第5章 『時空の相克』
第1話
とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い



第5章 『時空の相克』











…それは、黙示録が起こり『魔更 聖』の家族達が世界を超えて1週間程時間が経った時に遡る。



………………………



少年
「ゲッ!? ポマードが切れちまいやがった!!」


洋風の城内を思わせる部屋の中、ひとりの少年は自分の髪型をイジリながらボヤいていた。
それもそのはず、彼のお気に入り(?)の髪型はいわゆるリーゼントという物であり、自然と整えられる物ではないからだ。


少年
「この城にストックあんのかな? 聞いてみるか…」


仕方無く、少年は髪を下ろした状態で服を着替える事にした。
環境に合わせ、服はやや春秋用に寄せた一般的な物に纏める。
そして少年は部屋を出て馴染みの顔と出会うのだった…



………………………



女性
「…来たか、宙(ひろし)」

少年
「あ、大愛(だいあ)さん、おはようございます!」


宙…という名はこの少年の名である。
この少年は人間の少年であり、16歳の高校1年生。
だが、今は訳あってとある事件に巻き込まれてしまっている。

そして、そんな少年をクールに見つめるのは大愛というポケモンの女性。
頭からは特徴的な角を2本伸ばし、尻尾にも特徴的な突起が付いている。
そして胸元には金剛石を思わせる大きな宝石が埋め込まれていた。
そう、彼女はポケモンと言ってもただのポケモンではない。

時間ポケモン『ディアルガ』…伝説に語られる恐るべき力を有したポケモンなのだ!


大愛
「…どうした? 今日は髪を整えていない様だが?」


大愛は青く綺麗な長髪を靡かせ、顎を上げてそう指摘する。
それを聞いて宙は頭を掻きながら苦笑いしてこう答えた。



「ポマードが切れちまって、この城にストックってあるんすかね?」

大愛
「…無いだろうな、お前以外にそんな物を使う奴がいないからな」


ちなみに、この城に住んでいる者は皆女性だ。
そんなハーレム状態の中に、宙は身を置かさせてもらっている。



「…やっぱそうか、仕方無ぇな」

大愛
「それより、早く行くぞ? 今から作戦会議だ」


そう言って大愛は時間を操作し、宙を地下の会議室へ瞬時に連れて行く。
宙は驚きながらも、いい加減慣れてはいたのか声を出す事はしなかった。
そして薄暗い地下のモニタールームにて、数人のポケモン女達と宙は挨拶を交わす…



「おはようございます、皆さん」

ピンク髪の女性
「おはよう宙君…良く眠れたかい?」


このピンク色の長髪を靡かせた美しい女性は、『パルキア』という伝説のポケモン。
大愛同様、恐るべき力を秘めた強大なポケモンであり、ほぼ同格の実力を持つリーダーとも言える存在だ。


赤い髪の少女
「おはようなのです! 少し遅刻ですよ?」


彼女は『エムリット』という伝説のポケモン。
感情を司る能力を持つエスパータイプであり、パルキア…『白那(しろな)』の義理の娘でもあった。



「…悪い、ちょっとトラブっちまって」

薄紫髪の少女
「何だ、今日は髪を下ろしてるのか?」

赤髪ロングの女性
「へぇ、そっちの方が良いんじゃねぇのか?」


薄紫髪の短髪少女(?)は『ミュウツー』と呼ばれる遺伝子ポケモン。
そして赤髪ロングの女性は『ゲノセクト』と呼ばれる幻のポケモンだ。
ふたりとも宙同様訳有りで城に身を寄せており、今は作戦会議に備えて待機をしていた。


エムリット
「確かに、今時コテコテの軍艦スタイルは有り得ないのですよ!」


「そりゃ無ぇぜ『夏翔麗愛(かとれあ)』ちゃん…」
「なぁ白那さん、ポマードって持ってないっすか?」

白那
「うーん、残念だけど無いね…ここからだと取り寄せる事も出来ないし」


「二海(ふみ)やジェノさんは?」


ちなみに二海とはミュウツーの名、ジェノはゲノセクトの名だ。
尚、二海は見た目こそ大人の女性だが、実年齢はまだ数歳の幼女でもあったりする。


二海
「有るわけないだろ」

ジェノ
「必要無いしな」


それを聞いて宙は項垂れる。
そしてもうどうにでもなれ…とばかりに息を吐き、改めてテーブルを囲む椅子に座ったのだった。
それを確認して、白那はまず議題をこう切り出す。


白那
「さて、まずは当面の戦力状況だけど…」

夏翔麗愛
「モニターに注目なのです!」


夏翔麗愛が超能力を使い、モニターに様々なデータを表示させる。
まず大まかな地形を表示させ、そこに両軍のデータが羅列された。
それを確認しながら白那はこう説明する。


白那
「…とりあえず、これがこちらの戦力だ」
「ここにいる5人の他、杏(あんず)ちゃん達三姉妹に唖々帝(あーてぃ)ちゃん、李(すもも)ちゃん、祭花(まつりか)ちゃん」

大愛
「計11人か…随分寂しい戦力だな」

二海
「だが、各個撃破でもされなければそこまで問題は無い」
「少なくとも敵は数が多いだけで、ひとりひとりは大した事無いからな」

ジェノ
「だが、厄介な能力持ちもいるぜ? 人間なのに炎や雷を操りやがる」

夏翔麗愛
「いわゆる黒魔道士枠ですね! 多分白魔道士もいるのです!」


そう、彼女達は今…とある敵と戦っていたのだ。
それも数で言うなら圧倒的差があり、白那達は自分達の家でもある城を守らなければならないのだから…



「…でも、何でこの城を狙うんでしょうか?」

白那
「理由は解らない、ただここに敵が求める何かが眠っているのは確からしい」

夏翔麗愛
「……地下迷宮の、事?」


夏翔麗愛は小さく呟く。
それを聞いて二海やジェノは?を浮かべるが、白那と大愛は反応していた。
そして、大愛はこう意見を述べる。


大愛
「どの道、攻められているのが現状だ…なら、何処かで攻勢に転じなければ選局は変わるまい?」

白那
「確かにそうだけど…だからといってここを手薄にするわけには」

大愛
「だ、そうだ…どうする宙?」


「…えっ?」


宙は話を振られてキョドる。
少なくともただの一般人である宙に、こんな会議での発言に意味があるのかは誰にも解らなさそうだったが…
それでも大愛は何かに期待している様だった。
そんな期待は露しらず、宙はただ混乱するだけで何も言葉は放てないでいる。

やがて大愛はため息を吐き、自分からこう告げた…


大愛
「宙…私を動かせるのはお前だけだ」
「なら、お前はどうする? どうしたい?」


「そ、それを俺に命令しろと!?」

大愛
「そうだ、私はお前の命令以外を聞くつもりは無い」
「何もしないのであれば、私もただ傍観に徹するだけだ」


そう言って大愛はつまらなさそうに腕を組み、背もたれに体を預けた。
それを見て宙はプルプル震えだす。
ただの高校生に、彼女は責任を負えと言ったも同然であろう。
だが、それでも決めるのは本人次第。
その答えがどうなろうと、白那も黙認する様ではあった。


白那
「無理をする事は無いよ? これは元々オレ達家族の問題だ」
「君達はいわば部外者、協力は有り難いけどそれをこちらから求める事はあえてしない」

夏翔麗愛
「要するに逃げたきゃ逃げろ!です!!」

二海
「好きにすりゃ良い、私は自分の意志で戦う!」

ジェノ
「右に同じだ! 俺にはやるべき事がある!!」


二海やジェノも本来部外者であるが、今回は事情も違っている。
それもそのはず、今回の敵とは二海の母親である『ウォディ』なのだから…
ウォディとは、七幻獣のひとりであり『傲慢』の『ミュウ』…
かの混沌の王の眷属であり、二海にとって倒すべき敵。
ジェノにとっても大切な妹に関する情報源であり、ふたりの利害は完全に一致していると言えるだろう。



「お、俺は…」

大愛
「………」


大愛は目を瞑り、何も言わない。
宙は自問自答を脳内で繰り返し、どうすれば良いのか考え続ける。
ロクに思考も纏まらない中、彼の中にあるただひとつ正しい物がそこにあるのをようやく理解し、彼は自分なりに答えを見出だし始めた…



(魔更先輩は、こんな状況でも一切狼狽えないだろう…)
(なのに俺は何だ? こうやってキョドるだけかよ!?)
(そうだ、ここで退いたら男が廃る! 俺は組長みたいになるんだろ!?)


宙は己を奮い立たせ、グッと拳に力を込めて覚悟を決める。
だが、当然その結果は重々推し量るべき事であり、その後の彼等の運命すらも決定付けるべき発言であるのは、誰の目に見える行為なのだ。



「俺だって、ここにいる以上やるべき事があるはずだ!」
「魔更先輩や組長なら絶対そうする!! なら男の俺がビビってコソコソしてられるかっ!!」

夏翔麗愛
「言っておきますが、軽い気持ちで発言しない方が良いですよ?」
「お兄さんが思っている程、ボスの覚悟は小さくなかったのですから」


夏翔麗愛は宙の感情を的確に読み取り、あえて突き放す様にそう言った。
彼女とて、別に宙の事を認めていないわけではない。
ただ、彼女の言う通り生半可な覚悟で戦いに参加出来る程、今回の戦いは簡単でもないのだ。
夏翔麗愛からすれば、宙はお客様に等しい。
それも大切な聖にとっての友人だ。
そんな大切なお客様をみすみす死なせたとあっては、聖に顔向けが出来なくなってしまうのだから…

だからこそ夏翔麗愛はあえて厳しい言葉を宙にぶつけ、可能なら宙を遠ざけようと思ったのだろう。
だがそんな夏翔麗愛の思いとは裏腹に、ククク…と笑っている女がいた。


大愛
「クク…だそうだ? 宙、お前はハナから戦力外だとさ」
「誰もお前の実力を知らない分際で、随分不当な評価を下された物だな?」

白那
「…大愛、夏翔麗愛はそんなつもりじゃ」

夏翔麗愛
「いいえ、その通りですよ? じゃあ逆に聞きますけど、元母の貴女から見て彼がボスと同等に強いと思うのですか?」


フォローを入れようとする白那を遮り、夏翔麗愛は尚も反論を返す。
当の宙は俯いて悩んでいる様だが、大愛はそれでも鼻で笑ってみせた。


大愛
「ハッ、お笑いだな」
「宙はお前達が思っている程弱くはない…特異点と比べても、遜色無い位にはな」

夏翔麗愛
「根拠が皆無ですよ? それをどうやって信じろと?」

大愛
「簡単な事だ、なぁ宙…?」


大愛はそう言って妖艶な笑みを浮かべ、宙を横目に見る。
それに対し、宙は再び自問自答を繰り返した。



(何でだ…? 大愛さんはどうしてそこまで俺を担ぎ上げる?)
(大愛さんだって解ってるはずだ、俺が魔更先輩の足元にも及ばない事位は)
(なのに、大愛さんはそれでも俺が優れてると言うってのか?)
(なら、その意味は…?)


宙はただ考えた。
そしてようやく辿り着いた答えに、宙はただ息を飲む。
言えば2度と引き返せない。
だが、彼は漢である。
同じ立場にいれば、聖や賢城は確実に笑う事だろうと宙には想像出来た事もあるが…
大愛さんもまた…今笑っている。

今、彼…万丁 宙の漢が試される時が来たのだ!!



「はは…! そうだよな」
「俺には、大愛さんがいるんだ! なら怖いモンなんか無ぇ!!」
「やってやるぜ!! 俺だって男なんだ! 役に立つかどうかは、戦場で見せてやらぁ!!」


そう啖呵を切って宙は部屋を勢い良く出て行く。
それを見て大愛は顔を押さえて笑い、嬉しそうに、そして楽しそうに宙の後を追った。
ふたりの姿が消えた後、モニタールームにはどっとした空気が流れ込む。


白那
「…はぁ、知らないよ?」

夏翔麗愛
「…自己責任ですよ、私に責任は無いのです!」

二海
「やれやれ、ここで単独行動とか危険極まりないんだがな?」

ジェノ
「…なら、俺がフォローに回る」
「二海は手薄そうな所を補佐してやってくれ」


そう言ってジェノはフルフェイスのヘルメットを被り、真っ赤なマフラーを翻して部屋を出て行く。
二海もまた戦いに赴く為外に出る事にした。

そして残されたふたりは…


夏翔麗愛
「…お母さんは本丸でふんぞり返っててくださいね?」

白那
「了解だよ、何が転移して来たとしても必ず皆の家は守ってみせるから」


夏翔麗愛は母にそう言って釘を刺す。
白那もまたそれを理解しており、己の役割を全うする構えだった。

そして…戦いは更に激化していく事となる。



………………………



ウォディ
「…ん? 前線で何が起こった?」


「どうやら、敵の最高戦力のひとりが突撃してるらしい」


そこは、ウォディ達が構えている拠点。
中世ヨーロッパ風の内装に統一されており、それは単にウォディの趣味だ。
そして、そんなウォディの隣で漆黒の全身鎧に身を包んだ何者かがウォディに言葉を返していた。


ウォディ
「最高戦力だと? 二海か? それとも…例のパルキアか?」

黒騎士
「いや、ディアルガだよ♪」
「フフフ…これは面白くなって来そうだ♪」


フルフェイスの兜の中から、その者の表情は読み取れない。
しかし、今の事態が余程面白いのか思わず笑い声が出てしまっており、黒騎士の特殊そうな性格が滲み出ている様だった。
それを見て、ウォディは不満そうに椅子に座りながら長い尻尾をプラプラさせている。


ウォディ
「…貴様の事は良く知らんが、実力があるのは理解している」
「だが、勝手な真似はするなよ? ここの指揮官は私だ」

黒騎士
「分かってるさ、だから早く命令してくれないかい?」
「私に、敵を殲滅しろってさぁ!?」


黒騎士は両手を開いてそう煽った。
だが、ウォディは苛つくばかりで意に介そうとはしない。


ウォディ
(…一体、コイツは何者なんだ? 王直々に派遣した特殊戦力だそうだが…)
(素性すら隠すのには、何か理由があるのか?)

黒騎士
「やれやれ…お堅い指揮官様だね」
「まぁ良いさ、どうせいずれ私の出番が来る」
「楽しみは、お預けされればされる程愛おしくなるからねぇ〜♪」


黒騎士は体を抱えて笑い続ける。
それを見てウォディはただ不快感を示し、その異様な存在を訝しげに観察していた。


ウォディ
「…ちっ、ソールに伝えろ」
「そのディアルガを何としても止めろとな! 戦力はいくら割いても構わん!」


ウォディは下っ端の兵隊にそう伝達し、前線へ指示を伝える。
実に面倒な事をしており、思わず黒騎士はこうツッコンだ。


黒騎士
「何でテレパシーで伝えないんだい?」

ウォディ
「相手には、読心能力に長けたポケモンがいる」
「下手にテレパスを使えば、逆に読み取られかねん」

黒騎士
「ああ…そう言えば、いたねぇ」
「確かエムリットの、夏翔麗愛ちゃんだったっけ?」

ウォディ
「…? 名前まで知っているのか?」


ウォディには少なくとも種族を特定出来ていても、名前までは把握出来ていない。
なのに、この黒騎士はその名前まですぐに出してみせたのだ。
これには、さしものウォディも驚きを隠せないでいた。


黒騎士
「あ〜まぁ、一応ね」
「って言うか、指揮官なのに敵の戦力を正確に把握してないの?」
「それって無能なんじゃない?」

ウォディ
「誰が無能だ!? 私は『傲慢』だぞ!?」
「イチイチ敵の名前まで覚えていられるかっ!」


ウォディが黒騎士の煽りに反応し、露骨に苛つくとそれを見た黒騎士は腹を抱えて笑う。
その態度は完全にウォディを舐め切っている態度なのが明白であり、ウォディのイライラは最高潮に達するのだった…


ウォディ
「もう良い、お前は南の塔の入り口を守れ!」

黒騎士
「りょ〜かーい♪ 敵が来たら勝手に戦っても良いんだよね?」

ウォディ
「好きにしろ」


そう言われて黒騎士は嬉しそうに鼻歌を交えて出て行った。
ウォディはようやくイライラから解放され、とりあえず息を吐いて頭を抱える事に…



………………………




「…何処に行くんだい?」

黒騎士
「南の塔を守れってさ♪ 君はどうする?」


拠点の入り口から少し離れた先、林の木の枝に座るひとりの白い全身鎧の騎士が黒騎士に話し掛けた。
黒騎士は白騎士を見る事無く、方を竦めて言葉を返す。
それを聞いて、白騎士は静かに感情すら込めずこう答えた…


白騎士
「…私が必要なのか?」

黒騎士
「さぁ? どうだろ…?」
「君はどうせ観測がメインだろ? 『ヴォイド(虚無)』…」


ヴォイド…と呼ばれた白騎士は言葉を返さなかった。
その反応を見てか、黒騎士はやや呆れた様にため息を吐く。


黒騎士
「ゴメンゴメン…一応、まだ秘密なんだっけ?」

ヴォイド
「貴女はいつもいつも…」
「前の時も、出さなくて良いのに名前を出したよね?」
「あの件について、私がマスターに怒られる羽目になったの忘れてないよね?」

黒騎士
「あれは謝ったじゃないか! それにどうせ誰も聞いてないんだし良いの良いの!」


白騎士はこの上なく疲れた感じで項垂れる。
それを見て黒騎士はケラケラ笑い、楽しそうに南の塔へと向かうのだった…


ヴォイド
(ディス…やり過ぎないと良いけど、ね)


ヴォイドは枝の上に座りながらそう思った。
ディス…というのは黒騎士の名であろうが、その意味はまだ我々に知る由は無い…



………………………




「くっ!?」

大愛
「あまり前に出るな宙…出るなら私の側にいろ」


大愛と宙はふたりだけで敵陣に突っ込んでいた。
相手は中世ヨーロッパ風の騎士やら兵士やら魔道士やら…
そんな異様な相手に大愛はひとりで大立ち回りをしている。


大愛
「ふん、雑兵如きで私を止められると思うな!?」


大愛は瞬時に時間を操作し、肉体の動きを加速させて敵をなぎ倒す。
そのスピードは目に捉えられるレベルではなく、人間の宙からすれば光が走った様にしか見えない。
そんな驚異的な戦闘を見て、宙は息を飲んでいた…



(ス、スゲェ! 前に魔更先輩が大愛さんとプロレスやってたのは見てたけど、改めて見ても大愛さんの強さは別格過ぎる!)


大愛の動きを捉えられる者など敵には存在しない。
だが、大愛とて無敵ではない。
スタミナには限度があるし、技を使うにもPPの概念は存在するのだから。
ただ、大愛は頭もすこぶる良い。
そんな自分の欠点や限界は熟知している。
その上で、彼女はあえてひとりで大立ち回りをしているのだ。



ソール
「クソッタレ! また貧乏クジかよ!!」
「あんなバケモン俺にどうしろってんだよ!?」


空でパタパタと独特の翼を羽ばたかせていたのは、ソールと呼ばれるウォディの部下だった。
彼は仮にも『サンダー』と呼ばれる伝説のポケモンであるが、良くも悪くもレベルは低く、とても大愛と渡り合える実力は持ち合わせていない。
ただそれでもウォディの命令は絶対であり、ソールは愚痴りながらも戦力をどんどん投入して消耗させるのだった…



(あの空にいる奴、ポケモンだな! 何かゴチャゴチャ叫んでるが、アレが指揮官か?)


宙はソールの姿を確認するも、大愛とは離れている為それを伝える事が出来なかった。
そんな中、宙は声も出さずにあえて足元の石を拾ってそれをソールに投げ付ける。
だが、所詮ただの子供が投げる投石に威力などあるはずもなく、石は空しくソールの足元辺りで失速して届く事すら無かったのだった…


ソール
「何だぁ? ありゃただの人間か?」
「そんな石で俺を狙うなんざ、よっぽど死にたいらしいな!?」


ソールは宙の投石に反応して攻撃体勢を取る。
バチバチと激しい電気を全身に纏い、それを宙に向けて発射しようとしていたのだ。
だが、宙の行動は決して無謀ではない。
彼は少なくともこの状況で有効と思える手をしっかりと打っており、ソールは見事にそれに引っ掛かった形と言えるのだ。

だが、それでも宙が取った行動には穴もある。
それは、この状況で最悪1発でもソールの攻撃を凌がねばならないという事。
宙には、その自信があってやった訳では無かったのだ。



(や、やっちまった…! 解っちゃいたけど、やっぱこっち向きやがった!)
(しかも攻撃する気満々だぞ!? どうする? かわせるか!?)
(相手は電気か飛行だ、挙動的に電気が来る!)


宙はすぐにその場から動き、後に走り始める。
だがソールはそんな宙を逃がす様な真似はしない。
すぐに溜めた『電気ショック』で、正確に宙の背中を狙おうと狙いを定める。
そしてその技が撃たれる瞬間、ソールの頭上から何かが高速で落ちて来た。


ソール
「んがっ!?」


ソールは何者かに頭を踏み抜かれ、そのまま地面へと落下する。
モクモクと大量の砂煙を上げ、その中に目を光らせる何者かが…
その姿を見た宙は、こう叫んだ。



「ジェノさん!!」

ジェノ
「おう! ヒーローってのは遅れてやって来るモンらしいが、無事で何よりだぜ♪」


ジェノは後にいる宙に半身を向けてサムズアップをする。
宙は安全を確信し、その場で思わず座り込んでしまった。
そして、粗方敵を一掃した大愛が戻って来る。


大愛
「…何だ、私の手柄を奪われるとはな」

ジェノ
「そいつぁ悪かったな…速いモン勝ちだ♪」


「は、はは…はぁ」


一気に脱力する宙の元に大愛は微笑んで近付いた。
そして勇気を振り絞った自らの主人に対し、大愛は最大限の労いをかける。


大愛
「良くやった、お前の行動で結果的に敵の指揮系統を遮断出来たぞ?」


「か、かなりギリギリだったみたいですけどね!」

ジェノ
「しっかし、何であんな無茶したんだ? 手を出さなきゃ俺がそのまま仕留めてたのに」

大愛
「いや、宙がしっかりデコイの役目を担ったからこそ、お前の奇襲は確実に成功したんだ」
「もし、あのまま宙が何もしていなければお前の奇襲は確実性を失い、私も即座に戻る事は難しかった」
「確実にあの指揮官を倒せたのは、間違いなく宙の功績だ」


大愛のベタ褒めに宙は顔を赤くして恥ずかしがる。
そんなふたりを見てジェノは呆れていた。


ジェノ
「やれやれ、まっ結果オーライって奴だな」
「とりあえず、コイツはふんじばって捕虜にでもするか…」


ジェノがそう言って気絶しているソールを掴もうとすると、ソールの姿は一瞬で消えてしまう。
前に見た事のある光景を前に、ジェノは舌打ちをするのだった。


ジェノ
「ちっ、またアポートとかいう奴か?」

大愛
「…成る程、あの程度の指揮官をわざわざ前線に送った訳だ」
「どうやら、ここは敵にとって別にどうでも良い戦線だったらしい」


「ど、どういう事っすか!?」


大愛はひとり相手の戦術を読んでいた様で、ここまでの顛末に納得していた。
宙とジェノは良く解っていない様で、大愛からの説明を待っている。


大愛
「アレはただの囮だ、あえて戦力を集中させる事によってこちらの戦力を分断し、本命は後方の本隊を押し出す事だったんだろう…」
「指揮官自体、やられても即座に引き戻せるんだしな…」

ジェノ
「だが、悪手なんじゃないのか? 結構な戦力を失ったろ?」


「確かに、ここまで100人近くの兵隊は倒してますよね?」


大愛はため息を吐き、それすらも敵の想定内だと言う。
宙とジェノはイマイチ納得出来ていない様で、仕方無く大愛は更にこう補足した。


大愛
「そもそも、この程度の戦力は失っても構わないという事だ」
「そこから推定するに、敵の本隊はここの数倍以上はあると見た方が良い」


「す、数倍って…300人位は余裕あるって事っすか!?」

ジェノ
「おいおい、こちとら11人だぜ? そこまで戦力を集中させるってのか?」

大愛
「それだけ、過大評価してくれてるんだろうさ…我々の戦力をな」


大愛はそう言って笑う。
こんな絶望的な数字を出していても、尚彼女は笑えるのだ。
そんな相棒を見て、宙も思わず苦笑いする。
ジェノだけがイマイチ納得出来ていないみたいだったが、とりあえず今回の作戦はあまり良い結果は出したと言えないだろう。
ただそれでも、宙にとっては初の初陣であり快勝。
この意味の方が大きいと思ったからこそ、大愛は余裕を持って笑っているのだ。

宙と大愛…まだまだ完璧なコンビネーションとはいかないだろうが、それでも結果は出してみせた。
これで夏翔麗愛も宙の事を侮る事は出来ないだろう。
だが、それは同時に宙の危険性も敵に知らしめる事になる事を、宙はまだ知らない…



………………………



ウォディ
「ほう、敵に人間のガキがいると?」


ウォディは部下から今回の戦闘報告を受けて笑っていた。
大愛が予想した通り、ウォディは本隊を前に押し上げ、新たな拠点を築いて戦線を押し上げている。
まだまだ兵站にも余裕は有り、ウォディは既に勝利を確信している様だった。


ウォディ
「ククク…! 愚かな奴らだ、ただの無能なガキを前線に置くとは!」
「確かに、ディアルガの力は凄まじい」
「だが、そんなアキレス腱を無防備に見せている様ではたかが知れてる!」
「この戦い、既に勝利は見えたな!!」


ウォディは大笑いをしていた。
当然ながら、彼女は傲慢である。
傲慢が故に慢心し、彼女はいつも失敗もするのだ。
だが、必ずしも彼女が失敗するとは限らない。
彼女とて、あの混沌の王が認めた七幻獣の最古参。
1度たりとも、その傲慢の座が揺るがされた事が無いのもまた事実。

果たして、宙と大愛はこの傲慢なミュウに勝てるのだろうか?
その結果は……これから皆さんの目で確かめて欲しい!










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第5章 『時空の相克』

第1話 『初陣! 宙とディアルガ!!』


…To be continued

Yuki ( 2021/10/04(月) 18:35 )