『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』 - 第1章 『新たなる世界』
第1話
聖戦は終わり、世界は闇に包まれ振動を始める…
そこに住む全ての存在は、同時空の並行世界を含め、全てが等しく『終わり』を迎えるのだ…

だが、終わりの後には『始まり』がある。
それこそが『黙示録』であり、この時空においてそれは既に8度目となる現象…

果たして…次はどんな世界に組上がるのか?
それは…神のみぞ知る。



『魔更 聖』…それは、創造神に認められたただひとりの少年。
だが稀有な運命に弄ばれ、彼はこの世を去った…
『夢見の雫』は最後まで継承者を救う事は無く、彼の最期はまさに無惨だったと言えるだろう。

あまりにも呆気無く、無情に…


そんな中、彼が救った家族はどうなったのか?
彼の死はまだ家族も知らない…が、いずれは伝わる事。
それを知った彼女たちはどんな感情を抱くのか?

ここからは、皆さんの目でそれを確かめてほしい…
さぁ、新たなる扉を開きましょう……



………………………



阿須那
「な、何やここ!?」

華澄
「まるで『時空の最果て』の様な…!?」

メロディ
「落ち着いて皆! まずは私の話を聞いて!!」


メロディはそう言って場を嗜めようとする。
この何も無い漆黒の世界で、何故か聖の家族は集結させられていたのだ。
当然、そんな突然の現象に全員が慌てていた。
40人を越すこの人数相手に、流石のメロディも静められずにいたのだ。

メロディは軽く息を吸い、そして…


メロディ
「赤い、ほっぺ…黄色のシャツ…ギザギザ模様の、ボクの…ベストフレンド…」

他全員
「!?」


メロディが静かに歌を歌い始めると、やがてメロディの背後から数々の楽器が現れる。
そしてそれらはメロディの歌に合わせて、勝手に楽曲を鳴らし始めた。
これはメロエッタである彼女の能力でもあり、メロディ固有の能力。
彼女の口から放たれる歌には明確な力があり、それは『希望の歌(ホープヴォイス)』と、自らが名付けた能力でもある。

やがてひとしき歌い切ると、既に場はしん…としていた。
メロディは歌が終わると楽器を消し、大きく息を吐いてその場の全員を見る。


メロディ
「…少し、落ち着いてくれたかしら?」


全員がメロディを注目し、今は静かにしている。
それを確認して、メロディは改めて全員の存在を確認した。


メロディ
(聖君の家族は全員いる…後巻き込まれたのは)

光里&穹
「……」

宙&大愛
「……」

沙譚&悶々
「……」

茫栗
「……」

賢城
「……」


そう、家族以外にも巻き込まれた者はいる。
聖と同じ学校にいる3人と、そのパートナー。
そして茫栗と、人間の賢城…
選ばれた基準はとある理由からなのだが、まずはそれを説明せねばとメロディは話し始めた…


メロディ
「まず、状況を説明するわ…」
「とりあえず、黙示録は始まり世界は一旦リセット確定」

女胤
「なっ!? 一体いつの間に!?」

メロディ
「ついさっきよ…流石にこっちの神様はもう限界だったって事ね」

白那
「神様…アルセウスの事かい?」


白那の問いにメロディは軽く頷く。
そう、既に神たるアルセウスは消されており、今の世界には混沌の王たるアルセウスが君臨した。
やがて新たに世界は始まり、彼女たちもまた戦いに躍り出る事になるだろう…



「…で、わざわざ全員雁首並べて集まらせるって事は」


「…何かの対策って事かしらね?」

メロディ
「そうね…率直に言うとそう」
「そして同時に、それは最悪のシナリオになったという証拠よ」


メロディの低い声が全員を緊迫させる。
脅しではなく、真実…
間違いなく、今は最悪の状況なのだから…


メロディ
「…聖君は、死んだわ」


全員が絶句する。
そして一気に狼狽え始め、また場が騒がしくなった。
メロディは息を吐き、少し頭を抱える。
まぁ自業自得であり、彼女の配慮が足りなかったという所か。
元々彼女はそういう性格であるし、回りくどい事を嫌うタチなのだが…


華澄
「全員静まれ!!」


ここで、まさかの華澄が渇を入れる。
誰もが予想しなかった渇に、再び場は静まり返った。
華澄の表情は鬼気迫る物であり、明らかに怒り心頭…という感じだったのだ。

しかし、それはあくまで自分に対する怒りであり、彼女は泣きたいのも我慢して拳を握り締めていた。
そして華澄はまずこう発言する。


華澄
「…騰湖殿、メロディ殿の言葉は嘘では?」

騰湖
「反応はしなかった…信じたくもないが、真実確定だ」


騰湖は冷静にそう言う。
彼女は家族の中でも荒っぽい性格に見えるが、実際にはそうでもない。
むしろ、こういう状況でも自分を抑えて冷静に判断出来るタイプなのだ。

あくまで彼女が荒っぽいのは、愛する聖が絡む時だけという事を覚えておいてほしい…


光里
「聖、君…」


「マジかよ…あの先輩でも、どうにもならなかったのか?」

沙譚
「……ちっ」

メロディ
「悲しいけれど、今は受け入れて」
「それに…」


「どうせ復活フラグだろ?」


藍の言葉に全員が注目する。
メロディさんは軽くため息を吐き、肩を竦めた。


メロディ
「まっ、流石に予想は出来たか…」
「でも、簡単じゃないわよ? ここから先は地獄かもしれないんだから」

愛呂恵
「構いません、例え何があろうとも私は聖様を救います」

三海
「同感だな…この命は聖に救われた物だ、なら捨てる覚悟は出来ている」

二海
「安心しろ、何があってもお前は私が守る」


皆覚悟は出来ている様だった。
例え非戦闘員のメンバーですら、である。
しかし、これこそがここまで繋がってきた絆であり、まさに家族の力。

聖の為であれば、皆戦える事の証明だった…
だがそんな中、家族と関係無い者はどう思っているだろう?


ジェノ
「どの道、俺は妹の為に戦う…まぁ、友人の手伝い位はやってやるがな」


ジェノはそう言って腕を組み、ニヤリと笑う。
彼女は混沌の七幻獣であるノーマと戦う必要がある。
聖の復活は、そのついででも良いという事…


茫栗
「…ところで気になったんだけどさ、風路はどこにいるんだい?」

阿須那
「えっ!? あ、あれ……って、ホンマや!?」


全員が周りを見渡すものの、風路は見付からない。
そう、この場に風路は存在しなかったのだ…


メロディ
「ぶっちゃけ、私にも解らん!!」


「解らねぇのかよ…おいおい、まさか死んだのか?」


「…その確率は低いでしょうね、だって仕事中だったんでしょ?」

明海
「は、はい! 確かに、直前までは私たちと一緒に仕事してました!」


「普段と変わらない雰囲気でしたし、特に引っ掛かる事もありませんでしたが…」

白那
「…だとすると、例外になったって事かな?」


白那がそう言うと、場はどよめく。
メロディですら解らないといった状況にもかかわらず、白那は何となくの目処が付いている様だったのだ。


光里
「白那さん、例外ってどういう事なんですか?」
「どうして…風路さんはここに呼ばれなかったんですか!?」

沙譚
「落ち着け光里…話を聞けば解るだろ」


やや食って掛かる様な光里を、沙譚が肩を支えて宥める。
光里は少し俯くも、体を震わせて白那を見た。
すると、白那は少し目を瞑ってからこう話す…


白那
「あくまで、これはオレの推測だが…」
「風路は、恐らく唯一生きている『継承者』であり、そして神に認められた存在のひとり」

大愛
「成る程、だから『例外』か…」


「ど、どういう事っすか?」


大愛は白那の短い説明だけで察した様だった。
横にいた宙は全く解らないという顔で、大愛を見て訊ねる。
だが、大愛からはその答えは帰ってこなかった…


メロディ
「夢見の雫の歴代継承者で、唯一次代に継承させて生きているのが…イレギュラーって訳ね」
「成る程、道理で恵里香の選別に入ってなかったわけだわ…」

阿須那
「ど、どういう事なん? 恵里香の選別って…そういや恵里香もおらんけど、ここは最果てやないんか?」

メロディ
「ここは紛れもなく時空の最果てよ…そして恵里香はもういないわ」

華澄
「もう、いない…? では、別の世界に?」

メロディ
「ううん、もう…どこにもいないの」
「あの娘は、自分の持つ全ての力を使って、皆をここに送ったのだから…」


メロディの顔は、とても悔しそうだった。
怒りの感情が阿須那たちにも伝わる程であり、親友であるメロディは本当に悲しんでいる様だった。


メロディ
「ここは確かに時空の最果てなんだけど、厳密には阿須那ちゃんたちが知ってる最果てじゃない」
「ここは…唯一黙示録から逃れられる『別時空』の最果てなのよ」

女胤
「別時空の…最果て?」
「で、ですが! それだと恵里香さんの能力範囲から外れてしまうのでは?」
「確か恵里香さんの『世界送り(ワールドメール)』は、同一時間軸の世界線にしか干渉出来ないはず…」

メロディ
「だから、恵里香は命を賭けてそれを無理矢理行使したのよ」
「もうひとりの…家族に、力を借りてね」


メロディがそう言うと、突如として輝きを放つ存在が顕現する。
その者は家族には周知の存在であり、現状最後に認められた『家族』のポケモンだ…
その者は尊大そうな佇まいをし、皆の無事を確認して微笑んでいた。



「どうやら、成功した様だな」

メロディ
「…やっぱ、恵里香は無理だったのね」


メロディは俯き、受け入れる覚悟を決めていた。
ここで恵里香が現れない…それはつまり。



「…元々、そうなる運命だったと恵里香は言っていた」

メロディ
「そして…それが償い、か」

阿須那
「…恵里香の奴、死んだんか?」

メロディ
「死んだ…とは言えないけど、でも…もうどこにいないわ」
「私たちは、既に扉を潜った異端者…その時点で生死の理からは外れているもの」

華澄
「扉とは…?」

メロディ
「世界の扉…平たく言えば、別時空の世界へのね」

女胤
「まさか…それはあの時リィザさんが潜った?」


女胤の言葉で阿須那、華澄は驚く。
そう、彼女たちと…今眠っている守連は実際に見た事があったのだ。
過去の別時空の出来事…かつて聖が最も愛した女性が、全てを捨てて潜った世界の扉。

メロディたちもまた、その扉を潜っていたのである。


メロディ
「知っているなら話は早いわ」
「私たちは死んでも、厳密にそれは死にならない」
「私たちは死ぬんじゃなく、『消える』のだから…」


ほぼ全員が凍り付いた様に驚く。
消える…その意味を知っている者は数多い。
そして、その中でも特に辛そうな顔をしたのは、やはり当事者の白那だった。


白那
「でも、消えるって割には皆の記憶には残ってるけど?」

メロディ
「それこそが、恵里香の狙いなのよ…」
「恵里香は皆を別時空の最果てに飛ばす事で、記憶の改竄を阻止したの」

三海
「成る程、つまりワタシたちも既にメロディお姉ちゃんたちと同じ存在になったと?」

メロディ
「厳密には同じじゃないけれど…近い存在なのは確かよ」
「この時空の最果てという場所は、有りとあらゆる干渉から逃れる特殊な空間」
「いかなる力も存在を許さず、行使も出来はしない」
「そこで力を振るえるのは、神の寵愛を受けた異端者のみ…」

女胤
「神の…? 恵里香さんは一体どうして?」

メロディ
「混沌の王っていうのはね、アルセウスの事なのよ…もちろん別個体の」


メロディは軽くそう言うが、全員が受けた衝撃は相当な物だった。
ここに来て遂に判明した黒幕が、まさか全能の神アルセウスだったとは、誰も予想はしてなかった様だ。
そして、同時にそれは絶望感も生み出す。

世界をも作り替えられる神…そんな存在にどうやって立ち向かえば良いのか?
もはや、聖もいないというのに…


メロディ
「…その混沌の王が貴女たちの世界の神を殺し、今や世界は黙示録に包まれている」
「もう少ししたら、それも終わり…そして新たな世界が造られるわ」

ジェノ
「その世界に、ノーマたちもいるのか?」

メロディ
「ううん、残念だけどその世界にはいないと思う」
「でも、貴女はきっと関わるでしょうから、また会えると思うわ…敵として」


ジェノはそれを聞いて安心していた。
元々、それが本来の目的なのだから…
二海も横で微笑している。


阿須那
「とりあえず、ここまでの情報整理しようや?」
「なんぼ何でも、いきなり新情報炸裂しすぎや!」

華澄
「そ、そうでござるな…その方が拙者も助かるでござる」

女胤
「でしたら、守連さんと悠和さんが起きるのを待っては?」
「って…ここは最果てですのに、何故おふたりはダメージを残したままなのですか!?」


女胤は、また新たな疑問を投げ掛けてしまう。
阿須那はあ〜とボヤキながらも、頭を抱えていた。
メロディはあはは…空笑いし、とりあえずその疑問に答える。


メロディ
「今回は、恵里香が命を投げ売ってやった超大型の世界送りなのよ?」
「その効果は、精神体ではなく本物の肉体を顕現させる事に成功したの」
「まぁ、最果てには違いないから特殊能力とかは制限されるけどね…」

三海
「ン? だったらメロディお姉ちゃんの能力は何故?」

メロディ
「私のは特別製…仮にも混沌の王から寵愛を受けた眷属だったからね〜」

愛呂恵
「成る程…それが神の寵愛だと」


とりあえず三海は理解した様だ。
そして顎に手を当て、自分なりに回答を出していく。
愛呂恵も理解はしたものの、詳細は何とも言えなさそうだった…


阿須那
「はいはい! とりあえず一旦整理するで!?」
「まず、ウチ等の目的!」

女胤
「もちろん聖様の復活ですわ!!」


ビシィ!と女胤を指差した阿須那に対し、グッと拳を握って答える女胤。
とりあえず明確な目的であり、これは家族共通…
その他友人勢も同じであり、当面の最終目標となる部分だろう。


阿須那
「風路はんの事は気になるけど、恵里香が仕組んだ事なら多分大丈夫やろ」
「で、次! 敵は何や!? はい三海!」

三海
「混沌の王…そしてその眷属たちだな」


阿須那は次に三海を指名する。
三海もそれに対して、冷静に答えた。
家族にとっては倒すべき敵…そして逃れられぬ戦いでもある。
あくまで聖の復活は第一だが、敵の事も決して無視は出来ないのだ。


華澄
「仮にも守連殿と悠和殿を倒した程の手練れ…気を引き締めねば!」

阿須那
「せやけど、交戦はあくまで出くわした時だけや!」
「ウチ等の優先は聖の復活! それだけは忘れたらアカンで!?」


阿須那の言葉にほぼ全員が頷く。
そんな中、全く家族に関係の無いふたりが言葉を放つ。


茫栗
「アタシは勝手にやらせてもらうよ? 別にそっちの邪魔したりはしないさね」

賢城
「…ワシは手伝うたる、借りがあるさかいな」
「死んだ人間の復活とか、アホみたいな話やが今は信じたるわ」

阿須那
「まぁ…茫栗はんは強制しまへんわ、ホンマに無関係なポケモンやし」
「組長はんは、ホンマにええんですな? 確実に危険な橋渡りますよ?」


賢城はそう聞いて、ククク…と微笑する。
元より危険しか付きまとわない商売に身を置いている彼からすれば、そんな脅しは何の意味も持たなかったのだ。


賢城
「上等や、このワシの命を取れる思うなら、何ぼでも相手したるで?」


「さ、流石は組長! こんな場でも一切退かねぇなんて…」

阿須那
「って、言うか…これからウチ等は具体的にどないするん?」
「恵里香がおらへんのやったら、どうやってこっから脱出するんや?」


阿須那はもっともな事を口にし、全員が?を浮かべる。
元々、最果てから他の世界へと旅立つには恵里香の能力が必須だった。
なのに、それすら無い現状でどうやってここを出るのだろうか?

その答えは、案外簡単に判明する事に…


メロディ
「黙示録が終わり次第、私の歌と色さんの力を合わせて皆を導くわ」
「ただ、恵里香程の正確さは出せないから、各々どこへ飛ばされるかは覚悟しておいて…」


「先にあるのは天国か地獄か…全ては神のみぞ知るだろう」


ふたりの言葉に全員覚悟する。
恐怖する者、振るえる者、戦う意志を固めた者…それぞれが各々の覚悟を決めていた。
退く者はひとりもいない…いや、退けないというべきか?
ここで立ち止まったとしても、終わりも始まりも無い空間に取り残されるだけ…

はっきり言って、その方が遥かに地獄なのだから…


阿須那
「ウチはドンと来いや! どんな混沌世界があったとしても、絶対に生き残ったる!!」

華澄
「同じく…例えこの身に何が降りかかろうとも、必ず家族は拙者がお守りします!!」

女胤
「今の私(わたくし)は止まりませんわ! 何があろうとも聖様をお助けいたします!」

愛呂恵
「愚問ですね…私の選択はただひとつ、大切な主の為に動く事だけです」

三海
「ワタシだって聖に認められた家族だ…なら、聖の為に皆を助けるさ♪」


阿須那たちはそう言って眠っている守連を見た。
スカアとの戦いでズタボロにされた守連は、悠和共々死にかけの重態で白那に見付けられて搬送されたのだ。

そしてそのまま簡易的に白那城にて治療を受け、今はふたりして死んだ様に眠っている。
ふたりも、この場で目覚めていれば必ず呼応するだろう。
阿須那にはそれが容易に想像出来ていた。


白那
「まぁ、オレは聖君の為なら命なんて安い物さ」


「…元より、拾ってもらったも同然の命だしね」


「ふん、俺様は死ぬつもりなんて無ぇぞ?」
「ちゃんと家族は守るし、聖もついでに何とかしてやる」

夏翔麗愛
「家族一致団結! 皆気持ちは一緒なのです!!」


白那たち親子は、そう言って強い気持ちを持つ。
彼女たちは、聖に救ってもらった恩を決して忘れない。
だからこそ、こんな時でも親子で力を合わせて、聖の為に一致団結出来るのだ。


櫻桃
「まっ、アタシは主人が行くなら付き合うさ」

借音
「私も付いて行きます…お力になれるのでしたら」

麻亜守
「私だってやるもん! 弱いままじゃなく、もっともーっと強くなって、絶対にお母さんたちを助けるんだから!!」


麻亜守は泣きそうになりながらも、強い気持ちを皆にぶつけた。
非戦闘員の中でも、もっとも非力で歳の低い彼女にとって、今回の事件はあまりに辛すぎた…
だが、彼女の魂は決して弱くない。
きっと、これから成長していくであろう麻亜守は、櫻桃や借音が支えてくれるのだから…


浮狼
「…聖様がまだ復活出来るのであれば、やるしかないでしょう」


「アタシは大将に付いて行くよ…それが筋ってモンだし」

土筆&未生羅
「私たちも頑張る!」

唖々帝
「まだ聖には渡せてない物がある…それを渡すまでは、まだ死ねないな」


「アタシも出来る事があるなら、それを全力でやるだけだ!」

祭花
「今度こそ、私だって活躍してみせるんだから!」


浮狼たちもやる気は満々だった。
元より彼女たちも聖によって結果的に救済された者たち。
既に地獄の様な世界を知っている彼女たちに、多少の混沌は恐怖にもならないだろう。


明海
「私には、力は無いけれど…」


「それでも、努力すればきっと報われる…私はそれを知ったわ」

毬子
「私だって、生活面でなら活躍出来るし!」

教子
「う、うん! 自分に出来る範囲で頑張れば良いよね!?」


基本的に戦闘力皆無のメンバーたち…
瞳と悠和はかなりの戦力であるが、それ以外の3人はとても戦える戦力では無い。
しかし、同時に自分たちが何をすれば良いかも理解しきっており、家族として不足になっている部分は全く無いのだ。

そして瞳は信じている…皆だって、努力すれば戦力になれるのだと。
今の自分の様に…きっと。


騰湖
「ふん、さっさと先に行きたい物だな」


「ああ…こちとら怒り爆発寸前だぜ! 聖を殺るなんざ絶対に許せねぇ!!」

喜久乃
「熱くなるのは結構ですけど、やり過ぎて後から聖さんに起こられない様気を付けてくださいよ?」


喜久乃の言葉を受け、ふたりはうっ…となる。
間違いなくやる気はあるのだが、いかんせん騰湖と鳴は歯止めが効き難い。

良くも悪くも連携を苦手とする性格だけに、仕方の無い部分でもあった。
対して喜久乃は冷静沈着…かつての修行の成果もあり、今やリーダーの資質も備えている程。
しかし、生来の面倒嫌いがある為、喜久乃としてはため息しか出ない状況でもあった…

とはいえ、聖を救いたいのは同じ…
聖の為ならば、喜久乃もまた戦えるのだ。


舞桜
「聖さんの復活…必ず何とかしないと」

水恋
「でも、どうやってやるの?」

神狩
「それは後から教えてもらえるはず…今は話を聞きながら待とう」


舞桜たちも比較的冷静であった。
何だかんだで聖への信頼も高く、実力もそこそこの3人。
こすぷれ〜ん2号店での経験もあり、舞桜や水恋は更に成長していた。
神狩も独自で鍛え続けており、戦闘力はほぼ最前線クラス。
何よりも、この3人は聖の事を明確に愛しているメンバーだ。
その愛情は、必ず今後も力となってくれるだろう…


鐃背
「是非もあらんか…」

香飛利
「うう…聖さん」

鐃背
「これ、泣くでない…! まだ復活出来ると言うておったじゃろう?」

香飛利
「うん…だから、私も頑張る〜!」


香飛利は泣いていたが、それは怖くて泣いてるのではなかった。
ただ、聖がいなくなってしまったのが悲しくて泣いていたのだ。
それに気が付いた鐃背は、クスリと笑って香飛利の頭に手を置いた。
そして、キッとした顔で気持ちを切り替える。
家族の中でも最大戦力のひとりである鐃背…
これからの戦いでは、その力を遺憾無く発揮してくれるだろう…


光里
「…穹ちゃんは、どうしたい?」


「面倒…光里に任せる」
「…好きにすれば?」


穹は素っ気無くそう言う。
だが、決してどうでも良いからという理由ではない。
彼女は光里を信頼しているからこそ、任せると言ったのだ。
それが光里に伝わっているかは微妙だが、それでも光里は強い意志でこう言った…


光里
「ゴメンね穹ちゃん、私…やっぱり聖君を助けたい!」


「なら、そうすれば? 私は、光里に付いてくし…」


それを聞いて光里は思わず穹に抱き付いた。
単純に嬉しかったのだろうが、穹は急激に上がる体温に不快指数を上げ、すぐに冷却を始めるのだった…


光里
「冷たい!! 穹ちゃんストップ!!」


「むぅ…急に抱き付くの禁止!」


穹にそう言われ、はーいと答える光里。
何ともほのぼのしい光景だが、ふたりの気持ちは一致した。
聖を何としても助ける。
穹はそんな光里を助ける。
今は…それで良いのだろう。



「まっ、ここで退く様なら漢が廃るってね!」

大愛
「ふっ、だがお前は所詮ただの人間だ…」
「戦闘は私に任せておけ、お前は後ろでふんぞり返っていれば良い」


このふたりも、既に信頼関係は固まりつつあった。
あれから宙も大愛の事を気にかけ、互いの絆は深まっている。
大愛にとっても、宙という男はそんなに悪くなく、一緒に生活していて気分は良い物だと思う様になっていたのだ。

もう、かつての冷徹な彼女はナリを潜めている。
今の彼女を見れば、純粋に近寄りがたいだけの美人に映るだろう…


沙譚
「ちっ、光里がやるってんならアタシもやるか」

悶々
「またまた〜、本当は聖さんの事好きなんでしょ〜?」


瞬間、沙譚の裏拳が悶々の顔にめり込む。
衝撃で悶々の顔面が拳の形に変形するが、すぐにそれは元に戻ってしまった…


沙譚
「ここから出たら、特製のくさや風呂に入れてやる…覚悟しておけ?」

悶々
「ひぃぃぃっ!? その為にドカ買いしてたんですかぁ!?」


ちなみにくさやとは、臭いがキツイ食べ物で有名である。
肉体的な痛みを与えられない悶々にとって、純粋に恐怖する物のひとつであろう事は、想像に固くなかった…


二海
「ふっ、相変わらずお人好しの集団だ」

ジェノ
「だが、悪くねぇ…たったひとりの男の為にこんだけの人数が動くんだ、誇って良いだろうよ」

二海
「そうだな…確かに、これだけのポケモンをあいつは救ってみせたのか」


二海は改めて聖の家族を見て物思いに耽っていた。
今は彼女もその家族のひとりなのだが、本人としてはその自覚は無い様だ。

ジェノは直接関係無いポケモンであるが、それでも利害は一致している。
何よりも、友である二海の事は助けたいと思っているし、純粋な悪に対して立ち向かう、ヒーローの気質が彼女にはあるのだから…


メロディ
「結局、皆やる気か…ひとり除いて」


「これが…聖が繋いだ絆なのだな」

メロディ
「あら、貴女もそうでしょう? だったら、あの輪に加わらなきゃ」


色はそう促されるも、一切動かなかった。
確かに聖に認められ、あの大家族の一員となったのは確かだ。
だが、彼女はそもそも今の姿すら皆に見せた事は無く、そもそも家族として認識されてるのかも解らない。

色は、ある意味恐怖を初めて覚えていた。
自分には、あの輪に飛び込む勇気は無いのでは?と…


メロディ
「踏み出せないなら、背中押して上げよっか?」


「…?」


メロディがそう言うと、メロディは懐からサイン色紙を出す。
そして、そこに自分の気持ちをペンで書き込み名前を書いた。
徐に、それを色に渡す…

当然ながら、意味は解っていなかった。
メロディは微笑みながら、軽く説明する。


メロディ
「寄せ書きって言ってね、仲の良いグループで思い出作りの為に書き連ねるの」
「今回は、聖君への皆の気持ちを書いて貰うわ」
「さぁ、貴女も書きなさい…聖君の事が好きなら」


「…聖への、気持ち」


色は生まれて初めて持たされたペンと色紙を握り締め、固まっていた。
そもそも、聖への気持ちと言われても理解が出来ていない。
彼女はそれ程までに不器用であり、そして超常存在だったのだから…


メロディ
「貴女が、聖君に伝えたい言葉を書けば良いのよ」
「その寄せ書きは、聖君へのプレゼントになるから…」


「伝えたい、言葉…」


色は何となく思い付いたのか、ヘタクソな字で文字を書き留める。
そして最後に自分の名前を書き、それをメロディに見せた。
すると、メロディは思わず笑ってしまう。


メロディ
「あははっ、成る程ね〜♪ うん、良いんじゃない? きっと聖君も喜んでくれるわ!」
「それじゃあ、それを皆に持っていってあげて!」
「それが、貴女の家族としての最初の仕事…」


「…解った、それが仕事なら従おう」


そう言って、色は蛇型の下半身をうねらせて前に進む。
何人かの家族は驚いていたが、すぐに慣れたのか逃げる者はひとりもいなかった。

やがて、色も皆に混ざり会話を交わしていく。
一時の安らぎであるが、彼女にとっては未知の体験だった。
かつていた世界では、必要ともされずただ監視するだけの存在。
そのまま、世界と共に役目を終えるだけの意味無き存在は、今喜びを初めて感じていたのだ…



………………………



阿須那
「よっしゃ! 出来たで!!」
「メロディはん! 全員分書いたで〜!?」

メロディ
「オッケー! なら、チェックするわね…」


メロディは阿須那から色紙を受け取り、それぞれの想いを確認していく。
もちろん、茫栗や賢城の様に関わりの薄い者はやや素っ気無い物だが…

それでも、最大限の気持ちは書き連ねてくれた様だった。


メロディ
「…うんOK、じゃあこれ誰が預かる?」

阿須那
「そらメロディはんやろ…1番生存率高いやろし」

メロディ
「良いの? もしかしたら枷が暴走して叩き割るかもしれないわよ?」

阿須那
「そん時は次の黙示録まで祟ったりますわ!」

メロディ
「そ、それは怖いわね…キュウコンだけに」


メロディは苦笑いをしながらも、それを懐に仕舞った。
そして顔付きを変える…どうやら、時間が来たらしい。
それを見て阿須那たちも気を引き締める。
ようやく…黙示録が終わるのだ。


メロディ
「さ〜て、それじゃあ精々死なない様にね?」


「向こうに置いておいたセルの消滅を確認した…終わったな」


メロディはそれを確認してから楽器を多数出す。
そしてそれらは楽曲を奏で、メロディもインカムマイクを使って歌い始めた。
それとほぼ同時に、色が手を翳して道を示す。
そこから真っ直ぐ光の筋が伸び、その先にある扉を示していた。



「さぁ、行くが良い…メロディの歌が続いている間に」

阿須那
「よっしゃ! ほんなら行くで!?」
「守連と悠和の事は忘れるなや!?」

愛呂恵
「はい、守連さんはここに…」


「悠和さんはこちらに!」


阿須那はそれを確認して、決意を固める。
そして全員に対し、こう号令をかけた。


阿須那
「ええか皆!? 絶対に全員生存や!!」
「誰かひとりでも欠けたら許さんからな!?」
「ほな行くで!? ウチに続けやーーー!!」


全員がその背中を追って行く…
ひとり、ふたりとここから消えて行き、やがてメロディと色のみが残された。


メロディ
「速く行きなさい! もうすぐ曲が終わるわ…そうなったらもう力を出せなくなる!」


「解った…では先に行く」


メロディは色の背中を追い、歌いながら扉を目指す。
そして色が消えた直後、扉が完全に閉まる前にメロディは最後のフレーズを歌い終えて飛び込む。


メロディ
「隣〜キーミに決めた!」

………………………



彼岸女
「…ぁ」


私はペルフェの呪縛から解き放たれ、ひとり何も無い世界に取り残されていた。
そして私は、聖君の形見になってしまった雫をリングから出し、それに願いを込める。

だけど…反応はしない。
使うだけなら誰でも使えはずであるこの雫が、何の反応もしなかったのだ。
これも…聖君を殺してしまったツケなのだろうか?
それとも、今まで好き勝手やって来た事に対する怨念?
どちらにせよ…私には、もう何もする気が起きなかった。



「ククク…無様だな、シーニャ?」

彼岸女
「!? 混沌の…王!?」
「な、何故…ここに? もう、特異点はいないのに…」


倒れたままの私を上から見下ろし、勝ち誇った顔をする王。
その顔はあまりに滑稽な私を見て面白かったのか、笑いを堪えるのに必至な様だった。


混沌の王
「フフ…そう言えば今は彼岸女だったか?」
「まぁ、どうでも良いがな…」

彼岸女
「目的は…何?」

混沌の王
「お前を始末しに来た…既に用無しだ」
「部下は宛にならんからな…たまには運動でもと、思った訳だ」


そう言って王は軽く右手を振るい、倒れている私の腰を砕く。
同時にリングは粉々に砕け散り、私は血を吐いて虚ろな目になる。
今の一撃で死んでいてもおかしくない、だが私はまだ生きていた。
それを見て王はクスリと笑い、次に両足を潰す。

私は悲鳴をあげながらもまだ死にはせず、ある意味自分の頑丈さを呪った…


混沌の王
「ほう、まだ気を失わないか?」
「さて、それならこれではどうだ〜?」


王は次に私の右腕をリングごと砕く。
私はまだ気絶も出来ず、遊ばれているのが解るだけだった…


彼岸女
「…殺せ、どうせ生きていても意味は無い」

混沌の王
「つまらん事を言うな…私はお前の事は気に入っているんだ」
「そうだな…ひとつゲームをしようか?」


王は死にかけの私に顔を近付け、そんな事を言い出す。
この期に及んでゲームとか、本当に遊び好きな人だよ。
こっちは全く付き合う気が起きない…ってのに。


混沌の王
「何、簡単なルールだ…これからこの世界を崩す」
「世界崩壊の奔流に巻き込まれ、生きていればお前の勝ち…死ねばそこまでだ」

彼岸女
「それ、に……何のメリットが…ある?」

混沌の王
「あるさ、枷を外してやる」


私はそれを聞いて目を見開く。
本当なら、聖君を利用して外そうとしていた枷。
真姫すらもけしかけて利用し、それを実行しようとしていた。
枷とは、それだけ重い…
私の場合は欲望が押さえきれず、全てを失ってでも求め続ける。
その業の深さは、並大抵の精神じゃ持ちはしない。

もう、私は既に壊れかけていたのだから…
だからこそ…だからこそ、聖君は希望だった。
全てを求めて失う私の中で、唯一存在してくれるはずの特異点だったのに…!


混沌の王
「クク…涙とはな、そんなに嬉しかったか?」
「だが、ゲームに勝てばだ! さぁ、精々頑張れ!!」


王はそう言って天高く力を放つ。
右手の人差し指から放たれたその力は光となって天へ昇る。
その後、すぐに世界振動が発生し、この世界の崩壊を理解した…

王はそのまま笑ってどこかへ去ってしまう。
全く…どことも知れない世界を簡単に崩しちゃってさ。
この状態でどうしろって?

もう右腕と首しか動かないのに…
痛みで意識は朦朧だ…
クソゲーじゃないか…こんな酷いルール。


彼岸女
(まぁ良いか…どうせ今更枷を外されたって、生きる意味も失ったし)


私は既に諦めていた。
どの道、聖君のいない世界に興味は無い。
もう、楽になろう…そしたら、地獄で聖君に会えるかな?

いや…無理か、私は普通じゃないし。
終われば、消えるだけの運命だ。
そうなったら、もう誰も私の事は覚えておけなくなる。
さようなら…聖君。
君の事は、大好きだったんだよ? 本当に…



「…本当に、終わりで良いの?」

彼岸女
「……?」


気が付くと、それはそこにいた。
身長は140cm位の少女で、蒼い長髪の少女。
白のローブに身を包み、その瞳も髪色同様に蒼い。
まるで蒼空の様なその色は、見る者を安らかにさせるかの様な色だった。


彼岸女
「き、み…は?」


「名前なんて無いわ、強いて言うなら『愚者(フール)』のひとり」


私はそれを聞いて、思わず絶句する。
愚者…調和(シンメトリー)にも混沌(カオス)にも属さない、第3の勢力と言われる異端者たち。
私でもその存在は聞いた事しかなく、ある意味伝説や幻のポケモンよりも遥かに希少と思われる存在だ。

そんな愚者が、何故ここに…?


愚者
「私は、魔更 聖に宿っていた…その食料は『夢』」

彼岸女
「? ???」


私は全く理解が出来ない。
そもそも愚者と出会うのは始めてであり、その生態も習性も知りはしない。
だから、いきなり好きな食べ物の話をされても困るわけで…

それを理解したのか、愚者は少し間を置いてこう呟いた。
その顔は酷く無感情であり、まるで私の理解など興味無いという感じだ。


愚者
「単刀直入に言うわ、貴女の体を貸して」

彼岸女
「…何故?」

愚者
「そうしないと死んでしまうから」
「私は愚者の中でも一際弱い存在だし、こんな崩壊直前の世界に放り出されたら消滅するしかない」
「だから、貴女に宿って難を逃れる」


それは酷く独善的だった。
単に自分が生きたいから私を利用する。
ただ、それだけの理由に思えた。
そんな自分勝手な理由で、私が協力するとでも?
だが、メリットは確かにある。

生きれば私の勝ち…枷は外れるのだ。
そうなれば…何か、出来る…だろう、か?
正直、自分で言ってて何も浮かばなかった。
そもそも、生きる意味が無いのに…


愚者
「ちゃんと見返りはあげるわよ? 貴女の夢を貰う代わりに、力をあげる」

彼岸女
「力…? そんな物貰っても、嬉しくもない」

愚者
「本当に? もしかしたら、愛しの彼ともう1度会えるかもしれないのに?」


私はまた目を見開いて、愚者を見る。
愚者の表情は変わらない。
だけど、私にはそれが希望のひとつに感じた。
完全に消えてしまった聖君…それにまた会える!?


彼岸女
「それは…本当なんだろうね?」

愚者
「さぁ? 約束は出来ないわ…」
「でも、もしかしたら叶うかもしれない」
「だって私は、夢を司る愚者だもの」


私は少し理解した。
恐らく、この愚者は夢見の雫に宿っていたのだ。
いや、正確には雫その物…そして、それを通して聖君に宿っていた。
夢見の雫には何か秘密がある…それは私も予想してたけど、まさかこんな大物が潜んでいたなんてね。

既に夢見の雫は存在していない。
恐らくはこの人型に変化したんだ…いや、本性を見せたって所かな?

時間はもう少ない…空間の振動が激しくなり始めてる。
その後は、王が新たな世界を造る気なのだろう…巻き込まれたらもう終わりだ。
私は、すぐに決断をする事にした。


彼岸女
「分かった…この体を、あげるよ」
「その代わり、私の夢を叶える為に…協力してもらう」

愚者
「交渉成立ね、なら改めてよろしく」
「貴女の夢が、美味しい事を望むわ♪」


そう言って、彼女は笑って私の体に宿った。
瞬間、私は体から感じた事の無い力が沸き上がるのを理解する。
こ、これが愚者の力…!?
そして、私は同時に理解した。
今の私は、夢見の雫と同等の力を扱えるのだと。


愚者
『言っておくけど、何でも願いを叶えられる訳じゃないわよ?』


頭の中から愚者の声が響く。
どうやら、いつでもこちらの考えは読まれるらしい。
向こうの考えは全く解らないのに、ね。


愚者
『私の能力は、貴女の見る夢次第』
『餌が無きゃ、力は出せないから』

彼岸女
「夢って…そんなのどうすれば?」


全く理解が出来ない。
見る夢って、寝れば良いのかい?
しかもそれが餌になるって…


愚者
『深く考えなくても良いわ、何もしなくても餌は貰ってるから』

彼岸女
「…こっちの意志は無視って事ね」

愚者
『そうしないと死んでしまうからね』
『まぁ力を使いたかったら、それだけ大きな夢を抱く事ね…』
『貴女が夢を見続けられる限り、私は無限に生きられるんだから』


無限…か。
軽く言ってくれるモンだね。
そしてその恩恵を受ける私も、今や永遠存在の仲間入りか。
もはや人もポケモンも超越したこの力で、私は聖君を探しに行く。

待っていてくれ…必ず、私が聖君を!!


彼岸女
「救ってやるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

愚者
『その願い、叶えてあげるわ』


その瞬間、私は光の粒子となって世界を超える。
私は王とのゲームに勝利したのを確信し、改めて生きる希望を見付けた。
そして、反撃の手段も考える。
またペルフェたちに狙われてもおかしくはない。
その前に、力の使い方を覚えないと…



………………………



混沌の王
「クク、クククククッ! やりおった!」
「彼岸女よ、やはりお前は最高の玩具だ!」
「さぁ、抗ってみせろ!? 私を楽しませろ!!」
「新たな混沌世界の中で、どこまで生きられる!?」


世界の外で、王は笑い続ける。
そして、右手に浮かばせていた赤い鎖を粉々に砕いた。
それは彼岸女に付けられていた枷であり、これで彼女は本当に自由になったのだ…

あんな物、所詮王にとっては家畜に付ける鎖程度でしかない。
失った所で、その家畜も王の領地からは出られないのだから…



………………………



彼岸女
「…ぅ、ぐっ!」


気が付くと、私はどこかの世界にいた様だった。
体はまだ痛むものの、いつの間にか骨は繋がっている。
完全に砕かれたはずなのに、両手も両足も動かせていたのだ…

これが…愚者の恩恵なのか?


愚者
『そうよ…貴女が私に餌を与える限り、貴女の肉体はそれに比例して強靭になる』
『でも、あまり期待はしない様にね? 私の能力は肉体強化系には不向きだから』


肉体強化系、ね…
ふーん、つまり愚者にも色んな効果が付随するって訳か。
つまり……え〜っと…うーん。


彼岸女
「ああ面倒臭い! もう、君の名は!?」

愚者
『並行世界の誰か?』


そっちの意味じゃなくてね!?
って言うか、この娘ネタの神にも愛されてるの!?
…あの聖君に取り付いていたんだ、それでも不思議じゃないか?


愚者
『クスクス…冗談よ、私の事を呼びたいなら「雫」とでも呼びなさい』

彼岸女
「雫…ね、成る程」
「夢見の雫だから、雫か」


とりあえず、これからはそう呼ぼう。
しかし、雫の能力はまさに奇跡を起こす能力。
ある程度夢の力が必要みたいだけど、逆に暴走したりする危険はあるんだろうか?



『今の私にそんな力は無いわよ…』
『あの暴走は、私を造ったアルセウスが仕込んだギミックだし』
『その神も消えた今、私の力は大きく制限されるけど…』


雫の暴走はアルセウスが仕込んだギミック?
いわゆる、反逆防止みたいな物だったのだろうか?
どちらにしても、大きく制限ね…


彼岸女
「なら、あくまで私の夢依存って事か」


『その通りよ、だから夢を見せなさい…』
『それこそ、あの魔更 聖の様な…極上の夢を』


私は少しゾッとする。
聖君は、一体どれ程の夢を彼女に食わせていたのだろうか?
私に、それと同じ夢を見せられるのか?

いや、きっと無理だ…私にはとても聖君と同じ夢は見れない。
だけど、それでも良い…こんな私でも聖君を救えるかもしれないなら、絶対に救おう。
それだけが…今の私の生きる意味だから。


彼岸女
「それで…どうしたら良い?」


『さぁ? 解らないわよそんなの…』
『そういうのは、「家族」に聞いたら?』


まさかあっさりと答えられる。
知ってるんじゃないの!? 後、家族って…


彼岸女
「まさか、いるのか? この世界に?」


『ええ、ひとりだけいるわ…でも、貴女の言葉を聞いてくれるかしら?』
『間接的とはいえ、魔更 聖を殺した貴女の言葉を…?』


それは、ワザとらしく私の心を抉った。
だけど、私はもう止まらないし諦めない。
枷ももう外れて、精神は自由になった…
これからは、自分の意志だけで行動出来る。

そして…ここから先は私自身の想いで戦う!


彼岸女
(愛する聖君の為に…私は戦うよ)










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第1章 『新たなる世界』

第1話 『聖を救え!』


…To be continued

Yuki ( 2020/08/20(木) 21:06 )