『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』 - 第2章 『関西人の阿須那』
第9話
羽身
「そこに落ちてるカードを拾いなはれラーズはん、ポーカーでケリ着けたる!」

阿須那
「アホッ! 最後の最後でそんなシンプルなのやるかい!」
「……やらんよな?」

ラーズ
「ご希望であれば、アレンジ込みで変更してもよろしいですが?」


ラーズはんは軽くそう言うも、阿須那はんはええ、ええと手を振って却下する。
とりあえず、確実にウチの出番なんやけど…何やこの雀卓みたいなんは?

ウチは既にそんなテーブルの椅子に座らされており、向かい側にはラーズはんが座ってしもた。
まさか、ラーズはん自ら相手するんか?


ラーズ
「では、ファイナルゲームといきましょうか!」
「羽身さん、麻雀のルールは知っておられますか?」

羽身
「それやったら知っとるで♪ 結構得意やし!」


たま〜に雀荘でお小遣い稼いどるしなぁ〜♪
まぁ、あんまりやり過ぎたら出禁になるから程々やけど…
ちなみに、今回の話は麻雀の専門用語が頻発するんで詳しくしりたい方は各自ググってくれなはれ!


ラーズ
「それでは、今回使うのはこれとなります!」


ラーズはんが何かボタンを押すと、突然テーブルから牌が競り上がってきた。
ウチは驚きつつも、目を輝かせる。


羽身
「何コレ!? いきなり牌が出て来たやん!!」

阿須那
「まぁ、この世界の時代設定で全自動は普通無いわな…」

彼岸女
「だけど、牌が全然足りなくない?」


ウチはそれ聞いて納得する。
確かに、本来なら14牌が配牌されるはずなんやが…手配は9牌やった。
しかも…この牌、麻雀牌とちゃうんやけど?
全部字牌やん…しかも麻雀には無い字。


ラーズ
「ふふ、気付いてるとは思いますが…これは麻雀ではありません」
「羽身さんには解らないかと思いますが、『ドンジャラ』に近いルールです」

彼岸女
「なる程ね、簡略化したルールならそもそも知識はいらない…か」

羽身
「どういう事でっか?」

阿須那
「軽く言うたら、同じ絵の牌を刻子(こーつ)で揃えたら勝ちや」


なーる、この手配は9牌やから3セット作ったらええわけか。
確かにそら簡単なルールやな…


羽身
「せやけど役はどないなるんでっか?」

ラーズ
「今回のルールに役はありません」
「ただ、揃えて…相手の手と比べるのです」
「ここはポーカーに近いルールと言えますね」


ウチ等は全員?を浮かべる。
手を比べる…?
流石に解説が必要と感じたんか、ラーズはんは1度山札を崩してテキトーに手を作ってみせた。
そこにあったんは3種類、3個組の完成された手やが…


ラーズ
「ところで羽身さん、ポケモンのタイプ相性の事は理解していますか?」

羽身
「え!? えっと、そら草は水に強くて炎に弱い…とか?」

阿須那
「おいおい、大丈夫か? せめてタイプ相性の基本位は熟知しとけよ?」


んな事言われても! 実生活にタイプ相性とかいらん知識ですし!!
そんなん、どっかの格闘マニアとか戦争屋の領分でっしゃろ?


ラーズ
「ふふふ…まぁ、そこは羽身さんの知識次第」
「では例を出しましょう、この手配にあるのは電、炎、水」
「現在の羽身さんの手配ですと、揃っているタイプは無し」
「ですので、この場合こちらから3属性のダメージが貴女を襲う事となります…」

羽身
「んげ!? 何それ!?」


ダメージって、いわゆるマジモンのそれよな?
うわぁ〜…何か嫌な予感する〜


ラーズ
「ただ、もし羽身さんの手がこういうのだった場合…」


ラーズはんはウチの手配を入れ換えて、手配を8個にする。
その内、別の字の牌が刻子で2種類揃えられていた。
1種類だけ、2個組やけど…


ラーズ
「これですと、羽身さんの手配は地、岩が2種類揃っています」
「2個組の牌は無効となりますので計算には入れません」
「そしてこれと私の手がぶつかった場合、どっちが勝つと思いますか?」

羽身
「???」

彼岸女
「羽身ちゃんの勝ち…で良いのかな?」


彼岸女はんは即決でそう判断した。
するとラーズはんはエクセレント!と、肩を竦めて褒める。
ウチは全く解らへんかった…


ラーズ
「一応、解説しましょう…まず電気でこちらが攻撃…しかし相手は地面で無効、岩には等倍」
「次に炎で攻撃…地面には等倍、しかし岩には半減」
「最後に水で攻撃…これらは両方に抜群」
「今回、無効は二重耐性の効果で計算しますので、ご注意を…」

阿須那
「二重耐性?」

ラーズ
「要は4分の1で計算すると理解していれば大丈夫です」


成る程…せやったら、えっと〜、うーん…
アカン!! こういうのは苦手や!!
金勘定やったらいくらでも出来るのに〜!


ラーズ
「より解りやすくする為に、数字にしてみましょう」
「電気の攻撃力を100とした場合、無効で25にされ、等倍で据え置き…つまり攻撃力25となります」
「ここで注意ですが、次の炎の計算は前に計算した攻撃力から算出します」
「よって、等倍と半減によりここでの攻撃力は12.5…」
「最後に水も前の計算を引き継ぎますので、12.5から抜群がふたつなので攻撃力50」
「これにより、最終計算では50の攻撃力、ダメージとなるわけです!」


成る程…要は3つのタイプとふたつのタイプ相性を比べるわけか。
ややこしいなぁ〜、世の少年少女たちはどんだけこの属性相関を理解しとんのやら…


ラーズ
「更に、羽身さんからの計算も…こちらは地面が抜群ふたつ、等倍ひとつ」
「同じ数値で攻撃力を計算しますと、400となります」
「更に岩もひとつ抜群、等倍ふたつなので更に倍…」
「つまり800となり、攻撃力50では勝てない計算になりますね」


ふたつのタイプやのに、圧倒的な数値差や…
せやけど、受け手が勝った場合はどないなるんやろ?


ラーズ
「今回の結果では、攻撃したこちらが防がれる形となります」
「この場合ダメージは反射されて相手に返り、50ダメージ受ける事になりますね」

羽身
「…ほんなら、別に先に上がらんでもダメージ自体は与えられるんか」

ラーズ
「その通りです、とはいえ早上がりが有利なのは間違いないですがね」


確かに、相手が壁を作る前に攻めるのが定石。
せやけど、そんな上手くいくかは微妙やな…

羽身
「牌は鳴いてもええのん?」

ラーズ
「今回は禁止とします、ですがロンでのみなら可能とします」

阿須那
「その場合、ツモ上がりとダメージは変わるん?」

ラーズ
「いえ変えません、同じとします」
「ついでにリーチも禁止しますのでテンパイになってもしない様にお願いします」


ホンマに余計なルールは取っ払っとるんやな…
確かに麻雀よりもシンプルやけど、タイプ相性とかはちょっと面倒やで。


彼岸女
「もしかして、全18タイプ分牌はあるの?」

ラーズ
「勿論です、ちなみに全ての牌が排出されるまで流局はありません」
「その場にある山が無くなれば、すぐに次の山が再補充されますので…」
「ただし! 各タイプの牌は計4つまでしかありません」

羽身
「そこは麻雀と一緒やな…せやけど18×4の牌数か」
「あ、せやったらカンはどないなるん?」

ラーズ
「その場合、4個一組として攻撃力の1.5倍の強化に出来ます」


ほうか…カンも暗カンなら有効と。
基本的に同じ字牌を集めていけばええわけやな!


羽身
「よっしゃ! 大体解ったで!!」

阿須那
「まぁ基本はドンジャラやからな…」

守連
「気を付けてね、羽身ちゃん…」


ウチは軽くを手を振って笑う。
要は半分運否天賦や! せやったらウチが負けるかい!!


ラーズ
「ちなみに、勝利条件ですが」
「私に規定ダメージを与えれば勝利とします」
「逆に敗北条件は…」

彼岸女
「羽身ちゃんの、死亡」


ラーズはんはニヤリと笑い、改めてこちらを見る。
いよいよか…説明だけで長いわホンマ。
さて、どないなるかな?


ラーズ
「細かい部分はやりながら説明致しましょう! それでは開局と行きますか!!」


ラーズはんはジャラジャラと全ての牌をテーブルの穴に入れていく。
そして改めてウチ等に配牌された。
ウチの手配は9個…つまり親やな。


羽身
「そういえば、親上がりの方が強いん?」

ラーズ
「いえ、計算には入れない事とします」
「あくまで先行か後攻か位に思っていただければ……」

羽身
「ほなとりあえずツモや、天和(てんほー)」


ウチはそう言って、タンッ…と全ての牌をオープンにする。
そこに揃っている牌は、氷、竜、普の牌や。
普はノーマルでええんかコレ? 竜は間違いなくドラゴンやと思うけど…


ラーズ
「こ、これはこれは……全自動で天和とは恐れ入ります!」

阿須那
「どないなっとんねん、アイツの運は!!」

彼岸女
「な、何か…ラーズが哀れに見えてくるね」


とりあえずラーズはんは自分の手牌をオープンする。
揃っとるのは水だけか…
つまりこの時の計算は…?


ラーズ
「それではダメージ計算ですが、まず私のライフポイント…LPをこちらとします」


そう言うて別のモニターに映し出された画面をウチは見る。
そこにはLP1000と書かれとった。
そして、そこから50引かれて950となる。
大したダメージにはならんのかい!
ちなみに、相性は以下の通りやな…


攻撃側 氷・ドラゴン・ノーマル
防御側 水


これで計算結果は半減扱いになるんやで!?


ラーズ
「フフフ…流石に同じ運は続きませんよ? そして親は交代制ですので、次は私から牌を引かせていただきます!」


そう言ってラーズはんは牌を穴に入れてまた設置し直す。
ウチは自分の配牌を見てとりあえず息を吐いた。


霊霊霊 飛飛水 炎妖


羽身
(無難にリャンシャンテンか…まぁそこそこかな?)


とはいえ鳴きは出来へん、相手の捨て牌見てどの牌が来やすいか見定めんとな…
流局は全部の牌を出し切るまであらへんし、自ずとどちらかの攻撃が成立するはずや。


ラーズ
「………」


ラーズはんはまず最初のツモ牌を捨てる。
水か…つまりラーズはんに水は無い。
ウチが水ひとつ握っとる以上、これで成立はありえんからや。
ウチは無言で山から牌を引く。


霊霊霊 飛飛水 炎妖 悪


羽身
(水切りが安牌《あんぱい》やが、それやと変に手ぇ変えられる可能性もあるな〜)


ウチはそう思い、無難にこの牌を切る事にした。


霊霊霊 飛飛水 炎悪


彼岸女
(妖《フェアリー》切りか…相手に水が無いと踏むなら炎を切っても良さそうだったけど)

阿須那
(一応、反属性対策のつもりか? 妖は通りがええ分対策握られる可能性も高いからな)


ラーズはんは無言で次の牌を取り、すぐに手を入れ換えた。
そして切った牌は…鋼。


羽身
(序盤で鋼切り…こっちが妖切ったの見て切り替えたんか?)


とはいえ鋼は耐性だらけや、基本切るのは愚策にも感じるけど…
何か狙っとるんかな? せやったら深読みせずにスルーするか。
ウチはアゴに手を当てながらも次の牌を取った。


霊霊霊 飛飛水 炎悪 炎


羽身
(来た! これでイーシャンテン!)


早くも流れが向いて来た。
せやけど顔に出したらアカン、こういうのは冷静にポーカーフェイスや。
とりあえず切るのはコレやな…


霊霊霊 飛飛水 炎炎


彼岸女
(タイプ的には何とも言えないか…岩を握られてると反射も有り得るね)

阿須那
(通りも耐性もええ霊《ゴースト》を握ってるのはデカイ…これで飛《飛行》が揃ったら攻撃の通りは最高やが)


ラーズ
「………」


ラーズはんの表情は読めん。
グラサンのせいで視線も見えんしな…
せやけど、相手の心理を探るだけなら手の動作だけでも十分や。


羽身
(その時注目せなアカンのは、相手が牌を取って見た時の手や…)


人間には喜怒哀楽の感情がある。
どれだけクールに装ってても、その人物が持っとる性格、感情はそうそう消せん。
特に、手癖の悪い奴程読みやすい…

ラーズはんは牌を見て、即座にタンッ!とツモ切りした。
ウチはこの時点でそれが危険な臭いやと嗅ぎ取った。


羽身
(まさか、既に張っとるんか?)


ウチはラーズはんが捨てた水を見てすぐにそう判断する。
そして次の牌を取り、水と交換した。


霊霊霊 飛飛電 炎炎


彼岸女
(電《電気》か…握られていると怖いけど)


ウチはラーズはんの次の動作に注目する。
まるで機械の様に同じ動作を繰り返すラーズはんやが、それでも揺らぎは必ずある。
読み取るんや…相手の心理を。


タンッ


羽身
(…炎!?)


ここでまさかの炎切り…これでウチの手は一気に雲行きが怪しくなった。
どうする、崩すか? それとも賭けるか?
このゲームに流局は実質無い、つまり足が遅くなるのが純粋に致命的や。
しかもまだイーシャンテン…せめて張っとったら。

ウチは軽く動揺するも、顔には出さん。
とにかく張るんや! 話はそっから…


霊霊霊 飛飛電 炎炎 飛


羽身
(来た! 張ったで!?)


ウチは即座に電を切る。
これでテンパイや! まだ勝負は解ら……


ラーズ
「ロン! 当たりです♪」


ウチは驚愕する。
今のが当たり…? 張っとった気はしとったけど、まさかこんな所で…


ラーズ
「こちらは普(ノーマル)、岩、電の3属性! それではそちらの手と計算して…」


攻撃側 ノーマル・岩・電気
防御側 ゴースト・飛行


ラーズ
「羽身さんには等倍分のダメージを受けていただきます!!」


ウチは突然全身に痛みを感じる。
まるで外と内から同時に骨を押し潰される様な痛みや。
ウチは思わず意識が飛びそうになるも、何とか耐える事には成功した。
こ、これで等倍ダメージかいな…!


彼岸女
「…飛をツモったのが、完全な悪手になるとはね」

阿須那
「よりによって岩握って電待ちとはな…しかも普で霊を相殺しとる」
「完璧すぎる手やがな…イカサマしとんちゃうか?」

ラーズ
「フフフ…たまたまですよ、運が良かっただけです」


ラーズはんはそう笑って次の場の準備をした。
新たにせり上がって来た手配をウチは確認する。


鋼鋼鋼 地地妖 草草虫


羽身
(イーシャンテン…! ツイとるがな…)


まだまだ運はある、さっきのは天和の反動やろ。
どの道、死なん限りは続けられる。
意識だけは最後まで途切れさせん!


阿須那
(計算的には等倍100ダメージのはずやが、それでも効いとるみたいやな)


ウチはすぐに虫を切る。
ラーズはんはそれを見て炎を切った。
そのまま何順か進み、ウチは遂に草をツモる事に…


鋼鋼鋼 地地 草草草


羽身
(よし、テンパイや…相手の河にも地《地面》は無い)


これで相手に上がられたら最悪やが、ウチの運を舐めたらアカン!
ここまで通ったらなら、次で上がれる可能性は十分や!


タンッ


羽身
(!? 即座に地切り…!! スルーは出来んか!)


ダメージは落ちるけど、四の五の言ってはおれん。
例え微ダメージでも、重ねればええんやから…


羽身
「…ロンや」

ラーズ
「おっと…当たりでしたか」


ラーズはんは軽く息を吐き、手牌を倒して晒す。
相手は闘、氷のふたつが揃っとった。
つまりダメージは…?


攻撃側 鋼・地面・草
防御側 闘・氷


ラーズ
「攻撃力はこちらの方が上…よって羽身さんには抜群ダメージの半分が反射されます!」

羽身
「何…やて!?」


またしてもウチの体に激痛が走る。
ウチは思わず卓に頭から突っ伏すも、歯を食い縛って耐えた。
ク…クソッタレ〜!


阿須那
(あのアホ焦りよった…まだこのゲームの本質に気付いてへんのか?)


ウチは結局、早アガリしただけで何の得もしてへんかった。
そしてここでようやく気付く、このゲームは相性こそが最重要なんやと…


ラーズ
「さて、ゲームを続けましょう…」


再び牌は配られる…
ウチはそれをしっかり見て手牌を確かめた。


毒毒毒 超超草 妖妖炎


羽身
(どうやっても、相性は考えなアカンのか…)

彼岸女
「…阿須那ちゃん、違和感を感じない?」

阿須那
「…? 何がや?」


何やら後ろで阿須那はん達がボソボソ話してた。
何や気になる事でもあったんやろか?


彼岸女
「ここまで、羽身ちゃんにはリャンシャンテン以上の牌しか配牌されてないんだよ…」
「それって、本当に運だと思う?」

阿須那
「…言われてみれば、せやな」
「しかも、ラーズの手も全てオープン時にはそれ以上やった…」
「…っ!? まさか、このゲームは…!!」

彼岸女
「…積み込みが前提のゲームバランスかもしれない」

ラーズ
(フフフ…おふたりは気付きましたか)
(そう、このゲームの隠された仕様です)
(互いの配牌は、確実にリャンシャンテン以上になる様に設定されていますからね…)


ウチはとにかく勝つ事だけを考える。
相性は重要やが、勝てんかったら意味あらへんのやから…!


毒毒毒 超超草 妖妖


彼岸女
(無難な炎切りだね…毒とは弱点が被る以上、切るのは懸命だ)

阿須那
(段々このゲームの全貌が見えてきたわ、やっぱこのゲームただツモればええ訳や無い…)


そのまま、ウチ等は数順をこなす
そしてようやくテンパイしたウチの手配は…


毒毒毒 草草 妖妖妖


羽身
(草待ち…しかも河に草は無い)


ラーズはんの待ちが何かは解らん。
捨て牌からはまるで読めんし…
ちゅうか、こんな特殊ルールで捨て牌見て解るかっ。


阿須那
(焦るなやアホ…苛ついとるのが目に見えるで)


ウチはラーズはんの捨て牌を見て次の牌を取る。
来たのは鋼…なーんか、嫌な予感するで?


羽身
(鋼は耐性重視、あればそれだけで有利に働く)


せやけど攻撃には向かん。
ウチの手には既に妖が揃っとるし、鋼で抜群突けるのは岩、氷のみ…
逆に、これを相手にアガられた場合…


羽身
(毒は鋼に無効…しかも妖に抜群突かれる)


今のウチの手からしたら、危険牌どころの騒ぎやない。
通せるか…? こんな危険牌を…!?
ウチの心臓は激しく動悸する。
このゲームは、命を賭けたデスゲーム…
しかもウチの一手で、仲間全員の命運まで決める大勝負。

そんな大舞台で…これを切れるんか?


ラーズ
「どうしました? 早く何を切るか決めてください…」

羽身
「……っ!」


結局…ウチは、草を切った。
テンパイを崩して待ちを変えたんや。
そのまま次も草を切り、また数順が過ぎていく。
やがて、遂にチャンスは訪れた…


ラーズ
「………」


タンッ!


羽身
(ここで、鋼切り!? しかも手持ちから!)


ようやくやって来た現物…!
ここに来てウチは我慢勝負に勝ったのだと確信した。
そしてウチは更にここで再びテンパイに…


毒毒毒 鋼闘闘 妖妖妖


羽身
(来た…! 格闘待ちテンパイや!)


ウチは迷わず鋼を切る。
するとラーズはんはほんの一瞬だけ逡巡した。
しかしすぐにラーズはんは続けて鋼を切る。
それを見てウチはどっと…汗をかいた。


阿須那
(よう我慢した…こっから反撃や!)


ラーズはんは次の牌を確認し、ツモ切りする。
しかし、それこそがウチの当たり牌やった。


羽身
「ロンや!」

ラーズ
「…ふむ、致し方ありませんね」


ラーズはんの手は、悪、地が揃っとった。
鋼待ちを崩したせいか、残りはバラバラ…さて肝心のダメージはどないや!?


攻撃側 毒・格闘・フェアリー
防御側 悪・地


ダメージ計算結果は4倍の半分で200…つまりLP950から750まで減少!
やったで…こっから一気に攻めきったる!!

そのままゲームは続行…新たな配牌を見てウチは運が向いたのを確信する。


炎炎炎 水水水 草草電


羽身
(バランスもええ基本3属性! しかもテンパイスタートっちゅう最高の手や!)


この手なら炎は岩、竜のみ、水は竜のみ、草なら毒、虫、鋼…と後竜やったかな?
とにかくその辺が確か半減候補や…
そうなると草が邪魔にも感じるな〜

抜群範囲は水と被っとるし、刺さらんタイプが多すぎる。
何よりこれやと竜を握られてたらかなりダメージが抑えられてまうやろ…
せやったら、ここはその対策待ちを狙ってもええかもしれん。


炎炎炎 水水水 草電


彼岸女
(テンパイを崩してでも範囲重視に切り替えるか、良い判断だね)

阿須那
(ようやく頭も冷えたみたいやし、何とかなるか?)

ラーズ
「………」


ラーズはんは草を切る。
これで草は完全に安牌や、同時に水の弱点もひとつ消えた。
電もウチがひとつ持っとるし、これを握っときゃ水は止まらん。
問題は、竜があるかどうかやが…


炎炎炎 水水水 草電 超


次は超(エスパー)か…通りは悪くもないけど。
とりあえずここは草切り安牌や。
ウチはすぐに草を切ってラーズはんの捨て牌を待つ。
ラーズはんは手持ちとツモ牌を入れ換え、捨てた牌は毒…

これで超の抜群はひとつ消えた。
握る意味は無いか…?


炎炎炎 水水水 電超 超


羽身
(チッ…言うてる側から被るんかい)


ウチはすぐにツモ切りする。
ラーズはんも特に反応はせんな…まだ張って無さそうや。
そしてラーズはんはまた手持ちからツモ牌を入れ換える。
…今度こそ、張ったな。


羽身
(しかも捨てたのは3つ目の超…まだ、何とかなるか)


次にウチが引いたのは虫…なので迷わず超を切る。
虫の範囲は、悪だけ…これもハズレやろ。
ラーズはんはすぐにツモ切りし、出て来たのは炎…4つ目やな。
このまま、互いにアガれず数順が過ぎた…



………………………



炎炎炎 水水水 氷氷電


これが、今のウチの手牌…
そしてここまでの捨て牌からして、ウチは相手の手をほぼ絞り込めとった。


羽身
(確実に竜は握られとる、最悪妖もあるかもしれん)


後可能性高いのは電と悪や。
どっちかは当たりやと思うべきやろな…


羽身
(せやけど、ここは無理でも通す!)


ウチは迷わず電を切る。
タンッ!と甲高い音をたてて、それは河に置かれた。
ラーズはんは相変わらず表情を変えんが、手元は若干反応した。
どうやら、アテが外れたみたいやな…!


彼岸女
(確実に危険牌だった電を通した…大した度胸だよ)

阿須那
(これで相手の手に電の線は消えた…せやけど竜を握られてるならダメージはそこまで期待出来んか?)


ラーズはんはまたしてもツモ切り…それは飛。
もう場に出とる牌や、互いに必要は無いな。
互いに張っとるなら、後は現物との戦い…
安全に道路を走るんか、それともあえて地雷源に突っ込むか…


羽身
(…!? ここで…竜か)


ある意味最悪の牌。
間違いなく握られてると予想出来る危険牌や。
せやけど、相手が既に揃えとるなら逆に安牌と化す。
ルールで鳴きが許されん以上、明(みん)カンは有り得んからや。
つまり、ここでの決断は生きるか死ぬか…
ウチは、あえて地雷源に足を突っ込んだ。


タンッ!


ラーズ
「……!」


あのラーズはんが、遂に動揺した。
ウチは確信する、これは通ったと!


守連
「な…何か空気が重い!」

阿須那
「そん位重要な場面っちゅうこっちゃ…」

彼岸女
「ああ、そしてチャンスはきっと来る」


ラーズはんは山から牌を引き、ツモ切り…
特に何でもない牌であり、ウチは無視して牌をツモる。
そして来た牌は……


羽身
「ツモ! これでどないや!?」

ラーズ
「…お見事です」


ラーズはんの手は竜、地で悪待ちやった。
そこまでダメージはいかんやろうけど、この勝ちは大きいで!


攻撃側 炎・水・氷
防御側 ドラゴン・地面


彼岸女
(4倍扱いで相手のLPは750から350に…ようやく残り3割5分か)

羽身
(ウチが後どこまで耐えられるかは正直解らん…)


もしかしたら次で死ぬかもしれん…
耐えても精神はガタガタになるかも…
せやけど、それは負けたらの話や。


羽身
(ことギャンブルにおいて、ウチが負けるかっ!)


ウチは強い意志を持って、次の局に身を投じる。
絶対に負けられへん勝負…それをウチは制する!



………………………



羽身
「………」

ラーズ
「………」


互いに無言のまま、牌を置く音だけが何度も響き渡る。
ギャラリーすらも息を呑み、場の緊張感は高まるばかりやった…


羽身
「ロン…」

ラーズ
「お見事…では計算を」


あれから数局が進み、ウチは徐々にラーズはんを追い詰めとった。
この時点でLPは150…ようやく一撃圏内に入りつつある。
ただ、不気味なんはラーズはんがアレから一切ブレへんかった事やな…


羽身
(一体何なんや? 負けとるっちゅうのに、まるで構へんって感じやがな…)


少なくとも、ここまででウチは2回しか被弾を許してへん。
対してラーズはんは連続被弾や。
いくらウチの体力次第とはいえ、もう少し焦る位の動作は見せて欲しいんやけどな〜


阿須那
(ここまでの羽身は、あくまで早アガリの運ゲーで勝ってるに過ぎへんからな…)

彼岸女
(タイプ相性はあくまで副次要素と割り切った打ち方だよね…)


ウチはそれでも打ち方を変える気は無かった。
タイプ相性が重要なんは解ってる…せやけど、守りに入るのはウチの性分やない!
やるからには攻めてナンボや!!



………………………



羽身
(この局面…確実に張られとるが)


毒毒毒 鋼鋼鋼 氷氷 超


これがウチの手配。
テンパイ氷待ちやが、どないするかは悩む所やな…


羽身
(奇しくも毒と鋼は地で取られる、せやけど氷は地に抜群や)


攻撃性能のイマイチな毒鋼と逆に防御イマイチの氷…
相手の待ちは、恐らく地か岩…
超自体は安牌やと思うが…さて?


ラーズ
「………」


ラーズはんは超切りを見ても反応無し。
そのまま次の牌を手に取って即ツモ切りした。
その牌は岩…


羽身
(岩待ちが消えたか…こら、こっちの鋼は読まれとるな)


多分毒も読まれとる。
せやから地は絶対に切れん…引いたらかなり最悪になる。


羽身
(頼むで〜)


ウチは祈りながらも牌を手にする。
そのまま横目でそれを確認し、ウチは目を細める。


毒毒毒 鋼鋼鋼 氷氷 闘


羽身
(ここで、闘かいな…!)


奇しくもここまで出てない牌や。
と、なると…これも危険牌な可能性が高い。
下手に振り込んだら等倍ダメか…


阿須那
(万が一相手に持たれてたら、氷が完成しても反射の危険が付き纏う…)

彼岸女
(あくまで闘は攻撃向きだ、防御には向かない)


ウチは自分の牌を見てタイプ相性を考える。
この手でやられたら嫌なんは…
とにかく地や! 問答無用の4倍弱点…下手に攻撃したら反撃で死ぬかもしれん。
時点で闘か…既に完成されてるなら安牌やが、逆に攻め手を失う。
そして、そうなってる場合…ウチは八方塞がりに近いっちゅうこっちゃ。


羽身
(攻めても逃げても、ダメージ確定…!)


勿論、先にアガられるのは論外や…そうなったら間違いなくウチは死ぬ。
と、なると…手は自ずとひとつしかない。


羽身
(幸か不幸か、ウチの手は攻撃に向かん)


恐らく、反射されてもそんなダメージにはならんと思いたい。
ええとこ等倍、上手くいきゃ半減以下で反射されるかもしれん。
そうなったら、体よく生き延びて仕切り直しや!

ウチはそう思って迷わず闘を切る。
ラーズはんは反応無し…待ちや無かったな。


阿須那
(あのアホ割り切る気か!? そこは毒か鋼切ってでも崩すべきやろ!)

彼岸女
(ハナから逃げる事は不可能だと判断したか…英断かもしれないけど)


ラーズはんはまたしてもツモ切り…落としたのは氷や。
ウチはそれを見逃さん、寧ろ待ってましたやで!


羽身
「ロン!」

ラーズ
「…お見事、それでは計算を」


攻撃側 毒・鋼・氷
防御側 地・水


ウチはほくそ笑む。
予想通り、反射確定…そして結果は2重半減!
しかもロンアガリやから更に半分…これなら耐えられるやろ!


ラーズ
「では、羽身さんにはダメージを!」


ウチはそれでも歯を食い縛った。
そして、体内で嫌な音が鳴ったのを聞いてウチは冷や汗をかく。


羽身
(やったか…肋骨!!)


多分、2発目食ろうた時点でヒビは入っとったからな…
ここいらが、限界やろ…


阿須那
(もうミスは許されんぞ? あの顔、肋骨が内蔵に刺さったって所か?)

彼岸女
(最小限に抑えたのは良いけど、蓄積した骨へのダメージは深刻だったみたいだね…踏ん張り時だ!)

守連
「頑張って、羽身ちゃん!」

タイナ
「…羽身さん、大丈夫なのですか?」


背後からタイナはんの声が聞こえる。
どうやら、目ぇ覚めたらしい。
前のゲームから眠っとったからな。


阿須那
「多分、そろそろオーラスや」

タイナ
「…? オーラスとは…?」

彼岸女
「まぁ、例えだけどね…本来は最終局面って意味」


このゲームにはオーラスなんてあらへんからな…
せやから阿須那はんも多分…って言うてるんやけど。
このゲームのルールやと、下手したらまだまだ延びる可能性もあるからな。

まっ、ウチはそこまで長引かせる気ぃあらへんけど♪
ウチは口から血を滴し、ニヤリと笑う。
ラーズはんも動揺に微笑し、無言で牌を再セットする。

恐らく、コレがオーラス。
そんな局面、ウチの手牌は……


草草草 地地地 妖妖 悪


羽身
(テンパイスタート! ツイとるでやっぱ!)


ウチは確信する、確実にアガれると。
せやけど安心は出来ん。
返される可能性はあるんやから…


羽身
(えっと…一応反射される場合のタイプ考えとこ)

阿須那
(炎と鋼やったら、完全に反射されてあの世生きか…)

彼岸女
(だけど、一発ツモなら通せる可能性は大だ)


炎と鋼…最悪のパターンはそれや。
そうなると、草は最悪切った方がええ。
悪は通りもええしな。


羽身
「……」


ウチは、草を手にして止まる。
直感や…コレだけは切ったらアカンっていう。
あくまでただの勘…せやけどそれはウチにとって第六感同然な直感や。
今まで、勝負事に負けた事は殆どあらへん。
今回も…きっとそうや!


タンッ!


甲高い音を響かせ、ウチは悪を切る。
ラーズはんは反応せずに牌を引いて、そして切った。


羽身
(水切り…か)


ラーズはんが切った牌は水…それもツモ切りの。
つまり、水は持ってへんのか?
せやけどまだ開幕や、裏あるかもしれへんな。
ウチは口に溜まった血をペッ!と左手に吐いた。
それを見て、無言でタイナはんがウチの側に水の入ったコップを置いてくれる。


タイナ
「…構いませんよね?」

ラーズ
「ええ、別に仕込んではいないのでしょう?」

羽身
「…?」


何の事か解らんけど、タイナはんは手拭いをウチに渡してくれる。
ウチはそれで手を拭き、コップの水を一口だけ飲んだ。
少しだけ…楽になったわ、おおきにやでタイナはん。


羽身
(とにかくアガる事を考えるんや…!)


ウチは次の牌を無言で引く。
動く度に腹がズキズキする…やっぱ長くは持ちそうにないわ。


草草草 地地地 妖妖 地


羽身
「!! カン!」

ラーズ
「…む、それでは牌は全て裏のままセットしてください」

阿須那
「全部隠すんか? せやったら最後まで何かは解らんままなんやな…」

彼岸女
「本来なら明カンは牌をふたつオープンにするからね…」


ウチはここで地をカンし、地4枚を全て裏のまま場に置く。
そしてカンのルールにより、もう1枚牌を引く権利を得た。
そして来たのは…妖!


羽身
「………」

阿須那
(よしアガリや! カン込みのツモ、確実な強打になるはず!)

彼岸女
(ラーズの顔はブレない…まさか張ってる? だとしたら危険すぎる!!)


ウチはまた直感を感じる。
違う…これはアカン。
まだ、その時や無いんや!


阿須那
「ラーズ…そういや聞き忘れとったけど、フリテンはあるんか?」

ラーズ
「いえ、ありません」
「してたとしても、遠慮無くロンを宣言していただいて結構ですよ♪」


阿須那はんはウチを気遣ったんかあえて自分から聞いてくれる。
ウチから聞いとったら怪しまれるさかいな…
ウチは更にそこでツモ牌の妖と手牌の妖をあえて入れ換えてから牌を切る。

河に置かれたのはどっちにしても妖やが…見た目からフリテンしとる様には写らんやろ?


ラーズ
「…ふむ」


ラーズはんはそれでも訝しんだ。
口元に手を当てて考えとる。
まぁ、振り込むかどうかは微妙やな…


羽身
(せやけど、手を崩してまで残り1枚の妖を握るなら勝ち目は薄いで?)


ウチは最悪最後まで待つ。
それが切られるのをな…!
いわばこれは耐久戦…ウチは死ぬまで当たりが来るのを待つ。
…もっとも、ウチの勘が外れとるなら勝ち目は0やがな!


ラーズ
「………」


ラーズはんは暫し悩んだ後、牌を引く。
そのままツモ切り…多分張っとるはずや、せやから手を崩すのはあまり考えられん。
切られた牌は竜…どうでもええな。


羽身
「……」


ウチは無言で牌を引く。
そこにあった牌はまさかの…!


羽身
「カンや!」

ラーズ
「…!」


あのラーズはんが遂に口元を歪める。
アレは相当予想外って顔やな!
ウチはほくそ笑んで草の牌4枚を場に置いた…さて、読めてようがもう関係無いわ。
このまま、その時まで待つ!!

後は……


羽身
(運否天賦…死なばもろともやで!)


ウチはもう1枚追加で引き、それを即ツモ切りする。
ラーズはんは反応無し…そしてラーズはんが新たな牌を引いてピタリと動きを止める。


羽身
(クックック…やらかしたな?)


ウチは思わず笑ってもうた。
ラーズはんは、明らかに引きよったんや!
完全なる地雷、いや核爆弾を!


ラーズ
(…羽身さんのダメージは大きい、ジワジワと追い詰めれば勝手に死ぬでしょうが)
(それでは、主の意にそぐわない…)


ラーズはんはため息をひとつ吐き、肩の力を抜いた。
ウチは?を浮かべながらも、そのまま無言でタンッ!と置かれた牌を見て驚く。


羽身
「!? …ロ、ロンや!」

ラーズ
「お見事! それでは計算に入りましょう!」


ウチ等は互いに手をオープンにし、計算に入る。


攻撃側 草 ・地 ・妖
防御側 炎・水


阿須那
「…ち、面倒な相性やな!」

彼岸女
「計算上…羽身ちゃんが2.25倍、ラーズは2倍だね」
「合ってる?」

ラーズ
「ええ、その通りです」
「カンは攻撃時のみの計算で使用しますので、結果はそれで大丈夫です」
「1.5倍の計算は、タイプ一致計算とでも思えば解りやすいでしょう」

羽身
「えっと〜? つまり…どうなるん?」

阿須那
「ホンマもんのアホかっ、この場合タイプ一致やったら最終ダメージに載せりゃええんや」

タイナ
「成る程、それでは草で等倍、地面で抜群、フェアリーで半減…」
「つまり結果は等倍ですが、タイプ一致をふたつ所持しているので結果は2.25倍…と」


あ、なーる。
う〜ん、やっぱウチこういう計算苦手やわ〜
ちゅうかメタな話、本家ゲームの計算を理解しろて言う方がおかしいと思うんやけどね!?
まぁ、その辺はネタ混じりやし別にええか…
ちなみに原作のダメージ計算やと技威力に補正やからな!?


羽身
「とにかく…勝った〜」


ウチはそのまま椅子からズリ落ちて床に落ちる。
そのままウチは意識を失ってもうた……



………………………



ラーズ
「お見事でした! まさか本当に全勝なさるとは思いませんでしたよ!!」

彼岸女
「…本気で言ってるのかい? 私にはそうは思えないけど」


「ふぁ〜終わったの?」


全てが終わったタイミングで雫は欠伸をして目を覚まして私の体から出て来た。
食事してからすぐに寝てしまってたからね…


ラーズ
「フフフ…まぁ、どう捉えるかはご自由ですが」
「これは、あくまで私は主が楽しませる為に企画した事!」
「そしてそれが達成されるのであれば、勝ち負けは二の次で構わないのです…」


その言葉と共に、パチ…パチ…パチ…とゆっくりしたリズムで拍手が起こる。
私たちはその音の方を見ると、思わず絶句してしまった。
あ、いや…これ言葉にはとても出来ないんだけど、い、言って良いのかな!?

流石の阿須那ちゃんも固まっちゃってるよ!?



「とりあえず服を来なさいよこのド変態!?」

ラーズ
「カーーールラ様ーーー!? そこまでお脱ぎになる必要はありませーーーん!!」


おお、あのラーズが思いっきり取り乱してる。
そしてそのまま目にも止まらぬ速度でカルラを捕まえて別室に連れ込んだ…


阿須那
「何なんやあのアホは? ホンマにライバルポジの敵か?」

彼岸女
「天然なんだろうけど…ホントに何考えてるのか解んないよ〜」


私は思わず頭を抱えて俯いた。
まさか素っ裸になってるとは思いもしなかったよ!
スタイルは何気に良かったな…ちょっと悔しいかも。
そして、数分後…可愛らしい普段着に身を包んだカルラがラーズと共に現れる。


彼岸女
「ギャ、ギャップが…!」

阿須那
「あの無骨な鎧女がフリフリの付いたドレスやとぉ〜? 許せるなっ!!」

守連
「わぁ〜可愛い〜♪」


カルラは?を浮かべながらもダルそうに首を傾げる。
髪にはリボンの付いたブローチも付けており、中々の破壊力だった。
ホンット性格で損してるよね!


ラーズ
「ゴホンッ! お見苦しい所をお見せしてしまいました!!」

阿須那
「アンタも相当苦労しとんのは理解出来るわ、せやけど勝負は勝負!」
「文句は無いな!?」


阿須那ちゃんがそう言うと、ラーズはクスクス笑いながらも頷いた。
そしてやや身を引いてからカルラを促し、横目にこう言い放つ。


ラーズ
「勿論ですとも! 主はご覧の通り大満足なされました!」
「あまりに満足しすぎてやや奇行に走られてしまいましたが!!」

カルラ
「……だって、負けたら脱ぐのは鉄則」

阿須那
「脱衣麻雀かっ!! そら男なら喜ぶけどな!?」


確かに、ラーズ以外は全員女なのに脱いでもなぁ〜
ラーズを喜ばしてどうするの?って話だよね〜
…聖君が相手じゃなくて良かったよホント!


ラーズ
「とにかく…貴女方の勝ちは明白! 報酬として次の世界への道をどうぞ!」


ラーズがそう言って指パッチンすると、何も無い場所から突然光の扉が開かれた。
私たちはギョッとするも、世界は別に粒子化していない。
前の世界とは…反応が違う?


タイナ
「…この扉の向こうに別の世界が?」

守連
「ねぇ、彼岸女さん…この世界って造られた物なんだよね?」

彼岸女
「…だと思ってたんだけど、もしかしたら根本的な思い違いをしているのかもしれない」


私はある程度の推測を立てるも、まだ答えには辿り着けそうにない。
そんな私たちを見て、ラーズはクスクス笑う。
そして口元に手を当て、斜に構えながらこう告げた。


ラーズ
「…ひとつだけ、ひとつだけヒントをあげましょう」

阿須那
「ヒント? 何のや?」

ラーズ
「これから貴女方が辿り着く全ての世界は…共通した事がひとつだけあります」
「そして、それに気付いた時…世界は真のクリア条件を満たす、という事です」

彼岸女
「真の…クリア条件!?」

タイナ
「…私の時は、世界の真理に気付いた時でしたね」

守連
「空が無かったって、あの事だよね?」


確かに、タイナの世界でのクリア条件はタイナの研究を達成させる事だと私は思い込んでいた。
つまり…本当の条件って言うのは?


ラーズ
「ここから先は、ご自分たちの頭でお考えください」
「それでは、我々はお先に失礼します…」
「次に会える日を心待ちにしていますよ!?」


そう言ってラーズたちは霧に包まれて消えてしまう。
私たちはやや呆然としながらも、扉を潜る事はまだ出来なかった。


彼岸女
「…この世界は、まだ真のクリア条件を満たしていない?」

阿須那
「共通する、何か…か」

守連
「だけど、この扉を潜ったらクリアにはなるんだよね?」

タイナ
「…私には細かい事が解りませんが」
「もしかしたら、羽身さんの事が鍵なのでは?」


私たちは羽身ちゃんに注目する。
今はタイナに治療されて寝ているけど…羽身ちゃんが、鍵…か。


阿須那
「…コイツは、あくまで造られたプログラムやろ?」

守連
「そ、そんな…羽身ちゃんは本物だよ〜! ほ、本物って言い方して良いのか解らないけど!」

彼岸女
「…それその物の考え方が、 間違っていたのかもしれない」


私も、阿須那ちゃんみたいに考えていた。
タイナの時同様、世界は全て造られた物であり、王の造ったプログラムだと。
事実この世界には境目があり、箱庭である事は証明済み。
阿須那ちゃんはそこから決して出る事は出来なかったんだから…


阿須那
「…そういや、羽身の奴は電車降りれたんよな?」

彼岸女
「…? 何の話?」

阿須那
「いや、ちょっとした試しで羽身と一緒に電車乗って移動したんや」
「せやけど、ウチは電車から降りれずそのまま逆走する車両にワープさせられたんや…」
「その時、羽身はおらんかったけど…羽身は確かに車両から降りとった」
「あの時一緒にワープせぇへんかったんは、羽身がモブやから…って思うとったんやが」

彼岸女
「…確かに他のモブ同様、プログラムされた処理で移動してるのは確実だと思うよね」
「だけど、こう考えられないかい?」
「そもそも、移動制限をされてるのは私たち『異物』だけだと…」


阿須那ちゃんはハッ!?となる。
そう、考え方が違うんだ。
私たちは、あくまで異物と考えるべきだと。


タイナ
「…つまり、阿須那さんはあくまで外からの異物であり、羽身さんは違うと?」

彼岸女
「一応、それが推測出来る可能性なんだけどね…」


「ふん、なら本人に確かめてみれば良いじゃない」
「この世界の外の事を!」


雫は身も蓋も無い事を言い出す。
それを聞いて解るなら阿須那ちゃんも初めからやってるって言うのに。


守連
「あ、あれ!? きゅ、急に世界が…!!」


私たちは呆気に取られながらも、世界が粒子化していくのに驚く。
一体、何がキッカケなんだ!? 私たちは、何の条件を満たした!?



「…彼岸女、夢を見せなさい!」

彼岸女
「な、何だって!? 何で急に!!」


雫の目は冷徹ながらも、真っ直ぐだった。
雫は何かを確信している…そして、それが今力を使う時だと?
私は躊躇しながらも、開かれたままの扉を見る。


彼岸女
(まさか…この扉自体が偽物《フェイク》!?)



「もう時間は無いわよ!? 私を信じるか、敵を信じるか!」
「自分に聞いてみなさい!」


私はそれを聞いて決意する。
なら、信じてやろうじゃないの…!
そして、全部救えば良いんでしょ!?
だったら…絶対にやってみせるさ!!


彼岸女
(皆を…世界に渦巻く悪意から救ってくれ!!)


『その願い、叶えてあげるわ…』


瞬間、雫は全身を光輝かせて粒子化する世界から私たちを包み込む。
そのまま私たちは光に目を奪われ、何も見届ける事無くその場から消え去るのだった…

果たして、私の選択は間違っていなかったのか?
この先は、本当にあるのだろうか?
…それでも、今は信じる事にした。

きっとそれが、聖君と同じ選択だろうから……










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第9話 『羽身、地獄のタイプ相性ドンジャラ!』

第2章 『関西人の阿須那』 完


…To be continued

Yuki ( 2021/07/04(日) 16:43 )