第5章 『時空の相克』
第3話
黒騎士
「………」

ヴォイド
「…無様だね、ディス」


倒れている私の側に、ヴォイドがゆっくりと空から降り立つ。
どうやら彼女は鎧を脱いでいる様で、自らの翼で飛んでいた様だ。
まぁあの鎧着たままだと飛べないから不便だって愚痴ってたもんね〜
私は苦笑しながらもゴロリと横に転がり、うつ伏せから仰向けになってヴォイドの顔を見た。
相変わらずの無表情が少々痛いよ…


ディス
「…最初に出る言葉が、よりによってそれかい?」

ヴォイド
「結果的に戦局が悪化はする…これはマスターのシナリオに無いよ?」


はいはい…マスターマスターと、相変わらずだねこの娘は。
リーダーといいヴォイドといい、ホントにマスター大好きっ娘なんだから…
まっ、私もそこは否定しないけどねぇ♪


ディス
「まさか君が動くのかい?」

ヴォイド
「君が動けないんでしょ?」


確かに、私は当分戦線離脱だ。
というか、もうこの世界で役目は無いだろうねぇ。
と、なると…強制送還かな?


ディス
「…やれやれ、小言は聞きたくないんだけどねぇ」

ヴォイド
「自業自得だよ、君はいつも勝手が過ぎるから」
「…予定に無いはずの『脱落者』を作って、君は一体何を考えている?」
「もし、目に余る様なら…」

ディス
「私を始末するかい? ヴォイド?」


ヴォイドは表情を変えず、空虚な顔でそのまま黙る。
私はそれに対して笑うだけで、特に言う事は無かった。
やがてヴォイドは体を翻し、去り際にこれだけ言う。


ヴォイド
「ディス…君は危険だが、マスターにとっては重要な戦力だ」
「今は見逃してあげるけど、精々マスターの機嫌を損ねない様にね?」


そう言ってヴォイドは翼をはためかせて飛び去る。
『トゲキッス』特有のその美しい羽ばたきは、見る者に祝福を与えると言うらしいが…


ディス
「皮肉だねぇ、今から彼女が与える物は…虚無の絶望なのだと思うと♪」


こうして私の体は光の粒子に包まれ、この世界から強制送還される。
さて、今度はマスターからどんな小言を貰う事やら…?



………………………



そして時間は少し遡り、別の視点へ…


二海
「馬鹿な!? お前は何を言っている!?」

三海
「言葉通りだよ、ワタシは母に付く」
「誠に残念だけど、お姉ちゃん達と一緒じゃ聖は救えないと判断した」


それは、私が城から飛び出してすぐの事だった。
私の目の前には何故か三海が現れ、突然の決別を告げられたのだ。
私はあまりに唐突な事の為、理解が追い付いていない。
何故、三海がいきなりそんな事を!?


二海
「まさか、何か人質にでもされているのか!?」

三海
「これはワタシの意志だよ、そしてワタシの選んだ選択だ」
「ワタシは聖を救う、それは確かに皆と変わらないけれど…」


三海はそう言いながら手に巨大な念動力を作り上げる。
その力は私所かウォディすら上回るレベルの物であり、マトモに放たれれば後方の城すら吹き飛びかねない!
だが、それをあの三海が放てるのか…!?


三海
「ワタシは、ワタシのやり方で聖を救ってみせる!!」

二海
「この大馬鹿野郎ーーー!!」


三海は迷わずそれを前方に投げ付けた。
私がかわさないのを見越した攻撃だとしたら、この上無く効果的だろうよ!!
私は巨大な念動力で作られたボールを全身で受け止め、思いっきり踏ん張って押し戻そうとする。
だが私のサイコパワーを持ってしてもそれは押し戻せず、徐々に私の体は後方へと押し出されていた。


二海
(クソッタレ…! こんな物を城にぶつけさせてたまるかっ!!)


あそこには聖の家族がいる、それは三海の家族でもある!
そんな大切な物に、三海が放った物をぶつけられるかぁぁぁっ!!


二海
「う、ぐっ! ガアアァァァァァァッ!!」


私は全ての力を解き放ってボールを上に逸らす。
するとボールは明後日の方向に飛んでいき、城の安全は守られた…
だが、その代償として私は立っていられない程のダメージを受けてしまう事に…


三海
「…サヨナラだ、お姉ちゃん」

二海
「ま…て……み、う…みぃ〜…!」


三海は体を翻して一瞬で消える。
私は意識を朦朧とさせながらも、塔の近くで電気が迸るのを確認した。
そして最悪の展開を私は予想し、傍受されるリスクを犯してでも白那さんにテレパシーを送る事にしたのだ…



………………………



白那
「何だって!? 三海ちゃんが!?」

夏翔麗愛
「こっちでも確認したのです…本物ですね」
「それより、お母さん早く! 私を土筆お姉ちゃんの所に!」


オレは決死の覚悟で送られた二海ちゃんのテレパシーを受け、驚愕するも今はそれ所では無いのも理解している。
既に杏ちゃんがやられ、二海ちゃんも瀕死の状態…
そしてこのままだとイレギュラーに土筆ちゃんまでやられてしまう!


白那
「…っ! 夏翔麗愛、座標は!?」

夏翔麗愛
「ポイント237051、上空100mなのです!」


その座標に向けてオレは夏翔麗愛を空間転移させる。
オレの空間操作の弱点は、行った事もなく、見えもしない所への座標は正確に把握出来ないという事だ。
そして、同時に転送出来るのは距離の近い物に限る。
つまり、離れた場所にそれぞれある物体を同時に転送する事は出来ないという事…
更に言うなら、連続使用には若干のタイムラグもある…

更に夏翔麗愛という高性能レーダーがいなくなってしまうと、オレの空間操作はより精度を失う事になるってのも厄介だね…


白那
(オレがこの世界の空間座標を把握出来ていないのが、ここに来て響くとはね)


オレはこの世界に来てから1度も外に出ていない。
つまり、この世界の空間その物を把握出来ていないんだ。
まさか城ごと異世界に来るとは思わなかったし、城内の家族を守る事を優先させなきゃならなかった。
奇しくも、その選択が今の事態を招いてしまったのかもしれない…



………………………



そして、視点は現在に…


未生羅
「…もう、30分過ぎてるのに」
「お、お姉ちゃん…土筆、大丈夫なの?」


私はまだ待機を命じられていた場所にいた。
本当はもう撤退しなきゃならないんだけど、お姉ちゃん達の事が心配で動けなかったのだ。
きっとお姉ちゃんには怒られるだろうけど、それでも…!



「…無能だね、まだこんな所にいるだなんて」

未生羅
「!? だ、誰貴女!?」


突然空から降り立ったのは、白い翼と白い長髪を靡かせる天使みたいに綺麗な女性だった。
頭には3本の角みたいな物が生えており、服は白のハイレグ。
3本に枝分かれした小さな尾翼も付いており、何処と無く鳥類のそれっぽくも見える。
だけど、その異様な雰囲気は…私には恐怖としてしか映らなかった。


ヴォイド
「仕方無いから後始末に来たのさ…君にそのまま逃げられると面倒な事になりそうだからね」

未生羅
「後、始末…?」


彼女は片手を上に掲げ、大量の風を集め始める。
間違いなく飛行技であり、食らえば私はひとたまりもない。
私は一気にその場から逃げ始め、戦闘から離脱しようとするけど…


ヴォイド
「無駄だよ、もう逃げられない」
「いつまでもここに留まっていた、君のミスだ」

未生羅
(ゴメンなさい、ゴメンなさいゴメンなさい!! ゴメンなさいお姉ちゃん!!)


私が言いつけを守らなかったから、お姉ちゃんの言う事を聞かなかったから!
だから…だからこんな事に! 皆に、迷惑を!!
私は、ちゃんと城に戻って報告しなきゃならなかったのに…!

私の背後から、容赦の無い攻撃が放たれたのを理解する。
私はその場で躓き、前のめりに転がった。
そしてすぐに理解する…もう、どうしようもないと。


未生羅
「…ゴメン、なさい……!」


直後、パァァァァンッ!!と何か空気の弾ける音が耳に鳴り響く。
同時に凄まじい風が巻き起こり、私は吹き飛ばされない様に蹲っていた。
そして、私は自分の体が何ともないのに違和感を覚える。
その後私が背後を見ると、そこには見た事の無い誰かが背中を向けて立っていたのだ…



「…や〜っと、間に合ったよ♪」


ニコやかな声色でその人はそう喋る。
どうやら女性の様で、彼女もまたポケモンの様だった…
その姿は、一言で言えば緑…
一目で草タイプだと解る姿であり、長いロングストレートの緑髪がゆらりと揺れる。
頭部には横に伸びる特徴的な角が左右に有り、首には葉っぱを思わせる先端の赤いマフラーを巻いていた。
服は殆ど水着と言って差し支えないビキニスタイル!
かなり大胆な格好だけど、手足には長手袋とロングブーツを身に付けている。

私じゃ、何のポケモンかは解らないけど…それでもこれだけは確かに解る事があった。


ヴォイド
「……?」


「やっほー! フーリアお姉さん、ただいま推参☆」


そんな事を言いながら、その人は半身をこちらに向けてポーズを取りウインクしていた。
流石の敵も頭に?を浮かべている…
正直、この空気に全く馴染んでいないテンション…
そう、ただひとつ私が確信しているのは…


未生羅
(この人、多分頭の痛い人だーーー!?)

フーリア
「そこのペンドラーちゃん、もう安心して良いからね?」
「悪いトゲキッスちゃんは〜、お姉さんが退治してあげるから♪」

ヴォイド
(何だこの女…? 情報に無いぞ? フーリア…草タイプのポケモンで、あの特徴……ま、まさか!?)

フーリア
「まずはご挨拶! 必殺!! エクスカリバーーー!!(聖なる剣!!)」


そう叫んで、フーリアさんは右手を真上に掲げてから前方に振り下ろす。
普通、その距離で手刀なんて当たるはずないのに、彼女はそれをただ振り回したのだ。
だけど、その手刀は私達の予想を遥かに超える『技』だった…!


ズガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!


それは、地面を切り裂きながら衝撃波が進む音。
敵もただ呆気に取られ、衝撃波が自分の真横を通り抜けて行くその光景に身動きすら出来ていない。
そしてその衝撃波は、遥か後方の監視塔すらも容易に両断したのだった…

その僅か一瞬の事に、私達はただ唖然としている…
遥か先に見える監視塔はガラガラと音をたてて崩れており、その威力の規格外さを思い知るのだった…


ヴォイド
「…!? フーリア…まさか、『ビリジオン』の大神官フーリア?」

フーリア
「元! だけどね〜♪ 今は…ただの興味本位で人助けをする、ヒーローのお姉さんだよ?」


そう言ってフーリアさんは優しく微笑む。
軽く言ってるけど、その重みは計り知れない。
この人、一体何なの!? 何で、私を助けてくれるの!?
興味本位って…?


ヴォイド
(噂には聞いていた…かつてウォディですら完全に従える事が出来ない部下がいたと)

フーリア
「私が来たからには、もう誰も殺させないよ?」
「准一君の家族は、絶対に私が護ってみせる!」

未生羅
「!?」


この人は、まさか聖さんの知り合いなの?
准一って…確か、聖さんのお父さんの名前だったはず。


ヴォイド
「…そう、でも少し遅かったんじゃない?」
「もうふたり程、始末はしたからね…」

フーリア
「!! そう…やっぱり、間に合わなかったのか」


フーリアさんは悔しそうな顔をしていた。
この人は、本当にただ私達を助けに来てくれただけなのかもしれない。
少しお茶らけたユルい人だと思ってたけど、この人の芯の部分は…もっとしっかりした人なのかもしれない。


ヴォイド
「後、君に私は倒せないよ?」

フーリア
「随分強気なんだね…もっと慌ててくれると思ってたんだけど」

ヴォイド
「確かに君は驚異以外の何者でもない」
「だけど、運が悪かった…相手が私である以上、君に勝ち目は無い」


彼女は無感情にそう断言する。
あの威力の斬撃を見て、それだけの余裕を見せられる物なの?
少なくとも、あんな事は白那さんでもなければ簡単には出来ないと思うのに…!


未生羅
(ううん、違う…? もしかして、その自信を裏付ける何かが敵にはある…?)

フーリア
「だったら…今度は当てるよ!?」

ヴォイド
「どうぞ、通用するならね…」


敵は無防備にフーリアさんの攻撃を待つ。
それに対しフーリアさんは間合いを詰め、今度は横薙ぎに水平チョップで敵の胸を狙った。
敵は微動だにせず、それを正面から受ける事に…


バシィィィィィィィッ!!


そんな凄まじい音をたててフーリアさんの技が炸裂する。
直撃と同時にとんでもない風圧が巻き起こり、後方にいるこっちまで風の影響がある程の一撃だった。
だけど、私はギョッとする。
そんな一撃をマトモに食らったのに、敵は小揺るぎもしていなかったのだ。


フーリア
「!?」

ヴォイド
「理解出来たかな?」


フーリアさんはすぐにバックステップし、一旦距離を取る。
何が起こったのか本人も理解出来ていない様で、敵の様子をただ窺っていた。
それを見て、敵は軽く髪を掻き分ける。


ヴォイド
「虚無の私に、いかなる攻撃も意味は成さない」

未生羅
「虚無…?」


唐突に放たれた、敵の一言だった。
私にはその意味がまるで理解出来ず、答えを全く導き出せない。
でも、重要な意味のある言葉のはずだ。
それが指し示す答えとは…一体何なの?


フーリア
「ふっ!!」


次にフーリアさんは連続で切り裂いてみせた。
速すぎる踏み込みからの連撃を私は殆ど黙視出来ず、僅か数秒で何連撃も見舞ってみせるフーリアさん。
だけど、その全てが敵には通用していなかった。


ヴォイド
「無駄だと解ったかい?」

フーリア
「そうだね、でもそれだけの余裕があるのに何で反撃しないの?」


確かに、敵はここまで余裕を見せるだけで反撃すらしていない。
不気味過ぎる能力だけど、間違いなくアレが敵の能力のはず。
フーリアさんは、何かに気付いたのかな?


ヴォイド
「それじゃあ、反撃してあげようか?」

フーリア
「……!」


その言葉を聞いた瞬間、フーリアさんはピッ!と1枚の葉っぱを僅かなモーションで敵に投げ付ける。
すると、その葉っぱは軽く敵の頬に傷を付けたのだった…


フーリア
「反応が遅れたのかな〜? それとも無効化には条件がある?」

ヴォイド
「これは驚いた…私に傷を付けられるとはね」


私には到底理解出来ない。
でも、フーリアさんは確かに傷を付ける事が出来たんだ。
多分フーリアさんは、敵の謎を解き明かした…?


フーリア
「私の斬撃が当たっても、貴女の髪は舞い上がりもしなかった…」
「私の腕にも手応えは全く無く、有ったのは風圧のみ」
「そう…風圧は後ろに逃げてるのに、前には全く風が吹かなかった」

ヴォイド
「流石に、ただのバカじゃないらしい…こと戦闘に関しては、ウォディ所かディスでも手に余りそうだ」
「悪いけれど、作戦変更だ…私はこれで失礼するよ」


無表情なまま敵はそう言って背を向ける。
絶好のチャンスに思えたけど、フーリアさんはその背中に何もしなかった。
ただ、フーリアさんはそんな敵の背中に向けてこう尋ねる。


フーリア
「敵前逃亡しても構わないの?」

ヴォイド
「まぁ構わなくはないかな…でもこれ以上余計な情報は渡したくない」
「じゃ、そういう事で…」


それだけ言うと、敵は光の粒子になって消えてしまう。
あの現象は…!? まさか、敵にも何か特殊な移動法が!?


フーリア
「…世界を越えられた、か」
「うん、仕方無いね! とりあえず…ひとりでも助けられたんなら、良かったよ…♪」


フーリアさんはそう言って私の側まで歩いて来る。
その顔はやや暗く、少し後悔の見える顔に思えた。
それでも彼女は、優しく微笑んで私に手を差し伸べてくれる。
太陽の日差しをバックにしたその姿は、何処か神々しさも秘めているかの様だった…


未生羅
「う…うぅっ!」

フーリア
「ゴメンね…お姉さんがもう少し速く駆け付けられたら」

未生羅
「お姉、ちゃん…! 土筆ぃ…!!」


私はフーリアさんの胸の中でただむせび泣いた。
フーリアさんは優しく私の頭を撫で、私の嘆きを微笑んで受け止めてくれたのだ…
私は、そんな彼女の優しさに…少し救われた気がした。



………………………



ウォディ
「何だと? 監視塔が落とされた!?」

ロッキー
「は、はい! 後、黒騎士も白騎士も敗北した模様です…!」


ウォディの部下であり、幹部のひとりでもある『レジスチル』のロッキーがそう報告する。
それを受けたウォディは親指を噛み、ワナワナと怒りに震えている。
監視塔を黒騎士に任せたのはウォディだが、彼女からしてもこうもあっさりと落とされる等、想像もしていなかったのだろう。


ウォディ
「だが確かに、あの巨大ロボットは驚異だな…」
「ごく短時間だけの1発技みたいだが…」


「アレは夏翔麗愛お姉ちゃんの必殺技さ、しばらくはもう使えない」


苛立つウォディの側に、突如三海がテレポートして来る。
彼女は自らが宣言した通りウォディと手を組み、独自に聖を救う道を選んでいたのだ。


ウォディ
「三海だったか…二海は始末したのか?」

三海
「残念ながら、遺憾にも抵抗されてね…ワタシの制限時間もあって仕留めきれなかった」
「まぁそれなりに重症は負わせたし、すぐには戦闘復帰出来ないだろう」


それを聞いて、ウォディはほくそ笑む。
突然の三海の寝返りに対しても、ウォディは一切疑いをかける事はしなかったのだ。
これはウォディが傲慢の極みだからであり、そもそも誰がどう寝返ろうが構いはしないのである。
ただ、使える物は使う…それだけがウォディにとっての真実なのだから。


ウォディ
「つまり、実質敵4人は無力化したも同然か…」

三海
「…ああ、黒騎士はふたりも始末してくれたよ」


三海は無情にもそう言い放つ。
しかし、彼女はそこまで冷徹な訳ではなかった。
例え敵に回ったとはいえ、彼女は聖の家族。
決して、聖が悲しむ様な事をしたいわけでは無いのだから…


三海
(杏お姉ちゃん、土筆お姉ちゃん…)


三海は理解している。
メロディが言っていた様に、自分達に死は無いのだと。
だからこそ、消えてしまった杏と土筆にはもう2度と会う事は出来ない。
天国にも地獄にも行けず、ただ忘れ去られていくのみ…


ウォディ
「…今更、感傷に浸る気はあるまいな?」

三海
「当然だ、ワタシは家族を見限った…聖が救えるのなら、これで構わない」


三海は心を殺してそう言い切る。
彼女の覚悟は並ではなく、その意志は何よりも強い。
だが、それでも完全に悲しみを捨てる事も…彼女には出来そうも無かったのだ…


三海
(許してくれとは、言わない)
(だけど、ワタシにはこれしか選択肢が無いんだ…)

ウォディ
「それより、体の調子はどうだ?」

三海
「悪くはない、想定通りだな」
「やはり、母親の細胞は良く馴染む…」


三海は、ウォディの細胞を取り込んでいた。
そうする事で肉体の消耗を最小限に抑え、最高のパフォーマンスを長時間発揮出来る様になっていたのだ。
これは二海の細胞からクローンとして産み出された三海に置いて、唯一とも言える選択肢…

ミュウツーの母体たる、あらゆる遺伝子を有すると言われるミュウの細胞を取り込む事で、三海は燃費の悪い肉体の消耗を克服しようとしていたのだ。


ウォディ
「お前の体は常にメガ進化のエネルギーを放ち続けている、私の細胞を取り込んで少しはそれが抑えられた様だが、それだけでは根本的解決にはなるまい…」
「難儀な物だな…既に寿命を終えた肉体を延命する等」

三海
「………」


ウォディの口から、衝撃的な事実がポソリと語られる。
そう、三海に何故選択肢が無かったのか?
どうして愛する家族を見限ってまで敵に寝返ったのか?
その全ては、彼女の肉体が既に寿命を終えていたからなのだった…


三海
(聖が消えて、ワタシの止まっていた肉体時間は突然動き出した)


三海の体は本来、夢見の雫の奇跡によって生き長らえていた物である。
だが、聖が死んだ事により雫の力が切れてしまい、三海の体は途端に死へと向かってしまう事になったのだ。

三海の体細胞は既に分裂の限界へと到達し、もはや新たな細胞を産み出す事は出来ない。
三海はミュウスリーとして、産まれながらに短命な事は決まっていたのだから…


ウォディ
「…しかし、そこまでしてまであの特異点と再会したいのか?」

三海
「当然だ、聖はワタシの全てなのだから…」

ウォディ
「それでも、二海から細胞を提供してもらう道もあっただろうに…」

三海
「お姉ちゃんではダメだ、ワタシの細胞はあくまでメガ進化前提の物…」
「仮にお姉ちゃんの細胞を移植したとしても、体に馴染む事は無い」

ウォディ
「だから、母体である私の細胞に目を付けたか…?」

三海
「そうだ、ワタシを生かせられるのは貴女の細胞だけ…」
「後は聖さえ復活出来るなら、また夢見の雫の力を頼る事も出来る」
「それしか、ワタシに選択肢は無いんだ…」


どうやっても、何をしても三海はあそこでは生きられない。
既にほぼ死んでいるのと同じ状態の体を無理矢理維持しながら、三海は家族と敵対してまで延命を望んだのである。
それはあまりに辛い選択肢であったが、同時に賭けでもあった。


三海
(なぁに、お姉ちゃん達はそんなに弱くはない)
(ひとりふたりの犠牲が出た所で、心が折れたりはしないだろうさ…)



………………………



そして遠く離れた異世界においても、その異変は伝わろうとしていた…


メロディ
「…!! この、感覚は…?」


眼前には海が広がる海岸。
聖の家族の協力者であり、かつて憤怒の七幻獣でもあったメロエッタのメロディは、突然感じた違和感に足を止めていた。
そしてメロディはショルダーバッグに入れている1枚の色紙を取り出し、それを見て絶句する。


メロディ
「…っ! 色紙から、ふたりのサインが消えている…!」
「杏ちゃんと、土筆ちゃん…が」


メロディは思わず頭を抱え、色紙を鞄に戻す。
そしてその直後……


ドズアッパァァァァァァァァンッ!!!


と、物凄い水飛沫が海岸に上がる。
それはまさに憤怒を象徴するメロディの怒りその物であった。
ありったけの『サイコキネシス』を海に向けて放ち、メロディは怒りに身を震わせる。


メロディ
「この、クソッタレがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「誰が!! 誰がやった!? クソ! クソ! クソがぁぁ!!!」
「ザケやがって…!! よくも……!!」


メロディの『ハイパーボイス』が更に海岸で激しく炸裂する。
砂や海水が激しく飛び散り、さながらそこは災害の発生源も同然だった。
そんなメロディの大激怒は数分に渡って撒き散らされてしまい、やがて集まって来た警官隊に追い掛けられる事になるのは、また別の話である!



………………………



フーリア
「というわけで、これからヨロシクね♪」

白那
「いや、それよりも君は一体?」

夏翔麗愛
「未生羅お姉ちゃんを助けてくれたのは感謝しますけど、お姉さんは何が目的なのです?」

未生羅
「あの、もしかしたら…フーリアさんは聖さんの知り合いなんじゃないかって…」


未生羅の発言にその場の全員が驚いていた。
とはいえ、それはあくまで未生羅の仮説であり確証ではない。
白那はそれを聞いて口に手を当て考えるも、フーリアが持つ緊張感の無い顔を見て悩んでしまった…


白那
「…本当に、聖君の知り合いなの?」

フーリア
「誰それ? さとし君〜?」

夏翔麗愛
「思いっきり外れているのですよ! 全然違うのです!!」


夏翔麗愛は全力でツッコンだ。
未生羅はオロオロしながらも、それでもフーリアをフォローしようとする。


未生羅
「で、でも…准一って人の名前をフーリアさんは」

白那
「准一…? まさか、魔更 准一の事かい!?」

フーリア
「おっ、准一君の事を知ってるのかな〜?」
「うんうん♪ 准一君って格好良かったもんね〜☆」

夏翔麗愛
「どういう事なのです? ボスの事は知らないのに、そのお父さんは知ってるって…」


それを聞くと、フーリアは納得した様に手と手をポンと合わせる。
そしてキラキラした目で嬉しそうにこう話した。


フーリア
「あ、そっか〜! さとし君って、准一君の息子君なんだー♪」
「そっかそっか〜…准一君、ちゃんと幸せになってたんだね〜♪」

白那
「君は…あ、いや貴女はまさか…准一さんと知り合いだったんですね?」


白那の問いにフーリアは元気良く、うん!と答える。
そしてフーリアの口からは、かつて准一と共に行動した事を短いながら語られたのである…


夏翔麗愛
「…異世界転送されて、ポケモンバトルですか」

白那
「そんな頃から混沌みたいな何かがあったって事なのか?」

夏翔麗愛
「でも、実際過去にあの○ーモも潜伏してましたし…」

白那
「有り得ない…とは言い切れないね」
「とはいえ、そんな元大神官様が何故こんな所に?」

フーリア
「うーん…一応、他言無用って事なんだけど」
「…とある、『異端者』に頼まれたの」


フーリアは割と真剣な顔でそう言い放った。
とある異端者…他言無用と言われるその存在の正体は不明だが、どうやらそれが助けを出してくれたのだと予想出来る。


白那
「他言無用の異端者だって…? でも、オレ達の事を知ってる存在なんだよね?」

フーリア
「それはどうかな〜? 面識は無いって言ってたし…」
「あ、でも心配しないで! その子も私も、君たちの仲間だから♪」


フーリアは根拠も無くそう言い放つ。
あまりに裏表の無さそうなその笑顔に対し、夏翔麗愛は目を光らせてその感情を判断した。
そこから出た夏翔麗愛の答えは…


夏翔麗愛
「…恐ろしい程に嘘が入ってないのです!」
「このお姉さん、超真面目に仲間になってるつもりですよ!?」

フーリア
「えー? だってもう仲間だよね?」

未生羅
「あ、あはは…私は、良いと思いますけど?」

フーリア
「あーん未生羅ちゃんありがとーーー!! やっぱ良い娘だね〜! よしよし♪」


フーリアは未生羅にいきなり抱き付いて頬擦りしていた。
未生羅はやや驚くも、それでもフーリアの事はそれなりに信頼しているらしい様子が窺える。
そんなふたりを見て、白那は苦笑いしていた。


白那
「…あはは、まぁ夏翔麗愛が良いって言うならオレは何も言わないよ?」

夏翔麗愛
「流石に、ここまで純真無垢な感情見せ付けられたら何も言えないのですよ…」
「実力もかなり凄いみたいですし、頼らせてもらっても良いのです?」

フーリア
「うん! もちろんだよ!! このお姉さんに、ドーンと任せて♪」


そう言ってフーリアは自分の胸を叩いて宣言する。
…こうして、白那達は失った物も大きかったものの、新たな仲間も得る。
果たして、色んな意味で型破りなこのフーリアは…どんな活躍をするのか?
それは、皆さんの目で見届けていただきたい……










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第3話 『ヒーロー推参!? 聖剣士フーリア!!』


…To be continued

Yuki ( 2021/10/07(木) 16:04 )