第1章 『新たなる世界』
第4話
『輝紡(きぼう)の森』…それは終わらない夜に包まれる、妖精たちが住む深き森。
そこには一切の日の光が入らず、森を照らすのは魔力を帯びた木の実やキノコたちのみ。
そんな森にはふたつの種族の群れが存在し、そして争いを起こしていた…

過去、現在、未来…
いつまで経っても、この虚しい争いは…繰り返され続けている。



………………………



守連
「…うく、っ」


守連は『キョダイスイマ』の効果により、強烈な眠気に襲われていた。
ダメージの大きさも去ることながら、守連はほとんど無力に地面へと沈んでしまったのだ…
そして、その状態を確認した災厄の魔女は邪悪な笑みを浮かべ、こう語る。


タイナ
「フフフ…眠りなさい、永遠に!」
「これでもう邪魔物は存在しない! 研究の成果は十分に出ました!」
「後は私を認めなかったゴミ共を排除して、更なる高みを目指すのよ!!」
「さぁ、トドメです! 最後の一撃を!!」


タイナがそう指示をした後、族長は再び右腕を構える。
そして、倒れて眠りそうになっている守連に向けて、また同じ技を放とうとしていた。
族長の右腕から放たれる黒い気流…それは守る事も回避する事も非常に困難な恐るべき技…

直撃すれば間違いなく守連が絶命する威力であり、誰が見てもチェックメイトの様相だろう。
災厄の魔女もそれを確信しており、邪悪な笑みは絶える事が無かった。
しかし…


バァァァァァァァァンッ!!


タイナ
「!?」


それはまるで、金属が強烈に擦られたかの様な音。
深き森にその甲高い音が響き渡り、守連を守る何者かが『ソコ』に存在していた。
その者は、正面に水晶の様な六角形の透き通った壁を貼っており、族長の放ったキョダイスイマを完全に遮断していたのだ。
その後、族長は全身から紫のオーラを噴出し、体を元に戻らせてしまう…

それをまざまざと見せ付けられた災厄の魔女は、ワナワナと震え始めた。
顔を両手で押さえ、怒りの感情を今にも叩き付けようとしていたのだ。


タイナ
「貴方はぁ……っ!?」


「…姉さん、もう終わりにしましょう」



………………………




(…!? あれは…タイナがふたり!? いや、少し違う)


私は彼岸女が眠る前に外へと出ていた。
最悪、力を使ってでもここを離脱するつもりだったけど、予想外の救援に助けられてしまったのだ。
そして、私は改めてその救援者を見て驚く。

その姿はタイナとほぼ同じながらも、服の細部が異なっていた。
声も顔も全く同じながら、最大の相違点はブリムオン特有の触腕…
先端が3本指の様な形のタイナに対し、救援者のそれは長い3本の触手が足元近くまで伸びていたのだ。



(確か、姉さんって言ってたわね…だとしたら、やっぱりそういう事?)


私たちの疑問は確信に変わり始めていた。
以前のタイナと災厄の魔女はあまりにも性格が違う。
悪意の塊である災厄の魔女のタイナに対し、一切の悪意を持たない以前のタイナ…
そう、つまりはそういう事…

やっぱり、初めから同一人物じゃ無かったて訳ね!


タイナ
「姉さん…いえ、災厄の魔女『マレーサハ』」
「これ以上、来訪者を傷付ける事は許しません!」
「私が考案した『研究』を盗み、名まで騙った事を私はもう見過ごしません」


ここで彼女の口から真実が語られ始めた。
姉である災厄の魔女ブリムオンの名は、マレーサハ…
つまり、救援者たるブリムオンこそがやはり本当のタイナであり、私たちが知っていたタイナだったのだ!


マレーサハ
「黙りなさい愚妹がぁ!! 何がもう見過ごせないですって?」
「もう何年見過ごしてきたの!? 貴方は今まで何もして来なかったじゃない!!」
「今更ヒーロー面して、自分の罪を軽くしようとでも思ってるのかしらぁ?」


マレーサハは荒ぶった声色でそう糾弾する。
タイナはそれに対し顔を俯けるも、それでも冷静にこう返した。


タイナ
「…私は研究者です、ですので罪を軽くしようだなんて考えは初めからありません」
「多かれ少なかれ、研究者という生き物は狂人です」
「ですが、その狂人にもルールはあると…私は何度も姉さんに説きましたよね?」


タイナはそこまで言って、深くため息を吐く。
そして、 タイナの体から紫色のオーラが噴出され、姿を変えてしまった…
その姿は正しく姉と瓜二つ…身長まで同じ、声も同じ、顔も同じ。
ましてや服装や佇まいすらも、ほぼほぼ同じ存在に見える程、似ている姉妹だった…



(まさか…研究って、あの『ダイマックス』の事?)


少なくとも、タイナは姿を変えていた。
全身からオーラを放ち、頭上に妙な雲を作っていたのだ。
それは巨大化した族長と同じ現象でもあり、やはりタイナも同じくダイマックスしていたのだと推測出来る。

それが、効力を失ったって事かしら?
だとしたら、効果時間は約3分って所か…○ルトラマンみたいね。



(まぁ、あっちは地球上で3分以上戦ったら、設定上死ぬんだけどね!!)


勿論実際の放映中では平気でそれ以上の時間戦ってたりもするんだけれど、それはあくまで演出の都合よ。
見ている子供経ちでもツッコミをする位には、気になる部分だったんだけどね!!


マレーサハ
「…犠牲無しに狂人の研究は進められない」

タイナ
「しかし、犠牲になった物や者の事を蔑ろにしてはならない…」


それは、タイナ自らが課した矜持の様でもあった。
自らを狂人と論じ、そしてその前提で研究者としてある魔女。
タイナはあくまで、自分はそうだと主張しているのだ。


タイナ
「姉さんは私の研究結果を盗み、オーロンゲ族を利用して独自に進めていた」
「だけどその行為は当然村の者には受け入れてもらえず、姉さんは罵倒されながらも憎悪を募らせてしまった」

マレーサハ
「それの何が悪い!? 私の、いや私たちの研究は更なる高みへと至る至高の研究のはず!!」
「それを理解出来ない愚か者たちの事など、気にする必要は無いでしょう!?」

タイナ
「だから…姉さんは間違っているのですよ」


必至な顔で反論するマレーサハに対し、タイナは悲しそうな顔で俯いて呟く。
まるで初めからそうだと解っているかの様に、妹であるタイナは姉のマレーサハを悲しそうに蔑んでいた。


タイナ
「それは、私たちの…ではありません」
「貴方の…研究です」

マレーサハ
「何を…!? だって、ダイマックスの研究は…」

タイナ
「更なる高みへと至る研究です…そこに嘘はありません」
「ですが…姉さんは根本から勘違いをしていたのです」


タイナの言葉を聞き、呆然とするマレーサハ。
自分が信じていた信念はあっさりと否定され、どう反論すれば良いのかも解っていない様だった。
そして、そんな無能の研究者が取った行動は…至ってシンプルな物だ。


マレーサハ
「私は…! 私は間違って等いるものか!!」

族長
「!!」


マレーサハは族長を使役してタイナに向かわせる。
タイナは一切表情を崩さず、迫って来る族長を見もせずにただ俯いていた。
そして族長の太い腕が突然複数の触手となり、それ等がタイナに向けて振り回される。
次の瞬間…強烈な光と光弾が放たれて族長は吹き飛んでしまった。
その余波は、やや後方にいたマレーサハにまで及ぶ。


マレーサハ
「あああっ!!」

タイナ
「姉さんは間違いを犯した…今までそれを傍観していたのは、少しでも姉さんに良心があると信じていたから」


(『マジカルシャイン』であの威力! あのムキムキの族長を一撃だなんて…!)


ただのエスパーであの威力が出るとは思い難い…つまり、ブリムオンはフェアリーでもある?
だとしたら、サーナイトとかと同じタイプって事か。


タイナ
「結局…姉さんは心を改める事は無かった」
「そして、私の研究が最終段階に入った時点で、もう姉さんをこれ以上放置する理由も無くなった」

マレーサハ
「タイナの…研究!?」

タイナ
「私の名を騙り、自分を偽り、そして間違いにすら気付かなかった愚かな姉さん…」


タイナは涙を流していた。
その感情は正しく悲しみであり、タイナは酷く傷付いているのが私にも伝わって来たのだ。
やっぱり、タイナには悪意なんて欠片も無かった。
ただ、愚かでも姉の事が大事であり、その姉もきっといつか心を入れ換えると信じて、あの隔離された館でひとり待っていたのかもしれないわね…


マレーサハ
「…っぅ!! タイナァァァァァァァッ!!」


マレーサハは怒りに身を任せ、タイナに向かって突進する。
そのスピードは遅く、所詮鈍足ポケモンだというのをまざまざと見せ付ける結果だった。
だけどタイナもあえて遠距離技は使用しない。
妹として、正面から迎え撃つ気の様だ。

やがて、マレーサハはタイナが射程距離に入ったと同時に、触腕を全力で横に振るう。
先端には悪っぽいエネルギーが放たれており、恐らくは『ぶん回す』という技だろう。
タイナはそれに対し、自らの触腕であっさりと止めて見せる。
そしてタイナは胸元から右手で小袋を取り出し、それを姉の顔面に投げ付けた。


マレーサハ
「!? な、何よコレ!?」

タイナ
「私特製の『魔法の粉』です♪ これで姉さんはエスパータイプになりますよ〜」

マレーサハ
「? 一体、何の効果……」


言いかけた所で、タイナの『ぶん回す』がマレーサハの顔面にめり込む。
タイナは触腕をそのまま振り抜き、マレーサハは近くの気に勢い良く叩き付けられてしまった。


マレーサハ
「がはっ!? な、何故!? 悪タイプの技がこんなにも体を蝕む!?」

タイナ
「言ったでしょう? エスパータイプになるって…」
「もう姉さんは、フェアリータイプじゃないんですよ?」


私は理解した…つまり『水浸し』と同じ効果だ。
相手のタイプを強制変更する特殊な技。
あの粉は、相手のタイプを消し去ってエスパータイプにする効果なんだわ!


タイナ
「姉さんには痛みを知って貰う必要があります」
「自らの研究で生んだ犠牲を蔑ろにし、己の欲求と憎しみだけでそれを積み重ねた貴方は、もはや研究者ではありませんので」

マレーサハ
「黙れ愚妹!! 私は間違っていない!! 私はバカ共を駆逐してこの世界の女王となるのよ!?」
「この研究は所詮、そこへ至る過程でしか無いわ!!」


マレーサハは完全に憎しみに支配されていた。
タイナはまた俯き、悲しい目でそんな姉を優しく見る。
その瞳は、あまりにも場に似つかわしくない色に感じた。



(何よあの目? これから姉をぶっ倒そうって感じには見えないわよ?)


そして、次の瞬間にその理由はすぐ解る。
向かって来る姉に対し、タイナは優しく微笑んで姉を炎で焼いてしまったのだから…


マレーサハ
「ぎゃあああぁっ!? 火、火が!! 炎がぁ!!」

タイナ
「姉さん…もう終わりなんです」
「こんな小さな『箱庭』の女王になっても…意味なんて無い」


(あの炎…『マジカルフレイム』かしら? どっちにしても不意打ちに等しいわね)


タイナが触腕から放った炎は姉を容易く火だるまにした。
その炎は森に移る事無く、姉の肉体のみを焼き続ける。
マレーサハはどんどんボロボロになっていき、やがて肉体を朽ちさせて灰へと変わっていった…


マレーサハ
「い、や…だ……死にたく、な…い……」

タイナ
「姉さんは、ずっと夢を見ていたんですよ」
「だから、もう目を覚まして? この箱庭から旅立つの」


タイナはあくまで優しくそう諭し、姉の死を見届ける。
その姿は正しく狂人であり、私は少しだけ身震いをした。



(確かに、タイナに悪意は一切無い)


だけど、あの躊躇の無さもまた狂人なのだと理解する。
確かに、タイナは狂人の研究者なのだろう。


タイナ
「…目が覚めたら、また一緒にお茶を飲みましょう」


その言葉を言い終わると同時に姉の体は光の粒子となり、天へと昇っていった…
この現象は、混沌特有の?
つまり、この世界はやはり王によって造られた世界…

あらかじめクリアが出来る様に設定された、ゲームの舞台…か。


彼岸女
「…終わったみたいだね」


「…あら、ようやくお目覚め?」


気が付くと彼岸女が起き上がり、事の顛末を確認していた。
守連は未だに眠りこけているけど、よく眠れるわね…
私は呆れて守連を見るが、ため息を吐いてタイナの元へと向かった。

炎は完全に消え、森には一切の被害も無いなんてね…


彼岸女
「…成る程、双子だったわけか」

タイナ
「はい…元々小さな頃からあの館に住んでいたんです」
「私たちは昔から魔女と呼ばれ、一族から離されて過ごしていました」
「それでも不自由はそんなに無く、私たちはそれなりに仲良くしていたんですよ?」


彼女は昔を懐かしむ様に上を見上げる。
そこには空など無く、ただ深い木々が見えるのみ…
時計が無ければ、昼か夜かも解らない…それ位薄暗い森だ。


彼岸女
「それなり…ね」

タイナ
「やがてお互いに成長し、私たちは研究者としてある理論を研究していました」


「それが、あのダイマックスとかいう現象?」


タイナは頷くも、やや顔は悲しそうだった。
ダイマックスの研究は確かにしていたけど、姉は間違っていると説いたのよね…


タイナ
「この『願い星』という物は、何処から来たか解りますか?」


そう言って、タイナは首にかけているペンダントを私たちに見せる。
マレーサハのに比べたらやや小さい石だけど、それは紛れもなく願い星らしい。


彼岸女
「さぁ? 星っていう位だから…空からじゃないの?」

タイナ
「そう、空から降って来たんです…空なんて、この世界には無いのに」


私たちはふたりしてギョッとする。
タイナの発言はある意味核心であり、この世界の真実を示すもの…
タイナは…願い星を研究してその結論を導き出したのかしら?


タイナ
「正確には、本当にあるのかは解りませんでした」
「ですが、願い星は2度落ち…私たちはその意味を研究していった」
「ふたつの願い星は姉妹でそれぞれ分け、私たちは次第に自分の研究に没頭していきます」
「やがて、私が世界の平和利用を前提としたダイマックスの研究成果を、姉さんが突如盗んでしまったんです」

彼岸女
「それで、彼女は君を騙って災厄の魔女となった訳か」

タイナ
「…残念ながら、姉は研究者としては二流でした」
「自らの欲望に忠実であり、成果の為に犠牲は厭わない」
「やがてその欲望はどんどん広がり、遂に禁忌に手を出したのです」


タイナは少しだけ怒りに震え、両手を下で合わせて力を込める。
禁忌、ね…まぁ大体の予想は着くけど。


タイナ
「今から4年前…姉さんはオーロンゲの族長を洗脳し、ブリムオンの一族を滅ぼそうとしました」

彼岸女
「完全に滅ぼすというより、実験場だったって聞いたけど?」

タイナ
「確かに実験場ですね…ダイマックスの実戦運用としては」


私たちは息を飲む。
あの族長の規格外な強さ…それがもし多数同時に襲って来たら?
考えるだけでおぞましいわね…


タイナ
「結果として、願い星はひとつに付きひとりまでしか効果が出せない事が判明しました」
「なので、姉さんはブリムオンの一族を誘拐し、それを実験台にして、今度はダイマックスの圧縮法を独自に研究していた様です」
「もっとも…その研究ですら、私にとっては既に終った理論でしたが」


「成る程、良い筋肉をしている…ふむ、活きも良い…どうやらお前は最高の木人形(デク)の様だ」

彼岸女
「…で、その木人形狩り隊がちょくちょく村を襲ってたって訳か」


まぁ色んな意味でマレーサハは小物だったわね。
最後まで悲しき天才みたいな扱いだったし。
もっとも、○ミバ様は歴史に名を残す程有名な小物なんだけどね!!


タイナ
「…えっと、まぁとりあえずそんなこんなで2年前!」


無理矢理ぶった切ったわね…やはりネタの神に見放されてるわ!!
全く、もう少ししっかりしたツッコミが欲しいわね。


彼岸女
「突然守連ちゃんが現れ、一族の争いを止めたわけか」

守連
「ふぁ〜〜…あれ〜? 何があったんだっけ〜?」


「あまりに深く寝過ぎて、記憶が飛んでるじゃない…」


私は呆れて頭を抱える。
どうやら傷を回復するのに寝続けていたらしく、守連は本能的に回復しようとしていた様だ。
そのお陰か守連にダメージはほとんど無く、フツーにケロッとしていた。


タイナ
「あはは…そう、この守連さんのお陰で、一時は争いが止まったんです」

守連
「災厄の魔女!? あれ…でも雰囲気が違う?」


守連は一瞬身構えるも、優しく微笑む本物のタイナを見て、すぐに構えを解いた。
守連らしいというか…本当に野生の本能みたいな物で判断してるんでしょうね。


彼岸女
「…彼女は、災厄の魔女マレーサハの妹」
「さっきまで戦っていた魔女は彼女の姉で、妹の名を騙っていた小悪党だったんだってさ」

守連
「?? えっと…じゃあ、それってどういう事〜?」


守連は予想通り頭が回っていない様だった。
私は頭を抱えるも、タイナは優しく笑っている。
やれやれ…本当に純粋な娘ね。


タイナ
「…守連さんのお陰で、一時は争いが止まりました」
「私はそれがある意味、天命だと思ったのです」


「…天命?」

タイナ
「守連さんは、願い星同様突然現れた『来訪者』…」
「それは私が研究していた世界の核心であり、外の世界の証明」

彼岸女
(…そう言えば、ボスと思われた者を倒してもまだステージクリアには至っていない)
(まさか、まだ別にクリア条件があるって言うのか?)


彼岸女はまだ疑問があるのか、ひとりで何かを危惧していた。
やれやれ…この状態だと宿主(ディペンド)の思考が読めないのは厄介ね。


タイナ
「この世界は…箱庭だと私は考えています」

彼岸女
「…箱庭?」

タイナ
「はい、貴女たちの存在を見て、ようやく確信しました」
「この世界は狭い箱庭であり、外にはもっと大きな世界が広がっている…」
「私が研究し続けていた、外の世界の証明…それがようやく証明出来たのだと私は確信したのです」


タイナはあくまで研究者…
そして、その研究の果て…それが世界の証明か。


彼岸女
「じゃあ、君の求めていた物は…」

タイナ
「世界は、まだ外にある…」
「姉さんは、あくまでこの世界の女王になろうとした…」
「でもそれは、ただの狭い箱庭の女王でしかない」
「私は…そんな箱庭の外に広い世界があると信じ、研究者としてずっと求めていたのです」


タイナの顔は、まるで夢見る少女の顔だった。
そしてその顔はとても未来に希望を見ている顔であり、正に夢の象徴。
夢を喰らう私にとっては、これ以上無いご馳走にも感じる程の感情だった。


彼岸女
「…それが、君の研究だったのかい?」

タイナ
「はい…外の世界の証明」
「彼岸女さんたちは、そんな世界の住民なんでしょう?」


彼岸女は頷かないものの、タイナは答えを読み取っている様だった。
守連はそんなタイナを見て、やや躊躇いがちにこう尋ねる。


守連
「えっと…タイナ、さん?」
「タイナ、さんは…この世界が嫌いなんですか?」

タイナ
「…ええ、嫌いですよ」


タイナは躊躇うこと無くそう言った。
その言葉に裏は無く、正直な気持ちなのだろう。
この閉鎖的な箱庭に置いて、タイナの研究はあまりにも壮大すぎた。
そしてその研究が証明された今、彼女は世界を否定する。

果たして…その結果は何をもたらすのか?


タイナ
「私は…こんな箱庭を出て行きたかった」
「そして私の研究はまだ先があるのだと証明したかった」


タイナがそう言った矢先、突然世界は光の粒子に包まれ始める。
この現象は混沌世界の終了を告げる合図。
今、まさに世界のクリア条件を満たし、次のステージへと進む権利を得た瞬間なのだと、私たちは理解した。


彼岸女
「そうか…今回のクリア条件は、ボスの撃破なんかじゃなかったのか」


「まさか、森の魔女の研究を証明する事だったなんてね」


そしてそれは、今後もフツーのクリア条件では無い事の証明の様にも思えた。
これから先、こんな予想も出来ない条件の中で答えを探さなきゃならないなんて…ね。


タイナ
「!? …そう、だったのですか」

彼岸女
「…これで、私たちはお別れだね」

守連
「これ…混沌世界の終わり?」


「ええ…ようやく次のステージに進出よ」


私たちは比較的冷静に判断していた。
彼岸女は元より、守連も今まで経験していただけに混乱は無い様だ。
そして…唯一無関係のタイナは。


タイナ
「…やっぱり、この世界は偽りの夢だった」

彼岸女
「確かに、そうかもしれないね」

守連
「…貴女は、後悔してますか?」


守連のその言葉は、ある意味期待を込めての物の様に思えた。
彼岸女は何も言わなかったものの、タイナはそれを聞いて考える。
そして、迷いの無い顔でタイナはこう答えた。


タイナ
「いいえ、後悔はしていません」
「きっとこの結果は、私自身が導きだした研究の結果」
「でしたら、私が求めた結果は間違っていなかった事の証明なんです」
「私は、外の世界の存在を証明したかった…」
「それが証明された今、私は世界と共に消滅する…」
「ですがそれはあくまで結果であり、私の証明は貴女たちの記憶に残り続けます」


タイナは満足そうな顔だった。
例え自分が消えても、その残した軌跡は残るのだという期待。
私たちは、それを受け止めなければならないわね。


彼岸女
「…雫」


「望みたいなら、夢を見なさい」
「今の貴女なら、それ位のワガママは許されるわ」


彼岸女はそれを聞いて、強く意志を固めた。
それは、今まで無い彼岸女の感情であり、甘さの証明。
今までの彼岸女であれば、目的の為には手段も犠牲も厭わなかっただろう。
だけど、今の彼女は大きく変わり始めている。
魔更 聖を救う為、彼女は同じ意志を抱き始めているのだ…
だからこそ、彼女はあえて自分らしくない願いを私に願う。


彼岸女
「…夢、か」
「聖君なら、きっとこう言うんだろうね」

守連
「全部、きっと救うから…」


「なら、私はそれを叶えるわ…」
「対価となる夢は確かに貰った…だから私は叶える」
「貴女に…いえ、貴女たちに奇跡を」


私は、宿主である彼岸女の意志を認め、貰った分の夢を糧に奇跡を発動する。
その結果どうなるかは未知数だけど、それはあくまで彼岸女の見る夢次第。
何故なら私は、喰らった夢に応じて奇跡を起こす愚者(フール)だから…

その奇跡がどうなるかは、あくまで宿主たる彼岸女の望み次第。
プラスかマイナスかは、全ては宿主に依存する…



………………………



タイナ
「皆さん…」


彼岸女さんや守連さんたちは、先に別の光となって消えてしまった…
私の体も次第に光が増し、自分の体が既に無くなり始めているのを理解する。

だけど、何も恐怖は無かった。
私の考えは間違っていない…ここは小さな箱庭であり、外には別の世界がいくつも広がっているのだと確信に至ったから。
そして…彼岸女さんたちは、そんな世界を旅している愚者たちなのだ。


タイナ
『この箱庭の外には、空はあるのですか?』


私は、光の粒子で美しく消えていく輝紡の森の木々を見上げて、そう呟く。
いや、もう呟きとも呼べなかった…私の声は既に空間に響く様な感覚になっており、全てが混ざり合っていく様な感じだ。

つまり、これが本当の終わり…
私は研究者として、そこに到達する事が出来た。
そして、私は狂人だから…研究に終わりは無いのだと喜びに震える。

ひとつの研究が終わったのならば、すぐに次の研究が始まる。
だったら、最後まで希望は捨てない。


タイナ
『さぁ…次は、私に何を見せてくれるんでしょうか?』










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第5話 『空は、きっとそこにある』

第1章 『新たなる世界』 完


…To be continued

Yuki ( 2020/12/06(日) 05:33 )