第7章 『HEROIC HEARTS』
第3話

「…麻亜守は行ったか」

櫻桃
「ホントに放置するんですか?」


俺様はあえて家に置き手紙だけを残しし、麻亜守をひとり残す。
流石に櫻桃は心配そうな顔をしているが、俺様は軽くため息を吐いて呆れていた。



「麻亜守には何者かが付いてる、麻亜守の勘が間違ってないならきっとソイツが何とかしてくれんだろ」

借音
「藍ちゃんは、その人の事信じているの?」


人…かどうかは微妙なんだがな。
まぁ、一々この作品で人とポケモン区別するのは面倒極まり無いんだが!
俺様は軽く笑い、借音にこう答えてやった。



「俺様が信じているのはあくまで麻亜守だ…アイツがお前達以上に重要と思い、それで選んだ選択なら責任はアイツ自身に背負わせる」

櫻桃
「…んな無責任な」


「だが選んだのはアイツ自身だ…いくら子供だと言っても、アイツは自分で考えて自分で選択したんだろ?」
「まぁ、お前はちょっと過保護過ぎんだよ…麻亜守は見た目よりもずっと考えて行動してる」
「じゃなきゃ、俺様に逆らう勇気なんざ有るわけ無ぇしな」


俺様は確かに麻亜守を子供扱いしてるが、それはあくまで家族であり、そういう年齢だからだ。
だが本人がその年齢以上の行動を見せるのなら、それを見守るのもまた大人の役目だろう。
…まっ、肉体年齢は俺様もまだ子供なんだがなっ!


借音
「それよりも、わざわざこの3人で固まって行動するという事は、何かの対策なのよね?」


「むしろそれ以外の理由があるのか? じゃなきゃお前か櫻桃は最初から麻亜の方守に付けてるさ…」

櫻桃
「って事は…藍様は敵が麻亜守を軽視してると思ってんすか?」


「…少なくとも、戦力的な意味ではな」
「現状俺様が想定してるのは、複数のボスが俺様達の前に現れる事だからな」


とはいえ、敵の目的や行動理念はイマイチ解らない。
何処まで俺様の予測が合ってるかは正直未知数だ。
まっ、それならそれでこっちは場当たり的に対処するしかない。
こっちには割ける人数も限られてるし、麻亜守にはボスが行かないと今は信じるしかないんだ…
最悪の場合は……いや、よそう。
こういうネガティブな考えは正しい思考を曇らせる。
俺様は俺様のやり方で正解を導く!
聖がいない以上、ここで他の家族を守るのは俺様しか居ないんだからな…!



………………………



櫻桃
「…街はいつも通りっすね」


俺様達は例によって1番大きな街へと足を運ぶ。
当然ながら何か変化があるわけでもなく、そこはいつも通りの眺めだった…


借音
「今日も特に変化は無いのかしら?」


「一応餌は撒いたつもりだ、俺様の予想が外れてなけりゃその内現れるだろ」

櫻桃
「餌って、何すか? そんなの初耳すけど…」

借音
「…麻亜守をひとりにしたのは、まさかその為に?」


借音の言葉を聞いて櫻桃はギョッとする。
そう…俺様が今回撒いた餌は、あえて麻亜守をひとりにした事だ。
一応、それなりの理由があるしな…



「…まず、麻亜守だけを狙うなら恐らく敵は最低限の戦力を割くと俺様は想定した」
「だがそうなると…敵はこっちに対してどれだけの戦力が来るかは明白だろ?」

櫻桃
「…つまり、出来るだけこっちに多く誘導したかったって事っすか?」


「あくまで敵の戦力が多数だと想定した作戦だがな」
「俺様はとりあえず賭けてみたのさ…まず敵の戦力が『何人』いるのか知る為にな」

借音
「でも、あえて今日襲って来るとは限らないんじゃないの?」

櫻桃
「そうっすよ! スルーされたら意味無いでしょ!?」


まぁ、確かにそうなったらこの賭けはただのハズレだな…
とはいえ、それならそれで別に構わない。
それだけ相手は気が長いってこったろ…
だが、少なくともあの敵はそんな気の長い相手じゃないだろ?
じゃなきゃ、2年をわざわざ長いなんて呟きゃしねぇだろうからな…



「…逆に来ないなら来ないで、敵の戦力はあまり分割出来る人数がいないのかもしれない」
「そもそも、俺様達を倒せる戦力自体いないのかもしれないしな…」

櫻桃
「…? 逆にそんな戦力だったら、敵は何で戦うってんです?」


「さぁな…俺様達があくまで主人公側だとして、これがクリアに必須のイベントなら最初から勝てないボスなんざいない訳だが」

借音
「…あくまでこの世界はゲームだって事?」


俺様はそれ以上を答えなかった。
だが、何となく俺様はこう思う。
似た様な手口、昔俺様もやったなぁ〜って。



(もしこの2年間がただの時間稼ぎの為であり、そして準備が完璧に終わっていたとしたら…?)


俺様は思い出す、あの絶望しかなかった戦いを…
もしこちらに十全な時間が有り、対策も完璧に機能したとして、俺様達はアイツ等に完勝出来ただろうか?



(結果はNOだ、仮に勝てたとしても生き残れたのはひとりかふたり…だったろうな)


そう…全てが上手くいったとしても、あの時はそれが限界だと内心で俺様は想定していた。
もし今回の敵があの時の俺様と同じ様な立場なら、一体何を思って俺様達に戦いを挑んでいる?
この戦いは俺様達にとっては聖を救う為の戦いだ…だが敵にとっては何の為の戦いなんだ?

その答えだけは…未だに不明瞭なままで俺様の頭に霧がかっている。
だが、たまに恐怖する事はある…もし敵に、それだけの『理由』があって戦いを挑んで来るのなら、俺様達は勝てるのか?と……



………………………



櫻桃
「結局、来ませんね…」


「…来ないならそういう事なんだろ」
「それなら明日は違う作戦で試すさ」

借音
「……!? ふたり共!!」


時刻は夕暮れ時…そろそろ切り上げようかと思った矢先、突然借音が俺様達に対して叫んだ。
俺様はその時点ですぐに『敵』の存在を感知する。
そして同時にゾッとした…!
俺様はここでようやく敵の戦力の大きさに気付いたからだ。
だが…それだとむしろ敵は本気過ぎる。
コレが本当にクリア必須イベントの戦闘だとしたら、相当な理不尽ゲーじゃないのか?
俺様は想像して思わず身震いし、櫻桃も隣で身構えて冷や汗を垂らしていた。
そして何も障害物の無い開けた平原にひとり、『突如』現れた『敵』は、こちらを見て何とも言えない表情を見せている…



「ホント…長かったなぁ〜、2年は……なぁ?」

櫻桃
「こ、こいつがボスっ!?」


「…お前が、この世界のボスか?」


俺様は冷静にそう問い詰める。
すると相手はハハッ…と苦笑してしまっていた。
何なんだコイツは? 思考も読めなきゃ感情も読めない。
借音も同じ気分の様で、不安そうに口を手で押さえていた。

まず俺様は相手の風貌を確認する…全身を覆う白いローブの隙間からは、表情位しか見えないな。
が、相手はすぐにそのローブを脱ぎさってその全身を露にした。
明らかになった姿は女性その物であり、身長はおよそ170cm位…髪はやや短髪だが、後頭部にかけては長い毛が伸びている。
そしてあまりに特徴的なセンスの服とメイク!
白と黒だけで配色した独創的なそのセンスはまるでどこぞのミュージシャンみたいだな。
半袖のジャケット、半ズボンの服装にチェーン等のアクセサリーも見える…
尻からはとても短い尻尾も飛び出しているが、正直これだけじゃ何のポケモンかは全く解らなかった。



「ちっ、目元や鼻に黒いメイクか…そりゃ趣味か?」


「いや…俺の種族の特徴さ」
「ほら…パンダとか、いるだろ?」
「アレと似た様なの…まぁ、俺はパンダじゃないけど」


相手の声は何処かガラガラした声量だ。
酷く聞き取り難く、発音が正確に聞き取りづらい。
しかしパンダか…だとすると『ゴロンダ』かコイツ?
その割には耳の特徴が合わないな…ゴロンダの耳は丸い形なんだが、アイツのは尖ってる。



「自己紹介、しとこうか?」
「俺は、『Cry(慟哭)』…そのままクライで良い」
「種族は……見たまま、『タチフサグマ』さ」

借音
「タチフサグマ…? 聞いた事無い種族!」


「…別に驚く事じゃないだろ、新種のポケモンならこの世界にも何人かはいた」
「が、確かに聞いた事は無いな…タイプは悪か?」


俺様がそう言うと、クライ…と名乗った巨乳(B88相当)の女は、あ〜とダルそうに唸りながら天を見上げる。
今日の天気は快晴だ、時間的にはもう夕日も落ち始めてるがな。
しっかしこの女…マジに何を考えてんのか解らねぇ。
悪タイプつっても、俺様の読心を完璧に弾きやがるとは…
つまり強いのは確実ってこった…! お陰で正確には測れねぇが、多分CP3万近くは有るはず…
それがどの位ヤバイかって言うと…少なくとも母さんに匹敵する位強いって指標だな!


クライ
「そう、悪タイプ…でも、ノーマルでもある」


「…悪、ノーマル」
「アローラのラッタと同じタイプか…」
「それで? お前はひとりで戦うつもりなのか?」

クライ
「そう、俺ひとりで十分」
「あっちは…『レイ』、が行ったから」


その言葉を聞いて、俺様は俄に戦慄する。
つまり、敵はもうひとりいるって事か?



「…本当は聞きたくないが聞いといてやる、ソイツはお前より弱いのか?」

クライ
「……ん〜? さぁ、どうかな? でも、やりあったら俺は負けるかもね」


つまりソイツはコイツ以上にヤバイ奴だって事か?
俺様はどうやら相当な見積り違いをしていた様だ。
麻亜守相手なら低戦力を送り込むと想定していたのに、まさかの全力投入?
そこまでする程、敵は麻亜守ひとりを重く見てるってのか!?


借音
「麻亜守の方にも、刺客が!?」

櫻桃
「ど、どうすんです!? 助けに行くっすか!?」


「露骨に狼狽えんなバカ…それよりも目の前の敵をどうにかする事を最優先に考えろ!」


俺様は気を入れ直して相手を見る。
確かに相手は強い、単騎での戦力なら多分俺様でも勝てないだろう。
だが、ここには幸い3人いる。
しかも切り札有りのが複数、だ!
だったら、ここで確実にアイツを倒してから麻亜守を助けに行く方が生き残る確率は高い。
むしろ、アイツを無視して挟撃される事の方が明らかに危険だろう。
何せ、こっちのレーダーに全く感知されずに移動出来る敵だからな…!


クライ
「…そう、ボスからは逃げられない」
「それがマスターの作ったゲームのルール…だから、お前達は戦うしかない!」


マスター…だと? いや、気にはなるが今はそれ所じゃない!
クライはそう言って両腕をダラリと下げていた…ノーガードかよ!?
だが不気味に光る紅い瞳からは明確な殺意が放たれている。
奴は本気だ! やらなきゃこっちは確実にやられる!!
とにかく、麻亜守の為にも迅速に倒すしか…


櫻桃
「くっそ! とりあえず先手必勝!!」

借音
「強化するわ!」


櫻桃はまず両手を胸の前にかざし、『気合玉(きあいだま)』で弱点技を構える。
大技だけに隙は有るが、当たれば4倍弱点! ましてや借音の『手助け』が有れば大ダメージは免れねぇだろ!
だが相手はそんなモーションを見ても一切狼狽えなかった。
ただ真っ直ぐに櫻桃だけを見据え、感情の籠ってない目を見開いて攻撃を待っている。
やがて、櫻桃は真っ直ぐに気合玉を放った。
借音の手助けで強化されたソレは凄まじい勢いで敵に向かい、敵は正面からそれを…


ドバァァァァァァァァァァン!!


そんな爆音に近い音が響き、格闘タイプのオーラが弾けて一瞬大気が震える。
確実に当たったぞ!? かわしもしなかったのか…?
だが、次の瞬間俺様達は全員ギョッ!?とした顔で相手を見ていた。
相手は両腕を顔の前でクロスさせており、黒いエックス状のオーラを纏っていたのだ。
そしてその腕をバッ!と勢い良く振り払い、クライはダルそうな顔で息を吐いて脱力する…
まるで効いちゃいない!? 今のは何なんだ!?
俺様は即座に分析を始めるが、相手はそれを待っちゃくれなかった。
クライは前傾姿勢になり、すぐに接近戦を仕掛けて来る。
決して速すぎる訳じゃないが、馬力は有るのが足音の強さから解る。
パワーは相当有るぞ!



「全員散れ! 1ヶ所に固まるな!!」

クライ
「!!」


俺様がそう叫ぶと、櫻桃と借音はそれぞれ別の方向に跳ぶ。
対象を俺様に絞った相手は、ギロリとこちらを見た。
ゾッとする視線だ…俺様がここまでの恐怖を感じたのは阿須那とやり合った時以来か!
しかもCP的には当時の阿須那と恐らくは同等クラス。
それを理解した俺様は、思わず吹き出してしまった…
そんな俺様を見てクライは?を浮かべている。
俺様はそのまま自ら接近戦を挑む。

そうだな…俺様は、いつかこんな時が来るのを想定していたのかもしれない。
そして同時に想像する…もし今の俺様と櫻桃であの時の阿須那と戦ったら、確実に勝ってるだろうってな!


櫻桃
「藍様!?」

借音
「!?」


驚くふたりを尻目に俺様はほくそ笑む。
そして射程に入ったクライは右腕を構えて瞬時に抜き手の体勢を取った。
『地獄突き』かっ! かの有名レスラーも危険過ぎる余り使用を封印したと言われるあの……



「って多分関係無いわぁ!!」


俺様はひとりでツッコミを入れながらも首を横にズラし、抜き手をギリギリかわしてクロスカウンターでクライの顔面を殴り抜いた。
威力はただの『グロウパンチ』だが…どうだ!?


クライ
「…!」


「畜生! 抜群なのに効いてねぇのか!?」


俺様はすぐに身を翻して反撃をかわす。
危ねぇ…直撃したら1発即死も有り得る! 俺様の耐久は無振り『ハヤシガメ』並だからな!!
え? 例えが解り難い? まぁ気にするな!!


クライ
「ちょこまかと…流石に、速い!」


(ちっ、どうやら相当耐久に自信が有るみてぇだな! あの妙な技も防御系の技みたいだし、下手に手を出すのは危険か?)


俺様は浮遊を駆使して敵の攻撃を的確に回避し、翻弄する。
幸い相手の攻撃は単調であり、そこまで回避は難しくない。
奴が攻撃に使っているのはあくまで上半身だけであり、下半身はまるで根を張った樹木の様にその場から動きもしないのだ。



「くそ…逆に圧迫感が有るな! ならこれでどうだ!?」

クライ
「!?」


俺様は一旦距離を離し、全身を輝かせて『マジカルシャイン』を放つ。
フェアリーの力を込めたその輝きはクライの全身を突如焼く…!
だがクライはまた両腕をクロスさせて技を防いだ。
やはりあの技は防御技か! どうやらタフとは言っても、弱点技をタダで受ける程の勇気は無いみたいだな!?



(今だ櫻桃! 気合玉を合わせろ!!)

櫻桃
「!?」


俺様はテレパシーで櫻桃に指示を送る。
櫻桃はすぐに技の体勢に入り、同時に借音はサポートの体勢に入った。
俺様はそのままクライを攻撃し、こちらへ釘付けにする。


クライ
「…ぅ」


「どうした? まだまだこんなもんじゃないんだろ!」


俺様は技の切れ目に、もう1発グロウパンチを顔面にブチ込む。
これで更に俺様の攻撃力は高まる…
今ので心なしかクライの表情は曇り、ダメージを受けている様に見えた。



(何だ? 急に手応えが無くなってきた…?)


俺様が違和感を感じた頃、櫻桃は再び気合玉をクライに向けて放つ。
借音もまた手助けでサポートし、気合玉はスピードを上げて一直線にクライへと向かう。
俺様はタイミングを見計らい、『フラッシュ』で発光…クライの視界を奪い、動きを止める事に専念した。
そして、強化気合玉は見事にクライの体へ直撃する。
今度は確実にヒットしたはず! どうだ!?


クライ
「あ、あぁ…ああああぁぁぁぁぁっ!!!」


次の瞬間、俺様は強烈な『音波』で吹き飛ばされる。
そして全身を襲う急速な寒気に意識が飛ばされかけた。
今のは…『バークアウト』か!? クソッタレ…油断、したぜ!


櫻桃
「藍様ーーー!?」

借音
「くっ、ここからでも『癒しの波動』を…っ!?」


だがバークアウトはその威力を減衰させながらも櫻桃達を襲う。
それを食らったふたりは共に苦しんで膝を着いた。
威力は対した事無い…だが、厄介なのはこの追加効果だ!
食らえば特攻が下げられる…! 奇しくも後ろふたりは特殊メインだからな!!



(だが、何だ今のは? 弱まったと思った奴の意志力が突然跳ね上がったぞ?)


俺様は意志を司るポケモンだ。
だからその強さは誰よりも感じ取る事に長けている。
その俺様が…これだけの意志に押される、だと!?



(待てよ…奴は確かクライ)


クライ…Cry(慟哭)。
その意味は、泣き声?
悲しみに泣き叫ぶとも言うが…コイツの叫びは、まさにそんな感じに思えた。
そしてクライは涙を浮かべながら頭を抱え、声にならない叫びを大声であげる。
あまりにも大きな声量のソレはもはや技と言って良いレベルであり、俺様は更に体から力を奪われた。



(な、何だ…コレは? 精神攻撃!? ただのバークアウトじゃない?)


俺様はフラフラになり、もはや浮遊すら出来なくなる。
だが奴の叫びは途切れる事無く、後方の櫻桃や借音すら襲ってしまっていた。
このままじゃ、マズイ! さっきので敵が本気になったのかもしれない。
元々単騎での戦力には差がある、ここまでの攻撃範囲があるとなると、一気に全滅も有り得る!!



(それだけは絶対に回避する…! とにかく生き残る道を……!?)


俺様は頭を抱えながらクライを見て、思わず驚愕してしまった。
そりゃそうだろう…何せ、奴はいつの間にか巨大化していたんだから。


櫻桃
「ちょ、ちょっとアレ何!? 技!?」

借音
「違うわ! 余りにも大きすぎるオーラでそう見えてるだけよ!!」
「でも…何なの!? この、胸を裂かれる様な慟哭は!!」


借音は余りに強烈な思念を受けて胸の突起を押さえていた。
辛うじて耐えてはいるが、このままだと本当にヤバイ!
奴の纏っている超巨大な30m大のオーラは、とんでもない力場を作り出しちまってるんだからな!!
俺様はすぐに意識を強く持ち、そのまま浮遊して距離を離す。
そして櫻桃テレパシーで指示を送った。


櫻桃
「っ!?」

借音
「!!」


ふたりは俺様の指示を受け、すぐに動き出す。
借音は更に距離を離し、敵の射程外まで一目散に逃げる。
櫻桃は逆に近付き、そのままメガ進化の体勢に入った。
俺様は櫻桃の位置に合わせて距離を取り、次の動作へタイミングを合わせる。
そしてクライは、泣きじゃくりながら俺様達を見下ろしていた。


クライ
「痛いよ…! 悲しいよ…!! よくも、こんな…!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


凄まじい音量でクライの声が響き渡る。
あの巨大さから放たれる音波だ、相当だな…だが、それ以上に異常事態だアレは!!
奴の頭上には赤い雲が渦巻いている…空も一気に暗くなって夜になっちまってた。
恐らく、あの現象は空間に影響を与えるレベルの能力だ。
だが、あえて巨大化とはな…!!



「だが、デカけりゃ良いってもんじゃねぇぞ!?」

クライ
「ああああぁぁぁっ!!」


顔を両手で押さえて泣き叫びながら、クライは大きく大地を揺らす。
その瞬間、地が割けてそこから力の奔流が大量に、まるで間欠泉の様に噴き出した。
俺様はそれに巻き込まれるも、瞬時に『身代わり』を使って何とか乗り切る。
どうやら、今のは音波技じゃなかったみたいだな? ダメージは身代わり分しかねぇ!



「っ!? し、っかし…! また能力ダウンかよ!?」

櫻桃
「ぐぅぅ!? ダメージ無いのに…こ、こっちまで影響が!?」


何とダメージを負っていないはずの櫻桃にまで影響が出ていたのを見て俺様は驚愕する。
そして今の技を即座に分析し、その効果を判断した。
技の範囲的に今のは櫻桃も巻き込まれたはずだ、だが櫻桃はノーダメージ…つまり、今のはノーマルタイプの技!
だが、無効にしてるのに追加効果は食らうだと?
ちなみに今ので下がったのは素早さだ…地味に高速型の俺様達にはキツイじゃねぇか!



「動け櫻桃!! 後1分何とか凌げぇ!!」

櫻桃
「く、くっそーーーー!!」


櫻桃はその場から一気に走り、クライの足元まで動いた。
明らかに落ちている速度だが、まだ櫻桃の体力には余裕がある。
クライはそれに釣られて櫻桃にターゲットを移した。
とにかく時間を稼ぐんだ! こっちの『最大火力』を何としてでも奴にブチ当てる為に!!


クライ
「ううぅああっ!!」

櫻桃
「うぐぅぅぅぅぅっ…あああぁぁっ!!」


今度は黒いオーラの奔流が櫻桃をホーミングして何度も襲う。
櫻桃は咄嗟に『守る』を使って無理矢理凌ぐも、その攻撃は防御フィールドをぶち抜いて櫻桃の全身を貫いていた。
櫻桃は声にならない絶叫をあげて倒れるも、まだ死んじゃいないみたいで俺様は安堵する。

そして、俺様達は更に能力が下げられる…今度は特防かっ!?
やれやれ、トコトンデバフがお好みみたいだな…!!



「だが、まだ俺様達は生きてるぞ!? さぁ、トドメを刺しに来てみろこの泣き虫野郎がぁぁ!!」


俺様は力を振り絞ってクライの背後まで飛び、同時に『挑発』する。
クライはそれを受けて変化技を封じられ、こちらを見て向きを変え様とした。
…が、その動きはある程度の所で突如止まる。
それを確認して俺様はほくそ笑んだ。


クライ
「!? 足…がっ!?」


「バカがっ! 今の櫻桃の特性は『影踏み』だっ!!」
「櫻桃から見て、逃げる様な方向には動けねぇのさ!!」
「そして、これで俺様達の勝ちだ! いや絶対に勝つ!!」
「喰らいやがれぇぇぇ! これが最後の切り札だぁぁっ!!」


俺様は相手が戸惑っている隙に何とか『サイドチェンジ』を発動した。
この技の効果は、1番離れている味方との位置を入れ換える技だ。
そして俺様の場所から1番離れている味方は? そんなのはバカでも解る!!


借音
「はあぁぁぁぁぁぁっ!!」

クライ
「!?!?」


クライは危険を感じたのか、すぐに両腕をクロスさせてガードポーズを取る。
だが挑発によって変化技は封じられている為、そのポーズはただの格好だ。
そしてここまでに予め準備をしていた借音は即座に『破壊光線』を発射する。
借音は既にメガ進化済みであり、特性『フェアリースキン』によりその光線はタイプ一致かつ強化補正により借音の最大最高火力技となる。
ましてやギリギリまで『瞑想』で補強もさせてな!

そんな借音の両腕から放たれる光線は凄まじい圧縮量を生み出し、ガードごとクライの巨体を貫く。
直後、クライの巨体は大爆発を起こした。
ズバァァァァァァァァァンッ!!という凄まじい爆音と共に、まるで火を噴く様な感じでクライはその巨体を一気に萎ませたのだ。
そしてそれが終わったと同時…何事もなく元に戻った夕空と共に、クライはうつ伏せに地へと伏していた。
俺様は勝ちを確信し、拳をギュッ!と握り込む。



「…やれやれ、何とか勝てたか」


俺様はフラフラしながらも、ゆっくりと体を浮遊させて櫻桃達の元に向かう。
借音はすぐに櫻桃に癒しの波動を使って治療をしていた。
ホントなら適宜借音に補助してもらう予定だったんだが、俺様の機転が成功して良かったぜ。


クライ
「……ぅぅっ、痛い、よぉ」


「まだ意識があるのかよ? 想像以上にタフだな…」
「だが流石に動けやしねぇか…さて、どうするかな? とりあえず拘束しとくか…」

クライ
「もう、ヤダ…何で俺だけ、こんな……!」


「っ!?」


気が付くとクライは体を粒子化させ、その場から消えてしまった。
俺様は一瞬トラウマを思い出しそうになるも、今回のコレはそういう類いじゃないと推測する。
そして大体理解した所で、一気に肩を落として頭を押さえて息を吐いた。



(成る程、役目を終えたらそれで終わりか…端から負ける事は想定済みだったって訳だ)


だが、それを前提にしても危険過ぎる相手だった。
あの巨大化現象も初めて見るし、一体何だったのか?
技自体も変質する所はZ技みたくもあるが、あの規模の技にしてはそこまで威力も無かったぽいしな。
だが守るを貫通したり、身代わり壊しながら追加効果とかかなりヤバイ性能なのは確かだ。
あんな能力を他のボスも持っているとなると…って!?



「くっそ…! 麻亜守の方はどうなってる!?」
「こっちは3人でもボロボロだってのに! ひとりで大丈夫なのか!?」


俺様は一気に不安になる。
もし麻亜守に何かあったら、それは俺様の責任だ…!
大人3人が付いていながら、子供ひとり守れずにのうのうと生き残るとか有り得ねぇだろ!?
だが、そんな俺様の意志とは裏腹に体から急速なダルさを感じてしまう。
これも、奴の能力のせいだろうか?
慟哭…痛みや悲しみ、辛さ、奴は……それを、司る…とでもいうのだろうか?

そのまま、俺様は地面に落ちて意識を失う。
この瞬間…何故か聖の顔が脳裏に浮かんだ。
こんな時、アイツがいたら……何とでも、してくれたんだろうな。
俺様は…また、間違っちまったの……か?


その答えに答えてくれる相手は…今は何処にも、いない。










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第3話 『巨人の慟哭』


…To be continued
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Yuki ( 2022/08/15(月) 09:56 )