第4章 『悲劇のお嬢様と足掻く王女様?』
第3話
女胤
「ドレディア、30分クッキング〜♪」


てれてっててて♪×2のフレーズが流れていれば完璧ですね!
とはいえ、軽い気持ちで言えるセリフでないのが最大の悲劇なのです!!


ホリィ
「…ホントに作る気なのですか?」

女胤
「ただのネタですので本気になさらず!!」
「しかし、実際に食事の問題はありますからね…!」


あれから既に3時間程…私(わたくし)達は迷宮を彷徨っていた。
どうやら地下に向かってどんどん下っていく構造の様で、先へ進めば進む程その難解さを増していく造りの様です。


ホリィ
「食料、ですか」

女胤
「生物である以上、必ず必要になる物ですわ」
「私は光合成だけでも多少持ちますが、貴女はそうもいかないでしょう?」


勿論ホリィさんに味覚が無い以上、私の料理でも食べられるのが最大の利点ですが。
最悪、拾った物や魔物の肉でも焼けば何とかなりそうでもあります。


女胤
「この獣型の魔物も、誰かが造り出した物なのでしょうか?」

ホリィ
「そうでしょうね…こんな動物は見た事もありませんし」


私たちの眼下に落ちている死体は、獣型の魔物です。
あくまで他に形容の仕方が浮かびませんので、便宜的にそう呼称していますが…
その獣は角が生えていたり、翼が生えてたりと明らかに既存の生物ではありません。
むしろ、RPGとかで出てくる様なモンスターであり、魔物という呼称がしっくりくる程でしょう。

そして、倒したとしても死体が消滅せず、その場に残り続けている…


女胤
「放っておけば、腐敗するのでしょうか?」

ホリィ
「腐敗する要素があれば、でしょうが…」


成る程、本来腐敗という物は細菌等によって引き起こされる現象…
つまり、この魔物にそう言った細菌が存在していないのであれば、腐敗するかは解らない?
とはいえ、生物であるならやはり危険視すべきではあるでしょうが…


女胤
「流石に薫製にする技術は持っていませんからね…」

ホリィ
「私は味など理解出来ませんが、流石に明確な毒を食する勇気はありませんわね」


流石のホリィさんでも毒は怖いらしい。
いえ、フェアリーの弱点的な意味でなくてね!?
今のホリィさんが、前みたく定期的に死ぬかは解りません。
ですが、既に理の外に出たのであれば今のホリィさんはただの少女でしょう。
だからこそ、しっかりと守らなければ!


女胤
「とにかく先へ行きましょう」
「後何階降りれば良いのかも解りませんが、それしか道は無さそうですし」

ホリィ
「お任せします」


ホリィさんは基本的に自分で道を決めない。
あくまで私の決定に全てを委ねている。
私から相談すれば答えてくれるものの、ホリィさん自身は自分の考えを積極的に述べる事は無かったのだ…



………………………



そんなこんなで、更に5時間…
私達は7階程降りた所で遂に足を止めた。


女胤
「…やれやれ、ですね」

ホリィ
「結局、目ぼしい物もありませんね」


いるのは敵である魔物だけ…
その魔物も実にバリエーション豊かで、階層毎に違うラインナップが用意されている。
数も大きさもまばらであり、流石の私も疲れ果てていた。


女胤
「肉は焼けば何とかなりますかね?」

ホリィ
「さぁ? そもそも食べられるのですか?」


私は『目覚めるパワー』の炎で肉を適当に焼く。
火力の調節が全く効かない為、本当に適当にしか焼けない。
とりあえず、最低限食べられれば御の字なのですが…


女胤
「………」

ホリィ
「……?」


私はゴクリと唾を飲む。
これはあくまで焼いただけであり、それだけです。
ですが、私が手を下した以上…味はご察しなはず!
少なくとも胃に入ってしまえば大丈夫なのは、ホリィさんが証明してくれていますが…


女胤
(流石にホリィさんに毒味させるわけには…!)

ホリィ
「何か気になる事でも?」

女胤
「い、いえ! まずは毒味いたします!!」


私は覚悟を決めてほんの一切れだけを噛まずに飲み込む。
この際、舌の上に乗せないのが必須テクニックです!
幸い味さえ克服出来れば私の料理も食える事は証明済み。
後は体に異変が無ければ…


女胤
「……特に問題は無さそうですが」

ホリィ
「即効性の毒とは限りませんが…背に腹は代えられませんか」


そう言ってホリィさんは肉にかぶり付く。
どの道味の解らないホリィさんはそのままワイルドに咀嚼して飲み込んでいった。
ある意味、味覚が無いのが今は羨ましい!!
私は少しづつ少しづつ肉を胃に納めていき、何とか食事を終える。

かなりの時間を使ってしまいましたが、やむを得ないでしょう!
私の食事が終わる頃にはホリィさんも横になって眠っており、体力の回復に努めていた。
やや寒い位のダンジョン内で、私達はとりあえず休息を取る事にしたのです…



………………………



女胤
「…特に襲われる事も無く、ですか」


私は警戒しながらも、仮眠を繰り返してその場を過ごしていた。
ホリィさんは熟睡しており、まだ起きる気配は無い。
私はやや疑問を浮かべながらも、今の状況を再確認した。


女胤
(このダンジョンは一体何なのか? 何の為に用意されている?)


ホリィさんはあの部屋で、私が認められたと言いました。
それは一体誰に? このダンジョンの製作者?
だとすると、敵は世界を造れる様な神なのでしょうか?
かつて夢の世界において、藍さんが似た様な世界を構築していましたが…あれは白那さんの空間操作能力の恩恵があったからとの事。

少なくともここまでの広大なダンジョンを形成するのであれば、相当な力が無ければ難しい…との事ですが。


女胤
(だとすると、本当に混沌の王が造ったのでしょうか?)


混沌の王…即ち創造ポケモンのアルセウス。
神たるその力があれば、この程度の事は造作も無い事でしょうが…
それはそれで疑問が浮かぶ…何故それでこんな世界を生み出したのでしょう?
それならそれで、もっとスケールの大きい世界を用意すれば良いのでは?

私達を分断した理由もよく解りませんし、ね…


女胤
(そう、分断する意味は?)


少なくともメロディさん達の作ってくれた扉はひとつ。
そこから先どうなるかは解らないと、メロディさんも言ってはいましたが…
私がこの世界に導かれたのは、ただの偶然なのでしょうか?
私にはそうは思えない…少なくとも、世界を造り出せる立場から考えるのでしたら。

メロディさんから聞かされていた混沌の王とは、人間で言えば子供との事。
ほんの軽い気持ちで世界を造ったり壊したりと、実に子供らしい理由で世界を支配しているらしい…
行動理念においても、あくまで面白ければそれで良い…という酷く短絡的な理屈。
ただそれが故に自らはそうそう動かず、殆どの事は部下に丸投げしている怠惰な神だそうですが…


女胤
(そんな神が、こんな世界を造りますか?)


少なくとも面白みがある様には感じません。
ループする意味不明な仕様の屋敷に、ただ降るだけの単純なダンジョン。
出て来た敵ポケモンも、あの謎のゴリランダーのみ…
考えれば考える程、製作者の意図が読み取れない。
少なくとも私が作り手であれば、もっとゲームに起伏は付ける。
ただ魔物を倒してダンジョンを進むだけのゲーム等、目的その物が単純すぎます。


女胤
(ある意味ハクスラの原点的な解釈は出来ますが…)


だとしても、魔物を倒して得られる物が食料しかない。
初代○izや○ーグでももう少しやり込み甲斐があるでしょう。
どちらかと言えば、この世界はADVに分類されそうな内容ですね。
限られたリソースを駆使して、迷宮を脱出するのが目的…みたいな。


女胤
「!? 限られた、リソース…」


私は嫌な予感を感じ取った。
そして何故この場に魔物が現れないのかも同時に理解する。
きっとそうなのだ…この世界は、本当に古いRPGをモデルにしている世界。
古いRPGにおいて、移動しなければエンカウントする事はほぼ無い。

○ーグ系であれば、その場で休むだけでも時間経過によって敵は襲ってきますが、この世界はそういうシステムではないのでしょう。
え? ○イト&マジック? あんな極悪エンカウントゲーは論外ですわ!!
何で宿屋や買い物中にまでエンカウントする仕様なんですの!?
いかに守連さんでも、あれをクリアするのは流石に無理ゲーでしょう!!

…まぁ、プレイ環境的にも無理ゲーな気はしますが。
PC版は入手すら難しいですし、FC版がまだ現実的ですか…
難易度的にFC版はヤバすぎるのが大問題なのですが!
まぁ興味のある方は是非プレイしてみると良いでしょう…軽く絶望叩き付ける位には難易度高いので!!


女胤
「…さて、私の推測が正しいのでしたら本当に何も無さそうですが」


どっちにしてもミスは許されません。
警戒はするに越した事も無い。
今は精々答え合わせをしていくしか無いのですから…



………………………



ホリィ
「……ん」

女胤
「………」


およそ8時間は眠っていたでしょうか?
今や時刻も解らない迷宮の中ですし、体内時計が正確かも解りませんわね。
とりあえず、何も無かった…それが解っただけでも僥倖ですね。
やはり、私の推測は間違ってなかったのでしょう。


女胤
(魔物は移動しない限り出現しない)


それも、恐らくはフロア構成で判定しているタイプと思われます。
そういう所は今時の3DRPGにおけるエンカウントと同じ様ですね。
ただ、あくまで時間経過を判定に入れていない…
ある程度のフロア間でその判定が組まれていると予測出来るでしょう。

つまり、ここからある程度離れれば…


魔物
「ギィアァッ!!」


10m程歩いた先で魔物が即出現する。
私は『エナジーボール』でそれを即座に撃ち落とし、落ちた鳥型の死体を拾ってホリィさんの元に戻った。
そして私は先程の境界線を記憶しておく。


ホリィ
「…ふぁ、久し振りに睡眠をしましたわ」

女胤
「寝てもいなかったのですか? 部屋には寝具もありましたのに…」


私は仕留めた鳥をすぐに焼く。
目覚めるパワーでやるのは本当に面倒ですわね!
まぁ、とりあえず焼くだけならこれでも良いでしょう…味が変わる要素も多分ありませんし。


女胤
「…まぁ、味に期待はしていませんでしたが」


とりあえず食えるには食えます。
いかに私の因果率操作を持ってしても、焼くだけなら味は変化しないのだと確信しました。
…むしろ何で調理したらあんなおぞましい味に変化するのか?


ホリィ
「…あの部屋にいる限り、私は有りとあらゆる生理現象が止まっていましたからね」

女胤
「一体どういう原理でそんな事に…?」


そもそも1週間毎に死ぬ演出も意味不明です。
挑戦者に与える精神的苦痛という意味なら、十分すぎる成果ですけど!
あくまでホリィさんはあの世界でのシステムに過ぎなかったのでしょうか?
それともイベントフラグ…? にしてもホリィさんはもう数える事も止める位の年月を過ごしていた。
考えれば考える程、意味不明ですわね…


ホリィ
「あの部屋に辿り着いたのは、突然の事でした」
「何ひとつ希望も期待も持てない世界で、私は突如あの部屋に呼び込まれた」
「そこから先、自分の体がどうなったのかはすぐに理解出来ました…定期的に死が訪れる事も」

女胤
「その言い方ですと、恐怖すらも無かったみたいですね」

ホリィ
「元々死ぬ事なんて怖くはありませんわ」
「生きていても無意味、死ねば虚無」
「私はただそんな世界に嫌気が差していただけ…」


彼女の目は虚ろだ。
今でも期待はしていないのでしょう。
ですが、あの部屋を出た時点で彼女の未来は変わっている。
今彼女は、少なくとも自分の意志で歩かなければならないのですから。


女胤
「さぁ、少しでも食事を…味が解らなくとも栄養は取らなければ」

ホリィ
「………」


ホリィさんは無言で肉に被り付く。
雑に焼いただけですので、味も食感も最悪ではありますが腹には溜まる。
今はこんな食事でも、重要な意味を持つのですから…


女胤
「…しかし、水が無いのが大問題ですね」

ホリィ
「少なくとも、脱水症状に陥ったら終わりでしょうね」


言ってて恐ろしくなる。
いくら光合成出来るとはいえ、水が無ければ草は枯れてしまいますからね…
最悪の場合は黄金水に頼る可能性もありますか…

え何ソレって? 言いませんわよ恥ずかしい!!


女胤
「ここまで水場はありませんでしたし、どうしたものですか」

ホリィ
「先に進むしかないのでは? もしくはそれらしい魔物を仕留めるか」


飲料水になりそうな魔物がいるとも思えませんが…
いや、ある意味植物系なら?
果実みたいなタイプがいれば、案外何とかなるかもしれませんね。


女胤
「とりあえず移動しましょう、それしかありませんわ」

ホリィ
「………」


ホリィさんも無言で私に付いて来る。
ここまでで水分補給は0…心なしかホリィの顔色もあまり良くない様に見えます。
可能な限り、早く見付けなければ…



………………………



女胤
「…け、結局地下10階まで何も無しとは!」

ホリィ
「…しかも、また巨大化したポケモンが相手ですわね」

巨大ポケモン
「ガォォンッ!!」


またしても頭部に包帯を巻いた謎のポケモン…前のゴリランダーとは大分違いますね。
しかし、その見た目の時点で私には嫌な予感しかしなかった。


女胤
「ちっ!」


私はホリィさんを抱き抱えて横に飛ぶ。
次の瞬間、強烈な火球が地面に着弾して一気に部屋が加熱する。
同時に炎の柱が立ち上ぼり、一気に部屋は日照りが起こる程の焦熱地獄になってしまいました…


ホリィ
「炎タイプ…ですか」

女胤
「相性的な意味でも状況的な意味でも最悪ですわね!」


ただでさえ草もフェアリーも半減!
しかも水不足でフラフラにも関わらずこの熱さ!
色んな意味で最悪ですわ!!


女胤
「首回りから炎…大方『バクフーン』ですか!?」

ホリィ
「余りの熱で首元の包帯が燃えていますね」


例によってのパンツ一丁の○ンギスタイルには感服しますが!
体色もバクフーンらしい配色で実に解りやすいですね。
しかし、それとこれとは話が別!
今の私にそんな余裕は無いのです!!


女胤
「従ってこれを食らいなさい!!」


私は『葉緑素』を発動させ、一瞬で天井までジャンプする。
そのまま空中で反転して天井に足を預けた。
そして反動で巨大バクフーンの頭付近に飛び出し、すれ違いざまに『眠り粉』を撒き散らす。
私はそのまま地面に着地し、すぐに相手を見た。
すると、巨大バクフーンはそのまま膝を着いて前のめりに倒れる。

どうやら状態異常は効く様ですわね!?


ホリィ
「ですが、眠らせた所でどうにかなるとは…」
女胤
「ならなくても良いのです!!」


私はすぐにホリィさんの元に走って抱き抱える。
そして特性に任せて私は部屋を突っ切った。
元々扉なんか無いのですから、コレで良いのです!!


女胤
「フハハハハッ!! 所詮は化石時代のRPG! 一々モンスター一匹一匹にボスフラグは設定されていませんわ〜!!」

ホリィ
「何と姑息な…」

女胤
「お黙りなさい! これも立派な攻略法ですわ〜♪」


ズザザザッ!! 女胤達は逃げ出した…



………………………



女胤
「はぁ! はぁ!!」

ホリィ
「…ここで、泉ですか?」


ボスエリアから一気に先へ駆け抜け、辿り着いたのは何と待望の泉でした。
例によってファンタジー系にありがちなタイプの泉で、何故か噴水みたいになっています。
ちゃんと地下から汲み上げているのか、水は流れていますね…
とりあえずまずは水分補給と…


女胤
「ふぅ…出来れば体も洗いたいのですが、着替えもタオルもありませんからね」

ホリィ
「そんな余裕も無いのでは?」

女胤
「いえ、ここから動かなければ安全ですよ」


私はある程度確信を持ってそう言う。
ホリィさんは?を浮かべながらも、追求はしなかった。
私は顔だけでも洗い、首を振って息を吐く。
そしてホリィさんに軽く説明をする事にした。


女胤
「理解出来るかは解りませんが、この世界はいわゆるコンピューターゲームを下地にした世界の様なのです」

ホリィ
「……?」


やっぱり理解出来てませんね!
まぁ何となく予想はしてましたけど…やはりホリィさんは純粋にポケモンの世界で育ったタイプの様です。


女胤
「ホリィさんに解る様に言いますと、ある程度決められた法則に則って『動く』世界という事です」

ホリィ
「法則で、動く?」

女胤
「はい…例えばこの部屋はいわゆる安全地帯であり、ここから移動しなければ魔物は現れません」
「しかもここは回復拠点の様な場所ですし、多分ゴールでしょう」
「ですので、どれだけ時間を潰そうが敵にエンカウントする事は無いのです」

ホリィ
「エンカウント?」

女胤
「私達の世界で言う、遭遇という意味になります」
「って、流石に和製英語が通用するわけありませんわね…」


ちなみに本来の意味はencounterとなります。
それが日本ではエンカウントとして定着した…と。


ホリィ
「成る程、そういえば女胤さんの世界は文明が発達した世界でしたね」

女胤
「ええ、少なくともそちらの世界に比べれば」


この2年、彼女とは会話しかしていませんでしたからね。
粗方私の事は既に語りきっていますし、ホリィさんも何となくは察したのでしょう。
ホリィさんも水で顔を洗い、少し息を吐く。
ここまで心が休まなかったでしょうし…ね。

とはいえ、ここから先に何があるのやら?
私はそう思って更に先を見つめる。
泉の先にはまだ通路があり、先は存在する様です。
だとしたら、一体どこまでこの迷宮は続くのか?
少なくとも敵の意図は段々と読めてきましたが。


女胤
(恐らく、試されている)


何の理由があってなのかは解りません。
ですが、こんなゲーム染みた設定の世界は明らかに異質。
過去の混沌例から見ても前代未聞のルールですわ。
…一応、聖様が体験した世界には近い物があった様ですけど。


女胤
(それを含んだとしても、ここまであからさまな設定の世界はおかしい)


本当に藍さんが造った世界の様です。
しかし、彼女ならこんな単純な造りにはまずしない。
彼女ならクリエイターらしく、様々なイベントやクエストを用意して楽しませる様に造るでしょう。
ましてや敵との戦いであれば、もっと苛烈にじわじわと攻め立てるはず。


女胤
(では、何の目的があってこんなシステムに?)


そうしなければならなかったのならまだ解りますが。
最悪私だけで攻略する前提とも言えますね…草といい炎といい、技的に相性最悪ですし!

…とにかく、本来なら私ひとり用のルールと仮定します。
そこに意図しないホリィさんが引き込まれた。
この時点で、少なくとも作り手の意図を無視したと言えるのかもしれません。
あくまでホリィさんの役目は、あの部屋で挑戦者をループさせ続ける事。
その舞台装置にしか過ぎなかったはず。
そして私が現れるまで、挑戦者は誰ひとり生き残らなかったのです。


女胤
「…そう、何故何人もの挑戦者が必要だった?」

ホリィ
「…? 何の事ですの?」

女胤
「ホリィさんの部屋に現れた挑戦者です」
「定期的に送られていた様でしたが、それはどの位のスパンで?」

ホリィ
「そう…ですね、気にした事もありませんでしたので曖昧ですが」
「およそ、1週間毎には来ていた気がします」


1週間毎…という事は、ほぼホリィさんのリセット時という事ですね。
やはり、アレもあくまで設定されていたシステムだったのでしょう。
何故ホリィさんが必要だったかは解りませんが、それも『試されて』いたのなら解らない話でもありません。


女胤
「…試されている、私という女が」

ホリィ
「何に、ですか?」

女胤
「本当に救えるのかどうか…」
「貴女も、そして愛する人も……」


私は俯き、拳を握る。
誰がこんな世界を造ったのかは解らない。
ですが私を試す為に造った世界なら、何故こんな世界に?
もしかして、他の家族も同じ様な世界にいるのでしょうか?

そこで私達を試す理由は何?
その真の目的は何なのです?
まだ、私にはその真意までは読めなかった…


ホリィ
「女胤さんの愛する方、ですか…」

女胤
「何と言われようと私は救ってみせます」
「その為なら、私は例え泥水を啜ってでも生き延びてみせましょう」


私は震えながらも強く意志を固める。
決して生半可な意志では救えません。
これは、今まで聖様に甘えすぎていた報いなのでしょうから。
聖様がいない…それだけで、こんな世界がここまで怖くなるとは。


女胤
(ですが、諦めません)


例え何があろうと、どんな苦行が待ち構えようと…
私は全て乗り越えてみせます。
ホリィさんの様な者も全員救って、胸を張って再会出来る様に…


ホリィ
「…女胤さんは、本当に諦めないのですね」

女胤
「諦めの悪い女なので♪」
「…なんて、ただの執念ですわ」


私はため息を吐いてその場に座る。
ホリィさんも腰を落ち着け、今はゆっくりと休息を取る事にした。


女胤
「あの方は、私みたいな者でも大切にしてくださいました」
「誰にも好かれず、嫌われ者だった私相手でも…」

ホリィ
「女胤さんが…嫌われ者?」

女胤
「そうです、私が産まれた世界では少なくとも…」
「昔の私は、ただ傲慢で自意識過剰、近付く者全てを傷付ける危険なポケモンでしたから」

ホリィ
「…あまり想像出来ませんね」


今の私からすればそうでしょう。
それ位、聖様と出逢う前の私はおかしかった。
いえ、出逢ってからもそこまでは変わりませんでしたね。


女胤
「あの方はそんな私を相手にまず説教をしました」
「当時の私からすれば生意気なガキだと思った事です」
「ですが、私はあの方に負けて下僕となりました…」

ホリィ
「…そんなに強かったのですか?」

女胤
「正確には私がその頃は弱かったとも言えます」
「あの方に出逢ってから、私は徐々に変わっていったのですから…」


そして、私は聖様と共に世界を救った。
別れの時が来たのはあまりに悲しかったですし、受け入れるしか無かったのも辛かった。
もっとも、その後の世界はアルセウスの暴走によりご察しになってしまったのですが…


ホリィ
「…女胤さんはどうして変わろうと思えたのですか?」

女胤
「愛する方の為に変わろうと努力するのは当たり前では?」


私は逆に即答してみせた。
ホリィさんはキョトンとするものの、ため息を吐いてしまう。
むぅ…意趣返しのつもりでしたのですが。


ホリィ
「私には理解出来ませんね」

女胤
「そうですか」


私もそれ以上は語らなかった。
ただホリィさんは昔の私に似ている気がする。
周りから爪弾きにされ、ひとりっきりでいた所とか。
ただ、彼女には聖様の様な方は現れなかった。

それだけが…彼女の悲劇なのでしょう。


女胤
「ホリィさんは、今でもひとりが良いのですか?」

ホリィ
「……どうでしょうか」


ホリィさんは即答しなかった。
つまり、それだけ迷いが生まれたという事でしょう。
それは喜ぶべき事のはず…
彼女もまた、変われるはずなのですから。


女胤
(誰しも、変わる事は出来る)


私みたいのでも変われたのですから、きっと出来ます。
ただ、それは出来得るなら良き方向に…
せめて、彼女にとって光差す道であります様に。
私だけでも、今はそれを祈りましょう。

聖様がこの場にいれば、きっとそうすると信じて……










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第3話 『迷宮探索、女胤の冒険』


…To be continued

Yuki ( 2021/08/24(火) 13:53 )