第5章 『時空の相克』
幕間その2
守連
「!? ここが、次の世界…?」

阿須那
「…? 何やえらい近未来的な世界やな」


私達が辿り着いた世界は、阿須那ちゃんが言う様に近未来的な世界が眼前に広がっていた。
私達が立っている場所はいわゆる入口ゲートと思われる場所であり、数多くの人間や人化したポケモンが歩いてる。
そして驚かされるのはその服装…


守連
「うわぁ…まるで○ラえもんの未来世界みたい」

阿須那
「今更ながら、マトモに見ると変態集団みたいよな…」
「全員ヘルメット被ってピッチリスーツやで?」


そして腰には光線銃っぽいのを携帯してる…
ここまであからさまだと、逆に作り物の世界なんだと最初から解る気がするなぁ〜


阿須那
「それより、他の奴等は? どこにも見えへんで?」

守連
「臭いも感じない、近くにはいないみたいだね」


私達は雫ちゃんの力で同時に世界を移動したはずなのに、はぐれてしまっている。
不安はあるものの、それはそれで仕方無いのかもしれない。


守連
「どうする阿須那ちゃん? こっちから動いてみる?」

阿須那
「…しばらく待機して様子見や、それでも見っからんかったら行動開始やな」


私はそれを聞いてとりあえず頷く。
そして阿須那ちゃんと一緒に道の端へ移動して街並みや人波を観察する事に…



………………………



阿須那
「…見れば見る程、けったいな世界やな」

守連
「うん、機械的って言うのかな? 住民から感情その物が伝わってこない気がする…」


道歩く人々は、まるでサイボーグの様に無表情だった。
誰とも会話する事無く、規則的に動いている気すらする。
その姿はある意味、キッチリと統率された軍隊の様にも思えた。


阿須那
「…あれから30分、結局誰も通らんかったな」

守連
「じゃあ動く? 少なくともこの世界でなら皆の姿を間違える事も無さそうだけど…」

阿須那
「せやな、反って目立つやろ」
「ただ、不気味すぎて何が起こるか解らんのも気になるがな」


阿須那ちゃんの心配は何となく理解していた。
この世界で何か起こるとしたら、一体どんな事になってしまうのか?
私から見たこの世界は、ある意味ディストピアだ。
争いもいさかいも確かに起きないけど、そこに人の心は存在しているのだろうか?

逆に、そんな意志統一が行われてる世界に敵対した場合、私達は勝てるのだろうか?


阿須那
「…まぁええわ、とにかく街を歩くで」


そう言って阿須那ちゃんはタバコを咥えて指先から火を出す。
そのまま煙を吹かしながら前を歩いて行った。
私もその横に並んで付いて行く。


守連
「…歩きタバコとか大丈夫なの?」

阿須那
「知らん! むしろ何かあるか試してるつもりやしな」


一応、ちゃんと自覚あって計画的にやってるらしい。
別に今の所誰に咎められる事も無いけど…


守連
「それにしても、足元が透明の道路って気味が悪いね…」

阿須那
「車もいわゆるエアカーやしな、タイヤがあらへん」
「道路も立体的にゴチャゴチャしとるし、自分が何処向かってるか意味不明になりそうや…」


実際、私達が歩いている道(歩道?)は半重力装置でも働いているのか、上下逆さまにになっても落ちる事が無かった。
確かにハイテクで凄そうに感じるけど、阿須那ちゃんが言う通りあまりに道が立体的にゴチャゴチャし過ぎてて、正確な居場所が把握出来ないのも現実だね。


阿須那
「それよか、目立つ奴はおらんか?」

守連
「これだけ人が多いと、視覚的に厳しいしね…」
「しかも360℃開けた視界だし、そう簡単には見付からないかも…」


阿須那ちゃんは吸い切ったタバコを掌で握り潰して全部灰にする。
そしてその灰を試しに足元に落としてみた。
すると灰はしっかりと足元の道に落ちる。
透明の床(道?)に灰色の灰が撒き散らされ、阿須那ちゃんの足元だけが汚れてしまっていた。


阿須那
「……」

守連
「…阿須那ちゃん?」


阿須那ちゃんはしばらくその場で立ち止まって何かを見ていた。
だけど何も起こる事無く、ただイタズラに時間だけが過ぎていく…


阿須那
「…ありとあらゆる事に無関心か」

守連
「…確かに、普通なら注意のひとつでもされそうだけど」

阿須那
「そういう風にプログラムされとらんのか、ハナから眼中に無いんか」
「どっちにしても、気味悪いわ!」


そう言って阿須那ちゃんは顔をしかめて歩き出す。
私もそれに付いて行き、私達はまた歩き続けた。



………………………



守連
「この辺は、街の中心かな?」

阿須那
「みたいやな…あそこ見てみ、電光掲示板が浮いとるで」


阿須那ちゃんが指差した場所には巨大モニター…って言うか、ホログラフィ?
とにかく街の地図やら、ニュースやらがでかでかと表示されていたのだ。
私達はそれを見て少し驚く。


阿須那
「わざわざ日本語で書いとるがな」

守連
「それも、そこだけ現代的な…」


近未来的な世界ではあるものの、言語は共通だという事が解った。
とはいえ、この世界で会話出来そうな人は見当たらないけど…


阿須那
「とりあえずマップ記憶しときや? 今の所唯一の手がかりやさかい」

守連
「うん、後あのニュース見てよ…文字だけのテロップだけど、第8地区って所が封鎖されてるみたいだよ?」


私達はそのテロップを見て考える。
この世界はこれだけ無駄無く統率されてる様に見えるのに、問題自体は起こっているみたいなのだ。
それは単なるバグなのか、それとも外的要因なのか?


阿須那
「第8…って事はあっちから行けるみたいやな」

守連
「行ってみる?」

阿須那
「行くしかないやろ、ウチ等は来訪者なんやから!」


手掛かりがあるなら、積極的に求める。
ある意味RPGの基本だ。
世界の何処かに必ずそのヒントは潜んでる…それなら。


守連
「それなら急ごう」

阿須那
「せやな、勝手に対処されとったら面倒やし」


私達はダッシュで現場に急行する事にした。
そして第8地区に近付くにつれ、人の気配が無くなっていくのも理解する。
封鎖されてるらしいけど、どんな状況なんだろうか?



………………………



阿須那
「な、何やこら?」

守連
「道その物が無い!?」


私達は第8地区の入口に着くものの、そこに侵入する道がそもそも存在してなかったのだ。
道の無い下を見ると、底の見えない空が広がっていた。
私は思わずゴクリと息を飲む。


阿須那
「………」


阿須那ちゃんはタバコを1本咥えて火を点ける。
そしてしばらく堪能してから徐に灰を開けた足元に落とした。
すると、灰はあっさりと風に流されて中空へ消える。
私はゾッとした…これは落ちたら間違いなく死ぬね。


阿須那
「ふー…さて、どないしたろか?」

守連
「この感じだと、反対側からも入れなさそうだね」

阿須那
「せやったら、どないかして道を繋げるか…それとも?」


阿須那ちゃんは真上を見て何かを考える。
するとそこには、別の地区へ向かう車用の道路が通っていたのだ。


阿須那
「直進距離、300mって所か?」

守連
「流石にひとっ飛びでジャンプ出来る距離じゃないね」


それはここから第8地区への距離だ。
理論上、空でも飛べるなら辿り着く事は出来るけど…


阿須那
「せやけど、上なら届かんか?」


阿須那ちゃんはタバコで上の道路を指し示す。
確かにあそこなら届かなくもないけど…


守連
「でも届いたとしても、どうするの?」

阿須那
「そのままよじ登って、第8地区の真上に行かれへんか?」


道路は確かに極薄だから、上れなくも無さそうだけど…
車が行き交う為の道だし、歩行が許されるかは微妙だね。
何か警報でも鳴らされたら面倒な事になりそうだけど…


守連
「…今はイベントフラグが建ってないと思うべきじゃないかな?」

阿須那
「…逆や、建ってないからこそ行ったらどないなるかも知りたいねん」
「後、ウチ等はそこまで時間に余裕は無いねんで? …もう既に2年も遅れとんやさかいな?」


私はそれを聞いて気を引き締める。
そうだ…もう、2年も遅れてる。
聖さんが消えて、もう2年か…!


守連
「分かったよ、やってみよう!」

阿須那
「ほな、任せ……」


私は有無を言わさず爪先でトントン…と床を叩く。
そして阿須那ちゃんが何かを言い切る前に、私は阿須那ちゃんの腕を掴んでその場から高速ジャンプした。
途中、阿須那ちゃんの悲鳴が聞こえたけど、もう遅い…


守連
(道路の裏側…! ちょっと距離が足りない!?)


私は咄嗟に磁力を反発させた『電磁浮遊』を発動し、道路の裏に張り付けないか試してみた。
すると、割と簡単に私の体は道路の裏に吸い付けるのだった…


守連
「ふぅ…流石にふたりだとギリギリだったね」
「この道路、全体的に磁場が走ってる設計なのかぁ〜」

阿須那
「アホッ!! 何でウチまで巻き込むねん!?」
「中で何かあったらどないするんや!?」

守連
「その時はその時だよ! ふたりならどうにか出来るかもしれないし!」


私はそう言って阿須那ちゃんをぶら下げたまま道路の裏に引っ付いて逆さまに走り始める。
また阿須那ちゃんの悲鳴が聞こえるものの、私は無視して目的の第8地区上空へと向かった。



………………………



阿須那
「…ったく、何でこないなるかなぁ〜」

守連
「でも、無事に辿り着けたね…警報とかも鳴らないみたい」


第8地区は人気が無く、何やら慌ただしくロボット(重機?)が作業をしている様だった。
そもそも全体的にボロボロで、元々修理してるだけだったのかもしれない。


阿須那
「成る程なぁ、経年劣化でメンテしとっただけか?」

守連
「それにしても、道を無くして封鎖するなんて酷くない?」
「ここに住んでる人達はどうするんだろ?」


とはいえ、肝心の人の気配は見付からない。
そもそも、封鎖前に全員待避してたのかもしれないね…
と、なると…


守連
「ここには、誰もいないのかな?」

阿須那
「ウチ等みたいなんが紛れて無いなら、な」


阿須那ちゃんはそう言ってまたタバコを咥える。
移動の際に1本落としてたのか…


守連
「でも、そっか…もし彼岸女さん達がここにいたら、外に出られないもんね」

阿須那
「せや、それもあるから先に調べたかったんや」
「合流出来るなら、早い方が安心するやろ?」


そう言って阿須那ちゃんは道を歩き始める。
この地区は色んな建物が建っており、何やらスチームパンク的な世界観だった。
そこかしこでロボットが作業を行っており、古びた所や破損した所を修理している。
直された所は新しくなっており、ピカピカの素材になっていた。


守連
「ここに誰かいたら、すぐに見付かりそうだね」

阿須那
「お互いにな、向こうからもウチ等は目立つやろ」


「むしろ目立ちすぎて手間が省けるわ」


私達はその声に驚いてうしろを向く。
するとそこには見た事の無い黒髪ハイレグ女性が立っていたのだ。
更にその後ろには執事姿の黒人みたいな人がいる…頭の耳や尻尾を見るにポケモンだね。


阿須那
「…何やアンタ等、敵か?」

執事
「それは貴女方次第です…こちらとしても情報が欲しいのですがね?」


執事の男性は不適に微笑みながら物怖じせずにそう言い放つ。
前に見たラーズさんと何処となく似てる気もするけど、まるで雰囲気は違う。
ラーズさんは何処か掴みづらい感じがしたけど、この人は何か…


守連
(威圧的…! まるでやるならかかって来いって風にも見える!)

ハイレグ
「…ヌビア、交渉は私がやる」


ハイレグ女性がやや不機嫌そうにそう言うと、ヌビアと呼ばれた執事の人は一礼して後ろに退がる。
そしてハイレグ女性は堂々とした歩き方で前に出て来た。
阿須那ちゃんは警戒を解く事無く、その女性からの言葉を待つ。


ハイレグ
「キュウコンの阿須那に、ピカチュウの守連…」
「で、他の連中は一緒じゃないのかしら?」

阿須那
「それよか、自分は何モンやねん? 何でこっちの素性を知っとるんや?」

ハイレグ
「私の事はどうでも良い、質問に答えろ」

ヌビア
「…真姫様、それで交渉する気があるのですか?」


真姫様…と呼ばれたハイレグ女性は、執事にツッコマれて目を細める。
気に触ったらしい…


阿須那
「何や、漫才やったら後にせぇ」
「こちとら暇や無いねん、探さなあかん仲間もおるんやし…」

ヌビア
「それはこちらも同じ事…今は協力関係にある女胤さんを探しているのですよ」

守連
「女胤ちゃんがここに来てるの!?」


ここでまさかの新情報だった。
阿須那ちゃんも少なからず驚いている。
そしてその時点で阿須那ちゃんは目を細め、ヌビアを睨み付けていた。


阿須那
「女胤と協力関係、な…」
「嘘か真かは解らんけど、それならウチ等の事知っとるのも納得やな」

ヌビア
「ちなみに、貴女方は誰と一緒にいたのですか?」

守連
「フーパの彼岸女さんに、ブリムオンのタイナさん、後ワタシラガの羽身ちゃんです」


私のその言葉を聞いて、真姫さんはギリッ…!と歯軋りしていた。
うわ…何か怒ってる?
まさか、誰かと知り合いだったのかな?


真姫
「彼岸女ですってぇ〜? アイツ、まだ生きてたのね…!」

阿須那
「…待てや、真姫ってまさか」
「彼岸女が言うとった、色欲の『ダークライ』かっ!?」


阿須那ちゃんが言った所で私も思わず思い出す。
そう言えば、彼岸女さんが確かに言ってた!
多分、敵…だとも。


真姫
「チッ、まさか彼岸女が絡んでいたとはね」

ヌビア
「ではどうします? 交渉は決裂ですか?」

真姫
「…ふん、無駄な労力を割く気は無い」
「彼岸女には私から直接文句を言ってやるわ!」

ヌビア
「では、お認めになるのですね?」


真姫さんは、ヌビアさんの言葉に無言だった。
だけどヌビアさんはそれを肯定と捉えたのか、クククと笑って怪しく微笑む。
そしてヌビアさんはこちらに向き直してこう言い放った。


ヌビア
「それでは、これからよろしくお願いいたします」

守連
「え、ええ!?」


ヌビアさんは私の手を握って握手をする。
私は思わず驚いてしまったけど、別に罠とかそういう類いにも思えなかった…


阿須那
「ちょい待てや! そこで何で守連やねん!?」

ヌビア
「ここでのリーダーは彼女でしょう? 貴女がそうだとはとても思えませんが?」


ヌビアさんは軽くそう言って私を見る。
私は少しだけ冷や汗をかくも、彼の観察眼を逆に恐ろしく思う。
この人は、単にリーダーシップを見てるんじゃない。
多分、別の何かを見て私を選んだんだ…


阿須那
「…はっ、まぁええわ」
「ほんで? 女胤とはどういう理由で知り合ったんや?」

真姫
「単に前の世界でそれがクリア条件だっただけよ」
「後は単に利害の一致…それだけよ」


利害の一致…か、何だか不安になるなぁ〜
この手のゲストユニットって、大抵後で敵に回るんだよね〜


阿須那
「守連、とりあえずコイツ等に経験値回すなや? どうせ返還とか引き継ぎとかされへんで?」

真姫
「私はどこぞのグラサンか!?」

ヌビア
「もしくは紫の人ですね」


真姫さんは即座にツッコンでくれた。
良かった! 貴重なネタ枠だよ!?
私はそれが解っただけでも少し安心する事が出来るのだった…



………………………



阿須那
「さて、ほなら別の地区に向かってみるか?」

ヌビア
「ここに我々以外のメンバーはいない様ですしね」

真姫
「…道が無いじゃないの、どうやってお前らはここに辿り着いたのよ?」


阿須那ちゃんは無言で上を指差す。
すると、ヌビアさんはそれを見て成る程…とすぐに察した。


ヌビア
「あれなら真姫様も普通に移動可能でしょう?」

真姫
「…まぁね、だけどお前はどうする?」


するとヌビアさんは軽く微笑み、その場からジャンプする。
床が軽く抉れる勢いで踏み込まれたその脚力は、あの愛呂恵さん並にも思えた。
そしてそのジャンプで、軽々と道路の上まで到達してしまったのだ。
真姫さんはそれ見てため息を吐き、フワッとした挙動でまるで浮遊するかの様に飛び上がる。
その際、腰から下の下半身が消えてしまっており、まるで闇に溶け込んだ様な下半身に変化していた。
そのまま道路の裏側に吸い込まれてしまい、真姫さんは姿その物が消えてしまう。


阿須那
「サラリとバケモンやな…アレが幻のポケモンっちゅうダークライの能力か」

守連
「ヌビアさんも相当凄いよ…助走も無しにあそこまで跳べるなんて」


私はとりあえず阿須那ちゃんを背負ってから近くの建物に張り付いて上に上って行く。
そして1番高い所まで上ってから道路の上にまで一気に飛び上がった。

後はそのまま、1度中央エリアまで戻る事にする。



………………………



阿須那
「あ」

女胤
「あ、阿須那さん!? それに守連さんも!!」


何と、中央で出会ったのはあの女胤ちゃんだった。
彼女も2年の間に色々あったのか、若干大人びて見える。
少しは幼さもあった顔立ちは、今や立派な大人の女性に思えた。


守連
「女胤ちゃん、無事で良かった…!」

女胤
「守連さんも、随分大きくなりましたね…それに逞しくなられた様で」

阿須那
「そう言う女胤も、随分落ち着いた感じになったモンやな〜」


私達は再会をしばし喜び、互いにここまでの情報を交換した。
そして私達はお互いがやらねばならない事を再認識する。



………………………



女胤
「…そうですか、でしたらホリィさんはこの世界にはいないのかもしれませんね」

阿須那
「手を繋いだままで切り離されたんやしな…こら意図的に振り分けられたと見るべきやろ」

守連
「いわゆる、人数増えたから宇宙ルートか地上ルートにって分岐だね!?」

ヌビア
「もしくはリアルルートかスーパールートですね」

真姫
「ふん…って事は彼岸女はこの世界にはいないわね」


真姫さんは確信したのか、天を仰いでいた。
そう言えば、七幻獣同士はある程度居場所が把握出来るって彼岸女さんが言ってた様な…
だったら、真姫さんも彼岸女さんの居場所は解るのかもしれないね…


阿須那
「せやけど、ほんならタイナや羽身もか?」

女胤
「ホリィさんがいない以上、そちらに振り分けられているのかも…」

守連
「だとしたら、安心出来るね…彼岸女さんには雫ちゃんも付いてるし、何かあっても助かる可能性は高いはず!」

真姫
「…あの彼岸女が、愚者(フール)にね」
「これも、罰って訳か…」


真姫さんは何故か虚しそうな顔をしていた。
まるで、探していた何かがいなくなってしまったかの様な…そんな風に。


ヌビア
「おや? 感傷に浸っておられるのですか?」

真姫
「冗談を言うな、むしろ興醒めしただけだ」
「今の彼岸女に、もう文句を言う気すら失せた…」

阿須那
「…そういや、アンタは愚者って何か知っとるんか?」


それは私も気になるね…彼岸女さんも良くは解って無かったみたいだけど、真姫さんは知ってるのかな?
でも、真姫さんは特に何も語ること無く無言を貫いていた。


ヌビア
「真姫様?」

真姫
「…ふん、良くは知らないわ」
「ただ、アレは不死であり超越者」
「殺しても死なないし、餌があれば永遠に生きる」
「ましてや、『夢』だなんて概念レベルの餌で活動する愚者なんてどんな生態してるのかしらねぇ?」


真姫さんはそれだけ言ってまた黙った。
私は何となく違和感を感じるものの、それ以上の情報を期待する事もしなかった…


女胤
「不死、ですか」
「そんなバケモノの力を、聖様は使いこなしていたのですね」

阿須那
「考えてもみれば、恐ろしい話やな」
「雫の力は暴走すれば、世界すら消し去ってまうんやから…」

真姫
「だけど、現実にあのボウヤは暴走させずに使いこなしてきた」
「だからこそ、アレは『特異点』と呼ばれるのよ…」
「そして今も、世界は特異点の周りを渦巻いているのかもね…」


真姫さんのその例えは、余りに壮大すぎて想像も出来ないレベルだった。
消えてしまった聖さん…でも、彼岸女さんはそんな聖さんを甦らせる為に戦っている。
そんな中、聖さんは今何を見ているのだろうか?
それとも、何も見えないのかな?


ヌビア
「さて、それではどうしますか?」

女胤
「この調子ですと、もしかして華澄さんもいるのでは?」

阿須那
「有り得るな、せやけど華澄やったら向こうから見付けて来そうなモンやが…」

守連
「愛呂恵さんや三海ちゃんはどうかな? ふたりもここにいると思う?」


私はそう言うものの、阿須那ちゃん達は少し苦い顔をした。
ここまで家族が集まっているなら有り得そうだけど…


阿須那
「…女胤はどう見る?」

女胤
「ここもゲームと考えるのでしたら、人数的にそこまで巻き込むとは思えませんね」

ヌビア
「成る程、あえてそう解釈しますか」

真姫
「ここまでで、5人…ゲッコウガの華澄を含めれば6人でパーティ完成って訳か」


真姫さんのその一言で、私達は全員が納得してしまった。
そう、だってその6人こそがポケットモンスターの定員なのだから…


阿須那
「成る程な、ゲームか」

女胤
「ええ、少なくとも私(わたくし)はそう捉えますわ」

守連
「彼岸女さんもそんな風に捉えてたもんね…」

真姫
「…ふん、王の造った玩具の世界か」

ヌビア
「…ですが、それが王なのでしょう?」


真姫さんは無言で納得してしまった様だ。
それだけ、混沌の王というのは形が掴めない。
カルラさんの時もそうだったけど、ホントに何を考えてこんな世界にしてるのか…?


阿須那
「とりあえず、折角やし時間指定して手分けせぇへんか?」

女胤
「良いですわね、全員固まっていても埒は空きませんし」

守連
「うん、私も賛成!」

真姫
「やれやれ、私はやらないわよ?」

ヌビア
「では、僭越ながら私が代行致しましょう」

真姫
「…好きにしろ、私は中央の中を見に行く」


そう言って真姫さんは闇と共に足元へ消えてしまった。
ヌビアさんもクククと笑い、別の地区へと向かう。
阿須那ちゃんや、女胤ちゃんも頷き合って移動を開始した。


阿須那
「時間はあの時計で12時集合や! ウチは第1地区に行く!」

女胤
「私は第4地区へ向かいますわ!」

守連
「だったら、私は第12地区に向かうね!」


こうして、私達は別々の地区を調べる事になった。
ここから先、果たして何が待っているのか?
華澄ちゃんもこの世界に来ているのか?
そして彼岸女さんは無事なのか?

まだまだ、心配だらけだけど…私は家族を信じるよ。
きっと皆、聖さんの為に…頑張ってるんだって!









………………………










混沌の王
「ふふふ…ここまではシナリオ通りか?」
「しかし、存外お前のゲームは楽しめる♪」
「さて…次はどのシナリオを視聴するかな?」


「………」


そこは、とある王宮を模した王室。
混沌の王が自ら造り出した世界の建造物であり、何処に有るかも解らない異質の世界に存在していた。
そこに辿り着ける者は王ただひとりのはずだ。
…だがしかし、その王が座る玉座の横に確かな誰かが存在している。

その存在は一体何者なのか?
王はただ楽しそうに微笑みながら、足を組んで手すりに肘を付け、顎に手を当てる。
そこから語られる情報は、何も無かった……










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第5章 『時空の相克』

幕間その2 『宿命に集うポケモン達』


…To be continued

Yuki ( 2021/10/03(日) 10:57 )