第6章 『調和と混沌』
第7話

「……」

リーナ
「……」


互いが構え、手を合わせる中。
私達は静かに佇み、ただ緊迫する空気に身を委ねていた。
あれから遂に2年…私は未だに最後の極意を習得出来ずにいる。
そして、それとは真逆に…



「!!」

リーナ
「っ!!」


私達はほぼ同時に動き出す。
若干私の手が先に届き、師匠はそれを紙一重でかわした。
そして同時に師匠の膝が私の腹部を狙う。
私はそれを読んでもう片方の手で膝を止めた。
そこから次々と互いの技が交差する。
共に直撃を貰う事はなく、しばしの間空気を切り裂く音が森に鳴り弾いていた…



………………………



リーナ
「…腕の方はそれなりや、今のアンタなら並の格闘家相手には負けんやろ」


「…そう、ですか」


組手の後、師匠は軽く息を吐いてそう告げる。
私自身、確かに強くなった確信はある。
しかしそれでも…やはり最後の極意には到達出来なかった。


リーナ
「ここまでの修行で粗方やれる事はやった」
「アンタがこれからどうするかは解らんが、後は時間が解決してくれるやろ」


「この2年間、本当にありがとうございました師匠」
「師匠からの教えを胸に、これからも修行を続けます」


私は手を合わせて最後の礼をする。
結局、師匠からは1度も1本を取れなかった。
それなりに体力も衰えてるらしいけど、まだまだ短期戦なら問題は無いとの事…
世界はやはり広い…こうやって師事してても、こんなに強い拳法家が目の前にいるのだから。


リーナ
「…どうやら時間みたいやな」


「!? 粒子化…! 師匠だけが!?」


世界に変化は訪れない。
だけど師匠の体は粒子化しており、この世界での役目を終えた事を表していた。
そして私には…まだやるべき事があるらしい。


リーナ
「まぁ何となく予想はしとった…やっぱりアンタに会うたのは運命やろ」
「こんなロートルが、少しでも役に立ったなら良かったがな♪」


「師匠…貴女は」

リーナ
「何も言わんでええ、アンタの清山拳はアンタが完成させ」
「まだまだ時間はかかるかもしれへんけど、きっと出来るわ」


そう言って最後に笑い、師匠はこの世界から消えてしまった。
私の記憶から師匠の存在が消える事もなく、私の胸には師匠からの教えが刻まれている。
森にひとり残った私は、その場で構えを取り気を練り込んだ。



(空気、大地、光…世界に存在するあらゆる物には必ず気が流れている)


そして、森羅万象全ての気を取り込む事が清山拳の四法であり極意。
今の私には…まだ、その全てを取り込む事は出来そうにありません。
ですが、いつかきっと…!

私は構えを解き、その場で手を合わせて一礼する。
そして荷物を纏めて私は山を降りる決意をした。
あれから明海も相当強くなってるはず…久し振りに、会えるわね。



「あ、そうだ…終わったら連絡しろってクゥさんが言ってたわね」


私はあの時の事を思い出し、鞄から『不思議球』を出す。
そしてそれを握り締めて私はこう念じた。



(修行は終わりました…)


そう念じると、不思議球は砕け散ってしまう。
使い捨てだとは聞いてたけど、こうなるとゴミ扱いで良いんだろうか?
とりあえず私はそれをゴミ袋に入れ、後は山を降りる事に…
そしてしばらくすると、クゥさんが私の元に現れるのだった…


………………………



クゥ
「よっ、お久〜♪」


「クゥさん! お久し振りです…」


久し振りに見るクゥさんはいつものままだった。
修行中でもちょくちょく顔を出してくれてたけど、前に会ったのは先月位だったかな?



「クゥさん…師匠は、もうこの世界からいなくなりました」

クゥ
「そっ…そこは予想通りなんだ」


クゥさんは大きな角をダラリとさせて軽く項垂れる。
何だか思ってたのと違う…って感じみたいだけど。


クゥ
「…ぶっちゃけ、アンタのクリア条件がまだ解んないのよね〜」


「クリア、条件…?」


そういえばそうでしたね。
私達はあくまで混沌の王が造り出したゲームの盤上にいるに過ぎない。
そして次のステージに進むには、世界ごとに設定されているクリア条件を達成するしかないという…
少なくとも、私の修行はそうじゃなかった?


クゥ
「てっきり修行がそうだと思ってたんだけど、これだとカーズの方も違うかなぁ〜」


「カーズさんは、どんな条件だと?」

クゥ
「修行の完了…アイツ、自分がラスボスだと仮定してるわ」
「今日辺り最後の仕上げに入るって言ってたから、こっちもいち早く様子を見に来たのよ」


カーズさんが…ラスボス?
それじゃあ、カーズさんは明海と戦って証明するつもりでしょうか?
とはいえ、クゥさんは違う様に考えているみたいですが…


クゥ
「…個人的には、まだ謎が残ってるしね」


「謎、とは?」


クゥさんは顎に手を当てて考え込む。
そしてしばし沈黙した後、こう語り始めた…


クゥ
「…アンタには言ってなかったけど、この世界には他にイレギュラーがいんのよ」


「!? それは、私達の家族ですか?」


クゥさんは頷かない…ならば、混沌の勢力?
だとすれば、それがボスの可能性も?


クゥ
「…ぶっちゃけ、多分混沌の勢力」


「では、七幻獣…とやらでしょうか?」

クゥ
「可能性は高いわね、そしてそうだった場合…かなり面倒な事になる」


面倒、ですか…確かにかなりの実力者達みたいですし、今の私でも勝てるかどうか?
クゥさんやカーズさんなら、勝てる可能性は高いでしょうね。


クゥ
「…ってな訳で、ファイナルアンサー?」


「?」


クゥさんは角を背後に向けて、そこから声を背中側に放った。
私は意味不明に目をパチクリさせるものの、突然何も無い空間から謎の生き物が姿を表す。
私はソレに思いっきり驚くものの、クゥさんは冷静に振り向いて相手を見定めていた。


謎の生き物
「もしかして見えてたんでしゅか?」


「いえ、恐らくは勘かと」
「少なくとも、マスターの能力が他の者に検知出来る可能性は0と断言致します」


突然現れた存在はふたり…
片方は何やら貝殻を模した乗り物に乗っている水着の青髪黒人美女。
扇情的とも言える露出度の高い布だけで局部を隠しており、表情はただただ無表情…
愛呂恵さんを一瞬思い浮かべる程に機械的な印象を受けるものの、流石に見た目が違いすぎるだけに重ねるのは無理があった。

対してもうひとりは……何と言うか、まさに緑の毛玉!?
それから短い手足が生えてて、上にブクブクと太った頭が乗っている異様な姿だ。
髪は短髪で側頭部に小さな桃色の花が付いている…という事は草タイプ?


クゥ
「わざわざ幹部自ら来るとは何が目的?」
「七幻獣、『暴食』のシェイミ…とその子分のカプ中黒レヒレ」

シェイミ
「中黒は発音いらんでしゅよ!?」

レヒレ
「マスター、ツッコミは無駄な行為かと」


「このふたりが…例の城を襲ったふたり!?」

シェイミ
「一応自己紹介してやるでしゅ…ミーは『チキ』、プリチーなサイキョー幹部でしゅ♪」
「コイツは『ポリア』…ユーシューなミーの右腕でしゅ♪」

ポリア
「…マスター、命令を」


チキと名乗った敵は一見人畜無害にも見える。
だけど、横にいるポリアという女性はこちらに腕を向けて威嚇していた。
間違いなく…敵!


クゥ
「とりあえず先に言っておくけど、今回のボスはアンタ?」
「後、最初にいらん事したのもアンタ?」

チキ
「ミーは自分の仕事をしてるだけでしゅよ、ボスなのは確かでしゅが…」


「やはり…! それでは私を狙って!?」

クゥ
「…こりゃ、やっちまったわね〜」


何だかクゥさんが苦い顔をしていた。
完全に予想外…という顔であり、今の状況を良く思っていない様だ。
しかし、今は逆にチャンスでは?
わざわざ姿を表した以上、倒せればクリア確定…
クゥさんも協力してくださるなら、こちらにかなりのアドバンテージがあるはず!


クゥ
(まさか混沌が調和と組んでる? いやそれは有り得ない)
(だったら監視者はフェイク? 私達の造反は端から予想済みだった?)
(どっちにしても…早々と監視者を始末した割には何の追手も来ない)
(つまり…掌の上か)


チキ
「まっ、軽く遊んであげるでしゅよ〜」
「ポリア〜、ミーを全力でフォローするでしゅ♪」

ポリア
「了解です、マスター」


ポリアが腕を払うと一気に場が霧で包まれる。
これは『ミストフィールド』!? 状態異常は防がれる…
私はすぐに構え、いつでも対応出来る様にした。
クゥさんは何かを考えており、動こうとはしない。


チキ
「ほーい」


「くっ!?」


チキはポリアの力で共に宙に浮き、空から『種爆弾』を投下してくる。
そのひとつひとつはまさに爆弾であり、紛れもなく爆撃だった。
私は無数に投下される爆撃を一気にかわし、近くの木を蹴って上空に跳ぶ。
そのままチキの頭上を取り、私は上から蹴りを放った。


チキ
「ミーの背後頭上は死角じゃないでしゅよ〜」


「!?」


突然チキの背中が爆発し、私は吹き飛ばされる。
その際かなりの痛みを感じた上、私は精神に若干の異常を覚えた。
まさか…能力低下系の技!?
見た感じ草タイプ特有のオーラが出ていたけれど、あんな技は見た事も無い!


クゥ
「気を付けなさい、アレは『シードフレア』よ」
「マトモに食らったら即死も有り得るし、よしんば耐えても特防がガクッと下がる…」
「次食らったら、どうなるか解らないわよ?」


「っ!」


私は空中で体勢を立て直し、ひとまず着地する。
そして改めてチキを見て警戒した。



(向こうからは近づこうとしない…明らかに遠距離戦特化!)


チキはその場で浮きながら旋回だけしてこちらを見る。
あくまで狙いは私の様であり、クゥさんには目もくれていなかった。
同時に…クゥさんもまるで参戦する気は無い様だ。

つまり…あくまで私ひとりで勝て、という訳ですか。


チキ
「ポリア〜、動きを止めるでしゅ」

ポリア
「了解です」


「っ!! 今度はあちらが!」


ポリアは目を見開き、私を直視する。
その瞬間私は足が止まり、後退する事が出来なくなってしまった。
今のは『黒い眼差し』!? マズイ…このままでは狙い撃ちに!



(いえ、それならば今こそ修行の成果を出しましょう!)


清山拳とはまた違う、良く似た流派の『鳳凰清拳』の技術…!
そのひとつ…陸(ろく)の型!


チキ
「お? 向こうから近付いて来たでしゅ〜」

ポリア
「相対速度計算、敵残体力想定、対応はいかが致しますか?」

チキ
「マシンガン掃射でしゅ〜」


そう言ってゆっくり歩く私に向けてチキは大きな口をすぼめてそこから『種マシンガン』を連射する。
女胤さんのソレとは違い、秒間10発以上の速度で掃射されるソレはまさにマシンガンと呼ぶに相応しい。
ですが、女胤さんの技と違いあくまで弾は直線的!
ですので、見切る事は容易い!

…ポケモンの技として『見切り』は使えませんけどね!


チキ
「ププププププッ!!」

ポリア
「敵、回避行動…相対距離徐々に接近、前進止まりません」

クゥ
(ほ〜動きに無駄が一切無いわ…まるで空気の流れすら読んでいるみたい)


私はあくまで直線的に放たれる種マシンガンを歩きながらギリギリで回避し続ける。
体をユラユラと揺らし、全身の力をギリギリまで抜いて流れに身を委ねるのだ。
反面、動き自体は大きくも出来ず攻勢に出るのも難しい型ですが…



(本来なら接近戦で真価を発揮しますからね…師匠がやれば、寝たままでも私をあしらえる程には)


事実、私は寝転がったままの師匠に一撃入れる事すら出来ませんでした…
この型の真髄は、あくまで気を読み、全てを委ねられる胆力が備わって初めて可能となる難しい型。
今の私では師匠の半分も性能は出せませんが、回避だけに専念するのであれば十分役に立ちます!


チキ
「む〜! 面倒でしゅ! ポリア上昇でしゅ!!」

ポリア
「了解、高度を上げます」


チキ達はふたりで更に上昇してしまう。
そしてまた爆撃を開始し、私はすぐに動きを切り替えて対処した。
さて、近付かなければ私は攻撃出来ない…そう思われていそうですね?



(残念ですが…今の私なら、こんな事も出来る!!)


私はその場でドッシリと腰を落として構え、チキの爆撃の最中構わずに髪の毛を逆立たせた。
そしてそこから、私の気を帯びて針となった髪の毛が上空のチキ達に向けて発射される。
いわゆる『ミサイル針』であり、ジグザグマの頃から使える私の基本技だ。
コレも、師匠に言われて鍛えた部分!



(曰く、使える技は全て磨き込め!)

チキ
「ヤバイでしゅ! 食らったら効果抜群でしゅよ!?」

ポリア
「防御壁展開、技を弾きます」


慌てるチキに対してポリアは冷静に対処する。
惜しくもミサイル針はポリアの『守る』によって全て弾かれてしまった…
ですが、隙を見せましたね!?
私はこれを好機と捉え、すぐにその場からジャンプして一気に跳び上がる。
純粋な脚力のみで跳んだ私の速度に面をくらい、ポリアは守るの硬直中に私の接近を止められなかった。
そして私はポリアの守るが切れた瞬間、ポリアの貝殻を踏んでチキへと接近する。
チキはそれを見越してか既に技の発動体勢に入っており、私を迎撃しようとしていた。

私はそのまま拳を握り全エネルギーを解き放つ準備に入る。
チャンスは一瞬…! タイミングを間違えるな!!



「清山拳…奥義!!」

チキ
「吹っ飛ぶでしゅーーー!!」


チキは全身を禍々しく輝かせて草のエネルギーを爆発させる。
シードフレアという技らしいですが、この使い方はあくまで敵の接近拒否用…
つまり! 今の私を倒す為に使っている技ではない!!



「神破! 孔山拳!!」


私は炸裂するシードフレアの最中、それを突き破るべく拳を振るう。
私の右腕から放たれた奥義の奔流はチキのシードフレアを貫き、彼女の画面を容赦無く……


チキ
「んあ〜〜〜」


「…なっ!?」


私は目を見開いて驚く。
何とチキは口を大きく開き、奥義を食ってしまったのだ…
恐らく、アレは彼女の暴食としての特殊能力!
まさか…奥義がこんなにも簡単に破られるとは……!

私はシードフレアの衝撃でそのまま吹き飛ばされる。
上空から落ちていく最中、私の首からZクリスタルの付いたネックレスが千切れ飛んだ…
そしてそれはそのまま…チキの口へと飲み込まれていく。


ポリア
「敵沈黙、マスター指示を」

チキ
「げぷっ、マズイモン食ったでしゅ…さっさと処理するでしゅ」


敵は…無傷。
私の全力を持ってしても、まだ勝てないと…!?
いや…違う。
これは…私の本当の全力ではない。



………………………



リーナ
「瞳…アンタのその奥義、正直合ってないで?」


「え…? この、神破孔山拳が、ですか?」


師匠はコクリと頷く。
これは、修行中のとある出来事だった…
私が試しに師匠へ奥義を使った時の事なのだが、その時師匠は奥義をあっさりと見切ってしまわれたのだ。
そして師匠は、先程の言葉を私に述べていた。


リーナ
「確かに奥義としての質は良い、せやけどアンタにはその技は使いこなせんやろ」


「…!? 私には身に余る、と?」

リーナ
「ちゃうちゃう! そもそも、その技格闘タイプの技やろ?」
「アンタ、ノーマルタイプやん…せやったら普通自分のタイプの技を磨かんか?」


私は言われてハッとなる。
た、確かに…今まで何も考えずに使っていましたけど。
考えてもみればそうですね…奥義を授けてくださった老師にとってはタイプ一致。
そもそもこの技は伝承者であれば、誰にでも使えると老師も言っていました…
そういう意味では、格闘タイプでなくても使えるだけで、本来の威力は出せない?


私は首から下げているネックレスを握って見つめる。
これは老師の形見であり、私の誇り。
これがあるからこそ今の私はあり、その強さを支えてくれた要因でもある。
それが…私には合わない?


リーナ
「アンタに拘りがあるのは解るし、否定はせぇへん」
「アンタの奥義はあくまで清山拳っちゅう拳法の奥義や」
「その伝承者たるアンタがその技を磨くのは当然やろ」


「…はい」

リーナ
「せやけど! アンタにはアンタの技があるんちゃうか?」


「………」


私は言われて色々思い浮かべる。
確かに…私にはマッスグマとしての技はある。
ですが、これまでは殆どそれ等を使うことなく、清山拳の技を駆使して戦っていましたね。
師匠も持てる技は全て磨けと言っていましたし、そういう意味でも私には他の選択肢を増やした方が良いのでしょうか?


リーナ
「…多分、アンタのその奥義はいずれ限界が来る」
「タイプのちゃうアンタなら、すぐに気付くレベルでな」
「そしてそれに気付いた時、その時がもし負けられへん戦いの時やったら、アンタは一生後悔するかもしれへんで?」


「っ! では、どうすれば!? 今から、別の奥義を作り出せとでも!?」


私は思わず食ってかかるも、師匠は冷静に息を吐く。
私の焦りを見て呆れているのだろう。
もう修行の期間もそんなに無い…今からそんな余裕は。


リーナ
「ええか、よう聞け…奥義っちゅうんはな、一朝一夕で極まるモンやない」
「せやけど、ポケモンが生まれながらに持っとる潜在能力は常に働いとるんや!」


師匠はそう言って軽く私の目の前に突きを放つ。
その速度に空気は切り裂かれ、私は一瞬呼吸を奪われてしまった。
師匠はその拳をゆっくり引き戻してこう続ける。


リーナ
「アンタはマッスグマや、そして生粋のノーマルタイプ」
「せやったら、アンタという存在を一辺見直してみ?」
「そして、ここまで生きてきた全てをマッスグマというポケモンと向き合うんや!」
「ここまでの修行で、少なくともアンタには基礎の全てを仕込んだ」
「今のアンタなら、新たに気付ける事はきっとあるで?」



………………………




(そう、師匠が言っていたのはこういう事だった…)


決して負けられない戦い、今ある奥義の限界。
私は、また知らずに自分でブレーキを踏んでいたのだ。
奥義に過信し、清山拳に心酔し、マッスグマという自分の潜在能力から目を背けた。
正直、自分でも思っていた…マッスグマという種族は弱いと。
他より少々足が早い程度であり、力も体力も中途半端。
使える技は多くあれど、そのどれもが専門のポケモンには到底及ばない。

そんな私だからこそ、清山拳という素晴らしい拳法に甘えていた。
老師が信じて託してくれたからこそ、私は奥義を信じて磨いた。
ですが、その結果がこれ……


チキ
「トドメでしゅよ〜」

ポリア
「敵、行動停止中、命中率約99.6%と推定」


チキは大きく口を開け、そこから巨大な草エネルギーを収束させている。
明らかに長すぎるチャージであり、恐らくは『ソーラービーム』でしょう。
完全に私を舐めきっている行動であり、慢心…
背中から地に落ちる私を見下ろし、彼女は勝ち誇る顔をしていた。
やがて長いチャージは終わり、チキの口から極太のソーラービームが照射される。
その威力は凄まじく、チャージが長い分地表の草木を全て蒸発させる程の熱量を持っていた。
直撃すれば間違いなく即死であり、私の体はこの世から消えている事でしょう。


チキ
「やったでしゅ〜♪ ミーの勝ちでしゅ〜!」

ポリア
「敵消滅……いえ、超高速移動中!?」
「敵背後に出現、マスターの頭上に高速接近!」

チキ
「何でしゅとぉぉ!?」


そう、私はビームに当たる寸前に『神速』でその場を退避していたのだ。
そして私は神速の残りPP全て注ぎ込み、一瞬で木々を蹴ってチキの頭上を取った。
その速度はまさに文字通りの神速。
私は目を瞑ったまま、ただチキの体に流れる気を感じて息を吐く。



(今のチキにロクな気は感じられない、さっきの技でエネルギーを使い果たしましたね?)

チキ
「ポリア〜! 退避でしゅ〜!!」

ポリア
「急速後退!」


ポリアはチキと共にノロノロと退避行動を取る。
所詮はあの太った肉体…ましてや自分で動こうとすらしないチキにマトモな回避など出来はしないでしょう。
私は大気から体に全ての気を取り込み、それを全身に内包する。
今遂に…! 私の中で地水火風、風林火山の極意が極まった!

そしてこの時気付く。
私に足りなかったのは、私自身だったのだと…
清山拳を信じ、奥義を信じ、自分自身を信じていなかった。
そんな未熟な私に、どうして真の奥義が打てるのか?
私には、私自身の…マッスグマとしての奥義があるのですから!



「まだこの技に名はありません…ですので、あえてこう言います…!」

チキ
「バーカバーカ! さっさと逃げるでしゅよ〜!」

ポリア
「マスターの重量ではこの速度が限界です」

チキ
「何やってるでしゅか〜!? もっとスピード出すんでしゅよ〜!!」


ただ狼狽えるだけのチキを私はここで見定める。
私の鋭く開かれた眼に映った彼女の姿を私は睨み、ただこう叫んで動いた。



「『神速・無名(むみょう)』!!」


瞬間、私の姿は一瞬で消えてチキの背中を蹴り抜く。
チキはその衝撃でエビ反りに仰け反って悶絶していた。
そのまま私は勢いを殺さず、地面に向かってチキを足で叩き付ける。
あまりの衝撃で爆音に近い音が鳴り響き、パラパラ…と粉塵を舞い上がらせていた。
私はフラフラとしながらも立ち上がり、体を揺らして後ずさる。
チキは完全に沈黙したのか、動く気配は無い。


ポリア
「マスター!?」

クゥ
「勝負あり! 瞳の勝ちね♪」


気が付くとクゥさんが私の体を支えてくれていた。
ポリアはチキを優先してこちらを見もしない。
クゥさんも特に何か仕掛けようとはしなかった。
そんな中、クゥさんは私にこう労いをかける。


クゥ
「良くやったわね♪ 修行の成果、見せてもらったわよ?」


「は、はい…ようやく、ようやく本当の意味で一人前になれた気がします」


私は無理矢理にでも笑い、そう言ってみた。
本当は全然一人前なんかじゃないと思うけど…それでも、たまには良いよね?
少し位、自分を褒めてあげても……


チキ
「ぶあぁぁっはぁぁっ!? ひ、酷すぎるでしゅ〜〜!!」


「!? まだ、戦えるのですか!?」

クゥ
「まぁ『光合成』も出来るしねぇ〜草タイプはしぶといから」

ポリア
「マスター、撤退の指示を」

チキ
「うぅ…! 畜生めぇ〜! この件は覚えとくでしゅよ〜!?」
「ポリア〜! 撤退でしゅ〜!!」


チキは捨て台詞を吐いてそのまま自分達を飲み込んで消えてしまった。
…改めて、恐ろしい能力ね。
私は一気に項垂れてしまい、その場で倒れそうになる。
クゥさんは軽く息を吐き、そんな私を抱き止めてくれていた。


クゥ
「あの能力、相当燃費悪そうね〜」
「戦闘中に殆ど使わなかった辺り、大分使用制限がありそうだわ」


「そう、なんですか?」


私は流石にそこまで頭が回ってなかった。
だけど考えてみればそうなのかもしれない。
結局、戦闘中に暴食としての能力を使ったのは奥義を破る時だけ…
その後の追撃はあえて大技のソーラービームだったし、その隙も甚大だった。
そう考えれば、チキ自身にも相当なリスクがある能力なのかも?


クゥ
「ん…どうやら、向こうも終わったかな?」


「!? これは…世界が」


突然、世界は粒子化し始めていた。
つまり私達は見事クリア条件を満たし、この世界から出られるという事。
2年という月日は長かったものの、ようやく前に…!


クゥ
「…とりあえず、お疲れ様♪」
「後は任せて、また次も頑張りなさい!」


「クゥさん、クゥさん達は?」


見るとクゥさんの体は粒子化していなかった。
つまり、クゥさんは世界ごと消えてしまう!?
私はかなり不安になるものの、クゥさんは屈託無く笑っている。


クゥ
「アタシ達は『抗う者(レベル)』よ? 端から混沌世界の常識なんて関係無いわ」
「だからアンタは自分達の事だけを考えなさい!」
「生きてさえいれば、またきっと会えるから♪」


そうだ、彼女達は自ら調和より独立し、私達と共に戦う決意をした『抗う者』…
彼女達はそもそもが私達とは違う世界の存在…
そんなクゥさん達を私が心配する等、確かに意味の無い事ですね。
そう思った私は、クゥさんに笑顔を返す。
クゥさんもそれを受けてニカッと笑い、サムズアップした。


こうして私達の修行は終わりを告げ、新たなステージへと踏み込む。
明海達の事は心配だけど、きっと大丈夫だろう。
クゥさん達が協力してくれるのだから、きっと…
こんな、訳の解らない世界で手を差し伸べてくれたふたりの異端者は、これからも戦い続けるのだろうから…

そして私達が戦い、生き続けてれば、きっとまた出会う…
その時は、聖様もそこにいるでしょうか?
そう願って…私は戦い続けます!










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第6章 『調和と混沌』 完

第7話 『マッスグマの瞳』


…To be continued

Yuki ( 2022/02/17(木) 12:26 )