第2章 『関西人の阿須那』
第4話
阿須那
「ほんで、そのカルラってのは強いんか?」

彼岸女
「…それが解らないから困るのさ」
「そもそも怠惰の属性が表す通り、カルラはほとんど自分から動かない」
「七幻獣内でも、特別素性の知れないポケモンだからね」


ウチ等は歩きながら情報を交換しとった。
ウチからは敵の情報と居場所、彼岸女からはボスの情報やな。
せやけど、互いにコレ…と言える情報は全くあらへんし、ぶっつけ本番になるのは容易に想像出来る。


タイナ
「…怠惰、ですか」

彼岸女
「基本的には、他者への精神に干渉し無理矢理やる気を無くさせるのが主な能力だね」

羽身
「えらく地味な能力でんな〜」

阿須那
「せやけど、仮にもあの恵里香の後釜や」
「そんなシンプルなだけの能力とは限らんやろ」

守連
「う〜ん、でも私たちでも恵里香ちゃんが強いかどうかなんて解らないよね?」


ウチはそれを聞いて黙る。
確かに…アイツが戦っとるとこは見た事あらへんからな〜
ただもんやないとは思っとったけど、実際にはどうなんやろ?
そんな事を考えとると、ウチの横を歩いとる彼岸女はボソリ…とこう呟いた。


彼岸女
「…アイツ程、恐ろしいと思ったポケモンはそういないよ」

阿須那
「あん? 恵里香の事か?」

彼岸女
「恵里香…ね」
「アイツが私と一緒に七幻獣をやってた時の名は、『クレス』だったけど」


恵里香の別名?
まぁ、恵里香はそもそも聖が名付けた名やし、その前に名前のひとつはあったんやろ。
つーか…


阿須那
「恐ろしいって…アレが、か?」

守連
「う〜ん、恵里香ちゃんっていつもニコニコしてるイメージしか無いのに…」


ウチ等はふたりして疑問を抱いとった。
そらそやろ…どう見ても人畜無害の顔やでアレは?
いや、顔だけで判断するんは早計やが。


彼岸女
「だから怖いのさ…アイツは何の感情も無く、歴史さえ改編し、笑いながら王の邪魔者を消していったんだから」


ウチ等は思わず凍り付く。
そして同時に、セレビィというポケモンの凄まじさを知らされた気がした…
セレビィ…『時渡りポケモン』、自由に未来や過去を行き来し、歴史さえ変えてしまえるチート能力者。

それが、敵に回った時の事を考えたら…


阿須那
「…成る程、な」

守連
「…阿須那ちゃん?」


ウチは思わずブルッた。
恵里香が強いかどうかは、この際関係あらへん。
ただ、アレが敵になった時どうやったら倒せんのかは…ウチには全く思い付かんかった。
ましてや、怠惰の能力者…当時の枷があらへん恵里香がどんだけヤバかったんか。

彼岸女は…それを知っとるから恐ろしいと言うたんやな。


彼岸女
「…クレスは、七幻獣の中でもウォディに次いで古参だった」
「第2世代のポケモンであり、私が現れる第6世代までの怠惰担当…」
「だけど、私が強欲の座に収まってほどなく、アイツはメロディと一緒に裏切った」

阿須那
「…恵里香は、聖と初めて会うた時はポケモンの姿しとったはずやが」
「当然、七幻獣の時は人化しとったんよな?」

彼岸女
「もちろんそうさ…でも、何を思ったのかアイツは、自らの存在を過去と入れ換え、再びポケモンに戻った」
「恐らくは自ら枷を外す為だと思うけど、結局枷は外れなかったみたいだね」

タイナ
「過去と存在を入れ換える、そんな事が可能なのですか!?」


タイナはかなり驚いとった。
せやけど、セレビィならそれは容易に出来るんやろ。
過去の自分と入れ替わるんやったら、記憶までリセットする羽目になったんやろうけどな…


彼岸女
「…その後のアイツに関しては私も知らない」
「私も、割りとすぐに粛清されたからね」

羽身
「粛清って、何されたんでっか?」

彼岸女
「枷を付けられたのさ…裏切り者と同様、ね」
「まぁ、私もあの頃はやんちゃしてたから、色々と王の怒りを買ってたんだよ」
「七幻獣の中でも、私は嫌われ者だったからね♪」


彼岸女はそう言って軽く笑う。
せやけど、目は笑うてなかった。
当時の事をどう捉えとるんか?
少なくとも、後悔はしとる…そんな感じには見えるな。


羽身
「…全く解らへん!」

阿須那
「アンタは気にせんでええて…どの道、この世界までの関係なんやから」

羽身
「何言うてますんや? 付いて行く言うたですやん!」
「ウチ、この世界から飛び出してでも阿須那はんに付いて行きますさかい!」


ウチは露骨に嫌そうな顔をした。
そしてもう諦める事にした。
どうせ結果は見えとるしな…
前の世界で守連たちが見たクリア後の光景は、今までの混沌と酷似しとったらしいし。

それやったら、羽身も一緒に消えるだけや。
タイナに関しては、雫が拾うたみたいやけど…コイツに限っては。


阿須那
「…無いやろ、多分」

羽身
「何がですねん!? ウチ、胸ならそこそこありますで!?」

阿須那
「何で胸の話やねん!? どっちにしてもウチの足元にも及ばんわっ!」


ウチはそう言って羽身のドタマをどつく。
ちなみに羽身はちゃんと帽子を被っとるから、今回は綿毛も飛び散らん。
羽身は頭を抑えながらプルプルと震えていた。


彼岸女
「やれやれ…気楽で良いね」

タイナ
「ふふ…ですが、気落ちしながら敵の懐に飛び込むよりも良いと思いますよ?」


タイナはそう言って優しく微笑んどった。
口元に手を当て、いかにもなヒロイン力を放っとる。
コレは侮れん…! 間違いなく聖のストライクゾーンや!!
胸もウチ以上か? 強力なライバルになりかねんな〜


羽身
「うぐぐ…もうちょい手加減しまへんかっ?」

阿須那
「甘えんなボケッ、アンタはそんぐらいやらんと堪えんやろ?」


ウチはそう言って頭を掻いた。
クソッ…この面子で歩いとったらタバコも吸われへんやんか!
どっかで休憩しよかな〜?


阿須那
「羽身、例のサ店はまだ先か?」

羽身
「もう目と鼻の先ですわ! ほらあそこ!」


羽身がそう言って指差した先は、やや古風な感じの店やった。
アンティークをあしらった装飾が目立ち、店名に反してえらい洋風やな。


阿須那
「まぁええわ、アンタ等先に入っとき…ウチは一服してから入るから」

羽身
「はいはい、ほな先行きましょか〜」

守連
「? 阿須那ちゃん、どうしたの?」

タイナ
「一服…何か飲むのでしょうか?」

彼岸女
「…あ〜、まぁ良いから」
「念の為に私もいるよ、だから安心して」


そう言って彼岸女だけが残り、他の3人は店内に入る。
カランカラン!と小気味の良い音が鳴り、いかにもサ店っちゅう雰囲気を出しとった。

ウチは、そんな店の前でタバコを1本咥える。
そしてポケットからライターを出し、火を…


チッ! チッ! チッ!


阿須那
「……!」


ライターからは火が出ぇへんかった。
古くっさい奴やし、そろそろ寿命かな?と思っとったけど…
ウチはとりあえずそのまま更に試す事に。


チッ! チッ! チッ!


阿須那
「…くっ、くっ!」


ウチは流石にキレそうになる。
しかしすぐに冷静になり、ウチはふーと息を吐いた。


阿須那
(しかし、ここで焦ったらアカン…まずは冷静にならな!)

彼岸女
「……?」

阿須那
「よし、ごく自然にいってみよ…」
「あ〜タバコが吸いたくなったかな〜?」
「よいしょっ!と…」


チッ! チッ! チッ!


阿須那
「このダボがっ!! 舐めとんのか!?」


ウチは思いっきりライターを投げ捨てる。
するとその先には、あからさまなヤー公の顔面が…


阿須那
「ゲッ!?」

彼岸女
「あ〜あ」


ライターの先端がしっかりと眉間にめり込み、ヤー公は仰け反った。
そして顔を抑えながら、周りを見渡す。
ウチ等は素早くサ店に逃げ込み、見付からん様にした。
あっぶな〜! ついストレス溜まってやってもうたわ…


守連
「? どうかしたの?」

阿須那
「あ〜まぁ、ええからええから!」

彼岸女
「全く、トラブルメーカーだね…」


彼岸女はこれでもかという程の、ため息をかました。
ウチも反論出来ず、頭を掻きながら守連たちの側まで歩く。
そして改めて店内を見渡し、ウチは疑問を浮かべた。


阿須那
「何やこの店? 誰もおらへんのかいな?」

羽身
「呼んでも誰も出てけぇへんのですわ」

タイナ
「…気配は感じませんね、この建物には誰もいない様です」

彼岸女
「…いや、いるよ」
「気配を消してるだけだ、私には解る」
「いるんだろ? カルラ…」


彼岸女がそう言うと、突然店内に霧が立ち込めた。
紫の色をしたそれは、店内に突如吹き荒れる風によって吹き飛び、気が付けばひとりの男がカウンターの先におる。
ウチはその姿を見て、歯軋りをした。


阿須那
「ラーズ!! 注文通り来たったで!?」

彼岸女
「…コイツが、例のフリーザー?」


ラーズはクスクス笑いながら不気味に佇む。
彼岸女はそんなラーズを見て訝しんどった。
何や、やっぱ疑問なんか?


ラーズ
「フフフ…少し遅かったですね?」
「もう少し早く来ると思っていたのですが…」

彼岸女
「…成る程、第8世代の新種か」
「さしずめ、別リージョンのフリーザーってトコかな?」


彼岸女は冷静にそう分析する。
それを聞いたラーズは肩を竦め、肯定も否定もせぇへんかった。
そしてすぐに指をパチンと鳴らし、突然店内の窓が全てシャッターで覆われる。
店内は完全に真っ暗と鳴り、続いて1ヶ所だけがスポットライトで照らされた。


彼岸女
「…! カルラ!!」


そこは、完全に場違いな豪華さをしたソファ。
明らかにこの世界には不釣り合いであり、別の世界から用意したんやと勘繰らせられる代物やな。
そして、ウチはカルラと呼ばれたボスの姿を冷静に睨む。


カルラ
「………」


全身を赤いフルアーマーで身に包み、一切の体格も顔も解らない。
背中からは円形の管みたいなモンが伸びとり、青い孔が規則的に空いとる…
身長は兜の高さからするとおよそ180cm位か?
とにかく、一言も喋らんし動きもせぇへん!
確かに…こら、判断に困る相手やな。


ラーズ
「こちらにおわすお方こそ、今回のゲームのオーナー!!」
「混沌の王が認めし、怠惰の七幻獣であり、我が主にあらせられます!」


突如ラーズの位置にもスポットライトが当たり、そんな事を大声で言い出した。
狭い店内にも関わらず、大袈裟に両手を広げ、エンターテイナーみたいなノリで紹介しとる…
ウチはやれやれ…とため息を吐くも、とりあえずそのまま流れに身を任せた。


彼岸女
「御託は良いよ、何をさせる気だい?」

ラーズ
「ククク…大体想像は出来ているのではありませんか?」
「貴女は仮にも主と同期の七幻獣だったのですし…ねぇ?」


彼岸女はそれを聞いて鬱陶しそうにラーズを睨む。
同期…な、もっとも彼岸女はすぐに抜けたみたいやけど。


阿須那
「とりあえず、ウチ等が勝ったらこの世界から出られるんか!?」

ラーズ
「勿論! ただし、勝てればですがね…」

彼岸女
「…で、ゲームの内容は?」

ラーズ
「簡単な事です! 貴女たち5人がそれぞれゲームに勝てば良いだけ!」
「ルールはその時その時で決めます…まぁお楽しみを!」


ラーズは面白そうに頬を釣り上げ、不気味に笑った。
一瞬ゾクッと来るが、ウチは冷静に頭を冷やす。
ゲーム…一体どんなゲームをやるんや?
いや、それよりも…


阿須那
「待たんかい! もしかして羽身も入れとんのか!?」

ラーズ
「何を今更? そのつもりで連れて来たのでは?」

羽身
「ええで! 何やるんか知らんけど、受けて立ったるわ!!」


羽身は堂々とそう宣言する。
ウチは頭を抱えて俯いた。
このドアホがっ!


阿須那
「羽身! 分不相応な賭けは止めぃ言うたやろ!?」
「相手見て判断せぇ! 負けたら命はあらへんねんやぞ!?」

羽身
「こちとら賭博師、ギャンブラーでっせ!?」
「恩師の為に命張る位、朝飯前ですがな!!」


そう言って羽身は側のテーブルをバンッ!と叩く。
ウチは更に頭が痛くなり、目眩がしそうやった…
ラーズはそんな羽身を見て薄ら笑う。
もう、退くに退けんか…!


彼岸女
「…ちなみに、5人ってのは初めから決まってたの?」

ラーズ
「いいえまさか…たまたまですよ」
「たまたま貴女方が、5人でここに来たから…それだけです」

タイナ
「…その割には、私たち3人が先に入っても姿を見せなかったのですね?」


タイナは良い所にツッコミを入れた。
確かにそうや、たまたまって言うんやったら普通先に入った3人が対象になるやろ!


ラーズ
「まず、前提が間違っていますよ?」
「このゲームの主人公はあくまで阿須那さんであり、主人公不在ではラスボスに挑めません」
「従って、阿須那さんが店内に入った時点で人数は決まり、それがたまたま5人だったというだけの事…」

タイナ
「…成る程、それなら仕方ありませんか」

守連
「…何か、すっごく屁理屈っぽいけど」

彼岸女
(…カルラが何を考えているのか解らない、本当にこの展開はカルラの意志なのか?)


「それじゃあ、私の存在はどうなるのかしらね?」


ここに来て、雫が突然彼岸女の体から現れる。
歩くの嫌や言うて、彼岸女の中に潜んどったからな。
ラーズはそれを見て、少し口元を変えた。
ほう…? 何や面白い展開やんけ!


ラーズ
「…夢見の雫、いえ愚者の雫さん」
「貴女の事は、今回カウント致しません」
「あくまで、彼岸女さんと同一の存在として扱わせていただきます」
「ですので、ゲームに参加するのであれば、彼岸女さんと択一になると覚えておいていただきたい」


「そっ、まぁ良いわ…それならそれで見物させてもらうし」


そう言って雫は近くの椅子に座る。
動じへんやっちゃなぁ〜何や面ろない…


彼岸女
「…ついでに、もうひとつ良いかな?」

ラーズ
「どうぞ」

彼岸女
「戦うのは、カルラ本人?」

ラーズ
「いいえ、私が代理とさせていただきます」
「ですがご安心を、ちゃんと皆様が勝利の暁にはこの世界のクリアとさせていただきますので」


何やそら? つまりあのボスはふんぞり返っとるだけかいな?
何の為にここにおるんや…それともホンマにやる気無いだけか?
ボスと直接対決無しって、何か肩透かしやな〜


ラーズ
「あくまで主はこのゲームのオーナー…」
「ですので、結果に関わらずただ楽しめればそれで良いのです♪」

カルラ
「………」


カルラは何も反応せぇへん。
ただじっ…と座っとるだけや。
まるで、人形やな。
もしかして、彼岸女もその辺気にしてツッコンだんか?
あのカルラと言うの、実は影武者とか…?


彼岸女
「…相変わらず、何もしないんだね」

カルラ
「……」


彼岸女はカルラに向かって真っ直ぐ言い放ち、そしてため息を吐いた。
過去に仲間やったふたり…思う所はある、か。
そして今は敵同士…なんやが。


阿須那
「…あんまり、敵って風には見てないんやな?」

彼岸女
「直接憎む要素も無いしね…カルラは王の命令しか聞かないし」
「誰とも関わろうとしないから、常に従者任せ」
「お陰で従者は頻繁に過労らしいし、君は何代目だい?」

ラーズ
「さて? 主は多くを語りませんので」
「特に気にした事もありませんが…」

カルラ
「……ラーズは、5人目」

羽身
「喋ったぁ!? 話せたん!?」


羽身は思わずツッコム。
ウチも驚いたわ…いきなり口開くとか。
いや、正確には兜に隠れて口元なんか見えへんのやけど…
何や、くぐもった声やけど女か?
他の七幻獣は皆女性みたいやし、それっぽいが…


ラーズ
「…これは驚きました」
「主が他人に口を開くなど、初めての事です」

彼岸女
「喋るのも面倒だと言う位だからね…一体どういう心境の変化だい?」


カルラは、背中の孔から何やら水蒸気を放つ。
それは相当の高温なのか、こちらまで熱が伝わる程の温度だった。
まるで、スチームやな…アレは感情表現みたいなモンか?


カルラ
「……久し、振り」

彼岸女
「…そうだね、でも感傷に浸る性格じゃないよね?」


カルラはやや呼吸を荒くしている。
シュコー…と兜の中から音がし、どことなく苦しそうにも思えた。
どことなく、悠和の進化前に似とるな。
もしかして、アレも拘束具とか?


カルラ
「……ラーズ」

ラーズ
「かしこまりました、ではゲームを始めます!」


ラーズは胸に手を当てて深く礼をする。
あのカルラにそれだけ敬意を持っとるんか?
どうにも、口数が少なすぎて何を考えとるんか読めんわ。

とりあえず、ラーズは再び指をパチンと鳴らす。
すると今度は急な浮遊感。
ウチ等は全員、まるでそのまま地下に落下するかの様な感覚に襲われた。
やがて浮遊感は去り、ウチ等は地に足が着いてるのを確認する。
そして、次にラーズが指を鳴らしたら部屋に灯りが点いた。


阿須那
「な、何やここ!?」

守連
「うわ〜まるでカジノみたい…」

タイナ
「転移系の能力? どうやってこんな空間に?」


ウチ等はまさに別の空間に飛ばされたみたいやった。
そこは守連の言う通り洋風のカジノ。
様々なゲームのテーブルが存在しており、いかにもな場所やった。


羽身
「何やコレ!? 見た事無い奴ばっか!」

彼岸女
「…成る程、単純にこの辺の賭博でもやろうと?」

ラーズ
「いえ、それでは芸がありませんので」
「あくまで場は雰囲気だけですよ、実際にやるのはこちらとなります!」


そう言ってラーズが手を差し伸べた先には、普通の四角いテーブルと対面させた椅子ふたつ。
そしてテーブルの上には、ヘルメットと…ハリセン。
ハリセン…ハリセン!?


阿須那
「ま、まさかコレッて…」

ラーズ
「そのまさかですよ? コレなら誰でもルールが解るでしょう?」

羽身
「? 何ですねんコレ?」


解らん奴もおるな…まぁ羽身はしゃあないか?
そもそも、いつの時代からこのゲームあるんやろ?


ラーズ
「…まぁ、知らない方に一応説明しておきましょうか?」

阿須那
「いらんいらん、羽身は今回見学や」

羽身
「え〜? 何でですん?」

阿須那
「時間が勿体無いねん!」

彼岸女
「…まさか、そのまんまのルールって訳じゃないよね?」


彼岸女はやや低い声でそうツッコム。
するとラーズはフフフと笑った。
そして、楽しそうにこう説明を始める。


ラーズ
「まず、ジャンケンで勝てば必ず攻撃出来る訳ではありません」

阿須那
「何やて?」

ラーズ
「このゲームは、あくまで相手のライフを0にするかという戦いです」
「そして、それは防御側にも等しくチャンスがある…」
「本来なら、ジャンケンに勝った側は一方的に攻撃をするシステムですが、それではやや防御側が不利と言えるでしょう」


確かに、最悪ジャンケンに勝てんかったら永久に勝てへんゲームやからな。
それやと、確かにジャンケン弱い奴には理不尽なルールや。


ラーズ
「ですので、ダメージ制を採用します」

彼岸女
「ダメージ?」

ラーズ
「こちらをご覧ください!」


ラーズが手を掲げる方向には、何やら豪華な液晶モニターが。
そこにはふたつのメーターが表示されており、緑のゲージが共に満タンとなっていた。


守連
「…えっと、これがお互いのライフ?」

ラーズ
「その通り! そして、ハリセンを食らわせた時の衝撃でダメージを算出します!」

羽身
「ふむふむ、ほんで相手のライフを0にしたら勝ちと」

ラーズ
「そして防御側が防御に成功した時、そのダメージは攻撃側に跳ね返ります!」


成る程、な。
確かにそれなら防御側にもチャンスはある。
もし防がれたら、攻撃側がピンチになるって事やからな。


ラーズ
「このルールの都合上、ジャンケンに勝った側はあくまで攻撃するか防御するかの選択権が与えられるのみとします」

彼岸女
「のみ? じゃあジャンケンと攻防は切り離すって事?」

ラーズ
「はい、あくまでジャンケンの勝敗はその選択権を決めるのみ」
「勝った側が攻撃か防御かを選択し、その後合図の音が鳴ったら同時に動く事となります!」

守連
「えっと、ジャンケンして、勝って、攻撃か防御を選択…」
「選択したら、合図を待って動く…で、良いの〜?」

ラーズ
「少し、実演してみせましょうか…」


そう言ってラーズは指を鳴らす。
すると、突然天井から何やら人型のロボットが降りて来た。
いかにもな形であり、どっかのギャグマンガで出てきそうなコテコテのメタリックさや。
とりあえず、それが片側の椅子に座った。


ラーズ
「ついでにご紹介しましょう…これが今回貴女たちと戦う相手です」
「名前はありませんので、ご自由に呼称してください♪」


そう言ってラーズは反対側の席に座り、ロボットと対面した。
何やイロモノ対ロボットとか異様な光景やな…


ラーズ
「ちなみに、ジャンケンはこのリモコンでやってください」


そう言ってラーズは小さなリモコンを取り出した。
それには3つのボタンが付いており、それぞれがグーチョキパーに対応しとるみたいや。


阿須那
「待てや、それイカサマ無いんやろな?」

ラーズ
「信じるかどうかはお任せしますが、私はイカサマ等いたしません」
「これは主が楽しんでもらう為のゲームです」
「その重要なゲームに、イカサマ等無粋!」
「もっとも、そちらはやりたければいつでもどうぞ!」
「その代わり発見次第、即敗北…その際にはその者の命を頂戴いたします♪」


ラーズは少々凄んだ口調でそう言った。
やれるもんならやってみぃ言う事か…!


ラーズ
「ロボットは自動的にランダムで決定いたしますので、とりあえずボタンを押します」
「確率に偏りはありませんので、あくまで1/3だと思ってください」


すると液晶モニターに互いの手がデカデカと表示される。
ロボットはチョキ、ラーズはグー。
これにより、ラーズは選択権を得た訳やな。


ラーズ
「私が勝ちましたので、今回私は攻撃を選択します」
「これは普通に宣言してくだされば結構、後はそのまま座って待っていてください」
「なお、姿勢に関しては両手を膝の上に置く事が条件です」
「腰もしっかりと背もたれに付けておいてください」
「どちらかが満たされていなかった場合、反則と見なします」

彼岸女
「その際のペナルティは?」

ラーズ
「ライフをいくらか頂きましょうか」


そう言ってラーズはお手本の様に綺麗に座る。
そしてしばらくすると大きなブザー音がし、ラーズとロボットはほぼ同時に動いた。
ラーズはハリセンを持ち、ロボットはメットを取る。
そして、攻防の結果は…


パシィンッ!!


ラーズ
「攻撃は成功…よって、ロボットにダメージが入ります!」
「今の衝撃力から換算し、与えたダメージは…」


液晶モニターに表示されとる、ロボットのライフが徐々に減っていく。
それは大体半分位まで減り、そこで減少は止まった。
あの勢いで、アレ位か。
ほんで、アレが防がれたらそのまま自分に跳ね返るわけやな。


ラーズ
「ここまでで1ターンです、いかがですか?」

彼岸女
「大体解った、で? これだけな訳、無いよね?」


彼岸女はまだ納得してへんのか、やや脅す様な口調でツッコム。
するとラーズは楽しそうに笑い、椅子から立ち上がって指を鳴らした。
次に出て来たのは、何やら大きめの筒。
チューブが繋がっており、何かを抽出する器材みたいやが…


ラーズ
「言い忘れていましたが、このゲームには当然皆様の命を賭けていただきます!」

阿須那
「…!!」

彼岸女
「…成る程、さしずめ血を賭けろと?」

ラーズ
「その通り!! ただ漠然とプレイしていては興醒めでしょう?」
「しっかりとプレイ中でも、緊張感を持ってもらわなければ!!」


ラーズは今まで以上に楽しそうな顔で笑っていた。
その姿はまさにサディスト。
羽身と守連は少しだけビビッとる…流石に、このふたりには任せられんな。


ラーズ
「ダメージに応じて、あのライフゲージが減った分の割合、血液を奪わせていただきます!」
「ですので、実質あのゲージは血液の総量であり、0になる前にまず死にますね♪」


「ま、まるで○カギじゃないの!」

阿須那
「それやと麻雀やな! まぁルール置き換えただけやけど!!」


どっちにしても血が減りすぎたらマズイな。
こら、想像以上に厄介な戦いやで!
ウチは軽くラーズを睨み付け、ドカッ!と勢い良く椅子に座った。


ラーズ
「ほう? いきなり主人公自らやる、と?」

阿須那
「別に、順番なんてどうでもええやろ?」
「せやったら、ウチがやったるわ! ほんで必ず勝ったる!!」

羽身
「あ、阿須那はん〜!? ホンマに大丈夫なんでっか〜?」

彼岸女
「私は構わないよ…阿須那の好きにしたら良い」

守連
「うん、頑張ってね阿須那ちゃん!」

タイナ
「ここはお任せします、御武運を」


全員反対はせぇへんかった。
羽身はひとりオロオロしとるが、ウチはメンチ切って黙らす。
すると羽身は数歩退き、皆と一緒に見届ける側に立った。
ウチは無機質なロボット相手に睨み付ける。
ラーズはクスクス笑いながらも、手を上げてこう宣言した。


ラーズ
「それでは! これよりゲームを開始します!!」

阿須那
(さぁて、こっからが本番やな!!)










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第4話 『七幻獣、怠惰のカルラ現る』


…To be continued

Yuki ( 2021/01/24(日) 18:48 )