第1章 『新たなる世界』
第2話
彼岸女
「しかし…何なんだこの世界は?」


『おおよそ、聖がいた世界とは違っているわね』


私たちはどことも知れぬ森林を歩いている。
日の光すらもほとんど入らず、何故か森の木々から実る何かが、ぼんやりと光って森を照らしていたのだ…
神秘的…と言えば聞こえは良いけど、こちらからしたら不気味でしかない。


彼岸女
(まだ力のコントロールもクソも無い…そもそも、本調子ですら無いんだからどうすりゃ良いのか?)


『悲観したって状況は好転しないわ、むしろそれだけ力は弱まるわよ?』


はいはい…要は前向きになれって事でしょ?
そもそも夢を見せろとか、漠然としすぎててどうしようも無いってのに…
むしろ聖君は、無意識下であれだけの奇跡を起こし続けていたんだと思い知らされる。
やっぱり、彼は紛れもなく特異点だったんだ…



『良いから前を見なさい、早速歓迎のご挨拶よ?』


私はハッ!?となって前を見る。
すると、いきなり木々の間を縫って何者かがこちらに向かって来ていたのだ。
私は軽く相手の敵意を読む。
これでもエスパータイプだからね…


彼岸女
「何者かは知らないけど、後悔させてあげるよ!!」


相手は紫色の体色をした背の小さな集団だ。
ここの原住民だろうか?
にしては耳が尖ってるし、鼻がやや長いけど…


彼岸女
(どの道、敵意を持って近付いて来ている! 迎撃するしかない!)


私は左手に付けているリングを広げる…が、ほとんど開かなかった。
私は自分の状態を把握出来ず、いきなり戸惑ってしまう。


彼岸女
(!? どうして!? 何故リングが開かない!?)


『貴方の夢が弱いからよ…今の貴方だと、見た目相応の力しか出せないと思うわよ?』


私はある程度理解する。
つまり、本来ならリングを使って出来る行動をも制限されてしまっているのか…!
逆に言えば、夢を強く持てば相応に能力を高められるはず…なんだけど。


彼岸女
「だぁー!! こんな状況でそんな余裕あるかっ!!」


私はとりあえずリングの広さに合わせて武器を取り出す事にする。
相手は棍棒とか槍を持ってる、ならこっちも接近戦で対応だ!
私はそう思い、リングからバスタードソードを取り出す。
そしてそれを右手で握り、私は振り抜いて……


ガシィンッ!!


彼岸女
「なっ!?」


『言ったでしょ? 見た目相応の力しか出てないって』
『ロクに運動もしてなさそうないたいけな少女が、3sもある剣を片手で軽く振り回せると思う?』


私はその通り、バスタードソードを握って引き抜いた瞬間、切っ先を地面に落としてしまったのだ…
持ち上げようと思えば出来そうだけど、とても振り回すのは無理!
まさか、ここまで力が出ないだなんて…


謎の敵A
「シャア!」

彼岸女
「くっ!」


私はゴロゴロと横に転がって棍棒をかわす。
そこから次々と敵は雪崩れ込んで来る…このままじゃやられる!
私はすぐに『サイコキネシス』を発動する。


謎の敵A
「…?」

彼岸女
「効かない!?」


『悪タイプなんじゃないの? だとしたら相性最悪だけど』
『1面からゲームオーバーとか止めてよ? 残機もクレジットも0なんだから…』


私は最悪のケースを理解した。
相手は間違いなくポケモンだ! そして見た事も無いけど悪タイプ。
ゴースト・エスパーの私にとっては本当に最悪の相手だ!!

謎の敵B
「キエェェッ!!」

彼岸女
「ぐうぅっ!!」


私は立ち上がってバックステップするも、槍で腹を傷付けられる。
当然血は出るし、痛みもある。
マズイ…技もロクに効かないし、武器もダメ。
だとしたら、今の状態で最大の火力を出せる武器を…!

私はそう思い、リングから銃を取り出す。
ホントはマシンガンでも出したかったけど、今のリングの幅じゃとても出せないからね!


彼岸女
「とりあえず、死になっ!!」


私は迷わず引き金を引く。
が、その反動で私は肩を外してしまう。
銃弾は当然当たるはずもなく、適当な方向に飛んでいってしまった。
私は右肩を左手で押さえ、銃を落として苦しむ。



『発想は悪くないけど、いくらなんでも44マグナムは無茶よ』

彼岸女
「くっそ〜! せめて両手で持てば良かった!!」


私は何やっても踏んだり蹴ったりだ。
このままじゃ右腕はもう使えない。
くそ…イライラする〜!!


敵A
「…ミタコトナイブキダゾ!?」

敵B
「ヒヲフイタ! アレホシイ!!」

敵C
「マダナニカモッテルカモ!! オソエ!!」


敵は何故かこちらの武器に興味津々だった。
文明レベルが低いのか?
だけど、敵は更にヤル気になってしまっている。
もっとも、こっちはただでやられる気はない!


彼岸女
「剣もダメ、銃もダメ…なら、これならいけるだろう!?」


私はリングから手榴弾を取り出す。
そして口でピンを噛み、一気に引き抜いた。
そのまま、左手で敵の固まっている場所に投げ込む。
私はそのまま、バックステップして伏せた。

直後、爆発。
敵はそれで一気に吹っ飛び、5人程いた敵はほぼ全滅していた。



『考えたわね…確かにあれなら女の子の力でも使えるわ』

彼岸女
「想像以上に重かったけどね!!」


『でも、仮にも今は主人公なんだから露骨に死ねはどうかと…』

彼岸女
「知らないよ!! こちとら必至なんだから!! 今更品行方正になれるかっ!!」


私は右肩の痛みに耐えながら敵を見る。
何人かは生き残ってる…トドメを差した方がいいかな?
だけど情報も欲しい…なら、ここは交渉といきますか♪


彼岸女
「ちょっと聞きたいんだけど?」

敵A
「ヒィッ!? ナニモンダアンタ!?」


『ポケモンってボケるのは止めてよ?』

彼岸女
「………」


見事に読まれた。
くっそ〜まさかボケも出来るボケ殺しとは!
私は気を取り直し、リングからナイフを取り出して敵に突き付ける。
すると敵は露骨に怯え、ガクガクと震えていた。


彼岸女
「君たち、この辺の原住民?」

敵A
「ソ、ソウダ! ココライッタイハ、ワレワレノトチダ!!」

彼岸女
「ふーん、君たち以外のポケモンはいるの?」

敵A
「イルニハイル! ダケド、ワレワレトハテキタイシャダ!!」


敵対者…ねぇ。
という事は、この辺では少なくとも争いがあるって事か。
この森は見た目以上に相当広い。
このポケモンたちはこの森を根城にしているのは確かみたいだけど…


彼岸女
「何故私を襲った?」

敵A
「ミタコトナイオンナ! コノモリデハブガイシャテキ!!」


やれやれ…とんだ鎖国っぷりだね。
どうやら、相当野蛮な民族みたいだ。


彼岸女
「…まぁ良いか、とりあえず私を襲わないならこっちも相手にはしない」
「だけど、向かって来るなら…全滅させるよ?」


私は脅しをかける。
敵はそのままビクついて固まってしまった。
私はナイフをリングにしまい、そのまま背を向ける。
落とした銃と剣も回収しておいた。



『あら、お優しいのね?』

彼岸女
「うっさい…! 気が乗らないだけよ」


私はそう言ってまたひとり森を歩く。
結局、肩は自分で治せなかった…パワーが足りなさすぎる!!



………………………



彼岸女
「…結構歩いたけど」


「よっと…どこまで行っても森ね」


雫は突然、私の体から外に出て来る。
そういえば、この状態でも力は出せるのか?


彼岸女
「何で外に?」


「お腹空いたからよ…貴方の夢だけじゃ全然足りないし」
「足りない分は、フツーの食事で賄うの」


何じゃそりゃ? 愚者ってホントに訳解らない生態してるなぁ〜
まぁ、それだけ私の夢がショボいって事か…


彼岸女
(聖君は…ホントに凄かったんだな)


改めてそう思う。
聖君は、いつだって絶望なんかせず、常に希望を抱いて家族を信じていた。
結局、最後の最期までそれは貫き通し、彼は消えてしまったのだから…



「早く、食事!」

彼岸女
「って、私に言うの? ったく…しょうがないな〜」


私は限界までリングを広げる…が、精々50cm程度だった。
まぁ、簡単な物なら出せるか。


彼岸女
「はい、ポテチ」


「○ルビーやだ、○池屋が良い」

彼岸女
「贅沢言うね!? って言うか、どっちも味変わんなくない!?」


「ふっ、愚か物め! 私は違いの解る女なのよ!」


どの口が言うのか…って、彼女以前に食べた事あるんだろうか?
それとも、聖君と感覚共有して理解したのかな?
私はやれやれと思い、別のポテチを出してあげた。



「バカモノ! うす塩じゃなくて、のり塩にせい!!」

彼岸女
「注文多いね!? 食べさせてもらってる立場なんだから黙って食いなよ!!」


私は渋々取り替えてあげる。
全く…手間のかかる愚者さんだよ!



「〜♪ やっぱりこの味が最高ね!」

彼岸女
「私は君の事が全く理解出来ないよ…」


とりあえず、食べ歩きながら私たちは森を進む。
けれども、景色すら変わらず私たちは迷いに迷っていた…


彼岸女
「方位磁石すら機能しないのか…」


「そもそも、それって地球以外で使える物なの?」


言われて私は固まる。
成る程…ここが地球だと思い込んでたけど、そもそもそうじゃない混沌世界だと考える方が自然なのか。
だとしたら、考え方を変えなきゃならない。
もし王が造り出した混沌であるなら、当然ルールがあるし、クリア条件があるはず。


彼岸女
「混沌…か、いざ自分で攻略するとなると面倒だね」


「あら早くも弱音? 聖はいつだって自分から行動してたわよ?」

彼岸女
「あんな異常者と一緒にしないでよ…」
「聖君は良くも悪くも、特異点過ぎて比較にされるのは無茶だ」


「確かに、ね…でも、だからこそ私は常に満足感を与えてもらえた」


そりゃ良かった事で…
まぁ、それが原因で私は無能に近いレベルまで弱まっちゃった訳だけど。
果たして、強くなれるのだろうか?
どうにも、そんなビジョンが私には見えない。
…こういう所が、夢の無さなんだろうね。


彼岸女
(ネガティブなのは…性分だからなぁ〜)


枷も外れ、私は欲望に囚われる事も無くなった。
同時に、強欲としての特殊能力も無くし、本当にただの弱いフーパになっちゃった訳だけど…



「…何かいるわね」

彼岸女
「何かって、前の変な紫の奴?」


雫は立ち止まって前方を睨む。
緊張の場面なんだけど、雫がポリポリとポテチを囓ってるから台無しだ…



「んぐ…水!」

彼岸女
「はいはい…」


私はそう言ってペットボトルを取り出して渡す。
すると雫はパッケージを見て顔をしかめる。
あ、これ突っ返される奴だ。



「○ろはすやだ! 南○ルプスのが良い!!」

彼岸女
「はいはい…これで良い?」


「ん! …んぐっんぐっ!」


やれやれ…ワガママな愚者様だ。
これで数々の奇跡を起こしてきたっていうんだから、解らないよね〜



「…ふぅ、どうやら目的の『家族』がいるみたいね」

彼岸女
「!! この先に…?」


私は警戒しながらも前を見る。
そして軽く探知してみる…すると、確かに何かがいるのが解った。
細かい所までは解らないけど、何か暴れてる?



「行く前に、覚悟だけしておきなさい」

彼岸女
「!?」


「下手したら、1面ボスで死ぬわよ?」

彼岸女
「それ、戦う事確定だって言うの?」


「…私の予想ではね」


予想…ね。
しかし、これが混沌ならそれがクリア条件と思うべきだ。
死ぬかもしれない…か。


彼岸女
「死ぬ事なんて、私は怖くないよ」


「そう? 私は怖いわ」


雫はそう言うも、怖がっている様には見えない。
私は…少しだけ、今の関係を考えてみた。
今の私は、雫と一心同体。
私が死ねば雫も死に、雫が死ねば私も死ぬ。
そんな状態で軽々しく命を賭けるのは、雫には酷なのかもしれない…


彼岸女
「なら、行くのは止めようか?」


「ダメよ行きなさい、そして攻略するの」
「そうしなきゃ、聖の元になんか辿り着けない」


聖君の為か…確かに、それならやらなきゃならない。
犠牲を前提に考えちゃダメ…か。
成る程、少しだけ聖君の事が解った。
聖君ならこんな時、必ずこう言うんだろう…


彼岸女
「分かったよ…雫の為にも聖君の為にも、絶対に皆を『救って』あげる!!」



………………………




「かああぁぁっ…!!」


それは、酷く暴れていた。
まるで野獣の様な格好で木々を薙ぎ倒し、獲物を探しているかの様だったのだ。
その姿はかつての姿が微塵も無く、私たちは呆気に取られていた…



「あれから何があったのか…? 一体、彼女はどうしてあんな状態に?」

彼岸女
「聖君がいなくなった事の弊害なのかもしれない…」
「だったら、私たちが止めなきゃダメだ!」
「あんな彼女は、『守連』ちゃんじゃない!!」

守連
「!?」


そう、それはピカチュウの守連だったのだ…
だけど、前の世界とは体格が違う!
まるで年月を食った様に体は大きくなっており、身長は160cm程まで大きくなっていた。
筋肉も相応に付いている…元々パワフルだった彼女が更にこうなるとは!


彼岸女
「説得したい所だけど…」


「無理でしょうね…まぁ精々頑張りなさい」


そう言って雫は1歩後ろに退く。
守連ちゃんはこちらを見て、何やら唸り声をあげていた。
まるで野獣だ…あの温厚な彼女らしくない。
一体、何がどうなって?


守連
「ぐぅぅ!!」

彼岸女
「!?」


彼女が一瞬屈んだ瞬間、それは電光となって飛びかかって来る。
私は瞬間身を捻らせ、何とか初撃を回避してみせた。


彼岸女
(速すぎる! 今の私にあれを捉えるのは無理だ!)


私は頭をフル回転させる。
余裕は全く無い。
だけどすぐに対策を打ち出さなきゃならない。
本気になった彼女の電撃を浴びれば、人間など一瞬で黒焦げなのだから…


彼岸女
「くっ!!」

守連
「!!」


私がリングを広げた瞬間、守連ちゃんは電撃を放つ体勢に入る。
それは読み通りであり、私はすぐにリングからゴムシートを出してそれを防ぐ。
ギリギリで間に合った! これでとりあえず電撃は…


彼岸女
「げっ!? 熱で溶けてる!!」


「当然でしょ…そんなの1発ネタに過ぎないわよ?」


私は慌てて、それを捨てる。
すると、守連ちゃんはそのまま飛びかかって来た。
私はかわす事が出来ず、一気に組伏せられてしまう事に…


守連
「うう…!!」

彼岸女
「落ち着くんだ守連ちゃん!! 一体何があったのさ!?」

守連
「守れ…なかった!!」


それは、彼女の悲鳴にも聞こえた。
目には涙を浮かべ、私の首を締めて彼女は顔を歪ませる。
私は窒息しそうになるも、それに耐えていた。


守連
「聖さんは…どこぉぉっ!?」


守連ちゃんは私の体を軽々と持ち上げ、そのまま投げ捨てる。
私は背中を木に打ち付けられ、口から血を吐いた。
そしてそのまま草むらに落ち、うつ伏せになって痛みに耐える。


彼岸女
(彼女と私は、直接的な面識は無い)


あの世界において、私はスカア以外に聖君を連れ去る場面は見せてなかった。
そして聖君をゲートの外に出した事で、彼女たちの記憶から聖君の事は消えているはずなのに…!


彼岸女
(何か、おかしい…! 何故彼女は聖君の事を覚えている!?)

守連
「どこだどこだどこだぁぁぁぁっ!!」


守連ちゃんはバチバチと周囲に電撃を放つ。
私は伏せたままそれをやり過ごすも、周りの木々に着火し周囲は火の海になっていった。


フーパ
「こ、このままじゃマズイ! 逃げ場も無くなってしまう…!」


「落ち着きなさい守連! 今の貴女を見たら聖も悲しむわよ!?」

守連
「!? 聖さんは、聖さんはぁぁぁぁぁ!?」


更に電撃を放つ守連ちゃん…もはや見境なしであり、雫もかなり危険な状態に陥っていた。
理由は解らないけど、今の彼女は正気じゃない!
恐らく、何か外的要因で狂わされている!
自分の容量も忘れてあんな電撃を放ち続けるなんて…自殺行為だぞ!?


彼岸女
「くっそ…! この程度なのか、私の夢ってのは!!」


私はフラつきながらもヨロヨロと立ち上がる。
そして、キッとした目で守連ちゃんを見た。
この時、私はようやく明確な目的が生まれたのを理解する。

聖君を甦らせる…その根底は変わらない。
だけど、仮定は重要だ!
聖君は、何よりも家族を信じていた…
その彼が甦った時、家族が失われていたら彼はどんな顔をする?
私は…そんな彼を見たくはない!


彼岸女
「今の私は、過去の私じゃない…!」


(そうよ、受け入れなさい…)

彼岸女
「もう、独り善がりだった欲望まみれの自分とは決別する!!」


(今の貴女なら、起こせるわ…)


私は明確な目的を見据え、そこに夢を見る。
聖君が側にいて、周りには彼の家族がいて…
そして…笑っていられる幸せなビジョン!!


彼岸女
「私にだって……」


この時、私は本当の意味で雫とシンクロした。


彼岸女&雫
「奇跡は起こせる!!」


私は右手を前に翳し、感情のままに力を解放する。
白き光と共に、その光は守連ちゃんを包み込んだ。
すると、守連ちゃんの体からおぞましく黒い気が立ち上る。
雫はそれを見ると、口を開けてその気を吸い込んだ。



「うぐ…クッソマズッ!! ゲロ吐きそうな夢だわ!!」


そう言って雫は顔を青くし、口と腹を押さえて苦しんでいた。
あれ…夢だったの?
何か邪気とかそういう類いの怨念っぽく見えたんだけど…


彼岸女
(いや、冷静に考えたら邪心って意味なら夢とも言えるのかも…)


憎しみとかそういう悪意は、ある意味悪党の描いた夢の
形とも言える。
そういう意味では、ちゃんと雫の餌でもあるわけなんだろう。
だから、悪意まみれの夢ばっか食ってたら腹壊して暴走するわけだ…



「はぁ〜! 彼岸女! ジュース頂戴!!」

彼岸女
「はいはい…どうぞ〜」


「なんで○ーチネクターなのよ!? ○ヤリースでしょフツー!!」


あ、もうこれ定番ネタになりそう。
いや、先に聞いてから出せば良いんだけどね!
私は仕方が無いからもう1 本出してあげる。



「オレンジじゃない! アップルが良い!!」

彼岸女
「ワッガママだなぁ〜はいはいはい!」


私が要望通りのを出してあげると、雫は無言でそれを飲み干した。
私はやれやれ…と頭を掻き、すぐに違和感に気付く。


彼岸女
(あれ…肩、治ってる?)


全身のダメージもやけに緩和している様だった。
どうやら、これが愚者としての本来の恩恵みたいだ…
夢という不確かな餌さえあれば、彼女は奇跡も起こせるし私の傷も治せる。

便利なんだか、不便なんだか…
まっ、そういうピーキーなのは嫌いじゃないけどね♪


彼岸女
「守連ちゃん…どうしてあんな風に?」


「恐らく、オーロンゲ族の仕業でしょう」


突然声をかけられ、私はバッと横を向く。
するとそこには、見た事も無い装束を着た女性が立っていた。
水色のロングヘアーに同じ色の三角帽子。
瞳は黒で、眉毛はピンク…端正な顔立ちで、パッと見は間違いなく美人の類いだろう。
服は上がピンクの装束であり、下には白い長スカートを履いていた。
そして何よりも異様に思えたのが…


彼岸女
(ポニテかと思ったら…まさか腕!?)


そう、彼女の後頭部から下に伸びる物は腕の様に動いていた。
触腕…とでも言えば良いんだろうか?
先端には三ツ又の何かが飛び出ており、それぞれが別々に動かせる様だ。

とりあえず、何か事情を知っているみたいだし、聞いてみた方が良いかもね。


彼岸女
「ちなみに、君は誰?」


「私は、この森の魔女…『ブリムオン』の『タイナ』と言います」


そう言って彼女は丁寧にお辞儀する。
前に襲って来た連中とは真逆だね…
でも、アイツ等は他の連中とは敵対してるって言ってたけど…



「…ブリムオンに、オーロンゲ?」

彼岸女
「…私もかれこれ数千年は生きてるけど、聞いた事の無い種族だね」
「成る程…これが、第8世代か」


私はようやく理解した。
過去に私は3度黙示録を経験した訳だけど、黙示録の度に見た事の無いポケモンが追加されていたんだ。
つまり、彼女たちは新種のポケモンであり、新たな世代の住人って事だ。


タイナ
「? 何か、言ってる事が解らないのですが…」

彼岸女
「ああ、ゴメンゴメン…気にしないで」
「それより、この守連ちゃんの事知ってるの?」


私はそう言って、倒れたままの守連ちゃんを指差して聞く。
さっきの力で、そのまま気絶してしまったみたいだね…


タイナ
「その方は、2年程前にこの森に現れました」

彼岸女
「に、2年!?」


「まさか…そんなタイムラグが生まれていたなんて」


私たちは共に驚いていた。
新たな世代に突入したかと思えば、まさか時間軸が違っていただなんて。
成る程、守連ちゃんの体格まで変わるわけだよ…
きっと彼女の事だから、体をずっと鍛えていたんだろうな。


タイナ
「彼女が現れる少し前から、この森は少しの間争いがおきていました…」
「その争いの際に、彼女は滅ぼされかけていた私たちの一族を守ってくださったのです」


「守連らしいわね」

彼岸女
「見も知らぬ相手を守るだなんて…実にヒロイックだね」


私には到底出来そうもない。
いきなり襲われたら、死ね!と行って追い返す位だからね。


タイナ
「…彼女のお陰もあり、一旦は争いが終わりました」
「ですが…つい1週間位前に、敵対するオーロンゲ族が再び進行を開始して来たのです」


「キナ臭いわね…何があったの?」

タイナ
「理由は解りません…ですが、守連さんはオーロンゲ族を説得しようと、ひとりで敵の本拠地に乗り込んだのです」


ひとりで、ね…勇気のある事だ。
とはいえ、あんなザコ共相手なら束になっても守連ちゃんには勝てないだろう。


タイナ
「守連さんが飛び出して、2〜3日した後…」
「守連さんは突如森で暴れ出し、今に至るというわけです」

彼岸女
「…成る程、だからそのオーロンゲ族ってのが怪しいわけか」


タイナはコクリと頷く。
突然の進行、守連ちゃんの暴走…確かにキナ臭いね。
まぁ、とりあえず守連ちゃんを保護して直接話を聞いた方が良さそうだ。

私は守連ちゃんの体を抱え上げ、背中に背負う事にした。
ぐ…想像以上に重い! い、いや…私の力が無いのか。
私は少々冷や汗を滴しながらも、タイナにこう話す。


彼岸女
「とりあえず、守連ちゃんが目覚めるまで保護したい」
「どこか安全な場所は?」

タイナ
「あ…あの、つかぬ事をお聞きしますが」
「先程まで火の手があがっていた様だったのですが、どうやって消火なされたのでしょうか?」


私はそれを聞いて、ああ…と思い出す。
そう言えば派手に燃えてた気がしたけど、今は完全に鎮火してるね…



「奇跡のついでね…貴女の心の何処かで、森の被害で犠牲になる誰かをイメージしたんじゃない?」

彼岸女
「…さぁ、そこまでは」


私は首を傾げてしまう。
まっ、それも奇跡って事で良いでしょ!


彼岸女
「とりあえず、奇跡が起こったって事で!」

タイナ
「は、はぁ…?」


「それよりも早く案内しなさい…敵が来ないとも限らないわよ?」


それを聞いて、やや慌て気味に私たちはタイナの住んでいる館に向かった。
その辺りはブリムオン族の領地の奥地らしく、オーロンゲ族は滅多に攻め込んで来ないそうだ。



………………………



彼岸女
「…この館は、ひとりで住んでるの?」

タイナ
「はい…私は、一族の中でも忌避されている魔女なので」


そう言って、タイナはテーブルに紅茶が入ったカップを置く。
香りは中々の物で、いい葉を使っていそうだった。



「私はミルクティーが良い」

彼岸女
「はいはい、出してあげるよ…」


そう言って、私はミルクと砂糖を出してあげる。
雫はそれを適量入れてスプーンでかき混ぜていた。


タイナ
「あ、あの…貴女も魔女か何かでしょうか?」

彼岸女
「はぁ? 私はただのフーパだけど…」

タイナ
「ですが! そのリングひとつで望んだ物がすぐに出せるとか、便利すぎませんか!?」


私はああ…と思い、少し面倒そうに頭を掻いてどう説明しようか迷った。



「○次元ポケットとでも思えば良い」

タイナ
「はい?」

彼岸女
「この娘にはネタの神は降りてこないみたいだね…」


「っていうか、もう少しボケ担当が欲しい」

彼岸女
「勘弁してよ…ただでさえこっちはツッコミで疲れるっていうのに」
「どっちかって言うとボケ担当だと思うよ私?」


まぁ、どっちもどっちなんだけど…
少なくとも私は疲れるからあまりツッコミはやりたくない。
とはいえ、ネタの神が降臨してる雫相手にはツッコマざるを得ないし、仕方の無い部分ではある。
守連ちゃんって、どっちに分類されるんだろうか?
タイナもどっちかと言うとツッコミに感じるし、確かにボケが足りないのかもしれない。
雫はボケ殺しでもいける万能型だしなぁ〜


彼岸女
(って、何をバカな事を考えてるのか…)


もっとも、それだけ余裕が生まれたと言えるのかもしれない。
守連ちゃんが味方になってくれるなら、この上ない戦力だし。
今後の事も考えて、聖君の家族は全員助けないと…
きっと、聖君なら誰ひとり欠ける事は許さないって言うだろうからなぁ〜


タイナ
「うーん、このリングどうなってるんですかね〜?」

彼岸女
「こらこら…あんまり触んない、私以外が触っても使えないんだから」

タイナ
「あ、壺発見!」

彼岸女
「ハイダメーーーーーー!!! それだけは絶対にダメーーー!!!」


私は全力でリングを奪い、タイナから引き剥がす。
あっぶないあっぶない…下手したら世界を焼き付くしてる所だよ。
って言うか、何で中身触れるの!?
これ、私以外には使えないはずなのに…


タイナ
「良く解りませんけど、色々入ってるんですね〜」
「フーパはそれを自由自在に選んで出し入れ出来るのかぁ〜うーん、勉強になります♪」

彼岸女
「勘弁してよ…物騒な物も沢山あるんだから、もう触らないでよ?」

タイナ
「は、はい…すみません、つい好奇心で」


つい…で世界が焼き付くされたら、たまったもんじゃないと思うけどね!?
まぁ、このサイズなら兵器関係はほとんど出られないと思うけど…
私は試しにもう1度開いてみる。
すると、60cm程開いた…少しだけ伸びたね。


彼岸女
(肉体的には結構マシになった気がするんだけど…)


それでも、まだまだ少女の域は脱せられないらしい。
気は重くなるけど、前向きに考えよう。
私が夢を持ち続ける限り、雫の力は無限に強くなれるのだから。










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第2話 『第8世代、新たなる種族』


…To be continued

Yuki ( 2020/09/05(土) 13:31 )