第9話 『ダクタリアンは永遠旅団』
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『…観測結果605478』
『この星における生物の記録に対し、3通りの結論が導き出された』
それは、遠くから何かを見ていた…
そして、何者かと交信をしている。
その存在は極めて異端の存在であり、この世に置いてまだ未知の存在…
しかし、この『少女』の存在こそが地球人類における転機になるとは…まだ誰も知らない。
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『…地球、人類、そしてPokemon』
『完全に異なる人種同士が手を組み、我々に立ち向かう』
『そこに至る理由とは? 私は、今しばらくの観測が必要と判断する』
『……了解、これより観測記録605479を開始する』
『観測対象指定…メイリン・ルカ』
『これより直接接触し、観測を試みる』
………………………
メイリン
「はぁ…」
サイア
「随分疲れてるのね? 休養は十分取ったんじゃないの?」
今、私はインディペンデントに戻っている。
そして廊下をひとり歩いていた所、サイアに出会したのだ。
ちなみに、完全に回復するまでの間は自宅にいたんだけど…
どうにも、気分がスッキリしない。
それもこれも、あのダクタリアンのせいなんだけどね。
メイリン
「………」
サイア
(あら、珍しいわね…きっちりガードしてるなんて)
私は心を読まれない様に細心の注意を払った。
サイアの事だから、絶対に読もうとするはず。
この事に関しては、私は誰にも相談する気は無い。
下手をすれば、人類軍に深刻な亀裂を入れる事になりかねないのだから…
メイリン
「…私がいない間はどうだったの?」
サイア
「特に何も無かったわよ? 相変わらず小規模な部隊が進行してくる程度」
「…妙と言えば妙なんだけどね」
私は?を浮かべて、横目にサイアを見る。
するとサイアは、少しだけ目を細めてこう言った。
サイア
「おかしいとは思わない? 何故貴女がここにいない時に限って、敵の攻撃が緩むのか…」
「ましてや、単独で小型のダクタリアンが都合良く貴女の前に現れる…とかね?」
メイリン
「………」
私は何も言えなかった。
だけど、疑問に思う事はある。
あの時のダクタリアンは、私を狙って現れたのか?
攻撃する意志も見せず、何を考えて現れた?
いやそもそも、ダクタリアンは考えて動く生き物だというのか?
そもそも、私たちはダクタリアンの事を知らなさすぎる…
もしかしたら、私たち人類は大きな間違いをしているんじゃ?
サイア
「その顔、心当たりがありそうなんだけど?」
メイリン
「無いわよそんなの…ダクタリアンの事なんか、私には解らないんだから」
私はそれだけ言って歩き出す。
サイアもそれ以上は何も言わずに背を向けた。
私は肩を落としてため息を吐く。
私は…どうしたら良いんだろうか?
このまま何も疑問に思わず、戦い続ければ良いんだろうか?
終わりの全く見えない…無間(むけん)地獄の様な戦争をして。
………………………
萌
「ふっ!」
エリーン
「そらっ!!」
ガキィィィンッ!!と、甲高い金属音が艦上で鳴り響く。
私はニューゴロドの甲板上でエリーン大佐と訓練をしていたのだ。
私は正面から真っ直ぐ縦に斬り付けるも、大佐は片手で大斧を振るって私の刀を弾く。
やはりパワーはトンデモない…私も力には自信があるというのに、大佐の馬力は得物を含めて私の威力を越えているのだ。
萌
(一撃での勝負ではまるで勝ち目が無い! やはり多少威力を落としてでもスピードのある連撃で!)
私は弾かれてすぐに刀を構え直す。
大佐はまだフォロースルーから構えを戻しておらず、今なら2撃目を入れられるはず!
私は得意の突きの体勢に入り、大佐の喉めがけて一気に突進した。
エリーン
「おっと!」
萌
「!?」
何と大佐は首を捻ってギリギリかわしてみせる。
私の突きはそのまま対象を見失って通りすぎてしまい、体勢を大きく崩してしまった。
そのまま大佐の柔らかい両胸に顔面ダイブしてしまい、呼吸が一瞬途切れる。
次の瞬間、頭部に激痛が走って私は甲板に叩き付けられた。
感触的に、斧の柄で殴打されたのだろう…
萌
「〜〜!!」
エリーン
「ったく、相変わらずの猪突猛進だねぇ〜?」
「威力を重視してるのは解るけど、当たらなきゃ意味無いぞ?」
萌
「うぐ…むしろ、何でそんなに大佐がかわせるのかが疑問なんですけどっ!?」
あれからちょくちょく大佐とはこうやって訓練に付き合ってもらっているが、1度も勝った事が無い…
大抵は私の一撃を見切られて返されるのが定番となっていた…
エリーン
「お前のは単純すぎるんだよ…フェイントのひとつも無いし」
「そもそも、スピードがそこまである方でもないのにパワー勝負で負けてたら話にならんだろ」
私は反論する事も出来なかった…
事実、私の戦法はあくまで一撃必殺。
確実に相手の急所を突き、その息の根を止めるのが目的だ。
しかし、大佐の言う通り当たらなければ何の意味も無い。
私も、もっと強力な特装でもあれば変われるのだろうか?
エリーン
「そもそも、お前はパワーもスピードもワシよりも上なのに何で一本も取れない?」
萌
「………」
大佐は斧を甲板に突き立て、そう聞く。
私には、その答えが出て来なかった。
確かに、ニャイキングとネギガナイトの種族値を比べれば負けている部分などほとんど無い。
ひとえに大佐の実戦経験と技術、持てる特性が織り成す結果なのだろう。
要するに、私が単に弱いのだ…
エリーン
「…お前はどうにも真面目すぎるな、もう少しフレンドリーにしたらどうなんだ?」
萌
「性分です、それに軍人であれば規律を重んじるのは当然でしょう?」
私が真面目にそう言うと、大佐は鬱陶しそうな顔をして頭を掻く。
基本的に手入れをしていないボサボサの髪が、ガシガシと掻かれて揺れていた。
私は少し息を吐き、大佐にこう告げる。
萌
「私には、大佐みたいに気楽にはなれませんよ…」
エリーン
「そういう堅い所がお前のダメな所なんだろうが!?」
大佐は目を細めてそう答える。
ダメな所…か。
正直、そんな所を改善した所で強くなれるとは思えない。
私には、やはり純粋に力と技術を身に付けるのが最良なのだろう…
萌
「本日は、手解き頂きありがとうございました!」
「私はこれより、インディペンデントに帰還致します!」
私はビシッと背筋を伸ばし、敬礼してそう言う。
そして、そのまま大佐に背を向けてテレポートラインへと歩いた…
………………………
エリーン
「堅い! お堅すぎて若いねぇ〜」
アニー
「艦長が緩すぎるだけですニャ〜」
萌が帰った後、ワシの呟きにアニーがツッコム。
ワシは両腕を胸の下で組み、フンッと鼻息を鳴らした。
エリーン
「とりあえず、酒を準備しな! 汗かいたら喉が乾く!」
アニー
「了解ですニャ〜♪ 冷えたワインを用意しますニャ!」
ワシはそれを聞いて微笑し、斧を持って船室に向かった。
やれやれ…ここん所敵も大人しいのは不気味だね。
………………………
メイリン
「………」
私は、インディペンデントの資料室で調べものをしていた。
探しているのは、過去のダクタリアンとの戦闘記録だ。
メイリン
「あった…これね」
私はとある棚に陳列されていた本を手に取る。
背表紙には、『ダクタリアン戦闘記録 1』と書かれていた。
私はそれを1ページ目から順に目を通していく…
メイリン
(ダクタリアンとの初遭遇は今から5年前、場所はオーストラリア…最初はただの超小型のが1体現れただけだった)
そのダクタリアンはおよそ虫の様なタイプであり、精々10cm程度の存在。
敵対心は当時見られず、まるでこちらを観察するかの様に動いていたとの事…
メイリン
(観察…って、まるでここ最近のダクタリアンの挙動みたいな?)
私は更に読み進めていく…
やがて、ひとりのアメリカ人生物学者がそのダクタリアンに接触。
捕獲して研究しようと画策したものの、ダクタリアンは突如として攻撃を仕掛けて来る。
純粋な防衛本能だったのか、それとも反射的行動なのかは不明…
この攻撃により研究者は怪我を負い、身の危険を感じたと言う。
その後突如2m程の小型ダクタリアンが空から現れ、研究者を殺害。
これにより、ダクタリアンからの明確な敵対行動が初めて観測された。
その小型は即座に警官と軍により鎮圧。
航空機からの爆撃をもってようやく仕留められたという…
メイリン
(当時はPokemonも特装も無かった…人類の兵器では小型のダクタリアンすら驚異だったのね)
私は更にページを捲り、読み進める…
先の戦闘により、アメリカは謎の生命体に対し調査を命じる。
この時点で、アメリカが初めて『ダクタリアン』という呼称を付けた。
その意は、見た目の黒さと交戦した人型の姿から『闇き隣人(くらきりんじん)』との意味が込められている。
そして調査は始まるも、オーストラリアには既にダクタリアンの姿は無く、それから2ヶ月の間接触の機会は訪れなかった。
調査はそのまま継続されるも、ダクタリアンとの接触は叶わず…
しかし、突如として転機は訪れる。
南米アルゼンチン領最南端の港にて、複数のダクタリアンが観測されたのだ。
その数はおよそ5体であったが、その内の1体は5mを越す中型。
当時の観測では勿論最大であり、今回はそれ等が空を飛んでアメリカに攻めて来たのだ。
これにより、アメリカ軍は緊急出動。
ダクタリアンは上陸しようと試みるも、海上防衛隊により攻撃を受け攻めあぐねた。
しかしダクタリアンが一転攻勢に転じると、海上防衛隊は10分程で沈黙。
アメリカ軍はこの戦力に恐怖を抱き、航空部隊を持って迎撃に当たる。
その結果、大多数の被害を被るもダクタリアンの部隊をアメリカ軍は撃退した。
そしてアメリカは緊急サミットを開き、対ダクタリアンへの軍備強化案を可決させる事に…
メイリン
「…な、何よコレ? これじゃ、まるで人類からダクタリアンに仕掛けたみたいな」
?
「随分勉強熱心なのね?」
私は思わずバンッ!と本を勢い良く閉じ、そのまま本を棚に戻す。
そしてため息を深く吐いて、声の方を向いた。
そこにいたのは、嫌な笑みを浮かべているサイア…
メイリン
「あんたねぇ…音も無く近寄らないでよ!?」
サイア
「あら? やましい事情でもあるのかしら?」
私はうぐっ…と口をつぐむ。
あまり探られたくは無い事情だ。
私はフンッとそっぽを向き、すぐにその場を離れようとする。
すると、サイアはすれ違い際にこう呟いた。
サイア
「何を考えているのか知らないけれど、余計な行動は慎んだ方が良いわよ?」
メイリン
「長官から許可は貰ってるわ、貴女にこそとやかく言われる筋合いは無いわね」
私たちはやや険悪な雰囲気でそう交わし、互いに移動する。
これ以上調べると反って怪しまれる…今回はこれで止めておこう。
しっかしサイアの奴…珍しく動いてくるじゃない。
普段なら日光浴でもして寝てるだけの癖に。
………………………
萌
『メイリン少尉、少しよろしいですか?』
メイリン
「ん? どったの萌〜?」
私が声を聞いて部屋の扉を開けると、いつもの軍服に身を包む萌がいた。
少し思い詰めた顔をしてるけど、何かあったんだろうか?
とりあえず、私は部屋に萌を入れてあげる事にした…
メイリン
「コーヒーしかないけど、良い?」
萌
「あ、いえ…お構い無く、話が終わればすぐに出ますので」
そう言って、萌は立ったまま私の方を見る。
私はベッドに腰掛け、缶コーヒーをチビチビ飲んでいた。
萌
「あの、少尉はどうして銃を使うのに接近戦を挑むのですか?」
メイリン
「そりゃ、その方が当たるし威力も出るじゃん!」
至極単純な理屈だ。
当たるかも解らない遠距離射撃より、いくらでも連射して確実に当てられる接近戦の方がより確実に敵を倒せるのだから。
萌
「ですが、もしそれでも当たらないのならその時は?」
メイリン
「ならゼロ距離で撃つわよ! それなら回避不能でしょ?」
萌
「それすらもかわされるとしたら?」
私は顔しかめてう〜ん?と唸る。
ゼロ距離で回避って、どんな反応してるのよ?
そもそも、そんな相手じゃ何やっても当てられないと思うけど…
メイリン
「絶対に回避されるなら、回避出来ない方法を考えるしかないわね」
「例えば動きを封じてからやるとか、無理矢理組み付いてでも攻撃するとか…」
萌
「ですが、それで相手からの攻撃を耐えられなかったら?」
メイリン
「…随分、無茶な相手を想定してるのね?」
萌は少し押し黙る。
何を想定してるのかは解らないけど、萌が求めている答えはただの無茶振りだ。
絶対に勝てない相手をどうやって倒すか…そんなのが解るなら戦術もクソも無いと思うけど…?
萌
「…ダクタリアンは、今後どんどん強くなるかもしれません」
「そんな時、私たちは勝ち続けられるのでしょうか?」
メイリン
「そんな事は関係無いわ」
私はキッパリとそう言う。
萌は目をパチクリさせて驚いていた。
私はそのまま真面目な顔をしてこう続ける。
メイリン
「私たちで勝てないなら、次の世代がやってくれる」
「私たちは、例え勝てなくても次の世代の為にこの世界を守ってあげれば良いのよ…」
萌
「未来の…為」
メイリン
「勿論、私たちで終わらせられるならそれが1番良い」
「でも、どうなるかなんて…私には解らないから」
萌は俯き、自分なりに考えている様だ。
この娘、真面目すぎる上に頑固だから融通効かないのよね〜
私みたいに割り切れとはとても言えないけど、もう少し柔軟に考えたら良いのに…
ビー!! ビー!! ビー!!
メイリン
「!? 敵襲!?」
萌
「先にカタパルトへ向かいます!!」
萌はそう言ってすぐに部屋を出て行く。
私も一気にコーヒーを飲み干し、胸元を少し開いて走り出した。
………………………
サイア
「たった、1体?」
マイク
『はい! 確かにダクタリアン反応で、サイズは140cm程の人型です!!』
メイリン
「何よ、もう来てたの?」
萌
「敵の数は!?」
私は萌と一緒に格納庫に駆け込む。
そこでは既にサイアが戦闘配置で待機しており、通信をしている様だった。
マイク
『メイリン少尉、萌軍曹! 敵は小型の人型ダクタリアンが1体です!』
メイリン
「はぁ? たったの1体〜?」
サイア
「露骨に怪しいわね…また前みたく、超大型に変異したりするんじゃ?」
萌
「だとしたら、慎重に攻めなければなりませんね…!」
確かに、以前も最後の1体がいきなり巨大化したのよね…
今回もそんな類いなんだろうか?
それとも、あのニューヨークに現れたダクタリアンみたいな…?
メイリン
(だったら、何で?)
サイア
「とりあえず出撃するわ…少尉と軍曹は私の後方から、エリーン大佐はその後ろから進撃してもらうから」
萌
「了解! 中尉に続きます!」
私は、何か嫌な予感がしていた。
今回の襲撃、本当は何か別の思惑があるんじゃないか…?と。
………………………
?
「観測対象、接近予測」
「他、約2名が随伴…敵性有りと判断する」
「観測記録605479の障害になると判断、まずはそれを除去する」
それは、小さな少女の姿。
闇い漆黒の戦闘服に身を包み、僅かに見える肌からは人類と同じ様な肌が見られる。
しかし、身に付けている物の黒さに比べてその肌は異様に白い。
顔に相当する部分は外気に晒されており、頭部には禍々しいトゲが多数付いたヘルメット。
両腕にはアームパーツ、両脚にはレッグパーツ。
彼女の姿は、まるでSF世界のバトルスーツの様でもあり、漆黒のそれ等には赤いラインや模様があった。
その色合いはまさにこれまで見たダクタリアンと同一であり、彼女がダクタリアンなのだと示している。
そんな彼女は、表情ひとつ変える事無く音速を越えて移動した。
約数秒後にはサイアたちの部隊に接触し、そして交戦が始まるであろう…
………………………
サイア
「!? 急速接近!? いくら何でも速すぎる!!」
メイリン
「な、何なのよ!?」
私たちは空中で異様な光景を目の当たりにした。
ダクタリアンと思われる人型のそれは、空間を歪めながらこちらに接近していたのだ。
そして、その速度は軽く私たちのトップスピードを凌駕し、正面から接近して来ていた…
サイア
「くっ! バリア展開!! 全力で止めるから反撃は任せるわよ!?」
メイリン
「分かったわ! 萌も海上からお願い!!」
萌
『了解です!』
サイアは正面にバリアランサーを2本とも構え、それ等を高速回転させて正面に強力なバリアを張る。
以前よりも強化されたそのバリアはかなりの強度を誇り、サイアの消耗も増すが、あのニューゴロドの主砲すらも止めれるとの事だ。
私は銃を2丁とも構え、敵の攻撃タイミングを見計らう。
確かに速いけれど、攻撃の瞬間には動きが止まるはず!
ましてやサイアのバリアはそうそう突破出来ない、あれは小型な分パワーは無いはずだ。
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「バリアを確認、強度を予測」
「…データチェック、現火力では強硬突破は困難」
「別ルートで対象を除去する」
高速接近して来たダクタリアンは右手を前に構え、何やら妙な模様を宙に描く。
これまでに見た事の無い動きであるが、私はそれ以前に別の要因で驚いていた。
メイリン
(ダクタリアンが…喋った!?)
サイア
(言語機能があるですって!? しかも、強度を予測…?)
私はサイアの後ろで構えるも、サイアに突然抱き付かれて下降させられる。
私は何事かと思うも、次の瞬間その理由は解った…
バシィィィィィィン!!
そんな異様な音と共に、まるで空間に稲妻が走るかの様なエフェクトが迸る。
サイアが元いた位置をピンポイントに攻撃し、バリアの裏へ直接出していたのだ…
サイアはそれを予測していたのか、私ごと攻撃範囲から脱出。
一応、難を逃れた訳だけど…
サイア
「何なのよ、今の攻撃は!?」
メイリン
「まるで、魔法って奴ね…! あんなんじゃ、防御も出来ないじゃない!!」
私たちは一旦海上付近まで移動する。
サイアはバリアランサーで敵を攻撃するも、あまりの高速軌道に当てる事が出来なかった。
そして幾何学的な動きでこちらに接近し、更に攻撃をしようとする。
萌
「今だ!! チェストーーー!!」
?
「単純な物理攻撃と判断…衝撃を反射する」
敵が攻撃の瞬間に動きを止めた際、萌が一気に飛び掛かった。
タイミング的にかわせはしない…が、敵は萌を視認する事すらせずに吹き飛ばしてしまう。
何をしたのか検討も付かない。
ただ、相手は衝撃を反射と言っていた。
つまり、萌の攻撃がそのまま跳ね返された!?
萌
「がっ…!? 何、だ…今、の……?」
萌は一見無傷に見えるのに、口から血を吐いて海に落ちた。
私はそれを見てすぐに救助に向かおうとする。
が、サイアはそれを腕で制止した。
サイア
「軍曹はテレポートラインで回収するわ! 私たちは一旦退くわよ!?」
メイリン
「くっ…!」
いきなり最悪の状況に追い詰められた。
敵はたったの1体だというのに、あっさりと数を減らされたのだ。
しかも、意味不明な攻撃と防御…こんなタイプは初めて見る!
?
「観測対象、後退…すぐに追跡する」
サイア
「もうすぐニューゴロドの射程よ! いくら何でも主砲の直撃を受ければ落ちるでしょ!?」
メイリン
「でも、あんなスピードに当てられるの!?」
………………………
エリーン
「…何なんだいありゃ?」
アニー
「デタラメな軌道で高速移動してますニャ!」
「アレに当てるのは、かなり難しいですニャ〜」
ワシは双眼鏡でそれを確認していた。
確かに無茶苦茶だね…主砲を当てるのは骨が折れそうだ。
以前は部隊ごと一掃出来たけど、あんな小さな的を当てるのは難しい…
敵は敵なりに対策を取って来たって所かねぇ?
エリーン
「とりあえず、サイアたちの動きを良く見ておけ!!」
「チャンスは必ずある! その時に全力の主砲をお見舞いしてやんな!!」
アニー
「イエス! マム!!」
………………………
サイア
(一見デタラメに見えるけれど、あの動きにはパターンがある!)
サイアはバリアランサーを念動力で操作し、不規則な動きで追跡して来るダクタリアンの腹を正確に貫いた。
…が、敵はまるでダメージを受けている様子は無く、血も流さずに槍を引き抜いて捨てる。
やはりダクタリアンらしく、コアを打ち抜かなければダメみたいね。
?
「攻撃被弾、軌道アルゴリズム修正、敵性体への警戒レベルを上昇」
サイア
(装甲が厚いわけじゃない…当たれば倒せる?)
メイリン
(一体、何を考えているの? 何故すぐに攻撃して来ない?)
謎は深まるばかりだった。
ただでさえ、今までに無い攻撃や防御を使ってくる相手なのに。
その相手は明らかに知性を見せており、こちらの動きに対して対処方を変えてきている。
いや、ある意味学習してるとも言える?
これまでのダクタリアンも、どこかそんな節はあった。
こちらを観察し、動きを覚え、体を作り替えて対処する…
だとしたら…まさか。
メイリン
「サイア、攻撃を止めて!!」
サイア
「何を言ってるの!? ここで動きを止めなきゃ仕留められないわよ!?」
メイリン
「あれは今までの個体と違うわ! もしかしたら会話が通じるかもしれない!!」
私はそう言って、ひとりで前に出る。
するとダクタリアンはピタリと動きを止め、私を真っ直ぐ見つめていた。
この感じ…前と、同じ?
サイア
(どうしたというの? 何故、少尉が近付いた途端に動きを止めるのよ!?)
?
「観測対象接近…敵性無しと判断、戦闘状態を解除する」
メイリン
「貴女…ダクタリアンなのよね?」
私は会話を試みる。
すると、彼女(?)はやや間を置いてこう答えた。
?
「ダクタリアン…それはこの星の住民が名付けた呼称であり、我々の名ではない」
メイリン
「…なら、本当の名前は何なの?」
?
「そちらで言う、『名前』という概念は存在しない」
「強いてそちらの言語で挙げるとすれば、我々は『永遠旅団(えいえんりょだん)』と言う」
私はそれを聞いて驚く。
彼女たちダクタリアンの本当の名称は永遠旅団…
果たして、その意味とは一体何なのか?
メイリン
「教えて…貴女たちは何が目的なの?」
?
「我々に明確な目的は無い、強いて言うなら無限の観測者とも言える」
「そして、お前が観測対象に選ばれた」
私は意味が解らなかった。
ダクタリアンに目的は無く、私を観測対象に…?
サイア
「ちっ! 少尉、離れなさい!!」
メイリン
「!?」
?
「観測記録を妨害する者を排除する」
サイアは叫ぶも、私は突然謎のフィールドに囚われた。
紫色の檻の様なそれは私を包み、脱出出来ない様にしたのだ。
サイアは舌打ちしながらもバリアランサーを2本投げ、旅団の少女を攻撃する。
しかし少女はそれをあっさりとかわし、一瞬でサイアとの距離を詰めて攻撃に入った。
…が、その瞬間にサイアの目の前で大爆発。
サイアも爆風で一緒に吹き飛ばされてしまい、もくもくと上がる噴煙で視界は封じられてしまった。
エリーン
『ヒットだ!! 大丈夫か中尉!?』
サイア
「くっ…ナイスタイミングよ大佐、敵はどうなったの!?」
すぐに煙は吹き飛び、少女の姿が現れる。
少女は体を覆っていたアーマーを破壊されているものの、吹き飛ぶ事すらせずにその場で止まっていたのだ。
しかし、見た目からダメージがあるのは見て取れる。
少女の顔は完全に無表情だったが、それでも冷静に言葉を発した…
?
「…後方より支援砲撃、直撃による生体組織の損壊度は40%」
「戦闘に支障は無し、しかし現時点では観測対象の保護が最優先と判断」
「これより後退する」
サイア
「ま、待ちなさい!!」
サイアが叫んだ瞬間、私と旅団の少女はその場から消える。
私は檻に入れられたまま、何処かへと連れ去られてしまったのだ…
………………………
サイア
「消えた…? 一体、どういう事なのよ?」
「メイリン少尉を保護…? 観測対象と言っていたけど、その意味は?」
私は呆然としてその場で考える。
いきなり訳の解らない個体が現れ、メイリン少尉を連れ去ってしまった。
しかも、あのトンデモ戦闘力…萌軍曹を一撃で倒し、私のバリアすら無視し、エリーン大佐の主砲ですら4割程度のダメージとか。
色々と規格外過ぎる…! あんなのが、もしワラワラと出て来るのであれば…
サイア
(こんな世界は、数日と持たずに滅亡する…!)
エリーン
『おいサイア! 敵の反応はもう無い、一旦帰投するぞ!?』
私は大佐の指示を受け、とりあえずその場から飛び立った。
バリアランサーを翼の特装に収納し、私はため息を吐く。
折角パワーアップした特装だっていうのに、ほとんど役に立たなかったなんてね…
奇しくも、敵はこちらよりも遥かに強くなっていたのだ。
いや、強くなっていたのではなく、もしかしたら初めからあれだけの戦力を保持していたのかもしれない。
もしそうだったとしたら…私たちは一体どれだけ無駄な時間を戦い続けていたのかしらね?
『遠い世界のPokemonさん』
第9話 『ダクタリアンは永遠旅団』
To be continued…