第7章 『HEROIC HEARTS』
第2話

「とにかく、警戒は怠るなよ?」

櫻桃
「分かってますって! とりあえず、こっちでも情報集めてみますから」

借音
「それじゃあ、行ってくるわね?」

麻亜守
「…うん」


私は黙って仕事に行くお母さん達を見送った。
皆の顔は何処か暗い…昨日家に帰ってからずっとだ。
藍お姉ちゃんが言うには、敵が現れたって事らしいけど…


麻亜守
(あの人じゃ…無いよね?)


「おい麻亜守、今日の朝練は中止だ…俺様と一緒に外へ出るぞ?」


私は急にいても立ってもいられなくなり、その場で『テレポート』をした。
これなら藍お姉ちゃんは追って来れない。
まずは、私自身が確認しないと!



………………………



麻亜守
「………」


私がテレポートした先は、深い森の中だった。
まだ早朝という事もあり、日差しもそれ程降り注がないこの地はやや薄暗い。
そんな中、私は真っ直ぐ歩いて少し開けた場所に出る。
そこはこの森の中でも一際綺麗な花々が咲いており、小さな天然の花畑になっているのだ。
そして柔らかい日差しが差し込む花畑を歩いていると、私はひとりの男性を見付けた。



「……」


男性は大きな木を背に座っており、落ち着いた様子で小鳥達と戯れている。
彼の風貌を表すとするなら、まず目に付くのは私やお母さんと同じ緑の髪色で、長髪。
頭頂部にはまるで某光の巨人みたいなトサカ?が付いているのも大きなポイントだろう。
瞳の色は赤で、キリッとした目付きはやや近寄り難いイメージもあるかもしれない。
そして特に彼を語る上で外せないのは、その特徴的な服装。
白く綺麗なマントを身に付けており、服はまるで西洋王族を思わせるかの様な高貴な感じなのだ。

そんな彼に向かい、私は静かに近付いて行く。
やがて私の存在に気付いた彼は、私を見て微かに微笑んだ。
その後、小鳥達はバサバサと羽ばたいていき、場は一旦静かになる。
彼は小鳥達を悠然と見送った後、ゆっくりと立ち上がってこう話した。



「今日は随分と心音が落ち着いていないな…何があった?」


やや低めの渋い声でそう言い、すぐに私の心境を当てられる。
この人は私と同じエスパータイプのポケモンであり、種族は『エルレイド』と言う。
そう、私の進化形のひとつであり、男のキルリアが進化した姿なのだ。


エルレイド
「…ふむ、何か不安があると見える」
「良ければ相談に乗ろうか?」

麻亜守
「…オジさんは、関係無いよね?」


私がそう聞くと、オジさんは?と、不思議そうな顔をしてしまう。
多分何の事か理解してない…この時点で私は安心し、大きく息を吐いた。


エルレイド
「何か、私が疑われる様な事でもあったのかな?」

麻亜守
「…この世界に、私達の敵がいるから」

エルレイド
「敵、とは…あまり穏やかな話ではないな」
「成る程…麻亜守の強くなりたい理由とは、その敵とやらを倒す為なのか?」


私は答えられなかった。
同じエスパー、答えなくても察する事は難しくないけど…
それでも、オジさんは何ひとつ嫌な顔はせずに微笑んでくれていた。


エルレイド
「そうか、あくまで家族の為に強くなるか」

麻亜守
「まだ、私に特訓してくれる?」


私がそう言うと、オジさんはふふふ…と笑い、快く了承してくれた。
そう、私はこうやって毎日の様にオジさんに格闘術を教えてもらっていたのだ。
オジさんと出会ったのはまだ先月位だけど、その間に私は様々な技を学ぶ事が出来た。
まぁ、まだまだ藍お姉ちゃんに通じるレベルじゃないけど。



………………………



エルレイド
「そう、重心はもう少し前に…踏み込む時は一瞬だ!」

麻亜守
「…!!」

エルレイド
「技を放つ時は常に念を送るのを忘れるな、一瞬の乱れが隙を生む!」


私はひとつひとつ丁寧に教わっていく。
オジさんの格闘術はとても力強く、そして軽やかで鋭い。
普段はとても穏やかな気を放っているのに、いざ技を振るう時はとても恐ろしい気も放つのだ。
だけど、オジさんの持つ優しさは確実に心の根底にあり、だからこそ私はオジさんの事が信頼出来ている。
少なくとも私は、この人が悪人だとは思えない。

…確かに、何か秘密は有るみたいだけど。


エルレイド
「ふむ、今日はこんな所か」

麻亜守
「あ、ありがとうございました〜」


私は完全に体力を使い切ってしまい、その場で座り込む。
気が付けば日差しは強く真っ直ぐに注いでおり、昼になったのを私は理解した。


エルレイド
「麻亜守、ひとつだけ重要な事を教えておこう」

麻亜守
「…?」


オジさんは?を浮かべる私を見下ろしながら、人差し指を顔の前で立てて微笑む。
そしてやや前屈みになって、静かにこう言った…


エルレイド
「もし、ひとりでどうしようもなくなった時でも…決して諦めてはいけない」
「最後まで希望を捨てずに…な」

麻亜守
「…それでも、どうにもならなかったらどうするの?」


私が不安そうな顔でそう聞くと、オジさんは少し考えた後すぐに笑ってこう言った。


エルレイド
「その時は、きっと正義のヒーローが駆け付けてくれるさ♪」


腰に手を当て、オジさんは満面の笑顔でそう答える。
あまりにも馬鹿馬鹿しい答えだけど、何故か私はそれを笑って納得してしまっていた。
そうだよね…本当にどうしようもなくても、聖さんは助けてくれたんだよね。


麻亜守
(聖、さんは…でも、もう)

エルレイド
「さぁ麻亜守! もう行くと良い…家族が心配する」


私はそう言われて無言で立ち上がる。
そしてキッとした面持ちで私は空を見上げた。
眩しい日差しの中、少し雲がかかっている。
今日は、天気が変わるかもしれない。
でも、大丈夫だよね…


麻亜守
(例え曇りになっても、いつかはきっと晴れるんだから!)



………………………



麻亜守
「…あれ?」


私はひとりで家に帰ると、そこには誰もいなかった。
リビングのテーブルには書き置きがあり、字から藍お姉ちゃんのだと解る。
それに書いてあったのは…


『夜まで戻らない、昼は自分で何とかしろ』


それだけが小さく書かれており、私ははぁ…とため息を吐いた。
そして冷蔵庫を調べると中には最低限の食材が入っているのを確認する。
私は、昨日から残っていた物を取り出してそれを食べる事にした。
…あんまりお腹は膨れなかったけど、自業自得でもあるから我慢するしかない。



………………………



麻亜守
「…ひとり、か」


家は思ったよりも広く、ひとりで住むには大きすぎる。
特に暇を潰す要素も無いし、出来る事と言えば自己鍛練位だった…
私は仕方無いので、庭に出て今日教わった事を反復しておく。
オジさんと会うのは1日1回…それが約束だ。
だから今日はもう会いに行けない。
本当はもっと長く教わりたいんだけど…


麻亜守
「ふっ!」


私は基本の型を一通り繰り返す。
手足をしっかり全身と連動させ、超能力を混ぜて大きなパワーを生み出すのが重要なんだそうだ。
キルリアという種族はあくまで特殊方面に優れた種族。
進化形のサーナイトも同様であり、本来物理は強くならない。
だけどエルレイドならばそれが真逆になり、高い攻撃で相手を打ち倒すスタイルが可能となるのだ。

私も、エルレイドになれれば良いのにな…



………………………




「…はぁ? エルレイドに進化したい?」

麻亜守
「うん、どうしたら良いと思う?」


「…あのなぁ、エルレイドは男だけが進化出来る形態だぞ?」


藍お姉ちゃんはもっともらしい理論でそう言う。
そんなのは私でも解ってるけど、納得出来ない部分もあるからこそこうやって相談しているのだ。


麻亜守
「でも、性別不明の人も性別があるじゃん!」


「まぁ、母さんとかは確かに人化前は男としての性格を与えられたって言ってたけど…」
「それでもアレはあくまで両性具有の話だ、神様みたいな存在だぞ?」

麻亜守
「でも、だったら女のエルレイドが居てもおかしくないんじゃないの?」


私はあくまでそう反論する。
確かに白那さん達はそうかもしれないけど…それでも本来性別の無い者に明確な性別が有るのはおかしい事に思えた。



「…まぁそれなら試しに『目覚め石』でも探してみたらどうだ?」
「幸いエルレイドはレベル関係無く進化出来る種族だし、可能か不可能かはそれですぐに解んだろ」

麻亜守
「むぅ、それは確かに…でもどこに有るの?」


「そんなモン俺様が知るかっ、自分で探せ!」


無責任にそれだけ言って藍お姉ちゃんは去って行く。
私は頬を膨らませるものの、それ以上の答えが反ってくる事は無いと判断して落胆した。



………………………




「で、どうだった?」

櫻桃
「それが全然! 誰ひとり見た事無いって言うんですよ!」

借音
「逆に不気味よね…まるで世界中から欺かれてるかの様に」


晩飯時、また3人はこうして会議を始めている。
私はひとりで好きにハンバーグを食べていた。
正直、こういう話は子供の私にはよく解らない!



「…ちっ、問題は山積みか」

櫻桃
「そっちは何か解ったんですか?」


「とりあえず教会には行ってみた…が、白いローブ姿の信者なんぞいないってよ」


藍お姉ちゃんはそう言ってため息を吐きながらソーセージをかじる。
結局の所、何も進展してないのと同じ様だ。
私がひとりでいても何も起こらないし、もしかしたら幻覚でも見たんじゃないのかな?



「何故、2年なんだ?」

櫻桃
「不気味っすよね…敵が2年って言ってたんでしょ?」

借音
「少なくとも、相手にとってもその2年という月日が必須だったのでしょうね」


「それは確実だろうな…だが、何故それを俺様に伝える必要がある?」
「まるで俺様にヒントを教える様な行為だ、それに何のメリットが敵に有る?」


3人はまた黙ってしまう。
私は残りのポテトを食べ終わり、ひとり先に食事を終わらせたのだった。


麻亜守
「ご馳走さま!」


私はそう言ってすぐに部屋に戻る事にした。
だけど、私の背中に向けて藍お姉ちゃんがこう叫ぶ。



「待て麻亜守! 1時間後に庭へ来いよ!?」


私はまたはぁ…とため息を吐きながらも、そのまま部屋に戻る。
そして自室の中でしばらくイメージトレーニングをしながら時間が過ぎるのを待ったのだった。
そして1時間後…私は言われた通り庭へと向かう。



………………………



麻亜守
「……」


「来たな、今日はお前も訓練に混ざれ!」
「朝サボった分は、きっちりやらせるからな?」

櫻桃
「サボったって、何かあったの?」


櫻桃お姉ちゃんに聞かれるも、私は答えなかった。
オジさんの事はあくまで秘密だ、それも約束だから。
でも、どうして話しちゃいけないんだろうか?
オジさんは絶対に悪いポケモンじゃないと思うんだけど…



「理由は一々問わん、だが勝手に逃げたのは事実だ」
「おら、とりあえずかかって来い! しばらくはマンツーマンで相手してやる…」


私は藍お姉ちゃんが余裕ぶって言い切る前に懐へと踏み込み、そこから拳を振り抜く。
不意を突かれた藍お姉ちゃんは驚き、咄嗟にガードを固めるも私はそのまま拳を振り抜いた。
すると藍お姉ちゃんはガード越しに後ろへと吹き飛ぶ。
浮遊してる状態だったから派手に飛んだ様に見えるけど、実際そんなダメージは無いだろう。
でも、私は少なからず実感出来ていた。
特訓の成果は出てる…と!



「ちっ、良い度胸だな…?」

麻亜守
「油断する方が悪い!」


私はそう言ってテレポートを使い、藍お姉ちゃんの背後に回る。
だけど藍お姉ちゃんは全く動じておらず、こっちを見もしないで『念力』で私を正確に吹き飛ばした。
私はすぐに体勢を立て直すも、前を見たら既に藍お姉ちゃんはいない。
そして私が驚いている間に…



「お前の考えてる事なんざお見通しだ、だから甘いんだよ!」

麻亜守
「うぐっ!?」


藍お姉ちゃんは強烈な回し蹴りで私の腹を蹴り抜き、更に遠くへと吹き飛ばす。
私は呼吸を止められてそのまま地面を転がった。
そしてゲホゲホ!と呼吸を荒らげ、腹を押さえて踞る。



「あんまり調子に乗るなよ? 俺様はガキ相手に容赦はしない主義だからな…」

櫻桃
「ちょっ、あんまやり過ぎないでよ!?」


「じゃかぁしい! お前らが過保護だからつけあがるんだよ!」
「そもそもこんな状況下で楽観視してる場合かっ」
「立て麻亜守! お前には少し灸を据えておく!」


私は泣くのを我慢してそのまま踞る。
痛い、苦しい…でも諦めるのは嫌だ!
私はオジさんから教えてもらった事を頭の中で反復し、歯を食い縛って立ち上がった。
そして私はしっかりと構えを取る。



『良いか麻亜守? まずは左腕を前に、肘はこうして曲げ、掌は軽く力を抜いておけ』
『右腕は腰の側で構えて、いつでも振り抜ける様に』
『重心は気持ち前にし、常に気を溜めるのを忘れるな?』



麻亜守
「!!」

櫻桃
「麻亜守…あの構え」

借音
「……!」


(左右逆だが、確かにエルレイドの構えだ…成る程、教えた奴は麻亜守に適した型にアジャストさせたのか)


私は息を整えて、キッと藍お姉ちゃんを睨む。
体内に気を溜め、常に念を練っておく。
普段は穏やかに、されど踏み込む時は一瞬で!



「…面白れぇ、なら誘いに乗ってやろうじゃねぇか!」

麻亜守
「!?」


藍お姉ちゃんは不適にケラケラ笑い、浮遊しながら高速で突っ込んで来る。
あえて無策無防備に突っ込んで来ており、明らかにこっちを見定めるかの様な動きだ。
私は冷静にタイミングを見計らい、踏み込む瞬間を待っていた。
やがて藍お姉ちゃんが射程に入った瞬間、私は全力で左足を前に踏み込む!

ズダン!!と大きな音をたて、私はそのまま藍お姉ちゃんの顔面に向けて右拳を振り抜いていた。
完璧なタイミングでそれは決まり、私の拳はカウンターで藍お姉ちゃんの額に当たる。
だけど、藍お姉ちゃんはそこからピクリとも退がらなかった。



「惜しむらくは、キルリアの非力さだな…!」


次の瞬間、私の顎は藍お姉ちゃんの尻尾で上にカチ上げられる。
『アイアンテール』の効果で硬質化させたその尾は1発で私の意識を絶ってしまったのだった…



………………………



借音
「明日まで目は覚まさないでしょうね…」

櫻桃
「藍ちゃまが大人気なく本気出すから!」


「ドアホゥ…本気なら麻亜守の首と胴体は今頃ふたつになっとるわ」


俺様はそう言って額を擦る。
あえて額で受けたが、まぁまぁの威力だな。
麻亜守の奴は無意識に念を込めてたからエスパー技としての色が濃かったのが敗因か。
あれが悪技とかなら俺様がやられてた可能性は十分有る。



「やれやれ…本気かよアイツ」

櫻桃
「エルレイドに進化したいって、そんな事出来るんすか?」


「さぁな、俺様でも解らん」
「だが、もし聖がいたなら可能にしたかもしれん」


俺様がそう言うと、櫻桃達は黙って納得してしまった。
そう、聖がそれを願ったなら…きっと麻亜守はエルレイドに進化出来るのだろう。
だが、今はその聖がいない…ならどうなる?
少なくとも麻亜守は本気でなりたいと思っている、急成長している体も次第にそっちの方向に仕上がっているのだ。
あのまま成長すれば、麻亜守は少なくとも物理主体のサーナイトにはなれるだろう。
だが、麻亜守が身に付けた格闘術は紛れもなくエルレイドの物。
そんな麻亜守が…この先何になると言うんだ?



「どっちにしても麻亜守は頑固だ…こうと決めたら俺様にすら刃向かいやがる」
「今後、俺様は麻亜守の事は一切ノータッチだ…お前らに任せる」

櫻桃
「いや任せるって、こっちも仕事あるんですけど?」


「仕事なんざこの世界だけの物だろ? クリアしちまえば財産も何も残りゃしないんだ…」


俺様は無情にそう言って櫻桃を納得させる。
本人は反論したそうだったが、意味は理解しているからか何も言わなかった。
もう敵は現れてる、この世界にいるのも長くはないだろう。
勝つにしろ負けるにしろ、この世界とはオサラバだろうからな。


借音
「……」


「どうした借音? えらく不安そうな顔だが、何か予知でも見たか?」

借音
「…ううん、多分思い過ごしだと思うから」

櫻桃
「何か気になる事でも?」


櫻桃が尋ねるも、借音は首を横に振るだけで答えなかった。
やれやれ、出来れば説明してほしいんだがな…
良くも悪くも、ここじゃ俺様は浮いた存在なのを再確認する。
逆に言や、それこそ敵の作戦なんじゃないのか?
俺様を引き剥がして、そこを狙う…とかな。



(馬鹿馬鹿しい、敵がそんな小さなタマか?)


俺様は自分で考えてそう思っていた。
恐らく敵は端から全員相手にする気だろう。
じゃなきゃ、あんな大衆の面前でわざわざ俺様にメッセージは残さない。
ひとりひとり暗殺したいなら、あのタイミングで既に出来たんだからな。



(そう、出来たんだ…あの時点で既に)


俺様はそれを考えて軽く恐怖する。
相手は誰にも感知されず、誰にも目撃されないまま俺様の側に現れた。
そんな能力があるのに、何であそこでやらなかった?
あそこで俺様を始末出来ない、あるいはしちゃいけない理由があったのか?
だが、確かに納得出来る部分はある。

奴は確かに言ったんだ…2年は長い、と。



「確かに2年は長い…そこに理由があるのか?」

櫻桃
「それって、アタシ達をその間観察してたとか?」


「有り得るな、だから手も出さなかった…だが2年経った今、敵はあえて姿を見せた」

借音
「つまり、もう観察は終わったと?」


俺様は答えられなかった。
あれから何のアクションも起こしてない所を見ると、まだ足りないのかもしれない。
そして、その原因が恐らく…



「……」


俺様は眠ったままの麻亜守を横目に見る。
櫻桃と借音も釣られて見てしまっていた。
そう、この中で明らかに大きく成長しているのは間違いなく麻亜守だ。
そしてそれは俺様の考察の答えとなるひとつの解答…



(まさか、麻亜守が進化する事がクリア条件とでも言うのか?)


それはサーナイトなのか、それともエルレイドなのか?
敵は、それを見定めたい…のか?
それは一体何の為? 敵に何のメリットがある?
この時、俺様はひとつの結論を導き出してしまった。
そして余りの馬鹿馬鹿しさに思わず頭を抱える。
心配そうに俺様を見る櫻桃を無視し、俺様は小さく呟く…



「…まさか、本当にただのゲームなのか?」

櫻桃
「は? ゲー…ムって」


櫻桃も借音も?を浮かべていた。
俺様だって笑い飛ばしたい位なんだよ!
それ位、馬鹿馬鹿しいんだ…



「敵にとって、全てはゲーム…つまり楽しければそれで良い」
「この2年という設定は、もしかしたらただの設定でありフラグ管理みたいな物なのかもしれない」
「だとしたら、ようやくイベントフラグが成立してイベントが進行…って訳か」

借音
「じゃあ、この世界はゲームの舞台に過ぎないと?」


俺様は頷けなかったが、多分そんな感じなんだろうと推測する。
考えれば考える程辻褄は合うんだ…この存在価値すら解らない世界でダラダラと過ごす2年。
相手からしたらただイベントが始まる期間を忠実に待ってるボスキャラなんだろ。
だからこそ、2年は長いと言ったんだ。

つまり、このイベント設定は敵としても余り面白くない要素だったのかもしれないな。



「この事は麻亜守には伝えるな」

櫻桃
「え、何で?」


「何ででもだ…余計な懸念を増やしたくないからな」


俺様はそう言って麻亜守の部屋から出て言った。
櫻桃と借音は余り危険視してないみたいだが、俺様は違う。
麻亜守が師事してる何者かは、唯一のイレギュラーなんだ。
麻亜守の戦闘スタイルの変化から考えて、恐らく会ったのは1ヶ月前かそこらだろう。
何でそんな事をした? 考えられるのはふたつだ…

単にイベント進行目的で麻亜守を鍛えたか…
それとも、完全に独立した中立キャラか…だ!



………………………



麻亜守
「う…」


私は目が覚めると、時間を確認する。
もう昼だった…そんなに寝てたのか。
まだ少し頭がズキズキする…昨日藍お姉ちゃんにやられたからだろう。
私はいつかやり返してやると心に強く誓い、着替えてリビングに降りる事にした。



………………………



麻亜守
「はぁ…またひとりか」


私は書き置きを見てそれをクシャクシャにし、ゴミ箱に捨てる。
そして冷蔵庫に入れてあったサンドイッチを取り出して食べたのだった…
腹が膨れたら、そのままオジさんの所にテレポートする。



………………………



エルレイド
「ハッハッハ、そうかそれは残念だったな!」

麻亜守
「むぅ、笑い事じゃないのだ! 次は絶対にやり返すの!」


昨晩の事をオジさんに話すと、オジさんは楽しそうに笑ってしまっていた。
多分子供のケンカ程度にしか思ってないんだろうなぁ〜
でも、オジさんだったら実際藍お姉ちゃんよりも強いのかな?


エルレイド
「ふふ…麻亜守、それでは今日は新たな技を教えてあげよう」

麻亜守
「え、何々!?」


私は目をキラキラさせて次の言葉を待っていた。
優しく笑うオジさんは腰に手を当て、静かにこう言う。


エルレイド
「実に単純な技なんだが、奥が深く使い方によっては無限の可能性を秘めている」


そう言ってオジさんはその辺に落ちていた木の枝を拾った。
そしてそれをダーツの様に持ち、近くの木に向けて軽く投げ付ける。
すると、その枝は黒いオーラを纏って木に刺さってしまったのだ。
それを見て私は驚きの声をあげる。


麻亜守
「今の何!? 何で木の枝が刺さってるの!?」

エルレイド
「アレはただの『投げ付ける』さ…もっとも、悪タイプの技だがね」
「キルリアの麻亜守が使える悪技で、恐らく1番簡単な技だろう」


投げ付ける…そういえばそんな技もあったっけ?
でもアレに無限の可能性って…?


エルレイド
「良いかい麻亜守…この技は単純だが、どんな『物』を投げても悪タイプの技となるのが特徴だ」
「つまり、その辺の石でも枝でも悪タイプの技となる」
「勿論、物によって威力は変わるがね…」

麻亜守
「そりゃ、石と枝じゃ硬さも重さも違うし…」

エルレイド
「そう! だからこそ無限の可能性があるんだ」
「それこそ、この花弁ひとつでさえ…」


オジさんは足元の小さな花弁をひとつ千切り、それをカードの様に足元へ投げ付ける。
するとヒラヒラ舞うだけの花弁が足元の草を切り裂いてしまったのだ。
私はそれを見てまたしても驚く。


エルレイド
「この様に、物は使い方次第…という訳さ」

麻亜守
「うん! これなら確かに簡単そう!」


私はこうしてオジさんから新たな技を教えてもらい、日が暮れるまでそれを練習した。
流石にオジさんみたく木の枝や花弁を刃物みたいには出来ないけど、それでも立派な悪技だ!



エルレイド
「…今日はここまでだな」

麻亜守
「ねぇオジさん、オジさんはどうしてずっとここにいるの?」
「もっと普通の家とかに住んだら良いのに…」


それは、ずっと疑問に思っていた事でもあった。
可能な限り詮索はしないって約束だったんだけど、これ位なら良いよね?
するとオジさんは少し複雑そうな顔をし、顎に手を当ててうーんと唸っていた。
そして意を決したのか、静かにオジさんはこう語る…


エルレイド
「…オジさんは実は自然が大好きでね」

麻亜守
「嘘でしょ、それ? 私解るもん」


私は頬を膨らませてそう言うと、オジさんは苦笑いしてしまう。
そして、やれやれ困ったな…と頭を抱えたのだ。


エルレイド
「麻亜守に嘘は通じないか…なら、こう言えば信じてくれるかな?」

麻亜守
「?」


私が次の言葉を待っていると、オジさんは腰に手を当て、まるで何かを宣言するかの様にこう言った…


エルレイド
「私は…実は宇宙の正義を守るヒーローで、世を忍んで秘密裏に悪を退治しているんだ!」

麻亜守
「……」


私は呆気に取られていた。
私は嘘が解る…それはキルリアとしての超能力で解るのであり、私の特技。
その私が、こんな子供騙しのセリフを嘘だと思えなかったのだ。
いや、感じられなかったと言うのが正しい。
真顔でそんな馬鹿な事を真面目に答えたのが…このオジさん。


エルレイド
「…流石に、信じないかな?」

麻亜守
「…むしろ本気で信じて貰えると思ってたの?」


苦笑いするオジさんに対し、呆れた目で見る私。
色んな意味を込めて私はため息を吐いた。
もうどうでも良いかも…オジさんは私にとって立派なポケモンだ。
一切の悪意も淀みも無い、真っ直ぐな心を持った立派な大人。
聖さんも似た様な心をしてたけど、オジさんはそれ以上に純粋かもしれない。
でもだからこそ…私はオジさんに惹かれて、憧れるんだ。


麻亜守
「ねぇオジさん! 私も、オジさんみたいにエルレイドになれるかな!?」

エルレイド
「うん? さて…それは流石に私でも解らないが」
「そうだな…麻亜守には記念にこれをあげようか」


そう言ってオジさんは身に付けていた首飾りを外して私の首にかけてくれた。
その首飾りには小さな宝石が嵌め込まれており、大きさは指先程の小ささだ。
色はまるで翡翠の様に美しく、見ているだけでウットリとしてしまう。


エルレイド
「それは『目覚め石』を使って作ったペンダントだ」
「もし麻亜守がエルレイドになれるのなら、きっとそれが輝くだろう」
「まぁ、お守りみたいな物と思ってくれても良い」

麻亜守
「良いの!? でもこれ、オジさんの大事な物なんじゃ?」

エルレイド
「何、私にはもうひとつあるからね♪」


そう言ってオジさんがポケットから取り出したのは別のペンダント…
だけど、付けられている宝石は全く別の物だ。
むしろアレは…お母さんの物に似てる。
って、事はまさか!?


麻亜守
「オジさん、それって…」

エルレイド
「しっ!! 麻亜守、静かに…」


その瞬間、オジさんは明らかに警戒した声で私を覆う様に屈み込む。
私は何があったのかを理解する事が出来ないでいたけど、オジさんの心境を理解してすぐに黙ったのだ。
やがて無言の中、静かな花畑に何者かが踏み込んで来るのを理解した。
オジさんは明らかに警戒体勢のまま、ただ相手の姿が見えるのを待つ。

そして、現れたその姿は……










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第2話 『麻亜守はエルレイドになれるの?』


…To be continued

Yuki ( 2022/07/02(土) 16:04 )