第7話 メイリン少尉の必殺兵器!
マイク
「ダクタリアン、ニューゴロドの射程まで後30!」
ジェフリー
「うむ…大佐、聞こえるかね?」
私はマイク君の通信を受け、モニター越しに敵の動きを見ていた。
距離はおよそ30…つまり約30qという所だ。
ニューゴロドの有効射程はおよそ20qと聞く…敵を一網打尽にするなら、更に内側に誘き寄せねばならないだろう。
そんな事を考えながら、メインルームのモニターに大佐の顔が映し出される。
大佐はやる気満々の顔で、待ちきれないといった感じだった。
エリーン
『聞こえてるさ! で? 砲撃の指示はどうする!?』
ジェフリー
「判断は君に任せる、腕前を拝見といこうか」
私はワザと煽る様に言い放ち、あえて大佐の反応を見る事にした。
すると、大佐はニャハハ!と大笑いし、腕を組んでニヤリと口元を歪める。
エリーン
『上等さ! ならたんと見せてやるよ!!』
『このニューゴロドの大火力をね!!』
………………………
サイア
「…射程まで、後10…9…8」
メイリン
「ちょっ!? 何かスピード上げて来てるわよ!?」
私は超能力で背後の気配を探る。
確かに異様なスピードでこちらとの間合いを詰め始めている。
こちらも、もう少しスピードを上げなければ追い付かれてしまうかもしれない。
サイア
「萌軍曹、全速力よ! 敵は相当な速度と思われるわ!」
萌
『もうやってます!! 既に追い付かれそうですよ!!』
メイリン
「サイア! このままじゃ萌が捕まるわ!!」
「まだ余裕のある私がフォローに行く!!」
そう言ってメイリン少尉は、迷わずやや後方の萌軍曹の方へと向かった。
スピードを更に上げ、華麗に空中軌道で回転しながらサーフィンの様に突っ込む様は、ある意味美しくもある。
サイア
(だけど、彼女にそんな器用な技術は備わってない)
良くも悪くも彼女は愚直なのだ。
それも、萌軍曹とは違うタイプの愚直。
敵を倒す事よりも、誰かを救う事を最優先にする愚直さ。
それ故に、彼女は迷わず敵に突っ込み、自らを犠牲にしてでも敵を討つのだから、
サイア
「少尉、交戦は可能な限り避けるのよ?」
メイリン
『ダクタリアンに聞くのね!! まぁ、ギリギリまでは付き合ってやるわよ!!』
少尉はそう言い、すぐに海上の萌軍曹に近付く敵に銃弾を2発だけ撃つ。
当てる事はせずに、あくまで威嚇。
それを見て警戒してくれたのか、海上付近の小型ダクタリアンはややブレーキをかけ、メイリン少尉に注目した様だった。
注目と言っても、明確な目があるとは限らないけど…
強いて言うなら、漆黒の体に赤いラインや円形の模様みたいな物はダクタリアンの特徴でもある。
今回の戦闘機型はキャノピーと思われる部分に赤い模様は入っているけれど…それが目とは限らないのだから。
メイリン
『萌! 今の内に行きなさい!! 後方はフォローするわ!!』
萌
『も、申し訳ありません!! 先に行きます!!』
無事に萌軍曹は先行して射程内に入った。
メイリン少尉もすぐに反転して、その背中を高速で追う。
このスピードは私にも真似出来ない…ライチュウ特有のその機動性は、やはり特筆する利点と言えるでしょうね。
ダクタリアン
「ギィィィ…!」
サイア
(さて、こっちはこっちで面倒ね…)
相手の速度はこちらの最高速を上回っている。
つまり、このままだとギリギリで追い付かれてしまうのだ。
私にはメイリン少尉の様な高速軌道は出来ない…なので、別の対処法を取るしかない。
ダクタリアン
「!?」
ニューゴロドの射程ギリギリ…そこで私は小型ダクタリアンに接触されかけていた。
けれど、射程に入った瞬間に私は『テレポート』してその場から消えたのだ。
そして、次の瞬間…爆音と共に小型ダクタリアンは消し飛んでしまった。
エリーン
『空中の小型殲滅!! 次は地上への砲撃準備だーー!!』
ニャース娘
『アイ! マム!!』
ニューゴロドから強烈な砲撃が更に続けられる。
海上付近で後退していたメイリン少尉と萌軍曹は咄嗟に身を屈め、頭上スレスレを高速で飛ぶ砲弾に冷や汗をかいていた…
メイリン
『ちょっ!? 近すぎない!?』
萌
『それよりも敵は!?』
また爆音。
それに伴い、下の小型は一気に全滅していた。
これで、残った敵は中型の20のみ。
しかし、私はここで違和感に気付く。
先行していたのは…小型だけだったのだ。
サイア
(!? 中型は射程に入っていない…こちらの作戦を見抜いたというの?)
私はニューゴロドの上空で敵を遠目に見ていた。
すると中型はその場で停止しており、それ以上近付いて来ない。
ニューゴロドはそのままノロノロと海上を全速力で進んでいるものの、射程にはまだ入らない様だった。
サイア
(ダクタリアンが、考えている…?)
今までも、どこかそういう節はあった。
戦う度にダクタリアンは成長し、時間と共に進化していく。
対ダクタリアン戦において、成長する時間を与えずに叩くのはこちらのセオリーだ。
今回の作戦は極力無駄な交戦を減らし、相手に成長する糧を与えずに大火力のみで殲滅するのが目的…
だけど、肝心のダクタリアンはそれを理解したと言わんばかりに、動きをあえて止めたのだ。
サイア
(こちらとの射程を理解し始めている…?)
思えば小型の動きも妙だった…戦闘機型でありながら、ひとつも射撃はして来ない。
ただ近付くだけで、それ以外の攻撃はして来なかったのだ。
もしかしたら、こちらの射程を計っていたのかもしれない。
小型はただの囮であり、相手の武器を見定める為の少数部隊…?
サイア
(確かに辻褄は合う! 小型は初めから消耗品と割り切っているからこそ、数は必要最小限で留めていたんだわ!)
その証拠に、メインとなる中型は1体も落とされていない。
そして、これで確実にダクタリアンは学習した。
マズイ事になったかもしれない…もしかしたら、ニューゴロドの火力や射程を上回る何かが現れるのかも。
サイア
「エリーン大佐、射程に入り次第砲撃を頼むわ!」
エリーン
『そのつもりだよ! だけど相手は近付いて来ないじゃないか!?』
サイア
「恐らく、こちらの作戦を読まれたわ! ここからは私たちが前に出て敵を殲滅する!」
私はそう言ってすぐに前へ出る。
不安は少なからずある。
何故ダクタリアンはその場から動かないのか?
中型ダクタリアンの戦闘機型は、爆撃機に似た形状だ。
大きさはおよそ15mで、それが計20体。
攻撃方法も、装甲も解らないけれど、所詮は中型のはず!
サイア
「メイリン少尉、萌軍曹、作戦変更よ!」
メイリン
『OK! 要は全滅させれば良いんでしょ!? そう来なくっちゃ♪』
萌
『了解です! 鹿島軍曹、吶喊(とっかん)致します!!』
ふたりはやる気満々で反転する。
そして最もスピードの速いメイリン少尉が先行して相手に近付く。
両手に銃を構え、そして相手に接近してクロスレンジから確実に当たる様に…
メイリン
「!?」
萌
「き、消えた!?」
サイア
「違うわ! 超スピードで回避したのよ!」
メイリン少尉が弾丸を放つ前に、中型の部隊は一斉に高速移動したのだ。
それも目にも止まらぬ速度で…
ダクタリアン
「…!!」
メイリン
「ぐぅぅっ!?」
中型の1体がメイリン少尉の背中に突撃する。
かなりのスピードでぶつかられ、メイリン少尉は吹っ飛んでしまったのだ。
ここでも射撃はしない…?
だとしたら、相手は完全な特攻兵器!?
萌
「くっ…! あのスピードで飛び回られたら、狙うのは難しい!」
萌軍曹は構えながらも海上で眉をひそめていた。
元々接近戦重視であり、本来なら鈍重な中〜大型を相手に設計されている萌軍曹の特装。
しかし、今回の相手は中型の大きさでありながら、メイリン少尉の速度をも上回ろうかという程の快速だ。
いくら萌軍曹でも、アレを狙って飛び上がるのは愚行過ぎる…
サイア
(と、なると…後は大佐の砲撃か、私の特装で!)
私はバリアランサーを射出し、それを部隊に向けて投げる。
ブーメランの様に高速回転し、ダクタリアンを切り裂こうとするが、敵は瞬時に移動してそれを容易く回避してしまう。
そして、気が付けば私の目の前に敵は接近していたのだ…
サイア
(!? やっぱり…1本だけじゃ、防御までは回らない…)
本来なら、2本1対で攻防に使い分けるのがこの特装の特徴。
しかし今はそれが1本しかない…つまり攻撃に使えば防御には使えないのだ。
だけど、その位私は初めから理解している。
だからこそ、あえて隙を作る様に動いたのだから。
ダクタリアン
「…ギィィィ!?」
目の前に迫っていた中型は、私の『サイコキネシス』でその動きを止められる。
どうやらスピードはあっても、パワーは今一の様ね。
そのまま私はブーメランを軌道修正し、動きを止めた中型を1体切り裂く。
胴を真っ二つにされ、敵中型はそのまま霧散した。
コアは、中心点か…それなら!
サイア
「メイリン少尉、コアは恐らく胴体の中心よ!」
メイリン
「…っぅ! わ、解ったわ!!」
痛みに耐えながらも、メイリン少尉は空中で体制を整えて目をギラつかせる。
さっきの攻撃はそれなりに効いていた様だ。
まだ相手は19体もいる…気が遠くなりそうね。
サイア
(思ったりよりも攻撃は激しくない…? まるでこちらの動きを観察しているみたいな…)
不可解ではあった…あれだけのスピードがあるのに、一斉に攻撃はして来ないのだ。
あくまで攻撃して来た相手だけを見定め、向かって来るのは一体のみ。
何か理由があるのか? それとも、まだコレは何かの段階なのか?
どちらにせよ、それなら付け入る他に無い!
メイリン
「スピードならこっちだってねぇ〜!!」
メイリン少尉はバカ正直に敵とスピード勝負を挑む。
更に加速しようかという敵の速度域に対し、少尉はそれをも上回る速度でドッグファイトを始めたのだ。
そして、その間も他の中型は一切動かない。
それぞれが規則正しくこちらを見つめ、不気味な程に静かだった。
萌
「このまま突っ立っていても仕方無い! いざ!!」
遂に業を煮やしたのか、萌軍曹が一気に海上から上昇する。
それに反応し、敵の部隊は一斉に高速軌道で退避を始めた。
あまりに速い反応の為、萌軍曹は敵を完全に見失ってただひとり空中で剣を構えているだけだった。
萌
「確かに、目にも止まらぬ速度…! しかし、捉える方法はある!!」
ダクタリアン
「!!」
一見無防備に空中へと飛び上がった萌軍曹。
それを狙い、一気に散開して萌軍曹に狙いを定めた中型の1体。
萌軍曹はそうやって狙われる事を既に想定していたのか、向かって来る敵の方へ剣を向けていた。
だが、萌軍曹にそんな高速の敵を正確に狙う技術は無い。
だからこそ、萌軍曹は自分に出来る最大の迎撃方を見せたのだ。
ガキィィィィン!!と甲高い金属と金属の衝突音。
敵ダクタリアンの一体は、萌軍曹の胸部装甲へと突撃するも、萌軍曹の装甲を貫くには至らなかった。
いや、恐らく軍曹は解っていたのだ。
最初にメイリン少尉が攻撃を食らった段階で、敵にそれ程の攻撃力は無い…と。
そして、私相手にも敵は接近戦だけを挑んだ。
つまり、敵の攻撃手段は恐らくあの突撃のみ…
萌軍曹は自分の頭で考えられる最大の作戦でコレを行ったに過ぎないという訳ね。
とはいえ、15mはあるあの中型と正面衝突して無事でいられるなんて…
萌
「チェストーーー!!」
軍曹は懐に飛び込んで来た敵の上に乗り、コアの真上から一気に突き刺す。
敵はそのままコアを貫かれて霧散…ブースターが途切れて軍曹はまた海上に落ちた。
とりあえず、これで残り18体…メイリン少尉は?
メイリン
「こっ…のぉーー!!」
ダクタリアン
「!!」
少尉は遥か上空でドッグファイトを繰り広げていた。
ダクタリアンは突撃する事しか出来ない為か、後ろから少尉に追われて逃げる事しか出来ていない。
少尉はその速度域のまま銃をひとつだけ構え、背後からコアを貫く気の様だ。
仮にも15mクラスの中型…あの銃で貫ける?
装甲はそれ程に感じなかったけれど、メイリン少尉の銃はそこまで火力がある方ではない。
電気タイプ特有の力を纏った弾丸とはいえ、果たして…?
バシィィィィン!!と電撃音が炸裂する。
その銃弾の軌跡はまさに光速、敵ダクタリアンはそれを背中から受け、プスプスと煙に似た霧を放っていた。
しかし、スピードは衰えるもダクタリアンは霧散しない。
やはりコアを撃ち抜く事は出来なかったのだ。
敵は危機を感じたのか、謎の奇声をあげて即反転する。
メイリン少尉は不意を突かれた形でそのまま衝突してしまい、また吹っ飛んでしまった。
しかも、今度はほぼ最高速の状態で…バリアフィールドが無ければバラバラになっててもおかしくない衝撃よ?
メイリン少尉は口から血を吐き、力無く落ちて行く。
あれじゃ生きてるかどうか…
メイリン
「…っ!!」
少尉は意識があるのか無いのか、落ちながら銃を撃った。
そしてそれは正確に敵のコアを撃ち抜き、今度こそ敵を霧散させる。
だけど、少尉はその後無造作に海へと落ちた。
萌
「メイリン少尉ーーー!?」
サイア
「残り17…! このままだと、消耗戦になりかねない!」
ダクタリアン
「…ギィィィ!!」
そして、この段階で敵は一斉に動き始める。
最悪の展開だ、今までは様子見だったと言わんばかりの動きで残り全員がバラバラに高速移動している。
メイリン少尉はもう役に立たない、萌軍曹はそもそも飛べない。
肝心の私は、バリアランサーが1本…か。
サイア
(中々の苦難ね…だけど、この程度じゃ私たちは倒せない!)
私に向かって一斉に襲いかかって来るダクタリアン。
そのスピードは目で追って反応出来る速度じゃない…だから私はこういう手を取った。
ダクタリアン
「!?」
敵の突撃タイミングを計り、私は瞬時にテレポートで移動した。
的を失った敵はそのまま突撃してしまい、そこには狙いすまされた砲撃が襲いかかる。
ズバァァァァァァァァンッ!!と大爆音。
あまりの威力故に、中型のダクタリアンですら一瞬で爆散した。
そう、敵が突撃した先はニューゴロドの射程内。
いかに高速で動く機動性があっても、攻撃時は直線的な動きでしかない。
そしてニューゴロドの砲撃が当たれば、敵の部隊は一気に瓦解する。
敵はバラバラに動くも、後方からは次々と砲撃が加えられ、敵は徐々に数を減らしていったのだ。
………………………
エリーン
「ニューゴロド全速前進!! 味方には当てるなよ!?」
ニャース娘
「イエス! マム!!」
ニューゴロドは全砲門を敵方向へと向ける。
ワシは海上にいる萌を見ながら状況を確認した。
敵は確かに速い…アレだけの速度で自由に飛び回られたら、砲撃を当てるのは至難だろう。
だけど…このニューゴロド、そんじょそこらの艦とは違うのさ!!
エリーン
「クラスターミサイル用意! 敵陣のど真ん中に撃ち込んでやれ!!」
ニャース娘
「イエス! マム!! クラスターミサイル発射準備ニャ〜!!」
私の指示と共に、副艦長のアニー(ニャース♀)が部下に指示を伝える。
するとニューゴロドの甲板からミサイル発射台がせり上がり、そこから超巨大なミサイルが現れた。
全高15mはある特注のクラスターミサイルさ!
アニー
「艦長、いつでもいけますニャ!」
エリーン
「よし! 発射ーーーー!!」
ワシは斧をブンッ!と前にかざし、指示を出す。
するとミサイルは勢い良く飛び出していき、それは一直線に敵部隊の中心へと向かっていった。
敵は高速で散らばりそのミサイルを回避する。
ワシがニヤリと笑うと、ミサイルは突然弾頭が割れてそこから多数の子ミサイルが大量に散らばった。
その数は約100発!! 1発頭の火力は減るが、確実に何発かは当たるだろ!?
ドォォォン! ズバァン!! ドズゥゥゥン!!
アニー
「6割型命中!! 敵半数以上は仕留めましたニャ!!」
エリーン
「よ〜し! このまま戦線を押し上げる!! ニューゴロド全速前進!!」
アニー
「イエス! マム!! 全速前進ですニャ!!」
ワシ等はこのまま更に前進する…約9ノットで!!
うーむ、何とかして足回りは改善せんといかんなぁ〜
………………………
サイア
「ふっ!!」
ダクタリアン
「ギィィィ!?」
私は敵の生き残りを的確に仕留めていく。
エリーン大佐のお陰で敵は一気に混乱した。
いかにスピードがあっても、アレだけの広範囲にミサイルをバラ撒かれたら回避など出来はしない。
ましてや、アレはエリーン大佐の対ダクタリアン用特装弾。
話に聞いた所、大佐は『鋼の精神』という特性があり、部隊全員が持つ鋼タイプの技の威力を上げるという効果があるらしい。
そしてそれはエリーン大佐が作った特装にも及び、エリーン大佐が乗るニューゴロドの砲撃は、全てその特性で火力が引き上げられているらしい。
その威力はご覧の通りで、私のバリアランサーを一撃で落とす程の高出力。
装甲が薄めのダクタリアンであれば、一気に殲滅する事も可能ね。
萌
「はぁぁぁぁっ!!」
萌軍曹も一気に飛び上がって下から敵を貫く。
もはや敵は誰を警戒したら良いのかも判断出来ていない。
持ち前のスピードを生かす事も出来ず、右往左往しながら仕留められていた。
これで残りは……?
サイア
「…? 全滅した?」
萌
『他に姿は見えませんね…?』
エリーン
『敵の姿が見えない! やったのかい!?』
全員敵を見失ってしまった。
正確に数を数えていた訳じゃないけど、これで終わりだったのだろうか?
私はすぐにインディペンデントに通信を送り、索敵を頼んだ。
………………………
ジェフリー
「マイク君、どうかね?」
マイク
「敵の反応あります!! 残り1体のみ!」
「ですが…何か反応がおかしい? えっ!? こ、これって!?」
突然、マイク君が狼狽えだす。
私は何事かと尋ねるが、マイク君は冷や汗を垂れ流しながらモニターを凝視していた。
そして、彼はこんな報告をする…
マイク
「て、敵ダクタリアン! 巨大化しています!!」
「中型から大型…い、いえ! 100m突破!! 超大型です!!」
ジェフリー
「何だと!? 中型が巨大化!?」
私は慌ててモニターを注視する。
すると、そこには100mを越えるダクタリアンが聳えていたのだ。
爆撃機の様なフォルムから手足が生えており、コックピット部分と思われる場所が赤く光る。
そして、それは形容し難い奇声をあげ、こちらを威嚇してきた。
全身から禍々しいオーラを放ち、その異彩っ振りをこちらに見せ付ける。
それは、初めて見るダクタリアンの怒りの様にも見えた…
………………………
アンナ
「何だって!? メイリン少尉が負傷!?」
技師
「は、はい! しかも、敵ダクタリアンが突如巨大化!!」
「100m級の超大型に変化しました!!」
イザベル
「マジかい…!? ダクタリアンにそんな個体が…!」
私たちは一気に危機へと追い込まれている様だった。
まだサイア中尉も萌軍曹も、エリーン大佐も無事だけど、それでも…?
アンナ
「っ! メイリン少尉は無事なの!?」
技師
「は、はい!! 今、転送されて格納庫にいます!!」
アンナ
「解った!! 皆はすぐに配置に着いて!! メイリン少尉は私が見る!!」
私は他の技師にそう指示してすぐにその場から動く。
メイリン少尉が無事ならそれで良い…後は、間に合わせだけどコレを渡せれば…!!
………………………
メイリン
「離して! 敵はまだいるのよ!?」
医師
「無理はよせ! 肋骨が折れてるんだぞ!?」
私は無理矢理転送されてインディペンデントに戻っていた。
だけど敵はまだ残っている。
いや、それ所か更にパワーアップしてる様な何かを感じる。
きっと、敵は更に強くなったんだ!
だとしたら、サイアたちだけに任せてはおけない。
私だってまだ戦える…! 肋骨位が何なのよ!!
メイリン
「先生、痛み止めだけで良いわ! 治療は敵を倒してからゆっくり受ける!!」
医師
「バカな!? 動けば内蔵を貫きかねないんだぞ!?」
「仲間を信じて休むんだ! きっとサイア中尉たちがやってくれる!!」
メイリン
「だけどもし、それで誰かが犠牲になったら…私は一生後悔する!!」
アンナ
「先生、痛み止め打ってあげて〜」
「どうせ、何言っても彼女は自分から飛び出してしまうから…」
突然そう言って横から声を放ったのは、アンナ中尉だった。
相変わらずのおっとりとした口調で、優しげな微笑みで笑っている。
先生は首を横に振るも、すぐに薬箱から注射器を取り出し、それを私の腹部に突き刺した。
医師
「…あくまで痛みを止めるだけだ、後の事は想像出来るな?」
メイリン
「もっちろん! 後は私たちを信じて!!」
私はガッツポーズを取ってアピールする。
例えどんな敵が現れても私は諦めない!
誰も犠牲にはしない…!
そして、私は大好きな人たちを守るんだ!!
アンナ
「少尉、これを…」
メイリン
「…? これ…何です?」
アンナ中尉が私に見せたのは、謎の特装パーツみたいだった。
分解されている状態であり、その正体は良く解らない。
アンナ
「まだ試作品だけど、突貫で作ってみた」
「ほら尻尾向けて…私が着けてあげるから」
私は?を浮かべながらも、自慢の長い尻尾をアンナ中尉の前に突き出した。
すると、アンナ中尉は私の尻尾にその特装を装着させていく。
しばらくすると、私の尻尾には新たな特装の装甲が取り付けられていたのだ。
重さは結構ある…このままだと振り回すのは難しいわね。
アンナ
「それは、君の為に作った『サーフライドスラッシャー』だよ」
メイリン
「サーフライドスラッシャー!? 何か必殺技っぽい!!」
アンナ
「文字通りの必殺兵器だ…君の無鉄砲さに合わせて、それを最大限生かせる用に組み上げた、対大型ダクタリアン用の必殺兵器」
「使い方は簡単、いつもの『サーフテール』の感覚で相手に突っ込めば良い」
私は目をぱちくりさせて考える。
つ、つまりコレって〜?
メイリン
「え、えっ!? 銃は!?」
アンナ
「使いたければどうぞ…でもそれじゃああの超大型には傷ひとつ着かないだろうね〜」
メイリン
「ちょっ!? つまり超大型相手に突撃しろって事!?」
アンナ
「そっ、その方がらしいでしょ?」
「その分、安全性と威力は保証するよ…きっと君の満足行く結果を出してくれる……はず!」
はずなんかい!!
何だかスッゴイ不安〜
でも、今もサイアたちは戦っている、もう私に迷ってる暇は無い!
私は覚悟を決めた。
折角の新兵器だ…どうせ他に良い武器も無いならやるしかない!!
メイリン
「OK! それならやってやるわよ!!」
「カタパルトお願い! メイリン少尉、再出撃するわ!!」
アンナ
「オッケ〜♪ エレクトリックライン準備良し」
「いつでも行けるよ〜?」
メイリン
「了解! 出撃する!!」
私は全速力で外に飛び出した。
その際に少し血を吐いたが、私は我慢する。
泣き言は死んでから言う! それまでは、死んでも皆を守ってみせるんだから!!
………………………
サイア
「くっ!!」
ダクタリアン
「…ァァ!!」
敵は超巨大ダクタリアン。
1体の中型ダクタリアンが変化してしまったのだ。
いや、あれは変化とは言えない…まさに進化だ。
その証拠に敵は確実に学習している。
あの超高速程ではないものの、あの巨体で空中を動き回り、分厚い装甲でこちらの攻撃を悉く無効化していた。
萌
「くっそぉぉぉぉ!!」
萌軍曹は敵の上に乗り、刀で突くも効果は薄い。
装甲を貫きはするものの、コアまではとても届かないのだ。
しかも相手は動き回っている…萌軍曹は刀を敵に突き刺したまま、振り落とされない様にしがみついていた。
エリーン
「主砲、一斉発射ーー!!」
アニー
「アイ! マム!!」
大佐は全ての火砲を敵に向けて発射するも、今一効果が薄い。
怯んではくれるものの、とてもコアまでは砕けないのだ。
やはり、このままじゃ武器が足りない!
せめて、あの装甲を抉る何かがあれば…!
サイア
(あの時のスナイパーライフルならあるいは…でも、肝心のメイリン少尉は)
仮に少尉が動けたとしても、あのライフルであれを正確に狙えるとは思えない。
大きいとはいえ、コアは装甲の奥だ。
余程正確に予測射撃が出来なければ絶対に失敗する。
そして、あのメイリン少尉にそれを求めるのは間違いなのだ。
ダクタリアン
「ァァ…!!」
サイア
「!?」
突然、ダクタリアンは頭部の1部を開き、そこから多数のビームを発射して来た。
今までは接近戦しか出来なかったのに…どんどん進化している!!
このままじゃ手遅れになる! この際四の五の言ってはいられない!
こうなったら、私があのスナイパーライフルを…!!
サイア
「インディペンデント、聞こえる!? メイリン少尉のスナイパーライフルを転送して!!」
「あの敵を仕留めるにはあの火力が必要よ!!」
ジェフリー
「その必要は無い! 今、メイリン少尉が新兵器を引っ提げてそちらに向かっている!!」
私たちは全員、その言葉を受けて驚く。
そして、それはまさに希望かの様に感じた。
気に入らないけれど、アレを私たちだけで仕留めるのは無理だ。
だけど、メイリン少尉がいるなら万が一を期待出来るかもしれない…
新兵器…ね、だったら見せてもらいましょうか!
サイア
「萌軍曹! 一旦離れなさい! メイリン少尉のフォローに回るわよ!?」
萌
『は、はいっ!!』
エリーン
『少尉の反応を確認した! 後10カウント後に到着するぞ!?』
私たちはそれぞれの思いを抱き、全員がメイリン少尉の為に動く。
超大型ダクタリアンはこちらに敵意を向け、激しく威嚇して来る。
その迫力は今までのダクタリアンには明らかに無い物で、まるで無感情だったあのダクタリアンが怒り狂っている様に見えるのだ。
サイア
(ダクタリアンは、まさか感情を学習している?)
それに何の意味があるのかは解らない…
だけど、もしそれがトリガーになってあの進化を促したのだとしたら、ただ危険だと思えた。
………………………
メイリン
「…見えた! サイアたちはまだ無事!!」
私は味方を確認して更にスピードを上げる。
サーフテールで尻尾に乗ったまま、私は加速していったのだ。
元々私には『高速移動』という技がある。
それを使う事で私は速度を倍加させる事が出来るのだけど…
私のその加速に合わせ、尻尾の特装から青白い電気が発せられる。
それは私の前方に一種の電磁フィールドを形成し、空気を完全に切り裂いた。
それによって、私の速度は更に加速…この速度は今まで体感した事が無い。
だけど、不思議と恐怖は感じなかった。
むしろ、心地良い…こんなにも空を飛ぶ事が気持ち良いなんて。
メイリン
(超巨大ダクタリアン…あの爆撃機みたいなのが変化したの?)
その理由は全く解らない。
だけど、私にはただひとつ確信出来る事があった。
それは…
ダクタリアン
「…? ァァァ…!!」
メイリン
(怒っている…? 仲間を殺されたから?)
(それとも、傷付けられた痛みで?)
(でも、ゴメン……私には、守らなきゃならない人たちがいるから!)
何故か、私は涙を流していた…
理由は良く解らないけど、何となくダクタリアンにも心がある様に思えたから。
だけど、私たちは戦わなきゃならない。
ダクタリアンは人間を襲う、それだけは絶対に許せない事だから!
メイリン
「だから! 私は! 絶対に…負けられないんだぁぁっ!!」
ダクタリアン
「ァァァァァァァッ!!」
私は更に加速して突っ込む。
方角とか角度とか、そんなのは一切無視!
ただコアがあると思われる場所に向かって一直線だ!!
メイリン
「うああああああああぁぁぁっ!!」
バチバチバチバチィ!!と激しい火花が散る。
そして私は敵の放って来たビームを、全て電磁フィールドで弾いた。
私は構わずにそのまま敵の顔面にぶつかり、敵の装甲を切り裂いて行く。
時間にしてコンマ1秒もかからなかっただろう…私は敵を完全に切り裂き、その途中にあったコアをも砕いたのを確信する。
そして私は血を吐きながらも、拳を握り締めて勝利を確信した。
私はゆっくりと後ろを振り向き、敵が霧散していくのを眺める。
敵の妙なオーラもたち消え、数秒後にはもう何も残っていなかった。
後は、いつもの安らかな海と空…そして夕日だけが……
メイリン
「………」
私はそのまま無造作に空から落ちる。
痛み止めはまだ効いてるけど、やっぱり無理は祟ったのだろう。
安心したら…急に意識が……
………………………
サイア
「………」
メイリン
「………」
私は空中でメイリン少尉の腕を掴んでいた。
結局、彼女はひとりで何とかしてしまった。
新兵器があったとはいえ、ああもあっさりと。
代わりに相当なエネルギーを使ったみたいだけど、後先考えない少尉らしい結果ね。
血を吐いていた所を見ると、また無茶をやったんだというのは明白だ。
下手したら再起不能も有り得るわね…全く。
サイア
「敵、超大型ダクタリアン撃破成功…これより、全員帰還するわ」
ジェフリー
『了解だ! 皆、ありがとう!! 戻ってしばし休んでくれ!!』
私は、はぁ…とため息を吐き、メイリン少尉を両手で抱いてインディペンデントへ帰還する。
その際、夕日が眩しく私たちを照らし、まるで太陽が祝福してくれる様にも思えた。
『遠い世界のPokemonさん』
第7話 『メイリン少尉の必殺兵器!』
To be continued…