第2章 『関西人の阿須那』
第7話
彼岸女
(さて…ようやく2戦目も終わった訳だけど)


良くも悪くも、見ている方は心臓に悪い。
ここまでで阿須那ちゃんは大量出血で死にかけたし、守連ちゃんは酸素欠乏症で今もダウン中だ。
こんな調子でゲームを続けるとなると、終わる頃にはどうなるやら?


阿須那
「…で、次は何をやらせる気や?」
「いくら何でも、こんなペースで何時間もやらされるとなるとかったるいで?」

ラーズ
「ふむ、そうですね…確かに先程の人生ゲームは少々冗長過ぎましたか」
「でしたら、次はシンプルに…コレはいかがです?」


そう言って怪しく微笑むラーズが私たちに見せたのは、ただのトランプ。
それもまだ未開封の物であり、セキュリティーシールもそのままだ。


彼岸女
「…で、それを使って何を? 定番のポーカーとかブラックジャックかい?」

ラーズ
「流石にそこまで定番ゲームはやりませんよ」
「ハイ&ロー等はいかがですか?」


ハイ&ロー…別名ビッグorスモール。
自分の出したカードが相手の数字よりも上か下かを当てるだけのゲームだね。
それだけだと極めてシンプルなルールだけど…それだけでやるつもりはないだろう。
果たして、どんな特殊ルールを入れてくる?


羽身
「とりあえず、説明!」

阿須那
「まぁ、実際にやってみた方が早いやろ…つーかルール知らん時点でアンタは見学や」

羽身
「うう…何かそればっかですやん」

タイナ
「私も初めて見ますね…そもそもトランプとは?」

彼岸女
「やれやれ…前途多難だね」


ある程度予想はしてたけど、やっぱり知識の壁は大きい。
羽身ちゃんは時代にあった遊びしか知らないし、タイナはそもそも育った世界観が違う。
ただのトランプと言っても、通じる訳じゃないんだよね…


ラーズ
「ふふふ…先に細かいルールを説明しましょうか」
「今回、使うカードは互いにジョーカーを含めた14枚!」
「それも、1〜13までのカードをそれぞれ1枚づつ配らせていただきます!」

彼岸女
「…その手札だけで、ハイ&ローか」


ラーズはその通り!と言って笑う。
つまり、限られた手札から互いにカードを出し合って大小当てる…って感じかな?


ラーズ
「まず、配られた手札から互いに1枚づつ同時に出し合います」
「後はプレイヤーがハイかローかを決める…」
「当たれば成功、外れればペナルティを受けていただきます!」

阿須那
「で、そのペナルティは?」

ラーズ
「…今回はコレを飲んでいただきます」


そう言って、近くのテーブルにひとつの小瓶を置くラーズ。
中身は無色透明であり、液体なのは間違いなさそうだ。


ラーズ
「これは、いわゆる毒薬です」

羽身
「毒ぅ!?」

タイナ
「…効果の程は計りかねますが」

ラーズ
「致死性は高いですが、これは相当な遅効性です」
「1本で十分人ひとりを殺せますが、それだけですと死ぬまでには1時間程かかります」
「そしてその前にこちらの解毒薬を飲めば、この毒は綺麗さっぱり無くなるという訳ですね」


そう言って、懐から新たな小瓶を出したラーズ。
どうやらそれが解毒薬の様で、それぞれ毒と対になっているみたいだ。
薬の方は解りやすくする為か、黄色っぽい液体になってる。


彼岸女
「毒、ね…それがワンミスで1本?」

ラーズ
「そうです! そして手札の14枚全てを使い切り、生き残った暁にはゲームに勝利し、この解毒薬をプレゼントいたしましょう!」

阿須那
「要は、毒飲んでても1時間以内に決着着けられたらええ訳か」

ラーズ
「そういう事です…まぁ、理解を深めて貰う為に1度実践してみましょうか?」


ラーズはそう言ってフフフと微笑し、トランプの封を開けて中身を取り出した。
そしてカードを確認した上で、14枚のカードを取り出して場に置く。


ラーズ
「それでは阿須那さん、カードを確認していただいても?」

阿須那
「ええやろ…」


阿須那ちゃんは頷き、無言で14枚のカードを確認して、その後ラーズを見る。
特に変哲も無さそうなカードだけど…?


阿須那
「ハートのAからKまで、後はジョーカーが1枚やな」

ラーズ
「はい、それではこちらの手札もご確認ください」


そう言って開示されたラーズの手札は、クラブのA〜Kまでのカードとジョーカー1枚だった。
これだけ見ると、対等の手札だけど…


ラーズ
「それでは、その手札の中から1枚を選んでください」
「当然ですが、相手に中身は見られない様に…」


そう言ってラーズは手札を軽くシャッフルし、そこから無造作に1枚引き抜く。
見た目はランダムに引いたみたいだけど…
対して阿須那ちゃんはそれを見てからシャッフルし、1枚選んで引き抜いた。


ラーズ
「それでは、この選択したカード同士で勝負を開始します」
「なお、1度使用したカードは2度と使えませんのでご注意を!」

阿須那
「なぬ!? それは先に言わんかい!」

ラーズ
「まぁまぁ、これはあくまでチュートリアルですので…」


どうやら阿須那ちゃんは早くもハメられた様だ。
まぁ、予想はしてたけどね…
っていうか、このルールで同じカード連続で使えたらゲームバランスも何も無いし。


ラーズ
「それでは阿須那さん、カードをそのまま場に置いてください」

阿須那
「………」


互いにカードを場に置き、これで2枚のカードが裏面同士で相対した。
後は、阿須那ちゃんがハイかローかを当てれれば良いわけだけど…


ラーズ
「では、カードをオープンにして宣言を!」

阿須那
「ハートのK! 当然ハイや!」


その言葉を聞き、ラーズは微笑しながらカードをオープンする。
その数字はA…1と同義だから間違いなくハイだね。


ラーズ
「ちなみに、この場合AはKよりも強い札という事にします」

阿須那
「なぬ!? 下克上かいな!」

ラーズ
「もちろん逆も然りです、AはKにローで勝てませんので」

タイナ
「成る程、互いに最強の手札は最弱の手に負けるという事ですね」

ラーズ
「その通り…その方が駆け引きは面白くなるでしょう?」

阿須那
「…ほな、ジョーカーはどういう扱いなんや?」

ラーズ
「ジョーカーは文字通り、ハイであろうがローであろうが、全ての札に勝ちます」
「ただし、ジョーカー同士で相対した場合はプレイヤーの負けとさせていだきます!」

羽身
「何やそら!? 引き分けとかは無いん?」

阿須那
「そらハイ&ローやからな…同点やったらハイでもローでも無いんやし当然やろ」


確かに、普通のハイ&ローならそうなるね。
だけど、このゲームは普通のゲームじゃない。
負けという事は、それだけでペナルティを負う!


タイナ
「互いに同じ手札…という事は、残したカードも互いに把握出来る訳ですね」

ラーズ
「そういう事です、大体ルールは把握出来ましたか?」

彼岸女
「死ぬまでには約1時間、その前に解毒薬を飲まなければ確実に死ぬ訳か」

阿須那
「ちゅうか、解毒薬ってどこまで有効なんや?」
「毒薬何本飲んでても治せるんか?」

ラーズ
「解毒自体は何本飲んでいてもほぼ完治出来ますよ?」
「ただ補足しますが…毒薬は飲めば飲む程、致死時間が短くなります」
「およそ5本も連続で飲めば…まずその時点で死にますね」


私たちはそれを聞いて緊張感を高めた。
つまり、遅効性と言ってもそれは1本だけならという条件付き。
最悪、2〜3本ですらいつ死ぬか解らない危険性があるのだ。
それを治す解毒薬はゲームに勝利しなければ手に入らない。
コレは中々…シンプルに恐怖だね。


ラーズ
「さて、それでは本番を始めましょうか?」
「さぁ、誰がプレイなさいますか!?」


ラーズは相変わらずの大袈裟なポーズでそう煽ってくる。
私は他のふたりを見て、とりあえず前に出た。
というか、他のふたりにはあまり任せられない気がする。


彼岸女
「…私がやるよ、それが無難そうだ」

阿須那
「ええんか? この先複雑なルールのゲーム来たらややこしなるで?」

彼岸女
「まぁ、ペナルティがペナルティだからね…」
「私はタイプ的に毒耐性あるし」

阿須那
「…ああ、それやと確かに他ふたりは避けた方がええわな」


結局の所、それが結論だ。
いくら何でも、毒弱点のふたりにコレやらせるのは怖すぎる!
…とはいえ、タイプ相性の耐性がどこまで意味あるのか解らないけどね!
毒タイプのポケモンならノーリスクだったんだろうけど…


ラーズ
「それでは、彼岸女さんがプレイヤーで構いませんか?」

彼岸女
「良いよそれで…時間も惜しいし、早くやろう」


「…彼岸女、解ってるんでしょうね?」


突然、雫が後ろから近付いて声をかけてきた。
表情はいつになく真剣で、私に何かを訴えかけている。
意味は…何となく理解はしていた。


彼岸女
「…まっ、何とかするよ」
「死んだら、そん時は別の宿主探して」


「それじゃ遅いわよ、貴女が死ぬ前に見限るわ」
「精々、見限られない様にやりなさい…」


雫の目は無情だった。
あくまで私は体の良い移動手段みたいな物…
雫にとっては、私は目的を果たす為の代替案でしかないのだから。



………………………



守連
「…そう、次は彼岸女さんが」

阿須那
「ああ、体調はどないや?」

守連
「まだ少しダルいけど…動けなくは無いよ」


守連は近くにあったソファーで、ひとり休んどった。
仮死状態でギリギリまで耐えとったからな…まだ脳が酸素不足でそらダルいやろ。
むしろ蘇生出来たのが運良かった位やし。
改めてゾッとするわ…


守連
「…彼岸女さん、勝てそうなの?」

阿須那
「さぁな、自信はあるみたいやけど、ルールがルールやからな…」
「それより、アンタは彼岸女に対して何も思わんのか?」


ウチがそう尋ねると、守連は少し暗い顔をする。
元々守連は甘すぎる女や、多少のイザコザは無しにしてしまうやろうけど…
今回の一件は多少の騒ぎやない、あの聖の生死に関わった事件や。
ウチかて今の所不問にしとるけど、完全に許したつもりはあらへん。

少なくとも…信用出来へんって程でも無いしな、今は。


守連
「彼岸女さんも、ただ聖さんが好きなだけだから」

阿須那
「……ほうか」


つまる所、ウチ等と同じっちゅう訳か。
ホンマ甘いな、守連は。
ウチは、流石にそこまでキッパリとは割り切れんわ…



………………………



ラーズ
「それでは、ディーラーはこのロボに任せます」

彼岸女
「前に戦った奴と同じタイプの奴だね…」

羽身
「いわゆる量産型!」


テーブルを挟んで私の向かい側、座っているのはあのコテコテロボだ。
見た目的にも阿須那ちゃんが戦ったのと同型みたいで、いわゆる自律思考のアルゴリズムで動くロボみたいだけど…


ラーズ
「まずはカードを配りましょうか…彼岸女さん、好きなマークはありますか?」

彼岸女
「…なら、スペードで」


私がそう言うと、ラーズは新品のカードを私に配る。
それ等は全てスペードで構成されており、私の手札というわけだ。
そして、ロボの方にも同じ枚数のカードを配る。
その際、こちらに全ての手札を開示し、不正が無い事を私は確認した。

相手は全てダイヤの手札…さて、ここからが本番だ!


ラーズ
「それではゲームを始めます! まずは1本目!!」
「さぁ、まずは最初のカードを選んでください!」


私たちはほぼ同時に動き出す。
そして互いにカードをシャッフルし、そこから最初のカードを抜き取った。
さぁ、まずは初戦…手堅くいきたい所だね。
相手の思考パターンも解らないし、ある程度無難な手で勝負だ。

私はそう思い、カードを1枚伏せて場に置いた。
ロボは既に選択しており、表情からは当然何も読めない…
もしアトランダムに選択して来るとしたら、かなり危険だね。
相手がジョーカーだった場合は負け以外無いし、どこで切られるかも予測しないと…


ラーズ
「それでは彼岸女さん! カードをオープンして宣言を!」

彼岸女
「スペードの3、ローだ!」


私はある程度余裕を持ったカードでそう宣言する。
相手の思考が解らない以上、強すぎる手は逆に危険だ。
最悪チュートリアルの阿須那ちゃんみたく、下克上が起こるかもしれないし、何よりジョーカーの存在が危険すぎる。
良くも悪くも、ジョーカーは切り所が難しすぎるのだから…


ラーズ
「それでは、こちらの手をオープン!」
「ロボのカードは、ダイヤの6! よって1本目は彼岸女さんの勝利となります!」

彼岸女
(あえて…6か)


私はその選択に軽く疑問を覚えた。
このゲームのルール上、6や7みたいな半端カードは本来切り所が難しい。
しかし、奇しくも相手は失敗にリスクが無い。
向こうからすれば、使い難いカードはさっさと切るに越した事は無いわけか。


彼岸女
(開幕から6って事は、相手は先に中間数字を消費する算段かな?)


だとすると、次は5か7が来る可能性も高い?
特に7は丁度ど真ん中の数字、こっちにしても1番扱いに困るカードだしね…


彼岸女
(だけど、そうなるとかなり面倒だね…)


この場合…逆にこっちは6、7が切り難くなる。
相手が同じ事を考えている場合、どう考えても読みにリスクが伴うからだ。


彼岸女
(どうする? いっそ勘でいくか? それともさっさとジョーカーを切って確実に取りに行く?)


ジョーカーは何にでも勝つカードだ。
ジョーカー同士でなければ必ず勝つ。
つまり確実に勝ちたい時に出すのがセオリーであり、読まれて無駄にされるのが最悪のパターンだ。

もちろん1番良いのは、相手のジョーカーを確認してから使う事なんだけど…


彼岸女
(迷ってる暇は、無いか…)

ラーズ
「さぁ、2本目です! 彼岸女さんカードを出してください!」


私はこの際ヤマ勘でいく事にした。
まだ相手の出方が解らない以上、考えるだけ無駄だ。
この際、負けたら仕方無いとしておこう!


ラーズ
「それでは、カードをオープンして宣言を!」

彼岸女
「スペードの7! ハイだ!」


私がそう宣言すると、ロボのカードが開示される。
相手の数字は……5!


ラーズ
「お見事です! 2本目も彼岸女さんの勝利となります!!」


とりあえず無難に7は切れた、か…
やれやれ、コレは想像以上に怖いゲームだね。
相手はあえての5…7かどうかは賭けだったけど、運良く勝てたって所かな?


彼岸女
(下手に6でローを選んでたら負けてた…相手は読んできてるのかもしれない)


同じ数字だとこちらの負けな以上、相手が使ったカードを選択するのはある意味定石。
そして6は全体で言えば低い数字だからローで宣言するのがセオリー。
今回、相手はその定石破りを実践した訳だね…


彼岸女
(さぁ、まだまだ序盤戦…互いにまだ2枚しか切ってない)


相手が切ったのは5と6…
対して私は3と7…やや私が不利とも言えるかな?
出来るなら、中間数字のカードは早めに潰したい所だし。


ラーズ
「さぁ、3本目を始めましょう! 残ったカードから1枚を選んでください!」

彼岸女
(…さて、次はどうするか?)


安牌なら5か6を使うべきだけど、読まれて更に下のカードを出されるのは怖い。
ましてや相手は7か8を使う可能性が高いし、その場合はローで潰せるはず。
ただ、2本目の時みたいにロー潰しをやられれば危険だ。


彼岸女
(とはいえ、このゲームはある程度のミスは許容されるルールだ)


毒と言っても遅効性…そして勝利条件は全てのカードを使い切った上で生き残る事。
怖いのは連続ミスで寿命を縮める事だけど…
その許容量も、どれ程かは正確に解らない。
あくまで普通の人間なら5本で即死って訳だけど。


彼岸女
(どの道、やってみなきゃ始まらない…か)


私は覚悟を決めてカードを選ぶ。
ロボは既にカードを場に置いて待機中だ。


ラーズ
「それでは、カードをオープンして宣言を!」

彼岸女
「スペードの6、ローだ!」


私はセオリー通りの宣言で攻めた。
そしてロボのカードが表になり、その数字が明かされる…
その数字は……


ラーズ
「こちらはダイヤの7! よって3本目も彼岸女さんの勝利です!」


相手も定石通りか…
さて、ここから一気に辛くなってくるね。
互いに中間数字は潰した…後は基本的にハイかローかに片寄る数字となる。
ここから中盤にかけて、カードを安全に潰せるかが鍵となる訳だ。


彼岸女
(そして、ここからは当然の様にセオリー潰しが行われるはず)


5や4でもローが安牌とは限らなくなる。
相手がどう見てるかでも変わるけど、この辺からどう選択するかは見極めた方が良いだろう。


ラーズ
「それでは4本目! カードを選択してください!」


私は無言でカードを置き、ラーズの反応を待つ。
ロボは相変わらずノータイムで選択してくる。
少なくとも、深い思考をして選択してるとは思い難いけど…


ラーズ
「それでは、カードをオープンして宣言を!」

彼岸女
「スペードの8! ハイだ!」


ここまではあくまで定石通り。
そして相手のカードは?


ラーズ
「こちらもダイヤの8! よって彼岸女さんにはペナルティが発生します!」


ここで、か…
まさかの同数字…相手からしたらノーリスク行動になってしまったね。
私の前には毒薬の瓶が置かれた。
私はそれを迷いもせず、蓋を開けて一気に飲み干す。
容量は50ml程度だね、味は無い…ただの水みたいだ。


彼岸女
(これで…リミットは1時間か)


ここから先、思考する時間すら短縮しなければならない。
特に…冷静さだけは決して欠いちゃダメだ。
最後の最後まで、希望を捨ててはいけない。

それが、雫の好物だしね…


阿須那
「…4本目で、遂にワンミスか」

タイナ
「ゲーム時間としては、まだ気にするレベルではありませんけど…」

阿須那
「それもミスが重なれば一気に重くなる、気は抜かれへんな」

羽身
「うーん、相手の手札を記憶せなあかんのが面倒やな〜」



ここまでの消費カード

彼岸女 3 6 7 8
ロボ 5 6 7 8



ラーズ
「それでは5本目! カードを選択してください!」

彼岸女
(相手は8を被せてきた…読まれたかな?)


ただの運かもしれないのが厄介な所だ。
どっちにしても、これで相手は4か9が切り所になるはず。
私もそのカードは使ってないし、また被せられたら厄介だ。


彼岸女
(更に最初で3を消費したのが若干響く…)


これを計算に入れると、相手からは4が通しやすい。
逆に言えばこっちは9が通しやすく見えるんだけど…
相手はあくまで4が安牌なだけで、9も決してリスクが高い訳じゃない。
ここまでの感じで、ロボは比較的定石寄りにカードを消費してる。
だとしたら、4の可能性は高いと踏むけど…
1番怖いのは連続で被せられる事だ。
だとしたら、あえて数字を飛ばしてそれを回避した方が良いとも言える。

むしろ、相手からしたら被せるのが1番メリットだしね。
極論で言うなら、相手が全て数字を被せられればパーフェクトなわけだし…
その点で言うなら、プレイヤー側は圧倒的に不利でもある。
このゲームは、実質生き残りを賭けたサバイバルであり、生き残れば勝ち。
私は、多少ミスしても生き残る道を選ばなければならない。


彼岸女
(なら、使うのはこの数字だ…!)

ラーズ
「それでは、カードをオープンして宣言を!」

彼岸女
「スペードの10! ハイだ!」

ラーズ
「こちらはダイヤの9! 彼岸女さんの勝利です!」


私は軽く息を吐く。
やっぱり被せてきたね…9を選んでたらアウトだった。
この調子で、もう少し攻めたい所だけど…


彼岸女
(相手も計算に入れるかな? だとしたら同じ手は通じないかもしれない)


怖いのは相手の思考パターンが変わる事だ。
自律思考な以上、パターン変化には対応してくるはず。
ここからは、その変化も計算に入れなきゃね…

私はあくまでに冷静に次のカードを選択する。
そしてラーズの合図とほぼ同時にカードを場に伏せた。
そのまま、私は合図に合わせてカードをオープンする。


彼岸女
「スペードの9、ハイだ!」

ラーズ
「こちらはダイヤの4! よって6本目も彼岸女さんの勝利です!」



阿須那
「…これで、彼岸女は3、6、7、8、9、10を消費か」

タイナ
「対して相手は4〜9を消費ですね」

羽身
「ほんで、毒薬は1本…時間は5分程か」



出来る限り、思考時間は減らさなきゃならない。
相手は定石通り、順に数字を潰してくる。
このまま上手くいけば楽なんだけど。


彼岸女
(そんなに上手くいくわきゃ無いよね…)


ここからは中盤戦…互いにそろそろ駆け引きを仕掛けなきゃならなくなる。
ましてや、未だに切って来ないジョーカーを何処で切るのか?
そろそろ、その決断をしなきゃならないのかもしれないね。


ラーズ
「次は7本目! さぁ、次のカードを選択してください!」

彼岸女
「………」


私はすぐにカードを場に置く。
そして合図と同時に私はカードをオープンした。


彼岸女
「スペードの5、ローだ!」

ラーズ
「こちらはダイヤの3! よってペナルティです!」


く…ここで潰されたか。
ある意味、定石過ぎたのかもしれない。
こっちが先に3を使ってた以上、相手には安牌だからね…
私は追加で出てきた毒薬を更に飲み干す。
特に体に異常は見られない。
けど、これで寿命は半減したと思っても良いのかもしれない。


彼岸女
(1本目の毒を飲んでから、約10分ちょい…猶予は30分あるかどうかかな?)


私の残り札はA、2、4、J、Q、K、ジョーカーだ。
相手はA、2、10、J、Q、K、ジョーカー…
中途半端に4が残ってるのが厄介だね…最悪、最後まで残した方が無難かもしれない。
最後になれば、自ずとどんな数字でも勝てるはずだからね…被されてたりジョーカーでなければ、だけど。
幸い4は相手も消費している、ここは無理に使わずに温存した方が良いだろうね。


ラーズ
「8本目! それではカードを選択してください!」


私は少し考えるもカードを選択する。
このタイミングで同じ数字を被せられるのが1番キツい、出来ればしっかりと取りたいんだけど…


彼岸女
「スペードのK! ハイだ!」


私はあえて最大戦力のひとつを選択する。
ここで下克上は起こらないと私は予測したからだ。
相手がパターンを変えてきたとしても、恐らく通せるはず…!


ラーズ
「こちらのカードは…ダイヤのQ! よって彼岸女さんの勝利です!」


私はまた息を吐く。
危なかったかもしれない…相手はJ潰しでQを投入してきた。
ここは私の予想が当たった形だね…さぁ、次はどう出る?
ここからは相手も更にパターンを変えてくるはず、ましてや選択肢が減れば減る程思考は単純化する。
互いに、残りのカードでどうなるかな?


彼岸女
(残りはA、2、4、J、Q、ジョーカー…)


相手はA、2、10、J、K、ジョーカーだ。
心理的には10〜Kが来そうな雰囲気はある。
だけど、さっきQ潰しをしたからね…相手からしたら避けてくるかも?
ただ、逆に言えば相手はKがほぼド安牌。
こっちはAかジョーカーでそれを潰す様にしなければならないのだから。


ラーズ
「さぁ9本目です! 次のカードを!」


私はすぐにカードを場に出す。
毒の進行は解らないけど、時間の消費は死に直結する。
最悪、後1本で死ぬ可能性もあるのだから…


彼岸女
「スペードの2! ローだ!」

ラーズ
「こちらはダイヤのJ! よって彼岸女さんの勝利です!」


9本目も無難に終わった…
相手も無難にJを消費したって所だね。
相手からしたら、可能な限り数字を被せて潰したいはず。
だからこっちのJ潰しで選択したって所かな?


彼岸女
(次は10本目…残りはA、4、J、Q、ジョーカー)


相手はA、2、10、K、ジョーカー…
さて、ここからは半ば勘だ。
相手はAとKがある。
最悪、こっちのAは封じられてると言っても過言じゃない。
相手からしたら、こっちのAを打倒するカードが3枚もあるのだから。
つまり、Aはほぼ切れない…だけどこの辺りから4も生き始める。
ここで4はあらゆるカードに勝ち得る性能になるからだ。


彼岸女
(相手の思考を読むなら、ここはKと踏む)


勝率的にはもっとも高い数字だからだ。
こちらは4以外で安全に処理するカードがジョーカーしかない。
だけど4を2で潰されれば一気に辛くなりかねない。
良くも悪くも、4は裏の切り札になるのだから…


彼岸女
(時間も惜しい…ここはこれでいく!)

ラーズ
「それでは、カードをオープンして宣言を!」

彼岸女
「スペードのJ! ローだ!」


私はあえてJでローを宣言する。
これならKを返せるからだ。
あくまで一点読みとして宣言したけど、果たしてどうなる!?
ここが通るかどうかで、私の命運が激しく変わる!


ラーズ
「こちらのカードは…ダイヤの10! よって、ペナルティ発生です!!」


私は、ミスを犯してしまった。
よりにもよって、ここで10?
まさか、そんな読みを入れてくるなんて…!
私の目の前には、3本目の毒薬…
許容量は、恐らくギリギリ…時間的には多分次は怪しい。
私は、覚悟を決めてそれを飲む。
まだ、体に異常は無い。


彼岸女
(…後、どの位持つ? 10分持つのか?)


それとも、もっと短い時間で死ぬのだろうか?
そもそも予兆すらないし、苦しんで死ぬのかも解らない。
ひょっとしたら、唐突に安楽死する毒なのかもしれないし。


彼岸女
(とにかく、考えるな)


私はすぐに意識を切り換えて次の手を考える。
残りはA、4、Q、ジョーカー…相手はA、2、K、ジョーカー。
いよいよもって危険になってきた…こうなったらAはもう使えないも同然。
だけど相手は2がある…これを先に潰した方が良いのかもしれない。
むしろ…ジョーカーの切り時か?

相手も温存している以上、間違いなくジョーカーでジョーカーを潰そうという魂胆だ。
…というより、これが最大のリスクなのだ。


彼岸女
(このルールは、どうやったって1本の毒が確定なのだから…)


相手のジョーカーにはリスクが全く無い。
つまり、相手にとっては確定で勝てる手であり、私は決してノーミスなど許されないのだ。
だからこそ、許容量は高めに設定されているともいえる。
ただ、逆に言えば私は後1本の毒を何処かで飲まなければならないと言う訳…

私は、それを飲んで耐えられるか?
いや、耐えなければならない!
最悪、すぐに解毒薬を飲めば助かる可能性も高いのだから。


ラーズ
「11本目! 彼岸女さん、カードの選択を!」

彼岸女
「………」


私は無言でカードを置く。
もう、後は勘でいくしかない。
下手に思考を張り巡らせた所で、選べる手は少ないのだから…


彼岸女
「…スペードのQ、ハイだ」

ラーズ
「こちらはダイヤの2! よって彼岸女さんの勝利です!」


これで…Aは死んだも同然か。
だとすると、本気で確率5割を引かなきゃならない。
いや、ジョーカーの可能性を考えたらそれ以下か…!
私はややもや、機械的に次のカードを合図前に置き、少しでも時間の短縮に勤しんだ。
ラーズもそれを見て、すぐに進行を進める。


ラーズ
「それでは、カードをオープンして宣言を!」

彼岸女
「スペードの4…ハイだ!」

ラーズ
「こちらのカードは…ダイヤのA! よって彼岸女さんの勝利です!」


何とか、勝てた…か。
これで、残りはAとジョーカー…相手はKとジョーカーだ。
つまり、実質最後の2択…それも相当理不尽な、ね。


彼岸女
(ジョーカーを被せられたら即終了…Aは出しても負け確)


つまり、どうやっても相手のジョーカーを読み切らなきゃならない。
失敗したら、毒薬は2本追加…確定で即死だ。
しかし、ジョーカーにAを被せて失敗すれば、その次は確定で勝てる。
要は……


彼岸女
(次で毒を飲んで、耐えられるかどうかが鍵って事だ…)


1本目を飲んでから、もう20分以上は過ぎてる。
計4本目…多分、ギリギリのはずだ。
最悪、既にアウトなのかもしれない。
私は…不思議と恐怖を感じていなかった。

むしろ、落ち着いている。
理由は良く解らないけど、この極限状態で何の恐怖も覚えなかったのだ。
脳内麻薬とか、そういうのが分泌されているのか?
それとも、全てがどうでも良くなってきた?
ただ、ひとつだけ確かな事があるとすれば……


彼岸女
(雫は…まだ見限らないのか)


私は半ば無意識でカードを出し、オープンにした。
そして、そのまま粛々と宣言を終える。
その結果は…?


ラーズ
「こちらはジョーカー! よって、ペナルティ発生です!」


私が出したカードは、スペードのA…
つまり、ゲームには勝った…
後は、生き残れるか…勝負だね。


彼岸女
「………」


私は差し出された毒薬の蓋を開けると同時に、残りのジョーカーを表にして先に出した。
そして一気に中身を飲み干し、カードを宣言する。


彼岸女
「ジョーカー、ハイでもローでも?」

ラーズ
「こちらはダイヤのK! よって彼岸女さんの勝利!」
「そしてゲーム終了!! このゲームは彼岸女さんの生き残りです!!」


ラーズは大袈裟なポーズを取りつつも、すぐに解毒薬を差し出す。
私は特に違和感も無いまま、無造作に解毒薬を飲み干した。


彼岸女
「………」

阿須那
「…ホンマに、何ともないんか?」

タイナ
「計4本、時間的にもかなりギリギリだった様に思えますが?」

羽身
「ま、まさかゴーストタイプやからもう死んどるとか!?」

守連
「あ、あはは…それは無いんじゃないかな?」


「私が生きてる時点で問題無いわ、というか…」
「そもそも毒薬程度で死ねる程、愚者の肉体は脆くないわ」


全員がその言葉に驚く。
それってつまり…このゲーム、ハナからノーリスクだったって事?


ラーズ
「…これは驚きました、愚者という存在はそこまで規格外なのですか?」


「私だから耐えられるだけかもね…」
「そもそも、夢という概念レベルのモノを食う私は、服毒程度じゃ腹も壊さないし」


あっけらかんと言ってくれるけど、色々台無しだ。
それじゃ何か?ここまでの私の葛藤や覚悟はハナから無意味?
何の為にあそこまで脳をフル稼働させて駆け引きやったの?
これじゃあ、私はただの道化じゃん!



「まっ、スリルはあったんじゃないの?」
「それとも、もっと苦しんだ方が面白かったかしら♪」


雫はイタズラっぽく、ヒヒヒと笑う。
あ、ダメだ…遊ばれてたなコレ。
わざわざやる前に煽った癖に、ハナから結果は解ってた上で高みの見物してたわけだ。


彼岸女
「…雫は今日の晩飯抜きね」


「ちょっ!? 何故!? そもそも私が食べないと貴女も動けないわよ!?」

彼岸女
「大丈夫、私はその分食べるから♪」
「それとも、今から土下座して謝罪する? それなら倍返しで手を打つよ?」


私はこれでもかという程の悪党面でそう言った事だろう。
雫は流石にプライドがあるのか、ぐぬぬ…!と唸るだけだった。
やれやれ、思ったより意固地だね。


守連
「あはは…もう、許してあげたら?」

彼岸女
「ダ〜メ、こういうのは1度思い知らせないと学習しないんだから!」


「く…! 舐めるんじゃないわよ!? この借りはきっと返してあげるんだから!!」

彼岸女
「ほ〜う? つまり明日の食事もいらないと?」


「ひ、卑怯じゃない!? 明日は明日でしょう!?」


私はククク…と笑いながら雫を見下ろす。
そんな状況を見てか、やや離れた場所からひとつ言葉が放たれた。


カルラ
「……私、も」

ラーズ
「カルラ様、何か?」

カルラ
「……お腹、空いた」


その呟きに、全員の気が抜けた事だろう。
何だかんだで、ここまでそれなりに時間もかかったし、確かにお腹は空く頃かもしれない。
私はやれやれ…と頭を掻き、とりあえず息を吐いた。

まずは休憩でも挟んで、それから改めて勝負かな?
残りはタイナと羽身ちゃんか…果たして、どんなゲームをさせられるのかな?










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第7話 『彼岸女、服毒ハイ&ローサバイバル!』


…To be continued

Yuki ( 2021/04/10(土) 16:10 )