第6章 『調和と混沌』
第4話
明海
「……」

カーズ
「………」


それは早朝の出来事…
私は教子や毬子よりも早く起き、早速コーチことカーズさんに特訓をさせられていたのだ。
その内容とは、たったひとつのシンプルな物…
新たな技を覚えろ…ただ、それだけだった。


明海
「……」

カーズ
「もっと邪念を高めろ、そんな精神ではマトモに精製出来んぞ?」


私が今教わっているのは、カーズさんの十八番(おはこ)でもあるという『シャドーボール』なんだけど…
流石にオタチが自然と覚えられる技じゃないだけに、私は最初からいきなり躓いてしまっていたのだ。


明海
「邪念って言われても…」

カーズ
「別に難しく考える必要は無い、何なら腹が減ったとかそんな程度の邪念でも構わん」


そ、そんなのでも良いの〜?
私はとりあえず何となくそう言ったイメージを膨らませてみる。
…が、そんな上手い話が有るわけも無く、私の手にはボール所か何のエネルギーも発生しなかった。
私は思わず肩を落として項垂れる。
そんな私を見て、コーチは軽く息を吐く。


カーズ
「…良いか、この技はお前が思っているよりも実に繊細な技だ」


そう言ってコーチは指先に小さなシャドーボールを作り出す。
数mm程度のサイズをしたソレはコーチの指先で浮かんでおり、まるで渦を巻く様に複雑な回転をしていた。
繊細な技…かぁ。
そんな難しそうな技、本当に私が覚えられるのかな?


カーズ
「まず、ボールを作ろうとするな」

明海
「え…? シャドーボール、なのにですか?」

カーズ
「その先入観は捨てろ、お前はあくまでゴーストじゃないんだからな」


そりゃそうだ…私は生粋のノーマルタイプなんだから。
とはいえ、それじゃあどうやってボールを作れば…?


カーズ
「まず、お前は小さくとも邪心を持て」
「大なり小なり、ゴーストタイプの技という物はそういう怨念めいた邪心が力の源となる事が多い」


た、確かにそんなイメージかも…櫻桃さんなんて邪念だらけだもんね…
でも、そうか〜櫻桃さんみたいに適当な邪念でもあれだけの威力が出るんだから、それを参考にすれば私にも?


明海
(えっと、櫻桃なんならきっとこういう時…)


『あー! 面倒臭い!! もう絶対止めてやる!!』


とか言って真面目にやるんだろうなぁ〜…
私は半ば呆れながらも、そんな風にちょっと怒り的な何かを込めて手に意識を集中させてみた。
言われた通り、ボールは意識せずにただ力だけを込めて邪念を意識する。
すると、私の両掌から何か不思議な流れが生み出たのを感じた。


明海
「…あ」

カーズ
「…ほう」


ほんの一瞬だったけど、それは確かな変化だ。
コーチも感心したのか、軽く注目してくれた。
そしてコーチは私の掌を握る。
私は突然のその行為に思わず驚いてしまう。
そんな私の反応には全く興味は無いのか、コーチは冷静に私の手を握ってこう呟く。


カーズ
「何がキッカケかは知らんが、入り口は開いた様だな?」

明海
「入り口…ですか?」

カーズ
「…キッカケは単純でも構わんさ、だがそのイメージは忘れるな」
「それが自分の意志で自由に出せる様になれば、次のステップに進む」
「…後は自主練で研け、ある程度成果が出るまでな」


そう言ってコーチは私の手から手を離し、背を向けてこの場を去って行った。
私はコーチに握られた手を見て、何となく寂しくなってしまう。


明海
「…コーチの手、とても冷たかった」


それはあくまでジュペッタという種族の体温なのかもしれないけど…
それでも、コーチの中に秘められているであろう確かな情熱を否定するかの様なあの冷たさは、ある意味コーチの生き方を示しているのだと思うと…


明海
「あの人は、どれだけの覚悟を持って今を生きてるんだろう?」


きっとそれは、私達が計れるレベルの覚悟ではないのだと思う。
でも、それなのにコーチ達はあえて私達を頼り、そしてそこに希望を見出だしている。
私は…瞳の様に、コーチの希望になれるんだろうか?


明海
「………」


私は朝日が射し込む窓から空を見る。
今日は晴天であり、天気は良くなりそうだ。
こんな時、きっと聖様なら笑ってこう言うんだろう…


『なれるかなれないかじゃない…なれば良いんですよ♪』


そんな聖様の笑顔を想像して、私は思わず吹き出してしまった。
そうだ、聖様ならきっと言い切る。
聖様には、出来ないから諦めるなんて言葉は無いんだから…



………………………



カーズ
「…今回の仕事、やけに不可解な点が多くないか?」

クゥ
「…そう? いつもの調和らしく、不快な仕事ってだけでしょ?」


昼時、コーチはまた訪れていたクゥさんと作戦会議をしていた。
私はふたりにコーヒーを出し、その場で少し話を聞く事にする。
ふたりの表情はやや険しく、何だか緊張感が感じられるわね…


カーズ
「今回の戦争、戦力上なら北軍の方が圧倒的に優勢のはずだな?」

クゥ
「ええ、だから私達に与えられた任務は戦争の泥沼化…」
「必要以上に介入はせず、南軍からの進軍をあえて進めるのが手っ取り早いわね」

明海
(戦争の泥沼化!? 何でそんな事をわざわざ…!)


ふたりの会話からは特に感情の揺れも感じられず、あくまでそれが仕事だと割り切っている様だ。
コーチは無表情ながらも、腕を組んで何かを考えているみたいだけど…


カーズ
「…おかしいとは思わないのか?」

クゥ
「…何故、両軍に私達ふたりを別々に配備しない?とかかしら?」


クゥさんはまるで解っていた…という感じでコーチの考えを見透かす。
コーチはそれを言われて少し黙ってしまった。
クゥさんの反応は、予想出来ていた事だったのかも…


クゥ
「確かに、その方が泥沼化させるのは容易よね〜」

カーズ
「なのに、あえて優勢な軍に何故俺達をふたり共送り込む?」
「ただ両軍の戦力を削ぎたいだけなら、おかしい配置だと思うがな?」

明海
「あ、あの! ひとつ、良いですか?」


私はあえて口を挟む事にした。
コーチは露骨に睨んでくるけど、クゥさんは笑いながら了承してくれる。
それを聞いて、私はこうふたりに尋ねた…


明海
「おふたりは、調和という組織に属しているんですよね?」

クゥ
「正確には組織って類いじゃないんだけど…まぁそう思ってもらっても良いかな?」

カーズ
「…おい」

クゥ
「べっつに良いじゃーん? 明海ちゃんだって無関係じゃないし!」


クゥさんがそう言うと、流石のコーチも頭を抱えて黙ってしまった。
本当は聞いたらマズかったのかな?
でも、わざわざこんな所で隠す気無しに話してるんだから、変わらないと思うんだけど…?


明海
「えっと…それで調和って、どんな組織なんですか?」
「混沌と、何か関係が有るんですよね?」

カーズ
「…混沌は調和の対となる存在だ」
「世界を乱すのが混沌であり、それを正すのが調和」

クゥ
「基本的に相容れない存在ね〜まぁ、私達はそろそろ独立するんだけど♪」

明海
「独立…?」

カーズ
「簡単な事だ、俺達は調和から抜けて新たに自分達の組織を立ち上げる」

クゥ
「名付けて、『抗う者(レベル)』!」


抗う…者。
それが、コーチ達の計画している組織の名前…
でも、それと聖様の力にはどんな関係が?


明海
「その組織には、聖様も含まれているのですか?」

カーズ
「…それは本人次第だ、別にそうでなくても構いはしないからな」

クゥ
「来るなら歓迎するけど、そっちはそっちで自由にやる方が良いと思うわよ?」


そ、そうか…あくまで聖様は組織とは無関係。
ただ、ふたりにとっては聖様の力が必要なだけなのね…


カーズ
「…俺達が協力するのは、あくまで世界の楔を抜く為に特異点の力を利用する為だ」

明海
「世界の、楔?」

クゥ
「今のこの世界群はね、混沌の王が自作した遊技場なのよ…」
「私達は調和の指令で、そんな世界の秩序を正そうとしてるの」

カーズ
「だが、俺達はあくまで俺達の意志で動くと決めた」
「その為に、混沌の王が打ち込んだ楔を抜かなければならんのだ」

明海
「…その為に、聖様の雫の力が?」


コーチは小さく頷く。
仮にも世界を創造した神みたいな相手に、聖様の雫が本当に力になれるんだろうか?
あの雫はアルセウス様が創造した物だと聞いたけど、そこまでの力が?
ううん、聖様ならきっとそれでも…!


カーズ
「…お前は気にするな、お前は特異点を救う事だけを考えれば良い」

クゥ
「そうそう〜こっちの事情でアンタ達を振り回すつもりは無いから♪」
「だから…私達の事は全力で利用しなさい!」


クゥさんは笑いながらそんな事を軽く言う。
そして、それは彼女の本音なんだろう。
この人は、裏表無く良い人なんだ…きっと、コーチも。


クゥ
「…さて、そろそろ行こうかな」

カーズ
「クゥ…」


立ち上がって去ろうとしていたクゥさんの背中にコーチはコーヒーを飲みながら声をかける。
クゥさんは立ち止まるも振り向きはしなかった。
そんな背中に向けて、コーチはこう呟く。


カーズ
「…本当は、何を隠している?」

明海
「…え!?」

クゥ
「……悪いけど、何の事かしら?」
「んじゃっ、そろそろ大事な時期だからまたね〜♪」


クゥさんはこっちを見ずに後頭部の角をガチンガチン!と鳴らし、そのまま走り去ってしまった。
その姿を見ないまま、コーチはカップをテーブルに置いてため息を吐く。
私は飲み干されたカップをトレイに乗せ、コーチを見る。
コーチの表情は、何処か寂しげな物に見えた…


カーズ
「………」

明海
「…コーチ、クゥさんの事がもしかして好きなんですか?」

カーズ
「……冗談はよせ」


今度は頭を抱えてコーチが立ち上がる。
あらら…私の勘違いだったかな?
もしかしたら…って思ったんだけど。


カーズ
「…明海、ひとつ確認したい」

明海
「は、はい? 何ですか?」

カーズ
「…お前達4人以外に、この世界に来ている仲間はいるのか?」


私はそれを聞いて?を浮かべる。
少なくとも、私達4人は同時にここへ到着した。
だから、多分他のメンバーはいない…は、ず。


明海
(!? そ、そうだわ…どうして疑問に思わなかったの?)


私は…考える。
このメンバーで、何故あの娘がいないのか?
いや、もしかしたらいたのかもしれない…
だとしたら…あの娘は何処に?


明海
「う、ううん…まさか、そんな事」

カーズ
「……やはり、そういう事か」
「あのバカが、独断で対処する気か?」

明海
「えっ!? い、一体どういう…?」


私がそう聞くも、コーチは厳しい目でクゥさんの去った後を睨んでいた。
まさか、本当にあの娘がいるの?
クゥさんはそれに気付いていたから、あんな態度を?
でも、それならどうして私達に隠す必要が…?
私は不安に駆られるも、コーチの顔を見て覚悟を決めた。


明海
「…コーチ、大丈夫……なんですよね?」

カーズ
「……心配するな」
「クゥは、そんなに愚かな女じゃない」
「きっと…お前達にとっては良い方向に納めてくれるさ」


そう言って、コーチは励ましてくれた。
私はそれを信じる事にする。
そして今は自分に出来る事を頑張ろうと思う。
あの娘がひとりで戦っているなら、いつか助けてあげられる様に…!



………………………



クゥ
(…考えてもみれば、容易に解る事よね〜)


私はひとりで南軍の陣地に潜入していた。
そして相手の戦力が薄い場所を選び、一気に敵陣深く切り込む。
そこまでに敵との遭遇は無い、これは明らかに異常な布陣だと私は確信していた。


クゥ
(やっぱり! ワザと穴を空けてる!?)


北軍の部隊はあえて正面から攻めさせている。
南軍はそれに対して迎え撃つ形だ。
だからある程度陣の薄い所は生まれると予想してたけど…ここまでは明らかにおかしい。
薄い所か、兵が皆無なのだ!


クゥ
「!? この気は!?」


私はズザザァッ!と急ブレーキし、あからさまに放たれている殺気を睨み付ける。
そして角の口を前に向けて開き、私は険しい顔で威嚇した。
まぁ私の特性は『怪力バサミ』なんだけどね!?

すると、ザッ…ザッ…と草むらを掻き分けてひとりの影が姿を現す。
その姿は明海達と同様にこの世界の服装では無い。
確実にあのメンバーと関わりが有るであろう存在なのは容易に確信出来た。

だが、問題なのはそれじゃない!
何故『彼女』は…こうまで殺気を放っている?


クゥ
「…アンタが南軍に加担してたって訳?」


「関係無いわ、私は自分に都合が良い様に動いていただけ…」


そう言った彼女の右手には…兵隊の生首が握られていた。
そしてそれを横に放り投げ、彼女はこちらを憎らしそうな顔で睨む。
私は一気に頭をクールにした…コイツはヤバイ!


クゥ
「アンタ、この世界に仲間がいるって理解してる!?」


「それが? 今の私に…仲間なんていらない!」


そう言った直後、長い銀髪が激しく靡いてこちらに踏み込んで来る。
その際口元からはギラリと光る牙が見え、私はその場で角を振り回した。
かなりの衝撃で私は横から角を『ぶん回す』も、彼女は片手で容易に止めてみせる。
そして彼女の髪は瞬時に赤く染まり、私はすぐに『守る』を使用して相手をフィールドで吹き飛ばした。
彼女はそれを食らって驚いた顔をする。
私はニヤリと笑い、角を戻してこう話す。


クゥ
「守るひとつ取ってもね、応用の仕方は色々あんのよ?」


「…成る程、そこらの雑魚とは違うわけね」


彼女は冷静に何をされたのかを分析している様だった。
獣の様な動きで飛び込んだかと思えば、頭も回るみたいね…
ちなみに私がやったのは、『守る』で発生したフィールドを無理矢理広げてその余波で相手を吹き飛ばすというテクニックだ。
格ゲー的に言えば○ドバンシングガードよ!
勿論その気になれば、連打して前進しながら相手を画面端に追い詰める事も理論上可能よ!?
…まぁ現実的に守るをそんだけ連続成功させるのは天文学的確率になるんだけどね!!


クゥ
「…アンタ、確か『シルヴァディ』だっけ?」


「…私を知っているの? なら、敵で構わないわね!」


そんな事を宣ってまた突っ込んで来る。
そして手からは強大な炎を生み出して荒々しく振り下ろして来る。
私はそれに対して角の牙に氷を纏わせ、正面から『氷の牙』で迎え撃つ。
が、相手の炎はその冷気を容易く溶かして私の角を切り裂いてしまった。
かなりの熱を浴び、私は顔を歪めるもすぐに体勢を整えて反撃に入る。
吹き飛んだお陰で距離は開き、私は角を地面に叩き付ける。
するとシルヴァディの足元から岩の壁が競り上がって全身を覆う。
今のは『岩石封じ』…炎なら効果抜群でしょ?
スピードも落とせるし、さぁどうするのかしら?

しかし、私の思惑を他所に岩は容易く砕かれる。
そしてシルヴァディの髪はオレンジ色に変わっていた…格闘に切り替えた!?


シルヴァディ
「小技ね、その程度なら効きもしないわ」


そう言って彼女は茶色の髪に変わる。
無造作にタイプを変更したその姿を見て、私は思わずギョッとしてしまった。


クゥ
(いつメモリを切り替えた!? そんな動作は見えなかったわよ!?)

シルヴァディ
「飛び道具が無いと思うな!?」


私はすぐにその場から横に跳ぶ。
すると『火炎放射』が一気にその場を焼き尽くした。
草むらや木々に引火し、一気に場は加熱し始める。
この後先考えない戦い方…一体何を考えているの!?


クゥ
「アンタねぇ、見境無さすぎなんじゃないの!?」

シルヴァディ
「それがどうしたぁ!!」


シルヴァディは続けて電気、冷気、とデタラメに放って来る。
私は守るでそれ等を防ぐも、更に場の状況は悪化する。
このままだと、兵に気付かれる!


クゥ
「…しゃあないわね」

シルヴァディ
「どうしたの? 念仏でも唱える?」


私は余裕かましてる相手に対し、ニヤリと笑う。
そして胸元から石が浮かび上がり、それは輝きを増す。
シルヴァディはそれを見てしこたま驚き、思わず後ずさっていた。
私は構わず『メガ進化』を完了させる。
その後、私はすぐにその場で『剣の舞』を踊り、あえて隙を見せてやった。
すると、相手はそれ見てすぐに『火炎放射』をバカ正直に構える。
私はそれが発射される前に相手の頭上に移動し、ふたつに増えた角を重ねて上から思いっきり『不意打ち』で叩き付けた。

ドッギャアアアァァァァッ!!!と凄まじい音をたてて地面は割れる。
シルヴァディはピクピクと頭から血を流していた。
とりあえずワンパンKOね♪ 死んでても恨まないでよ?


クゥ
「さーて、そんじゃすぐに撤退するわよ!!」


私は角のひとつでシルヴァディの身体を挟み、すぐに離脱した。
やがて騒ぎに気付いた兵達が集まり、場を収拾する。
後は見付からない様にしないとね…



………………………



シルヴァディ
「…ぐ」

クゥ
「…気付いたみたいね」


私は誰もいない拠点でシルヴァディの女を治療していた。
あの一撃を食らってその日に目が覚めるなんて相当タフね…殺す気でやったんだけど。


シルヴァディ
「……クソッ! まだ、まだ足りないのか!?」

クゥ
「…アンタ、仮面を脱ぎ捨てたわね?」

シルヴァディ
「…?」


解るわけ無いか…自覚してるならコントロールしてるだろうし。
私はため息を吐き、とりあえず椅子に座ってベッドに縛り付けてるシルヴァディを尋問する事にした。


クゥ
「…過去にね、アンタみたいに力を求めるあまり、邪道に堕ちた奴がいたのよ」
「その末路は…まぁ、今は良いか」

シルヴァディ
「…一思いに殺せ! 私は生きている限り、何をしてでも強くなる!!」

クゥ
「そんな覚悟があるなら、家族に会って謝罪のひとつもしなさいな…」
「今のアンタを見たら、明海達はどう思うでしょうね?」

シルヴァディ
「!?」


シルヴァディは目を見開いて驚く。
しかしすぐに目を細めて彼女は震えながら歯軋りした。
そして彼女は全てを憎む様な口調でこう言った。


シルヴァディ
「もう、私はあそこには戻らない」

クゥ
「どうして?」

シルヴァディ
「アイツ等じゃ、聖様は救えない…!」
「弱い奴には、何も救えない!!」

クゥ
「だから、全部捨てて邪道に堕ちたの?」
「なら、今の内に戻りなさいな…少なくとも今のアンタなら、まだ踏み止まれるわよ?」


私がそう言うも、シルヴァディは答えない。
そしてその覚悟と決意は、悲しい程に真っ暗な暗闇しか見えていない様だった…


シルヴァディ
「…私は、生きてる限り強くなってみせる」

クゥ
「その為に、あらゆる犠牲を強いてでも?」

シルヴァディ
「知った事か! 聖様を救えるなら有りとあらゆる存在はカス以下だ!!」

クゥ
「…それをあの特異点が望むと思うの?」

シルヴァディ
「望むわけがあるか!!」


彼女は断言した。
解ってて彼女はその道を選んだ。
そして、その上で邪道に堕ち様としている。
私は頭を抱えるも、彼女の覚悟はもう引き退がれないのだと悟った。
きっと、ここまでに多くの犠牲を出しているんだろう。
最初のひとりを殺った時点で…優しかった彼女はもう死んでしまったのか。


クゥ
「…アンタ、絶対後悔するわよ?」

シルヴァディ
「するものか…! 聖様が救えたなら…私はその場で消えて皆の記憶から消えるのだから…」


私はそれを聞いてギリッ…!と歯軋りする。
彼女は、世界の仕組みを理解している。
だからこそ、凶行に走ったのか…!
そしてそんな入れ知恵をしたクソヤロウがいるのは明白…!
こりゃ益々…早めに動かないとね!


クゥ
「…悪いけど、その覚悟を聞いた以上解放はしないわよ?」

シルヴァディ
「忠告しておくわ…目障りなら今の内に殺しておきなさい」
「私は、生きている限り必ず強くなる!」


私はため息を吐いて首を振った。
そして彼女の拘束を解いて、その場から背を向ける。
不思議そうに彼女は私をこう糾弾した。


シルヴァディ
「何のつもり!? 何故解放する!!」

クゥ
「…私は別に正義の味方じゃないのよ、だからアンタが今後何をしようがそれは別件」
「その代わり…仕事の邪魔になると判断したら、今度は確実に殺すわよ?」


私は横目に冷徹な目で彼女を最後に見つめる。
彼女は一瞬ビクッ!と身体を震わせるも、襲いかかって来る事は無かった。
私はそのまま拠点に火を放って放棄する。
彼女との会話は、私が責任を持って墓まで持って行くわ…
こんな虚しい事、あの娘達には絶対聞かせられないから…


クゥ
(…まっ、あんだけ脅し付けてやりゃ少しは大人しくするでしょ)


私はそう思ってため息を吐き、すぐに移動を開始する。
今後、彼女は完全な敵と認識する。
この事は、カーズには…


カーズ
「…相変わらず、不器用な奴だな」

クゥ
「ゲェッ!? カーズ!?」


いつの間にか私の背後にはカーズがいた。
しかもどうやら全部知られている様で、私は露骨に口笛を吹いて誤魔化そうとする事に…


カーズ
「…安心しろ、この件は俺の胸の中に留めておく」
「だが、主犯を放置する義理は無い…!」

クゥ
「…そうね、それに関しては全面的に同意するわ」


私達は互いに意志を確認し合う。
今回の件、あの娘にいらん事を吹き込んだ元凶がいるのは明白。
そしてそれは同時に私達の怒りを買い、今度こそブチギレ案件だという証明でもあった。



………………………



北軍大将
「な、何をいきなり!? 貴様、裏切るのか!?」

クゥ
「はぁ? 誰が裏切るって〜?」


私は北軍の大将相手に容赦無くメガ進化する。
そして怒りのままに私は角を叩き付けて大将を文字通り叩き潰した。
が、そこから血飛沫が上がる事は無く、むしろ光の粒子と共に何かが顕現した。
それはまるで魂の塊とも思える何かであり、明らかに物体とは思えない形状をしている。
そしてそれから声の様な何かが発せられた。
とても伝え難いのだが、そういう感じの『声』みたいな何かと思ってほしい。



『この行為、調和としての秩序を乱す行為と判断するが?』

クゥ
「で? なら消してみる? そんな権限と力があるなら、だけど」


私は笑って肩を竦める。
それを見ても相手は何も答えなかった。
実際、コイツは所詮監視役でしか無い。
勝手に私を消去する事も、そんな力も無い。
だから私は、監視者に向かってこう啖呵を切った。


クゥ
「言っとくけど、先に手を出したのはソッチ…」
「そして、今回の件で私は本気で愛想が尽きた!!」

監視者
『それは……!?』

カーズ
「もう良い、黙れ」


監視者が何かを言おうとした瞬間、カーズは監視者を掴んで『喰った』。
カーズの口に吸い込まれた監視者はもう存在その物が消滅し、場は静かになる。
私は頭をポリポリと搔くも、カーズはいつも通り冷静に口のジッパーを締める。
そして無言のまま、ひとりでさっさと歩き去ってしまった。


クゥ
(あらあら…珍しくキレちゃって♪)

カーズ
「………」


カーズはクールだけど、その実熱血系だからね〜
そして誰よりも理不尽な事を嫌い、どんな時も抗う事を止めない。
ある意味、損な性格かもね…


クゥ
「…よしっ、戦争もこれで終わるし飲むか!?」

カーズ
「遠慮しておく、俺は…」

クゥ
「知ってるっての! 下戸なのは!! だからコーヒーでも飲んでなさい!!」
「私は思いっきり飲む!! もうベロンベロンに酔うまで!!」


私はそう言ってカーズの肩を無理矢理抱き、意気揚々と歩いていく。
カーズはため息を吐くも、別に拒絶する事は無かった。
そう、今はこれで良い…あの娘も戦争が無ければ多少大人しくするでしょうし、大事にしないなら私も積極的には関わらないから…

ただ、今は全部嫌な事忘れていたかった…
だって、思い出してしまったから…
皆と離ればなれになった、あの黙示録の時を…
皆失意の中で絶望し、大切な物を失って絶望した。
でも、私達は各々の正義を思い出して立ち上がった…

今でも、私達の心にはその正義が残っている。
正義の味方じゃない、でもこれは私達の正義…!


クゥ
「カーズ…私達は、絶対に抗うわよ?」

カーズ
「…ああ、それがアイツの掲げた信念だからな」


私達は虚空に恩師の顔を浮かべる。
その表情からは、まるで私達を叱咤する厳しくも優しい顔が想像出来た。
そして私達は、微笑して歩き続ける。
明日という、戦場を生き残る為に……










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第4話 『各々の正義』


…To be continued

Yuki ( 2021/11/29(月) 16:54 )