第4章 『悲劇のお嬢様と足掻く王女様?』
第2話
ホリィ
「女胤さん? 今度はどんな方策を思い付いたのですか?」

女胤
「…方策と言える程の物ではありません」
「ですが、今私(わたくし)の中にある違和感…その正体を突き止めたく思います!」


私は強い意志でホリィさんにそう言い放つ。
彼女は相も変わらずクスクス笑い、優雅に紅茶を飲んだ。
私ももう一口紅茶を飲む。


ホリィ
「違和感…ですか?」

女胤
「はい、これまで貴女は余りにも完璧すぎました」
「有りとあらゆる行動に無駄が一切無く、過剰と言える程に同じ味の紅茶を出す」
「なのに、今日に限って貴女は違う味の紅茶を出した…それは何故です?」

ホリィ
「ですから、誰でもミスは犯しますと…」

女胤
「2年に1度のミス…確かに普通に見ればそれだけの事かもしれません」
「ですが、貴女はもう数え切れぬ程の紅茶を作ってきたはず…」
「そんな貴女の『当たり前』の味が、何故変わったのです?」


ホリィさんはそれでも表情すら変えない。
私の問いに対しクスクス笑うだけで、彼女は静かにこう答えた。


ホリィ
「ただの偶然に、そこまで入れ込みますか?」

女胤
「例え偶然でも構いません、今の私には些細な変化すら神の手に見えるのですから!」

ホリィ
「ふふ…神、ですか」
「本当にそんな者がいるのであれば、私はこんな所で生き続ける事も無いでしょうに…」


ほんの僅かですが、彼女の目が細められる。
確かに…彼女の立場から考えれば、神など語るに及ばずでしょうね。
こんな時、聖様がいらっしゃればすぐにでも彼女を救ってみせるでしょうに…


女胤
(…そう、聖様なら必ず)

ホリィ
「…それで、偶然に何か解った事でも?」

女胤
「…それは、まだ何もありませんが」

ホリィ
「ふふ…そんなに上手く事は運びませんか♪」


彼女は少しだけ残念そうな顔をした。
あくまで笑顔でありますが、この2年で彼女の心境は何となく読めます。
ホリィさんという方は、何と言うか表裏が無い。
全てを諦めていながら、何かに期待をし続けている。
そんな彼女にとって、もはや感情その物が必要とされないのでしょう…
いずれ消えるであろう隣人に対し、彼女はただ笑うしか無いのでしょうから…


女胤
「…これが、本当に貴女を縛るだけの舞台装置なのでしたら」
「私がそれを破壊してみせますわ」

ホリィ
「まぁ! それは本当ですの!?」


彼女は両手を合わせてそう喜ぶ。
本当に嬉しそうに見えますが、彼女の内心は恐らく何も期待していない。
同じ事を言った者も過去にはいたでしょう、ですが誰ひとりとしてそれを成し遂げた者はいなかったのですから…

であれば、私がそれを成し遂げるまで!
聖様であれば、間違いなくそうする。
だからこそ、私もやってみせましょう!


女胤
「…この2年間、本当に何もありませんでした」
「ただ無駄に時間が過ぎ、ただ貴女と言う隣人と会話を重ねるだけの日々…」

ホリィ
「女胤さんにとっては、無意味でしたか?」

女胤
「少し前までの私でしたら、そう答えたかもしれませんね…」
「もはや貴女が定期的に死ぬ所を見せられても、何の感情も湧かなくなっていましたから…」

ホリィ
「では今は?」

女胤
「貴女を信じます」


その言葉を聞いて、笑顔の彼女はほんの少しだけ硬直した。
今更何を…的な反応ですかね?
ですが、この宣言の意味は大きいはず。
これまでの私は、あくまで彼女を信用してはいませんでしたからね。

なら何故今更?
それは、それこそが答えなのでは?と疑問を抱いたからです。
2年間、彼女が1度も犯した事の無いミスが今日起きた。
それは、彼女も上っ面だけで生きてはいないという証拠なのでしょう。
誰だってミスはする…それはそうです。
ですが、彼女にとってそのミスは一体何10年振りのミスなのでしょうか?
いえ、もしかしたらそれ以上…?


女胤
「…今から、私は貴女の言葉を全面的に信用し、そして貴女を救うと約束します」

ホリィ
「…救う、ですか?」

女胤
「そう、殺すのではなく救う…」
「厳密には貴女を殺す事は出来ないのですけれど…恐らく」


彼女を守る因果律は絶対なのです。
これまで、有りとあらゆる私の策略を跳ね返してきたのですから…
それはもう、人道ガン無視のトラップすら平気でやりましたわ!!
ただ、それも1年経たずに手打ちになりましたけど!


ホリィ
「ふふ…では、どうやって救うつもりなのですか?」

女胤
「1週間の最後…貴女は必ず同じ時間、同じタイミングで死にます」
「その後世界はリセットされ、貴女は同じ1週間を繰り返す」
「ですが、ゲストである者だけはその理に囚われない」
「時間に応じて年は取り、殺されれば死ぬのですから…」


逆に、彼女の死を止める事も出来ない。
どうやろうが、例え全身を庇おうが、必ず彼女は死ぬ。
その際、私に一切の傷は付きませんでした。
つまり、あの死の演出はあくまでエンドロールみたいな物…それもバッドエンド確定の。
彼女を殺す事も生かす事も出来ないのであれば、もはや別の何かを探すしかありません。

今まではそれが何も思い付きませんでしたが、今回の1件で少しだけ引っ掛かりを覚えました。
たった…たったひとつだけ、まだやっていない事があったのです。
ただ、それは本当に意味の無い行為であり、やる必要すら無かった行為。
私にとって、それは忌避するべき行為であり、実行する理由すら不要な程です。

ですが、もしそれで何か解れば?
やってもいないのに、無理だと決め付けるのはもはや愚行。
でしたら、やってみるのが1番なのでしょう…


女胤
「…今回の貴女のミスはただの偶然、貴女はそう仰るのですよね?」

ホリィ
「はい」


彼女は即答する。
でしたら、それを信じましょう。
そして例の段取りをする事にします…本当に躊躇いを覚えますが!
しかし、それに何かしらの反応があるのであれば、きっと鍵は開く!
でなければ、こんな無間地獄はただのクソゲーですわ!


女胤
「…では、少し席を外します」
「どうぞごゆっくり…」

ホリィ
「そうですか…何か得られると良いですわね♪」


彼女の笑顔に罪悪感を覚えそうになりますわね…!
いえ、これまでの行動を考えれば今更何を?なのですけど!
それ位、私は恐ろしい事をしようとしている…!



………………………



女胤
「…お待たせしましたホリィさん」

ホリィ
「? 食事ですか…女胤さんがわざわざ?」


そう、私は今料理を持って来ている。
ちゃんとふたり分あり、ただのありきたりな洋食セットです。
私はそれをホリィさんの前に置き、自分の分は自分の席に。
そして私も席に座り、ホリィさんを見た。
ホリィさんは?を浮かべながらも、ナプキンを首にかけ、ナイフとフォークを手に取った…


ホリィ
「今日はまたどうして女胤さんが配給を?」

女胤
「たまたま配給中の執事に出会いましたので、受け取っておいたのです」


勿論嘘ですが…今までは全ての食事を執事の方が配給していましたからね。
考えてもみれば、あの執事とメイドはどういう存在なのか…
幸い、身の回りの事は全てやってくれますし、文句のひとつも言いません。
そういう意味では生活に全く苦が無いのは良いのですけれど…


ホリィ
「そうですか、それではお先にいただきますね?」

女胤
「ええ、どうぞ」


私は不審がられない様、自分もナプキンを巻いて食べる準備をする。
そしてホリィさんは、料理をパクッ…と食べた。
その反応は……


ホリィ
「いつも通り、美味しいですね♪」

女胤
「……!! やはり、そうでしたか」


どうやら、私の予想は当たってしまったらしい。
そして、コレはどうやら因果律に防がれない『兵器』という事ですわね!
私はある意味悲しくなり、顔を抑えて一言こう言った…


女胤
「…ホリィさん、体は何とも無いのですか?」

ホリィ
「!?」


初めて、彼女が言葉を詰まらせた瞬間でした。
そして同時に、彼女が嘘を付いていたのも発覚する。
やはりあの紅茶は、彼女のミス等では無かったのですから!


女胤
「その料理ですが、私が作りました…遺憾でしたがね!」

ホリィ
「女胤さん、が? では、私を騙した…と?」

女胤
「ええ、その料理はいわゆる『化学兵器』に分類される程の破壊力を秘めた『毒物』なのですよ!」


むしろ、何も苦しまないホリィさんが恐ろしいのですけれど!
あの阿須那さんが一口舐めただけで悶絶してましたからね…
もしかしたら、彼女には味覚その物が無いのでしょうか?


ホリィ
「…毒、物? これが…ですか?」


ホリィさんは実際に食べた料理をマジマジと見つめる。
私の恐ろしい所は、実際に出来上がる料理自体に見た目の不備が無いという事です!
普通の香りで、普通に見える…しかしその実態は一口で人間を悶絶させる化学兵器なのですから!


女胤
「ちなみに、追求した貴女のミスの事ですが…やはり嘘を吐いていましたね?」

ホリィ
「………」


さしものホリィさんも反論しなかった。
した所で、論破など出来ませんからね。
私は少しため息を吐き、こうホリィさんに告げた…


女胤
「あの紅茶がいつもより甘い、という私の発言ですが…」
「アレは私の嘘ですよ」

ホリィ
「…そう、でしたか」


ホリィさんは笑顔を崩さない。
ただ、虚空を見定めていた。
そんな彼女を見て、私は更に言葉を続ける。


女胤
「結局、貴女は嘘を吐いていた」
「貴女にどんな呪いがかけられているのかは解りませんが、貴女は私を騙そうとした」
「何か弁明はありますか?」

ホリィ
「ありません」


彼女は即答する。
という事は、認めるという事…
そうなると、本当に厄介な迷路にハマリましたね…!


女胤
(つまり八方塞がり、もはや彼女の発言に信用の二文字は無い!)


私の料理に反応無しなのは驚きですが、もしかしたら味が劇薬なだけで死ぬ様な料理では無いのでしょうか?
少し気になってしまいますが、それは置いておいて…!


ホリィ
「…ありません、が」
「それで、そこからどうするのでしょうか?」


彼女はクスクス笑って料理を更に食べる。
何の味も解らないのか、彼女は笑いながら私の料理を食べていた。


女胤
「…貴女、まさか味覚が無いのですか?」

ホリィ
「そうですよ」


彼女はあっけらかんと言い放つ。
この2年で初めて得た彼女の秘密です。
まさか…味覚が無かったとは。
彼女の立場を鑑みれば、想像を絶する苦しみだ。
こんな無間地獄の中、食事の楽しみすら味わえないとは…!
もし同じ立場でしたら、私には到底耐えられないでしょうね…


女胤
「その味覚はここに囚われる前からですか?」

ホリィ
「はい」
「むしろ、生まれた時から…私に味覚はありませんでした」


食事の合間、彼女は少しづつ自分の事を語り始める。
一切感情の起伏無く、それをつらつらと語る彼女の顔は…ある意味不気味を通り越した絶望的な何かに思えた。


ホリィ
「…私はこの様に、手からクリームを出す事が出来ます」

女胤
「? そんな事が出来たのですか…ですが、紅茶を淹れる時にそのクリームは出していませんでしたよね?」

ホリィ
「一口どうぞ? それで理由は解ります」


そう言われ、私は彼女の手から生まれたクリームを人差し指で掬う。
そしてそれを舌に乗せた瞬間…


女胤
「ケホッ!? な、何なんですのコレ!?」
「あ、甘さが何ひとつ無い!!」


あえて言うなら、味の無い歯みがき粉を舐めたみたいな感覚ですね!
要するにマズイ!!ですわ!!


ホリィ
「マホイップのクリームとは、本来自分の幸福度によって甘さやコクが変化すると言われています」
「ですが、生まれた時点で味の解らない私に、自身のクリームの味すらも理解出来なかった…」
「そんな私は一族からも爪弾きにされ、ひとりで寂しく生き続けていました」

女胤
「…そんな中、この地獄に?」

ホリィ
「地獄…ですか」
「女胤さんには、ここがそう見えるのですか?」


ここで彼女は、初めて怪しく笑った。
目元を若干歪め、まるで嘲笑するかの様なその表情には…まるで憎悪が籠ってさえいるかの様です。


女胤
「…ホリィさん、まさか貴女は」

ホリィ
「そう、私はこの世界に満足しています」
「誰も干渉せず、されもしない」
「ただ、無意味に永遠の死を繰り返す」
「やがて、貴女の様な絶好の玩具が定期的に現れる…」
「現実の地獄に比べれば、ここは天国ではありませんこと?」


私はようやく理解した…彼女は、初めからそのつもりだったのだ。
最初から誰も信用していないし、期待もしてない。
世界全てをただ呪い、自らの存在意義すら捨ててしまった…
そんな彼女にとって、この地獄はむしろ天国であり、永遠に何かを得られる場…

あまりにも…虚しい。


ホリィ
「…ですが、よくここまで辿り着きました」
「どうやら貴女は、認められた様です」

女胤
「…え?」


突然、背後から光が溢れているのを理解する。
どうやら部屋の扉が光っている様で、何か変化が訪れていたのだ。
私は呆気に取られながらも、ホリィさんはクスクス笑う。


ホリィ
「さようなら、女胤さん」
「貴女の事は、永遠に忘れないでしょう…」

女胤
「…貴女は、あくまでそこに居続けるのですか?」


私は軽く睨み、低い声でそう言った。
彼女はクスクス笑い、味も解らない紅茶を口直しに飲む。
どうやら料理は全て食べ切った様だ。


ホリィ
「ご馳走さまでした、味は解りませんがお腹は膨れましたよ?」

女胤
「最高の賛辞と受け止めさせていただきますわ!!」


恐らく2度と私の料理にそんな評価は下らないでしょうからね!!
とまぁ、下らないやり取りはそこまで…私はツカツカとホリィさんの側まで歩き…彼女の腕を引っ張って抱き抱えた。


ホリィ
「!? 女胤さん、何を…」

女胤
「私は言いましたよね? 貴女を救うと!?」


私はそのまま光輝く扉…いえゲートを潜った。
そのゲートはホリィさんを拒む事無く、私たちふたりを次のステージへと案内する…
やはり、そういう事なのですね。



………………………



ホリィ
「!? 出れた…あの部屋から?」

女胤
「むしろ、本当に出れなかったのですか?」
「てっきりそれも嘘かと思っていましたが…」


私は優しくホリィさんを下ろす。
ホリィさんはかなりフラフラしており、歩くのも辛そうでした。
よくよく考えてみれば、彼女は常に椅子に座っていましたね…立っている姿すら見た事ありませんでした。
もしかして、既に足腰が立たないのでしょうか?


ホリィ
「…部屋から出れなかったのは本当です」
「私はあの部屋から一歩も外に出た事はありませんでしたので」

女胤
「ですが、今は出られた…これが現実ですよ?」


私はそう言って周りを見る。
今度は薄暗い迷宮の様な場所でした。
RPGとかで言うダンジョンみたいな感じですかね?
所々にランプが設置されており、いかにもな雰囲気です。


ホリィ
「…何故、こんな事を?」

女胤
「私が貴女を救うと決めたからです」
「貴女はただの外道だったかもしれませんが、その境遇に嘘はありませんでした」
「いわば、まだ救いのある外道なのです」
「ですので、私は貴女を救います」


きっと聖様ならそうする。
でしたら、私もそれに倣いましょう。
彼女は少なくとも、直接私を傷付けた事は1度もありませんでした。
確かに、自分さえ良ければ後はどうでも良い…彼女はそう思っていたのでしょうが。
ですが、今はもうあんな偽りの天国はありません。
ここから先は、自らの足で歩いていかなければ!


女胤
「…背後は壁、解りやすい一本道ですか」

ホリィ
「…私は、これからどうすれば?」

女胤
「まずは自分の足で歩きなさい、手は貸して差し上げます」


私は彼女の手を引き、そう促す。
彼女の表情は見た事無い程に絶望しており、笑顔すら消えてしまっていた。
私はそれを見て顔をしかめるも、それでも前を向く。
今は仕方ありません…彼女にとってはあまりに長かった夢だったのですから。


女胤
「…そう、夢だったんですよ」

ホリィ
「夢…?」

女胤
「貴女は悪い夢を見ていたのです」
「…そして、悪夢と戦わなければなりません」
「眼前に広がる、未だ謎に包まれた悪夢と!」


私はホリィさんを抱き寄せて慎重に前へと進む。
カツ…カツ…と石畳の上を歩く音を響かせ、私たちはただ前へと進んだ。
やがて、突然大きな咆哮と共に何かが接近して来るのを理解する。
私はホリィさんを庇う様に前へ立ち、すぐに戦闘態勢を整えた。
やれやれ…2年の間、密かに鍛練は繰り返していましたが、果たして実戦ではどうですかね!?



「グゴォォォォォォッ!!」


出て来たのは3mはあろうかと言う巨体。
頭には包帯をグルグルに巻いており、顔は一切解らなかった。
だが虚ろな目にボロボロの歯並び、茶色の体色でパンツ一丁のその巨漢はゴリラの様に胸を叩いてこちらを威嚇している。
ポケモン…でしょうか? ですがあの巨体、並ではありません!


ホリィ
「巨大化現象…?」

女胤
「!? 何か知っているのですか?」

ホリィ
「詳しい事は解りませんが、私の元いた世界ではポケモンが巨大化する現象があるのです」
「その際には自我が消え、増幅した力の限り暴れまわる…」


聞いているだけで厄介極まりないですね!
つまり、あの巨漢はその巨大化現象によってパワーアップしていると?
私はとりあえずその場から前に出て接近戦を挑む。
『蝶の舞』で能力を上げ、一気に加速した。


巨漢
「グガァ!!」


巨漢は乱暴に腕を振り下ろし、床を破壊する。
私は衝撃で吹っ飛ばされながらも、壁に着地してそこから相手の顔面に飛び掛かった。
そして至近距離で『種マシンガン』を一斉発射する。


女胤
「食らいなさい!!」

巨漢
「!?」


ショットガン式の種マシンガンは巨漢の顔面を一気に撃ち抜く。
本来の用途と違い、1発1発の威力は低いながらも特殊技として使えるこの技は私の十八番(オハコ)!
巨漢はグラリと巨体を揺らす…が、踏み止まった。


女胤
「耐えられた!?」

巨漢
「グルルァァッ!!」


巨漢は腕を振り下ろし、巨大な拳のオーラを作り出す。
それは宙にいる私にかわせるはずもなく、私は両腕でガードして食らうしか出来なかった。
かなりの威力に、私は歯を食い縛る。
この力…想像以上に!


ホリィ
「いけませんわ! あれは『ダイナックル』…攻撃と同時に攻撃力を増加させます!」


そ、それはそれは…『グロウパンチ』みたいな物ですかね?
もっとも、威力も範囲も桁違いみたいですが!
私は歯を食い縛って立ち上がる。
地面に叩き付けられたものの、まだ大丈夫です。
しかし、あの巨体と防御力…おまけに素早い。
得意技が効かないとなると、私は一気に不利になるのが最大の弱点です。
相手の正体が解らないのも問題ですね…せめてタイプだけでも解れば。


ホリィ
「恐らくあれは『ゴリランダー』ですわ」

女胤
「!? こ、これは…力が漲る!!」


突然、私の服や髪に綺麗なデコレーションが現れる。
それと同時に私の体から力が漲り、およそ倍の力が使える様になりました。
これは…まさかホリィさんの技?


ホリィ
「草タイプ同士の戦いですが、勝算はあるのですか?」
「ドレディアの技に、有効打があるとは思えませんが…」

女胤
「それを聞いただけで十分ですわ!!」


私は笑い、手から炎の球体を出す。
それを振りかぶって相手に投げ付けた。
するとそれは着弾して弾け飛ぶ。
巨漢は明らかに怯み、ダメージを露にしていた。


ホリィ
「今の技は?」

女胤
「『目覚めるパワー』ですわ…私の奥の手です」
「もっとも、気休め程度の威力なのですがね!」


所詮抜群でも威力120…私の場合ですと最高火力の『花弁の舞』でもタイプ一致180ですので、半減されるよりかはマシなのですが…


ホリィ
「…そこまで効いてはいませんね」

女胤
「連発は出来ますが、技の貧弱さが泣けてきますわね!」


巨漢はグラつくも、まだ倒れていない。
むしろ更に狂暴性を増し、暴れながら何かオーラを放ってきた。
それを受けて、私の体は急に力を失う。


女胤
「…!? なっ、能力が元に戻された!?」

ホリィ
「あれも巨大化現象の技と言われています…特殊なオーラで、ポケモンの能力変化と特性を消し去る」


そこまでふざけた技も使えるのですか!?
つまり、じっくりと能力を高めて戦う事すら許されない…と。


女胤
「…ホリィさん、草タイプに有効な技は?」

ホリィ
「『マジカルフレイム』でしたら使えますが…女胤さんの炎程の火力は出せませんわよ?」

女胤
「構いませんわ! フォローはしますので!!」


私はすぐに『日本晴れ』で日照りを発生させる。
薄暗い迷宮を一気に照らし、私たちはその恩恵を一身に受けた。
そしてすぐに次の手を打つ。


女胤
「ホリィさん、技を!!」

ホリィ
「はぁっ!」


流石はホリィさん、私の技とほぼ同時に動いている。
完璧主義のホリィさんらしく、一寸の無駄もない見事なコンビネーションですわ!
私はそれ見て遅れない様に『手助け』を仕込んだ。
さぁ威力を二重に上乗せした炎の威力…受けてみなさい!!


ゴリランダー
「ガァァァァァッ!?」


渦を巻いて飛んでいくマジカルフレイムは見事ゴリランダーに着弾。
ゴリランダーの全身が炎に包まれ、悲鳴を上げて大爆発を起こした。
そしてオーラを全身から放出して一気に萎んでいってしまう。
これが…巨大化現象、ですか。


女胤
「…ゴリランダーという種族も初めて聞きましたね」

ホリィ
「そうなのですか? 私も目覚めるパワーという技は初耳でしたが…」


成る程…少なくとも彼女の世界では見れない技という事ですか。
黙示録が終わってから、途端に私でさえ知らない種族や現象が現れるとは…
やはり、混沌の王が造り出した世界というのは厄介な物の様ですね。


女胤
「…それよりも、助かりましたわ」

ホリィ
「………」


ホリィさんは俯いていた。
恐らく、自分らしからぬ事をしたのだろう…とでも思っているのでしょうね。
理由はどうあれ、彼女は私を助けた。
何故彼女がそうしたかは、私にも解りません。
ですが私は結果を大事にしたいと思います。
彼女が私を助けたという…結果を。


女胤
「…ゴリランダーの姿が消えていますね」

ホリィ
「あれも仕掛けのひとつなのでしょう」

女胤
「仕掛け…? ホリィさんはここが何だか解るのですか?」

ホリィ
「解りません」
「ですが、そんな気がするのです…」


彼女は即答で否定するも、何かを感じているらしい。
私にはそれが何か理解出来ませんが、今は道がある以上先に進むしかない。


ホリィ
「先に言っておきます、私に他者を癒す技は使えません」

女胤
「ご心配無く、この位のダメージでしたら…」


私はまだ効果が残っている日照りを利用し『光合成』を使った。
するとみるみる内に私の傷は修復され、元の綺麗な肌に戻る。
それを見て、ホリィさんは苦笑していた。


ホリィ
「流石は草タイプ…ですかね」

女胤
「ドレディアは本来、他者をサポートする技に優れますからね…」
「その分攻撃技は苦手なので、ホリィさんの技は重要度が高くなります」
「ですので、その上で聞きます…」
「貴女は、戦えますか?」


ホリィさんは即答しなかった。
きっと考えているのでしょう…今までそんな事は考えもしなかったでしょうから。
私はただ彼女の結論を待っていた。
1分…2分と彼女は長考し、何が答えなのかを必至に模索する。
やがて彼女はゆっくり、こう答えた…


ホリィ
「…戦う事に、意味が見出だせません」
「ですが、貴女が戦うと言うのでしたら…私も戦うしかないのでしょう」

女胤
「それで十分ですわ」
「感謝します…責任を持って貴女の事は私が助けますので」


私はそう言って手を差し出す。
ホリィさんはそれ見て固まっていた。


ホリィ
「…本当に迷わないのですね、貴女は」

女胤
「迷う位でしたら、ひとりで逃げています」
「貴女を救うと言った時点で、私はそれを曲げる気はありませんよ?」
「ですので覚悟しておいてください…」


私はホリィさんと握手をかわし、初めて協力関係となる。
そして私はホリィさんに笑いかけ、こう告げた…


女胤
「例え貴女が死を望もうとも、私はそれを絶対に止めますので♪」










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第2話 『ホリィの嘘、女胤の決意』


…To be continued

Yuki ( 2021/08/07(土) 13:43 )