第6章 『調和と混沌』
第2話
明海
「特異点…それはまさか、聖様の事!?」

カーズ
「そうだ、『魔更 聖』…俺達は奴の力を必要としている」


「…聖様の力、夢見の雫」


夢見の雫…それはかの神であるひとりのアルセウスが造り出したとされる、奇跡の産物。
しかし、その実態は愚者(フール)と呼ばれる存在を育てる為の器でしかない。
それは途方も無く長い時間をかけ、ようやく花咲いた代物でもあるんだ…

もっとも、この事を知っている者は俺達か混沌の王位の者だろうがな。



「それで、貴方はその力を何の目的に使うつもりなのですか?」

カーズ
「…強いて言うなら、神への反逆か」

明海
「反逆…ですか?」


俺は壁に背を預け、両腕を組んで少し黙る。
正直、何処まで話すべきかは悩んでいた。
あえて全てを語るのも悪くはないが…


カーズ
(コイツ等は特異点の関係者とはいえ、瞳以外は所詮非戦闘員)


下手に深く関わらせるのは危険を呼び込むだけだ。
ならばどうする? あえて戦えそうな瞳だけにでも教えるか…?
どの道、この世界を出る前にコイツにはモノになってもらわんとな…



「…何となく、貴方に悪意が無いのは伝わります」
「ですが、完全に信用する根拠もありません」

カーズ
「それはお前が勝手に判断すれば良い事だ」
「その上で、自分で決めて選んでみろ」
「この世界で…お前がどうすべきなのかを」


俺は目を細めて瞳を睨む。
それを受けて瞳は拳を握り、歯を噛み締めていた。
自分の力が足りていなのは痛感したろうからな…
さて、どう決断する?


明海
「ひ、瞳…どうするの?」

教子&毬子
「………」


非戦闘員の3人は瞳に任せる気か。
まぁ、戦力としてはとても数えられんからな。
瞳はそんな3人から注目の中、目を瞑って頭を垂れた。



「…どうか、御教授をお願い致します!」

カーズ
「…良いだろう、ただし弱音を吐く事は許さんぞ?」
「やると決めたからには、死ぬ気で強くなれ」
「…今日の話はここまでだ、明日からすぐに始める」


俺はそう言ってそのまま部屋に戻る事にした。
そしてベッドに寝転がりながら、俺は久し振りの感覚に囚われすぐに眠りに就く。
ここの所、野宿ばかりだったからな…



………………………



カーズ
「…来たか」


「…一体、どんな修行をするのですか?」


俺達はふたりだけで早朝の森に出ていた。
この時期の朝は霧がかっており、視界はすこぶる悪い。
俺はそんな天候を計算に入れながら、まずはこう説明する。


カーズ
「見た感じ、お前は肉体的な部分はそれ程不備も無い」
「拳法をある程度学んではいる様だが、経験は?」


「…およそ、数ヵ月です」


俺はそれを聞いて目を細める。
成る程…どうりで粗だらけな訳だ。
しかし、たったそれだけの期間で素人をこれだけのモノに仕上げたなら、余程師が優秀だったのだろう。


カーズ
「…とりあえず、色々合点はいった」
「そんな短期間だけで仕込まれたのなら、その使い方の意味も良く解っていまい」


「使い方の意味…ですか?」

カーズ
「お前は、自分の使う拳法が何の為に存在しているか考えた事はあるか?」


瞳はそれを問われて自分の拳を見る。
そしてやや躊躇いながらも、瞳は真っ直ぐ俺の目を見てこう答えた。



「…清山拳は常に弱き者を護り、救う為の拳だと教わりました」

カーズ
「なら、お前はその拳でどう護る?」


「…え?」


やれやれ…その辺はやはり頭で考えてないか。
まぁ、そうだとは思っていたんだが…
これは宝の持ち腐れらしい。


カーズ
「…お前のその拳で、誰が護れると思う?」


「それは、私の拳では誰も護れないと?」

カーズ
「言い方を変えてやろう…信念の無い拳では、人は倒せても救えはしない」


「っ!?」


目の色を変えたな…心当たりがある証拠だ。
だが、それに気付いているならまだ見込みはある。
コイツは少なくとも、無能じゃあない。


カーズ
「…倒すのは己の拳、されど救うのは己の心」


「その、言葉は?」

カーズ
「…今は亡き、俺の恩師が残した格言だ」
「もっとも、俺は別に格闘家じゃないがな」


しかし、この言葉の意味は俺達仲間における共通言語だ。
それだけに、この格言の意義は俺達を支える柱のひとつでもある。



「…救うのは、己の心」

カーズ
「さて、ならもう1度聞こうか?」
「お前はその拳で、何をどう護る?」


瞳は俺の言葉を受けて、また深く考える。
こういう所は、アイツと全く似ていないな…アイツなら即答しそうな物だ。
それ位、アイツは向こう見ずとも言えるんだが…



「…私は、護りたいです」
「ただ、1番大切な人を…救って、護りたい!」

カーズ
「…お前の拳で、護れると思うか?」


「今は難しいのかもしれません…ですが、護れる様になりたいです!」


瞳は俯きながらも力強くそう言う。
覚悟はとりあえず伝わった、そして必至さも。
それなら、今やれる事は簡単だ。


カーズ
「…よし、ならまずは実戦あるのみだ」
「付いて来い、お前にはひとつ仕事を手伝ってもらう」


俺はそう言って、霧の深い森を更に下へと下って行く。
この地域は山岳地帯でもあり、クゥがいたあの街はその高山地域に存在している大きな街だ。
そして…そこから南西に向けて降りると、俺達の調和としての仕事先である『敵国』の領土に入る。



………………………




「…この先には、一体何が?」

カーズ
「すぐに解る、が…気は抜くなよ?」
「この程度の事で死ぬなら、お前は所詮その程度だからな…」


俺は霧が晴れ始める頃を見計らって、一気に走り出す。
瞳は疑問に思いながらも相手を確認したのか、戦闘態勢に入って付いて来た。
俺は背後から追い掛けて来る瞳の位置と速度を計算し、接敵する直前にその場から真上に飛び上がる。
すると、後ろから走り込んでいた瞳は敵の前線部隊に切り込んで行った。
俺は真上にあった木の枝に片手で捕まっており、そこからニヤリと笑って状況を観察させてもらう。



「なっ!?」

敵兵A
「何だ!? 奇襲か!!」

敵兵B
「総員戦闘態勢!! 敵国からの奇襲部隊だーーー!!」


当然ながら大事になる。
瞳は何一つ状況を理解出来ないまま、20人程の人間兵を相手に立ち回っていた。
流石に鍛えているだけはあり、瞳の動きはかなりの物だ。
剣や槍の捌き方も様になっているし、接近戦に限れば多対一がしっかり身に付いている。
少なくとも、あの程度の戦力なら俺が加勢するまでもない…はずなんだが。



「くっ! 相手は罪も無い人間! 本気でやる訳には!!」

カーズ
(やはり、その辺は甘いな…相手は明確に命を狙って来ているというのに)


瞳は極力相手を傷付けない様、武器破壊を徹底する。
当然相手の数を減らす事も出来ず、瞳は前線で手こずっている間に後方からの支援部隊を呼び寄せてしまった。
さて、こうなるとどうなる?
答えは明白だ…だから俺はため息を吐きながら枝から手を放し、地面に着地する。


敵兵C
「くっ! 次の武器を速く!!」

敵兵D
「弓隊、構え!!」


(しまった!? 後ろから支援部隊!! このままだと敵は更に…!)


後方部隊から狙い済ました矢が大量に降り注ぐ。
瞳はそれを上手く捌きながらバックステップするも、その間に武器を破壊された兵達が新たな武器と共に復活していた。
やれやれ…こんなジリ貧の戦況にするバカが何処にいる。
俺は軽く右手に『シャドーボール』に練る。
そしてその力を精密にコントロールし、小さな弾としてひとつを複数に分けた。
後はそのまま、相手の後方部隊に対してそれを投げ付ける。


敵兵E
「な、何だいきなり!?」

敵兵F
「ポ、ポケモンの兵か!? うわぁ!!」


突然の攻撃に敵は狼狽えて隊列を崩した。
後方に控えていた弓隊や補給隊の殆どが崩れ、ほぼ孤立した前線部隊はその場で混乱する
俺はそのままひとりで前に突っ込み、一気に敵部隊を制圧した。
そこからものの数分程度で、俺は敵部隊を完璧に鎮圧してみせたのだ。



………………………



カーズ
「…敵部隊沈黙、任務完了」


「…あ、え?」


瞳はひとり立ち尽くして呆然としている。
俺はそれを無視して敵兵を拘束していく。
ここから敵拠点はやや離れているな…なら、後は本隊に任せるとしようか。


カーズ
「何をしている? 今日の修行は終わりだ…反省分は明日までに提出しろ」


「こ、こんな事が…修行?」



………………………




「………」

明海
「あ、お帰り…って、どうしたの!?」

カーズ
「……まずは食事にしたい、頼めるか?」

教子
「あ、はい! すぐに!!」


時刻は丁度昼時か…この時間だと他の客はそんなにいないのか?
明海の反応を見る限り、そこまで忙しそうにも見えないが。
まぁ、日によってその辺も違うのだろう。
特に、そろそろ本格的な戦争に入るはずだからな。


明海
「瞳…?」


「…ゴメン、今は何も聞かないで」


やれやれ、メンタルの弱い奴だ。
あの程度の事で落ち込まれていちゃ、今後が心配だぞ。


カーズ
「…食事はしっかり取っておけ、旅館の仕事も忘れるなよ?」


「……はい」


俺はそれを聞いて食堂へと向かう。
そして、軽く昼食を取ってから俺は休憩を取る事にした。



………………………



カーズ
(…敵の数から言って、恐らくは偵察隊)
(それも、あからさまに交戦を意識した部隊編成か)


俺は食堂でコーヒーをのみつつ、今回の戦況を分析していた。
結果的に軽く鎮圧したものの、アレが偵察だとすると敵本隊はそれなりに大きな戦力だと予想出来るな。
クゥの奴は本隊にいるはずだが、今回の件でそろそろ顔を見せるかな?


毬子
「あ、カーズさん! 何かカーズに話があるって人が!!」

カーズ
「分かった、ならここに通してくれ」


毬子が慌てながらそう報告し、俺の指示でひとりの女を案内する。
その姿は俺の予想通りの女だった。
俺は軽く微笑し、その女を見る。


クゥ
「相変わらず仕事が速いわね〜?」

カーズ
「お前もな…せっかちなのは変わらん」

クゥ
「アッハハ! 性分だからね! それにしても…アレが例のマッスグマちゃんか〜♪」


クゥは俺の対面に座り、そこから厨房の瞳を確認する。
やはり、コイツは知っていて俺を送り込んだんだな。


カーズ
「クゥ、お前は…」

クゥ
「あ、私お茶貰えるー!?」


クゥは俺の言葉を聞く事無くそう叫ぶ。
この店は食券制のはずだが、明海は微笑みながら了承していた。
まぁ忙しくもないし、その程度は良いのか…


カーズ
「クゥ…」

クゥ
「アンタにしか出来ないって言ったでしょ?」
「なら、アンタが信じてやる事が正しい答えなのよ!」


クゥは俺が聞く前に答えを提示した。
俺は少し頭を抱えるも、それもクゥらしさなのだと認めて退く事にする。
それならそれで、余計な事を言う必要も無いからな。


カーズ
「…だが、ひとつ解せん事がある」

クゥ
「何が?」

カーズ
「特異点と関わる4人がここにいるのは解る…が、何故あの4人だったんだ?」

クゥ
「…さて、ね」
「そんな事は神様にしか解らないんじゃない? アタシ達は、ただちょっぴりそれに抗うだけだし♪」


ちょっぴり、ね…本当にそれで済むなら気が楽なんだがな。
とはいえ、流石にクゥでもそこまでは想定していなかったか。
なら、本当に偶然思い付きで計画したのか?
俺が断らないと予想して、今回の任務を引き受けたのか?


クゥ
「うん、確かに似てるわね…マイに」

カーズ
「…見た目だけだ、中身は全くの別物だぞ?」

クゥ
「そりゃ、そこまで似てたら転生体か何かでしょ?」
「でも、このタイミングでこの出逢い…運命的だとは思わない?」


クゥはイタズラっぽく笑ってそう言う。
運命的…か。
俺達の今の状況を客観的に見て、あえてそう言うのか。
なら、それはそういう事なんだろうな。
俺はコーヒーを1口のみ、横目に瞳の姿を見る。
今は厨房の仕事をしっかりやっている…その姿には一辺の迷いも見えない。
だが、戦いにおいてアイツは割り切れていなかった。
このままだと、いずれアイツは……


クゥ
「心配過ぎて悩んでるって顔ね?」

カーズ
「………」


俺は答えなかった、が。
勘の良いクゥの事だ、お見通しなんだろうな…
そう思うと、あまりに馬鹿馬鹿しくなって笑みが零れてしまった。


クゥ
「ねぇ、もし悩んでるなら…あの娘私に任せてみない?」

カーズ
「…本隊に加える気か? 役に立つとは思えんぞ?」

クゥ
「違う! ちょっと、訳有りの拳法家見付けちゃってね〜」
「あの娘と会わせたら、何か起こると思わない?」


訳有りの拳法家だと…?
このタイミングで、か…?
確かに、それが本当なら奇妙な共通点だが。


カーズ
「何者だ、その拳法家…?」

クゥ
「…バシャーモの女拳法家なのよ、ソイツ」


俺はその言葉を聞いて驚く。
そしていやが上にも、俺はアイツの顔を思い出してしまった。
多分、クゥも同じ事を想像したんだろうな…


カーズ
「…まさか、ヒーナだと?」

クゥ
「ううん、それは無い…でも面影しかなかった」
「もしかしたら…子孫とかなのかもって、何となくそう思ったら」

カーズ
「…瞳もまた、マイの子孫だとでも?」


ヒーナとマイ…そのふたりは遥か過去に俺達と共に戦った親友とも呼べる戦友。
特にヒーナはバシャーモであり、メンバーでは最古参のリーダーだった。
マイもまた、そのヒーナと最も長く時を過ごした戦友。
そのふたりは俺達にとって偉大な先輩であり、掛け替えの無い戦友だったんだ…


クゥ
「…勿論、確信なんか何も無い」
「でも、こんな混沌した世の中だからこそ…そんなロマンがあっても良いと思わない?」


クゥは差し出されたお茶を受け取り、笑顔で応対してそれを飲んでいた。
そしてグラスをテーブルに置き、息を吐いて少し落ち着く。
俺もまたコーヒーを飲み、少し感傷に浸っていた。


カーズ
「…連絡が無かったのは、ヒーナとマイだけ」

クゥ
「そう、そして今回の特異点騒動…偶然で片付けるには」

カーズ
「必然性の塊でしかない…様に見えるか」


俺達の結論は同じ様だった。
そう、これは偶然でなく必然。
ならば、それを引き合わせてくれたのは誰だ?
多分、俺達はふたりして同じ顔を思い浮かべただろう。
それは、俺達にとっての特異点であり…恩師。
その恩師が、こうやって運命を結んでくれたのかもしれない。


カーズ
「確かに、本当にそうなら…」

クゥ
「ロマンの塊…って訳♪」


俺達はふたりして微笑む。
そして、俺はクゥの言うロマンに身を任せてみる事にした。
その答えの代わりに、俺はコーヒーカップをクゥの前に差し出す。
クゥは言葉を交わす事無く、お茶のグラスを差し出して答えていた。
そして、互いのカップとグラスを合わせて音を鳴らす。


クゥ
「…未来を生きる子供達に」

カーズ
「ささやかな、希望を…か」


俺達はそう言い合って、互いに飲み物を飲み切る。
そしてクゥは立ち上がり、最終確認をしてきた。


クゥ
「じゃっ、構わないわね?」

カーズ
「ああ、だがそれなら俺はどうする? 本隊に加わるか?」

クゥ
「アンタは、残った3人を何としても死守しなさい」
「多分明日には正式に宣戦布告がなされるわ、そうなったらこの旅館に客も来なくなるし…」

カーズ
「むしろ、戦火に巻き込まれる…か」


俺はそう予想して無言で頷く。
確かに、俺にしか出来ない仕事になりそうだ。
なら瞳の件はクゥに任せ、俺は俺のやるべき仕事に徹しようか。



………………………



明海
「あの…さっきのクチートの方、親しい方なんですか?」

カーズ
「クゥと言う、俺の仲間だ」
「信頼してくれて良い、少しせっかちで軽そうな奴だが、頭は切れるし実力もある」
「何があっても、瞳を見捨てたりはしないさ…」


クゥが瞳を連れて去った後、俺は明海と話をしていた。
明海としても心配ではあるのだろう。
誰とも知らぬ相手に、瞳を預けた様に見えたろうしな。


明海
「どうして、カーズさん達はそうまでして私達を?」

カーズ
「それが、俺達の仕事だからだ」

明海
「本当に、それだけなんですか?」


明海はやけに食い付いて来た。
明海は明海なりに、何か気になる事でもあったか…?


明海
「…まるで、カーズさんが瞳を見る目は親の顔の様でした」
「瞳には、何か私達にも解らない過去が有るんですか!?」


成る程、な…確かコイツ等は4人とも同じ世界の出身で、共に育って共に生きた間柄だと聞く。
そんな兄弟同然に育った明海としては、瞳の事を人一倍心配するのも仕方無いのかもしれない。


カーズ
「…安心しろ、お前が心配している様な事は多分無い」
「あれはあくまで、俺が個人的に抱いていた錯覚だ」
「もしそれが原因でお前を追い詰めていたなら、謝罪する」


俺はそう言ってその場を後にした。
やれやれ…自分でも理解しているが、こういうのは苦手だ。
俺はお世辞に女の扱いが上手くは無いからな…
その日、俺は部屋でゆっくり休みながらも今後の事を考えるのだった…



………………………



教子
「あれから、お客さん来ないね〜?」

毬子
「うん、何だか戦争中だって聞くし…もうそれ所じゃないのかも」

明海
「………」


あれから数日経ち、明海達は旅館で不安な時間を過ごしていた。
あれだけいた客足はとんといなくなり、館内には常に淀んだ空気が流れている。
不安、心配、焦燥…そんな負の感情が3人を苛んでいるかの様だった。


カーズ
「安心しろ、俺がいる限りお前達には傷ひとつ付けさせん」

教子
「そ、それっていつかは戦争に巻き込まれるって事ですよね〜!?」

毬子
「で、でも…それも覚悟の上で私達はここに来たんだし」

明海
「…うん、そうね」
「私達は、今まで瞳や聖様達に頼りすぎてたのかも…」
「私達は、ずっと安全地帯で皆の戦いを見守っていた」
「でも、今こそ私達も戦わなきゃならないのかもしれない…!」


明海はそんな事を言って勝手に意気込む。
その覚悟は伝わるが、残念ながら彼女達を戦わせる訳にはいかない。
どれだけ決意を固めても、足りないレベルを補う事は出来ないのだから…


カーズ
「余計な事は考えるな、お前達が戦う必要は無い」

明海
「それでも! 私だって聖様を救いたいのは同じです!!」


魔更 聖…彼女達にとっての特異点であり、救世主。
確かに、それを救うという意味は大きい。
だが…それでも足りない物はどうにもならない。


明海
「瞳は、今も強くなる為に頑張っているんですよね?」
「だったら、私も戦える様にしてください!」
「もういつまでも…瞳ひとりに背負わせたくない!!」


明海の決意は何よりも強かった。
教子と毬子も気持ちは同じだろうが、恐らく明海程本気にはなれまい。
確かに、戦力は多いに越した事は無いが…


カーズ
「…俺の特訓は、スパルタだぞ? それでもやるか?」

明海
「はいっ! やらせてください!! コーチ!!」


コーチ…だと? 何か勘違いしてないか?
いや、確かにそう聞こえなくもない…のか?
俺がコーチ…? トレーナーとかならまだしも、あえてコーチ…なのか?


カーズ
「ゴ、ゴホンッ! む…分かった」
「とりあえず、やるなら明日からだ」
「今日中にメニューは考えておく…それまで体調を崩さない様にしろ!」

明海
「は、はいっ!」

教子
「あ、明海さん…本気でやるの〜?」

毬子
「私達はどうすれば…?」

明海
「ゴメンね…ふたりとも」
「でも、4人で1番年長の私が…やっぱりやらなきゃって思ったから」
「大丈夫! 瞳にだって出来たんだもの! 私も役に立ってみせるよ!!」


明海は気丈に笑い、ふたりを元気付けた。
瞳に出来たからと言って、本当に明海にも出来るかは疑問だがな。
しかし、瞳は瞳…明海には明海に適した戦い方がある。
俺はそれをしっかりと叩き込むのが、今回の任務なのだろう。
ならやるだけやってやるさ…!



………………………




「…私の拳法、ですか?」

クゥ
「うん、ちょっと気になってね〜♪ 何て拳法なの?」


「清山拳…という拳法なのですが、知っておられるのですか?」

クゥ
「…うーん、聞いた事無いわね〜」
「だったらさ、『竜凰拳(りゅうおうけん)』って拳法は知ってる?」


竜凰拳…?
聞いた事の無い拳法ですね…まさか、光龍門の分家とか?
流石に…それは無いか。


クゥ
「そっ、やっぱ知らないか…って事は、時代と共に忘れられたか、それとも…」


「その流派は一体…?」

クゥ
「一言で言うなら、地上最強の拳」
「全ての生物の頂点に立ち、全てを超える拳法…だってさ♪」
「普通に考えたら、有り得ない話よね〜…でも、現物見た事あると説得力は抜群なのよね〜」


地上最強…ですか。
逆にどんな拳か気になりますね…もしかして、これから会う人がその拳法の使い手とか?
だとしたら、かなりのチャンスかもしれない。
私はまだまだ強くならなければならないのだから…
先日のカーズさんとの修行…もしカーズさんが割り込まなければ私はどうなっていたか?

確かに私は相手を倒す事は出来たはず。
なのに、私は躊躇って手加減をしてしまった。
相手に明確な敵意があるのも解っていたのに、倒すのを躊躇ってしまっていた。



(あの時点で、私はカーズさんの言った言葉をようやく理解した)


私の拳で何が護れるのか?
結果は正にアレだ…何も護れなかった。
それ所か、あの部隊を止められていなければ今頃街は戦火に包まれていたという。
そうなった時、どれだけ無力な人達が命を落としていたのか…!


クゥ
「…おーい、考えてるな〜?」


「!? は、はい!?」


気が付けば、クゥさんが私の横顔を覗き見していた。
そして大きな口の形をした角をガチンガチン!と慣らし、私を何故か威圧する。
流石の私も呆然としてしまった…


クゥ
「全く…確かに中身はマイに全然似てないわね〜」
「あの娘だったら、自分で結論出して全部自分で背負い込むから…フォローするのも大変だったし」


「マイさん、ですか…? その方は一体?」

クゥ
「マッスグマの女よ…私達の副リーダーってトコかな?」
「控え目で向こう見ずで、誰よりも仲間を大切にしていた優しい仲間…」


クゥさんがその人を語る顔は、何処か悲しげだった。
私はその顔を見て、何となくその人はもういないのだと予想する。
私と同じ、マッスグマの方…か。



「そのマイさんは、強かったんですか?」

クゥ
「そりゃ副リーダーなんだから強いわよ…1対1だったらカーズでも勝てないんじゃないかしら?」


あのカーズさんよりも、更に…!?
それだと、同じマッスグマで伸び悩んでいる私がバカみたい…


クゥ
「まっ、それも当時の話で…流石に今のカーズなら当時のマイには勝てるだろうけどね」
「勿論…私も」


「…その方、亡くなられたのですか?」

クゥ
「正確には生死不明…どうなったかも解んない」
「私達が第3の黙示録を乗り越えた後から、1度も会ってないから…」


第3の黙示録…?
まさか、クゥさん達は相当長い時を生きているのでしょうか?
過去に何度か黙示録は起こり、その度に世界はリセットされるとの事ですが…


クゥ
「まっ、アンタはそんな事気にするな!」
「アンタはこれから長い時間をかけて、メッチャ強くなって貰わなきゃならないんだから♪」
「だから…絶対に諦めるな!」


クゥさんは厳しい表情でそう諭した。
私はそれを受け、無言で頷く。
そして段々と近付く山の頂上を見て、私はあの時を懐かしんだ。
清山拳を学んだ場所も、あんな山の頂上付近でした。
果たして、この先に待つバシャーモの拳法家とは何者なのか?
その方に師事を得る事で、私はちゃんと強くなれるのか?
その答えは…私にしか切り開けない!










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第2話 『カーズの修行』


…To be continued

Yuki ( 2021/10/17(日) 17:09 )