第4章 『悲劇のお嬢様と足掻く王女様?』
第1話
女胤
「………」


「ふふ…おはようございます女胤(なたね)さん、これで750日目ですね♪」


私(わたくし)は、また彼女の部屋を訪れていた。
これで通算750日目…律儀に彼女はその全てを記憶している。
私は部屋に用意されている私用の椅子に座り、やる気の無い顔で彼女を見た。
彼女はそれを見てクスクス笑い、可愛らしくも憎らしい白い肌が朝日に照らされて輝く。

そして彼女の白く長い髪は風に吹かれて靡いていた。
その際、彼女の頭に刺さ……生えている!?かの様な、ふたつの角……いや、苺ですよね!?が、少し揺れた。
と、とにかく形容しがたい風貌なのですが!
彼女は『マホイップ』というポケモンらしく、私も初めてその存在を目にした種族なのです。

彼女は私よりもやや低い位の背であり、全身を白いドレスで包んでいる。
今この世界の季節は秋頃…私たちが元の世界にいた頃は冬だったので、少々季節感が狂ってはいますね。
…とはいえ、2年も過ごせば慣れましたが。


マホイップ
「さぁ、どうぞお召し上がりくださいませ♪」

女胤
「…ええ、頂きますわ」


私は差し出された温かい紅茶を飲む。
いつもと変わらぬその温かさは、ほんのり甘さを伴って全身を温めてくれた。
私はカップを置き、ため息をひとつ吐く。
そして、ここまでの事を改めて思い出していきました……



………………………



『1日目』



女胤
「!? はっ…? ここは…一体……?」


私は気が付くとベッドで寝ていた。
服は普段着のカジュアルな物のままで、何故そんな状態で寝ていたのかは定かではない…
しかし、確実に解る事は…


女胤
「…これが、黙示録の終わった後の世界…ですか」


改めて体を起こし、私は周りを見る。
個室の様な狭い部屋であり、何処となく白那さんの城に近いイメージがありますね。
まぁ要は洋風の部屋…という感じです。
部屋には最低限のタンスやクローゼット、机、鏡等、明らかに女性の生活を想定してあるかの様な家具配置…
果たして、この意味は一体?


女胤
「…外は、庭園?」


どうやら私は2階の部屋にいる様で、窓から見える景色は綺麗な芝の生えた庭園でした。
流石に白那さんの庭園程豪華ではありませんが、それでも綺麗に手入れはされていますね。
そんな庭園をひとりの男性が掃除しているのが見える。
ポケモンの様ですが、ここからではよく解りませんね。
服は執事の様な黒服で、どうやらここで働いている方みたいですが…


女胤
「……部屋からは出られる?」


私はやや躊躇いながらも、部屋のドアノブを握って回してみた。
するとあっさり扉は開き、私は部屋から出て廊下へと歩み出る…
そこまで広い屋敷ではないのか、2階廊下には4つ程部屋があるだけの様でした。
そしてその廊下をひとりのメイドが掃除しており、私はまず声をかけてみる事にする。


女胤
「少し構いませんか?」

メイド
「はい? 貴女はどちら様で〜?」


ややおっとりとした、普通のメイド服に身を包む女性は私を見て首を傾げる。
私の事は知らない様ですね…とはいえそれならそれで部外者を不審には思わないのでしょうか?
耳や尻尾を見る限り、『チラーミィ』と思われるそのメイドは、どうにも掴み所の無い存在に思えてしまいました…


女胤
「私、気が付けばここで眠っていた様なのですが、状況を説明出来る方は存在しますか?」

チラーミィ
「えっと〜? とりあえずその部屋にいる方に聞いてみてください〜」


彼女はあっけらかんとそう言い、さっさと自分の仕事を再開してしまった…
本当に…大丈夫なのでしょうかこのメイド?
職務に忠実なのは良いと思いますが、私の存在を特に気にもしないだなんて…

私は軽く呆れながらも、指定された部屋の扉をノックする。
すると、やや低目のトーンでこう声が返って来た…



『…どうぞ、お入りください』

女胤
「…では、失礼いたします」


私は控えめに扉を開き、中の様子を見る。
するとそこは、苺だらけの装飾で飾られた異様な空間…
私は呆気に取られ、しばらくその場で立ち尽くしてしまいました…



「どうかしましたか?」

女胤
「…あ、いえ」


私は扉を閉めて部屋の中を歩く。
私がいた部屋と大きさは変わりませんね。
しかし…この部屋の主と思われる彼女もまた異様な姿をしていました。
頭にまず苺を乗せている…それもふたつ!
いえ、流石に苺ではありませんよね!? 多分角か何かでしょう!?

と、とりあえずそういうポケモンなのでしょう!
今はまず情報を集めなければ…



「とりあえず、おかけになってください…」

女胤
「…それでは、失礼いたします」


私は彼女の対面の椅子に座り、彼女の姿を改めて見る。
白く長い髪はまるでクリームの様にも見え、巻き毛の様に捻れた形をしている。
頭頂部は特にソフトクリームの様な形をしており、見るからにそういうポケモンなのだと思わされた…
バニリッチとはまた違うアプローチですね…


女胤
「…貴女は」

「『ホリィ』…というマホイップです、どうぞよろしく♪」


彼女は私が聞くよりも早くそう名乗った。
マホイップ…? 聞いた事の無い種族ですね。
彼女の雰囲気はとてもほんわかとしており、クスクス笑う仕草はとても可愛らしい。
物腰も丁寧であり、見た目よりも大人っぽく見えますね…


女胤
「…ホリィさん、ですか」
「私は女胤…と言います、どうぞよろしくお願いしますわ」

ホリィ
「はい、女胤さんですね♪」
「では、お近付きの印にこちらをどうぞ…」


彼女はそう言ってカップに紅茶を注ぎ、私に差し出した。
私はその香りに導かれる様にカップを手に取る。
ほんのりとした甘さを感じますね…中々の物です。
私はそれを一口飲み、カップを置いて再びで彼女を見る。
彼女の態度は一切変わる事なく、私が何故ここにいるのかも気にしていない様でした…

メイドもそうでしたが、この屋敷の方々は何処かズレている気もしますね…


女胤
「…私、気が付けば別の部屋で寝ていたのですが、何か心当たりはありますか?」

ホリィ
「ありません」


即答される。
私はポカンとしてしまうも、質問を変えてみる事にした。


女胤
「貴女は、私が突然この屋敷にいたとしても驚かないのですか?」

ホリィ
「驚きません」


またしても即答される。
彼女はニコニコしながら優雅に紅茶を飲んでおり、赤い瞳でカップを見ていた。


女胤
「…どういう訳か理解しかねますが、もし私が明確な悪人だとしたらどうするおつもりです?」

ホリィ
「まぁ! それでしたら私を『殺して』くださいませ!!」


彼女は唐突に喜び、そんなバカな事を突然言い出した。
ただの冗談だとしか思えない反応であり、私ははぁ…とため息を吐いて頭を抱える。
しかし、彼女の言葉は尚も止まらなかった…


ホリィ
「ああ…! ようやく、ようやく現れてくださいましたのね!?」
「私を…殺してくださる、王子様が!!」
「いえ、貴女は王女様?」
「うふ、うふふふふ♪」


彼女はまるで狂喜と思える位に楽しそうな顔で喜んでいた。
私にはその意図がまるで読み取れず、彼女の真意を図りかねている。
彼女は、本当に死を望んでいるとでも言うのですか?


女胤
「…残念ですが、私にそのつもりはありませんよ?」

ホリィ
「まぁ!? それでは、その気になってくれるのを『永遠』にお待ちしますわ♪」


この時…私はまるで真面目に聞いてはいませんでした。
ですが、彼女の言葉の意味を知るのに…それ程時間はかかりませんでした。



………………………



女胤
「おはようございます、ホリィさん」

ホリィ
「おはようございます、女胤さん♪」
「考えは変わりましたか?」


2日目の朝…私は結局何の警戒もされずにこの屋敷に受け入れられていました。
しかし、既に問題は山積み…私は初日にして途方に暮れかけていたのです。

まず、この世界は狭すぎる!
移動出来る範囲は屋敷の敷地内だけであり、まるで初代○イオを彷彿させる程の狭さ…
いえまぁ、あちらは地下やら何やらで見た目以上に広すぎるんですけどね!!

とにかく、この屋敷にはひとりの執事とメイド、そして彼女がいるだけのみ…
私はそんな中、謎に満ちた世界の謎を解き明かさなければならないのです。
そして、その最大の鍵を握るであろう存在が…


女胤
「お聞きしてもよろしいでしょうか?」

ホリィ
「どうぞ」


彼女はまた即答する。
まるでそれ以外に選択肢等無いかの如く…
これもある意味、彼女の底知れない何かを感じさせますね。


女胤
「何故…貴女は死にたいと思っているのでしょうか?」

ホリィ
「死ねないからですよ?」


彼女はニコニコしながら即答する。
私は絶句しながらも、その意味を模索した。
死ねない…? 一体それはどういう事でしょうか?
ただのポケモンに、そんな不死性がある…と?


女胤
「…冗談ではないのですか?」

ホリィ
「でしたら、お試しになります?」


そう言って彼女はナイフを私に差し出す。
そしてニコニコしながら彼女は待っていた。
つまり、やれるものならやってみろ…と?
流石の私も躊躇する。
もし、罠であれば何が起こるか解らない。
よりにもよって、命を天秤にする等…!


女胤
「…止めておきますわ」

ホリィ
「そう…残念です♪」


彼女はニコニコしたままそう返す。
彼女の笑顔はある意味狂気的…まるで喜怒哀楽の半分が欠落しているかの様な印象ですね。
残念と言いながらも、嬉しそうな顔をするのは何故なのか…


女胤
「死ねない…と言いましたが、それは何故なのです?」

ホリィ
「解りません」


彼女はまた即答した。
そして更に謎ばかりが増える…
私は呆れながらも頭を抱える事しか出来なかった。
そんな私を見て、彼女はクスクス笑う。


ホリィ
「私、気が付けばここに囚われていたのです」
「この部屋から出る事も出来ず、死ぬ事も老いる事も無い…」
「理由は解りませんが、何故かそうなってしまいました」

女胤
「囚われ…?」


彼女はつまり、何者かの手でそういう存在に変えられてしまったとでも?
馬鹿馬鹿しい…とは思えないのも、厄介な物ですね。
今までの混沌の事を考えれば、それ位無理でもないでしょうし…
それが世界のルールと言われれば、恐らくそうなのでしょう。
しかし、それはつまり彼女の存在その物が…?


女胤
(まさか、本当に彼女を殺す事がクリア条件とでも…?)


私は、自分でも自覚している位には非情なつもりです。
聖様の為であれば、どんな汚い事でもやってみせる気概はあります。
ですが、聖様に関わらず誰かを殺せ…等と言われてハイ殺します!
…何て言う程、非情になりきれ無いのも自覚はしているのですが。

つまり…今の私はある意味選択肢が極端に少ないとも言える訳で。


ホリィ
「女胤さん」

女胤
「…?」

ホリィ
「貴女は…お優しいのですね♪」


彼女は可愛らしい笑顔で首を傾げてそう言った。
私はそれを見て空笑いをしてしまう。
そしてこの時気付いた…私は、甘いのだと。
殺せと言われて殺せる程、私は悪党では無いのだと…



………………………



それから、7日目…
いわゆる1週間の時が過ぎました。
本当にここまで何のイベントも無く、ただホリィさんとの会話を繰り返すのみ…
しかも特に取り留めない会話ばかりであり、クリア条件に関わりそうな会話は何ひとつ無い…
そんな中、私はこの日にこの世界の理(ことわり)を知らされる事となるのです…


女胤
「おはようございます、ホリィさん」

ホリィ
「おはようございます、女胤さん…」


気のせいか、ホリィさんからあまり生気を感じられなかった気がした。
確かにここまでの1週間、大した会話も無く無駄な時間とも言える時を過ごしましたからね…

ちなみに私はここまで可能な限り屋敷の全てを調べました。
しかしクリア条件に繋がる手掛かりは一切得られず、結局私はホリィさんとの接触に何かを期待している…
こんな有り様で、活路は開けるのでしょうか?


ホリィ
「女胤さん…まだ、その気にはなれませんか?」

女胤
「貴女が、救いの無い外道であれば即座にそうしましょう…」
「ですが私の目から見ても貴女にそんな非は感じられず、そんな決断は私には出来ません…」


私は正直な気持ちを彼女に伝える。
確かに、この戦いはある意味聖様を救う為の戦いでしょう。
ですが、だからと言って彼女に非はあるのですか?
彼女はいわば巻き込まれただけの舞台装置。
そんな彼女をただ殺す事が、本当に意味がある…と?

きっと聖様であれば、そんな事せずに救ってみせると言うでしょう。
で、あれば…私に出来る事はあまりにも限られる。


ホリィ
「やっぱり、貴女は優しいのですね♪」

女胤
「…そんな風に言われたのは、初めてですわ」


私は、周りからは残酷だと言われる事の方が多かった。
あくまで聖様と出逢う前の話ではありますが、私は他人に対して一切の容赦はしない。
ましてや、敵であれば一切の躊躇無く抹殺に走る程度には冷酷なつもりでした…

ですが、今の私は甘い…!
聖様の事があるにも関わらず、彼女を殺せないでいる。
試しにやってみれば良いであろうに、それでも躊躇ってしまっているのですから…!
私は…もしかして弱くなってしまっているのでしょうか?

あの頃の…向かう者全てを皆殺しにしようとした私の方が、強かった……?


ホリィ
「私は、待ちますよ? 貴女の心が変わるまで…」
「ですから…お願いしますね♪」


その瞬間、彼女の首は唐突に落ちた。
私は何が起こったのかまるで理解出来ず、ただ彼女の首から大量に噴き出る血液を浴びて何も考えられなくなる…
冷静に見ると彼女の後ろでは窓が割れており、真空波の様な物で首を切断されたのでは?と、予想は出来る範囲でした。

ですが、私は理解が追い付かない。
何故…死ねない彼女がここで死ぬ?
そんな私の疑問を晴らすかの如く、次の瞬間に私はベッドで目を覚ますのでした…



………………………



女胤
「…はっ!?」


私は、見覚えのある天井を見て驚愕する。
あれから何が起こった? 何故私は寝ている?
直前の記憶を頼りに私は記憶を整理する…甦って来たのは、おぞましいホリィさんの首ちょんぱ…!

彼女は…死んだ?
死ねないと言った彼女が、あっさりと?
私は頭を抱えながらも、体を起こして周りを見る。
全く変わらない…1週間過ごした自室の光景です。
返り血も…消えている?

私は、フラフラとしながらも部屋から出た。
そして、まず目に写ったチラーミィのメイドに声をかける。


女胤
「メイドさん…ホリィさんは、どうしていますか?」

チラーミィ
「…はい? 貴女は、どちらさまですか〜?」


私は意味不明になった。
彼女とはこれまでも毎日顔は合わせていたはずなのに…
彼女は、私を忘れている?
私は躊躇いながらも、空笑いしてこう言った。


女胤
「何を、仰っているのですか? もう1週間も顔を合わせましたでしょう?」

チラーミィ
「え〜? 何言ってるんですか〜? 私、貴女みたいな人と話すの初めてなんですけど〜?」


演技の様には思えない。
まさか、本当に記憶を無くしてる?
だとすれば、彼女は…!? ホリィさんは一体…!?
私はメイドに制される事も忘れ、ホリィさんの部屋のドアを勢い良く開けた。
大きな音をたて、開け放たれた扉の先には…何も変わらぬ笑顔で私を向かえる彼女の姿が……


ホリィ
「おはようございます、女胤さん…これで2週目ですね♪」

女胤
「!?!? 何故…!? これは一体どんなトリックなのですか!?」
「貴女は死んだのでは無かったのですか!?」


私は理解出来ずに彼女を問い質す。
しかし相変わらずクスクス笑うだけの彼女は、ただ静かに紅茶を優雅に飲むだけ…
私は何ひとつ理解が追い付かないまま、とうとうこの世界に秘められている恐怖の片鱗に触れる事となってしまったのです…



………………………



それから、私は有りとあらゆる知識を総動員して原因を探ろうとしました。
屋敷の敷地内を全て調べ上げ、執事とメイドに話を限界まで聞く。
しかし、そこから答えが導き出される事は何ひとつ無く、私は2度目となるホリィさんの死に立ち合ってしまった…


女胤
「………」


私はホリィさんの返り血を浴び、呆然とするのみ…
今度は首切断ではなく、全身をねじ切られる様にバラバラにされていた。
一体、どうやってそんな事をやっているのか検討も付きません…
ただ、この時点で解る事は…



………………………



女胤
「…おはようございます」

ホリィ
「はい♪ おはようございます、女胤さん…3週目の15日目ですね♪」


私は再び時間をループしていました…ただし、時間のみ。
正確には私の肉体はそのままでループしている為、肉体時間の経過はしている。
そして…このループする世界において、目の前にいる悲劇の少女のみが記憶を受け継いでループしているのです…


ホリィ
「まだ、殺してはくださいませんの?」

女胤
「それが出来たとして、私はここから出られるのですか?」

ホリィ
「解りません」


彼女は相変わらず即答する。
もはや思考しているのかどうかすら曖昧になる程の速度であり、彼女にとってそんな事は些末な事だという証なのかもしれませんね…
私はため息を吐きながらも、机にあったナイフを手に取ってそれを彼女の額目掛けて投げ付けた。

…が、私の予想通りナイフは彼女の眼前で止まる。
その後、無造作にナイフはテーブルへと落ち、カシャンと音をたてた。
私はもう1度深くため息を吐く。
それを見て、ホリィさんはクスクス笑うだけでした…別に嬉しそうな顔でも無さそうですね?


ホリィ
「あらあら…やはり無理でしたか♪」

女胤
「…どういうカラクリですの? それとも、全て貴女が計画した仕掛けなのですか?」

ホリィ
「違います」


彼女は即答する。
その躊躇いない回答は、私にも真意が掴めない程ですが…
それでも、おかしいとしか思えません。
何故彼女は、守られているのですか?
何故1週間後には死ぬ?
そして、何故…彼女だけが記憶を受け継いでループ出来る?


女胤
「…ホリィさん、貴女は本当に被害者だと?」

ホリィ
「そうです」


その即答ぶりには流石の私も頭を抱えました。
感情がある意味欠落している彼女を見て、ポーカーフェイスを挑むのは愚行ですね。
これならばまだ愛呂恵さんの方が読み取りやすい。
しかし、だとすればやはり疑問は多い…!


女胤
(彼女が何かしらの干渉を受けていると仮定して、私は何をすれば良い?)


彼女はただ殺して欲しいと言う。
しかしそれはあくまで彼女が望むだけの結果であり、私の望む結果に辿り着ける保証は無いのです。
下手をすれば、詰みとなって私はこの世界で朽ち果てる事になるのですから…!


ホリィ
「ふふふ…貴女はまだ、諦めてはいないのですね?」

女胤
「当然です、私にはやらねばならない事があるのですから」
「その為には、こんなふざけたルールの世界からさっさと脱出しなければなりません」
「貴女の要望に答えるつもりはありませんが、それが必要なのでしたらいつでも殺してさしあげますわ!」

ホリィ
「それはそれは! 本当に本当に楽しみですわ!!」


彼女はこれまで以上に喜んでいた。
そんなにまで…死に逃れたいのですか彼女は。
ある意味…哀れですね。
いえ、そもそも彼女はもう数えるのも面倒な日数をここで過ごしているらしいですし。
それを鑑みれば、そういう境地に行き着くのもやむ無しなのかもしれませんね…


女胤
(ですが、この狭い世界で調べられる物は既に調べ尽くしてしまっている)


結局の所、彼女だけが鍵なのだ。
やはりその為には…彼女を殺さなければならない?
もっとも…殺せれば、なのでしょうが。
逆に言えば、それ以外の解法すら浮かばないとも言えます…
でしたら、やれる事は全てやるべきでしょうね!



………………………



女胤
(そんなこんなで、もう2年経つのですか…)


結局、何をしようとも、何を画策しようとも彼女は殺せなかった。
それ所か、皮膚1枚も切り裂けない。
有りとあらゆる状況から考えられる全てを試した結果、彼女は1度たりとも傷を負わなかったのです…

いつしか、私は彼女の定期的な死を見ても何も感じなくなってしまいました。
毎週、どこぞの即死ゲーみたく様々な殺され方を見せ付けられ、ただただ空しくなる…
特にネタが被った時の白けっ振りは筆舌に尽くしがたい!
2年もやってれば、バリエーションが意外に少ないと気付いてしまうのも問題ですね!

…とまぁそんなこんなで、今の私には例え様の無い虚無感だけが残ってしまっていました。


ホリィ
「もう、諦めましたか?」

女胤
「…貴女がそれを言うのですか? 誰よりも先に逃げたいだけの貴女が…!」


私は顔を手で抑えてそう糾弾する。
彼女はクスクス笑うだけで、いつもの表情。
私はそんな彼女を見て、ある意味憎悪すらしそうでした。
勿論、それは彼女に対しての物ではありません。
こんなゲス染みた世界を設定したクソッタレのド外道に対しての怒りです!!

私は思わずダンッ!と強くテーブルを殴り付ける。
その衝撃で紅茶のセットは揺れ、ガチャンと音をたてた。
それを見ても、ホリィさんの感情は一切揺るがず優雅に紅茶を飲むだけ…
彼女にとっては、もう見飽きた様な光景なのでしょう。
これまでにも幾人ものチャレンジャーが打ちのめされてきたのだと彼女は言うのですから…


ホリィ
「ですが、貴女がこれまでで1番粘り強いですわ♪」
「大抵は、1ヶ月も持たずに精神崩壊して自殺しますもの♪」


気持ちは嫌と言う程伝わりますわ!
私とて、目的が無ければさっさと死を選ぶでしょう。
ですが、私の目的は私ひとりの問題ではありません。
今も何処かで戦っているであろう、同じ志の家族の為にも…!


女胤
「…私は、最後まで諦めませんわ」

ホリィ
「それはそれは! 私も楽しみにしておりますわ♪」


私は、それでもどうすれば良いのか途方に暮れていました。
今や毎日彼女とただ語り合うだけの日々を過ごしており、そこに変化は何も無い。
ただ、イタズラに時間だけが過ぎていき、私は自分だけが歳を重ねる事に恐怖すら抱いている。
本当に、彼女を殺すしか方法は無いのでしょうか?
もしかしたら、本当の解法があるのでは?
だとすれば、それは一体…?


ホリィ
「ふふ…良い考えは浮かびましたか?」

女胤
「いえ…それよりも、今日の紅茶は少し甘すぎませんか?」


何気ない会話のはずだった。
普通に考えれば、とりとめの無い会話。
しかし、この時確かに明確な違和感が私の中に根付いた。
何故か…彼女の反応が遅れたのです。

たったの1秒程ですが、彼女は確かに『即答』しなかった。
これまでの2年で、彼女が言葉に詰まった事など1度たりとも無い。
全ての会話において、彼女は完璧と言える程の速度で答えを即答で返していたのですから…
そんな彼女が…まさか?


ホリィ
「少し、クリームを入れすぎた様ですね」

女胤
「そう、ですか…そんな事、これまで1度も無かったはずですが?」

ホリィ
「誰でもミスのひとつはします」

女胤
「そのミスを、貴女は1度たりともしなかったのに?」


私はあえて追求する。
彼女は相変わらずニコニコしながら即答してきたが、私にはどうしても違和感が拭えない。
それよりも、むしろここしか無いとさえ思える。
このタイミングで、彼女がミス?
ならばそれは何故です? 何処にそれを誘発する何かがありましたか?
この僅かな違和感の正体…必ず突き止めてみせましょう!!










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第4章 『悲劇のお嬢様と足掻く王女様?』

第1話 『終わらない1週間』


…To be continued

Yuki ( 2021/07/27(火) 13:06 )