第2章 『関西人の阿須那』
第1話
ワイワイ…ガヤガヤ!!
そんなありきたりな表現しか出来ない程、今この場は戦場やった。
そう、今ウチが戦っとる場所…それは。


客のひとり
「店長〜! カツ丼1丁〜!」

阿須那
「あ〜はいはい!! ちょっと待っとれや!!」


ウチは、小さな大衆食堂でコック兼店長をやっとった。
あの事件からもう2年…ウチは何の進展も望めんまま、ただ生きる為に職を見付けてかれこれや。
ホンマ…何やっとんのやろな?


阿須那
「ホレ! カツ丼あがりや!!」

店員
「ヘイ、カツ丼お待ち!!」


店員は慣れた手付きで客の元に食事を届ける。
ちなみに、あの店員はポケモン女であり、種族は『ワタガシラ』…やったっかな?
何や、ややこしい名前で未だに正確に覚えられん。

特徴は頭に乗ってる白い綿毛なんやが、女胤の花みたいなタイプやなく、10cm位のサイズのやつがチョコンと頭頂部に乗ってるだけで、後は普通の黄緑色の髪が人間みたいに伸びとる。
髪の長さはセミロングで、綺麗に真っ直ぐ伸びとる整った髪やな。
服は至って普通の割烹着で、一昔前なら何処でも見られる光景やろ。

ちなみに名前は…


客A
「『羽身(はみ)』ちゃん! こっちおあいそ〜!」

羽身
「はいは〜い! 今行きますわ〜!」


そう言って羽身は急いでレジに向かう。
そしてカチャカチャと手際良く精算し、ジャキン!と大きな音をたててレジの金庫が開く。
もう、この音にも慣れたな…

勘の良い読者なら、そろそろ感づき始めとるやろうけど。


客B
「店長、カレー頼むわ!!」

客C
「こっちラーメンや!!」

阿須那
「あ〜!! はいはいはい!! ちょっと待っとらんかい!!」
「ホンマいっつも何やねん!? こっち未だにふたりでやっとんのに、この時間は何で満席なんや!?」

羽身
「そりゃ、繁盛しとるんやさかいしゃあないですやん♪」


ウチはもう何度目かも解らない愚痴を溢す。
その間もしっかりと手は動かし、高速で調理を続けていた。
たかだかテーブル8席分しか用意してへんレベルの狭さやっちゅうのに、ホンマよう混むわ!
まぁ、その分生活するには十分な収入も入るんやけどな!!

とまぁ、そんな風にウチは毎度の激戦区であるランチタイムを乗りきった…



………………………



阿須那
「あ〜! やっとハケたわ!!」

羽身
「これでしばらくは休めますね〜♪」


ウチは厨房にある椅子に座ってダレる…
この食堂は客からも厨房見えるタイプの店やからな。
普段からこんな姿客には到底見せられん!


阿須那
「…ちょっとタバコ買うて来るわ、店任すで?」

羽身
「了解ですわ、ごゆっくり〜」


羽身はそう言ってニヤニヤ笑い、手を振ってウチを見送る。
ウチはふんっと鼻を鳴らすも、近くにあるタバコ屋に向かって行った。

…アイツとはこの世界に来てすぐに出会うたけど、未だに信用置けん何かがある。
まぁ悪意は無さそうなんやけど、な〜んか妙な感じするんよな〜
とはいえ、ここまで特に何も無かったんやしマネージャーとしては優秀やからな。
あの店持てたのも羽身の手腕やし、儲かっとるのも羽身のお陰や。


阿須那
(…不思議と、感謝しか出来へんレベルには役に立っとるんよな〜)


こんな事も、もう何度考えたやろうか?
それが思い出せへん位、2年っちゅう時間は長すぎた。
今やもう、この昭和レトロな街並みも見慣れてしもたわ。
コンビニすら存在せず、人もポケモンも一緒に生活しとる、ある意味異様な世界。

設定的には昭和30年台位の年代みたいで、現代っ娘(笑)のウチからしたら完全に未体験ゾーン。
タバコ買うんにも証明書いらんし、ぶっちゃっけかなり大らかや。
歩きタバコもそこかしこであるし、喫煙所とかも無いもんな〜


阿須那
(つーか、自販機もほとんど無いんよな…この時代の人間はどんだけたくましかったんや?)


テレビでそういう歴史を紹介する番組もよう見たけど、実際に体験させられると凄まじく不便で面倒なんを思い知らされる。
現代の人間がいかに楽しとるかホンマ気付けるで。


タバコ屋のお婆ちゃん
「あら阿須那ちゃん、またいつもの?」

阿須那
「うん、1カートン!」


ウチは笑顔でそう言い、代金を先に出す。
ここのお婆ちゃんもポケモンであり、種族は『ドガース』や。
紫の髪で体のあちこちにガスの放出口が付いとる。
せやけど、このお婆ちゃんは自分でガスの放出をコントロールしており、決して他人に毒を与えない様にしてるんや。

ええ人よな〜♪


タバコ屋のお婆ちゃん
「はい、ほなおおきに♪」

阿須那
「おおきにな♪ また切れたら来るさかい!」


ウチは笑顔でそう言って手を振る。
そしてタバコの束を持って店に帰った。
ウチも今や立派なヘビースモーカーになってもうた…
元々、客に一辺勧められてからなんやけど、気が付いたらコレや。
ホンマ、タバコって怖いわぁ〜

皆は健康に気を付けぇや!?



………………………



阿須那
「帰ったで〜」

羽身
「お帰りなさ〜い」

人間の客
「おっ、店長またタバコか? 好っきやな〜!」

阿須那
「何や『堺(さかい)』はん、また今頃ランチか?」


ウチはつまらなさそうな顔でそう対応し、タバコの箱を持ってその辺の椅子に座る。
そして早速1箱目を開けて口に咥えた。
後はタバコの先端で指を弾き、一瞬で火を点ける。
コレ、何気にテクいんねんで!? 火力調整ミスったら一瞬で燃え尽きたり、不完全燃焼しよるから!


阿須那
「ふーーー、落ち着くわ〜!」


「はははっ! 今日も激戦やったみたいやな」

羽身
「まぁ、そのお陰で儲かっとりますさかい!」


そう言いながら羽身は自分で調理を行う。
この音と匂いやったら、焼飯か。
堺はんがいつも頼むセットや。
羽身も料理の腕前は中々で、ウチ程やないが十分任せられるレベルやな。
せやから、ピーク時にはふたりで基本調理やっとるし、手が余る時は片方に任せて休憩するんや。

ウチは備え付けの灰皿に灰を落とし、新聞に目を通した。


阿須那
(世界は特に変化あらへん…特に争いも無いし、至って平和や)


そう、平和過ぎる位に。
ここは間違いなく混沌の類いやと確信出来るのに、何も起こらへん。
ウチは未だにクリア条件すら理解出来ず、ただただこの平和な世界を2年も過ごしてたんや。

いっその事、全人類抹殺したらクリアとかなるんやろか?
それにしても面倒通り越すけどな!


阿須那
(ただ生きててもクリアは出来へん、せやけどボスの存在の示唆すらあらへんとは)


もしかしたら、ボス自体存在せぇへんタイプかもしれへん。
プロレスの時とか、運動会の時はそんな感じやったしな。
と、なると…益々解らんがな!!


羽身
「ほい、ラーメン焼飯セットでっせ〜」


「おっ、おおきに羽身ちゃん♪ これがいっつも楽しみなんよ〜!」


そう言って堺はんは美味そうに食べ始める。
この人は至って普通の社会人であり、特に変哲も無い会社で働いてるらしい。
いわゆるサラリーマンいう奴やな…せやけど、現代のそれとはまるで違う環境っぽいけど。
給料もええらしいし、社会的には高度成長期やからな…


阿須那
(せや、この世界は徹底して日本の昭和時代を再現しとる)


それも大阪が舞台で、その内のここ…北新地を中心に世界は構成されとる。
ちなみに、外の街には一切出れん。
地下通っても梅田の手前が終着や。
この時点で、ここにおる人間もポケモンも設定に合わせて造られた存在やいうこっちゃな。


阿須那
「……ふー」


ウチは早くも1本目を吸い切り、吸い殻を指先で握り潰す。
後は火力で完全に灰に変え、それを灰皿に落とした。
これでもエコには拘ってるんや! 吸い殻問題で海洋汚染とか洒落にならんしな!

…こんな世界で社会問題とかそれ自体笑い話やけどな。


阿須那
「…羽身休憩行け、後はやっとくわ」

羽身
「おっ、待ってました〜♪ ほな早速…」

阿須那
「パチンコは止めとけよ!?」

羽身
「勿論ですわ! ウチ、ギャンブルからは完全に足洗いましたんで!!」


そう言ってサムズアップするも、目は完全に金の色に染まっとった。
アカン…絶対やらかす奴や。
まぁ、コレももう今更なんやけどな…

ウチはため息を吐くも、羽身はウキウキ顔で着替えに向かった。
やれやれやな。



「あっはっは、羽身ちゃん相変わらずだね〜」

阿須那
「まぁギャンブルに強いから、かめへんねんけどな…」
「その辺のパチンカスと違うて、最悪トントンには抑えて帰って来んねんから」


そう、あのアホ無駄に運がツイとる。
定期的にパチンコ行っとるけど、大負けして帰って来た事は1度も無いんや…
まるで、そういう設定やとでも言わんばかりに。


阿須那
(それなんや…それがどうにも違和感あるんや)


ウチがこの2年、未だにハッキリ出来へん要素でもある。
羽身は…


阿須那
(何でウチと出会った? 何でウチと働く? 何でこんな親しくなったんや?)


この小さな範囲の世界で、羽身だけがウチに大きく関わり、そして違和感を植え付けた。
RPGで言えば、最初の街の住民みたいなモンのはずやのに。
もしこれがルールとして重要な事なんやとしたら、もしかしたらラスボスは…?


阿須那
(ありえん!! あのアホがボスとか!!)


少なくとも、ここまでの生活でアイツの事はそれなりに理解しとる。
変に信用置けん部分はあるけど、それでもアイツがそんな悪どい事…


阿須那
(考えてそうやな…金に関しては!)


そう、守銭奴でありパチンカスなんやあのアホ!
裏で何しとるかも解らんし、そもそもこんな時に行動も把握しとらん。
過去に1度尾行した事あったけど、見事にパチンコするだけのアホやったんや!!

あの時のウチは流石に期待外れ通り越して怒りが2週してまい、店内に突撃してからウキウキ顔しとるあのアホのドタマどついたったわ!
我ながら理不尽やったと反省しとる…



「ふふ、羽身ちゃんの事心配なんやろ?」

阿須那
「…誰が心配するかっ、むしろいつ大負けして店潰れるかの方が心配や!」


堺はんは、はっはっは!と笑い、代金をテーブルに置いてから爪楊枝を手に取る。
そのまま上着を肩にかけて爪楊枝を口に咥えてこう言った。



「ごっそさん! 相変わらずええ味やわ♪」

阿須那
「おおきに、仕事頑張ってや〜」


ウチはしっかりと銭を計算してそう言う。
時間も15時過ぎか…堺はん、大抵休憩の合間に飯食いに来るんよな〜
まぁ、昼時に来てもあの混み様やからな…落ち着いてタバコも吸われへんし。

とりあえず、誰もいなくなった店内でウチはエプロン付けて清掃をし始める。
羽身が粗方やっとったみたいやし、堺はんの席だけで良さそうや…


阿須那
「…このまま、足止め食らい続けなあかんのか?」


ウチはテーブルを拭きながら、そう思って歯軋りする。
もしかしたら、守連や華澄、女胤たちは先に進んどるかもしれへんのに。
ひょっとしたら、ウチだけがこんな所で止まってんのと違うんか?
せやったら、一刻も早くこんな混沌クリアせなあかんのに!


阿須那
「…うわっやってもうた!?」


ウチはつい手の熱量を上げすぎ、雑巾を燃やしてしもうた。
すぐに水で消化し、ウチはあ〜!と息を吐く。
そしてすぐに項垂れ、ウチは後始末をして厨房に向こうた…
とりあえずコーヒーでも飲んで落ち着こ。



………………………



阿須那
「やれやれ…この世界やとインスタント位しか買えんのよな〜」


ウチはボヤキながらもお湯を炊いてコーヒーを作った。
喫茶店とかやったら専用の機材もあるんやけど、ここやと扱ってへんのよな〜
買おうとしたら羽身に全力で阻止されたし…
まぁ、メニューには入れてへんからな。


阿須那
「…ずず、ふ〜」


アカン…このまま流されそうや。
せやけど、焦っても何も起こらんし反って裏目に出る。
かと言って、聖みたいにどっしり構える気概はウチに無いしな…


阿須那
「…やっぱ、行動せんことにはか」


ウチは、タバコを咥え指を弾く。
すると瞬時に適度な火が点いて、ウチはそれを吸った。
そのまま、店内の窓から外を眺める。
ここはいわゆる高架下にある店で、あまり人の通りは多くあらへん。
定期的に電車の通る音が響き渡り、世界観の構築をウチに伝えてくれるんや。

こんな昭和レトロの世界で、混沌はウチに何を望む?



………………………



羽身
「いや〜勝った勝った〜!! 大儲けや〜♪」

阿須那
「ほな、これで今日は終いや! 羽身、すぐにレジの金数え!!」


両手に様々な景品を抱えながら羽身は嬉しそうな顔で帰って来た。
ウチはそれを確認してすぐに店を閉める。
この食堂は基本夕方までで、ピークの昼時以外は静かなモンや。
せやから、早めに閉めても特に影響はあらへん。
そんだけの収入があのピークに入るからな…


羽身
「…? 店長、何かありましたん?」

阿須那
「あん? 別に何もあらへん…いつも通りや、けったくそ悪い位に!」


羽身は不思議そうな顔をしながらも、景品をテーブルに置いてレジを開ける。
そして楽しそうに金額を確認し、手際良く精算を終えた。
ウチはその間にエプロンを脱ぎ、更衣室に向かう。
そのまま着替えを済まし、ウチは店内に戻った。
寝床はまた別の場所やからな…


阿須那
「どないや?」

羽身
「オッケーでーす、大体いつもと一緒ですね〜」
「ほな、帰りましょか?」


ウチは頷いて一緒に店を出る。
後は羽身がしっかりと戸締まりし、今日は閉店となった。
他の始末はもう先に終えてあるし、問題はあらへんやろ。


阿須那
「…羽身、アンタイベントとか詳しいか?」

羽身
「イベントでっか? 何のです?」

阿須那
「何でもええ、何かデカそうなイベントや」


ウチが歩きながらそう訪ねると、羽身は顎に手を当てながらう〜んと考える。
そして、とりあえず出て来たのが…


羽身
「大食い大会とか?」

阿須那
「アカンパス、絶対無理や…」


守連がおったら楽勝な気もするけどな。
こんな時代設定の日本人にあんなファイターがおるとは思えん!
…おっと、ポケモンやったら話別やな。
流石の守連もサマヨールとかアクジキングとか出られたらアウトやろ。


羽身
「つか、何で急に? 遂に権力に手出そうと欲出たんでっか?」


ウチは無言で羽身のドタマを引っ叩く。
すると羽身の頭から綿毛が飛び散り、ウチの素早さは1段階下がった。
クソッタレ…いつもながら鬱陶しい特性やな!?
ツッコミの天敵やろコレ!


羽身
「むぅ〜! 阿須那はんのツッコミ痛すぎんねん!!」

阿須那
「おのれがアホな事言うからや!!」
「権力なんかに興味あるかっ、こんなクソゲーさっさとクリアしたいだけや!」


ウチはついそんな事を言ってしまうものの、もう遅い。
羽身は?を浮かべながら訝しげにしていた。
ウチはこの際、洗いざらい話す事にする。
今まで成り行きで秘密にしとったけど、案外それが悪かったんかもしれんからな。


羽身
「クソゲーって…何処のメリケン語でっか?」

阿須那
「せやな! こんな時代設定にそんなハイカラな用語無かったわ!!」


ウチは自ら自爆に近いノリツッコミをした。
もう泣きそうや…ようこの2年耐えたなウチ。
マトモにスラング用語も使えんし!


阿須那
「…まぁええわ、よう聞け羽身!」
「ウチは、この世界のポケモンやあらへん!」

羽身
「な、何やってーーー!?」


羽身はワザとらしくポージングして驚く。
絶対信じてへんな…コレは。


羽身
「で、オチは?」

阿須那
「ウチはこの世界から出る手段を探しとる」
「せやけど、どうやってもその出口が見付からんかった」
「もしかしたら、イベントの優勝とかが絡んでるかもしれんのや」


ウチは極めて真面目にそう話す。
今度は羽身も思いの外真面目に聞いとった。
そして改めて考え始める。
パチンコの景品を右手に、それが揺れる音が聞こえた。
やがて、羽身は立ち止まり家の鍵を取り出す。

気が付けばもう自宅に着いとったんやな。
ふたり暮らしで今日までずっと一緒に住んどる安い6畳間のアパートや。
羽身は黙ったまま、鍵を開けて中に入る。
ウチも続いて入り、靴を脱いで畳の上を歩いた。
そして景品の半分を持っとったウチはそれを部屋の隅に置く。


羽身
「…阿須那はん、マジに言うてはるんよな?」

阿須那
「大マジや、何ならこの世界の仕様を見せたろか?」


街から出ようとしたら出られへんからな。
もっとも、羽身が所詮ただの仕様通りに動くモブなら理解も出来へんか。


羽身
「…何でや、ほなコレその為に?」

阿須那
「どないしたんや? そのチラシは?」

羽身
「今日、パチンコ店入る前にチラシ貰ったんですわ」
「コレ…料理大会のチラシ!」


ウチはそれを見て概要を確認した。
料理大会…お題は当日発表、具材は全支給。
勝ったら、全国大会に出場…ね。


阿須那
「おもろいやんけ、確かにコレならウチ向きや!」
「何か、急に某料理漫画みたいな展開になって来たけど、実にウチにピッタリや!」


どっちにしても、じっとしとったら話にならん!
この際、やれる事は全部チャレンジやな!
ウチはチラシをしっかり握り締め、大会への意欲を固める。
これに勝ったら、クリア条件に近付けそうやで!


阿須那
「よっしゃ、早速エントリーや! 羽身、場所何処や!?」

羽身
「えっと…梅田ですわ! 大阪駅のすぐ側でっせ!」

阿須那
「よっしゃ、時間は大丈夫か!?」

羽身
「それは流石に明日ですわ…とりあえず店休んで行くしかありまへんな〜」


ウチはそれを聞いて脱力する。
まぁ、そこまで急がんでもええか…
とりあえず、風呂に入ってゆっくりするかな?


阿須那
「ほな、先風呂入るで?」

羽身
「は〜い、晩酌用意しときますわ♪」

阿須那
「おおきに、頼むわ♪」


今や、酒とタバコは友や。
仕事帰りのコレはホンマ麻薬に近い魅力やで!



………………………



阿須那
「ふんふんふ〜ん♪」


ウチは脱衣所で全裸になり、湯船に入る。
ちなみに水さえ張ってまえば、ウチの火力で即座にお湯や。
こういう所だけは現代科学にも負けへんで!?
ウチはとりあえず全身をしっかりと湯船に浸け、火力を調節していく。

コレはかなり気を使わなアカン…やり過ぎたら一瞬で蒸発するさかいな。
沸騰ギリギリの温度がウチの好みや!

…まぁ、そもそもウチは皮膚の温度も操れるから雑菌ごとき一瞬で焼き尽くせるんやがな!
それでも風呂に入る理由とは…? リラックス効果に決まっとるやろ!!


阿須那
「あ〜…癒される〜」


何だかんだで仕事は疲れる。
自分の料理が人々に認められるのは嬉しいし、やり甲斐もあるんよな〜
とはいえ、あくまでやるのは生きる為に必要やったからや。

本来なら時間の無駄やからな。
ウチは、とにかくこの世界をクリアして次に進まなアカン!



………………………



阿須那
「ふ〜ええ湯やったわ♪」

羽身
「いつも思うんですけど、真っ裸で堂々と畳に座るのはどうかと思います…」

阿須那
「どうせ女ふたりや、服無くてもウチは凍えんしな」


そう言ってウチは先にお猪口を握る。
後は手から熱を放ってすぐに酒を温めた。
こういう時、炎タイプはホンマ楽や。
レンジとか湯煎よりも遥かに早いからな。


羽身
「阿須那はんって、真面目やのに変な所でズボラですよね〜」
「勿体無い…こんなスケベな体したええ女が」

阿須那
「放っとけ! 面倒なモンは面倒やねんから…」


ウチは枝豆をツマミにして酒をチビチビ飲む。
これでも分量は考えとる。
飲みすぎん様にいつもコントロールしとるからな。


阿須那
「お、これ美味いな」

羽身
「塩漬けにして、置いとった奴ですわ」
「しっかり味染みてるし、大成功や♪」


成る程、羽身が仕込んだんか。
ホンマ、こういう所もしっかりしとるんよな〜


阿須那
(それでも、羽身はただの仕様に準じたキャラなだけなんやろな…)


この世界に置いて、ウチだけが異端者なんや。
多分それは、初めからそういう風に設定されてるゲームの舞台。
奇しくも、ウチは家族と分断されてこんな世界に閉じ込められた。

ホンマ、他の連中は大丈夫なんかな?
そんなかんなでウチ等はしっかり酔いが回り、気が付けば夜も深まり就寝する事になった…



………………………



羽身
「阿須那はん、朝でっせ〜!?」

阿須那
「…ん、ああ?」
「もう朝か…目覚まし時計も無いのはホンマ厄介やな」

羽身
「まだまだあんなん普及途上でっせ? お高いお高い!」


そういう時代設定やもんな…
まぁ、幸い羽身はいつも早起きで必ずウチを起こしてくれる。
この2年、お陰で寝坊した事も無いわ。
ウチは全裸のまま布団で寝てたらしく、流石にそろそろ着替える事にする。
下着をしっかりと身に付け、ズボンとシャツを着てから食卓に座った。


阿須那
「おっ、今日は鮭あるやん!」

羽身
「たまたま安いの見付けたんですわ♪」


最近食ってなかったから嬉しいわ。
ここではほとんど和食の朝食やし、やっぱ鮭があると映える!
鯖もええけど、ウチ的にはやっぱ鮭や!



阿須那
「味噌汁もええ味や、腕上げたな〜」

羽身
「へっへん! ようやく関西の味噌汁認めてくれはりましたな?」

阿須那
「流石に2年も飲み続けたら舌も変わるわ…それまでは赤味噌しか飲んでへんかったのに」
「改めて、ウチのキャラ付けテキトーやったんがよう解る!」


つーか、関西弁キャラやのに関東の食べ物ばっか食わされたからな!
こっち来て何気に初めてやで!? 白味噌飲んだん!
後○んち揚げ!! 歌舞伎揚げとどうちゃうねん!?
確かに微妙な味の濃さはあるみたいやけど…


羽身
「っていうか、確かに不思議ですよね〜」
「阿須那はん、バリバリの関西人してんのに関東の食べ物しか知らんとか…」

阿須那
「まぁ、そういう風に育ったからな」
「ちなみに関西弁なんは、後から知ったし」


元々ポケモンだけの世界でその口調やったからな。
ウチに関しては初めからそういう環境で育った結果に過ぎへん。


羽身
「…他所の世界から、か」

阿須那
「まだ、信じられへんか?」

羽身
「この世界は、ゲームの舞台…」

阿須那
「せや、少なくともウチにとってはな」
「クリアして役目終えたら、後はどうなんのか知らん」


ウチは鮭を齧りながら素っ気無く言う。
羽身も少し考えながら、さっさと食事を終えた…



………………………



羽身
「ほな、行きましょか!」

阿須那
「よっしゃ! いざ梅田でエントリーや!!」


ウチ等は意気揚々と電車に乗っていた。
さぁて、これで道が開けばええな…
とりあえず、ウチ等は空いてる席に並んで座った。
そんなに混んでもおらんし、案外乗客少ないんやな…


羽身
「まぁ、1駅やしホンマは地下通ってもええんですけどね」

阿須那
「気分の問題や! どうせなら楽したいやん」


北新地から梅田やからな…ここではまだ大阪駅やけど。
歩いても5分かからんし、ぶっちゃけホンマに気分の問題や!


阿須那
「よっしゃ、もう着くで! これで先に……」


ここで、ウチは壁に突っ掛かる。
壁と言っても、目に見える物ではない。
そう、もう何度も苦渋を味わった、あの憎っくき存在だ。


阿須那
「結局街からは出れんのかい!?」
「何やこのオチは!? フラグちゃうかったんかい!?」

羽身
「え? あれ? 阿須那さん何のネタでっか?」


ちなみに羽身は普通に電車を降りていた。
ウチは完全に壁に遮られており、電車から降りる事は出来ない。
そして、過去に経験したままの現象がまた起こる…



………………………



阿須那
「………」


ガタン! ゴトン! ガタン! ゴトン!


そんな音と共に、ウチは反対方面の列車にワープさせられとった。
ご丁寧に切符まですり替えられとる…随分な心切設計や!
しかし、羽身はおらへん…やっぱ、そういう事なんやな。


阿須那
(…羽身はやっぱ、名有りモブなんか)


ある意味、絶望を突き付けられるよりキツかった。
なまじ、親しゅうなったんはある意味失敗や。
せやけど、ここまで生きられたんはアイツがおったからや!
感謝しとる…せやから、キツい。

どうやっても、ウチはいつかここを去る。
聖がおらん世界では、どうやってもこの世界はゲーム装置にしかならんのや。
最悪、ゲームの仕様として全部消える。
それこそ、初めから何も無かったかの様に…

ウチは、帰りの電車に乗りながらこの世界を呪った。
そして同時に怒りと闘志を燃やす。
混沌の王かなんか知らんが、絶対にぶっ飛ばしたる!!










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第2章 『関西人の阿須那』

第1話 『料理人、阿須那』


…To be continued

Yuki ( 2021/01/07(木) 16:56 )