして姫さんの頬から落ちた涙は氷となり、地面に転がる。
その涙はまるで宝石の様であり、俺は思わずそれを拾ってしまった。

すると、何となく似た触感を思い出す。


大護
(これは…あの首飾りの感触?)


だが、俺が握ったそれは体温であっさり熔ける。
あの首飾りは、燃え盛る館の温度でさえ溶けなかった代物だが…
流石に…こんな氷細工みたいなもんじゃないわな。


ティア
「私たちモスノウは、見た目の美しさやこの氷の能力を目当てに、よく賊に狙われるの…」
「特に、王族が持つ『氷の鱗粉』はどの宝石よりも価値が高く、マフィアはそれが目当てに違いないわ」

大護
「…成る程、その首飾りはそういう能力で作った物か?」


姫さんは小さく頷く。
そして…それから歩きながら、俺は姫さんの家の事を聞いた。

家は代々続く王族の家系…
父親はまだ健在であり、家は残ってるが帰る事は出来ない。
どうにも父親とは上手くいってなかった様で、母親共々別居していたんだそうだ。

そこで、今回マフィアに別荘を襲撃された…と。



………………………



大護
「…なら、どうする?」

ティア
「家には帰りたくない…」

大護
「だから、どうする?って聞いてんだ…」
「俺は右も左も解らねぇんだぞ? どっか行きたい所は無ぇのか?」


俺は、顔をしかめてそう聞く。
だが、姫さんは俯くだけで何も答えなかった。
俺は、頭を掻きながらため息を吐く。
やれやれ…前途多難だねぇ〜?


ティア
「私だって…町から出た事も無いし」

大護
「箱入り娘ってか…そりゃどうしようも無ぇな」


俺は吸い殻を携帯灰皿に捨て、それを胸ポケットに仕舞う。
そして、とりあえずスマホを取り出して相棒を呼び出した。


ピース
『…ダイゴ〜? ま〜た妻に内緒で愛人作ったんですか〜?』

大護
「ドアホウ、仕事だ…とりあえず、お前の力を借りたい」


ピースはスマホの画面から姫さんの姿を見たのか、露骨に嫌そうな顔をする。
ちなみにまだ夫婦じゃねぇ…ヤル事はやったが、まだ違う。

いや、別に嫌なんじゃねぇんだが…どうにも一々籍を入れるのが面倒臭ぇからな。
仕事上邪魔になる事もあるし、まぁ事実婚っていやぁ間違いじゃねぇのか?

とはいえ今は、んな事どうでも良い。


大護
「この世界の地理は把握出来るのか?」

ピース
『アクセス…キャッチ、衛星が飛んでますね』
『GPSハック、世界地図登録、地点計算…クリア』


そんな事を呟きながら、ピースは目を光らせて仕事をこなす。
しかし、衛星だぁ…? こんな中世的な世界に、衛星やらGPSやらが飛んでんのか?


ピース
『どうやら、この星は小さな島国みたいですね』

大護
「島国だぁ? 星が島国ってどういうこった?」

ピース
『ネオ○ャパンとか、ネオ○メリカみたいのを想像してくれれば良いですよ』


それは解る人にしか解らない奴な!?
ちなみに俺は一応解る…つーか世代的には直撃世代だ。
これでも俺ぁ、ヒーロー物とか熱血物にはうるさい方なのよ?

とまぁ、一応解説すると…島が宇宙に浮いてるとか想像してくれると助かる。
太陽とかどうなってんのかは本当に疑問だが、もうその辺は適当に解釈しててくれ。


大護
「しっかし、それで地球と同じ重力が発生してんのか?」

ピース
『正確には現実的な理論では発生してないですよ?』
『恐らく、これは世界に定められた理で創られているに過ぎないと思いますんで』


何か急に難しい話になってきた…
俺は軽く頭を掻き、ピースの言葉を待つ。


ピース
『とりあえず、何処に行くつもりなんですか?』

大護
「安全な所だな…この世界のマフィアが追い付いて来れねぇ様な」

ピース
『マフィア〜? そんなの頭潰したら壊滅するでしょう?』


それが出来ねぇから聞いてんの!!
いくら俺でも、人外魔境のマフィア軍団相手に頭だけ潰しに行けるか!

せめて後ろ楯と補給線がありゃまだしも、なーんも無ぇこの状況でどうしろってんだ…
銃弾でさえ、限りある代物だってのに。


大護
「とにかく、事情を察しろ」

ピース
『相変わらず、お人好しですね…まっ、そこが好きなんですけど♪』
『とりあえず、逃げるなら宇宙でしょうね…幸い、シャトルはあるみたいです』

大護
「よし、ならステーションかどっかに行くか」


俺はピースから大まかな方角と経路を聞き、スマホの電源を切って移動を開始する。
流石に充電は出来ねぇからな…ピースの電池も気を遣わねぇと。


ティア
「今の…何?」

大護
「ん? ポリゴンZの相棒さ…コイツに乗り移って俺をサポートしてくれんだ」


俺がスマホを片手にそう言うと、姫さんはへぇ〜と不思議がっていた。
どうやら、ピースの存在はポケモンの世界でも希少らしい…

まぁ本人も多分レアと言ってたから、知らないのはしゃあねぇか。



………………………



とまぁ、そんな感じで旅を始めたんだが…
俺は結局賞金首となり、逃亡生活になったって訳だ。


大護
(そして、今は逆に追う立場と…)


俺は耳を澄ませて気配を探る。
野生の動物や虫はいるが、人の気配は無ぇな。
この森を抜ければ、最短で砦に着くと思うが…


大護
(敵はわんさか、と…全くたまったもんじゃねぇな)


俺はとりあえず、ピースから聞かされた地理と地形を思い出す。
目的地の砦は、今は使われていない物であり、その理由を俺は考えた。


大護
(使われてねぇって事は、使いもんにならねぇって可能性が高いんだろうな)


俺はそう推測する。
少なくとも、この世界は宇宙に進出出来るレベルの文明があるらしい。
なのに、この中世ファンタジーな世界観は、明らかに違和感だらけ。
住んでるポケモンたちも、特にSF的な装備をしていないし、そもそもそんな文明があるなら、ビームやらレーザーやら飛び交っててもおかしくないはずだ。


大護
(なら、初めからそんな超兵器は無いと踏む)


となると、砦の有効性って奴が重要だ。
本来、こういう所に作る砦ってのは防衛用だろう。
地理的にも町からは見える範囲だし、索敵も兼ねた位置なのは大体解る。

なのに、使われていない…
町は今もちゃんと存在するのに、だ。
だとすれば、それは何故だ?


大護
(高い位置の砦、防衛用としては目立ちすぎる)


明らかに、狙ってくださいと言ってる様な位置だ。
つまり本来の能力を発揮するにはビミョーだったんだろ。
事実、今の町の周囲には高いバリケードが張られており、ガードは十分高い。
わざわざあの砦で敵を見張って待つ必要など、何処にも無いのだ。

だからこそ、あの砦は使われてない…と、俺は結論付けた。


大護
(まぁ、後は俺の感だな…)


この辺は結局経験が物を言う。
俺は不適に笑い、その辺を見回して使えるもんが無いか調べた。
すると、思いの外色んな物が見付かり、俺はニヤリと笑った。



………………………



大護
(あるある…槍やら弓やら、まだ使えそうなモンがこんなにあるじゃねぇか)


もちろん、古くて錆び付いている物も多数あるが。
基本的にこの星の連中は、武器をあまり使用しない。
なのにこういう武器が落ちてるって事は、それが有効だったからだ。

俺は弓矢をひとつ手に取り、それを木に向かって1発射つ。
すると、矢はいとも容易く木を貫いた。
普通なら刺さるのがやっとの大木を、貫いたのだ。


大護
(予想通り、コイツは対ポケモン用だ)


つまり、硬いポケモンの皮膚を切ったり貫いたりする代物。
コイツは俺のナイフより強力な武器だ。
上手く使えば、強力な武器になる。
さて、後は奇襲用の下積みだな…



………………………



マフィアA
「ホントに来ると思うか?」

マフィアB
「さぁな…刺客は返り討ちだって聞いたし、間違いなく来るんじゃねぇのか?」

マフィアA
「前の時も、突然奇襲しかけて拐って行きやがったんだよな?」

マフィアB
「ああ、見張りが声出す前に始末されたって話だ」
「多分相当の腕前だぜ? 送り込んだ刺客もそれなりに腕自慢の奴だったのに…」

マフィアA
「あながち、賞金200万も間違いじゃなさそうだな…」


ふたりは、そんな話をしながら笑っていた。
砦で気楽にしている見張りのふたりであるが、実に無警戒だ。
まるで、これから起こるであろう惨劇を予想もしていないその姿はある意味滑稽。

だが、だからこそ大護の奇襲は確実に成功すると言えた。
このマフィアは、誰も逆らう者などいない巨大勢力。
そもそも、襲撃されるなど微塵も思っていないのだ。
以前の襲撃もその油断が命取りとなった。

そして…今また同じ事を繰り返そうとしている。



………………………



ドォォォォォォンッ!!と、突然の爆発音。
砦には火が放たれ、そこにいたマフィアたちは騒然となっていた。
あまりに突然の事で、マフィアたちの下っ端は統率を乱し、ひとり…ふたりと、次々に逃げ出していく。

そして、そんなマフィアたちに悪魔の手が。


マフィアA
「ぎゃあ!?」

マフィアB
「ぐあっ!?」

マフィアC
「な、何だ何処から!? ぐえっ!!」


それは、まさに虐殺といえる所業。
間違いなく大護の仕業であり、今彼は狡猾に、そして残虐に動いていた。

姿は決して見せず、遠くから砦に火矢を放ってまず火の手を上げる。
爆発したのは、たまたまそこに油があったからであるが、それは大護にとっては幸運以外の何者でもない。

マフィアは逃げ惑うも、的確に矢で撃ち抜かれていく。
生粋の殺し屋である大護は、一流の狙撃主としてそれを着実に遂行していった。

誰ひとり逃がさず、入り口に集まる全ての手下を駆逐していく。
その容赦の無さに手下共は震え上がり、恐怖に支配され、やがて動けなくなっていった…

砦からは火の手…されどひとつしかない出口には悪魔。
もはや進んでも地獄、退いても地獄と、マフィアは恐怖に支配されていた。
だが悪魔は冷静に、そして狡猾に状況を見定める。
真の目的は虐殺ではない、あくまで奪還なのだ。

砦には火の手が上がっているものの、姫の声は聞こえない。
大護は、マフィアの目を盗んで砦へと侵入する。
幸い水タイプの技を使えるポケモンはいなかった様で、誰も消火をする様子は無かった。



………………………



大護
(…ここまであっさり行くとは予想外だな)


俺は背中に矢を背負っていた。
思ったよりも、使える矢が多数落ちてたのは実に幸運だ。
単独での奇襲は飛び道具が有るに越した事は無ぇからな。
とはいえ、どうせならボウガンの方が使いやすかったんだが…まぁそんな贅沢は言えねぇ。

しっかし、こんなゲリラ戦術は映画でしかやらねぇと思ってたのに…こんな所で生きるとはな。
やっぱ○タローンは偉大だった様だ。


大護
(しかし、何で姫の声がしねぇ?)


眠らされてるのか、それとも連れ去られたか?
どっちにしても、だとしたらとんだ無駄足だ。
俺はとりあえず周りを警戒しながら、ピースを呼び出す。
電池が減るからあんまり使いたくねぇんだが、ここはBluetooth使って無線会話だ。


大護
「ピース、姫さんの位置は?」

ピース
『近くにいますね、ただマフィアがいますよ? ふたり程』


この状況で動いて無ぇのか?
だとすると、まさか罠が…?
俺は思わず警戒するも、火の手はどんどん砦を埋め尽くすだけ…
止まる事は出来ねぇ…自分でそうしてんだからな。
幸い誰も後ろからは来ねぇ…まぁ、あんだけ恐怖心を植え付けたんだ、来る奴はいねぇだろ。

当分、入り口付近の手下共は助けも呼べねぇはずだ。
罠も多数張ってあるからな…しばらくは機能するだろ。


大護
(つまり…やるにしても、ふたりか)

ピース
『種族言っても理解出来ないでしょうから、タイプを言います』
『ひとりは炎、もうひとりは岩…どっちも炎には強いタイプですよ』


俺はそれを聞いて弓を構える。
岩か…だとすると、コイツは無意味になるか?
だが急所に当てられれば効くはず。
問題は、銃と違って対面で通用し難いってこったが。

どっちにしろ、待たれてるなら行かざるを得ねぇ。
姫さんを連れ去れる訳には行かねぇんだからな!

俺はそう思い、ピースのナビに従って姫さんのいる部屋を目指す。
そして目的の扉を前にして、ピースは自ら電源を落とした。
どうやら、もう電池が残り少ないらしい…
いよいよ持って、追い詰められたか。


大護
(だが、仕事は絶対にこなす…それが、俺の生きる道だからだ!)


命を賭けて依頼されたなら、俺も命を賭けなければならない。
それがプロの条件だ。
そして…俺はそれを受けた以上、死んでも依頼を完遂せねばならない。
この扉の先には…敵がふたり。

さぁ、鬼が出るか?それとも蛇が出るか!?










Avenger 赫奕たる銃弾


中編 『命を賭けた仕事』 完



…To be continued

Yuki ( 2020/09/09(水) 14:58 )