第7章 『HEROIC HEARTS』
第1話

「……なぁ、お前ってイチャラブとかに憧れたりする?」

櫻桃
「…は? 何なら既に経験済みなんで別に…」


「……は? そりゃ一体いつの話だ?」


とまぁ、そんなバカな話をしつつも俺様は料理している櫻桃を睨み付けている。
何でも聞けば、櫻桃は前に1度『あ・の! さ・と・し!!』と、恋人ごっこなんかしてイチャラブをやらかした大罪があるらしい…
とはいえあくまでごっこ遊びな為、ギリギリの所は未遂だったらしく、それからの櫻桃は色々大人になって今に至った訳という事だな。

ちなみに、今俺様達がいる世界は櫻桃が元々いた世界に似ている世界らしく、どこか牧歌的で平和なヨーロッパ風の村…
特にいさかいが起こる訳でもなく、実に気が滅入りそうな世界だった…
そんな世界に、俺様達はもう2年近くいる。
この天才を自負する俺様だが、未だこの世界のクリア条件を達成出来ないでいたのだ。
何なら笑ってくれても構わんぞ?


櫻桃
「わっはっはっは」


「何でお前が笑うんだよ!? しかも無感情に!!」


俺様は新聞片手にそうツッコム。
くっそ、少し声に漏れてたか?
それとも櫻桃の奴も少しは相手の思考を探る力でも身に付けたか?
俺様は気を取り直し、もう片方の手で牛乳の入ったカップを手にしてそれを1口飲んだ。
うむ、ほんのり甘いホットミルクだ…流石櫻桃、気が利いてるな。



「しっかし、特に驚く話題も載ってない新聞だな…いつもの事だが」

櫻桃
「この世界は争いから縁遠い世界みたいっすからねぇ〜」
「いい加減慣れてきたものの、飽きてきたのも事実っすよね」


そう言って欠伸しながら櫻桃はエッグトーストを仕上げる。
ちゃんと家族4人分…後は皆で好きなだけよそえる大皿の野菜サラダだ。
俺様は軽くテレパシーで他のふたりを食卓に呼び付けた。
すると、数分後にドタバタした足音と共にひとりの少女が現れる。
その少女とは……


麻亜守
「わぁ〜! 今日も良い匂いの朝食!!」


そう、麻亜守だ。
あれから訓練もして、今やキルリアへと進化した家族のひとり。
角も2本に増え、エスパーとしての能力も格段に上がっている。
もうすぐ10歳になるのもあり、身体も成長期に近くなったのか背も大分伸びたしな。
昔は120cm位だったのに、気が付いたら135cm程にはなってるんだから…

まっ、当然俺様には敵わないわけだが♪
余談になるが、今の俺様は肉体年齢が13歳になっており身長も140cmに到達している。
胸も良い感じに膨らんできてるし、次に会ったら夏翔麗愛も驚愕する事だろうわはは。


借音
「ふふふ…でも麻亜守がサーナイトになったら流石の藍ちゃんも追い抜かれるかもね?」


後から現れたのはご存知麻亜守の義母、サーナイトの借音だ。
借音も今や年齢は27歳程で、櫻桃のひとつ下とは聞いてるが…いい加減顔に皺のひとつも付けよ…と言いたくなる位にふたりともまだまだ若々しかった。
…まぁ母さんだってそうだったし、ポケモンはそんなにすぐには老け込まないか。


櫻桃
「麻亜守はまだまだ成長する伸び代あるしねぇ〜」
「その点、藍ちゃまはもうピークでしょ? その辺が限界近いんじゃない?」


櫻桃はおちょくる様にそう言って皿を並べ終わる。
そして木製の椅子に座ってしっかりと手を合わせた。
ツッコミたい衝動に駆られる俺様だが、ここはプルプルと震えながら堪えてとりあえず手を合わせる。
他のふたりも同じ様に手を合わせ、俺様達は『いただきます!』の号令と共に朝食を開始した。


麻亜守
「はぐはぐはぐ!」

櫻桃
「こらまた! 焦って食べるなって!」


「くおら麻亜守!? そのサラスパは俺様が先に目ぇ付けてんだぞ!?」


まずは毎日恒例のサラダ争奪戦だ。
基本は野菜サラダがメインとはいえ、他にもポテトサラダやサラダスパゲティと子供の好きそうなラインナップは揃っている。
その中でも、俺様達が特にお気に入りなのがこのサラスパことサラダスパゲティなのだ!
しかし、このサラスパは皆で好きによそえる様に大皿に一定量盛られている惣菜…
つまり、自己責任で好きなだけ取れるというシステムな訳だな!


借音
「あらあら、麻亜守もすっかり力強くなって♪」

麻亜守
「藍お姉ちゃんは年上なのだから私に譲るの!!」


「じゃあかぁしい!? こっちも今後の成長がかかってんだ! ここはお姉様に譲らんかい!!」

櫻桃
「誰がお姉様なんだか…それよりちゃんとトマトも食えよ? 栄養あるんだから!」


俺様はうぐっ!?と一瞬喉を詰まらせ、その隙にサラスパは麻亜守の皿へゴソッと持っていかれてしまう。
俺様はすぐにミルクで喉を流し、やむ無く野菜サラダの方に手を出す事にした。
栄養あんのは知ってんだよ…でもやっぱ苦手なモンは苦手なんだ!!



「おいドレッシングは?」

櫻桃
「今日は在庫無くなってたから無し! 別に生でも食えるでしょ?」


そう言って櫻桃は控え目に人参をポリポリとかじる。
俺様はマジか…?という顔をしながらも、綺麗に切り分けられているトマトの欠片を何とか口に運んだ。
むぐ…! この何とも言えない最初の舌触りが苦手なんだよ〜


麻亜守
「藍お姉ちゃんは好き嫌い多すぎるのだ! その点私は全部食べられるもーん♪」

櫻桃
「おー偉い偉い…麻亜守に比べて、藍ちゃまは…はぁ」


露骨に煽られる…俺様はプルプルと震えながらも野菜を無理矢理流し込む事にしたのだった。
畜生! 覚えてろよ〜!?



………………………



麻亜守
「はあっ!!」


「まだ甘い、小手先の技に頼るな!」


朝食後、俺様は麻亜守と裏庭で訓練していた。
櫻桃と借音は仕事でこの時間働いている…何でも運送屋をやってるらしい。
元々いた世界でも借音が経営をやっていたらしく、その経験を生かしているという訳だな。

…で、俺様と麻亜守はこうやってふたりで訓練を続けていると。


麻亜守
「このっ!!」


「練りが甘いってんだ! 正確に集中しろ!」


麻亜守が乱暴に放った『サイコキネシス』を俺様は同じ技で軽く相殺する。
コイツ何気に技の覚え自体は速く、俺様が教えた技の殆どは修得してるんだよな…
ただ、いかんせん戦い方が雑すぎてお話にならない。
ここまで実戦を経験してなかったんだから仕方無いが…

ここ2年で急成長してる反動で、意識が肉体に追い付いてないのかもしれんな。


麻亜守
「でやぁっ!!」


「おっと、接近戦か?」


突然、麻亜守は手足を駆使して格闘戦をし始めた。
俺様は両手を駆使して軽くそれをいなしつつも、何処か違和感を覚える。
こんな体術、俺様は教えてねぇぞ?
そう思った俺様は、麻亜守の突進を捌いて地面に転倒させる。
そしてすぐにこう麻亜守を問いただした。



「おい麻亜守、その技何処で学んだ?」

麻亜守
「? 何となく、だけど…」


俺様はすぐに麻亜守の頭の中をチェックする。
…がっ! 無理!! まさかロックされていた!!
コノヤロウ、生意気に意志の神の俺様を弾くつもりか!?



「チッ、オイ…今なら怒らないから正直に言え、誰に習った?」

麻亜守
「べーっだ! 秘密だもんねーー!!」


そう言って麻亜守は可愛らしくあっかんべーをし、そのまま逃げ出してしまう。
俺様は腕時計を見て時間を確認し、はぁ…とため息を吐いて空を見る。
まだ昼には早いが…まぁ良いか、今日も良い天気だしな。



(だが、麻亜守が何か隠しているのは確かか)


正直、今回の世界に関してはおおよそクリア条件は何なのか絞れている。
個人的に候補は3つあり、その何れかである可能性は高い。


まず1つ目…何処かに潜んでいるボスを倒す
2つ目…特定の場所で特定の何かをする
そして3つ目…麻亜守の成長



(個人的に3が濃厚な気もする…が)


いかんせん時間がかかりすぎてる。
他の世界がどうなっているにせよ、時間のズレはどう収束する?
他の家族と合流した時、年齢がバラバラになっている可能性もあるかもしれんな…

ボスがいないとも限らんし、そういう意味では1と2の複合も十分有り得るか。



(だが、俺様の力を弾くだけの意志力が今の麻亜守にあるか?)


俺様が今1番危惧してる部分がコレだ。
ここまでの麻亜守の成長具合を鑑みて、俺様の力を弾けるとはとても思えなかった。
だが、現実に麻亜守の頭は俺様の力を弾きやがったんだよな…
一体どういう事かと言うと…まぁ、大体見当は付くんだがな。



(麻亜守にあの体術を教えた誰かか…しかもあの動き、相当なレベルの相手に教わったみてぇだな)


俺様は軽く髪を掻きながらため息を吐く。
少なくとも麻亜守の頭にあんなロックをかけたって事は、お相手さんも自分の事はよっぽど知られたくないらしい。
最悪、麻亜守を利用する気なら排除しなきゃならんが…



「…麻亜守なら、悪意のある奴位なら流石に判別出来るか」


あれから麻亜守達と生活をした中で、俺様は知った事が多数ある。
その中でも特に思うのが…麻亜守の感受性だ。
麻亜守は1歳の時に両親を失ったと借音から聞いたが、そのせいもあってか麻亜守は特に他人の『気持ち』を鋭く読み解く力に長けている。
キルリアに進化した今ではその感覚は更に研ぎ澄まされ、その気になれば夏翔麗愛にも劣らない程の『感情』を読み取る事も不可能じゃないだろう。

そんな麻亜守が悪意のある相手を見抜けないわけがない。
相手に少なからずでも邪な気持ち、感情があったなら麻亜守はそれを鋭く見抜けるはず…



「つまるとこ、麻亜守の好きにさせるしかないってこったな…」


少なくとも、麻亜守が教わった体術は間違いなく麻亜守にとってプラスになるであろうスキルだ。
もしかしたら、麻亜守に眠ってる未知の才能を引き出せるかもしれんし。
そう思えば、賭けてみる価値は大いにあるだろう。

むしろクリア条件に関わってる可能性が高まるし、今はとりあえず静観しておいてやる事にしようか…



「ふぁ〜あ…さて、昼まで少し仮眠を取るか」


俺様はダラけながらそう呟き、浮遊して部屋まで戻る事にした。
麻亜守の事はとりあえず置いておく、必要があれば自分から何か伝えに来るだろうし。
アイツももうそこまでガキじゃない、生きる為にはある程度の判断力が必要なのは解ってるはず。

少なくとも俺様が10歳の時は自分で考えて動いていたからな…



(…チッ、嫌な記憶を思い出しちまった)


俺様は思わず舌打ちしてしまう。
思い出したのは、1度死んだあの時。
思えばただの自業自得…憎しみに駈られて俺様は呆気なく死んだんだ。
今思えば、実にバカらしい死に方だな…アホらしくて反吐が出る。
とはいえ、あの死が無けりゃその後どうなっていたのかは正直解らない。
その時は、もしかしたら聖も覚醒する事なく全てが消えていたのかもしれない…そう思うと、まぁ俺様の死にも意味はあったのかもな。



「…馬鹿馬鹿しい、麻亜守には関係の無い話だ」
「アイツは今をしっかり生きてる、それで良いだろうが」


俺様はそう呟いてその場を移動した。
アイツに俺様を被せるなんざ、重症だろ…



………………………



櫻桃
「え? 麻亜守が誰かに秘密で会ってる?」


「ああ…何か心当たりはあるか?」


時刻は夕刻頃…櫻桃と借音が仕事から帰って来た所を見計らい、俺様は櫻桃に早速尋ねていた。
だが櫻桃も心当たりは無いのか、うーんと唸るだけで特に答えは出て来ない様だった。
そうか…ならやっぱり。


借音
「…もしかして、何か危険な相手なの?」


「そういう確信はまだ無い、麻亜守の反応を見る限りでもそこまでの危険は無さそうだった」

櫻桃
「…でも、麻亜守の頭にロックかけてまで正体隠すなんてよっぽどじゃないっすか?」


「…理由はどうあれ、麻亜守は確実に強くなってる」
「その結果がしっかり俺様達の未来も紡ぐなら、俺様は見逃すつもりだ」


だがふたりは口をつぐんで考えている様だった。
まぁ気持ちは解らんでもない、こんな世界でそんな数奇な出会いがあるとも思えんだろうからな。

だが、だからこそ逆に俺様はこう考える。



「…クリアすら見えないこのクソ世界で、何故麻亜守が選ばれたと思う?」

櫻桃
「え? そんなの…解んないっすよ」

借音
「…麻亜守が、クリアその物の条件になっていると?」


借音は何となく感づいていたみたいだな。
対して櫻桃は何とテキトーな事か…全く!
俺様は軽く片目を閉じて櫻桃を睨みつつ、こう話を続ける。



「…正直、俺様はここまでの約2年で出せるだけの結論は出したつもりだ」
「だが、結果としてクリアの条件は一切判明していない」
「だったら、1番確率が高いのはもう麻亜守しかいないだろ?」

櫻桃
「じゃあ、アタシ達自体は何の意味も無い存在って事っすか?」

借音
「それは違うわ櫻桃さん、私達家族が一緒だからこそ麻亜守もより強くなれるはずでしょ?」


「借音の言う通りだな、俺様は置いといても麻亜守にお前等ふたりは間違いなく必須だろ」


まぁそうなると、今度は何で俺様が混じってんだ?っぅ疑問が出てくる訳だが。
そんなモン、俺様ですら解りゃしねえ。
ぶっちゃけ、作り手の気紛れにも感じるんだよな〜


櫻桃
「…でも、それなら何で部外者が麻亜守に?」


「それこそ知るか…それに、あながち部外者とも限らねぇんじゃねぇの?」

借音
「…え? それじゃあ麻亜守の関係者とでも…?」


俺様は答えを出せなかった。
そんな風な答えが何となく過っただけだからな。
だが麻亜守は現実にソイツを信用してるみたいだし、案外近しい間柄なんじゃないのか?
…まぁ、あくまで俺様の予想なんだがな!



「とりあえず、頭には入れておけ」
「麻亜守が自分から話すまで、俺様達はあえてノータッチだ」

櫻桃
「でも、もしもの時は…」


「そん時ゃ力ずくでも、だろ?」


借音は押し黙るものの、俺様は軽く笑ってやった。
櫻桃は複雑そうにしながらも、スタンスを変えるつもりはないみたいだ。
やれやれ…大人ってのは面倒だな、本当に。
子供が大切なのは解るが、子供だってただ縛られてばかりじゃ鬱陶しく思う事もある。
たまには、信頼して任せてみるのも親心だと俺様は思うがね…



………………………



結局、その日はふたりとも納得したものの不安そうな顔はあからさまだった。
夕飯までに麻亜守が戻って来た時は露骨に嫌な顔されてたし…
まぁ、感情を読み取る力の強い麻亜守相手に隠し事する方が難しいだろうからな。
俺様は夏翔麗愛のせいで慣れてるが。


麻亜守
「むぅ…何か言いたい事あるの?」

櫻桃
「そりゃあるけど…話す気無いんでしょ?」


櫻桃はもっともな事をストレートに言う。
流石の麻亜守も察しは付いているのか、むぐっ…と言葉を詰まらせていた。
俺様はやれやれ…と呟き、借音はクスクス笑う。
そして、ややギクシャクしながらも夕飯を俺様達は食べる事にした。



「…麻亜守、お前が何を隠してるのかはあえて聞かないでおく」
「だが、お前はあくまで子供で俺様達は保護者だ…」
「必要があると判断したら、例え何をしてでも俺様達はお前を助ける…それは覚悟しておけよ?」

麻亜守
「………」


麻亜守は嫌そうな顔をするも、黙って食事を取る。
俺様も気にせず自分の分に手を付けた。
今日の献立はシンプルに焼き魚と白飯だ…漬け物も味噌汁もあるし、何ならフライ系も揃ってる。
味は文句無し、流石櫻桃だな♪


借音
「…麻亜守が言いたくないのならそれで良いわ」
「でもこれだけは約束して…何かあった時、決してひとりで考えないで私達に相談するって」

麻亜守
「………」


麻亜守は小さく頷く。
今はこれで十分だろう。
とりあえず腹が膨れたら、また訓練だ…今度は櫻桃と借音の、な。



………………………




「集中力が切れてるぞ? もう限界か?」

櫻桃
「はぁはぁ…こちとら仕事して疲れてんだよ! 少しは加減しろ!!」


櫻桃はメガ進化しながらも、そう愚痴って倒れる。
ここ2年の訓練で大分変化に慣れてきた様だし、肉体変化のギャップも克服は出来たかな?
とはいえ、確かに仕事をこなしながらハードなトレーニングをさせるのは少し問題か。



「…もう良い、今日は休め」
「次、借音もメガ進化だ!」

借音
「は、はい…!」


櫻桃はダルそうに変身を解き、そのまま大の字になって地面に背を預ける。
そして借音が次にメガ進化を始めた。
借音の場合はそこまで肉体が変化しないし、そこまで慣らすのに問題は無いんだが…



「いい加減、特性のコントロールは慣れたか?」

借音
「そう、ですね…ノーマル技が急にフェアリー技へ変換されるのはどうにも驚くのだけれど」


「普段から慣らしておくに越した事は無いからな…」
「お前等はふたりとも実戦で殆どメガ進化をしてなかったし、今ならいつ発動しても問題は特に無いはずだ」


現に今やふたりのCPも相当上がってる。
メガ進化前提なら俺様でも勝てない位には、な…
最も、あくまでCPの話だが。


借音
「…藍ちゃん、疲れてるんじゃないの?」


「あん? それがどうした…そんなのお前等程じゃないだろ」


俺様は指摘されるも軽く返す。
まぁそりゃ俺様でも疲れはする。
朝から麻亜守の訓練に付き合い、空いた時間には自分の鍛練。
夕方、夜にはコイツ等の訓練に付き合ってるんだからな。

確かに、毎日気が休まってないのは理解してるが…


櫻桃
「藍様もたまにはゆっくり休んだら〜?」
「気を抜けとは言わないけど、ここ2年で殆ど気を詰めっぱなしじゃん…」


「それがどうした? 俺様達はキャンプに来てるんじゃねぇんだぞ?」
「あくまであのバカの為に命を賭け、この下らないゲームに参加してるんだよ…」
「そんな状況でな…」

櫻桃
「あーーー! あーーー!! 聞こえなーい!!」
「そういう理屈はノーサンキュー!! 良いからたまには家族サービスしろってんだよ!?」


俺様の言葉を遮ってまで櫻桃は大きな声でそう言い放った。
そして櫻桃はゆっくり立ち上がり、ビシッ!と俺様を指差してこう告げる。


櫻桃
「明日の休日は皆で遊びに行く! これ決定事項だから!!」


「オイ…待て、俺様は…」

借音
「ふふふ…麻亜守もきっと喜ぶわね♪」


俺様は反論しようとするも、もはやそんな雰囲気では無かった。
状況をすぐに理解し、俺様は頭を片手で抱えて息を吐く。
どうせ反論してもあーだこーだ理由付けられるだけだなこりゃ…
最悪、飯に細工されかねんし黙って従う方が利口だ。
俺様は極力無駄な努力というのをしたくないからな…

と、いうわけで急遽明日は遊びに行く事になってしまった。
後から伝えた麻亜守も大喜びししてたし、まぁたまには良いか…と俺様も無理矢理納得するのであった。



………………………




「…で、町まで移動って訳か」

櫻桃
「そりゃこんな狭い世界でそんな気の利いた場所も無いですしね〜」


次の日の早朝、俺様達は馬車で移動をしていた。
櫻桃達が仕事で使ってる馬車であり、今回は運送屋も休みなので移動に使わせてもらってる訳だな…

で、俺様達がいた村よりも少し大きい町に今は向かってるって訳だ。


麻亜守
「町に行くのは久し振り! 何か面白い事あるかなぁ〜?」

借音
「ふふ…そうね、前に麻亜守と行ったのは3ヶ月前位かしら?」

櫻桃
「まぁ、そんなに変化は無いんだけどね…」


「むしろ有るならもっと栄えてるだろ、そもそも来てすぐに殆ど調べ尽くしてるしな」


当然だが、俺様はこの世界に来てすぐに粗方移動出来る範囲は調べ尽くしていた。
俺様達が住んでる村を筆頭に、この世界には小さな村がチラホラ点在している。
そしてやや大きめの町が中心地に有り、そこがこの世界の拠点みたいな場所になっているってこったな。

…で、櫻桃達はその町で運送業者として仕事してると。



「…で、何処に行く気だ?」

櫻桃
「特には決めてないっすけど…とりあえず町中歩いてみるだけでもしてみないっすか?」


まぁ、正直遊び目的で見た事はないしな…
そもそもどんな店や施設があるとか気にした事も無かったし。
つか、麻亜守の気を引く様な何かがあるのかあそこに?
麻亜守自身は楽しそうにしてるが、果たして…?



………………………



櫻桃
「到着っと! 馬車はここでOK! んじゃとりあえず歩きます?」


俺様達は町に着くとすぐに馬車を指定の位置に駐車させた。
そして改めて町中を見渡す…特に変わりの無い小さな町だ。
とはいえ、この世界では最も大きな町だしそれなりに意味は有る。
面白いかどうかは別次元の問題だがなっ。



「やれやれ、まぁ好きにしろ…」

麻亜守
「じゃあ遊技場に行きたい!」

借音
「それじゃあ、そこに行きましょうか♪」


とりあえず麻亜守の一声で目的地は決まる。
遊技場ねぇ…そんな施設もあったのか。
俺様は殆ど記憶無ぇな…まぁ遊びたいなんて年頃でも無ぇし。
そんなこんなで、俺様達は早速遊技場まで歩く。
そんなに遠くもなく、10分程で目的の場所には着いた。



………………………




「ふーん、何か色々有るんだな」

櫻桃
「まぁ、あくまで子供用ばっかですけどね〜」


櫻桃の言う通り、ここはやや大きめの公園みたいな施設であり、様々な遊具が設置してあった。
他にも小さな出店がいくつかあり、そこかしこに小さな子供達が見える。
麻亜守はそんな中に意気揚々と混ざっていき、勝手に遊び始めていた。



「…やれやれ、俺様には暇でしかないな」

櫻桃
「まぁまぁ、藍様はとりあえず羽を伸ばすだけでも良いから…」


そう言って櫻桃は冷たいコーヒー牛乳を俺様に手渡した。
俺様はそれを受け取り、一口飲む。
まぁまぁだな…個人的にはもう少し甘味が欲しい位だが…ミルク感が強いだけでも良しとしておくか。



「…とりあえず俺様はベンチで休んでる、何かあったら頭で念じろ」


俺様はそう言ってひとりベンチに向かってそこに座った。
櫻桃と借音はやや離れた位置で麻亜守を見守っており、近くにいた他の大人達と談笑したりしている。
何だかんだで社交性はあるんだな…普段からああいう部分は見逃しがちだし貴重だ。
対して俺様は大学でも基本引きこもってばっかだったなぁ〜



(やれやれ、折角積み上げた論文も聖が復活しなきゃ無駄な労力か…)


もっとも、聖が復活したとしても元の世界に戻るかは疑問だが。
その時はどうなる? 俺様達の過ごした2年はリセットか?
聖ならどうする? 俺様は…



「…ようやく2年か、長かったよな〜」


「!?」


俺様は思わずその声に振り向く。
だがそこには誰もおらず、俺様は思わず困惑した。
そしてバッ!と背後を向き、そこに違和感の有るひとりの何者かが目に入る。
正体は不明…全身を白のローブで覆っており、男か女かも解らない。
とりあえず形容するなら、中世の魔導師みたいな風貌だが…

その時点で違和感が凄まじい。
何せこんな牧歌的な世界観にまるで即していなかったからだ。
この世界はどっちかというと現代寄りなヨーロッパ風の世界であり、あんな宗教染みた服装の存在は見た事が無い。
いや別に教会とかもあるかもしれないし、絶対無いとまでは言えないが…



(例によって心は読めないタイプか…!)


俺様は遠目に睨みながらも相手の読心は出来なかった。
もしかしたら悪タイプなのかもしれないが、一体何者だ…?



(チッ、どうする追い掛けるか? だが罠の可能性はある)


そしてアイツが囁いた一言…ようやく2年。
この意味は、何だ?
何故アイツが2年について言及する?
まさか、この2年そのものに意味があったと言うのか?

俺様が判断に迷ってる隙に、ソイツは既に見えなくなっていた。
別に危害を加えられたわけじゃない。
だが…敵、だよな?



………………………



櫻桃
「はぁ!? 敵かもしれない奴がいたって!?」

借音
「白のローブ姿の何者か…それも、藍ちゃんが読心出来ない相手…」


「とにかく情報が足りなさすぎる、この世界でそんなローブを身に付けた集団が存在するのか?」


俺様はふたりにそう相談するも、ふたりして唸るだけ…
つまり全く覚えが無いというのだ…仮にも運送で殆どの村を移動し尽くしてるふたりが、だ。
という事は、やはりイレギュラー…ほぼ確実に敵!


櫻桃
「少なくとも、教会とかはあるけどそんな露骨なローブ姿の信者は見た事ないけど…」

借音
「そうね、教会関係者も普段着の人ばかりだし…」


「なら、確実に罠って訳か…あそこであえて俺様だけに声をかけたってのは」


あわよくばひとりづつ排除するつもりなのか?
それともあえて警戒させて一気に叩く作戦か?
そもそも相手はひとりなのか? もっと仲間がいるのか?
考えれば考える程不安で心が塗り潰されていく…果たして、正面から行って勝てるのか?

奇しくも、予想だにしない形とタイミングでクリアへの道が見え始めた俺様達…
果たしてアレはボスなのか? それとも……










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第7章 『HEROIC HEARTS』

第1話 『疑問の2年間』


…To be continued

Yuki ( 2022/05/26(木) 13:29 )